所詮お座敷戦闘訓練ばっかりだったのにいきなりこの怒涛の地獄を味わった訳です。
……まあメンタルこんなもんになるよね。
部屋は思ったより広かった。6畳くらいだろうか、左手にベッド、右手にロッカーとデスクが配置してある。
とりあえず自分のアサルトバッグをロッカーに放り込み、ばたんとベッドに大の字で倒れ込む。疲れた。とにかく。梯隊全滅から核攻撃、国境越えに攻撃ヘリとガチンコ勝負。本当に、色々ありすぎた。
「……」
そう、色々ありすぎたのだ。皆、死んでしまった。
「メシ風呂、行く気の失せるな……」
正直なところ、ボラマ訪問から山永は眠れていない。もちろん昨日もだ。車両の中の死体袋や、もはや遺品であろう浦2曹のアサルトバッグを見る度、それぞれの情景が思い出される。
「……」
ルリに食事を取らせたり寝せようとしたのも、罪悪感から来たものだった。せめて、この子だけでも救いたい、と。まさにその時。
――コンコン――
“Yamanaga, Lurienna. may I come in?”
[山永、ルリエンナです。入っても?]
山永はビクッとしたが、気だるげに起き上がると鍵を開け扉を開く。
"Sure. Come in."
自分はベッドへ、ルリはデスクの椅子に座らせる。ありがとうと言いながらルリは座った。はて、なんの用かと山永が訝しんでいると、
“Yamanaga… is there something you’re not telling me?”
[……山永。何か隠していることはありませんか?]
言ってないことと言われ、彼はうーんと唸る。なにせ話すようになって二日だ。言ってないことの方が多い。そんな彼をルリはじっと見つめていたが、どうにも話が進みそうにないと判断したらしく、切り込んできた。
“…Are you actually getting any sleep?”
[……あなた、ちゃんと寝てますか?]
ギクッとなる山永。それかといった顔。
"...I'd lied on the seat."
[……シートで横になったさ]
溜息を吐かれた。
“That’s not sleep.”
[それは、睡眠とは言いません]
"That's right."
[だよなー]
彼の軽い回答と裏腹に、神妙な面持ちで山永の顔を覗き込むルリ。
"Can't you sleep?"
[寝られないんですか?]
"...Yes."
少し目を逸らしながら、山永。
“May I ask why?”
[理由を、聞いても?]
山永は俯く。
"...Many companions, ...are killed. Many."
[……たくさん仲間が死んだ。たくさん]
天井を仰ぐと、
"I can't explain this feeling. They go around, around, around..."
[この感覚をどう説明したらいいか分からん。ずっとグルグル回ってんだ……。]
ルリが一拍置いて続ける。
“...I won’t say I understand how you feel.”
[……あなたの気持ちが分かるなんて言いません。]
ルリは山永を見つめたまま、逸らさない。
“But, they don’t disappear just because you survived.”
[でも、生き残ったからといって、消えるものではありません]
短い沈黙。
“And, avoiding sleep won’t protect them.”
[眠らないことで彼らを守れるわけでもない]
山永は何も言わず、彼女を見た。真摯な目だ。二人の視線が交錯。
“It only leaves you alone with it.”
[それは、あなたを一人にするだけです]
ルリは視線を逸らさず、続ける。
“You didn’t fail them by living.”
[生き残ったことは、裏切りではありません]
こんな饒舌な彼女は初めてかもしれないと山永は思った。いや、説明のときはよく喋ってるかとも思い直したが。
“You honor them by staying functional.”
[機能し続けることで、彼らに報いることはできます]
"And...,"
[それに……]
急に軽く不満げになると、
“You were the one who made me,
eat and sleep.”
[貴方が私に強制したんですよ?食事をして、寝ろと]
そういやそうだったと山永も思った。びっくりするほどブーメランだ。
“If you forced me to do that,
I have the right to force you as well.”
[私に強制させたなら、私にも貴方にそれを強制する権利があります。だから……、]
"So...,"
もう一度真面目な顔に戻り、
“Eat.
And sleep.”
[食べて、寝てください。]
思わず頷く。これは完敗だと山永は思った。
"...Roger that.
You are right."
[了解だ。あんたが正しい]
その答えでようやく満足したのか、ルリの顔が穏やかになる。
“Good.
Then let’s go to the mess hall.
I’ve already cleared it with Lars.”
[それでいいです。
では、食堂に行きましょう。ラースに許可は得ています]
そういって二人、連れ立って扉を開け、部屋を出ようとし、
"Hey."
[よお]
トーマスが扉の前にいた。
"...Thomas."
[……トーマス。]
“I wasn’t eavesdropping or anything.
I just came to deliver what he asked for.
Figured I shouldn’t interrupt, so I waited outside.”
[別に盗み聞きしてたって訳じゃないぜ?ご依頼のブツ、お届けに上がっただけだ。で、邪魔すんのもなんなんで、前で待ってたのさ]
左手の袋を掲げ、そう述べるトーマス。
後ろから見ると若干彼女の耳が赤く見える。やや顔を俯けルリは、
“…Thomas.
You didn’t see anything and hear anything.
Understood?”
[……トーマス、あなたは何も見てないし何も聞いてない。いいですね?]
トーマスは楽しそうに、
“Of course, princess.
Wouldn’t dream of butting into your little secret.
Oh—and Elena said she can lend you a change of clothes.
You can pick it up later, alright?”
[もちろんだお姫様。
二人の秘め事にちゃちゃなんて入れねぇよ!
あ、お前の着替えエレナが貸してくれるってさ。後で取りいけよ?]
そう言って山永に着替えを放り投げると、トーマスは左手を上げてふりふり去っていった。
"I guess he talks to others."
[あいつみんなに話すんじゃね?]
“Be quiet!”
[黙りなさい!]
なぜか怒られる山永だった。
……トーマスは悪くないよ!いいヤツだよ!
……タイミングがよくて楽しんではいるけどね!