【VRフリゲ】ブルーアーカイタフを再現してみた【1】 作:何処にでもある
おや──まさかだと思うが…自分が勇者か分からんけぇ?(
アリスが目覚めて6日目のこと。
「貴女は…誰ですか?」
23:58 機械の動作音のみが僅かに響く深夜。
『──ふぅ、"なに、ちょっとした使いっパシリ……役割で語るならば、案内役とでも言おうか? なに、大した存在ではない。警戒は不要じゃ"』
蛙も眠る丑三つ時に後一刻でなる頃合い、みんなが眠っている時に起きた事だった。
「つまり…チュートリアルのナビゲーターですね! アリスに何を教えてくれるんですか?」
誰かに招かれているような感覚に導かれるまま適当なビルの屋上に向かった先。
アリスが案内人と名乗る存在との出会い方は、そんなささやかなだが不思議なものだった。
『"クク…そうか、
不思議な物言いをするとアリスは思う。
いや、それを言えばもっと不思議なものがある。モモイ達が言っていた「星空」のない地下の宙を眺め、それをツマミとばかりに煙管を吹かしているのもそうだが……彼女の周りで舞う蝶や白炎は、何処か幻想的でこの世の物ではない美しさを持っていたのだから。
『"さて…授けるべきは数多とあるが、最初に授けるべきは得てして己自身の事であろうな。即ち自己紹介じゃ"』
「それならアリスはアリスです! お姉ちゃんと一緒にこの都市を守って、モモイ達とゲームを楽しく作っています!」
『"さようけ。ならおのりゃあ……
プアっと煙で輪っかを作り、ヘイローのように彼女の頭上に留まってから宙に広がり消える。
その様子を見て──気付いた。彼女の頭にヘイローが無いことに。
なら先生なのかと問えば、"正しく、違う"と言う。
違うのに正しいなんてあるのだろうか。変な言い方だ。
『"なに、答えは二つあるが故に、欠けた答えは必ず間違う事になるのよ。陰陽合わさり太極であるのに、欠けてしまえばただの陰/陽。太極とはならぬが故に必ず間違いを含んでしまう"』
「一行でお願いします!」
『"二つ答えよと設問に書いてあったのに一つだけ書いたんだから減点じゃろ?"』
「なるほど! アリスは理解しました!」
つまりそういうことらしい。どうやら先生ともう一つ言うべきことがあったみたいだ。国語のテスト的に考えて案内人だろうか。
そんな感じの会話で親しみの持てる相手だと分かったところで、アリスはそろそろと言わんばかりにクズノハに問いかけた。
「クズノハはどんなクエストを受けて来たんですか?」
『"よくある怪物退治。その為に必要な物がここにあるが故、その持ち主と借り受ける物の交渉しに参った次第"』
「なるほど! それならアリスがお姉ちゃん…リオの所に案内しますね!」
怪物退治なら納得だとアリスが頷く。
この地下都市ではモンスターが現れてはリオ達が頑張って退治している場所だ。
そこにある物を取りに来たと言うのならそれは自然な流れだし、至極真っ当なお使いクエストだ。
「……あれ?」
ならば交渉すべき相手はリオだろうと、アリスは手を引いて案内しようとして──そのまま身体がすり抜けてバランスを崩した。
『"……ああ、言い忘れていたな。おのりゃあ肉の身体を持たない幽体が故に、触れることは叶わなんだ。……じゃけぇクズノハとやらに惹かれたのじゃろうなぁ?"』
「………ゆ」
『"ああ、叫ぶか。ういうい、若いもんの特権じゃ"』
「幽霊だああ!!」
ばばっと近付いて、手を何度も振りかざして触れようとする。
しかし何度やってもすり抜けて、彼女はそれをニヤけた顔で眺め続けていた。
「うわー本当に触れません! アリス、初めて幽霊に会いました!」
『"さよけ。あんまり珍しいもんでもないが……まあ、喜べる内に喜ぶがいいさ"』
「うわー、すごいです! 塩やお祓いは効いたりするんですか!? 浄化やターンアンデットも!」
『"どれも効かん効かん。地底や宇宙の彼方に落とされたらちごうじゃろうが、ただ触れようとするばかりならば何もおきんよ。魔法は…効くのと効かんのがあるな"』
「おぉ…っ!」
珍しいお客さんだとは思っていたが、まさかここまで珍しいとは思いもしなかった。
なにせ幽霊だ。ゲームでは不気味なエネミーや悔いを解決するクエストなどで出ていたが、それでもここまではっきりと姿が見えて生きてるように見える幽霊は初めてだ。
リアルはやっぱり違うんだと、ゲームとの差異に感動するばかりである。
『"さてと──仲良くなったところで、己のやりたいことを話そうか"』
「…あれ? お姉ちゃんには会わないんですか?」
『"世には話すべき者にのみ語る言葉がある。其方の家族であるリオとやらにも用はあるが……アリス、これは其方にのみこそ話すべきじゃ"』
じゅっ…と。
煙管の火を消したクズノハは、辺りいっぱいに白い蝶と黒い蝶、それから魂みたいに輝く白い球を浮かべる。
あっという間に幻想的な景色が広がるさまはゲームで何度も見たものの、実際に観るのは初めてなのがアリスで、自分だ。
眼を奪われ、視線を輝かせ好奇心の赴くままにあちこちに向ける。何年経ってもこの光景はすぐに思い出せるだろうと、なんと無くそんな感覚を覚える光景だった。
「すごいです! アリスは感動しています!」
『"まるでアンコウの提灯みたいじゃろ? この時の為に持って来た命、とくとご覧なられよ。これから──余り、面白くない話をする事になるからな"』
「え?──わっ!?」
じゃらりと。
きっと音がするのならそんな、鎖が擦れるような音だろう。
いつの間に? 眼を奪われた時。
アリスの心臓に当たる場所からは、いつのまにか真っ白で半透明の鎖が突き刺さっていた。
困惑しながら相手を見ると、彼女の心臓にも同様のものが突き刺さっている。
なにかされたようだ。
「これは…なんですか?」
『"安心せよ、「はい」しか出来なくなるだけの思考制限じゃ。ほれ、あるじゃろ? 「はい」と言うまで進まないゲェムが。今やったのはその程度のもの。じゃからアリス、其方は勇者として振る舞うだけでよい。それで全て恙無く終わる"』
「いえ、それだけじゃ…」
『"そこをなんとか"』
「い……はい、アリスは勇者らしく話を聞きます」
端的にそう告げられた言葉に、それだけでは足りないと言おうとしたが……やはり聞くべきだと思い直して肯定する。
0:04。助けの来ない深夜の刻。
アリスとクズノハの会話が始まった。
『"先ず、おのりゃあの目的は怪物退治。これは言った通りだが、相手はどうも未来を好き勝手弄る手合いでなぁ…どうしたもんかと思った所で知ったのが──其方、アリスな訳よ"』
「はい。関係性が見えません」
『"勇者にゃ関係なかろうよ。あるのは魔王、未来を消し去る滅びの女王。いやはや盲点と言えば良いか…インクを動かす相手に消しゴムはそりゃ強いけぇな。じゃけぇおのりゃあ消しゴムが欲しい訳さ"』
「……アリスは魔王ではありません」
『"不正解。言ったじゃろ、答えは二つあり、もう片方も書かねば不正解なぁ? 納得なくとも理解あれ。其方は勇者で魔王じゃろうよ"』
直ぐに否定する言葉が幾つも浮かんで、それから消えていく。
不思議な感覚だった。まるで虫食いになっていく葉っぱになったような、頭がシャボン玉になったような、そんなふわふわとした感覚。
「…はい。アリスは勇者で、魔王です」
自然と頷くことしか残らなくなる感覚だ。
『"てな訳で借り受けたいのは魔王のアリス。その未来全て消し去れる力は、未来を書き換える未来すら消す。それを貰いたい訳な"』
