アルゴノームⅠ   作:Type-Yasenbunko

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ヴィーグルで勤務している人間は二種類。
ルリやトーマス、今回出てくるミシェル達のような専門技能を持った者と、現地で採用されるような一般業務を担う者です。
清掃、荷運び、車両の簡単な整備などは現地採用でなんとかなりますが、
戦闘行動を行ったり、高度な機械、電子装備を整備したり運用したりする人間は流石に現地で採用するのは難しいわけですな。
……ただ、現役バリバリの人間がわざわざPMCやPSCで勤めているのはなんとも不思議な話。
だってもとの軍隊でガッツリ頑張ればいいわけですからね!


第38話

昼からの各種整備はルリの提案で第1倉庫の中で行われることになった。手入れ道具はトーマスから借りることになり、彼も手伝ってくれることになっている。同じ整備担当の黒人女性もなぜか一緒にやってきた。

"Michelle."

[ミシェル]

手入れ台にトーマスと現れた女性にルリが微笑む。

“Long time no see, Lurienna. I’m glad you’re safe.”

[久しぶり、ルリエンナ。無事でよかった]

おおらかそうな黒人女性である。山永と同年代か少し上くらいだろうか。

“Yamanaga, this is Michelle Carter. She’s one of our mechanics.

Michelle, this is Munekiyo Yamanaga — a Japanese Self-Defense Forces soldier.”

[山永、こちらミシェル・カーター。彼女は整備員です。ミシェル、こちらムネキヨ・ヤマナガ。日本の自衛官]

“Nice to meet you, Munekiyo. I’ve heard about you from Thomas.”

[初めまして、ムネキヨ。トーマスから話は聞いてる]

"Nice to meet you, Michelle."

[初めまして、ミシェル]

トーマスから聞いてるのくだりで、なんか変なこと吹き込まれてそうだなァと山永は思った。ボーイフレンドだのなんだの的なヤツである。

“See? Doesn’t he look like a boyfriend?

[な、ボーイフレンドっぽいだろ?]

やっぱりトーマスが余計なことをほざいた。

“...Thomas. Don’t.”

[……トーマス。怒りますよ]

ルリが底冷えする顔と声色でトーマスに凄む。

"Alright."

[分かったよ]

笑いながら答えるトーマス。あれは絶対わかってない顔だと山永は思った。状況を察したミシェルが窘める。

“Don’t tease them too much.”

[あんまりからかわないの]

常識人だなあと山永は彼女を判定した。まあトーマスが非常識だと思っているわけではない。チャラいアメリカ人だなとは思っているが。

“So? You wanna service the Ma Deuce, right?”

[で?マ・デュース(重機関銃)整備したいんだって?]

"Yes. Can you do me a favor? I need a cleaning rod."

[ああ、頼めるか?銃口通しがいるんだ。]

“Sure thing. Hang on a sec.”

[もちろんいいぜ。ちょい待ってな]

トーマスはテーブル向こうの整備資材置き場に各種手入れ具を取りに向かう。

“Sorry about that. He’s not a bad guy.

…Anyway, it’s nice to meet you properly, Munekiyo.”

[ごめんなさいね、悪い人じゃないの。

……改めてよろしく、ムネキヨ]

そういうと手を出してきたので握手。

"Alright, I don't mind it."

[ああ、気にしてない]

トーマスもだったがミシェルも山永よりも背が高い。スラッとして美人だ。黒人は山永には射程外だったが。

“What’s wrong?”

[どうしたの?]

あまりにまじまじとミシェルを眺めすぎた。不思議そうに彼女が尋ねる。

"Sorry, I don't know why the beauties like you bother to serve in Africa."

[すまん、あんたみたいな美人さんがわざわざアフリカで勤務してる理由が分からなくてな]

ルリといいミシェルといい、やたら美人が多い。ヴィーグルの社長が顔も採用基準に入れているのではなかろうかとすら彼は邪推した。

“Oh, that?”

[ああ、それ?]

彼女は穏やかに笑い、

“Someone has to keep things running.

I just happen to be good at it.”

[誰かが回さなきゃいけないでしょ。

たまたま、それが私だっただけよ]

"I see."

