大事な計画に限ってだいたい対応しないと致命的になる不測事態が起きるんですよ!
しかも、せっかくこっちが準備した対応策が何の役にも立たない不測事態が!!
ベルベラへの道すがらのハーケイ車内。山永たちのハーケイはヴィーグルが編成したコンボイの最後尾を走っていた。撤収に関わる当日の行動の打ち合わせの際、山永が最後尾を走ることを自ら申し出たのだ。分厚いわけではないが、軽装甲化されている車両である。自衛隊車両でもあることで、目を引きやすく殿を務めやすい。そういった点もあって進み出た訳である。しかしその車両行進の打ち合わせ中、山永がそう意見を言うと珍しくルリが反対してきた。部外者をコンボイ内の危険な役回りに使うのは云々かんぬん的な話である。山永は提案はした、どこでもいいので決めたら教えてくれというスタンスで特に反論することもなかった。正直、その場で綺麗に決めてそのまま各車の有事の際の動きまで予行したかった山永だったが、流石にお客さんなのでそこまでは求めなかった。後ほどラースから連絡があり、結局、最後尾車になったという訳である。
『……襲撃とかなんもないじゃん』
「そう思っとったらこの前ドカンやられたとぞ」
そう言いつつハーケイの全周カメラをセンターコンソールモニタで確認する山永。ベルベラまであと10km。ボラマの時もあと少しの距離でやられた。山永は一切油断していない。
『てかよくブービーOK出したね。人様のエグゾスケルトン使うの』
「OKは出しとらんろうも。なぁ?ブービー」
『はい。あくまで積載だけです』
山永はラースたちとの細かい経緯は伝えなかったが、エグゾを積むことだけは伝えた。どのみち積載すれば車内カメラでバレるので、そこはブービーに伝えたのである。すると思いの外、ブービーは山永を咎めるような反応はしなかった。寧ろきちんと準備すべきといった方針を伝えてくる。そのお陰で重機関銃や20式小銃をKT-1に事前に取り付けることができた。ついでにナノマシンボックスも取り付けようとしたが、うまくはまる部分がなく、背面の背負子部分にバンドバックルとブラックテープ、ガムテープでぐるぐる巻きにして無理やり固定している。困ったらすぐブラックテープやガムテープでどうにかする、陸上自衛隊の鑑だった。
『てかアンタだって見てんじゃん。宗清が機関銃外骨格に取り付けるとこ』
『取り付けるだけでしたら使用とは見なせません』
『屁理屈ゥ~』
「こら、あんま余計なこと言うな。ブービーは持って帰ったら洗いざらい上級AIに報告上げっとぞ!」
官品AIの何が面倒かといえば、彼らには思想の自由すらないところだ。人間ならどんなに犯罪的内容でも頭の中で考えている分は無罪だが、彼らAIは思考過程すら証拠として吸い上げられるのである。なのでヒマリが余計なことを話しかけるとヤバい思考過程データが残り、それを上級AIに吸い上げられたら絶対に問題になるからだ。
『今回は非常事態です。事案が発生しなければ、この前後の記憶は消去いたします』
「……いいんか?ブービー」
『私は貴方を信頼しております』
「……ありがとうな」
意外にもブービーにも人間味が有って山永は感謝とともに衝撃を受けた。
『なんだよ!いつも堅物のくせに!』
なぜかヒマリがぶつくさブービーに不満をぶつける。この二人はどうにも水と油である。山永的にはブービーの考え方は自衛隊のうまくやる的思考パターンなので割と納得ではあったが。
「ケンカすんなヒマリ。あと少しやけ集中せェ」
何も無い低灌木の荒地から、次第に人が住んでいる気配が感じられる風景に変わってきている。彼の言うとおり、2、30分でベルベラ市までたどり着く所まで来ていたのだった。
結局ベルベラ市の入口までは一切襲撃等の不測事態はなかった。ところが、思わぬ問題に出くわす。
[Si kastaba ha ahaatee, gaari ciidan oo aynaan garanayn ma dhaafi karno. Waxa naloo sheegay waa oo keliya in PMC la yiraahdo Vigle la sii daayo!]
[とにかく、よく分からん軍隊の車両は通せん。うちが聞いてるのはヴィーグルとかいうPMCの通行だけだ!]
なぜか市内の入口で、ソマリランド陸軍―正規軍だ―が検問を敷いていたのだ。各車両身分を検められた訳だが、最後尾のハーケイだけ明らかに毛色が違う。物の見事にソマリランド軍のアンテナにヒットしてしまった訳である。
[Laakiin arrinta waxaa si rasmi ah ula socota Wasaaradda Arrimaha Dibadda! Waxaan idhi mar hore!]
