アルゴノームⅠ   作:Type-Yasenbunko

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とある少女とはだれなんだー
よくある設定回想です。
飛ばしていただいても本編に問題なしですな。
興味あるかた、Feel free to read it![ご自由にどうぞ!]


第40話 インターミッション(とある少女のはなし)

その少女は、ノルウェーでは知る人ぞ知る名家の血筋だった。ノルダール(北の谷の民)の、クリスティアンのセン(子息)。斜陽だったクリスティアンセン家を、少女の祖父、レオニードが先進医療技術で再興したのだ。ノルウェーに根付くヤンテ(謙虚抑制)の掟を破り、常に頂上を目指し続けた祖父。その息子で、祖父の最高傑作である父、アレクシス。その娘が彼女だった。唯一、彼女に汚点があったとすれば、彼女の母が愛人であったことだ。それすら少女自身の汚点ではなかったが。

母セリナは背の小さな聡明な女性であった。驕らず、媚びず、皆のために尽くすよい女性。アレクシスと医科の同期で、医学部の研究室で知り合う。二人は可逆的遺伝子発現制御、すなわち遺伝子編集による生物改造を研究していた。もちろん人間に適用するためである。

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先代レオニードの時代、ヒトへのゲノム編集処置はノルウェーの世論に徹底的に叩かれたが、その楔を引きちぎり、祖父は一代で財を成した。祖父はそれを誇りはしなかったが、その祖父自らが成し遂げられなかったその先を己が息子に求めた。進化圧力を失い、ありとあらゆる人間がこの世に産まれ出でるこの社会を、さらに進化の地平の先へ進めよ。つまり次世代の人類への進化思想だ。そのためアレクシスを徹底した遺伝子編集の元、完璧な子供(the ideal child)として産み育てたのである。

アレクシスは帝王学を修め、万能の天才となるべく体外受精の受精卵の段階で遺伝子編集を受けた。完璧となるべく産まれたアレクシスは、父の期待を完全に受け止めていった。会社を広げ、様々な業態に手を伸ばし、見る間にクリスティアンセン家の中興を押し広げていく。しかしその負荷は、明らかにアレクシスを蝕んでいった。彼はその苦痛に耐えるため、自らの脳に露悪的行為を好む悪魔の遺伝子改変ナノマシンを投与した。そこから更に、クリスティアンセン・ホールディングスの隆盛が加速する。歪んだアレクシスの方がより成果を上げだしたのだ。

少女はアレクシスとセリナが29歳の時に設計された。当初、セリナは頑なに子供を作ることを反対した。このとき既にアレクシスには本妻がいたのだ。しかし、アレクシスの情熱と策略に陥り、卵子を提供してしまう。ただ、あくまで設計思想はセリナが主導した。アレクシスのように受精卵変性ではなく配偶子、つまり精子と卵子を編集し、それをもって受精させた。完璧な子供(the ideal child)ではなく、自由度をあえて残したのである。唯一、アレクシスはセリナに乞うて娘の容姿、髪色、体躯を妻に似せるよう頼んだ。かくて、その子は姉兄と比べ背は低く、銀髪の子供として生まれることになったのである。セリナは望んで胚移植を行い、自らの腹で少女を育て、産んだ。

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アレクシスの本妻との子供たちも完全な神童であったが、少女はそれに輪をかけて優秀であった。知性的な能力の発現は兄たちより遅かったが7歳を過ぎ、猛烈に発達する。アレクシスはセリナとその娘を愛したが、クリスティアンセン家に入れ、同居することはしなかった。

しかし、転機が現れる。少女が14歳のとき、セリナが病死したのだ。急性大動脈解離による循環不全。勤務していた大学病院での午前中の回診に入る直前、自室の研究室で急性の心不全状態に陥り、そのまま数分で亡くなった。AIOSが異常を検知し救援を呼んだが、院内での迅速な対応も虚しく、そのまま逝去する。

母を失った少女を、アレクシスはクリスティアンセン家の一人として受け入れた。

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無論、本妻は猛烈に反対した。愛妾の娘が存在するのはクリスティアンセン家の公然の秘密であったが、それが明るみになることは世間に弱みを晒すこと以外の何物でもなかったからだ。本妻のイングリッドに愛人の娘憎しの感情があったかは定かではなかったが、彼女の判断は家を守るという意味では至って合理的であった。しかしながら圧倒的な成果を上げてきたアレクシスに押し切られる形で、少女はクリスティアンセン家に引き取られることになる。アレクシスのセリナの面影を追いたいという歪んだ欲望が、彼にその悪手を取らせたのである。

