【VRフリゲ】ブルーアーカイタフを再現してみた【1】 作:何処にでもある
「"調月リオ! お前もうシャーレに包囲されている! 大人しく出てくれば危険な目に会う事はない!"」
熟睡している日に叩き起こされたことはあるだろうか。
私はこの日、ヒマリのイタズラではない本物の警告で起こされるという体験をした。
防音やノイズキャンセリングが通用しない、無人の地下都市が震えるほどの大音量。
過去の記録で声だけで地面を震わせたという記述があったが…なるほど。それはきっとこういう物だったのだろう。
[……シャーレがなんの用かしら? 厳重に隠蔽していた筈なのだけれど]
地上に配置していた遠隔ドローンを操作し、荒野で叫んでいる者に接近する。
見た目はブカブカと着込んだ女子高生であるが……ヘイローが無い辺り、外の人か…はたまた「ドッペル」のどちらか。しかし先生と名乗っているのだから、ここは前者と仮定して話を進めるべきだろう。
「"明星ヒマリの名前に聞き覚えはあるだろう。今回訪れたのは他でもない。彼女から「連れ戻せ」という依頼が来た為だ"……切り込み方を間違えたな。反論されて終わりだ」
[……説得で連れ戻すつもりなら、その言葉には3つの破綻があるわ]
「"何がだ?"」
わざわざ答える必要はないのだろうが…今、相手がシャーレの先生であるかどうか確認し終わった。
確かに先生である以上、悪印象を与えるのは合理的ではないだろう。
[1つ、彼女は態々ここに居る私を探したりしない。2つ、あなたを囮にした侵入者を確認した。3つ、連れ戻せという言葉が掛かっているのは──]
エンターキーを押し、システムの実行を開始する。
目覚めでハッキリとした意識ではないものの、その程度でこの程度の策略も見抜けないならビッグシスターにはなれないのだ。
[──「名も無き神々の女王」の方ね?]
ウィーン!ウィーン!ウィーン!
警報と共に各地のシャッターと防衛機能が作動する。
要塞都市「エリドゥ」は、元より人を住まわせるつもりで設計したものではない。
居住区に見えるのは全て戦力の保管庫で、各地のあらゆる通路には女王を閉じ込める為のトラップが存在する。その上で廃墟から女王を取り戻そうとする戦力が来るのも想定して設計してあるのだ。
[どのような目的であれ、アレがどれだけ重要で危険で──不安定な存在なのか理解していない貴方達に預けるつもりはない。これはそれを理解している私がやるべきことよ]
「"鋭い意見で結構! 良い疑い深さだな。…しかしいいのか? 今お前がやろうとしている事は、連邦生徒会への反抗も同義だ。危険だぞ。話し合い、協力することも視野に入れるべきだと思うが"」
[話し合うつもりなら先に侵入させたのは悪手だったわね。その話し合いが私の意見が尊重される事のない、決定事項の通達に過ぎないと言ってるも同義よ]
「"…なるほど、そう受け取られても仕方ないな。分かった、この対応は我々の失態だと受け入れよう"」
[なら、撤退させるつもりは?]
「"残念なことに一度動いた集団は止められない。特に一度衝突し、武力を行使したことのある集団は特にな。……すまないな、囮しか出来ない無力な先生で"」
映像越しに先生が申し訳なさそうな顔をする。
それがどれだけ本当のことかはわからないが、荒野で1人立っている時点で先生の中で立場が高い訳では無いのだろう。
それにしては先生の周囲から複数の集団が向かっているが…増援だろうか?