「アリスは1人です」
『"なにも全部持っていくとは言っとらん。きっかり魔王だけ貰う。なに、ほんの千年じゃ。久遠を生きる身であれば瞬きの内に過ぎ去るだろうさ"』
「……ここで「はい」と言わせないのですか?」
実を掴めない話だ。言葉は重なるのに、実態だけが朧げな輪郭のままに進む。
しかし、この身に受けた異常は理解できた。これは相手を従僕にする…そんな力だ。
きっとここではいと言わせられれば、今後アリスはその約束を果たそうと動くだろう。
そうなると、実際に経験したから分かった。
『"これ"』
コン。
「……?」
近付いたクズノハが、煙管で軽くアリスの頭を鳴らした。
痛みはない。それくらい軽くて小さな音。幽霊は自分から触れようとすれば触れるのだろうか、先程すり抜けた経験との齟齬に頭をひねる。
『"うら若き
「でも…その方が合理的です」
『"…姉に影響されたか? しかし流れは読めとらんな……よかろう、仮にも半分は先生じゃ。教えるけぇ"』
そう言うと、彼女はアリス達を囲っていた幻想的なものを全て懐にしまって、ふわりとしたかと思えば、瞬きする間にこの屋上の出入り口で煙管を吹かし始めた。
近づくとリオ達の方にぱっと移動する辺り、これが彼女の移動方法なのだろう。まるで幽霊か幻影みたいだ。
『"そも、怪物共を仕舞うべきは我らの世界でな。元々其方らの世界にあのような物は……外来種はおらなんだ"』
「…アリスは知っています。『影取り』のモモイが言ってました。我々は別世界の者だって」
『"ほう、きゃつらから教えられたのか。それはまた…随分と気に入られている。然り、此度の…其方らが特異と呼ぶ存在は全てこちらの不始末よ"』
消えた跡に残る僅かな煙が鼻をくすぐる。
クスクスと彼女が笑っているような感覚を覚えながら、来た道を戻る。
『"全てを肯定させぬのはその為よ。元を辿れば我々の責務なのだから、あまり強引に手を引いてはならぬ。機械もある程度人の権利は持つが故、選択は委ねる必要があるとな"』
「…機械も人…ですか?」
『"さよう。…其方、機械である自覚は?"』
ある。
アリスは勇者で……魔王かもだが、その根本は遺跡から発掘された機械だ。
それは初めから自覚しているし、成長はしている自覚はあれど自ら定義した役割をはみ出すつもりはない。役割に忠実な機械だ。
同時に思い出すのは、あの緑色のスライムだろうか。彼、ないし彼女は機械でも人でもないことに狂ってしまった存在だ。そのことを思えば、機械の自認から外れる気は自然と失せる。
「アリスは…そうですね。リオと共に世界を守ることを役目とした機械です」
『"ならば我々の定義では人だな。己を人と錯覚しない限り同等に尊ぶべきだ"』
「…アリスにはわかりません。人じゃないのに人扱いをするのですか?」
『"そも、我々の世界では人であるだけで無条件に尊ばれることはない。人と同じ扱いとは言うが、どちらも等しく役目から外れないならなんでもいいのよ"』
「端的にしてください」
『"身の程を弁えてるなら無条件で廃棄せず、裁判を受ける権利があるってだけじゃ"』
つまりはそういうことらしい。
驕らなければ赦される権利とやり直す権利を与えられ、そうでないなら人も機械も廃棄処分。
なんとも分かりやすくも、厳しく深く刻まれた一線だと思う。
『"故に不当に扱えば訴えられるし、異なる地だからと傲慢に振る舞えば後々自らにはね返る…時がある。己がアリスを人扱いしているのはそういう訳よ"』
「…理解しました。だからさっきの力でのゴリ押しはしないんですね」
『"飲み込みが早いのは流石じゃな。礼節と対価を忘れずに。しかし頭を冷やしたい時に使うくらいなら我が心に支障なし、なぁ。それにどうもここは治安が悪いからな。力は最初に見せることにしているのよ"』
そうして話している内に、アリスと彼女はリオが眠る部屋に到着した。
電子と物理で施錠がされていて、簡単には開けないようにされている。
『"お邪魔するぞ"』
しかしすり抜ける者にとって、そんなものはないも同然だ。
銃だけ置いて先に入り鍵と…どうやってか認証までも解除してアリスを招き、それから立て掛けた銃を持つ。
歩くついでにそっと触れると、どうやら銃だけは実体を持っているようだった。
『"アリス、触れるそれをおのりゃあの本体かと思うか? 残念ながらただの貰い物じゃ。壊すと百鬼夜行の者に怒られるでな、壊そう、などとは思う…いや、するでないぞ"』
そんな風に釘を刺されつつ、彼女はリオをゆすって起こす。
そこは不思議な力とか使わないんだなあと眺めながら、彼女はうとうとしながら目覚めたリオに経緯を幾つか省いて……魔王に関することを除いて簡潔に説明した。
『"──…と、まぁやって欲しい事だけ言えばアリスを百鬼夜行に明日…いや、もう今日か。今日の昼に連れて行きたい。それで今この都市を襲っている者共も全てコチラで収集付けると約束する。どうじゃ?"』
「……質問はいいかしら?」
『"構わん。存分にせよ"』
「アリスを選んだ理由は?」
『"必要じゃから"』
ふと、視界の端に蝶が居た気がした。
「言い方を変えるわ。アリスに何をさせるつもり?」
『"全力でレールガンを撃ってもらうだけ。火力が入り用でなぁ"』
視線で追う。増えた気がした。
「ここをどうやって知ったのか、そして入ったか」
『"困っとる時に先生たちから。特異体質で転移を始め、色々できるものでな"』
ふと、芋虫がベッドに横たわってる気がした。
「百鬼夜行百花繚乱初代委員長と同じ見た目なのは?」
『えっそなた妾のことどこで知った?"……まぁそうじゃろうな"』
「お姉ちゃん、その人幽霊です! 本人です!」
意識を逸らすように指摘する。
何か、卵から虫が湧く感覚がした。
「えっ?」
『"なんじゃ、おのりゃあを知ってる割にこの程度で驚くか? じゃが…そういうものじゃろ?"』
「……まぁ、却ってアリスを知った理由も、解決出来るかの信憑性は増したわね。何年も昔の生徒が出張るなら……出張れるほどの存在なら可能性はあるでしょう」
違和感が欠けた気がした。
異常とは感じなくなった。
「…アリスの安全は?」
『"問題ない。精々長くて20秒、己が転移させてる間、指示通り動くだけじゃ"』
そうしてまるで一切の問題がないかのように話が進む。
…いや、質問をやめてない辺り、実の所リオは違和感を拭えてないのだろう。
どう質問しても問題が出てこない──なんてことはおかしいのだ。
だってリオは一度滅びを見ている。
その時にクズノハが誰も助けなかったことも、知っている。
調べたから知っているのだ。その姿も、おおよその力も、現世には干渉出来ないことも。
故に彼女が「ドッペル」であることも、既知の筈なのだ。
「何をするつもり………違う、もっと本質を…」
再度、違和感。
頭が上手く回らないような、霞の中を歩いている感覚。
『"質問が煮詰まったな。ならば──承諾か?"』
見回す。真夜中だ。
見回す。アリスは変わりなく立っている。
見回す。自分の部屋に居る筈だ。
自分に触れる。 ぐずりと、泥に触れたように肌が崩れた。
「──!!?」
『"おやまぁ…ふぅ。どうした? 顔が崩れたような慌て方をして"』
彼女が煙管を吹かし始める。
反射的に手を肌から離して、慌てて鏡を見る。
何もない、強いて言うなら深夜に興奮して少し充血しただけの、自分の姿。
……本当に?