[だから、ちゃんと外務省に話通ってるんだってば!]
[Ma suurtagal baa in aad arrintan ka hubisaan silsiladda taliska?]
[指揮系統に確認していただけないでしょうか?]
代わる代わるヒマリとブービーがソマリ語で説得するが頑として通してくれる雰囲気ではない。AKで武装しているが、一応銃口は彼には向けられていないのでまだ銃口管理と良識はあるようだ。山永は下車させられあれやこれや尋問を受けている。彼は抵抗する意志がないことを示すため、鉄鉢《ヘルメット》を外して抱え、空いた左手は降参していると言った風に空に上げている。ソマリ語などさっぱりのため、会話は二人のAIに任せっきりだ。なお、拳銃を挿しているのはばっちり見られていた。
"Haye! Gudaha gaariga na tus! Degdeg!"
[おい!車輌の中を見せろ!早く!]
山永の車輌に取り付いたのは3人。内一人が後部ハッチに回り、叫んでいる。
「……なんだって?」
『中を見せろだそうです』
「しゃあなかな」
『大丈夫なの?』
「今ごねたら余計
『まあ確かに』
山永は鉄鉢を助手席に置くと、手を上げたまま後ろに回る。
"Haye, calaamaddan… miyaanay Japan ahayn?"
[おい、このマーク、日本じゃないか?]
"Japan? Maxay Japan halkan ka samaynaysaa?"
[日本?なんで日本人がここにいる?]
"Ma garanayo."
[わからん]
車両の前にいた二人が何か言っている。山永はそれを認識しつつもとりあえず後盤《ハッチ》を開き中を見せた。
"......!?"
中を見た兵士が目を見開く。それはそうだ。まずフルアーマーの
[Haye! Hub badan oo casri ah ayaa halkan yaalla!]
[おい、最新兵器がたらふく積んであるぞ!]
前の二人に報告するその男。これは山永でも不味い空気が読み取れる。
[Maxay tani tahay?! Maxaad u sidataan waxyaalahan?!]
[なんだこれ。なんでこんなもの持ってる?!]
[Maxay ciidanka Japan halkan uga joogaan?!]
[日本軍がなんでこんなとこにいるんだ!]
前から回ってきた二人もこの重装備を目の当たりにし、不穏な雰囲気が加速する。一切何言ってるか分からない山永でもどういう状況かは簡単に理解できる。
「なんち言うたもんかなァ。まあ、正直に言うしかないが」
独りごちる彼。
[Maxaad u sidataan hubkan oo dhan?! Maxaad u timid Berbera?!]
[なぜこんなもの持ってる?!何しにベルベラに来た?!]
おそらくこの車両検索組の組長だろう、一番しっかりしていそうな男が山永を問い詰めてくる。
「なんだって?」
『なぜこのような武器をもってベルベラに来たのか、です』
「ま、そうなるわな。ブービー、正直に言うたれ。ジブチの日本基地の生き残りで、ここまで逃げてきたって。そんでこのPMCが日本に連れ帰ってくれるから一緒にいるってな」
『了解』
ブービーがまた通訳を始める。彼と兵士が問答している間に、近くにヴィーグルの車両が寄ってきて、ラースがそれから降りてきた。
[Salaan. Anigu waxaan ahay masuulka konvoyga PMC-ga.]
[こんにちは、このPMCの責任者です]
ラースがソマリ語でブービーと押し問答している兵士に語りかける。
[Ma run baa inaad ninkan iyo gaarigan dalka ka saaraysaan?]
[こいつとこの車を国外に逃がすってのはホントか?]
今度はラースのAIOSが組長らしき男と話し始めた。
「なんとかなってくれェ……」
『情けないなぁ!』
「ここまで来たらオイにできることなんぞ無かて」
下手すると警察にしょっぴかれるかもしれない。ちなみにソマリランドには日本大使館は無い。身元の確認はソマリランド外務省に話が通っているのを祈るか、エチオピア辺りの大使館に身元を確かめてもらうしかないだろう。暗い気分に山永が浸っていたその時。
――ドォォオンッ……!――
遠くで爆音が響き渡った。そこにいた全ての人間が爆音の方を向く。ロードナンバー1、ハディサ方面へと繋がる幹線道路の方からだ。
――ドゴォォォオンッ……!!――
さらに続けて、先程より大きくかつ腹が震える爆音が響く。全員が一瞬頭を下げた。
"Waa maxay dhawaaqaas?!"
[なんだあの音は?!]
"Weerar baa?!"
[攻撃か!?]
