アルゴノームⅠ   作:Type-Yasenbunko

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8時間以上、車両に乗せられるってマジごうもんだよね!!
まあ自動運転だからまだいいでしょうが。
ソマリランド付近はほんとに何もないので日本の高速でSAとかで遊びながら移動するのとはわけが違いますよねぇ。しかも官品車両なんて居住性二の次だし。
せめてヒマリがいればねぇ(笑)


第22話

ボラマ訪問当日07:28。司令棟隊庁舎前に10台の車両が数珠繋ぎで待機している。火箱陸将補のピックアップ待ちだ。山永は予定どおり先行班《アドバンス》1号車だ。荷台のキソー用架台に搭載姿勢で座り待機している。周囲の状況は頭部のモニターで逐次確認していた。

『……お、出てくっぞ』

陸将補《プリンシパル》の動静を追えるARグラスのマップを見て門脇班長が呟いた。時間をきっちり守る所、やはり陸将補になるだけはあるなァと失礼にも山永は思った。

8号車が司令棟庁舎前の車寄せに停車している。その車に8号車の隊員がエスコートし、火箱陸将補が乗車する。

『プリンシパル乗車、プリンシパル乗車』

ヴィーグル車含め全車両が右ウィンカーの点灯を始める。各車発進準備よしの合図だ。通信で各車準備よしの報告が放送された。

『警護隊、前進、前進』

藤井1尉の号令がかかる。ヴィーグルの1号車から各車前進を開始しだした。梯隊《コンボイ》警護開始だ。

 

ジブチとソマリランドの国境を越え、ソマリランドに入って2時間ほど。現在の所、特に異常等の兆候は見られない。

「……んぅぅ……」

山永は軽く伸び、特に足に血が巡るよう伸びをする。車両の外部カメラとリンクしているため常時頭部のモニターで外部は見られるし、マップも表示されているので現状は十分確認できる。しかしながら架台に乗っているキソーはギリギリの容積で積まれているのであまり好き勝手に体を動かせない。だがずーっと黙って動かないと血が固まりエコノミー症候群になってしまう。なのでたまに伸びをして血を流しているのだ。一応ナノをぶち込めばそういった循環系の問題もナノマシンの力で解消されるが、そんな下らない理由でナノを使う事は後で滅茶苦茶怒られるのでできないのである。

「もうちょいでゼイラか……」

間もなくPP2。今のところ目立った事象はない。とはいえ訓練で練習したドンパチがないからと言って教訓が得られない訳でもない。何もないならないで梯隊の距離感や各車の連携など細かく詰められることはある。後部乗員であれば各隊員の警戒範囲のバンダレイ(境界線)もだ。車載カメラのモニター画像だけではなくハッチから見える生の景色も重要である。

「……」

左には濃い青の海がのんびり横たわっていた。アホほど外気が暑いことを除けばいい天気だ。山永は、心底何も起きないでくれと何度目かに思った。

 

PP4、エルガル通過まであと少し。海岸から離れ海が見えなくなってから周囲は荒地と砂漠の合の子のような地形ばかりになった。もともと旧ソマリランド自体何もない土地だが、それに輪をかけて何もない。たまになにを育てている畑だか分からない畑があるくらいだ。正直いって日本人からすると不毛の地に見える。ラクダやらヤギを放牧している遊牧民にはちらほらすれ違ったが。

「……マジでなんもねぇな。」

つまらなすぎて何度目かおなじ言葉を漏らす山永。相手がブービー(官品AI)でなくヒマリだったらもっと暇つぶしのお喋りも出来たが、当然の事ながら私物の機材である彼女はお留守番である。

『PP4通過』

藤井1尉の乗る6号車よりフェーズポイント通過の放送が入る。警護隊は小さな集落を抜けていく。

 

ちょうど中間地点を越え、半ば休憩時間と化した給油地点も給油を終えて再出発し、PP6、ジーディを通過。ここからアカシア低木のような灌木が増え出した。だからといってそれ以外なにか見栄えがある物が増えている訳でもない。ただひたすらに冗長な時間。倦怠感が部隊に流れている。

「……っふぅー……」

キソーを着ていない組はちょくちょく具にもつかない世間話をしているが、キソー組は世間話をしていない。間違って世にもくだらない下ネタなどが梯隊全体に放送《ブロードキャスト》されたりすると赤っ恥だからだ。というわけでキソーの中は孤独である。

「……ブービー、なんかおもろいこと言ってくれ」

『申し訳ありません、山永3曹。ただいま任務行動中です』

「……あぁ、そいは知っとう」

当然だが、ブービーはいつもどおりブービーであった。

 

 

