「その攻略法、デマですよねw」と笑われた俺のブログ。なぜかS級美少女配信者だけが信じて実行している件   作:chickden

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2章
新たなる謎


 

 世間はチームハヤテの一層攻略に沸いていた。

 TVもSNSも彼ら一色――中でもクロエは“虹色の輝き(レインボーシャイン)”の謎をまとって一躍時の人となっていた。

 

「では、この『世にも不思議な』虹色の石を握ったら、あの現象が起こったと?」

「はい☆ クロエのお守りです!」

「クロエちゃんの家に伝わる大切な宝石だと聞いています。さすが、クロエちゃんがS級探索者になるのは運命だったんですね」

 

 クロエは今回の活躍でS級認定を受けた。

 マネージャーの初子は手を叩いて喜んだものだが、クロエ自信は釈然としない顔で困ったように笑うだけだった。

 

 結局あれからクロエは、本物の英雄だと彼女が思っている『討伐者さん』には一歩も近づけていない。

 それどころか、相談してみた先の日本のダンジョン協会には『むやみなことを言って、国民の喜びに水を差さないように』と念を押されてしまった。

 

 彼女の『レインボーシャイン』には協会も興味を示した。

 事情聴取しにきた協会の調査員に、クロエは虹色魔石(レインボークリスタル)を見せ、上野公園のフリマで手に入れたという経緯を話したのだ。

 

 そして、『この魔石の発見者こそが本当の討伐者なんです』とも。

 

 しかし、虹色魔石(レインボークリスタル)を調査提出したところ、『ただの石』と判定されたのだった。魔力など、微塵も検出されなかったという。

 その結果を受けての、『むやみなことを言うな』なのだった。――が。

 

(え? 魔力が検出されない……?)

 

 クロエの目にだけは、虹色魔石の魔力がまだ見えていた。

 他の者がどんなに調べても、もう『ただの石』でしかない。この石は、彼女が手にしたときに『彼女だけが使える魔力』が生まれる石となっていたのだった。

 

 クロエは虹色魔石をペンダントに加工して、持ち歩いた。

 TVに映れば、きっとあの人も、この魔石のことに気がついてくれる。

 家に伝わる石、という設定にしたのは協会の指定だった。クロエにあまり変なことを言わせないための。

 

 今日も彼女は溜め息をつく。

 まったく進展しない『討伐者さん』探し。私がこんなことをしている間に、あの人はなにをしているんだろう。と。

 

 そんなクロエの元に、マネージャーの初子が朗報を届けたのだった。

 

「クロエちゃん! あのブログ、更新されたわよ!」

 

 ◇◆◇◆

 

 行き詰まり。

 ドン詰まり。壁を感じる、そびえたつ大きな壁を。

 

 と、こちらはクロエではなく蓮司の話だ。

 クロエとは違う理由で、彼も同じ頃に溜め息をついていた。

 

 この日も蓮司は、人に見つからぬようこっそりとダンジョン『シブヤ』に入り込んでいた。二層のマッピングはだいたい終わり、ボス部屋らしきエリアも特定できた。出てくる魔物はリポップする雑魚を除けばほぼ攻略済みと言ってもいい。

 ――しかし。

 

 ボスがどうしても見つけられない。

 故に、三層に続く階段の扉も開かない。

 

 ゲーム『ダンジョン&マジック』の解析も同時に進めたが、この扉の開き方やボスに関しての情報はどこにもなかった。まだ解析できないブラックボックス内にあるとするならば、ここの謎は蓮司自身の手で解決が必要ということになる。

 

 もしかしてこの層はボス不在で、三層への扉を物理パワーで開くのが正道なのか? と蓮司は考えた。

 二層では『力の指輪(リングオブパワー)』と呼ばれるマジックアイテムが宝箱の中に安置されていたっけ。これを使った扉開けが、今回のギミックなのかもしれない。

 

力の指輪(リングオブパワー)』を使えば、人の身を超える力を出せる。そう思えば、中ボスだと思っていたグレーターデモン3匹との戦いが、実質的なボス戦だったとも考えられた。

