【VRフリゲ】ブルーアーカイタフを再現してみた【1】 作:何処にでもある
おや先生、全てを台無しにするつもりですか?(黒服書き文字)
「
カツンと、ステッキが硬い石で叩く音がする。
街中の喧騒であれば些細なものに過ぎない音も、この静寂と律動に支配さていた空間では大きな存在感を示した。
「そして「観測者」に必要な立場は二つ。「主観」と「客観」だ。「見ている者」と「見られている者」と言い換えてもいいだろう。どうあれこの記号に必要なのは2人以上であること。その区別が正反対であるだけでいい。その空白に書かれたインクは──文字という血を流す経脈の形に過ぎない」
ぼうっと眼の奥から亀裂を辿って光る炎がチロリと燻る。
彼は演説者の独演会を、もうじき終わりを迎えようとするそれをじっと眺めていた。
「さて…ある所に分別する理性も、ましてやタンパク質の脳もない奴が居た。与えられた仕事もこなせない出来損ないの無脳だ」
カツンと音が鳴る。
「それだから長年放って置かれ、埃を被ってじーっと流れる世界を観ていただけ。そんな奴がある日……これはどうしたことだ、与えられた仕事を成功させたではないか!」
カツン、カツンと音が鳴る。歩きもしないで音を鳴らす。
「……無論、そんな奇跡があるのならあやかりたい物だ。タイプライターも打てない猿未満がそんなことを成し遂げたなら、それは世紀に残すべき大偉業だろう」
確率論からして、いずれ起こり得るとしても?
言葉を弄する。自然と溢れ出た言葉だから、枠にも収まらずに空に消えた。
「0だから、奇跡なのだよ。種と仕掛けが無いなら尚良かっただろうな……無論、そんなことは起きていなかった訳だが」
否定。
空論は空論のまま、現実になってないと彼は言う。
「偶然繋がった。ことの始まりはそんな、途方もない0と小さな1つの点の先にある現象だ。しかし完全な0と比べれば雲泥の差だ。そして、無脳はそれを偶然と思う脳も、不思議に思う理性もない。自分が作った物だと心から信じて、それをある記号を、インクの染みを塗り付けた」
彼が頭に添えていた額縁が降ろされる。
そこに顔はなく、黒い煙が黙々と立ち昇っていた。
「ゲーム──とね」
『そういうこったあ!』
淡々と情報を処理していく。
余計な情動はなく、静かにそれを咀嚼した。
「この世界の変化の原因はそのせいですか。しかし…まだ続きがありますね。もう片方、観られた方の観測者はそのゲームと言った相手をどう解釈しましたか?」
「観られた者次第だろう。平和と人道を夢見た者は「従僕」と解釈し、それらの成果と成長を手中に収めた。善性と砂漠の復興を信じた者は「代わりの命」と解釈し、世界が滅びてもないのに先生となって自らの精神と魂を救った」
「片方が強く認識し、もう片方は都合よく解釈する。なるほど、この世界が「ゲーム」のベールに覆われる訳ですね」
「然りだ。もっとも我々の存在が断然上位ではある。個人の解釈と集団の解釈が均衡しているからな。それに観測者の質量もコチラが多くなるだろう。相手の数百がコチラの1だからだ。それでも世界が少しずつ「ゲーム」に染まってるのは、こちらの大衆という観測者が明確に認識せず、個人個人が都合よく利用しているからだ」
彼は言う。
仮にも"神"を基底とする生徒が数多といる世界。
7回も上位世界に襲われ、それらを辛くも退けて……しかしボロボロな世界。
格上狩り専門の相手が故に、戦争が起きれば血を見るのは避けられなくとも……相手は元々20ページ程度の童話程度の、我々からすれば余りにも小さな存在だと。