黒い髪、青い目、人肌のようなナノスキン、低い視界……私はリオの筈だが──合理的に、状況証拠から、自分をアリスだと再定義する。
「…私に何を……アリスに何をしましたか?」
『"お、よう見破ったな。なに、ちと夢でも見てたのじゃろ。おのりゃあなーんもしとらんよ。其方が勝手に夢を見ていただけじゃ"』
ふうっと。彼女が私に煙管の煙を吹きかけると、金木犀の匂いと共に崩れた思考が晴れ渡るのを実感した。
パキリと、煙を浴びた所から何かが剥がれ落ちる。
そうだ、私はアリスで……
ここは廊下で、途中から質問していたのは……アリスだった。
『"蟲避けは大事よ。あやつらは厄介でな、囲まれた後は卵を植え付けられて敵わん。煙で避けねばすぐ襲うでな、金が飛んで敵わなんだ"』
「そんな大事なものをなんでタバコみたいに途中で消したんですか?」
『"おのりゃあ慣れとるから、幻と現の見分けはつく。それに、子供が居るのに煙管吹かして話すのはマナー違反けぇな?"』
「…………」
けらけらと笑う彼女をじーっと見て、なんでこんなことをしたのかと考える。
本心を曝け出さないタイプなのは理解した。教えてくれた知識と共に、目的を導き出す。
「……アリスを、人間と思い込ませようとしたんですね」
『"角三つ。答えるならばもう少し踏み込めよ"』
「……あなたの世界では、機械と人は一線を超えないなら平等で、この法は外に行っても変わらない……だから、アリスをどう扱ってもいいように嵌めようとしたんですね?」
『"丸。花を添えるにゃちと悪く言い過ぎ。建前良く仕事を恙無く進めようとしたと言いな"』
アリスがリオだと思い込んだままなら、それはもう「自分を人間と錯覚した機械」だ。
そうすればアリスを人扱いしなくていいから、嵌めようとした。
だからこそ、そうする理由を理解できない。
「……アリスには分かりません。どうしてそこまでするんですか? そこまでして、アリスに何をさせたいんですか?」
レールガンを撃つだけならば、ここまで手の込んだことはしない。
初めからそうするように頼み込んで、仲良く進める方がいい筈だ。
なのに彼女はこうして、アリスに一線を越えさせようとしてまで何かをしようとしている。
それが何か分からなくて……分からないから不気味に感じるのだと理解した。
ぎゅっと、知らず知らずのうちに胸元で握る手の力が強くなった。
『"……知らない方が幸福だと言えば……いや、知らない方が不幸にならないと言えば引き下がるか?"』
「引きません。アリスは真実を知りたいです」
『"3人殺す為の道具にしたかったから。ほれ、言ったぞ"』
余りにも自然な流れで、明日のご飯を決めるくらいの感覚で、彼女はその真意を言った。
「……えっ?」
『"レールガンを放つ。その際に周囲の物質を巻き込む。その際に3人巻き添えにして貰う。──どうじゃ? 知らぬ方が良かったけぇなぁ?"』
「──っアリスはやりたくありません!」
『"そこをなんとか"』
パンと、軽く手を叩いて彼女がそう言う。
煙管の煙をタバコのように消して言う。
最初に見た鎖が、隠れてたのが現れたみたいに再びその姿を現す。
それが蟲の産管であるのは、話の流れから理解していた。
「〜〜〜っ!? イヤです! いやです! 絶対やりません!」
強引に引きちぎろうとして、泣きべそをかきながら殴ろうとして、消えていく忌避感を必死に掴んで、抗おうとして……全てがからりと空回る。
『"だらなぁ…言ったというに。面白くない話、知らぬ方がよい話。一線を越えて、いっそ己に忘れさせられる方が良い話。勇者に無辜の人々を殺させるなら、それが一番穏当に済んだろうに"』
「いや、イヤ、いやぁ! アリスはリオの妹で、世界を守る勇者で、ゲーム開発部の部員で……こんなの、どれにも当て嵌まりません!」
訳もわからずに首を振る。これだけは承諾してはならないという感覚のまま、主張する。
アリスは助けを求めて しかし 誰も助けに来なかった。
『"はぁ…ここまで来たらこれも教えようか──実はの、殺人に加担させるは人、騙すも人、行動を強制するも人、人、人の権利。そもそも罪にならん。この手段を渋ったのは単に己の躊躇。騙った言葉はそうあれという感傷。じゃけんども上手く行かんな。結局こうなった"』
金木犀の匂いが強くなる。
彼女はのろのろと近付いて、混乱し切ったアリスの髪をそっと耳に掛けて、アリスの眼を見つめる。
今まさに、肯定させる為に蟲共が否定する
『"時に知るといい。哀れだと、したくないと、そんな意思一つではより大きな意思に歯向かえん。結局はしたくもないことをする事になる………なに、時が風化させてくれるだろうさ。其方は一度記憶を無くした機械。いずれこの罪も忘れる……最も、殺したのは己、其方が背負うべき重責は無いが"』
己と違ってな。
最後にそう締め括ると、彼女はカランコロンと下駄を態とらしく鳴らして消え去った。
「……なんで、アリスは嫌がってたのでしょうか…?」
最後に残ったのは、大事な何かを無くしたような、それが何か分からなくなった機械が一つだけ。
ただ眼孔型レンズいっぱいに、行先を無くした涙を溜めている機械が一つだけだった。
アリスは 仮名クズノハの クエストを受注した。
7日目。午前12:07頃。天気が良く、始めて見た本物の青空の下。
『"──来い、神の道は敷いてあるぞ"』
アリスは望まれるままに百鬼夜行の青空に放り出される。
フワリと香る桜の匂い、肌を撫でる涼しい秋風、晒した肌を温める朗らかな太陽の熱、目を眩ませるほどの──眩しい美しい光。
全てが始めて体験するものだった。
『"制限を外せ。己も知らぬものまでな"』
「──全出力解放」
視界いっぱいに真っ赤なものに包まれる。
本当はもっとこの世界を見たかった。どこまでも走っていけそうな世界を見て周ってみたかった。
けれど──たくさんの始めては、今回は踏み躙らなければならない。
でないと未来が滅んでしまうのだから。
「…あれ、気のせいかな。身体がバラバラになって──」
「ほあああ! ログアウト…出来ないやシッテム箱置いて──」
「死なないんじゃなかったのか? 騙された──」
美しい景色を、沢山の感動を与えたものを分解し、細切れにし、ただの無感動なエネルギーに変換する。
その過程で3人巻き込まれたが……それを気にするために必要な感情は奪われた。
3つの儚い命が、レールガンに載る。
赤い閃光と雷鳴が収束を始めた。
『"白蟲、規制しろ。黒夜、染め返せ。
銃弾と共に彼女が指示を出し、透明な何かに枷と傷を与える。
アリスが終わりを与える準備が整っていく。
『"始まりに終わりを告げよ──勇者よ、放て"』
曖昧だが、それで問題なかった。