――そしてその時は突然やってきた。

 

もっとも危険と予想していたガブダルガーディアを通過し、PP7クルジェードを越えて1時間半後、最後のPPボウンに向かう途上。

 

ヴィーグルの乗った1号車が突然、すっと各車の視界から消えた。

 

その後ガシァァャン!と大きな落着音。

『なんした?!』

『なんやなんや!?』

『消えたぞ!1号車か!?』

ヴィーグル2号車が突然路上から大きくはみ出し、路肩に飛び降りた。その瞬間全員に情報共有画像として道路上に広がる特大の落とし穴が表示される。

『戦車壕!!?』

その名のとおり戦車を落とすための落とし穴。それを避けるために2号車は大きく迂回機動をとったのだ。そして次の瞬間、その2号車が爆音と爆煙に包まれ、10mほど空高く爆風で弾きあげられる。

『……!!??』

今度こそ警護隊全員が言葉を失った。

『てぇぇえいし!!!停止、停止ッッッ!!!』

誰かが全力で叫んだ。全車が手動、自動で一気に急ブレーキを掛ける。車間をきちんと維持していたおかげで追突玉突きなどは避けられた。

――ガシャアアアッッン!!――

2号車が大地に戻ってきた。幾度か車体が跳ねる。ぐしゃぐしゃだ。

『触雷ッッ!!ショクラァァァアッッイ!!!』

――ドガドガアァドガアアアアッッン!!!――

ピピっ、と情報共有画像。10号車が大爆発を起こしていた。恐らくRPGの複数被弾だ。これで進行方向も退路も両方絶たれる。

『被害どうなってる?!各車報告ッ!!』

『8号車がやらいた(やられた)!!』

『ヴィーグル応答せぇ!』

『救助ん出てよかっすか!??』

『どっから撃たれたッッ?!見たやつおるか!??』

混乱、混沌、不虞、不明。その坩堝に隊は取り巻かれていた。

――パラララララッ、パパッ、ゴッゴゴッ!!――

無数の火の四重奏《カルテット》。地獄のらっぱの歓待だ。死神の手招き。無数の小銃、機関銃、重機関銃が警護隊に襲いかかる。先程の攻撃地点はちょうど道路の右に曲がる屈曲部。先頭車が曲がり切り直線に戻ろうとした所に壕が掘開され、さらにその先に地雷原が埋設されていた。壕と地雷原の距離感も綿密に計算されており、絶対にここで先頭を擱座《かくざ》させてやろうという強い意志が感じられる布陣だ。後続車は屈曲部で停車させられ、横っ腹を大いに晒している。最後尾を叩き潰すことでバック等で即座に離脱ができなくなるよう袋小路を作るという企図も含まれていた。

――ひゅーーーーー……ドォォォンッ!!!――

迫撃砲の初弾が警護隊進行方向から見て4時の方向で炸裂した。次弾から効力射がやって来る。

『7時の方向からRPG!散兵多数、人数不明!』

アルファ0(藤井1尉)より放送、放送!総員下車戦闘、下車、下車ッ!!』

『11時より発砲炎!散兵多数!人数不明!!』

ここでようやく攻撃方向が判明した。屈曲部をキルゾーンとし、恐らく2個小隊規模以上が十字砲火を加えているのだ。

『下車後は車両を盾にしつつ直ちに撃ち返せ!各個の判断で撃て!』

混乱から復帰した藤井1尉がすぐに指示を出す。冷静な判断だった。それでもあちこちから爆音、射撃音、弾着音。そこへ――

――ドゴンッ!……ドゴォン!!――

落とし穴の中で鉄がひしゃげる音がする。

――ドガァァァッッン!!――

爆音とともに、落とし穴から鉄扉がまたしても10mほど宙を舞った。その一瞬後、デザート迷彩の鉄騎が穴からひゅっと飛び出してくる。AMIユーリディス(ルリエンナ)だ。横でぶち上げられた車両の後部ハッチがバタンバンと落着し爆音を鳴らすが、ルリエンナは壕からの復帰も高く飛びすぎることなく、もはや土煙すら立てぬような静かな着地を見せる。

“Alpha-Two, Re-engaged. Engaging.”

