だいかに手ェば引いて貰いよったらいつまで経ったっちゃ子どもと変わらんよ?
"Show off."
[示せ]
『きたッ!!』
"Twelve o’clock!"
[12時!]
ヒマリとルリが警告《Alert》。黒いマントをはためかせた黒旗戦線と思しきAMIが重機関銃を轟かせ、RPGを構える。
「RPG!ルリ、ハーケイッ!!」
ルリが扉も閉めずにハーケイに飛び乗り、ハーケイは土煙を上げ急発進。煙を貫くようにRPGがすんでのところで車体後部を掠め、後ろの土嚢を積んだソマリランド軍のバリケードを吹き飛ばす。
"Too rough!"
[荒すぎ!]
"My bad!"
[悪りぃ!]
黒旗のAMIは初手の攻撃を失敗したためか、路外を使いつつUターンして離脱していく。
「……あっさり塩味やな」
『まじそれ。こんなもんなの?』
"......Cut the jokes. They made the call fast. That makes them dangerous."
[ふざけないの。判断が早いから油断ならない]
確かにその通りだった。無駄に戦力を消耗するつもりは一切ないらしい。
「……うし、このどさくさで市内入っぞ。ハーケイ!」
『ずるいよね〜』
「使うっもんは何でん使う。そいが普通科たい。Hey, Luri! We'll entry the city! Tell it to Lars!」
[おいルリ!市内に入るぞ!ラースに伝えろ!]
"Roger that!"
[了解!]
実際検問は大混乱で山永たちの相手をしている余裕は無さそうだった。しょれっと検問を通過し、ラースのランクルと合流する。
"Not bad."
[やるな]
ラースから無線でからかいが入ってくる。
"It's lucky!"
[ツイてんのさ!]
"Let’s push on to the port. We’ll link up with the main force there."
[このまま港まで急ごう。本隊に合流だ]
ラースが続けて指示を出す。山永が了解と答えようとした瞬間、
――ピピッ――
『東の方向より、電子妨害』
「……?!」
おっ、と山永は思った。
「本命やんな!」
『なんで?!』
ヒマリが疑問の声。
「わざわざ電子戦まで仕掛けよっとぞ?激アツたい!!」
全方面でジャミングが起きているなら判断つかないが、1箇所となれば余程そこを守りたいのが透けて見える。ほぼ確信に近い。
"Lars!!"
"What?!"
[なんだ?!]
"I'll handle it! You go to the port! I'll go to east area!"
[俺が対応する!あんたは港にいけ!俺は東に行く!]
"What’s your plan?!"
[どうする気だ?!]
"Attack them!"
"......"
ラースは黙り込む。あまり気乗りしていない空気だ。
"......Lurienna’s on board. I’m not authorizing it."
[……ルリエンナが乗っている。許可できない]
すると運転席のルリは、
"I’m going. Lars, we have to."
[私は行きます、ラース。行かなければならない]
強く、しかしラースを咎める口調ではなく、ルリが反論した。
"......"
"Let us go, Lars."
[行かせてください、ラース]
ラースは聞こえるように溜息をつき、
"...You used to be better at listening."
[……君はもう少し聞き分けがよかったのにな]
"I'm sorry."
[ごめんなさい]
"All right. Be who you choose to be."
[いいさ。なりたいようになるといい]
"Thank you."
言葉と裏腹にどこか嬉しそうで、穏やかなラースの言葉。会話を傍受しながら、山永はルリがいかに自分を殺しながら生きてきたかを察した。そして思う。好きに生きさせてやりたいとも。
"Thank you, Luri."
[ありがとうな、ルリ]
"Don’t thank me. Just come back alive."
[お礼は要らない。必ず生きて帰って]
無線越しでも分かる、ルリの強い意志。
"Of course, yes."