指示された瞬間に何をすべきか脳裏に広がり導いてくれたから。
「光よ! フル───バーストォォォ!!!」
光の奔流が起こる。未来を書き換える怪物を滅っさんと、未来諸共消し去る光が解き放たれる。
抵抗は…きっと有ったのだろう。思考にジャミングが走ったみたいに幾つもの未来の景色が走り、瞬く間に白い蝶の羽ばたきと共に忘れ去ったのだから。
『"──基定"』
光線が透明な何かを貫いて、それと同時に見えなかった
確かに見たが……なんとも形容し難いものだった。
3つの頂点だけを持つ立体の三角形。それがぐちゃぐちゃと蠢いていて……とても気持ちが悪いという感想しか残らない。
『"其方を己が奉ずる神格と定義する。船を出せ波、神格性調律プログラム──抜錨"』
その姿も長くは続かない。
彼女が空を掴んで何かを力いっぱいに持ち上げると同時に、しめ縄や鈴が首に、白帯は眼に、絵馬がぐちゃぐちゃを全体的に囲んで、ぎゅっと馬の神様みたいに仕立て上げる。
『"畏み、畏み、恐れ多くもお帰り願おう。其方の
奉り、願い通して、野生の神を、概念の欠片を一つの規格に押し込める。
神木をくり抜いた船に乗せ、道標の代わりに人肉が転々と燃え導く。
そして、かの神は新たな住処へと旅立った。
「……あれ?」
見間違えだろうか。その船の中、隅っこの方に眠っているアリスが見えた気がした。
『"──これにて、奉納を仕舞いとす"』
大見得を張ったようにドンっとたたらを踏み、それを合図としてか蝶も魂のような物も、一斉に消え去る。その中にはアリスも含まれていて──。
「…これで、良かったのでしょうか」
気が付けばエリドゥの中。
呼ばれた通り、事前に願われた通りにクエストをクリアした。
「…大丈夫です。アリスはクエストをクリアしただけ。お姉ちゃんを悩ませていたものも、ゲームも、全部上手く行った。だから、大丈夫、大丈夫…」
それだけなのに──こんなにも心に引っ掛かる。
ぼんやりとして冷たい不安と、道を間違えて迷子になってしまったような…足元がぐらぐらと、足先をどこに向ければいいのか分からない…足がくすむ孤独感。
『"千年振り、ご苦労さん"』
「ッ!?」
金木犀の香りから反射的にレールガンを構える。
さっきまで百鬼夜行に居た相手が忽然と横にいる。
それだけで恐怖していた。勇気なんてこれっぽっちも持てなかった。
撃とうとするだけでアリスは殺せるのだと自覚したから、撃てなかった。
『"なんじゃ、まるで死人や理不尽と出会ったみたいな顔をして。そこまでイヤだったか"』
「……っアリスは、アリスはもうあなたのクエストは受けません!」
『"其方にとってはありがたいことに、これは期間限定クエスト。受けようと思ってやれることではない"』
カラリと、スニーカーに木板を付けた下駄が鳴らされる。
ビクりと、それだけでアリスの肩が跳ねた。何がキッカケで何が起こるのか分からない。
それがこれほど怖いことなのだと始めて知った。
『"驚くだけでは話しは進まんな。おのりゃあが来たんはちっと返す物が有っただけ。それを渡せばおさらばよ"』
「…貸した物なんて有りません」
『"あるとも。最初に行ったけぇ? 魔王を借りると。だけぇそれを返しに来た。そら、動くなよ。魔王の力は下手に扱えんなぁ"』
彼女はそう言うと、ガサゴソと真っ黒な仮面を取り出した。
古びてはいるがアリスの顔のお面で、眼だけが赤く光っている。
ああ、これが彼女の言う魔王のアリスなのだと理解した。
分かるのだ。これがアリスの欠けた部分。先ほど放った砲撃と共に連れ去られたもう1人のアリスだと。
『"コチラで千年、みぞうが落魄れ消えるまでお勤めを果たしたでな。ざっと過去に返しに来た。しっかり受け取れよ"』
軽い手取りで仮面が渡される。
アッサリと渡されたそれはとっても重くて、アリスの数日の経験なんて端数にしてしまう程の何月もの記録が有った。
触れただけで分かる程、重く分厚い物だった。
『"今回のことは虫刺されか胡蝶の夢か。そんなものと思え。其方が気にすべきことは全て消えたのだからな"』
そう言って、彼女は踵を返して背中を向ける。
あと一歩歩けばどこかへ消えると、なんとなく察した。
「一つ、質問させてください」
『"……なんだ?"』
呼び止める。
短い間の関係で、嫌いな相手だ。しかしこのまま見送るほど、アリスは大人ではない。
「アリスはまだ──勇者ですか? それとも、魔王ですか?」
言われるがままに事を成した。
怪物を倒し、魔王になる可能性を世界の為に貸し与えた。
全ては一瞬で、依頼相手のことも分からないままに、未来から貸した物を返して貰った。
思えば知らないことばかりだ。適当にすれ違った人の事情を聞いているかのような、そんな疎外感と異物感をごった混ぜにした気分になる。
『"………なにを言い出すかと思えば"』
起動してから世界は知らないことばかりだ。
ゲームで得た知識が役に立たない事もよく有って、親切でも順序立っても居ない。
勇者でも魔王でも有っても、主人公ではない。
『"はて、おのりゃあにとって千年前、其方にとっては今さっきのことか? あの時は片方のみ答えて不正解を与えてたな。魔王か勇者か、なんてものなぁ?"』
上手くいかないのは当然で、やりたい事が出来なくて、やりたくない事をやらされて、それで世界が上手く行っている。
納得できないのに、それで順当に世界が回っている。
間違ってない筈なのに、間違ってる思いを抱いてる気分になる。
『"さて…アリスは誰か、なぁ。そんなもの、名前があるのだからアリスでよかろ。…と、いうのは不服じゃろ?"』
自分が正しいのか、それとも世界が正しいのか。
産まれたばかりのアリスには到底判断付かないことだ。
だからこうして答えを求めてやまなくなる。
『"───お気の召すままに。惑う其方は勇者に在らず、欠落した其方は魔王に在らず。今はただのアリス。この不思議な
「アリスは………分かりません」
『"…もっと簡潔に言おうか。世界を知らないで決めつけ、手に入れた答えは当てにならんから、それは後回しにしろ。そうすればやるべき事は見えてくる"』
自分の顔を模した仮面と見つめる。
本当に後にしていいのかと、責められてる気分になる。
『"……はぁ、ならばもっともっと端的に言おうか。その仮面はお主で殺った3人の情報の統合で作られた肉塊のお面。被れば魔王になるが、要らぬなら人に戻せもする。既にコチラでは死した者共、キヴォトスの一員になるなんぞ、おのりゃあが見逃せば政府も気付くまい"』
「!!!!──それは本当ですか!?」
『"うわっ急に元気になるな。ビックリするけぇ"』
逆に聞きたいが、不本意で殺した相手を生き返らせると聞いてこうならない人は居るだろうか?