 

 蓮司は『力の指輪(リングオブパワー)』を指に嵌めて、両開きの扉を押した。

 力を籠め、額に汗し、歯を食いしばって押し続けた。そして。

 

「うむ。これは違うな」

 

 あっけなく諦めた。

 これまでダンジョンが示してきた傾向と、この解法は違いすぎる。

 今まで彼は例外なく、扉の前で。ボスなる魔物を倒し。力を示してきた。

 

 今回が味変だとしても、兆候がどこにもない。きっとこれまで同様に、ここの広間でボスと戦い勝つことがトリガーに違いない。なにか俺に見落としがあるのだ、と。蓮司は今日もいったん諦めて、帰ることにした。

 

 そろそろブログも更新しなくては。

 クリアできていなくて不格好だが、あるがままを記録するのが大事なのだ。美しい記録とは、真実でなくてはならない。

 

 ――――。

 

 その夜。西岡家、リビング。

 

「そっか。二層は一筋縄では行かないんだねぇ兄貴」

「うむ。とりあえずのブログ更新は終わったが、やはり攻略済みでなければムズムズするな。早くクリアしたいものだ」

「頑張れ頑張れ。チームハヤテが二層攻略に踏み出したら、ダンジョンに入るのもまた面倒になってくると思うよ? 今のうちがチャンスなんだから」

 

 言いながらTVのチャンネルを変える七海。

 どのチャンネルでも未だ一層クリアの話題で持ち切りだ。これで世間の目が二層に寄り始めたら、隠密的に行動するのは難しくなっていくだろう。

 

「七海の云う通りだな。とにかく見落としがないか、これからまた『ダンジョン&マジック』のソースも見直してみる。夜食は焼きウドンだと嬉しい」

「指定なの!? ずいぶんと図々しくなったね兄貴ったら!」

 

 そろそろ短い秋が過ぎ、冬が近い。

 夜に食べるものは温かいと嬉しい季節になりつつあった。

 

「一度、七海のつくる食事に戻ってしまうと、コンビニはやはり味気なくてな。以前聞かれた気がするが、コンビニはタイパに優れているものの、心の満たされ方も含めたら七海の夜食に勝るものはない。比べるべくもなかったと、今さらながら謝罪したい」

「べ、べべべ、別に謝罪なんて要らないけど」

 

 身をソワソワ、目はあちこち。

 耳をほんのり赤く染めて、七海は訊ねた。

 

「柚子風味で良いわよね?」

「うむ。柚子は好きだ」

 

 こうして夜が深まり、今日も平和に一日が過ぎたのだった。そして朝が来る。

 

「兄貴、降りてこないけど、もう朝だよ……って、もしかして寝てないの!?」

 

 大学に行く前に兄の世話をしようと彼の部屋に入ってきた七海が、目を丸くした。蓮司はパソコンの前でキーボードを打ちっぱなしだったのだ。

 

 蓮司は根を詰め始めると寝食を忘れる癖がある。

 もしや、と思って夜食に出した焼きウドンを七海が見るも、そちらは空っぽになっていた。少しホッとした。もし残されていたら、悲しい。

 

「大丈夫、七海が作ってくれた夜食を食べ忘れたりはしないさ」

「あ、当たり前でしょ!」

 

 と言いつつも、妙なことで兄の成長を感じてしまう七海だった。少しは相手を気遣えるようになったのかな、なんて。

 

「ちゃんと寝ないと健康に良くないんだから! はい、少しでも寝る寝る! 起きたら冷蔵庫に食事は入ってるから、ちゃんと食べないとダメだよ!?」

 

 そう言って後片付けをしながら、彼女はふとした疑問を口にした。

 

「それにしても」

 

 ――と。

 

「それにしても、なんで『ダンジョン&マジック』の中に、そこまでシブヤダンジョンの詳しいデータが入っているの?」

「……え?」

 

 蓮司はキョトン。

 