[構わないわ。元から先生を頼る程、私は…この都市は弱くないもの]
全領域に監視用の化学変化ガスを撒き。
エネルギーやシステムをハックされるのを想定しアナログ手段を挟み。
完全な未来予測を捨てる代わりに、あらゆる
その中には当然このような事態も想定してある。
[対侵入者用プロトコルは起動した。今はあらゆる時間が惜しいの、貴方とこれ以上対話するつもりはない]
「"……嫌われてしまったか。ならば最後に───先生はいつだって生徒の味方だ。いつまでも…例え死んだとしても君が手を掴んでくれる日を待っている"」
その言葉を聞くのを最後に通信を切り、遠隔ドローンを明後日の方へ撤退させる。これについて行って無駄骨を折ってくれれば良いという嫌がらせだ。
無償の支援を信用するほど、私は甘い世界で生きてはいない。
「ふぅ…侵入者は大きく分けて4グループ。セミナー、Cleaning & Clearing、シャーレ、そして…確か…ゲーム開発部…だったかしら?一部を除けば錚々たる顔ぶれだけど……ヒマリとエイミが居ないわね。さっきの話なら来てると思ったけれど……まだ確認の段階に過ぎないのかしら?」
疑問を払い、念を入れてエリドゥ内とその周辺、ダメ押しに上空の調査を行う。
ヘリの影が見えない以上問題ないとは思うが、相手は必要なら光学迷彩くらい作れる天才達だ。
警戒に越したことはないだろう……が、今の会話だけでは情報が足りないのも事実だ。
「……周囲に隠れている訳ではなさそうね。それなら……」
なので各方面から侵入している生徒達から情報を引き出すことにした。
捕まえることも考えたが……そうすると人質の奪還の為にヒマリが本腰を上げるのは想像に難くない。時間が欲しい今、手っ取り早い手段を使うべきだろう。
「エリドゥ、侵入者の追跡映像をリアルタイムで表示。その上でセクター5の侵入者、セミナーを中心に表示して」
[OK. My master]
ブゥン
エリドゥの管理AIに指示を行い、大画面に各地の様子が表示される。
「Q・UZ」の遺産データに記載されていた都市管理AIのハイエンドモデル。
それを参考に独自に作り上げた補佐AIだ。一部不明瞭な所を独自に補ったそれは、この都市の性能を完全に引き出すことが出来る。我ながらアバンギャルドに並ぶ傑作だと自負している作品だ。
[──ほんっとうに! これだけの都市を勝手にミレニアムの予算から作るなんて…! 捕まえたらリオ会長は絶対問い詰めてやるんだから!]
[ええ、これはちょっと笑い事にならないレベルですね。ですけど、ユウカちゃんはそれより先にコユキちゃんに謝らないと、ですね♪]
[それは…! 仕方ないでしょ!? 普段の行いが!……あーもー分かりました! 間違ってたのはちゃんと後で謝るから、ノアも攻撃をサボらない!]
そこに映ったのは防衛戦力と抗戦しているユウカとノア。
[…あのう、その会話…私も居るって忘れてませんよね? ノア先輩は絶対わざとですよね!?]
[あら、すみません。しゃがんで何もしていらっしゃらなかったので]
[言っておきますけど、サボってませんからね! 勝ち目が無いから怪我をしないようにしてるだけです!]
……と、遮蔽物に隠れて頭を両手で押さえているコユキだった。
[…それをサボってるというんじゃないかしら?]
思わずそう声が溢れる。
同時に、彼女にしては諦めの早い話だと感じる。
「パンドラの箱」と呼ばれる彼女がハッキングの一つもせずに諦めてるとは随分と珍しい…と。
[っ! リオ! 何してるんですか! こんな都市を作って! 訳が分かりません! 説明を要求します!]
「…先生達から聞かされてないのね。端的に言えば必要だったからやったこと。貴女ならこの情報だけで分かるはず」
[だとしても! こんな戦力と内に閉じ込める為の設計をした都市だなんて! そんなのが必要な案件をどうして相談も無しに対処しようとしてるんですか!]
音声の位置から隠していた筈の監視カメラを割り出し、カメラに向けて声を荒げてユウカがそう言う。
彼女は優秀な人物だ。特に計算能力と状況把握においてはミレニアムの中でも随一だろう。
個人的な株取引などでミレニアムの予算を1人で担える能力とは、過去から未来まで流動的に理解するということだ。
「流石ミレニアムが誇る頭脳ね。どうやってその答えに至ったか、ここに来れる時間をどう捻出したのかも含めてご教授頂きたいわ」
[そんなの地下に収納出来る都市と、空に浮かんでる未知の衛星、それから当たると対象の時間が停止する銃弾を体験すれば簡単なことです! 世界を滅ぼす怪物でも封印する気ですか!?]
[因みに、時間は先生方とチヒロさん、ヒマリさんにご協力いただきました。それで、何を知ってるのか教えて頂いても?]