今では戦い取り込んだ物の影響で辞典くらいには肥大化しているそうだが……それに対して我々は3mの巨人くらいの格差だと言う。
「繰り言になるが、格差が大き過ぎるが故に彼らはこの世界に降り立てない。文字の実体は文字でしかなく、我々が認識してようやくこの世界に影響を及ばせる。しかし文字とは伝え広める物であるから、読み手の受け取り方次第でその影響を何処までも変容させる」
「クク……随分とおかしな話だ。相手はコチラを物語として知っているのに、実体は我々の方が読み手側だとは。これについての見解は?」
「上下という記号を主観的に当て嵌めてるな。物は下に落ちるように、万物は上から下に向かう方が容易い。容易く移動出来る方角に「上下」の記号を与えているのだからな。故にこれは自然な文脈だ。下に居るのだから、上の情報が雑多に集まる。それを書く。現実の出来事を書いた本を「歴史」と呼ぶが、それが実際に起きたと知らなければ「空想」だ。つまり、その疑問はその程度の話に過ぎない」
「なるほど。しかしそのおかげで、山積みの火薬に火花が降り注いで居ない。緩やかで小さな接触であるが故に、誰もが冷ややかな軽蔑と血に染める為の弾丸を持たないでいる。危うい均衡ですがね」
2人の話が続く。
お互いの認識の差を観測する為に。
ゲマトリアとして、この世界の望外な恩恵に、危篤に抗う為に。
腹の内に自分勝手に煮えたぎった欲望を積もらせながら。
「公になればすぐさま二つの観測者は「敵」と「味方」の記号が当て嵌められるだろう。そうなれば、我々の望みは困難になるな」
『そういうこったあ!』
「つまりはチーム戦ですか。ククク…契約書ならいくらでも用立てましょう。今の世がゲームならば、ましてやAIが定義したあやふやな世界ならば、せめてルールは厳密で絶対でなければなりませんからね」
答えは出た。同盟は迅速に締結された。
変化を理解し、新たなる情勢と世俗の唸り、未知なる方向に波立つ流れが規律を保っている心臓を速めた。
「ククク……ああ、素晴らしいですね。古き時代の世界の名残、生徒に宿る神秘という概念を解体する武器が増えた。それも頼もしくも不確定な武器。こんな感覚、トポロジーとルベーグ積分を学んだ時以来ですよ」
楽しい楽しい探究の始まりだ。
大学で行った抽象測度空間での議論なんて、とてもじゃないほど足りないくらい理解に永遠の時間を必要とする超文明、数多の、ともすればこのキヴォトスを収まる世界よりも上位の世界の知恵を収めた書籍。
小さくも時間と空間の理解者たる、偉大な相手から少しでも多くを学び、そして彼らをここを現実だと認識させずに立ち去っていただく騙し合い。
「──久しくも懐かしい熱です。首を痛くするほど見上げても果ての見えない学びの世界を、もう一度体験できるとは。もう一度数学の徒として先人の歩みを追い縋れるとは……嬉しい限りです」
ええ、1人残らず飽きたと言わせて見せましょう。
その為なら治安が終わるのも許容しましょう。
アトラ・ハシースの船も、これまでの契約も全て脇に退けましょう。
どれほどベール越しに世界を少しずつ改竄されようと、我々は貴方達を咀嚼してより強大に肥えてみせましょう。
我々はゲマトリアであるが故に。
しかし。
絶対に負けない戦いならば、後はどれだけ利益を積み立てられるかの勝負です。
学び、理解しましょう。その知識と経験を拝領し、今一度生徒としてより高みに昇りましょう。
