神頼みするタチでもなし、自分の運命は自分で決めるッッッッ!!って類ですね。
というわけでカミサマみたいなのがどう言おうが、知ったことかとなりがち。
ルリたちが張氏の護衛任務から戻った夜のこと。山永はいつもどおり23時頃にベッドに入り眠りに着く。営内生活のリズムを崩せない自分が余りに自衛隊に染まりすぎて気に食わないのだが、健康にはいいことなので結局身体の言うとおりに従っていた。しかし、その夜は明らかに異変が起こる。
2度目の核爆発。ヴィーグルとホライズン全滅。梯隊警護中に死亡。ヘリのロケットで爆死。ナノマシン過剰投与による過労死。
明らかにこれから起きるであろう未来、あるいはあったかもしれない過去が圧縮された記憶。それが夢ような何かという形で、怒涛のように彼の頭に流れ込んでくる。しかも、どれもこれも、最後は彼の死という形で終わる。明晰夢のようでいて、しかし干渉することは出来なかった。なんとも気分が悪い。酷い悪夢だ。悪夢だが、あまりにリアルな夢の質感。どの夢も、どの結末も、確かに彼がそう状況判断し、そう決心して辿り着きそうな結末ばかり。いや、もはやこの夢のせいで自分の経験の一部になったように感じる。
《生きて。逃げ延びて、生き残って》
その悪夢の連続の最後。締めくくりはそんな女の声だった。切実な声色。どこかで聞いたことがあるような。なんだこれはと山永は思ったところで目が覚めた。
12:23。夜中じゃないか。夢って明け方の眠り浅くなってから見るもんじゃねぇのかと山永。
「っああも。なんかこいは。ストレスやか?」
あまりにリアルな夢の記憶。あの黒旗戦線がそういう行動を取れば、あるいは他の状況でも、確かに自分はこれらの夢のとおりの行動を取るだろう。あの感情、あの怒り、あの状況判断。そのまま山永の考え方に馴染み理解できる決心ばかり。正夢?または何かの警告?様々考えるが、山永はオカルトを信じる性格ではない。
『……どしたん?うなされてたけど。』
ヒマリが反応する。なんだろう、あの夢の声のような。
「お前俺が寝とる間になんかした?」
『何って何を?』
「……まあ、そうよな。……嫌な夢見ただけ。寝直すわ。おやすみ」
『……おやすみなさい』
ヒマリも怪訝な雰囲気だが仕方ない。まさかヒマリが毒電波を放つわけもあるまい。そう結論づけると彼は寝直すことにした。
するとおよそ30分後。
――コンコン――
「……んが……」
――コンコン――
"...Yamanaga. Sorry for coming by so late. It's Lurienna."
[……山永。夜分にごめんなさい。ルリエンナです]
さっき悪夢で起こされて眠りが浅かったせいか、山永はあっさり目が覚めた。寝ぼけつつもルリに英語で返す。
"Sorry, wait a moment."
[すまん、ちょい待ち]
"Yes."
[はい]
むっくり起き上がると、スリッパを引っ掛け、ブースの扉を開ける。
"What's up?"
[どした?]
ボサボサの頭頂で、ドア越しに尋ねる山永。ルリはといえばタンクトップにショートパンツ、それにカーディガンのようなものを肩に掛け、随分ラフな格好だ。寝巻きであろう。髪も降ろして解いている。
"......"
なぜか目線をあちこちに飛ばし、言葉を選んでいる様子のルリ。あの簡明直裁な彼女が言い淀んでいるとはなんとも珍しい。そもそもやたら神妙な表情だ。あまり見た事ないなと山永は思った。
"...Um, there's something I'd like to talk to you about."
[……あの、相談したいことがあって]
"Yes."
[うん]
"Could we talk somewhere else?"
[場所を変えませんか?]
尚更よく分からんと山永は思った。今日はほんとになにやら色々あるな。まあ確かにこの深夜帯でブースで話すと隣に迷惑だ。山永はどこか二人だけで話せる場所がないか思案する。
(ここのラウンジ?いや、結局寝てる連中の迷惑だな。事務所は当直がいるから見られると勘ぐられるし、他の倉庫?)