いや、居ない。少なくともアリスはこうして身を乗り出した。
「それなら初めからそう言ってください! アリスは勿論3人とも生き返らせます!」
『"え…いいのか? 自分が欠けたままになるぞ? と言うか、こりゃは二者択一けぇ。其方が魔王として千年の経験も得て完全となるか、分解直後の3人を取るか。安直に決めては"』
「確かに何か抜けた気はしてますが…アリスは今のままでも良いです! それに、千年の記憶が一度に押し寄せたら、たった数日しか起動してない今のアリスが押し潰されちゃいます! それはイヤです!」
『"どっちも己だろうに……しかしなぁ、3人の蘇生は完全にならん。記憶はなくともお主の身体として動いていた事実は消えぬ。……見た目、お主に似るけぇな。性別だって女に…"』
ごちゃごちゃ言っていたので会話スキップした。
直球で言うなら彼女を放ってリオお姉ちゃんの所に向かった。
どうせなら3人に戻してから渡して欲しかったが…彼女を使い走りにするような上のことだ。
彼女が蘇生させたらそのまま自分の学校に押し込むだろう。
短い付き合いの相手の又聞きだが、そのくらいの予想はついた。
それならコチラで蘇生してしまう方がいい。
『くく、一本取られたな?"……かもなぁ? いや、取られたか。全く、己を軽んじるのも若さか? 積み重ねた時間ばかり気にして…あぁ、年を取ると卑しくなって敵わんなぁ?"』
そんな1人で話す声が聞こえたが、もうそんなのは気にならなかった。
だって、これさえなんとかすれば気にすることなんて何もなくなる。
怪物は消えて、犠牲は無くて、アリスは勇者で、魔王になる事もない。
全てが良くなると確信出来た。仮面を割れ物のように大切に抱えて、アリスはリオの部屋に入ると同時に土下座した。スライディング土下座である。
「……?」
「お姉ちゃん、このアリスの仮面を3人に戻してください! この通りです!」
「…………??? えぇ…まぁ…分かったわ?」
「やったーー!!」
そんな訳でゲームの疲れで寝ているモモイ達の隣にもう3人、アリスのようでアリスではない、ちょっとだけアリスとなった人が追加されたのである。
リオが特異存在が出なくなったからと半日でやってくれました! ジェバンニより早い!
ケイで一回やったから要領は分かっていたそうです!
「──…と、言う訳で! アリスが勇者として全部終わらせてきました! めでたしめでたしです!」
「うーん…寝起きな筈なのに夢みたいに支離滅裂だあ…よし、寝よう」
「……二度寝しよ」
「…取り敢えず、ハッピーエンド? ふぁ…なら寝るね」
「うーん…目が覚めたらアリス似のキヴォトス人になってたんだよね。すごくない?」
「ヘイロー有りで全部変質済み…ある意味、あの世界からの解放なのかな…ちょっと寂しくも有ったり…なんてね!」
「わお、量産型アリス、完成していたのか。例の人も親切な事だね」
反応は両極端。片方はそのまま興味なさそうに二度寝へ踏み切って、もう片方はアリスの説明を聴きながら淡々と服と身体の動きまで確かめ終えていた。
「気分はどうですか?」
「普通かな。顔がのっぺりしてないのが久々だけど…そのくらい」
「上々! 感情が4つ以上あるのが新鮮なくらいでーす!」
「いい感じー。1日が24時間あるって本当にいつ振りだろ。世界が遅いや」
「それはよかったです!」
なんだか思ってる方向と大分異なる感想が返ってきたが、ともあれ別状がないのなら安心するばかりである。
「で、アリスちゃん。親切にも義体まで用意してくれた所申し訳ないんだけど、これから私達をどうしたい?」
「…ええと」
「名前なんて無いからどう呼んでもいいよ! 取り敢えず私3号ね!」
「じゃあ自分4号。機体的にアリスが暫定1番だし、そっちは2号でいいよね?」
「異議な」
「異議ありです!」
サクッと情緒の欠片も見つけられない名前になりかけたのを止める。
元々人間なのに、アリスより機械っぽい名前なのは流石にダメだと思う。
「みんなアリスと同じくらいかわいいんですから、アリスと同じくらいかわいい名前がいいと思います!」
そう言うと、3人はお互いの顔を見合わせて、そそくさと隅でしゃがんで円陣を組む。
秘密の話し合いなのだろうが…部屋が狭いからか丸聞こえだ。
「……どうする?」
「みんな元々の名前覚えてる? 私最初がGなのは覚えてる」
「覚えてない。買い戻す気もなかったしあだ名は政府の認証がダルかった。あ、でも教育所じゃ「石ころ」だった」
「あー自分は「ミミズ」だわ」
「私「ゴキブリ」。今でも女の子の仮名じゃないと思ってる」
「分かるー。でも生き物なだけマシじゃないか? 俺のとこクジで決まったし」
「そうだけど……でもさぁ、せめて「てんとう虫」くらいマシなの欲しかった」
「あーね。「蝶」や「川」の子とか羨ましかったわ。なっつ」
「取り敢えず番号と教育所の合わせでどう?」
「「賛成」」
「……そろそろ私に事の次第を説明してくれないかしら? 特にさっきの仮面に関して」
あだ名がそれってどんな学校だろうか。
疑問が尽きないが相手は異邦人。そういうものだとスルーする事にした。
クズノハの一件でちょっと慣れたのもあるかも知れない。……結局クズノハは過去の人か別世界の人か判らず仕舞いだ。
そんなこんなでリオに改めて説明し、いつの間にか魔王も怪物も一片に解決してたと頭を抱えられつつも、アリス達はミレニアムに入学することとなった。
「つまり…アリス、ケイ、
「人数問題が一気に解決していいでしょ。……同じ顔が多いとは思うけど」
「……ミドリとモモイはそれ言っちゃダメだと思うよ?」
「なんと! 私達がそっくりと申すか!」
「服を着替えたらアリスには見分けが付かないので、そっくりだと思います!」
「……入部するって言ったっけ」
「助けられた命だし別に良くない? そうだ、今のうちにそれぞれ髪型変えとこうよ!」
「……そういや「ゲーム開発部の廃部回避」と「女王をなんとかする」…クリア条件、満たしたよな」
「「あー…」」
「──少しいいかしら? その二つの条件を言った理由は?」
なんだか色々あったが……巡り巡ってゲーム開発部の問題も解決したようだ。
「モモイ、ミドリ、ユズ、これからもよろしくお願いしますね!」
「──うん! これからよろしく、アリス!」
「ん? あー…ゲームをやってたんだ。その末に電子生命体になるとは思ってなかったけど、シナリオをクリアした以上アプデが来る筈なんだよね。そしたら自分達はどうなるだろうなーってさ」
「──なんですって?」
「要するに時間が戻る。そこに自分らの居場所あるかなって懸念」
モモイ達に混ざる。これからの未来に想いを馳せる。
大丈夫、みんな生きて乗り越えた。これからは明るい未来が待ってる。
みんな一緒で…ふと、3人を呼んでみんなでわちゃわちゃしたいと思い立つ。
「ニコロ、ミーゴ、シズ! コレから何をしたいか言ってみませんか? パーティのジョブも決めましょう!」
