【VRフリゲ】ブルーアーカイタフを再現してみた【1】 作:何処にでもある
私は生きてるし、何度でも会えるよ(ユメ書き文字)
「彼女との契約をお話しましょう」
高級なオフィス用の椅子に座り、会社でも幹部層が座るような豪華な机に肘をつけ指を組む。
オーダーメイドの上品さが青みがかって見える黒服のスーツに袖を通した男は、そうして真っ白な炎を燃やす右目をコチラに向けた。
「ですがその前に…契約に至った経緯からでしょうか──2年前に梔子ユメという生徒が彼女の前で死亡しました」
ジャブとばかりに放たれた言葉は、既に原作とは大きく変わっているという事実を先生に宣告した。
そんなホシノの先生だからと開示された情報に頭を抱える。どれだけ変化しているのか未知数だからだ。
「当時1年だった彼女にとって2年上の先輩です。相当親しい関係だったらしく、
黒服の隣に立つホシノがギュッと唇をかむ。
目の前に立つ先生の容姿も原因だろう。当時のことを鮮明に思い出しているようだった。
「当時はまだこの砂漠の奥深くにしか存在しなかった、沼地での出来事です。絶えない幻覚作用を有した雨、無色透明かつ空を泳ぐ大蛇の群れ──沼地の底に居た、名状し難きもの。全てが敵で、幻覚でお互いを視認出来なかった彼女達が生還出来たのは奇跡と言っても宜しいでしょう」
ユメにとってはよく知ってることだ。事実その場に居たのだから。
Kにとっては預かり知らぬことだ。当時の彼はミレニアムのユズの1人に過ぎなかったのだから。
「"なんで貴方はそんな所に居た?"」
「ふむ、契約に関与しないことですが……聞きたいのならお答えしましょう。──当時、嫌な予感がするというだけでミレニアムから沼地の調査に来た生徒がおりまして。諸事情で私も同伴させて頂いていたのですよ」
「…ホシノちゃん、本当なの? イヤなら喋らなくてもいいけど…!」
ユメが質問し、それから慌ててホシノに気を遣う。
彼女にとっては繊細な話題なのだと、わたわたと慌てる。
その一連の光景を、ホシノはうすぼんやりとした目で眺めていた。
「……本当だよ。実際あの場には、私と黒服と…ユズちゃんしかいなかった。先輩の死体を抱えたまま死ぬ所を助けてくれた恩人だよ」
「とまあ、経緯は以上です。では肝心のどのような契約をしたか」
そこで黒服は一息溜めて、それから右目の白炎をぼうっと強めて言う。
「アビドスの沼地から得た成果物とホシノさんの神秘を対価に、アビドスの借金返済と梔子ユメの蘇生を、ホシノさんが卒業するまでに終わらせる」
一枚の黒い紙に白いインクで書かれた契約書が先生の前に提示される。
其処にはびっしりと黒服が言った内容を堅苦しく、厳密に定められた文言で記載がなされていた。
「──どうです? 釣り合ってるとは思いませんか? 日々収穫される産物の商売取引と、1人の存在も不確かな物を定期検査する代わりに1人の命を死の抱擁から取り戻す。倫理に則った上に有益で、双方が得を得られる物だと自負しております」
それを見て瞬時に厄介な事になったとKは悟った。
ゲームのクリア目標はホシノと黒服の契約を否定すること。
だからこそ契約が不当であればあるほど説得が容易になり、クリアが容易になる。
Kが知る限り、原作では退学させた上にホシノの身を案じずに実験をしていたからこそ取り戻すという形で解決出来た。
しかしどうしたことだろう。
ブルタフの変容したストーリーでは、ホシノの過去にも未来にも希望と期待、それらを感じさせる契約が成されている。
この黒服は雰囲気こそ悪いが、やってることは悪い大人ではなく、現実的で経済的な救済と、ゲマトリアとしての神秘への理解の両面でホシノと助けるような契約を結んでいるのだ。
「"死者蘇生が出来る…その根拠は?"」
「精神回復剤、そしてドッペル現象をご存知ですか?」
「"それがどういうものなのか…は"」
「ククク…大変よろしい」
黒服が上機嫌に嗤う。
愉快そうに肩を揺らして、ホシノをチラリと見てから言葉を繋げる。
「実の所、精神回復剤はユズさんと私が主軸となって開発したものです。完成後はホシノさんにレシピを渡しましたが、当時のホシノさんにその手の知識はありませんからね。名義のみ特許に乗せ、権利を一時的にお譲りしたのですよ」
「"自分で持ってた方がお金は集まると思うけど?"」
