The Soul's Portrait 作:遅執書者
今、俺は非常に悩んでいる。
先月、永らくお世話になった店長の送別会が無事行われ、後釜として喫茶店のフリーハンドを打診されたのだ。
これには即座に承諾して元店長の現オーナーと相談し、現在の客層を大事にしつつウマ娘を取り込んでいく方針を認めていただいた。
悩み事はここからである。
どうすればウマ娘がたくさん来る喫茶店になるのだろうか?
ひとまずできることからしようということで常連のお客さんへアンケートを実施した。
「そうか~。それなら賑やかになりそうだねぇ。まぁ私らは学生さんのいない平日のお昼に来るからあまり変わらないだろうけど」
「次期店長くんも男の子だねぇ」
「それよりオーナーの腰大丈夫だったの? 確か春先もやっちゃってたよね?」
このように概ね好意的な意見を得られたので情報収集のレベルは次へと進んだ。
週末の商店街のとあるカフェで待ち人を待つ。
「お兄さんこんにちは。頼まれてたもの持ってきましたよ」
「とても助かる。お礼になんでも頼んでくれ」
秘密兵器その一。現役トレセン学園の生徒のアグネスデジタルさんです。
ちょっとしたツテがあった彼女にLANEで助けを求めて各々のウマ娘が好きな食べ物を調べてもらいました。
どうぞと渡された用紙には飲食物の名前が羅列され、余白にはおそらく好きなものを聞いたウマ娘だろうデフォルメされた絵が描かれていた。
栄えある一番目の品物は、はちみーと太字で書かれていた。その横にはここ一年テレビで見覚えがある流星とポニーテールのウマ娘の絵もついていた。
「……はちみーはちょっと店で出すには兼ね合いがね。難しいです」
「黄色いキッチンカーが目印のある種名物料理ですよね。テイオーさんの好みは固め濃いめ多めで外出した際はよく飲んでいるようです。なんでもはちみつは完全栄養食であり一日コップ一杯飲めば万病の予防になるとか。ちなみにオグリさんはハチミツマシマシアマメマシチョモランマの特大サイズを一啜りで飲み干すチャレンジをしていましたよ」
「オグリキャップさんならできそう」
用紙の二品目にはニンジン・バナナ・リンゴと並記されている。その横には毛量が多い眼鏡を掛けた顔と頬に絆創膏をした顔、短めの髪の無愛想に見える顔が寄せられて描かれていた。
「誰も彼もがニンジンが好きってわけでもないのか?」
「ニンジンが嫌いな娘なんていません! それはそれとしてバナナやリンゴも好きなだけです! ちなみにこの三人のウマ娘ちゃん達なんですけど、なんと今年デビューする予定でしてね。ライバル同士なんですけど仲も良くて見ててとてもエモいんですよ」
「BNWか」
「なんか語感がいいですねそれ。確かに頭文字を並べると……あたし名前言いましたっけ?」
「えっ……ああ、あれだよほら、月刊トゥインクルで見た、気がする。あとやっぱりリンゴやバナナを単品で出すとそれはもう青果店かなぁ」
視線を反らして三品目を確認する。そこにはナタデココとティラミスと記されていた。横にはカウンタックと思しき車と目を回しているウマ娘が描かれている。
「これ絶対マルゼンスキーさんの好みだろ」
「ふっふっふ。それじゃあ五十点です。それは実はマルゼンさんを誘おうとしていたチヨノオーさんに聞いたものでして、あの二人はすごく仲が良いんですよね。チヨノオーさんがダービーを獲った時もマルゼンさんは我が事のように喜んでウィナーズサークルへ行く前にチヨノオーさんの服の乱れを手ずから直してましてね――」
「その話は今度またじっくり頼む。とりあえずこの二種は持ち帰って検討します。いまさら当世風にできるのか……?」
四品目。にんじんハンバーグ、ははちみーと同様に太字で強調表現されていた。なお傍には瞳の中に花弁があるはちまきを付けた娘の絵が添えられている。
