アルゴノームⅠ   作:Type-Yasenbunko

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別に鬼滅を激推ししているわけではないですが、呼吸はとても大事だと思う筆者です。
呼吸の乱れは身体の乱れ。
逆に息さえ乱れていなければ精神的にも肉体的にも負けていないのです!


第6話

「すっすっはっはっ……!」

林内の柔らかな土を鋼の巨躯で踏みしめる。重たい機体だ。足裏を広げて接地面を増やしているが、それでもまだ走りにくい。ちなみにディスプレイはさほど上下動していない。さすが最新型だった。旧型は上下動が激しく、キソー酔いを起こすと有名だったからだ。

「すっすっはっはっ……!」

彼が走る時の呼吸のリズムだった。ここは東海州山梨圏富士吉田市北富士演習場。キソーの頭部内、パノラマパネルのヘッドアップディスプレイに道路を中心に左に演習場のボサ、右に富士地区の林が流れていく。

キソーのモニタはこのパノラマパネルの他に、センターディスプレイ上部に上空、下部に地面が見えるパネルが据え付けられており、計3つのディスプレイが配置されている。ちなみに米軍のAMIとなると頭部全体がフルパネル化されている。

「すっすっはっはっ……!」

呼吸を崩すことなく、林内を駆け続ける山永。エグゾスケルトンと言うと人間の負荷を最小限にし、楽に運動できる、超重量物を取り扱えるようになっていると思われがちだが、キソーのようなAMIは違う。人間の筋肉も頭数に入っている前提だ。さながら中の人間は生体アクチュエータである。この方式は中国軍とイスラエル軍がほぼ同時期に採用し始めた。AMI搭乗者がフルリムでゴリラ並みの筋力、スタミナが遺伝子改造で与えられているのも、機械出力に機動を任せずお前も戦えという各国軍の企図であった。結局自力で走らなければならないのである。

―ギュン、ドシュン、ギュン、ドシュン……―

針葉樹林に響く無数の低い機動音。彼は前衛分隊に配置されていた。キソーを中核とする機動前衛分隊。中隊本体の前進を容易にし、前哨や斥候を蹴散らす最精鋭。相手は常勝FTCの対抗部隊。敗北を喫したはたった3度しかないと言われる。

『ムネ』

なんしょ(なんでしょ)

彼は前方警戒員だった。前衛分隊の中でも最も先端に配され、真っ先に敵に対応する二人組の分隊員だ。相方は同じ小隊の浦2曹。キソー乗りには珍しいレンジャー持ちで、有り体に言ってめちゃくそ優秀だ。レンジャーに恥じぬ金剛の意志持ちで誰からも頼りにされている。その先輩が前進方向の左方ボサの中、山永は右方の林縁を進んでいた。

『そろそろ来っぞ。稜線超え』

「確認。前出ます」

『おし』

正面の道路が凸地となっており、そこを乗り越えるときが最も敵に暴露しやすいと浦2曹が注意喚起してくれたのだ。前方警戒員は分隊の目として真っ先に危険な場所に前進し、四周を警戒、安全ならばそのまま進路を維持、危険があれば直ちに火力で対象を排除しなければならない。二人とも更に加速し、稜線に急ぐ。

「浦さん、前方左前方異常なし」

『おう、追いつく。……右前方異常なし。進むぞ』

「了解」

『……来んやったな。怪しかぞ』

「ですね」

歩兵の最大の脅威は実は砲迫だ。榴弾砲や迫撃砲こそ最も歩兵を焼き払うにふさわしい火力なのである。特にFTCは狂ったように砲迫を落としてくることで有名なので二人とも警戒していた。最も、装甲化された彼らには81迫の破片効果まではほぼ無効化できるのだが。

―びーっびーっびーっ!―

けたたましく鳴り響くバトラーの警報。これは、砲迫の至近弾で制圧されているという意味の警報だ。このまま突っ立っていると、ソフトスキンなら受傷判定になる。

10(分隊長)12(浦2曹)。砲迫制圧中。前進継続する』

『10了解。速度増して前進せよ』

『12了解。ムネ』

「直接傍受。速度増します」

今回の中隊の指示はとにかく前進。隠蔽物・掩蔽物を存分に利用し、とにかく火点を無理やり速度で突破するという方針だった。普通ならすぐにその場に伏せ、砲弾をやり過ごすのだが、それでいくつもの部隊が敗北していった。ならばマゴマゴするより前進あるのみという中隊長の企図である。