「な、なんでそこでそんな反応なの!?」

「あ、いや……。いま、なんて?」

「なんでシブヤダンジョンのデータが、ゲームの中に入ってるの? って!」

「……え?」

「だから! 急に少年みたいな純粋な目でこっち見ないで!」

 

 七海は逆に困り顔で蓮司から目を逸らす。

 

「ぎ、疑問に思って当然じゃない。まだ誰も踏破していうないダンジョンの情報が、ゲームの中にあるだなんて」

 

 彼女に言われて、初めてその疑問に行きついた蓮司だった。

 彼はこれまでそこに疑問を持ったことがない。なぜなら、そこにあったということが事実だったからだ。

 

『目の前にある事実は、素直に認めないとね。蓮司』

 

 それはかつて、彼の母が蓮司に対して掛けた言葉だった。

 父がダンジョンで命を落とし、その亡骸を前に泣きじゃくる彼に、母は寂しそうに笑いながらそう言ったのだ。

 以来、彼は目の前の事実を、たとえ認めがたいものでも、そういうものだと飲み込んできた。

 

 が、いま彼は、目の前のことを自然に受け入れすぎていたことに、今さらながら気づかされた。なぜゲームの中に、誰もクリアしていないはずのリアルダンジョンデータが眠っているのか。

 

「……謎、だな」

 

 彼は改めてネットで調べ始める。

『ダンジョン&マジック』、欧米メーカーREN社(アールイーエヌ社)から発売されたリアルタイムダンジョン攻略シミュレーションゲーム。アクション性も高く、競技性の高いゲームとして海外を中心に日本でも人気を博している。

 REN社はこのゲームしか出しておらず、開発者も顔出しをしない。謎に包まれた会社と言われていた。

 

「あ、もうこんな時間! 講義に遅れちゃう」

 

 七海はスマホの時計を見て跳ね上がった。

 

「兄貴、ちゃんと寝るんだよ!? じゃね、行ってくるから!」

 

 バタバタと彼女が家を出ていく間も、蓮司はゲーム会社のことを調べていた。

 アンダーグラウンドな情報サイトにまで潜り、根掘り葉掘り調べる気でいたのだが――。

 

(なんだ? 全然情報が得られないじゃないか)

 

 こんなことがあるのだろうか。いや、ない。

 少なくとも普通の企業だとしたら、ここまで情報を隠すことなんてできるはずもないし、その必要もない。有名になってなにが悪いというのだ、という話である。

 

 つまり、隠したいなにかが、この会社にはあるということだ。

 

 ――ポーン。と。

 そのときメールが届いた。サイドモニタで起動していた、『ダンジョン&マジック』のゲーム内メールである。

 

「おっと、なんだ?」

 

 高ランクプレイヤーである彼には、たまに知らぬ者からメールが届く。その多くは罵倒だが、大会やクランへの勧誘が来ることもあった。

 彼は探究者であって純粋なゲーマーではない。誘いに乗ったことは一度もないが、相手の時間を無駄にさせぬよう、断りの返信は速やかに行うのが彼の流儀だった。

 

 蓮司はいつも通りにメールの文面を読み。……怪訝な顔をした。

 

「なんだこのメール……?」

 

『dear蓮司。お元気ですか、私たちは元気です。日本のニュース、毎日チェックしています。影に隠れた蓮司さまの活躍を、我々は目出度く考えておりました』

 

 それは、出来の悪い翻訳ソフトで和訳したような文章だった。

 

『真の踏破者である貴方に、攻略を先に進める為の贈り物があります。快くお受け取り頂けますと嬉しいです』

 

 差出人は、不明。

 署名がどこにもなかった。

 

 蓮司は心の中で身構えた。自分の行動を、把握している者がいる、と。

 彼は思い起こす。なにか、身バレするようなヘマをしたのだろうか。

 

 ウエノ08の攻略を、誰かに見られていた?

 いや、あのとき近くに誰もいなかった。ハヤテたちすら、自分からは遠い場所にいたはずなのだ。

 

 シブヤダンジョンに入るのを見られている?

