イキイキしてるんだが、結局陰キャムーブが消えない。なんなんでしょうねアレ。私も直したいんだが1回盛り上がると止まんなくなるんです。
キソー整備の話になって、山永はヴィーグルのメンテナンスクルーにものすごく嫌がられると思ったのだが、意外にそうでもなかった。いや、トーマスは折角しまった整備道具をまた引っ張り出すことになりめんどくせーとは宣っていたが、マルコが自衛隊のキソーを整備できると聞きつけ大喜びで飛んできたのだ。ルリと一緒に2番倉庫にキソーを運び込むとすぐさまペタペタと触りながらキソーのあちこちを物珍しそうに確認していく。
“This is the current JGSDF model?”
[これが陸自の現行最新型?]
“Yeah.”
[おうよ]
"Okay. Just give me five minutes. Are you really sure I’m allowed to establish a link with this frame?"
[分かった。五分だけ見せてくれ。本当にこの機体とリンクを取っていいのか?]
"Of course, yes. Because I ask you to maintain him.あ、But you can only see his spec limited. You don't have a clearance."
[もちろんだ。コイツのこと頼むんだからな。あ、でも全部は見らんねェわ。クリアランスあんた無いから。]
外観を穴が開くほど見ながら、マルコが答える。
"Of course. I mean, being allowed to link into an active military frame at all is already unbelievable. ...Oli, initiate link with the Kiso AMI."
[もちろんだ。現用の軍用機に繋げさせて貰えるだけでも信じられない話だからな。……オリ、キソーAMIにリンク開始]
許可を貰った瞬間、キソーに自分のAIOSを繋ぎ始めるマルコ。一方付き合わされ感のあるトーマスはマルコを眺めながら、
"There he goes."
[やれやれ、始まったわ]
いかにもアメリカンに肩を竦めぼやく彼。とか言いながらきちんと工具と自分のタブを持ってきて広げ整備の準備を進めてくれるところ、結局いい奴やなと山永は思った。大変失礼な話であるが、山永はアメリカ人は基本的におバカだが根はいい奴だと勝手に認識している。
"...External inspection complete. What did you do with this frame?"
[……外観は確認した。これで何をした?]
山永は頭を掻きながら、
"I fell."
[転んだ]
"No."
[違う]
秒で否定するマルコ。山永は今度は首をさすりながら、
"I fell hard."
[キツめに転んだ]
"No."
[違う]
またしても瞬殺でシャットアウトするマルコ。いよいよ山永も言い訳を思いつかなくなり、
"......I fought against a Hind."
[……ハインドとやり合った。]
するとタブから顔を上げ、マルコは山永を見つめる。
"A Hind?"
[ハインド?]
"Yeah."
"An attack helicopter?"
[戦闘ヘリの?]
"Exactly"
[そのとーり]
"......As part of a platoon?"
[……小隊で?]
"No. Me and Lurienna."
[いんや。俺とルリエンナで]
"......You’re insane."
[……君はクレイジーだ]
そら見ろとなぜかルリが大きく頷いている。
"Sounds good enough to me. He came back alive. If he hadn’t, this thing and Lurienna would’ve been scrap right there, right?"
[いいんじゃねェの?生きて帰れたんだし。じゃなきゃこいつもルリエンナも、そこでオシャカだったんだろ?]
なぜかトーマスが庇ってくれた。ほれほれとルリに顔を向け山永。それを見てムッとした顔のルリ。
"Okay, I’ve got the basic picture. The major damage is the caved-in back armor and the damaged left-knee shock absorber. Minor faults are intermittent contact at the rear antenna base and compression deformation in the internal micro-cooling tubes."
[とりあえず分かった。大きくは背面装甲の陥没と左膝ショックアブソーバーの破損。小さなところでは背面アンテナ基部の接触不良と内部マイクロ冷却チューブの圧迫歪みかな]
キソー内部をヘッドライトで照らしつつ覗き込んでいたマルコが出てきながら、診断結果を独り言のように伝えてくる。
"…There’s nothing we can do about the armor short of replacing it. The absorber seems to be a Japanese proprietary unit. Without the genuine part, it’s tricky, but I may be able to modify and adapt components from our exos. The antenna is simple enough: disconnect the compressed internal wiring, reroute it to relieve the pressure, then reconnect it. The cooling tubes, too—if we swap in longer tubes and route them around the crushed section. But if it's too long, the liquid pressure will decrease......?"
[……装甲は交換以外どうしようもない。アブソーバーは、日本の独自規格品みたいだな。純正品がないから難しいがウチのエグゾの部品を改造して流用できるかもしれない。アンテナは圧迫されてる内部配線を一度外して、圧迫を逃がせるように再結線すればいい。チューブも長めのものに代えて圧迫されてる部分を迂回させれば、でも長すぎると液圧が低下するか……?]