[もちろんだ]
するとヒマリが、
『死ねなくなったねぇ。責任重大!』
「最初《ハナ》からルリとはそういう約束た」
ぎゅ、ぎゅ、ギュッ!重機関銃の握把を握りしめ、山永は改めて決意を固くする。もともと負ける気などなかった。チートまで貰って、ルリとの約束を反故にするつもりなど欠片もない。その目は、男の目だった。
「うし、ブービー、東側《とうそく》の状況知らせ!」
『6台以上の車両梯隊及び10機以上のドローン並びに2機以上のAMIを確認。電子攻撃中。また、さらなる別働隊の報告あり』
ブービーが流れるように報告する。ホライズンの上げている中型偵察ドローン達がリンクしてくれているお陰で、情報が早い。因みに山永達のドローンはドックに戻して充電中である。
「ハーケイ、シガールロード方面へ前進!」
車両は速度を増し、東へ急ぐ。
ハーケイのカメラ越し、12時の方向に黒煙が見える。山永たちが引っかかったのと同じような検問が攻撃されたのだろう。
――ザザザザッ……!――
耳の奥を掻き回すようなノイズが車内スピーカーから溢れた。
同時にキソーのHUDのマップが一瞬だけ乱れる。
「……!」
『電子妨害圏内に入ります。各ドローンを周波数跳躍・拡散通信へ移行。メッシュ出口をハーケイ無線に接続、低レート指揮回線を優先します』
ブービーが先行して飛ばしていたドローンの電子防護を開始する。
『警告。ホライズンからの提供情報の処理負荷が想定外。リンクダウンの恐れあり』
ブービーには3機のドローン操作を行いつつ戦場情報の処理までは手が回らないようだった。
『宗清、私が広域の戦場情報、整理集約する!』
「やれるんか?!」
『できる!』
「よし信じた!やってみろ!どうやブービー?!」
『問題なし。ただし、ヒマリ端末に高負荷が予想されます』
『うっさいぞブービー!!』
なんやかや仲良くやってる二人のAIの掛け合いを横で聞き、この非常時に山永はほっこりした。二日間、寝ずに二人は会話していたので打ち解けたのかもしれない。まあそれは山永のせいなのであるが。
「よっしゃ、ガナーハッチ開けるぞ!」
下から押し上げるようにハッチを解放する。一度解放してから、Mー2の銃身を先にハッチから突き出し車外に上半身を乗り出す。発砲音はしない。ソマリランド軍が撃退したか、はたまた突破されたか。
"Unknown!!"
[不明機!!]
運転席のルリが叫んだ。それとほぼ同時にピピッと警告音。シガールロード上に車列を組んだ車両群。
「お出ましやんな」
"......!?"
ルリが素早くハンドルを切る。
――パラララララッッ!!――
直後にほぼ直前の車両の位置に着弾。
「……ッ、せかせかしとんなァ!!」
"......Focus!"
[……集中して!]
"Sorry!!"
[すまん!!]
ルリに小言を言われる山永。そして黒旗戦線は全く容赦なく射撃を加えてきた。山永たちをきちんと敵と認識しているようである。山永も遠慮なく槓桿《ボルト》を引き初弾を装填。
――パラララララッッ!!――
またしても機関銃の発砲。PKMだ。ルリは急ハンドルで右にドリフト、そのまま路地に入る。レコンとサップのリンクが不安定だ。流石に露骨に連中の正面に立つと電子攻撃の影響が大きいようである。
"Get off!"
[降りるぞ!]
"Roger!"
[了解!]
ルリは敵から見て路地の家陰に車両を停止させ、ドアを開けつつ狙撃銃《AXMC》と機関銃《M240》を手に取る。山永はMー2をスイングアームでハイレディ、軽くしゃがみこみ、ジャンプ。反作用で車体が沈み込む。ハーケイの天井に飛び上がって乗り、そのままたん、たんと車体の左側に飛び降りる。自衛隊内でやると車やキソーをぶつけて壊すかもしれないから絶対にやれない行動だ。だいも見とらんし良かろ、と山永は一周回ってやりたい放題である。
"I'm a front! Cover me!"