「先にアビドスの借金を返済する契約を結びましたから。彼女達は自身の力で解決したがっておりましたので、そのために必要な
「使用権…?」
「……アビドスの借金を返し終わって私が卒業したら、精神回復剤の利権は黒服に返す。そういう契約なんだよねー」
「その分契約の整理は大変でしたが…お陰でご覧の通り、9億の内3億を返し終わり、もう一押しすれば返済が終わる水域まで来た──これが精神回復剤の
話が見えてこない。
なのにイヤな予感が背筋に募る感覚はより強くなっていく。
まるで不明瞭な戦場の霧を晴らしたら囲まれて詰んでいたような、そういう類いのものが。
「アレは、精神の過剰回復で過去の周回を思い出させる効果がある──先生ならこの意味が分かるでしょう」
連邦生徒会長がキヴォトスを救うために行なっている、時間の逆行。
すぐに思い至った。実際にそれを決意するサマを、すぐ近くで見続けたから。
しかしユメは違う。
「…どういうこと?」
「ドッペル現象の発生原因ですよ。ククク……健康な時に薬を飲んで体調が悪化する。なに、これはそれだけの話です。困りますよねぇ、コチラは購入者の言葉を信じて販売しているのに、誰もが嘘をついてより多くの薬を得ようとする。それが出回り、ドッペルが増えてしまう……全く、最近の悩みの種ですよ」
「"……説明義務は!? 困ってるならなんとかする努力は!?"」
「勿論しっかりと読み飛ばし可能な電子同意書の真ん中付近に。文字だって他よりも2倍の大きさにしております。それもダークモードで見ている方にも確認し易いよう白文字で。まあ、何故かトリニティの方々以外は誰も同意書すら見ようとしていませんでしたが」
そう言う黒服は、到底困っているようには見えなかった。
最初は少しだけいい大人になったのかと期待したが……違う。
彼は不都合なことをアビドスからそれ以外に押し付けただけだ。
「これがもう一つの役目です。過剰投与で現在の精神を過去の周回の記憶で押し出し、それを人造の肉体に入れて蘇生する。現状は両方が一つとなって身体から押し出されていますが、
なにも、原作から変わってはいない。だからこそ1つの疑問が芽生える。奇遇にもユメも同じ疑問に至って、一つの口で似たような事を言った。
問いかける。今のままでいいのかと。誰かの犠牲を許容してこの道を進むのかと。
「……別にー? だってこの流れに従えば借金も、ユメ先輩も取り戻せるんだよ? ドッペルだってそう。いずれ全部元通りに出来るようにするし、その栄誉でアビドスに入学する生徒もきっと増える。──眼を閉じれば、全部上手く行くんだよ、
ハッキリと、ホシノはそう言った。
誰かを切り捨ててでも歩むべき道なのだと、その両眼を閉じて言う。
もうどこに進んでいいのかも分からなくなり、ただ眼を閉じて闇雲に言われた通りの道を走る。
今のホシノはそういう者になっていた。
それは、Kにとっては例えゲームだとしても辛抱出来ないことだった。
「ククク…それで先生? ここからどうするつもりで──」
「"黙れ"」
だからこそ一度走るのをやめて、その眼を開いて過去と未来を見る勇気が必要だろう。
「"迷い子を送り届ける時に、惑わすのはやめて"」
例え永い眼で見ればアビドスに受難を齎すとしても、それが1人きりの迷い子を助けない理由にはならない。キヴォトスを取り巻く問題も、ゲームのクリアも、今だけは放ってこの大馬鹿者と向き合う。
Kは先生ではなく、Kとしてそういう決断を下した。
ホシノに先生が近づき、屈んで閉じた瞼越しにその眼を見つめる。見えなくても気配があるのは分かるのだろう。ホシノは怪訝な顔で先生と向き合った。
「"ホシノちゃん。ホシノちゃんは理想を叶えるにはどれだけ犠牲にしないといけないと思う?"」
「…………」
突然の質問に返事が詰まる。
何故か? 2日しか会ってないからか、ユメ先輩にそっくりだからか、それとも今まで犠牲にしたものを見たく無いからか……本人にも分からないだろうから、誰にもわからないだろう。
「"全部"」
「……なにが」
「"これは私の経験則なんだけど──理想の為にはね、全部捨てないと無理なんだよ。大事な人も、大事な居場所も、大事な物も、末には自分自身のこころも捨てないと、理想って奴には辿り着けないんだ"」
Kが先生のロールすらやめて言う。