そこでふと、いいとこあるじゃないと山永は思いついた。ロッカーのコンバットシャツのポケットからハーケイの起動キーを取り出す。
"Let's go to the third warehouse."
[3番倉庫行こうぜ]
"Roger that."
[了解です]
ルリが了承すると、山永は半長靴に履き替え、部屋を後にした。
3番倉庫の駐車場《モータープール》。山永が思いついたのはハーケイの後部座席だった。ここなら多少の話し声も外に漏れることもないし、誰か見られることもないだろう。前方の運転席ドアにタッチして認証し、後部座席のロックを運転席を軽く倒して外す。
"Come in."
[どうぞ]
"Thank you."
[ありがとう]
そういうとルリは奥の座席にお尻をずらしながら入っていった。相談というくらいなので横に座るのが良かろうと後部に乗り込みドアを閉める。それにしても深夜にこんな密室に二人きりでいて良いもんかと山永は思った。ふとルリの方を見ると、ハーケイの窓から常夜灯の光で薄く照らされ、幻想的だ。肌ツヤの良さからか、妖精のよう。
「……やっぱ美人やんな」
小声で呟く。
"What was that?"
[なんです?]
すかさずその呟きを拾うルリ。前から思っていたが、どうにも全ての会話を拾おうとする癖があるらしいと山永は認識した。
"You are beautiful, I said."
[美人だって言った]
"......Idiot"
[……ばか]
ばか呼ばわりもキレが悪い。結局一体なんで呼び出されたのやらと山永。いい加減こっちから聞くかとなった。
"And? What do you want to say to me?"
[で?何が言いたいんだ?俺に]
相変わらずモゾつくルリ。
"......Um,will you hear me out without laughing?"
[……その、笑わないで聞いてくれますか?]
"Yeah, I promise you."
[ああ、約束する]
そう言うとようやく決心したのか、ルリが口を開き始めた。
"......I had, a dream."
[……夢を、見たんです]
「?」
夢。そう言われ、ん?と山永。
"What kind of dream?"
[どんな夢?]
ルリは自分の膝に目線を落とし、続ける。
"...A dream... where you die."
[……貴方が死ぬ、そういう夢。]
俯き、青ざめた横顔でルリは答える。山永は彼女の横顔を見つめる。
「……」
" ...You die over and over again. Again and again."
[何度も、何度も貴方が死ぬんです。何回も。]
切羽詰まった彼女の雰囲気。今にも泣きそうだと山永も認識する。
" ......It was so detailed. So real. And yet... I couldn't stop any of it."
[……すごく詳細で。すごくリアリティがあって。なのに、止められなくて。]
とめどなくなる彼女。これほど感情的なルリも珍しい。
「……」
"...I didn't know what to do. But it was unbearable. It truly felt as if you had died. So......"
[……どうしていいか分からなくて。でも、辛くて。ほんとに貴方が死んだみたいに感じられて。だから……]
いつの間にか、あのルリエンナが涙ぐんでいる。ぐずぐずと、鼻声の音。
"......I see."
[……そうか]
呟く山永。ただ、彼は悲しげな彼女をどうにかしたいとしか思えなかった。そのままつらつらと、彼が夢で見た同じような状況、同じような光景を伝えてくる。彼女は泣き止む雰囲気を見せない。
"......I heard a voice. It told me to save you. That you would keep trying to die. That you would never stop moving to the front. So I had to stop you."
[……声がしたんです。彼を救ってって。彼は死のうとするから。前に出ることを止めないから。だから、貴女が止めてって]
右手で目元を覆い、涙を隠すルリ。それを見つめる山永。
"I don't understand it. Even my feelings when you died came pouring into me. And because of that... it truly felt as if you were dead. I couldn't forgive myself."
[分からないんです。貴方が死んだ時の私の気持ちまで流れ込んできて。そのせいでほんとに貴方が死んだように思えて。自分が許せなくて。]
もはや支離滅裂だ。あの合理性の権化のような彼女はどこへやら。
「……ふぅ……んぅ。」
深く重たいため息を吐く山永。これほど動揺した彼女は初めて見た。少なからず、それが彼の心境にも影響を与えている。しかしそれでも止まらない彼女。
"...And just......when I finally met someone I thought......I might be able to fall for..."