アリウスに起きた異常からベアトリーチェが解明し、共有したこの未来への福音を──望む限り平らげましょう。
そうして学び取る相手を……おやおや、長く話したからか記号と文脈に感化しましたかね。
「奇貨を転じて福とする……ククク、楽しみですね。────
黒い服を着た大人は、そうして過去から笑う。
未来に起きる波乱に、胸を高鳴らせながら。
「"どう? アルちゃん、ヒナちゃん。ここのラーメンは美味しいでしょー?"」
ここは柴関ラーメン(ミレニアム研究所食堂付き)
アビドスの奥深くにある高校のすぐ横にあるミレニアム研究所、その食堂を兼任したラーメン店である。
ここで寝泊まりするミレニアム生からは大評判の秘境のラーメン屋だ。
「ええ、美味しいわ。美味しいけど…美味しいけど! 同席してる相手が気が気じゃないのよ!」
しかしどうした事だろう。アルはバンと机を叩いて立ち上がり、向かい側に座る生徒達を指さす。
指された生徒は急な出来事にしばし硬直し…麺を啜り終えてから口を開いた。
「……別に捕まえるつもりはない。ここはゲヘナでもないし、フウカを宥めてくれた恩もある。なにも問題ないわ」
「貴女風紀委員長! 私はアウトロー!──相容れないでしょ! なにみんな普通に食べてるのよー!」
「さっき依頼を受けたんだから別に良いと思うけれど……ズル…美味しいわね、ここのラーメン」
ヒナである。しかもイオリも居るオマケ付きだ。
ラーメンを食べたいという本人の希望により、アル達は全員先生のオススメのラーメンを堪能していた。
なお、足はアビドスの船である。合流後、先生を保護したお礼として送迎することになったのだった。
「えー!? このカヨコ達ってどっちも本物なの!? 信じられなーい!」
「ああ、ドッペルの案件には結構関わったからな。間違いない。ヘイローが有るのは身体が本物、ヘイローが無いのは心が本物だ。だからどっちが偽物って訳じゃない。どっちも本物で、偽物なんだ」
「やっやこしー…あ、ヘイローが無い方のカヨコちゃん、疑ってごめんねー?」
「別に気にして無い。…でもさすが風紀委員だね、もうそこまで掴んだんだ」
「ウチの連中にも被害が出ればイヤでも分かる。……アコちゃんとチナツがなってるしな」
「あ、あの……それってお仕事とか大丈夫なんですか? こっちのヘイローがあるカヨコは全然なのですが…」
「ヒナ委員長が頑張ってる。以上だ」
「ねぇ、そろそろヘイローの有る無しで分けるのやめない? "ラーメン美味しい"」
「ううん…今日はノイズが酷いね…イベントの影響かな…」
「……へぇ、ドッペルは偽物って自覚しちゃうような情報を認識出来ないんだ。覚えとこっと」
「モグモグモグもぐもぐ!!!」
「いい食べっぷりだねー。おじさんからしたら羨ましいよー」
「モグ⁉︎……ゴク……ぷはぁ…あはは…ちょっとイヤなことがありまして…やけ食いしてるだけです」
「そっかー、大変なんだねー。ま、若者は頑張りなよー」
「…ええ! 帰ったらとことんやり返します! このまま終わらせるつもりはないので!」
「おー、ガチで怒ってる時のアヤネちゃんの顔だー…くわばらくわばら」
「…私そこまで怖い顔してました?…モグ…ついやけ食いしちゃったけど、ここのラーメンは美味しいですね…うーん…チャーシューが蛇肉に似てるけど…なんか違う…魚介を隠し味に使ってるっぽいけど…」
「"みんな仲良くなって嬉しいなー"」
みんながラーメンで舌鼓を打ちながら、好きに話し合う。