アルファ2(ルリエンナ)戦闘復帰、攻撃開始』

 

【挿絵表示】

 

――ドンッ!ドォン!!――

ルリエンナは流れるように梯隊前方11時の敵散兵らに射撃を開始。陸自側で最初の反撃だ。一方でピピッと新たな情報が共有される。スウォーム(イナゴ)の出現だ。凡そ40機。

 山永は陸自先頭車の3号車に搭乗していた。彼はボラマ到着後の行動を再復習するためブービーに作戦資料を投影させていたため初動が遅れた。当初の混乱に当てられ、彼も動揺したがすぐ落ち着き、ナノの使用を開始する。すると更に彼の集中力が加速していった。

「……やりくさって。」

腹の底で湧き上がる黒い怒りと闘志。初の実戦。しかし、恐怖どころか冷徹の感情しか彼の心中にはなかった。

「下車、下車ァァッッ!!」

叫びながら後部ハッチを開放すると鉄火飛び交う初めての戦場に飛び出す。

――ドガァァァン!!――

降りた瞬間、洗礼を浴びた。迫撃砲、恐らく曳火射撃だ。頭上で爆発し破片が降り注ぐ。

「……っ」

だが、キソーにはこの程度の破片は小雨のようなものだ。直ちに車両に隠れながらM-2(キャリバー)を引き出し、射撃準備。

NEMS(脳内神経電磁刺激)が起動し、集中力が増していく。ナノが脳みそに回って電磁波で神経を直接刺激しているのだ。鉄臭いスプーンを噛んでいるような感覚。考えが透き通っていく。戦況全体を画面で把握。彼はスウォームが脅威になりうると判断した。M-2で撃破を狙う。

「ブービー、レコンランチ!」

『レコンランチします』

バチンと2機のレコンが発進する。送弾盤解放、箱型弾倉からベルトリンクを引きずり出して送弾盤に載せると勢いよく閉じて槓杆《ボルトハンドル》を引き装填《ホットチャンバー》。すぐに車両からリーンしつつ半身を出した。山永の目がぎらりと光り、

――ドドドンッ!ドドン!!――

射撃開始。

――キュイイィィィィ……ッ!――

4号車に搭載されたレーザー銃塔が突然回頭し、スウォームを睨む。

――ぱんっ!ジギィィッッ!ぱん!ジギィィッッ!!――

爆薬カートリッジが爆発し、充電。間をおかず大気を引き裂く細い閃光。迫りくるイナゴどもを叩き落していく。これは以前大野原演習場で使った52式の改良型で、出力、連続照射時間ともかなり向上している。真に頼りになる対空火力だ。

 ほぼ下車できる人員は下車し、応戦を開始していた。しかし相手の濃密な火力の対応で手一杯である。

「……ジリ貧やな。」

冷静に、山永はそう思った。スウォームはこちらに来る前にどうにか殲滅できそうだが、次の一手がない。掩蔽物がないのだ。キソーはともかく装甲化されていないエグゾ組は敵に近寄るのもままならない。

――ドガアアッッン!!!――

『RPG!!』

恐らく4号車を狙ったRPGがすんでのところで外れた。危なかった。レーザーを落とされればさらに押し込まれかねない。

――ドドンッ!ドドン!!――

ドローン対応を切り上げ、散兵を狙い撃つ。気付いたら、恐らく山永は何人かを殺害していた。だが、そこになんの感情もない。明鏡止水だ。ただ、現状戦況が不利だと言う意識があるだけである。

アルファ0(藤井1尉)アルファ3(山永3曹)。人数を揃えて前方陣地を突破しますか?!」

無数の小銃弾と迫撃砲弾が飛び散る中、次の一手を具申する山永。

『キソーでか?』

「そうです!」

――ドガアアッッン!!!――

5号車がRPG被弾。まずい。

『……いや、待て……山永3曹、機動弾を使う!弾着誘導しろ!』

「!!……了解!」

機動弾、第5高機動誘導弾特科群のHGV弾だ。まさか使用許可が出るとは。確かに警護隊の出発と一緒に発射ステーションに射撃待機しに行っていた。こんな状況まで考えていたのだろうか。

――ゴゴッゴゴゴッ!!パラララ、パラララララ!!――

恐らくDshk(ダーシュカ)とPKMであろう、それら機関銃が猛攻を浴びせてくる。向こうも生かして帰すはないようだ。山永も、そっちがその気ならいいだろうと思った。必ず叩き潰してやる。

「ブービー、レコン2機で弾着誘導!」

『了解。HGV終末誘導を実施します』

ピピっ。今度は7時の方向からドローンスウォーム(イナゴども)。不味い状況だった。警護班《プロテクション》のレーザー搭載車は敵の第二撃目のRPGで破壊されてしまっていた。