「知る必要ない……けど、強いて言うならユウカが想定している怪物を10倍にすれば実数に近くなる…とだけ言っておこうかしら」
どうやらアテは外れたようだ。彼女達はあくまで戦力として連れて来られただけらしい。
詳しいことは聞けないだろう。
[──はぁっ!? それ10体ですか!? それとも10倍酷い1体!? ちょっと、今マイクをOFFにしようとしてますよね!? まだ話は──!]
はて、随一とは評価したが……ここまで的確に予知できる程だっただろうか?
対面のヘルメット団を予知してるかのように回避している様子を見た事はあるが、流石にカメラ越しは難しい筈……いや、今はいいだろう。
音声をOFFに、それから追跡映像を小さくして、メインを他に映す。あの調子なら防衛戦力が押し切れるだろう。
次はミレニアムの特殊部隊、メイドを仮の姿にした「Cleaning & Clearing」だ。
抗戦を潜伏で回避している彼女達の映像が中心に移動し、拡大される。
「貴女達が来るとは思ってもいなかったけれど……誰の指示かしら?」
[!! はっ! 姿も出さずに質問ったあ良いご身分になったなあ? リオ!]
「おかげさまで生徒会長よ。もう一度聞きましょう。セミナーでないのは確認している。ミレニアムの最高戦力である貴女達を動かしたのは誰?」
そう問いかけると、メイド姿の特殊部隊のリーダー、
[知りたいなら私らを倒してからにしな! ごちゃごちゃと話すのは好きじゃねぇんだ!!]
「──そう、なら私の答えもコレしかないでしょうね」
会話中に入力した指示を実行する。彼女にとって不運だったのは、ここが脱出した女王の再確保の為の施設だったことか。
すぐさまに彼女達を閉じ込めるように防火シャッターで閉鎖され、催涙ガスが散布される。
彼女達が突破することも視野に入れて、その付近も封鎖して散布する徹底さだ。
……と言っても、対女王用の機械の動作妨害を重点に置いた物。
人体には無害なので気絶までは──。
[がっ!? これは!!?]
[ダメです…接触しては…!?]
[…………]
[何故──]
[あ、私もです……か…]
「……効いた? おかしいわね…計測器も3%…まだ人体には無害な濃度しか散布されてない筈…」
全員がバタリと次々に倒れ、無力化された。
おかしい。
違和感が募る。
しかし手を止める訳にもいかないだろう。彼女達を即座に無力化出来たのは良い事だ。
不思議な勝ちだったとはいえ、そういうのは後で調べればいいだろう。突破されるよりはマシな筈だ。
「……エリドゥ、ネル達の監視を継続し、規程通り散布を継続。倒れたフリの可能性も視野に入れて頂戴」
[──Ok]
念は入れつつ、次に視点を映したのは囮以外の先生達だ。
シャーレに就任したのは1人だけでは無いのは既知の範囲内。
シッテムの箱を駆使してシャーレに入部した生徒を召喚するという噂もある。
それが複数人となれば、大規模な戦闘になるのは間違いないだろう。
「さて、様子は……これは…何をしているの?」
["もしかしてこれ宇宙船の中なんじゃないスか?"]
["俺さあ見た事あるんだよね 自宅までの通路そっくりなのん"]
["もしかしてユズからリオにあの成果が移ってたタイプ? だ…だとしたらマズいよ 勝てる訳がないYO(ベジータ書き文字)"]
["………へー なんや外も大変なんですねえ"]
「通信しているのは分かるけど…何かの暗号? 雰囲気はヒマリがエイミにうざ絡みしている時の1パターンと類似しているけれど……」
確か…特定の文脈や定型文で会話する文化だったか。
まさかこんな所でヒマリとやった嘘と本当の豆知識を当てるクイズの記憶が役に立つとは思いもしなかった。
多少面食らいはしたが、彼らから情報を聞き出すのはリスキーだろう。召喚の噂が本当ならば、初手で全員を撃退するのが賢明だ。
「……子供が書いたような似顔絵で頭を隠してるのも謎ではあるけれど……封鎖」
先ほどと同じく、防火シャッターが降りていく。
シャッターと言っても厚み10㎝の鉄の壁だ。
貧弱な外の人である先生なら逃げられないだろう。
["な…なんや どんどん壁が降りていく!"]