流石に人数が多いのでアビドス組とゲヘナ組と席が足りずに余った先生他混合でテーブル席を3つ使って食べているのだが、どこもいい感じに盛り上がっていて喜ばしい限りである。
……約一名、未だ腹を立てているフウカはやけ食いをしていたが。
「先生ー! そろそろこっちに来なさいよー! 心配させた分わびなさーい!」
「分かったー!…"ごめん、私あっちに行って来る!" ラーメン、楽しんでね!」
「ちょっと!? 待ちなさい! 待って! 先生! 私を置いて行かないでーーぇ!」
先生がアビドスの方の席に行き、ノノミに身体を引き寄せられて無理やり膝枕されてるのを眺めながらラーメンを啜る。
既にお昼休みは過ぎていたが……ここまで来たらいつ帰っても変わらない。そう説得して船に揺られて30分。来て良かったと思える極上のラーメンと出会えたのは良かったと、ヒナは思う。
アビドスには来たことが無かったが、今日みたいな日帰りが出来る週に遊びに来てもいいかもしれない。
「おかわり。大将、次は味噌ラーメンをお願いします」
「あいよ! 嬢ちゃん達いい食べっぷりだね! 卵はオマケに付けてあげようじゃねーか!」
「わぁ…ありがとうございます」
「……太るわよ、空崎委員長」
「大丈夫よ、問題児を相手してたら勝手に痩せるわ……やってみる?」
同席している便利屋のアルをチラリと見て、軽く勧誘のジャブを打ちながら味噌ラーメンを食べる。
女性客が多いからだろうか、ここのラーメンはサッパリしてるから幾らでも食べられる。
コッテリした豚骨の気分だった舌も、ここのラーメンには簡単に敗北して満足と書かれた白旗を振っていた。うん、美味い美味い。
「イヤよ、そこまでツルんだらアウトローじゃなくてポリスじゃない。アウトローは何にも縛られないからこそアウトローなのよ」
「ふーん…そ。振られちゃったわね」
先生の差配もおかしな物だ。全額奢るそうだから断れなかったとはいえ、自分と便利屋のリーダーを同席にするなんて。
……まあ、だからどうしたという話だが。彼女の射撃の腕は素晴らしかったし、性格も問題無さそうだ。社員の方はともかく、彼女は信用してもいいだろう。風紀の腕章も似合いそうだし。
「……けど、特別に例の物に関わってる依頼ならやるわ。ここ最近はアレのせいでこっちも迷惑してるのよ。前払いに廃棄弾、後払いに報酬さえあれば協力してあげなくもないわよ」
「へぇ、私くらいの奴を一発で仕留めた腕前をお金で……分かった。予算の当てならあるから、近い内に依頼させて貰うわ」
廃棄弾。
今ゲヘナを大いに悩ませている問題だ。アレはブラックマーケットよりゲヘナの方が流通が多いから、本当に厄介に思っていた。
それの依頼を受けると言うのなら……丁度良い。元よりこれさえ居なければ何も支障はないのだ。実質依頼する条件なんて無いに等しい。押収し山積みとなった弾の処分も出来るなら尚更だ。
とりあえずマコトから予算を奪ってこよう。寝ないで3日間ずっと戦うのはもう嫌だ。
こうしてヒナの中で帰ってからのtodoリストに「マコトしばき」がされた。
「ええ、便利屋68をご贔屓に。名刺を渡しておくわ、私に直接繋がる連絡先よ」
「どうも……ああそうだ、私のことはヒナってよんで。これから何度か会いそうだし、気楽にしていいわ」
「そう──よろしく、ヒナ委員長」
(気まずいから話振ったらなんか流れで風紀委員長と仲良くなっちゃったーー!? どうしてこうなるのよーー!?)