「でた。にんじんハンバーグ」
「お兄さんはこれ見るといつも変な反応しますねぇ」
「なんで突き刺さってるのか欠片もわからん」
「もー。ハンバーグににんじんが刺さってるからにんじんハンバーグなんですよ。もしプリンに刺さってたらにんじんぷりんなんですよ」
「俺じゃなくて世界がおかしい。ともあれこれはたぶん出せるな」
紙面の中頃の五品目には、シュガー飽和水溶液(紅茶)と書かれている。その横には白衣を着た癖毛の瞳に光の無いウマ娘が片手でフラスコを持っているやけに詳細な上半身像が描かれていた。
「仮に調理段階で100℃の飽和水溶液つくったとしても、飲み頃は60~70℃なんだよね。その間に砂糖の結晶ができるんだよね。猫舌のお客さんだとさらに砂糖が底に沈殿するよね?」
「徹夜三日目くらいに聞いたのがいけなかったかもしれません」
「飲み物には各自お好みで砂糖やミルクを入れてもらったほうが安全確実でしょう」
六品目。ちゃんこ鍋。ツインテールの子が具材がはみ出た鍋を持ってるデフォルメされた絵がかわいらしい。
「鍋を出すには設備的にちょっと難しいかなぁ。あと出来たとしても専門店には勝てそうにない」
「このウマ娘ちゃんの作るちゃんこ鍋はとっても美味しくて振る舞いがされるとすぐ行列ができるんですよ。ベースは鳥が多いのですが結構リクエストを聞いてもらえて色んな味派がチャンスを伺ってます」
「なおさらだなぁ。もうその子に作ってもらったほうが集客効果がある……? 要検討か」
七品目の文章は、文字は解るけどうまく汲み取れないようだ。ここにきて活字疲れがピークに達してきているのかもしれない。その横に描かれているピースサインとヘンな帽子を被ったウマ娘の絵がやけに目についた。
「デジたんこの七品目ってなんて書いてあるの?」
「はい。七品目は『マグロのカブト煮に合うやきそば』ですね! えーと言伝がありまして、『トレーナーの晩酌酒のアテ、何の因果かマグロのカブト煮、お椀供養はゆるサンバ』だそうです」
「脳が理解を拒むんだけど」
「ゴルシさんは『あいつならできる』とお兄さんのこと知ってるようでしたがお知り合いではないのですか?」
「その件につきましては自己に不利益な供述となる恐れがあるので黙秘します。とりあえず放っておいて押しかけられても困るし持ち帰って検討に検討を重ねる所存と伝えておいて……」
急激な疲労が押し寄せる中、次の項目に目を通す。花丸マークがついた八品目はたんぽぽと書かれていた。横には湯飲みと小さな流星をもつロングヘアの似顔絵が描かれている。
「たんぽぽ単品!?」
「少し苦みのあるサラダ感がいいのでしょうか? もう少し詳しく聞こうとしたのですが同期の子と話し始めてしまいまして、気が付いたらあたしは保健室でした」
「もう片方にもアンケートしてたら次の品はデスソースになっていた可能性があったな」
残すところあと僅かとなった九品目はタイ焼き(チョコレート)と中身が指定されているものだった。横にはセンター分けのおでこが目立つ子のデフォルメの笑顔が添えられている。
「いいね。クロワッサン生地が美味しくいけそう」
「カワカミさんの好物ですね。食堂のデザート争奪戦で毎回活躍されてます。ですがあるときこの好物を我慢してまで追い込んでた時がありましてね、その理由がファン感謝祭のために頑張ってたとのことであたしはもう……っ」
「どうどう。これはお茶請けによさそうだし是非メニューに反映したいな」
最後のお品書きとなる十品目にはにんじんサイダーと書かれている。その横には実にロイヤルファミリー味を感じさせるデフォルメ絵が描かれていた。
「……ラーメンじゃないのか」