『アルファ3以外のキソーは後方の支援に回れ!絶対に寄らせるな!!』

藤井1尉の指示。的確だ。再編成していなければ蹂躙されかねない。

『エグゾは前方陣地を攻撃!アルファ3を援護!弾着までなんとしても守れ!』

「アルファ0、アルファ3、弾着目標は前方陣地でよいか?!」

『いや!後方陣地だ!』

「了解!!ブービー、機動弾は発射されとっか?!!」

『射撃許可待機中です』

前方の対戦車火器の量は後方に比べると明らかに少ない。加えて撤退を決断した以上、来た道を戻るとなれば、火力編成的にも敵の火器の配置・射向的にも後方に陣取っている連中の方が危険だった。

『機動誘導弾《HGV》発射。弾着まで、92秒』

ブービーからアナウンス。来た。そして早く来い。山永は車列の後方へ移動し、後方陣地が視認できる位置へ移動する。

「……ッッ!!!」

――パパパパッ!ドドンッ!ドドン!!パンパン!――

ジリジリと前方陣地の散兵たちが交互躍進でにじり寄ってくる。エグゾ組も負けじと火を出し近寄らせまいとする。

後方は後方で全キソー、ユーリディス、レーザーでドローンをたたき落とすべく集中砲火をかけていた。山永はその中、敵陣の弾着位置を選定。

「ブービー!弾着位置、この位置!この照準点の位置に誘導せろ!!」

Mー2の照準点を使い、後方陣地の中央と思しき部分を指し示す。

『了解。同点を最終誘導点に固定』

距離392。前方陣地もそうだったがキルゾーンから見て400から500の間に敵が配置されている。殺意に溢れた本当にいやらしい位置取りだ。車両を触雷、停車させる前提で完膚なきまでにあちら()に得意な距離をこちら()に押し付ける防御陣地。明らかにただのテロリストではない。きちんと用兵を分かっているものがいる。

『弾着まで、30秒』

「……はよ来いッ!」

急かしたところでどうにもならないが、思わず呻く山永。ナノの脳内刺激がなければきっと、苛立ちを隠せていなかっただろう。キャリバーでドローンどもを叩き落としつつ、弾着を待つ。

『各車Uターンし直ちに離脱できる体勢を取れ!いそげ!』

先頭車両から何とか頭を回し、Uターンしようとする。隊員たちが盾にするために車にくっついているせいで、自由に機動出来ないのだ。クラクションを鳴らしながら動くぞの注意喚起をして、車を回していく。

『弾着10秒前、9、8……』

突然北の空に、真っ黒な穴が空く。太陽を背負ったまま、影だけが落ちてくるようだった。まるで空がひっくり返った穴のよう。

『5、4、弾ちゃーく……』

空気が先に悲鳴を上げた。

――ゴ……ッ――

低い圧のうねりが装甲板を押す。

音というより、空気が押し返してくる感覚。周囲の砂が細かく跳ねる。黒い点は、もう点ではない。弾頭ではなく“圧”が降りてくるのが本能的に分かる。人間がどうとかではなく、今からここが地図から消えると本能が理解する速度。射撃音も爆音も、なにもかもが天の穴に吸い込まれていく。山永はブービーの弾着今の発声どころか、キャリバーの射撃音すら一瞬聞こえなくなる。そして、

 

 

――世界が、ちぎれた。

 

光より先に、衝撃が走る。そして、一筋の光の柱が天より降り注いだ。

大地が裏返った様に持ち上がり、

白い輪が一気に広がる。

 

遅れて、地獄が押し寄せた。

ハーケイの車体が横から殴られ、砂嵐が津波のように襲いかかる。横転こそしないものの、凄まじい振動波。鼓膜が一瞬焼き切れたように何も聞こえなくなる。

音が戻ってきたのは細かい砂が雨の如く落ちてきた、数秒後だった。

 

不思議なことだが敵味方関わらず、誰一人射撃をしていなかった。後方の敵陣は木っ端微塵に瓦解している。きのこ雲の下には誰が見てもわかるクレーター。"神のいかづち"の精神的衝撃力で、みな引き金を引くことすら忘れてしまっていたのだ。

『……警護隊離脱!!りだぁぁあつッ!!』

藤井1尉の声が響き渡る。部隊の隊員たちもはっと正気に戻り、車を再度回頭し始める!

