アルゴノームⅠ   作:Type-Yasenbunko

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自衛官のケッコンしるプレッシャーはヤバいのです。
営内者はただの奴隷ですからね!結婚して早く営外に出たい!
土日強制的に駐屯地内に残留させられたり、四人一部屋にさせられたり、土日に中隊の事務室清掃させられたり。
……まじで奴隷だった。。。


第12話

 大野原演習場は旧長崎県と旧佐賀県の県境旧東彼杵町、現嬉野市に位置する大村駐屯地、そして16連隊お膝元の演習場だ。山永の3中隊が行軍で目指す目的地であり、今絶賛PDD派遣前訓練の最後の総合訓練を実施している演習場でもある。今年は全く雪も降らず、ちょっと寒いなー程度の気候であるが、2月末の演習場はやはり戦闘外被《防寒コート》が欲しくなる寒さではあった。

「うーさぶ……」

 ジブチ基地を模倣した、と言うにはあまりにお粗末な見た目だが、基地風に設営されたゲートの歩哨に立つ山永と門脇2曹。柵型鉄条網に蛇腹鉄条網で安っちく囲い、6人用天幕や業務用天幕を無数に立てた拠点モドキを基地とは言わないだろう。しかもこんなに寒いジブチとかありえんだろなどと思いつつ、ゲート前方全域を監視する。

「アフリカは寒かなぁ」

 門脇班長のフリだった。人間考えることは一緒だなァと彼も笑う。

「マジっすわ。外被のいる国ちゃ知らんやったっす」

「ワイ中即でジブチ行ったとや?」

「行かんやったっす。」

「なして?」

「メンツのヤバくて」

「ふーん。ワイがやばいち言うならガチでヤバいとやな。そんならそいでよかったとやろ。全然関係ないが、ワイ、結婚せんとや?」

 門脇2曹は賢い人だった。山永があまり話したそうでないことを察知し、まさかの方向からの射撃を加えてくる。

「なんスか?!急に!」

「お前今年で幾つや?」

「今年で35っす。まだっすけど」

「ほれ。そいで独り身やろ?」

「そうス。まぁ、外出れても金かかっと嫌なんで」

「そういうとこやぞ。ワイは結婚せえ。せっかく出来そうなんやけ」

「出来るっちゃどういう意味っスか?」

 門脇班長は山永の人柄を見抜いていた。こういうタイプは結婚した方が仕事に打ち込む事も。とはいえ結婚観も昔に比べ全く変わってきている。生涯未婚率は上がる一方だ。だからこそ焼石でも人口減少対策として西たちのような親のないデザイナーベイビーが公費で行われている訳である。

「よか男は結婚せえ言いよるだけさ」

「よか男ですかねぇ……生まれてこの方、モテた試しんないスが。」

「ケチやけんやろ!」

「……」

 彼はずっと思っていたが、自衛隊というのはやたらと結婚圧力が強い。まあ、地方に住んでるにしては高給取りだし、金遣いも荒い。そのためストッパーとして嫁を娶らそうという感覚があるのかもしれない。大変前時代的だが。とはいえ逆に言えば車買う、家も買う、酒は飲む、舟券は買う、パチンコは打つと地方経済をギャンギャン回しているとも言える。

「……悪ぅなかぞ。家族は」

「……」

 憧れがないわけではない。しかし彼自身、一度足りともモテたことが無いと思っていたし、なにより遺伝子改変を受けている。実際女性からは遺伝子改造された男との結婚はかなり忌避されているのが実情だ。評価《スコア》としてはフラットであるべきというのが建前なのだが現実はそんなものである。今のところ改変が子供に影響を与えているという事実はないのだが。

「……」

 しかし確かに、カネの面を除けば営外に出れるというのは魅力的だ。この地獄のような営内生活から解放される。せっかくの土日、待機ドライバーや営内残留要員として駐屯地から一歩も出られない軟禁状態を食らうのも、残留していたがために演習後洗って干していた天幕を取り込ませられるのも、三十過ぎたオッサンが外出して酒を飲みに行きたいだけなのに小隊長や先任に電子承認してもらわなければいけないのも全て解消される。この不毛な営内生活の圧迫感もまた、自衛官の結婚圧力のひとつだったりする。なんだかこんなことのために嫁探しするのも本末転倒ではあるが。

「まあ、よか女と遊ぶのも楽しかぞ?」

「……まず捕まえるとっからすけどね。」

 寒空の演習場を眺めながら、また探すかァとぼんやり考える山永であった。

 

 ジブチモドキ基地03:11。山永は門脇2曹と動哨のローテーションに着いていた。

「ふあぁあ……。こん時間が一番キツかなぁ」

「ですね」

 やはり深夜の2時から3、4時にかけてが一番眠い。逆に言えば夜襲をかけるなら一番の狙い時でもある。二人はアクビを噛み殺しつつ、外柵の蛇腹鉄条網をぐるりと歩いて基地外を監視していた。

