アルゴノームⅠ   作:Type-Yasenbunko

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海賊対処って言われて筆者が思った最初の感想。「海賊ってまだいたの?」
海賊対処の現状知って筆者が思った感想。「それいる?」
日本て建前が本音からアホほど乖離しないと直そうとしませんね!


第9話

 PDDとはPermanent Djibouti Deployment(ジブチ常駐派遣隊)の略で、前身はDGPE(Deployment Support-Group for Counter Piracy Enforcement、派遣海賊対処行動支援隊)である。元々は文字どおり2010年頃にソマリア沖、アデン湾で暴れまわっていた海賊どもを追っ払うための海自P-3C部隊を警護・支援すべく派遣されていた後方支援部隊である。しかし2010年代後半には各国軍のプレゼンスのお陰様かすっかり海賊行為は下火、なぜ海賊対処という建前なのかさっぱりわからない状態になっていた。とはいえ日本政府としてはその当時事実上唯一の海外拠点(ぶっちゃけもはや駐屯地だが)を維持したかったため、誰がどう聞いても苦しい「国際社会と協調し、海賊行為を未然に防止する」だの「日本関係船舶の安全航行を確保する」という建前の元、このジブチ拠点を維持していた。

潮目が変わり始めたのは2010年代前半。中国企業がドルアレ港(Doraleh Multipurpose Port)の運営権を獲得。さらにエチオピアとジブチを繋ぐとんでもない鉄道会社を中国資本で設立し、その建設費等は中国から借金させて一気にジブチ政府を借金地獄に叩き込んだのだ。なんならその当時、港湾の見えない部分で働かされている現地住民は奴隷扱いだったというまことしやかな噂すらあった。ともあれジブチにおける中国の影響力の増大は圧倒的で、横にいる米海軍キャンプ・レモニエすら肩身を狭くさせる勢いであった。もちろん米軍は苦々しく思っていたのだが、米本国は共和党と民主党の、アフリカなんかより自国民だ、いや一帯一路は絶対に邪魔せにゃならん!と選挙のたびに言い合うふりこに翻弄され、結局現在2060年に至るまでさほど拡充されずにいるのが現実だった。一方中国側も2030~2040年代で国内の手につけられない借金とデフレに悩まされ、さりとて中国にとってのアフリカ要衝であるジブチを放棄する気もなく、拡張こそ諦めたがしっかり港湾や空港、鉄道は維持しているという現状だった。

 そんななし崩しの空気感の中、日本は核融合炉量産建設にアフリカの豊富な鉱物資源が喉から手が出るほど欲しかったため、アメリカと中国の目をくらましながらしょれっとジブチ拠点の拡大を図っていたのである。特に大きかったのが2041年の拠点拡大と翌年の自衛隊初の恒久海外基地化であった。これはかなり中国側から反感を買ったが、丁度その年、総書記の汚職スキャンダルと被ったおかげでなんとか有耶無耶にできたりした。そこから現在2060年に至り、中国の息のかかった大型港湾ドルアレ港を使わずに済むよう日米仏合同で旧ジブチ港を再開発しようとしているところだった。

 

 ……とまでは、山永がもらった派遣訓練のための実施要項には書いていなかった。が、保全上、「平」で済みそうな範囲をヒマリに伝え、ジブチ基地の現況を教えてもらっている。筋トレ済ませた後、自分の営内のベッドの上で彼女からレクチャーを受けていたのである。

『というわけ。どう?わかった?』

「あぁ、分かった。分かりやすぅて助かるわ」

『ふふん、さすがでしょ!』

何故か自慢げなヒマリ。

「しかしなんだってワイの説明は、なんつーかこう、政府批判風味なんか?」

『え?だって宗清いっつも部隊とか防衛省のことぶつくさ言ってるじゃん。』

「……」

言われてみれば。個別の人はともかく、この防衛省自衛隊という組織はクソだみたいな話をヒマリに結構話してしまっていた。困ったことにちゃんとそういう点を学習してしまっている訳である。流石に今後は露骨な愚痴は控えようと心に決めた山永であった。