「はいはーい。ジョブねー…ジョブ? ゲームの?」
「今行くよー!」
「あ、呼ばれたね。じゃあ自分らは行くよ。うん、死ぬ前の泡沫の夢にはちょうど良かった」
「───そうだ、記憶を引き継ぐ為の装置を!」
アリスは…先ずは空をみんなで見たいし、ミレニアムにも行ってみたい。
パーティは誰1人として欠けずに冒険に出たいし、学校生活も楽しみだ。
突然、3人が宙に浮かんだ。
「──っ!」
「…んー、浮遊感。シズの言う通りゲームの中だったか。盗賊、一回やってみたかったんだけど無理そー。アプデ対象だけ宙飛ばして弄るタイプだったからな>>1は」
「あー…残念。アリスと冒険かー。戦士やってみたかったなー」
「バグは削除だよねこの分だと。NPCになるのを祈るしかないか? うん、僧侶っぽく祈るとしよう」
手が宙を切る。レールガンを置いて跳躍して、しかし天井に阻まれてしまった。
既に3人は壁の向こうだ。
「邪魔です!」
だから殴り壊した。簡単に天井は壊れて、3人がこの都市と共に宙に昇っていく光景が広がる。
既にエリドゥを蓋していた土地が瓦礫となって宙に消えてて、街並みもこの様子だと直に崩れて消えるだろう。
「──なんで! なんでアリスじゃないんですか!? なんで、アリスばかりこんな…!」
同じ見た目なのに自分だけ置いてかれる。自分ばかり理不尽に取り上げられている。
今だけは錯覚ではないと確信した。
「──もうッ!」
物質を変換して翼を作ろうとして、魔王の可能性と共に喪失したと自覚した。
「もうっ!!」
レールガンを地面に向け、噴射して空に登る。
「ん? うわ!」
「ぬぎゃ」
「ぎゅ!」
浮かぶ瓦礫に着地して、飛び飛びで3人を引っ掴む。
首元を掴んだりのしかかったりしたからか苦しそうだ。
だが…絶対に手放したくは無かった。
「これ以上アリスから──奪わないでください!!」
それは、再起動してから一番に感じた理不尽への怒り。
「ニコロ、ミーゴ、シズ、手を絶対に離さないでください!」
「無茶やるなぁ!?」
「うわあ、すごい思い切り!」
「…オッケー。全員でアリスを掴もう」
「「おう!」」
全員が思い思いにアリスに腕や手を回す。
これは世界に対して抗おうとする蛮勇だ。
しかし仲間を助けようとする決心でもある。
最早どっちでも構わない。言葉に拘るのはやめた。
アリスは助けたいから助けるのだ。
…プスン。
「っ電池切れです!」
みんなを連れて帰るためにレールガンを放とうとして……無理な使い方をしたからだろうか。電池切れになっていた。
「──ラァッ!」
なのでレールガンそのものを蹴って降り瓦礫に着地する。レールガンは落ちたが、あのまま宙に向かい続けるよりはマシだ。
すぐに3人が昇る浮力で上に落ち始めるが…それなら逆さまに着地した瓦礫を駆け下ればいい。
このくらいの反転ステージはゲームで学んだ。
「ふぅ…クエストオーダー「みんなを連れて帰る」──受注」
| 「みんなを連れて帰る」 |
| ステージは時間経過で上空に落下する。 迅速に踏破せよ。制限時間は不明。 |
| 難易度:クリア保証なし。ゲーム性未成立。 |
| 失敗時:3名ロスト。 成功時:3名救出。 |
「──OK.ゲームスタート」
自分の中で意識が切り替わる。命を背負ったゲームランが始まった。
勇者とか、魔王とかの力は抜きにすると、アリスの武器はどこまで行っても「ゲーム」だ。
リオお姉ちゃんと一緒に遊んで、モモイ達と一緒に遊んで、短くも濃い経験の中で一番綺麗で楽しい記録。
それは力不足なこともあるが……今回に限れば、一番頼りになる。
最初は地面と都市の天井部分が交互に来ているステージ。
踏み留まれば一瞬で没落する土とそこから唐突に飛び出る瓦礫が邪魔になっている。
「そんなの走り抜ければいいだけです!」
だが、それなら足を止めずに進んで飛び出た瓦礫は逆に足場にして飛び立てばいい。
3人抱えているからか跳躍力は低いが、仮にもキヴォトスで生きる者の身体能力だ。
人の背丈くらいは跳べるし、無茶を通せるくらいには頑丈。訳なくステージをクリア……するには、流石に状況が悪かった。
「っ! 足場が!」
着地した瓦礫から次の足場を探し、何処にもないことに気付く。
…いや、正確には一つ…あるにはある。次のステージに行けそうな丁度いい足場が。
問題は、そこに行く為の瓦礫が何処にもないということか。
「このままじゃ…!」
みんなを助けられない。
そう続く言葉は、背負っていた3人の1人によって中断された。
「……っし、やっと使い方分かった。物質操作システム限定起動──参照「Book8733:惑星級生物狩猟業/狩猟船操縦の記憶」より『怪具/酉鉤爪/甲』──
右側から抱きついていたニコロが正面に手をかざしてそう言うと、アリスが行きたがっていた足場が爪のような形になり、それから何かに引き寄せられるようにコチラの方に来たではないか!
「すごいですニコロ! どうやったんですか!?」
「いいから飛び乗って捕まれ。この怪具で結構な速さで引き寄せたから──その分、反動は10倍ヤバい」
「はい! ガシッと! それでどうやって──」
それは、理屈を聞き出すには余りにもすごい勢いだった。
ともすればそのまま第二ステージとなる迷路の壁をぶち抜いて侵入する程に。
そんな中で辛うじて聞こえた話によると、どうやら魔王アリスを3分割したのが今のニコロ達なので、義体がアリスを参考に造られたのもあってかコツさえ分かればちょっと扱えるらしい。シズに教えて貰ってやったら出来たので間違いないそうだ。
ニコロはその中でも物質の操作と記録から同じ物を再現する力があるそうだ。
そうして突撃したのは、宙に浮かぶ際に分解された都市の一部。その中でも都市を上部に持ち上げたり囲んだりする防壁機構の通り道だ。
先程まで電気ガス水道、その他通信などあらゆるリソースの通り道だったが、今ではメチャクチャにアリス達を塞ぐ壁となっている。元々防壁も兼ねてただけはあり、迷路を無視するのは難しそうだ。アリス達は何層かぶち抜いたが。
「ううっ…けど、これを何回もやれば簡単に…」
「ごめーん別世界の奴再現したからかしばらく使えない」
「うわーん! よくあるクールタイムです!」
こうなったら兎に角走るしかないだろう。生憎昇る時にレールガンで突破した時の穴も見失ったのだし。
「先ずは…何処に行けば!?」
なので適当に走るのは良いものの…最短で通り抜けられないならゲームオーバー間違いなしだろう。
なにせ今もなおアリス達は空に落ち続けているのだ。何層かぶち抜いてもキツいものはキツい。
「こうなったら右手の法則で…」
「左手じゃ無かったっけ?」
「どっちにしてもタイムアップです!」
ニコロとシズの掛け合いにツッコミつつ、一先ず上に向けて跳躍し殴り付けた。
大事なのは横ではなく縦の移動である。それならば、コレが可能なら1番最適なはずだ。
ガキン!