[そうなんだな]

はぐらかされたがそれ以上聞くのもなんなので、山永は突っ込まなかった。と、横のルリが、

“Sergeant, that was rude.”

[軍曹、その発言は失礼ですよ]

どこか不満げだ。

"I'm sorry."

謝ったが軽くそっぽを向かれた。嫉妬であろうか。

【挿絵表示】

 

“Sorry to keep you waiting. I brought the whole cleaning kit.”

[待たせたな。整備道具一式持ってきたぜ]

銃口通し始め、ウェスやブラシ、ボロ毛布、WD-40など必要な手入れ具をトーマスが持ってきてくれた。

"Thank you, Thomas."

山永はトーマスからボロ毛布を借りると地面に広げ、倉庫内に乗り入れたハーケイからM-2を降ろしてゆっくり彼女を地面に鎮座させた。

"I guess it's hard to remove her carbon because she was left in a few days without maintenance."

[何日も整備せずに置いといたから、ガス(スス)落とすのめんどいだろうなァ]

“In that case, wanna try an automatic barrel cleaner?”

[それなら自動バレルクリーナー使ってみるか?]

トーマスが親指で手入れ台の向こうにある整備機械らしきものを指す。やたらと大仰な機械だ。ピストン運動用の機関部に、大型の万力と銃身保持用だろうか、機械式のアームが付いている。

“Maybe we shouldn’t use that one.”

[あれはやめといた方がいいんじゃない?]

ミシェルはうーんと唸りながら、

“I’ve tried it before, but it doesn’t do a great job getting the carbon out of the bore.

You still have to swap the head brush by hand anyway, so I think it’s better to just do it manually.”

[試したけどいまいち銃身内のカーボンが取れないから。ヘッドブラシの付け替えも手動だし、手でやった方がいいと思う]

“Busted.”

[バレちまった]

おどけるトーマス。全く、とミシェル。

"It looks expensive, though. "

[高そうなのになァ]

必ずしも値段と性能が釣り合わないのは世の常ではあるが、勿体ないなァと山永は思う。

“Please take anything Thomas says with a grain of salt.

He’s always like that.”

[トーマスの話は話半分で聞き流してください。

いつもああですから]

ルリが山永に釘をさした。

"I got it. Alright, then I start to maintain her. Lend me maintenance tools."

[わかった。じゃ、相棒《重機関銃》の整備始めるわ。手入れ具借りるぜ]

そういって銃口通しとブラシ類、ウェス諸々を借りる山永。そのまま銃身の取り外しから始め、手際よく機関銃をバラし、毛布の上に部品を並べていく。

“Why are you lining the parts up like that?”

[なんで部品並べてんだ?]

心底不思議そうにトーマスから尋ねられた。

「……え?Usually we should line up the parts not to lose them, shouldn't we?」

[普通、部品なくさないように並べて置かねぇ?]

“You line them up like that, Michelle?”

[並べるか?ミシェル]

“I wouldn’t line them up this neatly.”

[ここまで綺麗には並べないかな]

だよなーとトーマス。ルリもルリとて物珍しそうに山永のやり方を眺めている。どうやらノルウェー軍も違うようだ。

“Guess that’s the Japanese Army style.”

[陸自式な訳だ]

トーマスもまじまじと山永が部品を並べる様を見ている。なんだか恥ずかしい彼。

"...Do you line them up, Luri?"

[……ルリは並べるのか?]

つい気になって彼が尋ねた。

“No, I don’t.”

[並べませんね。]

"...I see."

[……そっか。]

どうやら日本だけらしい。なんか几帳面アピールしているようで気恥ずかしい。と、言いつつ手際よく分解し終わったので早速手入れに取り掛かる。やはり各部品砂塗れだ。砂漠だらけのアフリカなので仕方ない話である。特にオイルが残っている部分などてきめんに砂が張り付くのだ。ブラシとウェスで砂を軽く払っていく。

“Shall I help?”

[手伝いましょうか?]

ルリがすかさず申し出る。

"Thank you, that helps a lot. Brush and grease up the parts."