「まああんま色眼鏡掛けて情報収集したらエコーチャンバーになるけ、フラットに収集、説明してくれ。斥候の偵察報告じゃなかが、見たまま、聞いたままってな」

『えー?でも情報なんて直接現場見たみたいな1次情報以外、全部色ついてんじゃん。バイアスなしなんて無理だよ!』

「……」

ぐぬぬ確かにと納得してしまう山永。こういう所はロジック系AIには勝てない悲しみだ。実際そうだった。ニュースサイトにしろ時事チャンネルにしろSNSにしろ、発表された時点で多かれ少なかれその発表者の『色』が混じっている。それを消して本質に迫るのは確かに容易ではない。

「分かった。そいやけどひとつの情報ば幾つかんソース(情報源)から見比べりゃ、多少真実に近づくやろ?オイが言いたかとはそれんことさ」

『わかった。できる限り頑張る。』

「おう、頼りしとるぞ」

『へへ』

嬉しそうである。本当にこのAIOSの感情アルゴリズムは人間寄りに特化してるなと彼は思った。主人に仕えることが至上命題となっているから懐くのもまあ構造的には分からんでもないが、ここまで人間風にする必要があるのか疑問だ。官品のAIOSなど忠実無比で感情の『カ』の字もない無味無臭無地無色なだけに、この落差に驚くばかりである。まあタダだったのだからゴネてもしゃーないと彼は思っているのだが。

「そーいやおまえ、なんかオイのブービーにちょっかい出しよるやろ?アイツから苦情の来よったぞ。」

ブービーとは山永の官品AIOSの事だ。他端末《ヒマリ》からの過剰なアクセスあり、他アルゴリズムからの不要な情報共有要求の取り下げ推奨とポップが出たのだ。

『ちょっかいじゃないから!あたしが知れる範囲で宗清の情報知ってた方がサポートしやすいから開示できる内容だけでもちょうだいってあの堅物に言ってただけ!』

「そげんと官品がいい言うわけないやろ」

『なんでよ!別に部内限り以上貰おうとか言った訳じゃないから!』

「そもそもなん聞かれたっちゃ答えんとが官品て。『私の立場ではお答えできません、詳しくは駐屯地広報もしくは防衛省広報にお問い合わせください』ごた言うとがオチやろ。」

『あ!それまんま言われた!機械言語だけど!』

「あいつほんに真面目なんやな」

思わず吹き出す山永。こいつらの会話が聞けたら面白そうだ。もしブービーに感情系があればうっとおしいと思っているだろうが。

「まあ、もうあんまリンク要求すんな。アイツも困っとるごたっけん」

『…………はーい。』

明らかに渋々だがヒマリは納得したようだ。これでブービーの心労も晴れることだろう。

『でもほんとに行くんだね、ジブチ』

「たぶんな」

『結構危ないと思うな。』

「そうか?まさか中国人やって正面からケンカなんぞ売ってこんやろ」

『そっちじゃなくて武装組織。さっきの話じゃ言ってなかったけど、あそこらへん、現地の組織が色々悪さしてるみたいだよ?』

「そいはソマリアとかの方やろ?ジブチ市まわりはそげん危のうなかって話やん」

『でも【紅海・アデン湾安定化共同体】が出来てから自由に往来できるじゃん。黒旗戦線とか紅海解放戦線とかいるよ?確かにジブチ自体だいじょぶでもいつ飛び火するかわかんないし。』

実はソマリランドが中国に懐柔され、ジブチ、ソマリランド三国で紅海・アデン湾安定化共同体という名の中国主導のEUのような共同体を打ち立てたのだ。もはや三国とも中国の傀儡に近いが、それでもソマリランドが形式だけでもソマリアに復帰したというニュースとなり世界を騒がせた。しかしながらこれは結局傀儡であり、現地に聖戦派《ジハード》の黒旗戦線と民族解放派の紅海解放戦線という反政府組織を生み出してしまっている。

「まぁ、確かになぁ。」

『そんな他人事で!自衛官なんだからちゃんとリスク分析しなよ!』

「分かったって。まあ、分析したとこで行けっち言われたら行くしかなかぞ。分析はするが。というわけでそいつらの詳細頼む!」

『もう!』

などと言いつつ素早く収集を始めるヒマリ。課外授業は続くのであった。




ヒマリは割と陽キャです。そしてブービーは陰キャです。
はい、おわかりですね!
ともあれ二人とも山永には必要な人材なわけです!
それにしても自衛官は唯唯諾諾ですねぇ。
まあ規律というものはそういうもの。
精強というのは「強い」ということではない。
いかなる命令でも、とにかく早く、すべての隊員へ漏れなく徹底させられること。
これが本当の「精強」なのです。
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