永い時間を一等煌めいて、最早前も見えない立場に居た、選択の話だ。
「"求めるそれ以外全て捨てて、追い求めた一等星だけを必死に掴むんだ。例えその星以外なにも夜空に広がってないとしても、いつまでも掴み続けなければならない。真っ暗で孤独な夜空の中、寒々しい空気を肺に必死に詰めて──息が絶え絶えでもやり切らなきゃならない"」
Kが生きた世界では、産まれながら特別な者は誰1人として居ない。誰もが親を知らないからだ。
等しく産まれた時は親より2つ下の階級に産まれ、機械的に集団として育てられる。4よりも下はないから、子供達は等しく4か3。Kも4だったから、1等になるだけの努力は重ねてきた。
自分の足で登り続けなければ、何処までも落ちるだけ。最下級の4級市民として過ごすしかない。
……大人になっても幼少期から階級が変われないと、本当に辛いのだ。
「"いい? 理想を求める人生はね──途方もなく長くて、永くて……険しいんだ。そんな道を歩いている時にふと後ろを振り向いた時、かつて犠牲にした全てが後悔って名前になって押し寄せる"」
Kはまだ恵まれて居た。
たった350年で一等市民にまでなれたのだから。
その為に友人も恋人も捨てたし、100年を路上で過ごした。
ゲームや音楽だって1等になって初めて触れたくらいで、それまではずっと仕事と国からの信用を重ねる日々だった。
規則を守り、時間も感情も記憶も性別も性格も容姿も尊厳も選択も──全て捨てた。
そうして頂きに至った。他と比べればまだ恵まれた道を進んで一等星を掴んだ。
そして辿り着く為に支払った内の幾らかを買い戻して、後悔が津波となって押し寄せた。
そうして今は、もう掴む意味もない星を掴み続ける為に、過去の犠牲を意義のあるものにする為に、必死に幸福なフリをし続けている。
そんなどこにでも居る、死人のように生きる…見てくれだけは良い
「"ホシノちゃん──君はそうなりたい? いつか今を思い出した時に後悔しないって、私とみんなに向けて約束できる?───君自身に、約束できる?"」
だからこそ、Kは似たような過ちを犯そうとするホシノが許せない。
一等星になろうとする者達を見てられない。隣にある幸福を理解しないのを許容しない。
例え相手がAIだとしても、人間だとしても変わらない。
元が絵と文字の再現体に過ぎなくとも、真摯でなければ自分自身を許せない。
「それは……」
しかしホシノにとってそんな事情は知りもしないことだ。
その言葉がどれだけ重たいのか、どれだけの熱を込めてるのか、眼を閉じたホシノにはわからないだろう。
それでも──その声がとても優しくて、温かくて、自分を思って言っていることは伝わってくる。
「"ホシノちゃん、もう一度聞くね──今、君はどう思ってるの?"」
Kは再び問いかけた。
その選択に後悔はないのか?…と。
「…………もう、やりたくない」
「──うん、"分かった。後は先生に、大人に任せて"」
答えは得た。
とっくの昔に限界を迎えていた迷い子は、この時初めて助けを求めた。
ならば、後は先生として……或いは先輩として、迷い子が帰りたがっている場所に届けてやるだけだ。
「ククク……彼女の弱音を引き出しましたか。──それで? 契約は既に締結されました。先生、あなたの出来ることはどこにもありませんよ」
「黒服さん…あなたには感謝すべきことがあります」
「……ほう?」
ケユメ先生が黒服に一歩近付く。
「あなたが居たおかげで、ホシノちゃんはあの日…
Kは僅かにひび割れた大人のカードを、>>1からのサプライズを取り出した。
「──バカな。なぜそれがここに? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ?──いえ、いえ、それよりも──」
その言葉に隠された情報を繋ぎ合わせ、仮説を立て、黒服は一つの結論に至った。
先生として振る舞う生徒、ドッペル、ゲームのベール、バグ、それらを逆手に取るならば……。
「だから私も──ホシノちゃんの先生として、責任を果たします」
「──
"大人のカードを使う"
黒服が思わず立ち上がるが……その疑問に答える者は居なかった。
大人のカードが光り、その要望の難易度から完全に砕け散り──それに留まらず、カードを掴んだ右手から、ユメの身体までヒビを入れていく。