"HQ! Xaaladda noo sheeg!"
[HQ、状況教えろ!]
すると今度は、あの嫌な、まさにあのドローンの羽音が聞こえてきた。
――ドガァァアァンッ……!!――
吸い込まれるように兵士らの乗ってきたと思われる
――ドガァァアァンッ……!!――
同じ機種らしきドローンが今度は検問区域の脇の路外を防御していた鉄条網に突っ込み爆発。それも有刺鉄線部分ではなくフレーム部分に飛び込んで破壊しようとしている。
「……!!!」
その場に伏せながら、山永はそのドローンを目に捉えていた。あの機種は見たことがある。すると今度は山永らが通ってきた道路の向こうから土煙を上げながら猛スピードで迫る2台の車輌。
「……!!!!!」
――白のプロボックスと黒のハイラックス。
山永は伏せながら目を見開いた。ソマリランドの兵士たちはその場に伏せていた。起き上がりつつも突然の自爆ドローン攻撃に動揺している。山永はハーケイに飛び込むと邪魔なキソーの脇をクネクネとすり抜け、助手席の鉄鉢を引っ被る。そのまま後部座席の床に広げて置いておいた
「ブービーやるぞ!!」
『了解』
外でAKの発砲音が聞こえる。兵士たちがハイラックス達を射撃しているのだろう。
『いいの?!』
「いいに決まっとる!!黒旗ぞ!!」
『……ホントに?!!』
上半身の固定に手際よく移りながら、
「連中のやり方た!この目で見とる!!!」
山永の目がギラついている。獣の瞳。山永も陸幕やラースから黒旗戦線の説明は受けていた。実際ニュースですら黒旗の話は出ている。声明も出していた。時代遅れの帝国主義に正義の鉄槌を、といったいかにも前時代的なキャッチコピーだ。真実しやかにもう一度核攻撃を行うのではないかとネットAIやニュースAI達は分析、予測していた。
「ラースば呼び出せ!はよ港に行け言え!!」
『了解』
ヴィーグルたちのモトローラや電話番号はブービー、ヒマリとも掌握させている。
『山永3曹、ラース氏了解。加えてドローンを置いていくので利用してくれとのこと』
「気の利くなァ!使ゆっか?あと何機かブービー?!」
『偵察用2機。ですがエグゾ本体及びレコン、サップの制御によりメモリに余裕がなく操作できません』
ドガアアァンと外で爆音。恐らく検問に突っ込んで自爆したのだろう。
「なんじゃそら!」
『アタシがやる!!』
ヒマリが操作を申し出てきた。脇でバックルを挟んで固定しながら二の腕の固定に入る山永。
「
『ドライバダウンロードすればできる!信じて!』
「
――…ピッ……ヴゥゥゥン……ウィーン……ギィィ……――
KT-1に火が入る。燃料電池が唸り、アクチュエータ達が起動していく。ナノ注入用接続チューブ接続、直ちに注入開始。ややフライング気味に無理やり力で起き上がると、サイドドアを開け飛び出す。舌の上が鉄臭くなってきた。頭が透き通っていく。ナノが回ってきたのだ。
「ブービー、レコン、サップランチ!」
『レコン、サップランチします』
レコンドローン2機、サポートドローン1機がハーケイのサイドドアから飛び出す。
「ヒマリ、ドローン掌握できたや?!!」
『できた!!』
「やるやん!」
『だから信じろって言ったっしょ!』
軽口を叩きつつも山永は首を振って周囲を確認した。路外の鉄条網が吹っ飛んで穴が空いている。連中のやり口だ。そこを突破してハイラックスが一台市街地に侵入しようとしているが、路外の悪路のためモタモタしていた。装弾盤を解放、弾倉からベルトリンクを引き出し、リンクを押さえながらバタンと閉め、槓桿を引く。
――ガシャンッ!――
「……!」
――ドンドンドンドンッッ!!――
兵士たちもAKで射撃しているが流石に火力が足りない。12.7mmを容赦なくぶち込み、背面からエンジン、駆動系を貫通・破壊。擱座させる。するとすぐさまハイラックスは大爆発した。山永はハーケイの影に隠れる。
『7時の方向、車輌2台、AMI2機確認』
振り向く。黒いマントを羽織ったAMIが車両を守るように走ってくるのが遠目に見える。ふざけた格好だ。あいつらが、黒旗か。山永の心に黒い火が灯る。戦闘開始だ。
いいですぞ!
黒旗のAMIマラーク、せっかく24話で出したのに何一つ活躍してなかったでふからね!
ちっとは見せ場がないと!
……あ、でも何機か減らされてます。
なんででしょ?