[ありがとう、助かる。パーツを磨いてグリスアップしてくれ]

トーマスがニヤニヤしながら何かミシェルに言って、ミシェルがはいはいといった様子で軽くあしらう。ミシェルはそのまま山永に、

“Want us to help too?”

[私達も手伝おうか?]

"Thank you. You too."

[ありがとう。あんた達も同じで]

“Leave it to us.

Man, all the JGSDF Ma Deuce parts are metal. You guys hate plastic or something?”

[任せとけ。それにしても陸自のマ・デュースの部品は全部金属だな。プラスチック嫌いか?]

確かに米軍のM-2は随分プラスチック化が進んで軽量化されている。かく言う山永も羨ましいとは思っているのだが、自衛隊というのはそう軽易に装備を更新できないのである。

"I don't know, but my country doesn't allow us to use a new version."

[分からんが、お国が俺らに新型使わせてくれないんだよ。]

山永はあらかた全ての部品の土埃を払うとM-2用の銃口通し(クリーニングロッド)を組み立てる。陸自のものとはどこか違うが普通に組み立てられた。

"Hey, Luri. Please hold the barrel. I'll clean the bore."

[なあルリ、銃身を持ってくれ。銃口内を綺麗にするわ]

“Yes, understood.”

[ええ、分かりました]

ルリが銃身の先頭と機関部付近を押さえて固定する。山永が機関部後部からヘッドブラシを油まみれにしたロッドを差し込みがしゃがしゃと何度もピストン。

"It's a great help for me. Let me return the favor."

[本気で助かるわ。なんかお返しさせてくれ]

今度はヘッドブラシを取り替え、細断布をヘッドに取り付ける。擦って落としたススを拭き取るのだ。

“There’s no need to worry about that.

You’ve helped me as well.”

[気にする必要はありません。私も貴方にはお世話になりましたから]

五、六回通してはヘッドの布を取り替え、何度もその作業を繰り返す。トーマスがマメだなァと言った顔をしながらルリに、

“Hey, if he’s offering, why don’t we let him treat us to something?”

[せっかくこう言ってくれてんだからなんか奢ってもらおうぜ?]

“No. That’s not necessary.”

[いえ、必要ありません。]

ずびしと切って捨てるルリ。一方山永が食い下がる。

「うーん、But they are also helping me, so I want to treat them, though.」

[でも二人も手伝ってくれてるからお返ししたいんだが]

ミシェルが遊底部をブラシで磨きながら穏やかに続ける。

“Don’t worry about it.

Getting Lurienna here safely is more than enough for us.”

[気にしないで。ルリエンナを無事ここまで連れてきてくれただけで十分だから]

“Tch. You’re all such good little angels.”

[ちぇっ。みんないい子ちゃんでやんの]

なんだかんだ、山永はこんな感じでやいのやいの武器手入れする雰囲気は好きだった。まるで中隊の武器手入れ時間の雰囲気だ。

“Oh, by the way, Lurienna — looks like you’ve been officially assigned here.”

[そういやルリエンナ、おまえさん正式にここの配属になったらしいぞ]

“…I see.”

[……そうですか]

ルリは予想していたようで、特に驚いた雰囲気もない。

“Thomas, don’t go telling people things Lars told you in confidence.”

[トーマス、ラースから話すこと勝手に喋らないの。]

ミシェルがまたしてもトーマスを窘める。悪い悪いとトーマス。

「……」

ルリの立ち位置がハッキリして、山永はぼんやり自分はどうしたもんかなァと考えた。早く日本に帰りたいがその手段はない。そうなるとここにいるしかないが、自分に役割などない。お客さんである。要するに気まずいのである。

"...Yamanaga?"

ルリが彼の様子に気づいた。

"...No, no, nothing."

[……いやいや、なんでもないって]

そう言って銃口通しに集中する山永。ルリはなにか言いたげに彼を眺めるのだった。




嫉妬するルリ、かわいいですね!(小並感)
それはともあれ山永の立ち位置がたしかに微妙ですねえ。
自分がああなったら何していいか分からずちーんとなってるでしょうねぇ。
一方ルリはルリとてまたすぐ次の勤務に励むのでしょう。
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