 ふと向こう側から、夜中なのに統裁部の腕章を付けた隊員が2、3名、えっちらおっちらこっちにやって来る。統裁門と言われる状況外の人間だけが通っていい門におそらくあの人員達は入って来ようとしているのだろう。支援で宇都宮から来た中即の人間だろうか。

「班長!あれ!」

「おっ!なんや、状況付与する気やな?」

 門脇2曹は一瞬で察した。こんな夜中、わざわざ模擬基地内にぞろぞろ入って来ようとするということは、状況付与、すなわち何かやらかしてやろうと企図しているということである。

「ナガ、本部んひとっ走りしてこい。ついでにそのままキソーも着て来い!」

「りょ!……でもいいんスか?」

「普通科は使えるもんはなんでん使うもんやろ?」

 暗くてよく見えなかったがきっとニヤリと笑っているはずだ。いかにも門脇班長っぽい。これはいわゆる統裁判断というズルである。統裁部の行動や言動、無線を確認・傍受することによって本来知り得ぬ状況を把握し、それを逆手に取ってうまいことやるというやつであった。最初っからずっと基地の中に居れば多少バレにくかっただろうに、大方拠点でテッパチとってノンビリしたいみたいなチョンボをした統裁部も悪いということだ。

「そいじゃ行ってきます!」

「おう!」

 素早くCP天幕までたどり着くと中に飛び込み、警衛小隊長へ状況を説明する。

「小隊長、統裁部入ってきました。多分状況起きます。」

「了解。真面目にやるなら無視するが、使えるもんは使おう」

 警衛小隊長は藤井1尉という。1中隊の運用訓練幹部だ。OCS(部内幹部候補生)上がりで陸曹の気持ちも分かる、いわゆるデキる叩き上げ幹部だ。

「この後山永3曹は?」

「キソー着て動哨に戻ります」

「了解」

 おそらくこの後、藤井1尉は全体に何か指示を出すことだろう。無線《コータム》を使うと統裁にバレるのでお付きの1中の陸曹に伝令を頼んでいた。山永はそれを聞き遂げることなく武器を置いている業天《業務用天幕》に走り、とっととキソーに乗り込む。

『こんばんは山永3曹』

「おう、ブービー。今夜も頼む。ドローン飛ばすけ準備しとけ」

『了解』

 さっきまで通っていた蛇腹沿いに門脇班長を追う。キソーの足なら一瞬で捕まえられた。

「班長」

『おう。まだ何もなか』

「いいすね。合流間に合いました」

 ゲート前まで来た。

『聞いたや?統裁部』

『聞いとりますよ。何もないけん怪しいとは思っとったっす』

 2中のコンビと話をする門脇2曹。中田2曹と松本3曹だ。松本は実は山永と同期だったりする。

『大げさやんな、ヤマさん』

「先輩から言われたけんしゃーないやろ。なんかあれば役立つし」

 と、その時。

『放送、放送。北西側B4方向よりスウォーム確認。繰り返す、北西よりスウォーム確認』

『遅かったなァ、待ちくたびれたぞ』

 どこか嬉しげな門脇班長。なんやかや何気に戦士だなぁと山永は思った。

14(門脇組)00(本部)。スウォーム対応に向かえ』

『14了』

「"イナゴ"ならオイタイよりレーザーの出番スね」

『そいでん行くぞ?一匹でん叩き落さにゃ!』

 本部からの指示だ。どうやら”イナゴ”の対応の支援をさせるようだ。ちなみにイナゴとは大量のドローンの群れを表すスウォームのことを意味している。

「了解!」

 運良くゲートから西側へは近い。二人は直ちに指示された基地西側へ向かう。

現場には既にLAVが2台到着していた。52式レーザー防御銃塔システム(Type-52 LADS)を搭載したLAVだ。このレーザー砲塔は「対ドローン防御」「センサー無力化」を主目的として開発され、10年スパンで各方面に配備・展開されている。ガトリング式の25〜30kW級レーザー発振器が4銃身束ねられ、電源は薬莢型カートリッジを用いた爆薬パルス発電。レーザー発振用大電力コンデンサに液冷のラジエータを搭載。有効射程は小型ドローン破壊で2.5〜3km、AMI用の光学センサー機器破壊で800〜1000m、軽装甲の車両ガラス等破壊で500m程度までの射程を持つ。総重量は本体120kg+発電モジュール100kgの計220kg程度だ。その2機が北西方面に向け稼働しているようだった。