(仲良くなってなし崩しで
こうして2人のリーダーが腹に一物を抱えながらお互いにコネを作っていた頃、隣の席ではホシノが元の席に戻った後もドッペルのことで盛り上がっていた。
「じゃあなに? これっていつ戻るか分からない訳? 病気とかじゃないの?」
「病気じゃないな。既に救急医学部からは"死た……人体の異常ではなく思い込みによる変化に近いですね。2人に増えてるように見えますが……ヘイローの無い方は光の幻像、集団幻覚、錯覚の類いです"…って見解を頂いている」
「つまり……どういうことなのでしょうか?」
「幽体離脱。オカルト染みてるがそれが一番的確な表現なんだと」
「えー? ほんとー? だってほら…こうして触れるし、あったかいし、ラーメンだって食べてるじゃん!」
イオリがため息を吐く。コレに関しては本当に理解に時間がかかるし、未だ何が原因かも分かってないものだ。
人に教えられる程度には知ってるが、全て分かっているわけでは無い。それでも答えられないのはカッコ悪いから、どうにか救急医学のセナから聞いた言葉を思い出していく。
「正直そこら辺はまだ仮説でしかないらしいんだが……幽体離脱と言ったが、だからってずっと霊体な訳じゃない。幽霊が成仏するように、身体から溢れた心だって長くない。そして幽霊が物に取り憑くように、溢れた心も何かに取り憑くんだ」
「……つまり?」
ムツキが首を傾げる。もっと分かりやすく話せと、そう催促し……カヨコがそれを補足した。
「見た目は私だけど、実際は別人の身体ってこと。中身に私が居るから私に見えるけど、実際は全然違う筈……って事でいい?」
「ああそうだ、要約助かる。つまりそういう訳だ。偶に別の意見を同時に言ってたら、カヨコともう1人が同時に喋ってるって訳だな」
「ああ! それなら覚えがあるよ! なるほどそういう訳かー!」
「……み、見えてる姿が違うのが錯覚で、身体自体は別の人の物がある……こんがらがってきました」
ハルカがそう言って銃を不安そうに抱える。
これ以上難しい話が続くならぶっ放すのも視野に入れようとしていた。
「……そろそろラーメンが伸びちゃうからまとめるぞ。コレの根っこの問題は心と身体が別れること。「ドッペルの現象」が原因で、誰が悪いって話じゃない。だから片方をぞんざいに扱うな! 以上! いただきます!」
「はーい! いただきまーす♪」
「……つまり、どっちもカヨコ! いただきます…!」
「いただきます……といっても先に食べてた訳だけどさ…"ごちそうさま、美味しかったよ"」
「本当に美味しいね、ここのラーメン。所で爆破はいつやるの?」
「しないよ?……うーん、ヘイローがある方は"
「……考えても仕方ない! 調理室を手伝いながら見て学ぼう!」
そうしてフウカが怒りも忘れて物思いから立って調理場に駆け出した頃、更に隣のアビドスの方では先生を中心とした話題で盛り上がっていた。
「なんで迷子になってたんですかー?」
「儲かるって話があって! つい! ごめんなさい!」
「どうしてブラックマーケットの儲け話なんか信じるのよ、あんなの嘘に決まってるじゃない!」
「ん、セリカだけは言う資格がない」
「……ゲルマニウムの後はやらかしてないからいいじゃない!」
「あはは…ともあれ無事で良かったです。もう先生はアビドスの一員でしたから」
「"あれ?いつの間にかアビドスの一員になってた。なにか見逃したっけ"」
「えー知らないのー?おじさんがっかりしちゃったなー。アビドスで一晩泊まった生徒はアビドスに転入しなくちゃいけないルールがあるんだよー?」
「ひぃん…理不尽!」
「転入届けはここにありますよー♧」
そんな風にアビドスジョークで揶揄われつつ、時間はあっという間にくるりと回って過ぎ去って、ゲヘナのみんなを送ってアビドスに戻る事となった。
今は比較的海が穏やかな日だが、それでも定期便が動くレベルではない。夜になれば荒々しく全てを飲み込む洪水となって船を捕食してしまうだろう。
「うーん…今日はもう遅いからミレニアムの方に泊まろっか。ここならあっちの方が近いし、偶にはいいよねー? ノノミちゃんが送るならおじさん達はここで待つ訳だしー?」