「なんと愚かなことを……! そのカードを使わずとも、私に言えば契約に則り完全な蘇生くらい──」
「そんな犠牲を産む選択に頼るのは間違ってるから。"私は私のやり方で責任を取るよ"」
「大人のカード」とKは名付けた物の実態は、ゲームからみればお問い合わせ機能の優先処理機能に過ぎない。
運営である>>1が優先してタスク処理しようとするお問い合わせに過ぎず、本当にやってくれるのかも>>1次第の物だ。
「──ク、ククク! ああ! こんなことが! あり得るのですか!? 素晴らしい!」
しかしだ。ブルタフの>>1は簡単なオブジェクトくらいなら容易く作り、他者が作ったプログラムもそこそこの時間で実装出来る。
そもそも手抜き工事とはいえ、今現在進行中のイベントを処理しながらKの様子を片手間に鑑賞しているくらいには処理能力はあるのだ。
「"──契約は否定した。もう貴方がホシノちゃん達に関わる必要は無くなった"」
ユメのアバターが剥がれ、その内側に収まっていた先生の姿が露わになる。
本来なら汎用の男性アバターなのだが……様々なバグが重なった結果だろう。
それはKのリアルの姿を参照し、先生のアバターに反映された。
「……え、なんで…先生の対価になるつもりだったのに…」
「──ユメ先輩!!」
「わぁ!? 急にどうしたのホシノちゃん!?」
棺から困惑しながら出てきたユメに、ホシノが抱きつく。
元々溶けていた死体だったからだろう。全裸のユメの恥部が隠れるようにホシノは抱きついた。
……一応他意はないと、事前に言っておこう。例え胸に直で頭をぐりぐりとしても、再開の喜びの表現である。
「"同時に、ユメちゃんの
三つ編みに編まれた黒髪と、黒縁の眼鏡をした…20代ほどの喪服を着た女性が…Kが言う。
黒手袋をした左手で黒服を指して、無感情の顔で──どこまでも深く覗き込まれるような真っ黒な双眸で、黒服を見る。
「……許されるならば質問を」
「"この容姿になった以上、今の私は仕事モードであることを念頭に。一つだけならよし。それから、クリアした以上貴方がこの情報を過去に送ることは出来ない"」
周回対策を見抜かれている。
内心で冷や汗をかくが、表面には出さない。
相手は下位の世界とはいえ、その中でも社会的に上位に位置する立場だ。
失礼があってはならないと、黒服は襟を正した。
「"そうか別世界か。しかしそのスタンスなら対応は不要だな。第8次は起きないと判断する。あくまでもゲームだけの付き合いであること。世界間の交流はその程度に収めるよう調律しよう"」
「……なにを」
「"ああ失礼した。この眼は勝手に読心するからいけないな。それより質問は? 先に言っておくがこの程度の怪奇はまだ安牌な方だし、我々は其方を侵略するつもりはないし、其方からやってくる脅威だけ片付ける予定だ。個人の取引なんて考えず、利益も不利益もない関係をオススメする"」
次々と与えられる情報に、今度はコチラが眼を眩ませる。
話が速い。余りにも速すぎる。これが徹底的に管理された超文明の速さかと、思考が思わず止まる。
なにせ考えただけで情報を抜き取られるのだ。交渉のテーブルに付く暇もない。
「"ん、質問はもうないのか。なんだ結局質問はしなかったな? では私はそろそろログアウトしよう。もうじきクリア判定によりアビドスが一新される"」
「……なら、貴女の名前は?」
聞きたいことを片っ端から伝えられた以上、黒服が出来た質問はそのようなものだった。
ビジネスマナーによる、反射のような質問だ。
「" K 。生憎名前は全て買い戻してないし、この眼と容姿も己の血を辿って模倣し成長させた、ご先祖に連なる者の異能と姿でな。私のルーツを表すものと言えばそれだけだ。じゃ、さようなら──霧が晴れたらまた会おう。千の歌でも謡いながら…てな"」
まるで嵐のようにそう言い残してソレはひらひらと緩く手を振りながら虚空へと消える。
「……なんなんだ、アレは……いや、それよりも──」
しかし感傷に浸る暇はない。
「わ!?」
「揺れて…!」
地面が…否、空間が揺れる。
外で荒れ狂う沼地と海がもうじき消え去り、それと共に時間が巻き戻るのだから。
それも連邦生徒会長が行うものとは訳が違う。世界が向こうのゲームに合わせて自ら過去に足を運ぶのだ。
何が起きるのか、何が変わるのか全くの未知数。