[……初めて、好きになれるかもしれない人に……逢えたのに……。]
まさかの告白だった。この言葉に彼女見つめていた山永もぎょっとする。そこまで言って、ルリは言葉を紡ぐのを止めた。ぐす、と鼻を鳴らし、顔を隠したまま更に俯き下を向く。
"......Luri."
"......Yes."
[……はい]
衝撃的だったが、それ以上にルリから本心を言わせてしまったということに山永は酷く恥を感じる。こういうのは男から言うべきだという前時代的感性だ。いかにも九州男児である。
(……言わせてしもうたけんな。もう、今更ビビるこつもなか。)
そう思うと、1人分開けていたシートの距離を詰める為に、腰を滑らせ彼女の横にぴったりくっつく。そしてそのまま右手で頭を優しく撫でてやる。拒絶されることは、なかった。
"...What is it...?"
[……なんですか]
彼女も少し落ち着いたのか顔を覆っていた右手を降ろしていた。だが、撫でられるばかりで先に進まない。ルリが彼を腫れぼったい目で、上目遣いで覗き込む。山永はその歳で2度ほど付き合ったことはあったが、告白のセリフが英語なのは初めてだ。I love youでもいいのだろうがふととある歌詞が頭に浮かんだ。MR.BIGのto be with you。もう70年ほど前の、たいそう昔の曲だ。だが英語の勉強のとき、ヒマリが流してきていい歌だなと思い印象に残っていた。息を吸い、吐く。意を決して彼女の瞳を覗き込み、
"......I want to be with you."
[……一緒にいたい]
"......!?"
目を見開く彼女。山永はこんな状況なのに、ルリの目の色がキレイな青でいいなァと全く関係ないことをふと思った。
"Will you marry me?"
[結婚してくれるか?]
"......!!!?"
開いた瞳が今度は更に揺れている。しかし、目線は山永から離れない。
"Wh... what?"
[……え……?]
山永も目を離さない。絡み合う2人の視線。
"......W-what did you just......"
[……い、今……何て……]
"Marry me."
[結婚してくれ]
動揺もなく、山永が畳み掛ける。
"......I......"
[……わた、し……]
ビクッと跳ねる彼女。流石のルリも、即座には理解が追いつかなかった。唇がわななく。耳まで赤くなっていく。
"......I can't think properly right now......"
[……頭が、うまく回りません……]
ようやく、目線が泳ぎ出す。見つめあっていた視線を助手席の背面に戻し、
"......You say you want to be with me, and then... marriage?"
[……一緒にいたい、の次が……結婚、ですか?]
"It's wrong?"
[ダメか?]
"It's not that..."
[ダメじゃ……]
また膝に視線を落とす彼女。
"......If you say that to me... you have to take responsibility."
[……そんなこと私に言うなら……責任、取ってください]
そう言われ、山永は右手を伸ばし、彼女の左肩に手を回した。そのまま彼に向き合わせるように引き寄せる。ルリはまたしても抵抗しない。また絡まる視線。
「……」
左手で彼女の前髪を梳きながら、頬を撫でる。指先が触れただけで、彼女の睫毛が小さく震えた。そのまま唇を寄せ、
"......"
潤んで蕩けた、瞳。重なる、唇。山永は目を閉じ、ルリもそれに倣った。
"......"
どれほど口づけただろう。どちらからともなく離れる。
"......That's not fair."
[……ずるいです]
そう言いながら、ルリは穏やかで、幸せそうな顔をしている。山永はそれを黙らせるべく、彼女を抱きしめる。
"What is not fair?"
[なにが?]
"...The way you do things. You're always, always like this..."
[……貴方のやり方。いつも、いつもそう……]
"I don't know."
[知らんね]
そういうと、山永はルリを優しく押し倒した。
おのれこの男イチャコラしくさって!!
美味いことルリを落としましたが、あまつさえ……
(゚Д゚)ハッ!
取り乱しましたが、今のところ二人がただ結ばれただけ。
果たして未来を変えられるのか?
そしてそして。
欲しいものがあるそこのお方。
貴方も筋トレして自分を変えて、欲しいものを手に入れましょう!
今日から始めて明日も明後日も翌週も続けるものだけが、本当に欲しいものを得られるのです!
変わるって、いいことですよ?