アルゴノームⅠ   作:Type-Yasenbunko

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戦闘指導、戦闘予行はとても大事です。
特に予行は大事。
戦闘指導はいつどの地点で誰が何をどのようにするか指示を出すこと、戦闘予行はその指示を踏まえ、全員が実際にその指示を実施してみること。
本当なら現地現物での予行が最高ですが、出来なければ砂盤を作るなり地図なりで全員でお試しをするのがスジってもんです。
みんなの脳内希望的観測が正され、見落としていたことに沢山気付けるからね!
自衛隊は準備八割!


第19話

ミッションミーティング。陸自の言ういわゆるMMと言うヤツだ。今日は内容が重たいためか、司令棟の専用会議室を借りてブリーフィングが行われていた。藤井1尉が前に立ち、そもそもの任務目的について説明している。

「まず任務について。これは火箱陸将補のアウダル州政府長官及びボラマ市長表敬訪問の警護だ」

いつぞやの高橋2曹が言っていた警護任務である。会議室の中には16連の隊員30名程に加え、ヴィーグルの8名が着席している。

「両表敬対象との会談後、非公式で近隣氏族の氏族長とも会談を行う。なんならこちらが本命だ」

会議室正面にはかなり大きい透明なスクリーンが貼ってある。ARグラスと同じ理屈で資料が投影されていた。とはいえそれぞれが着用しているARグラスにも同一の画像が映し出されており、メガネを上げてスクリーンを見る者も入ればグラスの中の資料を見る者もいる。

「一般状況は資料の通り。ボラマ周辺の治安は比較的良好だ。ただし最近、紅海解放戦線の活動が確認されていると現地情報が入っている。気は抜かないように。」

目的地のボラマ市合同庁舎が画面に表示される。7階建てほどの綺麗な庁舎を中心にゆっくりクルクルと回る立体地図。デジタルツインと言うやつだ。

「続いて当日の概ねの時程だ。資料のとおり。ここには書いていないが、弾薬受領、薬剤受領は前日に行う。キソーやエグゾスケルトンを含め、前日弾薬庫に車両ごと預託、当日0530の武器出し時に各車両も預託解除する」

藤井1尉がすらすらと説明を続けると、AIOSがその言葉に息を合わせ、資料が送られていく。

「火箱陸将補は当基地に前日入りされる予定だ。0730司令棟隊庁舎前でピックアップの後、ボラマ庁舎まで移送、各会談終了後に陸将補はボラマ郊外のホテルで一泊し、翌日帰隊する。我々はプロテクションの一部をホテルに同行させる以外は郊外で野営だ。翌日また陸将補を拾いに行く」

AIOSが重要な部分をポイントしたりハッチングしたり、八面六臂の活躍だ。ちなみに特に藤井1尉はAIOSに指示を出していない。AIOSの自律的な判断で流れるように資料説明を進めているのだ。

「概略の行動は以上だ。質問」

『……なし!』

「ではさらに細部を横田1曹から説明してもらう」

「引き続き細部の説明を続ける。不明な点は質問するように」

バトンタッチで先任分隊長で今回警護梯隊長の藤井1尉付副官になる横田1曹が細かい指示を始めた。

使用する車両はヴィーグルの車を含め10台、人員40名、キソー6機、それ以外の人員全員がエグゾ装備と全力出撃の様相である。ジブチからボラマまでは車で半日近くかかり、かなりの長丁場だ。それでも普通の演習に比べれば短いが。

「細部については以上。なんかったが(長かったが)質問あるやつ」

数人が手を挙げ細かいところの質問を行う。

「よし。昼からは電子地図つこうて戦闘指導、戦闘予行ば実施する。こいも長丁場んなるけ覚悟しとけ」

参加者の中に疲労感の雰囲気が溢れる。出発から帰隊まで、無数に考えなければならないことがある。山永も勿論ゲンナリした。特に陸将補を庁舎や族長と会談する場所に送迎するまでは気を使う警備行動が多そうだ。正直、特戦群とかでやって欲しいと彼は思った。一般連隊でやる内容ではない。

「まぁ、やれち言われたらやりますがな……」

いつもと同じように小声でボヤきながら、山永は長い会議中我慢していた用便にそそくさと旅立つのであった。

 

彼は警護任務において先行班《アドバンス》に配置されることになっている。移動中は実際にプリンシパル(警護対象者)に直接張り付き警護する警護班《プロテクション》より先行して露払いを行ったり、地点警備で警護外環《アウター》を形成し最初に不審者に当たりに行ったりする役割だ。やらなければいけないことは多いが正直あんまり目立たない役どころである。梯隊編成は先頭2台がヴィーグル社の装甲化IVECO Daily、その後に陸自の先行班《アドバンス》ハーケイ4台、警護班《プロテクション》ハーケイ4台が続く。今山永たち先行班は先程の会議室で、機能別の戦闘指導、戦闘予行を行っていた。ジブチのロワイヤダを通過後、いよいよソマリランドに越境する辺りを4中の薗田1曹を長として戦闘予行している。共有画面のデジタルツイン上で梯隊を写し、移動している設想だ。

「ソマリランド国境通過……はい先頭車両触雷!」

薗田1曹が突然状況を付与する。先頭車はヴィーグルだ。2両目は素早く路外へ出で大きく迂回し、速度を増して離脱する。2両目のリーダー、マッツが後方の陸自車に報告。

“Vehicle 2, Increasing speed, moving clear of the blast zone.”