ゲマトリアはベアトリーチェの福音から、未来から送られた情報を印刷する道具や過去に送る物もあるが、こんな事例は初めてのことだ。
「……ユメ先輩、今度こそ、何があっても守り切ってみせます」
「──大丈夫だよ、きっと。あの先生、ちゃんとお仕事は真面目にやり切る人だから」
そうして黒服があーでもこーでもないとしている中、ホシノは棺の中で肌が触れる距離をキープする。何かあれば直ぐに避ける為だ。
しかしユメの方は違う意見なようで、リラックスしたままホシノの手を握る。
そんな呑気な様子を見てしばしぼうっとして……それから、ホシノはやれやれといった風にかぶりを振った。
「どうだか……あの人、忘れ物とかしたり海を泳いで渡ったんですよ? 正直不安で仕方ないんですが……」
「あはは……まぁまぁ、誰だって休みの日は気が抜けるよ。大丈夫、誰も死なないし、忘れないよ」
「……もう、仕方ありませんね。3度目の正直ってことで、今回も信用しますよ」
もう既に2回この先輩に裏切られたけど…と、そう内心で独りごちて、ホシノはユメに寄り添った。
何回も心配させた先輩だが、なんだかんだ生きて帰ってきてはいるのだ。
だったら、死なないという言葉は信用してやってもいいだろう。
世界が過去に戻る刹那に、会話が交わされる。
「……すごく待ちましたよ、ユメ先輩」
「うん」
「過去の周回とか、難しいことは分かりませんけど、帰ってきてくれてありがとうございます」
「うん」
「随分と長い悪夢を見ていた気分です。正直、今もこれが夢じゃないかと思ってます」
「うん」
「……今度こそ、一緒に卒業しましょう。先輩の席、留年って事で取ってありますから」
「……そこは卒業させてて欲しかった!」
「おい先輩…いや、同年だからユメか。おいユメ」
「ひぃん…冗談だよぉ…」
「失礼、長年の鬱憤が溜まってました」
「ひぃん…」
世界の揺れが一層激しくなり、全てが巻き戻るようにぐるぐると忙しなく動き始めた。
「……待っててくれてありがとうね」
「……ええ、今度は直ぐに帰ってきてくださいね」
「失踪前提!?」
「胸に手を当ててください。思い当たる節が一年以上あると思いますから」
「流石に365個以上はないよ! 100個くらいだよ!」
「すごいですね、1つ1%でも100%失踪ですよ」
「……分かったよぉ! 今度は頑張るからぁ!」
「はい、頑張ってください。私を心配させないくらいに」
「手厳しい…」
「そのくらいユメが大事ってことで」
「おおう…言うようになったね、ホシノちゃん!」
「おじさんになるくらい頑張りましたから」
建物が崩壊し、海が空を昇り、沼地から砂漠が露わになる。
沼の主である巨大な……ムカデと鯨が合体したような影が遠くで空に昇るのを見て、2人は終わりを悟った。
それでも会話はやめない。周囲の異常なんて、今まで会えなかった寂しさを埋めることよりも重要では無かったからだ。
「ならさ、おじさんのやつやって!」
「いやー、そんな事言われてもなー? ほら、おじさんも調子悪い時もあるしさー? おじさん構文風に喋るのって疲れるんだゾ?」
「おー! 先生の時から思ってたけど、ホシノちゃんもすごく成長したんだねー! えらいえらい!」
「あーはは…ちょっとユメ先輩入ってますけどね」
「私ホシノちゃんからそんな風に見られてたの?」
「……頼りになって優しい先輩とは見てましたよ」
「わぁ! ホシノちゃんがすっごくデレた! こりゃ家宝ものだー!」
「……もう言いません!」
「なになに? もう恥ずかしくなっちゃった? 可愛いやつめー!」
宴もなんとやらとはよく言ったものだ。
2人の身体が空に浮かび始め、この奇跡の出会いの終わりをお互いに理解した。
「──絶対に!! 絶対に帰ってきてください!! 忘れちゃっても、何もかも消えても!! 一緒にアビドスを冒険して、バカやって、一緒に居ましょう!!」
こぼれた涙が先んじて空へと昇る。
繋いでいる両手を手放せばもう会えないだろうから、力の限り握った。
「──うん! 約束する! 任せてよ、私、約束は絶対に守るから!! だから絶対、ぜーったいにホシノちゃんの所に帰るよ!! 絶対だから!!」
砂漠が、お互いの姿が逆行していく。
少し大人になったユメの姿は絆創膏と怪我が絶えないものになって、ホシノは短髪で武装した姿になる。