長い、念仏みたいだなと山永は思った。一方ルリとトーマスはいつもの事のようでまた始まったなといった程度のよう。ルリが尋ねる。
"So? Can you fix it?"
[それで?直せそう?]
"It won’t be perfect. Especially around the absorber, it won’t be more than an emergency fix. Even after repairs, you can’t overload it."
[完璧には無理だ。特にアブソーバ回りは応急処置の域は超えないな。補修したとしても過負荷は掛けられない]
オリと何か相談を行いながら、ボソボソ答えるマルコ。大変陰キャムーブなのに、山永は彼が見た中でマルコが最もイキイキしているように見えた。
"If you fix him, I allow anything."
[もし直してくれるんなら、なんだって許すわ]
山永も機械は好きだが、マルコのような圧倒的興味はない。構造がわかるとへぇ、おもろいなーくらいのもんである。
"I’ll do my best. Once the repair plan is set, Thomas, I’ll need you. First step is gathering parts."
[善処する。方針が決まったらトーマス、手伝ってくれ。まずは部品集めからだ]
へぇへぇといった感じで、トーマスは早く決めてくれやと答えた。
金属を叩く音。ラチェットを戻す音。マルコの早口の英語。トーマスの軽口。それらを背に山永とルリは2番倉庫を去って、宿舎棟の3番倉庫に戻ろうとしていた。先導はルリ。山永はそれに続く。
"......"
倉庫の裏手を扉から出て、職員たちの声が遠くなった辺りで、ルリが立ち止まる。
「……?」
なんだ?と山永も立ち止まる。外は夕暮れ時で、昼間に比べると多少涼しくはなっていた。
"......You are really good at that."
[……そういうの得意なんだ、貴方]
こちらに向くこともなく、ルリが静かにそう言う。翻って山永はなんのこっちゃ訳わからんと言った感じである。
"What do you mean?"
[何の話?]
"......Nothing."
[……なんでも。]
"It's not nothing."
[絶対なんでもなくないだろ]
そう言われると、ルリはくるりと左を向くと倉庫の壁に背中を預け、腕を組んで俯きながら答えた。
"......You are very good at acting normal."
[……普通に振る舞うの、上手い]
それを聞き、ようやく山永は合点がいった。要するにもっと恋人らしく振る舞ってほしいという話だ。
" We were on business. It was normal."
[仕事中だったろ?それが普通だろ]
どこか穏やかな顔でかつ優しげに答える彼。その表情を見たルリはムッとした顔になる。
"You did nothing wrong. But......"
[貴方は間違ってない。でも……]
また地面を見つめると、
"......But, you were too normal."
[……でも、とても普通だった。]
山永はとうとうニヤっとすると、
"You mean, I should spoil you more that time?"
[あんときもっと可愛がってほしかったのか?]
そのセリフを聞いた途端、ルリは若干頬を赤らめながらキッと山永を睨むと、
"That is not what I meant! ...I just..."
[そういう事言いたいんじゃなくて!……その……]
"And? You just?"
[そんで?なに?]
"...Oh, come on!"
[……もうっ!]
ぷいっとそっぽを向くルリ。拗ねているさまがなんとも可愛らしいと山永は思った。あとからかっていて楽しいとも。しかし、ルリはすぐ冷静になると俯き、
"...I’m sorry. I know. I know I’m being ridiculous."
[……ごめんなさい。分かってる。バカみたいなこと言ってるのは。]
自分で自分が女々しいこと言っていると言いたげにルリは続けた。
"......It felt like I was the only one who remembered......Only me."
[……私だけがあのこと、覚えてるみたいで……私だけ……]
山永はなるほど乙女だねェと思いつつニヤニヤする。しかたねェなと周囲を見渡し、人気がないことを確認すると彼女に近づき、
"......!!?"
俯いたルリのその唇を、掬い上げるように口づける。
"Wha......!?"
[なっ……!?]
唇が離れたあと、ルリは言葉を失っていた。山永もまた、思った以上に自分の顔が熱いことに気づく。くるりと回れ右をして宿舎倉庫へ。
"You idiot. I never forget that though."
[バカだな。俺が忘れるわけねェだろ?]
そう言われムッとするルリ。
"Follow me. And, ......I love you."
[行こうぜ。それと、……愛してる]
その一言に一瞬で顔が赤くなるルリ。
"......You idiot!"
[……もうッ!]
怒りと羞恥と喜びとなにやらかにやら。色々ないまぜにした感情を処理しきれぬまま、ルリは夕焼けの影になった山永の背中を追うのだった。
ルリさん乙女もーど。
今まで付き合ったこと無い故に、イチャイチャしたいけど距離感が分からない。人目と理性が邪魔をする。すとれすふる!以上。
そして今度は面倒なことに、山永が女誑しを発動して余計どうしていいかわからなくなる、というわけでした。