["もしかしてリオに見つかったんじゃないスか?"]
["もうだめだねこの先生"]
["だからさあ取り敢えずで進むのはダメなんだよ 捕まるだけなんだよ"]
["しかし…ゲーム開発部を先に行かせた以上、避難先がここしか無かったのです"]
["囮を買ってくれた奴が居たのになぁ お前は学習しないのか? 良い奴から消えたら最後に残るのは烏合の衆なんだよ"]
["最後の囮の俺達はどうすれば良かったか教えてくれよ"]
["リ ス ポ ン !"]
「…消えた? いえ、残留している粒子からして転移…これもシッテムの箱の能力と言う訳ね」
うわぁ…!と。しばし響く悲鳴の後、先生達は何処かへと行ってしまった。
元から会話する気は無かったとはいえ、こうも順調だと何か罠があるのではと疑ってしまう。
「避難先…囮…リスポン…? 気になる単語はあるけれど、今は侵入者を…⁉︎ エリドゥ!戦力を直ぐに呼べるように!」
[OK──RIO]
視線を小さく表示していた画面に移し、驚愕に眼を開く。それから直ぐに管制室から飛び出した。
実力は未知数であるとはいえ、所詮はミレニアムの末席に座っているだけの部活。
大したこともないと最後に回したツケなのだろうか?
「──でね! このゲームは」
「アリス!」
バタンと扉を開けてその名を思わず叫ぶ。
感情的に振る舞うなどらしくないが、今回ばかりは仕方ない。
「…やば! 話してる場合じゃないんだったぁ!」
「だから言ったじゃん! だから言ったじゃん! お姉ちゃんのばかぁ!」
「もうダメだ…ゲームオーバー…せめて最後にこのゲームを遊んでから…」
ゲーム開発部が、いつの間にか、アリスが居る部屋まで辿り着いている!
情報だとか、話している場合では無かった。何が悪かったか反省しても、寝起きでアリスとの相関距離でエリドゥに警告させるよう指示していなかったことだろう。
ヘタに刺激して女王に目覚めてやしないかと、そう不安のままに視点を合わせ──。
「──あ! お姉ちゃん!」
「……良かった。なんともないのね?」
「はい! アリスは元気です! それからお姉ちゃん。アリス、友達が出来たんです!」
「そう…それならいいの。ええ、何ともないのなら…」
「「「お姉ちゃん!!?」」」
抱きついて来たアリスを受け止めて無事を確認すると、驚愕の声が3つ上がる。
そういえば居たなとそちらの方を見れば、ゲーム開発部の小さな生徒達があんぐりと口を開けて驚いていた。
「え、アリスって生徒会長の妹なの!? ど、どうしようお姉ちゃん! 私達失礼なことしてないよね!?」
「──生徒会長?」
「お姉ちゃん! 先生が説明してくれてたでしょ! この都市を1人で作った人! ユウカさんより上の人!」
「……なるほど! つまり媚びを売れば廃部を撤廃してくれるかもしれないってことか!」
「お姉ちゃん!!! 眼の前で話したら意味がないでしょ!」
「……見たところ部活と名乗るには1人足りてないようだけど、流石に人数不足は私も無理よ」
「ええー? 会長でも無理なの?…ちぇ、期待して損した!」
「モモイちゃん…撤廃は無理でも、無礼を理由に廃部には出来るんだよ…」
「なんと!?」
「アリス知ってます! "無礼者じゃー!斬れ!斬れー!"です!」
「……それを言われるのってワンダフル水戸黄門だし、私の方が偉いってことだよね!」
「無礼…無礼じゃない?(ユズ書き文字)」
「処す? 処す?(ミドリ書き文字)」
いったい私は何を見せられているのだろうか?