もうじき全ての間違いが正されるのだろう。そうなったら全てを忘れるのだろうか。
「だからユメ先輩──!!」
「だから、ホシノちゃん!!」
それは分からないが、こんな時になんて言えば良いのかは知っていた。
「「また会おうね!!」」
逆さまの重力により、2人の手は引き離された。
愛しい相手の姿が、遠くへ消えていく。
キーンコーン…カーンコーン…
「ううん…夢?……変な夢だったなぁ…」
カンカンと太陽が全てを照らす砂漠にぽつねんと、よく言えば風情のある、悪く言えば寂れた、そんな高校があった。
「それにしても変な夢だったなぁ……私1人の学校にホシノちゃんって生徒が来て、大冒険をするなんて……もしそうなったら楽しいだろうなぁ」
彼女の名前は梔子ユメ。
この砂漠に孤独に聳え立つアビドス学校(なんと借金約6億!)の生徒会長である。
因みに今年で三年になり、始業式である本日に新入生が居なければアビドス高校最後の生徒となる女の子だ。
今はほぼ自室と化した生徒会議室で起床した所である。彼女は1人だと出不精な所があった。
「……今校門に行ったら居たりして! なーんて──」
そんな風に窓から校門前を覗いてみたら……なんと短髪のピンク頭のがいるではないか。
梔子ユメ、人生初の予知夢である。これで名前まで同じだったらマジな予知夢だなーなんて思いながら、急いで髪を整え顔だけ洗って校門に走る。
彼女は新入生に飢えていた。
「……所詮夢」
「じゃな──いからぁうわあ!?」
「えっ」
しかし物事は何かと上手くいかないものだ。
急いで走って転び、なんなら新入生候補まで巻き込んですっ転んだ。
先輩の面目(物理)を潰すRTAがあれば世界を狙えること間違いなしだろう。
「イタタタ…誰ですか!?」
「小鳥遊ホシノ! 今日アビドスに転入する自慢の後輩!……で、間違いはないでしょうか!」
「失踪連発するダメダメな先輩こと梔子ユメ先輩の後輩なら私で間違いない…で、す、け、ど! こういうのは自己紹介からでしょうが!」
「…………ふふふ!」
「…………うへへ!」
そうして揉みくちゃなままお互いの顔を見つめ……お互い、夢が本物だったのだと理解して、思わずおかしくなって笑いあった。
あんな別れの後にこれはしょーもなさ過ぎると、もう少し感動的にしようよと、どこか変なテンションで言い合う。
「──はぁ、おっかしい……アビドス高校3年 梔子ユメ! 今日からよろしくね! ホシノちゃん!」
「全くですよ……はい、アビドス高校1年、小鳥遊ホシノ。またよろしくお願いしますよ、ユメ先輩」
そうして相手の手を握る。
あ、そうだモモトーク交換しないと。え、今気にするのそこですか? 連絡 大事 私 オボエタ。猿人類になってどうするんですか先輩……。
そんなことを話しながらその手は決して離されなかった。
──青い春が、砂漠に訪れようとしていた。
仕様No.3
ふんわり世界通信
ブルアカとブルタフが影響し合うテクスト、もしくは接続率。
>>1は預かり知らぬことだが、「プレイヤーがやった結果」、「本来の歴史から外れた生徒の選択」がふんわりと自然な感じに相互に影響し合う。強くつながると世界とゲームが重なる。
どんな風に、どれくらい深くつながるかはその時折。>>1の気合いとバグり具合によって決まる。
基本的にバグるほど影響度合いが強い。
[System Message]
・vol.1 対策委員会とアビドス生徒会編 clear
・next→vol.2 時計じかけの花園編 New!
・別VRサーバーに失踪していた生徒が全員救助されました!
・vol.1の攻略により原作に近づきました!
!danger!
・アビドス砂漠の砂に付与された幻覚作用がそのままです!
・廃棄弾がより凶悪になっています! 対処をお願いします!
・トリニティに別VRサーバーの痕跡が残留しています!
・百鬼夜行に怪奇の流出を確認! プレイヤー「K」の認識を経由して怪談が強化されました!
・山海経で特殊な薬剤技術が発展! 確認をお願いします!
・ハイランダーで時刻通りの運転が難しくなってるようです!
・魔王の発生が確定しました。フラグの未確定化をお願いします。
・超人が時間の流れに違和感を抱いているようです。
…………
……
…
(それ以降もバグを直した>>1の管理者UAに異常の知らせが続いている)