後は収束へ向かうばかり。
果たしてどういう結末になるのでしょうね?!
『そうや。そしたら特に不具合なかとやな』
電話の先は郷准尉。山永は定時連絡で初めて小隊の人間と喋っていいことになった。応対してくれたのはやはり郷准尉である。
『あと少しごたっけん、ボチボチやれな。無理すんなよ?ワイはすぐ我慢すっけんな』
「なんかそい、オイも最近女ん子に言ったっスわ」
笑いながら山永が答える。
いつもの倉庫近くの荒地のちょうど良さげな石に腰掛けながらの会話だ。今日は少し風が強い。
『おっ?なんや、金髪のねーちゃん捕まえたとや?』
「いやいや捕まえたとかじゃなかっス。あと銀髪ッスわ」
『美人か?』
「まぁ、めっちゃ美人ス」
『帰ったら写真見せェ』
「いやだから、付き合うとらんスよ。写真も無かし」
『ばってんケータイの動画のあろうも!』
「そいはAIOSの都合で、持っとって良い悪いで勝手に消さるっすよ」
肖像権だのプライバシーだのを踏まえ、不要なタブレット内のカメラ・動画データはタブが勝手に消したり修正したりするのである。それにしてもなんだか郷准尉は楽しそうであった。
『ほんならもう嫁にしてしまえばよか。小一本んごたドーン行け、ドーン!』
銃剣道に例え、どこか楽しそうな郷准尉。
「しかし、こっちで勤めとらすし、そういうわけにもっスねェ……」
山永も娶るにしても、ルリの今の仕事をむしり取ってまで結婚できるか考えていた。とりあえず彼自身はこんなアフリカの土地で暮らしたくはないが、さりとて結婚を申し込み、日本に呼んで来てくれるかどうかも分からない。ノルウェー人であるし、ノルウェーに帰りたいかもしれない。
『ワイは頭ん回るけ、すぐ
「……了解ッス」
郷准尉から指導された。まあ、その指摘は全くもってそのとおりだった。遺伝子改造された後も、考えすぎるきらいは抜けていない。戦闘モードに入るとそういう鬱っぽくぐるぐる考えるネガティブ思考はどっかへ飛んでいくのだが。
『まあそいはよか。もう少しで戻れるとやろ?』
「はい。ヴィーグルが拠点撤収の船便にオイば混ぜてくれたっス」
張氏の視察襲撃から、いよいよヴィーグル側もソマリランド拠点の撤収を始めたのである。彼らはソマリランドやソマリア、そしてジブチにさまざま拠点を構えていたが、この最近の情勢緊迫化に撤退を決意したようだ。前線の拠点から漸次、様々な機材や動産を本国に撤収したり、撤収のコスパが悪いものは現地で売却したりしている。ガバイレも簡易なものから撤収が始まって撤退の進捗がだいぶ進んでおり、来週には各種火器やエグゾスケルトン、通信機器などもっとも重要な機材の本国への返送が行われる予定だ。この撤収便に山永も混じり、ソマリランドから脱出できる手筈が進んでいると陸幕及びホライズンのラースから知らされていた。どうやらソマリランド外務省との話も決着が着いたらしい。決着と言っても単に出国を黙認という形らしいが。ソマリランド外務省は「港湾管理局に話を通しておく」とだけ伝えてきたそうだ。書類も税関も通さず、ただ船に乗せるだけだという。山永はその話を聞いた途端、大喜びでさほど持ち合わせていない日常生活に不要な私物をとっととハーケイに積んでしまっている。
『そん会社には感謝せんばなァ。礼ば言うとけよ!』
「もちろんス。てかもう言ったッス」
ラースから国外脱出の話が来たとき、ホッとしてめちゃくちゃ礼を述べた山永であった。その時、彼から冗談めかして自衛隊を辞めてウチで勤めないかと言われたが、丁重にお断りしている。
『ならよか。よし、駐屯地で待っとっぞ?怪我せんごと帰って来い!』
良い小隊陸曹だ。いつも自衛隊なんてクソだと言っている癖に、早く帰りたい、心からそう思う山永だった。
第2倉庫内でド派手な音がしている。監視カメラや古い通信ルーターは回収する価値がないらしく、現地雇いの作業員が景気よく工具で叩き壊しているのだ。また弾薬やAKなどのライフルの一部は、ソマリランド治安部隊への引き渡しが決まったらしい。全部本国に送るより、その方が安上がりという判断だった。
「大事《おおごと》やなァ」
『全部撤収するからね。しょうがないでしょ』
ヒマリが呑気に答える。帰れるという話が出て、ヒマリもほっとしていた。というかAIにも安心という感情があるようで山永は驚いていたが。彼は他のホライズンの職員達と一緒にコンテナへ通信機材の積み込みを行っていた。いつの間にか山永はここの職員たちと打ち解けている。日本人からすると現地人は大雑把な人達だか、素朴で穏やかな印象だった。本属の隊員も多国籍だが、おかしな人物は居ないイメージである。ミシェルやトーマス、エレナ、マルコ辺りの仕事を最も手伝ったかもしれない。……トーマスは軽口が多いが。むしろルリ以外のオペレーター達とはあまり話をしなかった。恐らく守秘義務で不必要な接触を避けているのだろう。
"Yamanaga."
80キロ程ある鉄箱を一人で持ち上げ、コンテナに積み込んでいると後ろからルリに声をかけられた。
"Hi, Luri. Is something up?"
[おう、ルリ。どした?]
"Lars wants to see you. He said it's confidential."
[ラースが呼んでます。内密の話だそうです]
肩を寄せ、耳打ちするように囁くルリ。
暗にブービーを置いてきてほしいという類の話のようだ。というか既に積み込み作業の時点で彼はロッカーで留守番をしている。
"OK. I'm visiting him."