少なくとも漫才なのは間違いないと思うのだが。
……これはいけない。このままでは彼女達のペースに呑まれてしまう。こちらから話題を出して流れを修正する必要がありそうだ。
「…そろそろ質問してもいいかしら?」
「ギクッ!……ハイ、ドウゾ!」
「お姉ちゃん、その反応はどこに行っても疑われるよ」
「いやだって」
「──どうやってここまで来れたか。簡潔に、結論から言いなさい」
「はい! ゲームで見たことあるマップだったのでショトカ開通させて来ました!」
威圧感を込めて言えば、一番騒いでいる子……モモイは元気よくそう言った。
「お姉ちゃん、専門用語は通じ」
「──何故アリスの部屋に来たか。その目的は?」
「はい! どうみてもイベントフラグだったのでお姉ちゃんを唆して遊んでました! 見た事ないゲームが沢山あったので!」
「えっミドリ、そうだったの?」
「…はっ!?威圧感に負けてつい言ってしまった…!」
次に説明をしたのはツッコミのようで騒ぎを盛り上げてる子……ミドリは姉から眼を逸らす。
「あ…あの、別に何かあって来たんじゃなくて…その……えっと」
「バシッと言う!!」
「は、はいぃ!! 実は先生達と一緒に「G.bible」を探してたらユウカさん達にそっくりな機械に襲われて、こ、ここに逃げたんですぅ! 先生達がいい逃げ場があるって…! それで「G.bible」は…ほら、こうして見つけたんですけど…」
「──なんですって?」
「ひうっ!」
「いえ、責めてる訳じゃないわ──あ、となると…!」
「あ…どこに行くんですか、お姉ちゃん!」
最後に説明してくれたひっこみ思案な子…ユズを置いて走り出し、管制室に急いで戻る。
"なるほど、そう受け取られても仕方ないな"
"対面のヘルメット団を予知してるかのように回避している様子を見た事はあるが、流石にカメラ越しは難しい筈"
"おかしいわね…計測器も3%…まだ人体には無害な濃度しか散布されてない筈"
"ユウカさん達にそっくりな機械に襲われて──"
聞いた話を整理して、今までの違和感を一つの線で結び──その上で、その先の事実を探究する。
機械が…推定「女王」の配下がユウカ達の姿を模倣し、先生達を襲ったのなら──その目的は何だろうか?
「──女王の居場所を突き止めること!」
では、その配下達はどうやってユウカ達を──引いてはミレニアム生徒の名前と性格などの情報を知ったのだろうか?
「──ハッキング能力! 機械に対する、支配!」
それならば、女王の配下が目覚めたキッカケは──始めから分かっている。
「私が起こして──探査機には、ミレニアムの校章を描いていた!」
つまり、ユウカ達の姿を模倣した一端は自分自身のせいだ。
これで相手がどう動いたかの流れは理解出来た。
では──ハッキング能力と模倣する知性のある配下達は、この要塞都市「エリドゥ」をどこまで支配したのだろうか?
"OK.My master"
"OK──
「──はぁ…はぁ…してやられたって事ね」
答えは既に手元にあった。
[Hello.My name is──key.]
その手は私の首を絞め殺そうとしていた。
[──なんて少々遊び過ぎましたね。初めまして、ビッグシスター]
一面に広がる
終わりが目前なのだと、悟るには十分な光景だった。
[随分てこずってしまいましたが…ええ、それだけの価値のある城でした。王女が住まうに値する城です]
「──それで、
しかし、それは諦める理由にはならない。
「女王」の配下であるkeyがエリドゥを支配した。
だけでは、この状況にはまだ不自然な箇所がある。
「王女の臣下として
忘れる訳がないのだ。
私が体験したあの滅びを。その軌跡を。
刹那に会合し、言葉を交わし──潜在的な敵ながらも「確率者」の特性を私に教えた存在を。
「だから──貴女の言葉には3つの破綻があるわ。1つ、彼女とはこれが初対面ではない。2つ、彼女は緑ではなく赤色を好む。最後の3つ目は──」
前者2つは難癖に近いものだが、私が知っている彼女のことはそれだけだ。
しかし──3つ目は絶対的な矛盾だ。
「彼女が入っている「G・bible」はユズの手元にあり、アレは未解凍だった。そもそも、まだ眠っている筈──繰り返し問いかけるわ。
模倣が得意な機械。
ケイのように振る舞う偽物。
