アルゴノームⅠ   作:Type-Yasenbunko

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人に指示出すのって難しいですよね~
突き詰めると何のためにどうするのかってだけなんですが、それを仲間全体と共有するというのが難易度高い。
とりあえず伝え漏らしを減らすために語呂合わせがあるわけです。
一人の認識の齟齬が全てをおじゃんにしますからね!
まあほんとの戦いは伝わった後なんですが!


第14話

派遣前のパッキングを終え、山永たちはようやく一息着いた。必要な装備、備品等を全て詰め終わった日の終礼。山永は終礼後郷准尉に用件があった。

 

「山永班長」

 

呼び止められる。ウチの分隊の松尾士長だ。

 

「おう、なんした?」

 

「あの、命令下達の言い回しのやつのことなんですが、覚えてます?」

 

「ん?敵味方、我はどうする部下たちはのやつか?」

 

「それです!」

 

パアァっと顔が明るくなる松尾。そういえばこいつは陸曹候補生の試験受けると言ってたなと山永は思い出した。

 

「なんか言い回しがあるのは覚えとったんすが、思い出せんくて……。」

 

「あー、はいはい、それな!……メモるか?」

 

「あ、はい!」

 

松尾はちょっとぽわわーんとしているが真面目でいい子だ。言われたことはきちんとできる。だが、いまいち物覚えが悪いので聞きに来たのだろう。いそいそタブとメモ帳を取り出し筆記用意する。

 

「おお、候補生っぽかなァ!いいぞぉ!……てかオイに聞かんだっちゃ、一ノ瀬さんに聞きゃよかろうに」

 

実際、山永は教養係でもなんでもない。不思議に思った。

 

「……班長行ってしまうけんすね……」

 

ちょっと気まずそうに、松尾は答えた。なんだ、可愛いとこあるなァと山永は思う。

 

「そうな、そしたらちゃんと覚えろよ?……『敵味方、我はどうする部下たちは、弾飯持ったか指揮通信』、たい。まあ部下たちはの続きのバリエーションで、『忘れてならぬ、人事兵站、指揮、通信』とかもあるな。まあどれでんよかよ。命令し忘れせんごつする語呂合わせやけん、どれか覚えときゃよかろ!」

 

自分のタブに録音、文字起こしされた字面と自筆のメモを見比べる松尾。自分の後輩たちがどんどん陸曹になっていく様をみて、なんだか感慨深くなった。

 

「ありがとうございます!」

 

「おう、帰ってきたらワイも3曹なっとけよ!」

 

ぱんぱんと肩を叩き、ようやく自分の用件を果たしに行こうとする。右のポッケには赤マルのタバコの箱。今どき珍しい銘柄だ。別に山永が吸うわけではない。

 

スタスタ隊舎5階の営外室に向かい階段を登っていく。エレベーターは退庁する営外者優先だ。若い連中は階段という暗黙の了解がある。

 

「郷准尉すんません、遅くなりました」

 

開口一番、お詫びとともに郷准尉の所へ向かう。

 

「おう、よかよか。オイも捕まっとったけん」

 

「どこでしますか?」

 

「んー、そしたら多目的室でよかろ!」

 

「分かりました!」

 

顎を撫でながら郷准尉が答える。廊下の清掃ロッカーから箒とちりとりを取り出し、多目的室へ持っていく。郷准尉は自分のロッカーから巾着を取り出してきた。山永は奥にしまってあったパイプ椅子を広げて座る。

 

「いっとき切られんのぅ」

 

「そうっすね……。郷准尉の髪型が一番好きやけ、寂しかっす」

 

そう言われ、郷准尉が穏やかにニコッとする。もともとダンディで顔も整っている郷准尉は、若い時はさぞモテただろうなと山永は思った。郷准尉がポンチョのようなカットクロスを取り出すと、山永の首へ巻き付ける。

 

「苦しゅうなかか?」

 

「だいじょぶです」

 

「今日は?」

 

「いつものソフトモヒカンで」

 

「よしきた!」

 

巾着からバリカンと櫛を取り出し、髪をまず整える郷准尉。

 

「よか男にしてやるけんな!」

 

ブィーンとバリカンを動かし、迷いなく刈り上げていく。子供の時は散髪の刃が当たっている感覚が怖くて嫌いだったが、大人になって、特に郷准尉の散髪はどこかリラックスできる。山永は何度も郷准尉に髪を切って貰っていた。お礼はいつもマルボロだ。

 

「……」

 

「……」

 