そんな訳で無事に帰校……しようとしたが、ホシノの提案によりミレニアムの研究基地に泊まる事となった。
まあ偶には良いだろうということで過半数の意見は賛成となり、反対した一年の2人は先に戻って色々と終わらせる事となった。
「…………」
「……ホシノちゃん?」
その晩のことである。
みんなが寝静まった時、徐にホシノが何処かに行ったのは。
ユメがアビドスに来てから4日目のことだった。
「トイレかなぁ…"念の為着いていこう……イベントの予感がする"…気にしすぎだと思うんだけどなぁ…」
そんな訳でユメは渋々ながらもKに従ってこっそり着いていくと、ホシノはトイレを通り過ぎてどんどんと奥に進む。
こうなってくると流石のユメでも違和感を覚えたようで、シッテムの箱を持ち直してより息を潜めて進んだ。
「…………──」
「……消えた?」
ホシノが向かった先は通路の行き止まりだった。
関係者以外立ち入り禁止の看板と、黄色と黒のしましま模様を幾らか超えた先にあった行き止まり。
換気口が上にあるから空気の通り道だろうか。いや、それにしては妙に長い。何があるのだろうとケユメ先生が調べてみれば──壁の隅に少し変わった星型のマークを見つけた。
「なんだろう…?"……「転移バス停留所」の「標識」だ。どうしてキヴォトスに…? これはリアルの物なのに"…そうなの?」
ケユメ先生が自身の知識と照らし合わせその記号を読み解く。
ある程度発展した都市の基本的なインフラだ。
一定周期で転移を行い、一度に何十人もの乗客を運搬するバス。
主に1〜3階級の者達が利用しており、日々の通勤ラッシュでは場所の取り合いで毎日かなりの争いが起きることでも有名だ。
「"……ひと月に1日だけ、切符の持ち主のみが利用できる…下手くそな文字だけど、1等級の市民言語だ。…攻略情報が出ない訳だ。この文字は2等級以下にはAI翻訳も許されないし、この手の専用バスは文字が読めなければ切符が有っても入る資格がない"」
ケユメ先生が懐から一枚のカードを取り出す。
掲示板を見ていたら流れで貰えた大人のカードだ。
出来ることはゲーム制作者よりも少なく……優先的にオブジェクトを作ったり、バグを直すようお便りを出すだけだ。
「"貰って正解だったかもね。私なら切符を作るだけでこのバスに乗れる。……バスが動いてたら、だけど"」
元から普段使っている為、資格なら十分ある。
どうしてこんなものがここに有って、ホシノが乗ったのかは不明だが……これは、間違いなくクリアへの糸口だ。
「"大人のカードを使う"」
カードがひび割れて、その粉が集まるようにして一枚の切符に変化する。
Kが望んだ通り、それは普段使いしている転移バスの切符に変化した。
行き先は書いてない。何処にでも一瞬で行ける転移バスは、料金がどこも一緒だからだ。
切符を印の前に掲げる。
ガタン。
音にすればそんな感じだろう。
車輪が何か跳ねたような音と共に、周囲の景色は一変した。
無機質な行き止まりから、黒い部屋に赤い線が走っている空間へ。
行き止まりの通路から、行き詰まった袋小路へと移動した。
「──それで、確認は出来ましたか? ホシノさん」
「うん………ありがとね、黒服。おかげで目が覚めたよ」
目の前には、液状化した何者かの死体が入った棺の前に立つ、ホシノと黒服を着た大人。
「"迎えに来たよ、ホシノちゃん"──帰ろう? ここはなんだか冷たいしさ」
2人が同時に振り返った。
1人はクククと笑って、一人は能面のような真顔を顔に貼り付けて。
もう後戻りはできない。
仕様No.2
有り得そうな交流会
生徒達が各々の判断で動き、原作に有ったかどうか微妙なラインで縁を繋ぐ仕様。
再現の場合解釈次第で幾らでも盛れる辺りはAIに自主性に任せており、将来的にはスタート時点で前提が変わる飽きないゲーム体験にしたいと考えて設定したAIの行動指針。
しかしそんなことしなくても機会があればAIだろうとなかろうと交流と接点を持つ為、あまり意味はない。
ただし、メインストーリーから話がズレることにかけては猛威を振うことになる。