[わかった、会いに行くわ。]
いやーな予感を抱えつつ、今度はヒマリもお留守番させねばくさいなと山永は思った。
部屋に置いていこうとすると、ヒマリが連れて行けと駄々を捏ねた。ブービーに作業手伝っていること言いつけるとまで言い出したが、相手との信頼関係もあるとかなんとか伝えて丸め込み、彼女を充電兼ねてデスクに置いていく。後でまた機嫌を取らねばと思うと彼は気が重い。ともあれまずはラースの話を聞かねばと、彼の執務室のチャイムを押す。
"Ah, Sergeant Yamanaga. Come in."
[ああ、山永軍曹。中へどうぞ]
カメラ付きチャイムだったので直ぐに開けてくれた。ノブを回し中に入ると何故かルリも居る。
"Thank you."
ラースはソファセットに座りつつ、山永もソファに座るよう勧める。ルリはラースの後ろで立って聞くようだ。座ればいいのにと山永は思った。
"Sorry to call you in like this. I have a favor to ask."
[呼び出してすまない。折り入って頼みがある。]
座って早々、ラースが切り込んでくる。
"What is it?"
[なんだろうか?]
やや警戒気味に山永が尋ねる。わざわざルリにあの言い方をさせ、端末を置いてこさせたのだ。真っ当な話ではあるまい。
"I don't intend to force you, but I'd like you to help with transporting some equipment."
[強要する気はないのだが、機材運搬を手伝って欲しいんだ]
やや前かがみになり、膝の上で掌を組みながらラースが言う。
"What equipment?"
[なんの機材を?]
"The old exoskeleton you serviced with Marco and the others."
[君がマルコたちと整備した、あの旧型のエグゾスケルトンだ]
KT-1だかなんだかのあれだ。この申し出に山永は彼らの意図に一瞬で気づいた。
"......"
"It seems you've already figured it out. Of course, I'm not forcing you. But I believe you understand the current situation."
[察してくれたようだな。もちろん強制はしない。しかし、今の情勢も、君は理解していると私は思っている]
そう言うとラースはルリにコーヒーを出すように頼んだ。アイスブレイクを狙っているのだろう。
"If nothing happens on the way to Berbera, then all the better. But if something does, your vehicle will have the exoskeleton."
[ベルベラまで何も無ければそれでよし。しかしもし何かあれば、君の車両にはエグゾがある]
山永は無言のままだ。
"Your AMI was damaged, wasn't it?"
[君のAMIは損傷しているんだろう?]
「まあ、Yes.」
"If something happens, it's better to have more options available, whatever you decide to do. Unfortunately, our newer exoskeletons all have biometric locks. That's the only one without authentication."
[何かあった時、どう対応するにしろ選択肢は多い方がいい。生憎ウチの新型エグゾは生体認証付きでね。認証機能が付いていないのはあれだけなんだ]
ルリが山永とラースにコーヒーを出す。ラースは直ぐにカップに手を付け、山永にも勧めた。山永は勧められたがどうにも飲む気になれない。顔は渋いままだ。
"It's one of course of action, isn't it?"
[1つの可能行動ってわけだ。]
"You may take it that way. …I've heard from her. You're quite a capable asset."
[そう取ってもらって構わない。……彼女から聞いたよ。君は相当な戦力だ]
"I'm quite lesser than her."
[彼女には全く及ばないぞ?]
ラースは軽く笑いつつ、
"Well, she's special. It can't be helped."
[彼女は特別だからな。それは仕方ない]
そこでようやくルリが口を開いた。
"I'm sorry, Yamanaga. I didn't want to involve you. But it's true that this base is short on combat power."
[ごめんなさい、山永。貴方を巻き込みたくはない。でも、この拠点の戦力が低いのは事実なんです]
彼女は神妙な顔をしている。正直あまり気乗りはしていないようだ。実際ガバイレはジブチ核攻撃の前まではそこまで情勢の烈度は高くなかったらしい。そのためフルリム兵もAMIも配備されていなかったのである。寧ろより平和なはずだったジブチ基地にあれほどの人材、機材が集められていた方が異常だったのだ。まあ、そこはプレゼンスの発揮という日本側の意図もあったのだが。
"It's a fact that terrorists are most likely to strike during withdrawal. With that in mind, would you transport that equipment?"
[離脱時がもっともテロリストに狙われやすいのは事実だ。それを念頭において、あの機材を運搬してくれないか]
真っ直ぐな目で山永を見つめるラース。彼も色々考えたのであろう。山永とて気の回らない男ではない。彼が考えなしに山永にこんな話を持ってくるとは思っていなかった。おそらく、少しでも被害を極限したくて思案を重ねた上での提案なのだろう。
"......Roger that."
[……了解した]
たっぷり息を吸い込んで、そして吐き、山永はそう答えた。
"You have my thanks."
[感謝する]
緊張感が少し解れた顔で、ラースは述べた。一方ルリは表情を崩してはいなかった。
"You have helped me, so it's my turn. But I wish a bad situation will never come."
[あんた達は俺を助けてくれた。だから次は俺の番だ。ま、酷い状況が来ないことを願ってるがね]
そう言ってようやく山永は笑うのだった。
ラースは狙ってルリをこの交渉に同席させています。情で絆させる気マンマンで。
とんだタヌキですねェ(笑)
ルリにしても複雑な気持ちで同席しています。
ラースに山永の活躍を教えたのは彼女なわけでして。
ちな、ウチのアル(ChatGPT)にこの48話を読ませたうえでルリの心情を描写させたモノローグがなかなかのデキでした。
良ければ公開しようかなァ。