「痛いです! そんな、さっきはぶち抜けたのに…」
「言ってなかったけどアレは投擲物にある程度の貫通性を持たせる爪だから。それでイケたんだと思う」
「伊達に防壁やってる訳じゃないってことですね!」
そうなると困ったことになる。アリスは別に迷宮探索のプロではない。
ゲームでダンジョンは数多くクリアしたとはいえ、それは準備と再挑戦する時間があっての物だ。
初見一発で最速クリア出来るようなスーパープレイは出来ない。
だからなんとかならないかと考えて……。
「……あ、分かったコレか! アリスちゃん、ここは私に任せてよ」
「ミーゴ! ミーゴも出来るようになったんですね!」
「はっはぁ、狩猟業してたニコロ程じゃなくても傭兵を齧ったことがあるからね! 多少の心得はあるのさ!」
ミーゴがそう言ってアリスの首元に回していた腕をより強くして、おでこをアリスの頭部に接触させた。
「物質支配システム──限定起動。参照「Book8699:第六次世界大戦/第一太陽系管理統括者の護衛任務」から「施術/領域探査」……
───世界が広がった。
「これは…!」
「昔に脳に埋めたことがあるチップの機能再現! 思考を読み取って適切な道を探してくれる! 黄色い矢印に従って!」
「はい!」
正確には見え方が変わったと言えば正しいか。
壁は透過して、移動の邪魔になるものは赤くなって、目的地が青くなり、そこまでのルートが黄色い矢印で案内される。
ミーゴがかつて見ていたという視界はそれだけの色で構成されていて、余計な情報が一切ない単純なものだった。
恐らく変換する為の物質を手中に収める機能なのだろう。記録から再現する能力もありそうだが……元々3人が複雑に絡まって構成されていたのが魔王だ。分割したとはいえ、完全に分けられた訳ではないのだろう。
主要がその機能だっただけで、他の機能も低出力ながらあるということか。
「後はここを曲がって登れば──クリア!」
なんであれ地図とナビゲーターがいれば最短ルートを走るなんて容易な話だ。
幸い何層かぶち抜いていたおかげで大した時間も掛からずに、アリス達は迷路を突破するのだった。瞬間、共有された視界が解除される。ギリギリクリア出来たようだった。
「って、危な──っ!」
息つく暇もなく飛んで来たビルを寸前で回避する。アリスから見てビルの中心にいないのが幸いした。
それから何とか迷路の防壁から地面を見上げると──それはエリドゥの本体。
高層ビルと道路、それから機械兵が昇り注ぐ都市の逆さ雨だった。
「…まるでスペースデブリだ」
シズがぼやく。あながち間違いでもない言葉だとアリスは思った。
アリス達から見て逆さまになったビルと、その間の架け橋になるように引っ掛かった道路。
どれも頑丈だからか完全に壊れることなく複雑に絡まっていて、一つの毛玉みたいな印象を受ける。
それだけなら、登っていくだけでよかったのだが。
「うわっ!…昇るのは簡単ですが──兵士達が…!」
厄介なのは、この壊れゆく都市で暴走を開始した機械兵や防衛設備だ。
どうしてそうなったのか分からないが、正常な物と争っていて相互に破壊し合っている。
……正直どれが正常なのか分からないが、その争いの流れ弾が厄介だった。
当たれば時間が止まる弾丸に、幽閉と拘束の罠。シェルターの壁が邪魔するように塞がっては、レールガンの設備が無軌道にそれらを破壊して道を作る。
「このままだと…!」
時間経過でどんどん壊れ、道が少なくなっていく。
最終的に待っている結末は全て壊れてしまった「廃墟」か。
「…自分を見てどうしたの」
「そろそろシズの番です! ゲーム的に考えて!」
「流れ的にはそうだけどそのメタ読みはやめた方が良くない? これリアルだよ?」
「アリスは騙されません! 最初からタイミングを見計ってたのは雰囲気で分かります!」
「マサイ!」
マサイ?
……まあそれは兎も角として、3人の中でも1番まとめ役と分析能力が有ったのがシズだ。
ニコロだってシズに教えて貰って魔王の力を引き出せるようになったんだから、教えた当人が出来るのは自然な流れだと思う。
「シズ、お願いします。パーティプレイでクリアしましょう!」
「勿論……と言いたいけど、自分の奴は役立たずなんだ……ごめん」
そう言うシズは、とても申し訳なさそうな顔をしていた。
手伝えるなら本当にそうしたいのだろう。
どんな力か知らないが……思えば魔王の力だ。
中にはそういう厄介なものが有ってもおかしくない。
「それなら仕方ないですね! 先ずは進むだけ進みましょう!」
「うん……ごめんね、アリス」
「大丈夫です! ニコロとミーゴに教えた分でおつりが出ますから!」
「ご教授アザーッス」
「仕方ないよね!」
「みんな……うん、ありがとう」
そうと分かったのなら、ここから先はアリスの力でクリアしなければならないだろう。
なに、弾幕の中を潜り抜けるシューティングゲームもアクションゲームも攻略済みだ。
それらの高難易度に比べればこの程度ハードにもならない。アリスなら出来るはずだ。
それに。
「ビルの一階まで来たのに道が…!」
「アリス、あっちだ! レールガンを引きちぎって撃てば飛んでいける!」
「なるほど! 原点回帰はゲーム的にもアツい展開です!」
アリス達には。
「あれは…アリス達が生活していた建物です!」
「……今、逆さまの人影が見えた! 背丈的にリオ!……アリスちゃん、行けそう?」
「はい! 巻き込まれたのなら助けない理由はありません!」
頼もしい仲間が居る!
「リオお姉ちゃん! 大丈夫ですか!?」
ドアを蹴破って中に入ると、其処にはアリス達から見て逆さまの……床に立っているリオが振り返った。
「アリス…そう、3人とも助けられたのね」
「はい! お姉ちゃんはどうしてここに? あ、モモイ達は無事ですか!?」
「…モモイ達は無事よ。自動運転のヘリに乗せて避難させた。私は……用事があって」
リオの視線がアリスから背けられる。
何か後ろめたいことがあるのだろう。それが何か分からないが…このまま放置するのは1番ダメだ。
「お姉ちゃん、アリスと一緒に逃げましょう。ここは危険です」
「アリス…いえ、私はここに残ることにするわ」
リオがそう言ってアリス達からそっぽ向いて、先ほどまで動かしていた機械を操作した。
するとプシュウと圧力が抜ける音と共に機械の横にあったカプセルが開く。1人なら入れる空間を、蛍光灯が照らしていた。
エレベーターみたいだと思う。
「…あれ、見た目はゴツいけど…VR機体?」
そして、シズの独り言が耳に残った。
VR。
電子の海に展開するもう一つの現実。仮想現実。
アリスがやったゲームの中でもSF系の、ごく一部で登場した物だと記憶している。
それを実現するのは素晴らしいが……今、使うべきものとは到底思えなかった。
「それで何をするつもりなんですか?」
「…あなたが知る必要はない」
「…答えてください、お姉ちゃん!」
「私は、あなたの姉ではないし……今後私の前に現れないで頂戴。次に会った時はお互い敵でしょうから」
え?
唐突な言葉だった。挙句のことに、思考が停止した。
アリスはリオの家族となる為に再起動した機械だ。天真爛漫に、甘えて頼る妹だ。
所詮与えられただけの役割だ。アリスが再起動する前の役割と違うのは、魔王を見れば分かる。
ただの、上っ面をなぞるだけの偽物が自分だ。
「……どうして、そんなことを言うんですか?」
それなのに……どうしてだろうか。
こんなにも思考回路にノイズが入るのは。
掻き乱されて仕方がない。
「言葉通りよ。元はと言えばアリス…いえ、AL-1S。あなたが自ら定義した役割に過ぎない。そんなもの、私が望んだものではないわ」
足元が揺らぐ。自分を構築するものの中でも大事なものが崩れていくような感覚に陥る。
勇者でも魔王でもない、アリスとして必要な要素が抜けていく。
「アリスは…」
「AL-1S、貴女がどうして私の妹のように振る舞っていたのかは分からない。けれど、コレだけは言えるわ───私は、貴女が怖くて仕方がなかった」
お姉ちゃんの……リオの本心が語られる。
「怖い…」
それは、アリスがリオにとってのクズノハと同じ立場だということか。
「思えば、貴女と一緒に過ごしている時はいつもそうだったわ。いつ「女王」になるのか、いつ本来の役割を思い出すのか。懸念することは常にそういうもの。貴女に構うのもその一環。適切な「管理」を行う為の処置だった」
それは、アリスが都市で暴れる特異存在と同じものだということか。