[前出る!援護頼む!]
"......Roger!"
[……分かった!]
若干なにか言いたげだったがルリは了承した。実際装甲服が前に出るのは至って普通だ。
「ハーケイ、走り回りつつ無線中継せろ!ワイが電波塔たい!」
『了解』
"Let's go!"
[行くぞ!]
ルリ、ハーケイが方々に散っていく。戦闘開始だ。
―ドンドンドンドンドンドンッッ!!――
路地から半身で銃身を覗かせ、先頭車を射撃、破壊する山永。だが後続は止まる様子はない。炎上した味方を追い越しつつ突進し続ける黒旗戦線。命のない自動運転車両ゆえ当然だ。
――ドンドンドンドンドンドンッッ!!ダララララッ!!――
ルリの火力も発揮。2台目も難なく撃破。すると車列が止まり、黒旗の車両が各路地に分散していく。
「チッ!やりよるのぅ!」
『どうすんの?!』
「しらみ潰ししかなかッ!Luri! I'll attack north side enemy!」
[ルリ!北側の敵を潰す!]
"Roger!"
こう分散されると頭数の少ない山永たちはどうしようもない。とにかく急いで各個撃破だ。より港に近いルートの敵を先に潰すと山永は判断。まるで戦車のように猛然と走り出す。
"Hawkei, pick me up!"
[ハーケイ、乗せて!]―
Uターンし、山永を追うように走るハーケイにルリが叫ぶ。急ブレーキで止まろうとする彼にルリは迷わず天井目掛け飛びつき、たん、たんと車体を揺らすことなくそのままガナーハッチへと収まった。
"Go!"
[出して!]
土煙を上げながらハーケイが再加速。山永はキソーの巡航速度としてはほぼ限界の時速60kmで黒旗に追い縋る。
「ふっふっふっハッハッハッ」
小気味の良い呼吸のリズム。全身に感じる機体の重み。走れ、走れ、間に合わせろ。
(……
2週間ほどだったにも関わらずジブチはそこらじゅうで死の灰が残り、都市機能は麻痺したまま。住民は家に戻れず難民化し、水も食料もまともに届いていない。ほとんどの病院は機能停止に追い込まれ、助かる命が失われるばかり。無論公共機関は名ばかりでまともに機能していない。ただひたすら、無辜の民間人が核の毒と生活苦と、そのための死に苛まれ続けている。機体の中でダラダラと汗を流しながら、山永は思った。
(……世の中にゃ、やっていい事といかん事のある……。ワイタイの
無数の土煙が住宅の向こう側から見えた。車は見えてないがあれだろう。全速力だったところをさらに加速させる。苦しくない。そう、俺ならできる。
「……ッ!!」
今度こそ見えた。走っている道路の1ブロック右。ちらとHUDを確認すると電子攻撃はあの中から放射されている。
(……やっちゃならん事た……!!)
走る、走る、走る。地面を蹴る度、
『山永3曹、筋電位が異常値。各ナノマシン稼働率危険域。危険ですので出力を抑制してください』
やたらとブービーの声が間延びして聞こえる。もっとシャキシャキ喋らんか。
『なにやってんの宗清ッ!やめろ!!』
ルリも間抜けな伸び声で怒っている。彼もようやく気づいた。ゾーン、いやゾーンどころか走馬灯の淵に立っているのだ。死の淵と言い換えてもいいかもしれない。しかし、本人はその事実に気付いてはいない。あと少しで敵を射線に捉えられる。今止まる訳には行かない。山永はそう思った。前方車両が2台正面の交差点通過。プロボックスとハイラックス、無人だ。限りなく黒に近いグレー。
このままだと止まれない。そうだ、スライディングでブレーキをかけつつ射撃姿勢を取ろう。
「……フッ!!」
まるで野球部がベースに滑り込むように交差点にスライディングし減速。素早く左右をモニタで確認。左に先行する2両、右に5台以上の車両。黒旗のAMI付きだ。車両背後に民間人等なし。
(……ビンゴッ!)