『2号車、速度増し触雷地点から距離を取る』

「アルファ1了解、それに続く。敵攻撃地域から離隔後、状況確認、隊員の救出へ向かう」

“Alpha One, roger that. Following your lead. Once clear of the hostile zone, we’ll assess the situation and move to recover personnel.”

AIOS達が滑らかに訳していく。デジタルツインの映像は車列が地雷原と思しき道路を迂回し、加速して距離を取る状況を描写していく。ある程度進んだところで薗田1曹が状況付与を続けた。

「任務中止、隊員回収の後、帰隊する」

“Mission aborted. Recovering personnel and returning to base.”

『了解』

"Roger that."

全員が認識を統一した所で路外機動で梯隊はUターンしつつ1号車を回収に向かう。ちなみにAIOSの状況付与で1号車は攻撃を受けている設想になっていた。1号車の乗組員、エーリク、ルリエンナ、イルッカ、カリムの4名は車から下車し応戦している形だ。

「各員友軍相撃に注意しつつ各個に射撃、各車に1名ずつ乗せたら直ちに離脱」

“All units, watch your crossfire and engage independently. Once each vehicle has one friendly onboard, break contact immediately.”

『了解』

"Roger that."

相手のキルゾーンに侵入するとRWS搭載車はM-2(重機関銃)の射撃を開始し敵の制圧を図る。そのまま4両がヴィーグル組に張り付くと応戦していた4名のオペレーター達がそれぞれいちばん近い車両に取り付いていく様がデジタルツイン上で表現される。

「全員乗ったや?ヴィクター報告!」

“Everyone on board? Victor, report!”

エーリク。

"Victor 1, on board."

ルリエンナ。

"Victor 2, on board."

イルッカ。

"Victor 3, on board."

カリム。

"Victor 4, on board!"

「よーし全員のったな、離脱、離脱!!」

“Alright, everyone’s on board! Disengage, disengage!!”

脱兎のごとく元来た道を加速して走る車列。

「よぉし、状況一時終了。車両梯隊の予行はこいでよかろ。休憩して次はボラマ市街地に入って州政府庁舎到着後のエスコート、会談終了からホテル移送までやっぞ!」

『……ふぅ……』

午後の課業が始まってかれこれ2時間、戦闘指導を終えてから戦闘予行をひたすら繰り返している警護任務組に疲労感が滲んだ。だが、予行をやるとやらないでは実状況に当たった時まるでスムーズさが違う。残念ながら必要なことであった。

“May I have a moment?”

『少しいいだろうか』

珍しくエーリクが手を上げる。

ヴィーグル組含め、全員が彼を見た。

“Should we be left behind, carry on—or terminate—the mission as the situation demands.”

『もし我々が取り残されても、必要とあれば任務を続行又は放棄して欲しい』

『……』

全員が無言になった。それはそうだ。自らを切り捨ててよいといきなり言われて、陸自側がすんなり受け入れる話ではない。一方ヴィーグル側はどこか納得ずくの雰囲気だったが。

「……アンタ達ん雇い主は日本やろ?」

“…Your employer’s Japan, isn’t it?”

横田1曹が切り出した。

"...Exactly."

『そのとおりだ』

「ほいだらオイ達と変わらんなァ。……なぁ?」

“Guess that makes you the same as us, huh?”

そう言って横田1曹が、アドバンスチームを見渡す。皆が笑う。

「誰《だい》も見捨てん。少なくともオイは」

“I don’t leave anyone behind. Not me, at least.”

"......"

穏やかにエーリクは頷いた。陸自を含めたこの隊の中で一番の年長者で実戦経験もある彼がわざわざ言ったことに重みはあるが、少なくとも陸自の側には見捨てるつもりは無かった。

そもそもヴィーグル社のオペレーターの働きぶりはしっかりしたものだった。ノルウェー人の勤勉な気質が垣間見えることも多い。現警衛中隊上番組は彼らのことを信頼しているのである。

"......"

ほかのヴィーグルの隊員たちもどこか穏やかな雰囲気だ。自衛隊で言うところの団結が深まった雰囲気。いい空気感である。

“…Much appreciated.”

『……感謝する』

エーリクが横田1曹、いや陸自側に感謝を述べ、場の空気はさらに和やかになったのだった。




いつの間にやらヴィーグルと陸自が仲良くなってます!
アルに聞いてみたところ、ノルウェーの人は現実主義の努力家だそうです。でも口数が少なくどこかシャイ。そのわりにバチくそアウトドア大好きという日本人からすると不思議な国民性だそう。
なんだが上手く話せたら日本人と仲良くなれそうですね!
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