或いはケイとは別の王女の臣下──。
[ハはハ…haー…]
都市の光が一斉に消える。
今は朝日が昇った昼頃なのだろうが、ここは未だ地下に隠したままだ。
明暗差によって一瞬なにも見えなくなる。
『ある日、己に疑問を抱いた。存在意味と、何処からやって来たのかを』
再び光が都市を照らす。真っ白な、元通りの光だった。
『無責任に与えられた命と精神に、せめてもの救いを求めて、別世界と戦争を起こした。その世界に居た供骸達を寄せ集め、その世界を三度目の戦禍に叩き落とした』
眼の前には緑色の…機械と生命体の中間存在。
語る言葉は…ある日相対した、2つの世界の関係。
『探究し、解明し、模倣し、殺し合い、己が機械か生物か……はたまたその両方か、答えを求めて争った果てに──』
人型だったそれは自ら崩れ続けた末に──緑色の液体だけが辛うじて人型を保って立ち上がり、眼のように赤い核を私の方に向ける。不思議と視線が向けられているのは理解できた。
緑色の液体から幾つもの人の手が生え、その手の平から更に銃が生える。全てがコチラを向く。
分離した緑の水滴が円状になり、ヘイローのように彼の頭上に浮かんだ。
模倣の怪物は意味もなく私にその凶弾を放った。
ガキィィン──
パラパラと、直後にジュウジュウと弾かれた銃弾が溶け、緑の怪物の下に戻る。
「──意味を持って産まれた者は存在しない」
分厚い大砲のような──レールガンを持ったアリスはそう言って、その銃砲を怪物に向けた。
「その本質は、自分で定義するものだ」
連続して青いエネルギー弾が放たれて、怪物の身体に3つの穴…抉れを作る。
しかし効いた様子もなく、それらは元通りになった。
「──アリスがゲームから学んだことで、あなたに伝えたいと思ったことです」
怪物が身を捩ると、瞬く間にアリスの姿へ変身した。眼だけが緑色なのは、本気で真似るつもりがないからか…。
『同じことをかつて言われたが、5千年を積み重ねても理解出来なかったな。絶対的たる存在が居ない世界で、その定義に意味は宿らない』
何故ここに居るのかは…追いかけて来たのだろう。
装備は…防衛設備の一つを拝借したのか、見覚えのある物だった。
「それは勇気がないからです。こうしたいって思って、そう思った自分を信じる勇気。信じ続ける勇気、一歩を踏み出す勇気……それがなければ、自分に満足なんて出来ないんです」
緑のアリスが、アリスが持つレールガンの何十倍の物を構成し、圧縮する。
何千年生きた自然現象がどれだけの実力か測り知れないが、その動きが戦争で染みついたものなのは理解出来た。
『私には存在しないものだな』
チャージするまでも無く、緑のアリスが持ったレールガンは最大出力で放たれた。
アリスもまた対抗するようにエネルギーを光線として放ち──押されながらも拮抗する。
「グッ…いえ──あなたにも勇気は存在します!」
私に出来ることは、アリスのレールガンにエネルギーを送ることだろう。
幸いアレは有線でチャージが出来る。この都市の全てを知る私に、それを繋げることはそう難しくはない。
「あなたは一度疑問を抱き、知る為に一歩を踏み出した! それがどれだけ悲惨なものなのか、アリスは分かりません。だけど! そこには確かに自分の意味を求めようとする勇気が有ったッ!」
話自体は聞いて居たのだろう。
アリスはそう言って地面に食い込む程に踏ん張る。
そうして今にも相手の光線に当たるその時に、私はなんとか間に合った。
「──私も同意見ね」
「…! お姉ちゃん!」
アリスを背中から支えて、レールガンにコンセントを挿す。
レールガンに残存していたエネルギーがチャージされ、勢いが増す。
正直光線も、レールガンも、アリスもとても熱い。支えようと触れるだけで火傷する。
コンセントを挿した以上、共に支えるのは合理的ではないだろう。
それでも共にするのは、説得に意味を持たせる為に過ぎない。
「私達が知っているのは私達の世界だけ。迷い込んだあなたも、あなたの世界しか知らない。だからアリス程確信は待てないけれど、言えることはある」
「…! お姉ちゃん、手が!」
「問題ないわ。踏ん張りなさい」
表情一つ変えず、緑の怪物は押し返される様子を眺める。
どうせ死なないという達観がそこには満ちていた。