 いや。デジタル的にはデータの改ざんは完璧なはず。もしリアルタイムで、多少見つかっていたとしても、俺がクリアしたことに繋がる情報は皆無なはずだ。

 

 ならばブログサイトがハッキングされて、そこから俺に繋がった?

 これも否だ。あそこに繋げるときには何重ものIP偽装を施した上で、海外サイト経由でしかアクセスをしていない。ウチに繋がる情報を取れるとは考えにくい。

 

 では、なにが。

 ああそうだ、唯一あるとするなら。

 

 ――虹色の魔石を、いったん俺は、公式ショップに売ろうとしてしまった。

 あそこから足がつく可能性はあるかもしれない。

 その後にフリマで売ってしまったことは、問題にはならないだろう。一般人の記憶力から俺の身までに情報を繋げることができるとしたら、それはよほどの執念の持ち主が、偶然を重ねてたどり着けるかどうかという話だと思う。

 

 ピンポーン、と。

 玄関の呼び鈴が鳴った。

 

 思考を中断し出てみると、それは郵便物のお届けだった。七海が買い物でもしたのだろうか、いや、宛先は……俺宛て?

 

 心当たりはなかったが、玄関で立ったままその小箱を開けてみる。

 そこには、小さな魔石がはめ込まれたアナログ式のストップウォッチが入っていた。

 

「……なんだこれ」

 

 小さな紙が同封されていた。見てみると。

 

『こんにちは。おはようございます。良い天気ですか、私は良い天気です』

 

 見覚えがある、ヘンテコな和訳ソフトを通したような言葉。

 

『蓮司さまに、フェイズシフトウォッチをお送りしますます。これがあれば、シブヤダンジョンへの出入りが楽になるでしょう。それに、三層への扉を開く切っ掛けにもなることをお祈り申しあげます』

 

 ――!?

 これは、先ほどのゲーム内メールと同じ。なんてことだ、攻略に必要な贈り物というのは、ゲーム内のアイテムなどではなかった。まさか、リアルでのアイテムだなんて。しかも連中には、俺が三層前で詰まっていることも把握されている……!

 

 驚きつつも、説明書らしき紙を俺は見た。

 フェイズシフトウォッチなる魔法アイテムらしき物の、使い方と効用が書いてある。

 

(送り主の正体は不明……、こちらの個人情報も筒抜けだ。罠の可能性も否定できない。だが――)

 

 蓮司はウォッチを手に取り、その構造を持てる範囲の知識を総動員して分析する。

 

(この魔石の配置、どこかで見たことある。……ああ、父が使っていたダンジョン由来の魔法アイテムが、こんな感じだったか? つまりこれは、異世界のテクノロジーで作られたものか)

 

 説明書に沿って、ウォッチのボタンを押してみた。

 途端の無音。周囲の音が消える。

 

(なるほど。これが説明書に書いてある『次元の位相をズラす』というものか)

 

 どうやら今俺は、元の世界とは少しだけズレた世界に居るらしい。

 そのまま玄関から外に出ると、音こそ聞こえないが世界はそのまま動いていた。時間を止める、などの物ではなく、あくまで少しだけズレた場所に居るということだ。

 

「うおぉっと!?」

 

 大通りに出たら、車がまったくスピードを緩めるでなくツッコんでくる。

 そういうことか。ズレた次元に居る俺は、周囲から認識されなくなるらしい。

 

 蓮司の脳裏に、ある記憶が蘇った。それは『ダンジョン&マジック』の解析中に出てきた、意味不明なパラメータだった。

 

(あの『Phase_Shift_Value』という変数は、このためのものだったのか…? ずっと用途不明のまま放置していたが、まさかリアルに関わってくるものだったとは)

 

「つまり三層への攻略ギミックは、そういうことだったのだろうか」

 

 ボスが、こことは違う位相に居る。このフェイズシフトウォッチが示唆する事実は、そういうことに他ならない。

 

 どうやらこれで、二層ボスに会える。

 蓮司は手紙をポケットに仕舞い込み、装備を取りに急いで家へと踵を返したのだった。

 

 

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