「すっすっはっはっ……!」

更に速度を増し、火点を突破する。さすが向こうもやるもんだと彼は思った。普通キソーはただの歩兵よりも圧倒的に速度がある。そのリードを読んで砲弾を落とすのは至難の業のはずである。

「BTR来るかもしれんすね」

『84行くか』

「準備します」

FNMAG機関銃をスイングアームで腰の後ろに回し、背部からカール・グスタフ 84mm無反動砲M7型を引き出す。84RRの原型は砲手副砲手の二人で装填、発射する無反動砲だったが、M7型はAMI用に一人で装弾できるよう右に砲尾が開放されるようになっている。

「後方よし、砲口薬室よし、榴弾、完全閉鎖準備よし!!」

左腰部のファイバーケースから榴弾を引き出し装填。ついクセで安全点検の呼称を口ずさんでしまう山永。これを走りながらやれるのはフルリム兵だからこそである。

「浦さん装填よし」

『おう』

ビービーうるさかったバトラーの警報が止んだ。と、その時、

―ズドドドドッ!―

爆音が鳴り響く。この音は、M-2キャリバーだ。道路正面の5、600m先にほんの少しマズルフラッシュが見えた。

「浦さん、12時(正面)!」

『……!』

言いながら更に林内の奥へ退避する山永。

10(分隊長)12(浦2曹)。接敵。交戦開始する』

『10了』

「ブービー、レコン、サップ(ドローン2機)ランチ」

『ランチします』

ブービーとは山永の官品AIOSの呼称だ。彼は浦2曹が報告している間に両肩後部に接続されていたドローンを起動する。ローターがランナップ(回転しだ)し、切り離し。

「ブービー、索敵開始。……浦さんこっち来ますか」

『おう、林んほうがよかな』

「支援します」

『頼む』

おそらく敵のドローンはもう飛び回っているはずだ。こういうときはやはり防御有利である。どうやったって防御側のほうが先に相手を見つけられるからだ。引き続き重機関銃の低い爆音が続いている。やはりドローンが浦2曹の位置を暴露させていると見て間違いなさそうだ。いい感じの立ち木に目星をつけ隠れつつ発砲位置を索敵。と、ドローンから発見の報告。ディスプレイにポップアップ画面で位置を指し示してくれる。M-2(重機関銃)をぶっ放してくるところを見ると、おそらく向こうもキソーだ。

「後方よし、浦さん84撃ちます!おら引っ込め!」

なら容赦する必要はない。惜しむことなく榴弾をくれてやる。立ち木に砲身を依託して砲弾発射。撃鉄の落ちる音はするが、惜しむらくはバトラーのために発射の爆音がなくて張り合いがないところだろうか。少しして向こうの発砲音が止む。当たったか、それともバトラーが反応して相手が頭を下げたか。

『はっはっはっはっ!……ふっ、合流したぞムネ!』

「了!どうします!」

『こんまま林内全速で前進すっぞ!やられっぱなしは気に食わん!』

「ハハッ!了、最高っすわ!」

アドレナリン爆発でイケイケドンドンの二人。山永は素早く空薬莢を引き抜き弾倉に戻し、次弾装填。

「84またぶっ放してよかすか!!」

『おうよ、ぶっぱなせ!』

ACR(弾薬使用制限)などガン無視だ。これは後で分隊長に怒られるなと彼は思った。

「いつでもどうぞ!」

『前進開始!』

「りょ!」

二人がまたしてもドンッと走り出す。遠くで見えないなら、近寄ればいい。脳筋の軽火器らしい考え方だった。この会話の間にもドローンが敵を索敵している。

―ピピッ―

『山永3曹、敵ドローン確認』

素早く浦2曹にも情報リンク。

『ムネ、オイもドローン出す。ちんたらしよったら中隊がさっきの火点まで来っぞ。急ぐばい!』

「りょ!」

浦2曹が先行しつつ林内を機動していく。さすがレンジャーだ。林間を高速で駆け抜けているのに足の置き場に迷いがない。前方を確認しながらも足元の具合、障害物もきちんと確認している。どういう踏み込み位置、どういう歩幅、どういう姿勢で障害物を避けていくか考えつつ走り抜けているのだ。死ぬほど山歩きに慣れているのが目に見えてわかる。