郷准尉がバリカンの刃先をカチャカチャと切り替える。話したいことは沢山あってなにか喋りたいような、しかし何も言葉としては出てこない、そんな不思議な気分に山永はなっていた。

 

「……ぃよし」

 

バリカンをハサミに持ち替え、今度は頭頂部の髪をチョキチョキ落としていく。ひょいひょいと色々な角度から髪の流れや切り残しをチェックし、またチョキチョキ。郷准尉は本当に手先が器用で大胆だ。山永が苦手としている分野である。

 

「……うん……」

 

小さく唸りながらハサミを変える郷准尉。なんというべきか。父でもないがただの小隊陸曹でもない。とにかく頼りになる人。郷准尉を評する単語が山永にはどうにも思いつかなかった。いつか、こういう陸曹になりたい。何となくそう思った。

 

「……」

 

「……」

 

またしても無言。ハサミの音だけが響く。だがもはや、これでもいいかと山永は思った。言葉を発する方が野暮かもしれない。今度は梳きバサミに切り替える郷准尉。

 

「……よぉし、とりあえずこげんでどうや?」

 

「……さいこうっす!いつもありがとうございます!」

 

毎度の事ながらいい腕だ。下手な理容店よりカッコよく仕上がる。

 

「郷准尉、どうぞ!」

 

「お、サンキュ!」

 

赤マルを渡す山永。安い礼だが郷准尉はいつもこれがいいと言う。タバコはどんどん隅に追いやられ、駐屯地でも喫煙所は1箇所だけになっていた。喫煙者も全体の10%を切るか切らないかぐらいになっている。郷准尉も喫煙者だということを隠しながら吸っているそうだ。喫煙所を出る前の消臭スプレー噴霧が必須とのこと。なんとも侘しい話である。実際の所、評価スコアにも影響するらしい。体に悪いとはいえ嗜好品についてそこまで追いやらなくてもと山永は思っていた。非喫煙者としては過ごし易いのは間違いないが。

 

「……向こうでん無理すんなよ?ワイは生真面目やけんな!」

 

「ありがとうございます。自覚はあります」

 

郷准尉も穏やかな笑顔だった。まるで子供を送り出す父のようだ。郷准尉は確か今どきに珍しく、子供は三人いると聞いたことがある。フェイスタオルで残った髪の毛をパタパタとはたいてくれる。

 

「……たっぷり土産話ば持って帰ってこいよ!」

 

「了解です!」

 

二人で落ちた髪の毛を掃いたり片付けたりしながら、ささやかな送別会は終わるのであった。

 

 

 

二人での送別会とは別に、駐屯地で執り行われる壮行会もきちんと存在する。皆デザート迷彩の防暑服に身を包み、同じく砂漠迷彩のブッシュハットを被って隊舎からゾロゾロと営門近くに停めたバスに向かって歩いていくといった儀式だ。そこまでの道路に4施設大隊と16連隊の各中隊が所狭しと並んで拍手で出発する隊員たちを見送る。ちなみにだいたいこういう儀式の時は連隊歌がバックで流れるのが相場である。

 

「がんばれよー!」

 

「黒焦げんなって帰ってこォい!」

 

「1中ぅぅぅ、ファイッ!」

 

壮行される隊員に、各中隊が拍手とともに掛け声を上げる。山永も3中の列の辺りに来ると様々声を掛けられた。

 

「暑かけんな、ワイは大丈夫やろけど、無理してうっ倒るんなよ!」

 

「班長、頑張って!」

 

「怪我せんと帰ってこいよー!」

 

敬礼しながら握手したりと忙しい。まるで有名人インフルエンサーのようである。流石の山永も、今から派遣に行くという実感が湧いてくるというものだった。ちらっと中即へ異動したときの見送り行事を思い出した。

 

「長んかけんな、無理ばすんなよ!」

 

山永の分隊長の田上2曹だ。対馬警備隊からの出戻りで、いい人だ。帰ってきたら彼の元で副分隊長かもしれない。

 

「ありがとうございます!ぼちぼちやってきます!」

 

浸る暇もなく進まなければならない。後がつっかえるからだ。あのバスに乗れば、後は流れるようにジブチに着くだろう。興奮とも不安ともつかない感情が、山永を満たしていた。




こういった壮行会や見送り行事、自衛隊好きすぎ問題。
山永たちは行く側だし、関係部隊からは親しげに送り出されてますが、全然関係ない部隊からすると課業時間取られるだけ取られてなんじゃこりゃとなりがち。
どうしてこう、自衛隊は儀式がやたら好きなんだ!!
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