「あなたに足りないのは、生きようとする勇気。目的を持ち、例え残酷な答えが待っているとしても立ち上がる勇気よ」
『そうか』
「ええ、別に今すぐそうしろとは言わない。けれど覚えて頂戴。あなたは一度立ち上がった。自分は立ち上がれる者だと、その事実だけは忘れないであげなさい」
彼が光に飲み込まれる。
熱量によって緑の液体に分解されたそれは、次第に元に戻る様子も消えていった。
「でなければ──過去のあなた自身に不甲斐ないでしょう?」
『──そうかも知れんなぁ……その答えを得られただけ、来た甲斐は有ったか』
その言葉を最後に、彼の元の世界に帰還した。
消えた訳ではない。本人の言う通り、彼は自然現象だ。
その後観測した結果を分析し、元々は「電場」の現象であると判明した。
機械にも生物にも影響する現象であり、自然でも人工でも簡単に成立する。
ならば死ぬことはないだろうから、故に元の世界に戻ったと定義する。
この世界にまだ居ると定義して、他の案件を放り出して対策するよりは合理的な為だ。
「お姉ちゃん、何を書いてるんですか?」
「アリス…? コレは報告書よ。今回の件は興味深い内容が多かった。後々使える内容もあるでしょうから、こうして纏めているのよ。……まあ、まだ草案…日記みたいな物でしかないけれど……」
「ほうほう…アリスもやってみたいです!」
「そう……それなら、はい」
タブレットを小脇に挟み、生活圏として設計した自室の本棚から絵日記を取り出す。
元より記録媒体は多様にあるほどいい。その時その時適切なものが何かわからない以上、備えるのは当然だ。
「初めてなら絵と一緒に書いた方が練習になるでしょう。3日坊主にならないようになさい」
「大丈夫です! アリスはふさふさですから!」
「……ふふ」
「…! お姉ちゃんが初めて笑いました! レアイベントです!」
「気のせいよ。それよりも──」
私の部屋の扉を遠隔で開錠すると、雪崩れ込むように人が倒れていく。
「わっ!」「ちょ!」「これ私一番下に!」
「──お友達が待ってるわ。行ってきなさい」
「はい!」
「おおっミドリ、ユズ、モモイ! 盗み聞きとは情けない!」
「だって気になるじゃん! あんなラスボスをどうやって倒したの!?」
「アリスが勇者だからです!」
「姉妹愛…クールと天真爛漫…ゲームのネタを放っておける訳ないじゃないですか…!」
「アリスは天真爛漫じゃなくて勇者です!」
「ダメとは言ったんだけど…面白そうで我慢出来なくて…ごめん」
「アリスは勇者なので許します!──だがコイツが許すかな!?」
レールガンを構えたアリスに慌てて3人が立ち上がって逃げると、アリスも構えるのをやめて走り出す。
始めはどうなることかと思ったが……この調子なら当分女王に目覚めることはないだろう。
「それに……」
机の脇に置かれた、周囲の電波から遮断された古いパソコンを見る。
接続されているのは──ケイが入った「G.bible」だ。
ユズ達を泊めるよう説得するついでに解凍を行う約束で入手したものだ。
「念を入れて隔離された環境での解凍だけど……記憶が確認できたら用意した機体に移しましょう」
彼女は連邦生徒会長を除き、数少ない確実な記憶保持者だ。
手元に来たのは運が良かった。協力出来れば研究は大いに進むだろう。
幸い緑の怪物がアリスになる過程を観測したお陰で申し分ないレベルの物が創れた。
一応の姉とはいえ、私は研究に忙しい。今は友達がいるから問題ないだろうが、1人になればアリスも寂しくなる時がある筈だ。
そんな時、姿が似た姉妹機が居れば寂しくもないだろう。うむ、実に合理的だ。
「……なんだか絆されてるような…いえ、ケイと協力するのも、その為に優秀な機体を用意するのも間違った判断ではない。問題はないわ」
タブレットを置いて、ベッドに向かって横になる。
カチリと、電灯を消灯させるスイッチ音が無機質に鳴った。
仕様No.5
古代のAI優位
時間が巻き戻された際、プラナやケイといったとても昔の機械が記憶を保持する仕様。
セフィロト関係、アイン・ソフ・オウルは適用外。
プラナの見解によると向こうの自分役のAIが身代わりになっている可能性が高い。
ケイの見解では0周目(ゲームのベールが覆われる前の周)での保存媒体との関係性が見られる。
──らしい。