―ドンドンドンドンドンドンッッ!!――
先鋒2両を横射で撃ち抜く。3発をプロボックスに、そのまま横振りを加速させランクルに3発。1台はスピン、1台は民家に突っ込み停車。
(……ああ、今ん射撃はルリっぽかったなァ。)
まるで他人事のように山永の脳内で思考が流れる。そうしながらも山永はHUDをレーダーの如く舐めるように目で走査していく。ブービーが表示している強調ポインタが見えた。車両だ。交差点の端にいる彼を轢き殺そうとランクルが猪のように突進。
(……見えとるて)
スライディングの残った運動エネルギーを使いながら起き上がるようにバネを貯め、そのままジャンプ。前宙しながら自分を轢殺しようとした車のエンジン部に短連射3発。危ない。このまま着地したら左足が逝くんやった。着地しつつもそこで両足を踏みしめず、前転しながらエネルギーを逃がす。そのまま一回転しつつ機関銃を左手で保持し、右手で地面を押し上げ前転からの跳ね上がるような立ち上がり。ランクルはスピンして10メートル先で擱座。
(……)
敵の梯隊は止まっていた。どうあっても邪魔をする山永を、なにがなんでも排除する空気。するとワッと、車両群から無数のドローンが飛び出してくる。
(……そうやろな!)
キソーの装甲でも、ドローンのデリバリーする榴弾までは防げない。だとすればドローンで追い回し、追い散らせばどうとでもなるという判断であろう。彼らはいちいち合理的であった。
だが、その程度で引き下がる気は山永にはサラサラない。Mー2をスイングアームで肩の後ろに追いやり、腰に回していたFN MAGを引き出す。
――ダダダッ!ダダッ!ダダッ!――
一息で3機の中型ドローンを叩き落とす。だが、距離が近い。お構い無しに10機近くのドローン達が襲いかかった。
「チッ!」
爆発的なバックステップからのサイドステップ、そして切り返しのサイドステップを繰り返し、的を絞らせぬよう自爆ドローンを辛うじて回避していく。
――バァアァァァン!――
直撃しなかったものの、右脇の至近で爆発。爆風と衝撃波に煽られるが、ワザとそのままその力学を受け止める。逆らわないように右に体を捻って切り返しつつ前転で力を逃がす。もちろんそのまま起き上がりさらに逆方向にサイドステップ。
(……キリんなかッ!)
敵方からも黒旗のAMIの機関銃が火を吹いている。さりとて路地に逃げると黒旗の思うつぼであった。と、
――ギュイイイイィィィ!――
減速することなく交差点にハーケイが突っ込んできた。そのまま通過するように見せて、
――パパパン!ドドドン!!――
スモークディスチャージャーを置いていくように発射。交差点を煙覆していく。その煙の中で黒い影が小さく跳ね、
――がんッ!――
「うおッ?!」
着地した山永の肩を踏み潰すように、ルリが降ってきた。
"...Get a grip!"
[......正気に戻れッ!]
流れるようにトンと地面に降り立つと、さらに背面装甲をはたく。山永も荒い息とともにようやく自らが異常な戦闘機動《マニューバ》を取っていたことに気づく。途端に全身からドバっと汗が吹き出した。
".....Sorry.Thank you, Luri!"
[……すまん、ありがとなルリ!]
"Honestly... Let’s move!"
[ホントに……行くぞ!]
「おうさ!」
ルリは敵方から離れるように、山永は交差点横の民家に隠れるように煙幕から飛び出す。
(やっぱいい女たいな)
その女の隣に帰る為にも、ここでは死ねんなと山永は自らを戒めた。黒旗さんよ、続き、やろうで。
手間のかかる子供をあやす肝っ玉おっかぁ、でなく勝利の女神。
ルリは本当にいい女ですねェ!
バトルシーンが続きますが、あと少しお付き合いを!