少女は新たな家で、一般的な人間からすれば不幸といって差し支えない扱いを受けた。イングリッドとその兄姉は徹底して少女を無視した。挨拶を交わすこともなく、食事を共にすることもなく、完全な断絶を表にしたのである。お前はクリスティアンセンの子ではないと意識付けさせるかのように。生活に困ることはなかったが、本妻を筆頭に嫡流の兄姉たちは徹底して少女を《存在しない者》として扱った。そしてさらに、唯一の味方であるはずの父からすらも、邪悪な生体実験の実験台にされてしまう。

幸か不幸か、その少女は完璧と思われた遺伝子編集を受けた姉兄たちと勝るとも劣らぬ成果を残していく。クリスティアンセン家の子息たちは全て、皆オスロ大学などで医学を修めたが、飛び級も含め、少女はオスロ大最年少19歳で医学博士を取得する。嫡流はこれを脅威としか認識しなかった。なおさら、彼女の価値を無きものにせざるを得なくなるのである。

そのことに気付きつつも、アレクシスは少女に庇護を与え続けた。無論家督を継がせるつもりはなかったが、少女の才能を無為にする気はなかった。彼は決して少女を甘やかした訳ではなかったが、父の期待に答えようとし、実際に成果を示し続ける彼女を物的にも資金的にも精神的にも支え続けた。心底その少女を愛していたのである。それは少女本人への愛だけでなく、セリナの影としての愛も含まれていた。賢い当の少女はその事実も認識している。そしてその愛は当然イングリッドにも容易に察されるものであった。アレクシスの庇護は少女を守る。本妻の憎悪を引替えにして。アレクシスはこのクリスティアンセン家が歪んだ家族とは認識していたが、自分がいる限り己の権力によって家を維持できると思っていた。

しかしその目論見は彼自身へのテロにより儚く消えてなくなる。ヤンテの掟に公然と背き、己らが特別であるかのように振る舞うクリスティアンセン家を、自身らを特異化するノルウェー社会の異物、資本主義の権化として許せない若者が移動中のアレクシスの車を銃撃したのだ。その青年は決して名射手という訳ではなかったが、偶然心臓に弾丸が飛び込み、アレクシスは即死した。少女が20歳のときである。

当主アレクシスが死んだことにより、少女の庇護は脆くも瓦解した。アレクシスの家督は次男が継いだ。そして今まで表立っては批判することがなかった本妻が少女に露骨に悪意を言葉にするようになる。姉兄たちもだ。少女自身、父に対してすら愛憎入り交じる感情だったというのに、ひたすらに自身の存在を疎む嫡流の悪意には、長くは耐えられなかった。

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少女は生前アレクシスが開拓したノルウェー陸軍のフルリム兵実験開発プログラムに参加することになった。本妻イングリッドの強い推薦である。少女はそれには逆らわなかった。ただ、自らが必要とされた場所で必要とされた成果を出し続けようとしただけだった。

他の新兵たちと同じく新兵教育課程に入校し、当たり前のようにトップで課程修了。その才能から偵察科に配属となる。

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その後、研究の一環として衛生科、通信科に出向し、各科で各特技を恐ろしい短期間で取得していく。各科でフルリム、AMIなどとの複合試験を行いつつ、ノルウェー陸軍に多大な研究データを残していった。各科での出向が終わり、原職種の偵察科で実務と試験を繰り返した。陸軍内で取得できそうなデータをあらまし取得した後に、PMCへの出向の話が持ち上がる。実戦データの取得が目的だ。イングリッドがそのルートを根回ししていたのである。クリスティアンセン・ホールディングスの中にヴィーグル社というPMCが存在していたのだ。ここで実戦という高負荷環境での有意なデータが取れるというのが表向きの話だった。実際は少女をノルウェー国内からすらも追い出し、完全にクリスティアンセン家から抹殺するという嫡流の意図があった。

そして、少女は熱砂のアフリカの地を踏むこととなるのである。

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ウチのアル(ちゃっぴー)曰く、

これは悲劇譚じゃない、設計・愛・合理がすべて彼女を裏切っていく過程の記録。
だから彼女は強いのではなく、強くならざるを得なかった。
そしてこの人生を経た彼女が山永に出会うのは、必然であり事故だ。

だそうです。
事故かよ!
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