無駄のない足さばき。なんなら美しいとすら言える機動。遅れるわけにはいかないと彼は思った。

するとまたしても重機関銃の射撃音。おそらく後続の前衛分隊本隊に接敵し射撃しているのだろう。

『追っ着いたばいな。急いで右ん巻いて側面ば突くぞ』

「りょ!」

若干遠回りしつつ相手の意識の薄い側面を突く作戦だ。浦2曹の主火器はキャリバー(重機関銃)。命中させればAMIでも撃破できる。

『そろそろか』

「……さきに84ブチ込みますか?」

『頼む。こぼしたヤツはおいが仕留むっけん』

「りょ!」

―ピピッ―

『敵位置確認』

ブービーが知らせてくれる。林縁より1m程引き気味の位置で立ち木に依託しつつ膝打ち姿勢を取っているキソーが見えた。塗装が仮敵用で若干違うと聞いたが正直差がわからない。こういう時の友軍相撃《フレンドリーファイア》が最も怖いが、レコン(ドローン)の識別が本当に助かる。

「見えたっす!撃ちます!」

『おう!』

ブレーキを掛けつつもわざと樹木にぶつかり無理やり停止。そのまま射撃姿勢を取るとぱっと下の画面に映る後方を確認し、安全装置解除、迷いなく引き金を落とす。

「後方よし、砲弾発射!」

敵は立ち上がらない。撃破された場合は立ち上がり手を挙げ撃破を示すことになっている。だがそういったジェスチャーはない。ただ、動揺している雰囲気はある。何かしらバトラーの反応があったに違いない。多少の被害は出たかと山永は思った。

『……!』

浦2曹の空砲が火を吹く。短連射3セットほど叩き込んだところで仮敵のAMIとPMAS(エグゾスケルトン)が立ち上がった。撃破だ。

「うし!」

『よーし、後ろと合りゅ……』

『警告、WAPC接近』

ブービーからのアラートだ。ポップアップの画面に爆走してくるWAPCが見える。おそらく林縁左脇の道路をこちらに向かって突進してきているのだろう。

『マジか。いいタイミングで来よる』

ちらと発煙弾があればと考える山永。残念ながらバトラーには発煙弾はない。歯がゆい話だ。

「対榴撃ちます!」

『任した!』

直ちに再度射撃姿勢を取り、対榴《対戦車榴弾》発射準備。レティクルにWAPCを捉える。

「後方よし、砲弾発射!」

ちらとバックモニタを確認後、迷いなく引き金を落とす。

『お、止まった!下車戦闘来んぞ!』

「りょ!」

RWS(遠隔操作銃塔)がずずいと首をもたげる。どうやら銃塔は生きている判定だった。

「やばっ!」

RWSが載せているのはキャリバー《重機関銃》だ。もちろんこっちがマトモに喰らえばこちらも戦死だ。偶然左後方に地隙がある。直ちに脚部モーターを唸らせ飛び込む。

―ズドドドドッ、ズドドッ!―

あぶねーと山永。レコンが送ってくるWAPCの画像を流し見ると、下車してくる人員が見えた。しっかりしている。きちんと火を出して下車人員を支援しているのだ。FTCは手抜きしないようだ。

―ズドドドドッ!―

今度は右からキャリバーの射撃音。これは浦2曹だ。おそらく下車人員に発砲しているのだろう。さらに今度は左方から射撃音。分隊本隊だ。WAPCの人員と前衛分隊が激しい射撃戦を繰り広げだした。これは敵の目は分隊に行っていると彼は考えた。

「っしゃアッ、トドメ刺しちゃる……!」

84用弾倉に残った最後の対榴を砲口に叩き込み、ずいっと地隙から身を乗り出し四つん這いで射撃できそうな位置に移動する。都合よくRWSはこちらを向いていない。射撃位置を確保し、

「後方よし、……くたばれ!」

砲弾発射。2、3秒置いてRWSの射撃が止んだ。撃破だ。84RRの総携行弾薬は4発だった。打ち切った84を後ろに回し、FNMAGを腰から引き出して初弾装填。

「後始末じゃい……!」

浦班長の支援をすべく合流に向かう山永。彼の戦闘はまだ続く。




なかなかかっこよく勝ちましたね。
でも油断は禁物。1ソーティ終わったからって次がないとは限らない!
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