「だけど、それも今日で終わりよ。時間の逆行を始めに、あらゆる干渉を遮断し内部に収めた個体の記憶を保存する保存装置「Interface Blocking Record」を使って、私は過去に知恵を授ける」
「過去に…知恵を」
それは、今日に至るまでリオが研究していたものの成果物だった。
この世界のあらゆる滅亡の因子を乗り越える為の方舟であり、希望を前の自分に託す為のバトン。
「今のアリス達は……どうなるんですか?」
それが意味することは──今のアリス達を置いていくという宣言だ。
「──合理的な犠牲。私はそう判断するわ」
話すことはもう無いと、リオがカプセルの中に入る。
それはアリス達と──この世界全てと別れを告げるという意味でもあった。
「待って…待ってください!」
遮二無二走り、閉じようとする扉を手と足で押さえつける。
「私は既に決断した。覆すつもりはない」
「イヤです! アリスは誰とも別れたくありません! アリスは、誰も見捨てたくありません!」
リオは自ら世界を犠牲にすると言ったが、アリスの考えは違う。
ゲームで見たのだ。死に戻り、ループ、やり直し……能力は違えど、その手のキャラが辿った過程はいつだって同じだ。
世界から異物として扱われ続ける、理解されることのない孤独な一人旅。
「アリスは──お姉ちゃんを1人にさせたくありません!」
世界を見捨てるとは、世界から見捨てられるのと一緒だ。
自分で自分を見捨てるようなものだ。
一度やってしまったが最後、辿り着くまで終わらない永い旅が待っている。
「…自分からも良いだろうか」
「貴女は…」
「シズ。リオ、あなたが作ってくれた義体を使わせて貰ってる者だ」
そしてシズは語る。
リオのしようとしている事の結末を。
「単刀直入に言おう。貴女は死ぬつもりだな」
「…そんなこと」
「自分達は魔王…「女王」を3分割しただけはあって、其々が力の断片を持っている。自分はその中でも物質解析、エネルギー転換でね。自分の解析結果によると、その機械は過去に送る為に中にある物体を「圧縮」するらしいんだが……リオ、間違った所は有ったかな」
「……………」
その沈黙は
「今の言葉も…つまりはそういうことだろう? 犠牲になるなら、死ぬなら悪人の方が心を痛めない。嫌いな相手の方が傷付かない。だからこうして、アリスを突き放すようなことを言う」
「………不合理ね」
「そうだね。本当に「女王」を懸念するなら、リスクからして自分達は作られない筈だ。態々安定した封印状態から自分達を蘇らせた時点で…リオ、君は不合理な好意と感情に頭を垂れていた」
シズが役割は終わったとばかりに沈黙する。
今の言葉が本当なら……リオは、お姉ちゃんはアリスの為に言いたくもないことを言ったと言うことだろうか。
だったら……アリスはお姉ちゃんを助けたい。
そんなことをしなくてもいいんだって、言ってあげたい。
「お姉ちゃん」
「……アリス」
「アリスは、ちっぽけです。自分のやりたいをやり通せなくて、やりたくないことをやることだってあります。それでも……アリスはリオお姉ちゃんを助けるのを、誰かに譲る気はありません」
例え偽りの…上辺だけの家族愛だったとしても、アリスはゲーム以上に本気でやりたい。
それが本物になるまで、アリスは証明を続けたい。
その心は誰でもない…
「お姉ちゃん、手を。アリスを、信じてください」
モモイとミドリのように本物じゃなくても。
『影取り』のように相手の心を理解出来なくても。
クズノハが言うように人と機械の一線を越えなくても。
アリスはリオの家族で、リオの為のアリスだ。
「……はぁ、やっぱり貴女を迎えたのは失敗だったわね」
こうなると知っていたら、きっと不合理だと切り捨てていただろう。
「──えっ?」
私と位置を変えるように、記録装置にアリス達を押し込んだ。
小さな彼女達なら、4人居てもスペースに余裕がある。
プシュウ…。
ロックされ、内部の時間が停止する音。突貫とはいえ正常に動作したようで一安心だ。
生身の私と違ってアリス達は機械だ。元から記録として最小限の保存媒体。私が使う時のように分解されることもないだろう。
これは、機械の方がより効果的に動く装置なのだから。
「……アリス、貴女は一つ勘違いをしていた」
アリスがなんとかすると信用し、席を明け渡すのが最も合理的だ。
私と違って、使って死ぬことはないのだから。
「私は貴女の為ではなく、最後まで私の信じる「やるべきこと」に殉ずる覚悟があった」
ならば、1番滅亡に対して有効なのはこうしてアリスにやり直させること。
「不合理な選択をした失敗は、最も合理的な判断で取り返す。シズ、貴女の指摘は最もだった。目を覚まさせてくれて感謝するわ」
操作盤で最終調整を行う。
私自身が外に出るからこそ出来ること。それはこうして確実に成功出来るように、より効果的な逆行条件を追加出来ることだ。
「条件追加、「名もなき神々の女王」として復活した場合、ニコロ、ミーゴ、シズのいずれか…もしくは全員の記録が復活するように設定。アリスもまた、自然な形で現在の精神性になるように、不自然なく復活させるように……私との姉妹関係は削除」
やるならば徹底的に。ノイズは除去し、過去の私が不審がらない範囲での復活に留める。
そうやって記録を剪定してより確実に、この時間を有効活用して全てを整えていく。
[──そうやって、独りよがりなのが下水道の底に溜まったヘドロだと言ってるんですよ、リオ]
「…今更なんの用?──ヒマリ」
手は止めない。後ろに居るのは知っているが、ここに至って乱心するつもりはない。どうせ通信ドローンだ。害はない。
モモイ達を送ったヘリの移動経路から来たのだろう。そのくらい「全知」には簡単なことだ。
[モモイ達から聞きましたよ。よくもまぁこんな大それた物を創り上げたものです。焼却炉の燃やし損ねたゴミの癖に成果まで…流石は「ビッグシスター」と呼ばれてはいませんね]
ヒマリが雑談している時、大体3割は時間稼ぎの為だ。手は止めずに視線とARレンズを併用し分析する。
「…一部の機械兵が暴れてたのはヴェリタスのハッキング。ネル達は……ああ、モモイに引っ付いてた『影取り』の一部が足止めを。それに特異存在の収容施設にセミナーとエンジニア部も…本気のようね」
[はい。動いていたのはあなただけではないということです。私なりに伝手を増やしてみました]
「だけどこうなった以上、私を止める意味はないわ」
既に戦況は滅茶苦茶だ。壊れていく都市の中で沢山の生徒達が尚も争い、私に辿り着こうとしている。特異存在もその過程で何体も脱出して無差別に暴れているし、最早だれもどこがどうなっているか分かってないだろう。
私とヒマリを除けば…だが。
[それはどうでしょうか? 確かにこの都市を含めて何ヶ所か空を飛んでいるとクロノスで放送がされてますが、ミレニアムは未だ健在。時間が巻き戻るなら、その地域だけである可能性はありますよね?]
「貴女らしくもない愚問ね。それなら今まででそういう報告と地域がある筈。それがない時点で、逆行は全体に及ぶ筈よ」
結局誰も知らないのだから、この話は平行線だ。
話し合いは不毛に終わるしかない。
エンターを押して、入力した命令の実行を始めた。
[となると、賭けなければならなりませんね。私は一部は戻らない方に]
「私は全て戻る方に」
私は機械兵を呼び出した。
ヒマリもまた、自らの切り札を送り込んでいた。
一際高温な、露出が多くショートカットに切ったピンク髪の少女を視認する。
[エイミ、救出を。全員ミレニアムに避難させましょう]
「分かった。…と言う訳だから、邪魔するなら眠ってて貰うよ」
「そう──総員掃射」
機械兵が弾幕を張り、それらをエイミが回避したのが戦端となる。
火蓋は切られた。ここからは単純明快な戦争だ。
どちらか全員、倒された方の負け。
その結果は……全てが終わってから読んでいるアリスだけが分かる事だろう。
これは、アリス達を守る為の戦争の記録なのだから。
(文字が滲んだ先の記録は、破られていて読めない)
仕様No.9
仕事が忙しくて更新出来ない(>>1と作者書き文字)
先ずはこちらを。つ
うん、非常に申し訳ないがまたなんだ。どうか許してほしい。
たまにあるんだ、1週間丸々更新出来なかったりする時が。
さて、当カフェはディナーはセルフサービスだがお茶とコーヒー、紅茶なら出せる。
ゆっくりくつろいで欲しい。なにせ次は…エデンとカルバノグだからね。