「ブービー、レコンランチ!」

『レコンランチします』

山永の掛け声の元、2機のドローンが発進していく。この2機で敵を更に補足し、射撃の精度を強化するのだ。彼以外の現地に到着したキソー乗り達もレコンを飛ばしている。

『距離ん近すぎるな、レーザーで落としきるか?』

門脇2曹の疑問。

「厳しいス。1キロ先ぐらいで20機前後出てきて今3機落としたくらいすから多分抜けますよ!俺も射撃します!」

『よかぞ、撃ちまくれ!』

「りょ!」

今回のキャリバー(重機関銃)の弾薬にはPEP(近接信管弾)が混じっている設想だ。これはベルトリンク弾帯の内、6発に1発入っている静電信管式の炸裂弾頭だ。炸裂することでよりドローンの破壊効率を向上させているのである。一応高級弾薬だが、信管弾のラウンド数がさらに増えている弾薬もあったりする。

夜間モードのHUDには既にレコンやRWSなどが捉えたスウォームの位置がポイントされている。可視光、ナイトビジョン、赤外線カメラの三重投影だ。AIOSの補正で三重でも見やすく調光されている。

釣瓶打ちだなと山永は思いつつ周囲を確認、他の隊員の安全と射界を確保してキャリバーを引き出し、射撃開始。とはいえ周辺住民からの苦情があるので今回はバトラーのレーザーだけだ。

『オイたちも散るぞ!蝟集しよったら殺らるっ!』

門脇班長が手早く指示。皆散開し、各々射撃姿勢を取る。

山永は既に1機落としていた。レーザー組も2台で更に4機。後から追いついた他中のキソーも加わり更に2機。とはいえあくまでバトラー判定なのでただ引き返して現れた位置へ戻っていく。

「速かな……ブービー後何機?!」

『あと10機です』

「まじか、捌ききらんぞ……!」

相手のドローンの速度にこりゃ間に合わんと山永。キャリバーの照準ポインタを合わせ打ち続けるももう2、300mもない。入られる。

『小銃組も撃て!射界気ぃつけろ!』

門脇班長が友軍相撃の注意喚起含め射撃を指示した。判断が早く頼りになる。夜間なので空砲は撃てないが、バトラーのレーザーは出せる。とはいえ小銃と暗視装置、照準用アイセイフティ、それと人間の視界だけではとてもでは無いがそうそうドローンには当たらない。ぶぅぅぅんと独特のペラ音。頭の上を通過。

『7機抜けた!』

本部より報告。不味い。爆発物を投下してくるはずだ。各機散開して好き放題に基地内を飛び回る。こうなると途端に対応が難しくなる。射撃方向に味方や施設が混じり、著しく射界が制限されるからだ。

『車回せ!射界ば確保しろ!』

『北側行ったぞ!レーザー行けるや?!』

『ジャマー持って来い!はたき落とせ!』

基地内が大わらわだ。隊員たちや車両が走り回り、なんとかドローンを叩き落とそうとする。山永は天幕地域に向かうドローンを追うが障害物が多くダッシュにままならない。出力に任せジャンプも考えたが着地点に人なり物なり車両なりがあれば大事故だ。ニンジャ機動は出来ない。

『ジャミング開始!』

ようやくだが本部のドローン用ジャマーが起動する。一瞬ドローンが通信を失いフラフラするが直ちに自己判断に切り替わり動き出す。山永はその一瞬を突いて下に回り込み、1機撃ち落とした。

「っああ、せからしかなァッ!」

本当に鬱陶しい蚊かハエだ。拠点に入り込まれるとやられ放題になる。

『10時の方向ドローンです、山永3曹』

「おう、サンキュ!」

山永の索敵の意志を目線センサーとモーションで察知し、素早くブービー。賢い。こいつは"1いいね"やってもいいと彼は思った。そこにガンタイプのジャマーを一般隊員が持って走ってきた。撃とうとするが、そのタイミングで敵ドローンがポトリと何かを落とす。爆弾だ。

ピーーーー

バトラーの死亡音。基地内の他の場所でも同じ音がしている。何人かやられたようだ。

「あーーくそ!」

こればかりはどうにもならない。HUDのマップ部分をチラリと覗き、1番近くの敵ドローンへ走るが、そいつは腹に抱えた獲物《爆弾》を落とした後らしく、一目散に逃げていく。

「……やられっぱなしやんけ畜生が。」

3機の敵ドローンが最初に現れたB4の方向へ悠々と帰っていった。

「……」

完敗だ。肩を落とす山永。ズルしても神様は見てるということだ。なんとも言えない気分で、門脇班長と合流に向かうのであった。




この「イナゴ」、今ウクライナでめっちゃ流行ってるそうです。
スウォームが一般名称です!かんちがいしないでね!
現在スウォーム1群の機数は20機程度ですが、この時代の設定では各機AIを搭載しているおかげで楽勝で100機以上のイナゴどもが襲いかかってきます。
……やばくね??
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