『急げ急げ急げッ!チンタラするなァッ!!』

いつも穏やかな藤井1尉が怒鳴り声を無線で振りまく。警護隊にハッパをかけるためだ。このタイミングでは1秒も惜しい。

『人員回収せろ!誰も置いてくなァ!!』

『自分との車両じゃないけどいいすか?!!』

『良かけはよ乗れッッ!!』

『ケガ人はどれでん良かけん放り込め!』

『ウチん車両の奴は全員乗ったぞ!乗れんヤツこっち来いッ!!!』

山永も自分の3号車に乗ろうと梯隊前方に戻っていく。そのとき、彼はそれを見た。

「……!!!」

西3曹である。いや、西3曹であったものだった。ぐちゃりと仰向けで崩れ落ちている。見て一瞬で分かった。喉笛に、恐らく迫の砲弾だろう、その破片が深々と突き刺さっていた。見事に防弾チョッキ(アーマー)の隙間だ。見た限り恐らく即死だろう。苦しむことがなかったならば、まだましだっただろうか。もし山永が脳内ナノを起動していなければ呆然としていたに違いない。

「……」

ナノが山永の脳に冷徹を強制する。足は動いている。車両に乗らねば。

『……!』

ルリエンナがたった一人、グシャグシャになった2号車の後板を引っ剥がそうとしてる。乗員を救出しようとしているのだ。

――パララッ、パパッ、パンパン、ゴッゴゴッ!!――

前方の散兵たちも動揺から復帰したのか射撃を再開してきた。鉄火に晒され、思ったように作業ができていない。

「手伝っ、Help you!」

山永がダッシュしながら猛然と敵陣に射撃を加え、2号車の残骸に取り付いた。

"I'll breach it! Cover me!!"

"...Thank you!"

彼女は素早く散兵への制圧射を始めた。間違いなくルリエンナのユーリディスよりキソーの方が出力は高い。歪んだ扉の、その隙間に指を無理やり突っ込むと、フルパワーで力任せに引きちぎる。

「……ンぅぅぅ、オラぁぁぁぁっァッッ!!!」

バガンと鉄扉をぶち千切るとそのまま後方に放り投げる。

「……ッ!!!」

中は、地獄だった。

フロアが裂けて穴になり、そこから黒い油が垂れている。

天井には血の霧が乾いて貼りついていた。

装備ラックは外れて後部に倒れ込み、

その下に一人、動かない影。

運転席は原型を留めていなかった。

ハンドルが胸にめり込んだままの男は、生きているとは思えない。

右側後席には首の向きが明らかにおかしな方向に曲がっている死体がぶら下がっている。大男だ。イルッカだったか。

左後席は車体がひしゃげた拍子に押しつぶされたのか人体ごとぐしゃぐしゃに圧壊していた。黒人だ。陽気なカリム。

"Someone!!Reply!!"

無駄だと分かりつつ、全力で声を張り上げる。沈黙。

"...No. ...Retreat."

ルリエンナの背中を軽くパンと叩いて視線を向けさせると、山永は告げる。ルリエンナは一瞬だけ、ほんの少し目を見広げると、諦めたように頷いた。

”Board our vehicle! Cover you!"

"Roger"

山永が今度は制圧射を開始。ルリエンナは直ちに3号車へジャンプ機動。

『全員早くしろッ!!出発するッッ!!各車報告!!』

(藤井1尉)待て!山永回収したら出れるッッ!』

『はやくしろ!!』

3号車の門脇2曹が藤井1尉に怒鳴る。怒鳴り返す藤井1尉。各車Uターンと生存者の救助をほぼ終えている。前方陣地の散兵がさらに我側に近寄ってきている。迫撃砲弾落着も激化していた。連中は取り付く気だ。あの先程の爆発を見て諦めないのも大した度胸である。

”Cover!"

"Roger!"

ルリエンナが支援射。周辺にいたエグゾ組がそれに気づき射撃開始。

「班長!ガナーに乗ります!上に乗ったら出してください!」

『落ちんなよ!』

戦闘機動、ジャンプ、ジャンプ。二息で自分の車両まで取り付くとそのままガナーハッチに飛び乗る。著明だがどうでもいい。残弾が心許ないが山永は撃ち続ける。門脇2曹が叫んだ。

『3号車乗れッ、乗れェェッッ!!』

『警護隊前進、ぜんしぃぃぃん!!!』

ルリエンナを含めた他車の乗員含め、すし詰めで車内に飛び込む。アクセル全開。

――パパパパッ!ドドンッ!ドドン!!パンパン!――

ガナー達が最後とばかりに前方の散兵どもに鉛玉をばら撒いていく。梯隊が再始動。

離脱できる車両はたった5台だけ。

 

ようやくこの地獄の袋小路から、警護隊は逃げ出したのだった。




はい、地獄でした~
敵さんがちゃんとした戦術を持って自衛隊を潰そうとしたらこうなるよって例を見せたかったのでまんぞく!!
……というのは置いといて、戦場を上手に描けたでしょうか。
そう、戦場。自衛隊はまるで損害など一人も出さず、全員が五体満足で帰ってこれるみたいに考えておりますが、それは世界を、この世を舐めている。
人は、死ぬのです。
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