「ファインさんがラーメン好きなのよくご存じですねぇ」
「ラーメン店で誰かしら見かけてる気がするんだよね。中でもこの絵の子は断トツで見かける。ウチの店もあれくらい気軽にウマ娘さんがたに来てほしい」
「ちなみにこのにんじんサイダーのことを詳しくお聞きしたところ、なんでも懇意にしている温泉宿においてあるものだそうで、おいしさのあまり余興のカラオケ大会に飛び入り参加してこのサイダーの瓶をマイク替わりにしたそうです」
「楽しそうで何よりだと存じます」
その後アグネスデジタルが食べ終わるまで近況報告やらエモかった話やらを聞いたのち、何かを思い出したようにポーチから封筒を取り出した。
「あ、最後にこれをどうぞ」
「んん? これは一体」
「私も詳しくはわかりませんが、出かけ際にたづなさん……理事長秘書から渡されたものでして、これから会いに行く人に渡してくださいって」
確かに面識はあるうえに以前の面談で俺の交友範囲もある程度知られているだろうし、何よりも前世から一方的に知っているこの人たちなら何でもできそう感があるので不思議には思わないでもない話。
「そういえばあたしが誰に会いに行くか何でわかったんでしょうねぇ」
「あれもしかしてホラーな話してる?」
この世界にはホラーはないがオカルトはある。
「深く考えると夜寝られなくなりそうだな……ともあれアンケートありがとう。そんなわけでこれをどうぞ」
封筒を受け取り、替わりに密封されたビンを渡した。
アグネスデジタルはそのビンを受け取るとわずかな香りに気づいたようで
「んー。コーヒーです?」
「ご名答。それはとある親父さんの焙煎豆でね、これをトレセン学園にいる娘さんに持ち込めば言葉通りスペシャリティコーヒーが頂けるだろう。ついでにその子も飲むだろうからお話もできるんじゃないかな」
「ひょえええ。これがあればタキオンさんとカフェさんの神々しい共同部屋の空気を合法的に吸ってもいいんですか!? しかもカフェさん手ずからコーヒーを!? デジたんにも!?」
トリップしだした彼女に『ごゆるりと』と声をかけて席を立つ。ついでにコーヒーに合いそうなお土産分も支払いカフェを後にする。
帰り際、デジたんはよく気絶している印象だがゲーム内ではどうだったっけかな。なんか幽体離脱するイベントがあったようなと思い返していた。
幽体離脱……そのときふと気づいた。デジたんがマンハッタンカフェの前で気を失えばオトモダチにも会えるかもしれない。
ところ変わって自室に戻ってきた俺はさっそくトレセン学園からという封筒を開けた。
中には挨拶状のほか、とあるまっさらな申請書類が同封されていた。
「ファン大感謝祭出店申請書……?」
トレセン学園から声をかけられるたびに本業があるのでと断りを入れているのだが、これくらいなら今までの不義理のお詫び代わりに参加してもいいのかもしれない。もっともここで喫茶店の名前を広めるという打算も多少は持ち合わせていた。
◆
日本ダービーがミホノブルボンの勝利で終わり、未来の三冠への気運が高まりつつあるなかのこと。
春の天皇賞を連覇したメジロマックイーンはほんの少しだけ緩んでいた。
そのためか致命的なミスをしてしまう。
同室のイクノディクタスが帰ってくる足音を聞き逃したまま、とあるアルバムを開いていたのだ。
「おやマックイーンさん、随分と上機嫌ですね」
「ええそれはもう。何せ六枚目が溜まりましたのでこれで完成ですわ」
「なるほど。それで一体何をご覧になっているのですか?」
「それはもちろんイ゛ッ!? イ、イクノさんお帰りなさいまし。こ、これはその……そうこれはただのスタンプカードですわ!」
ドアを開ける音すらも聞き流すほどに集中していたマックイーンは、背後からの声に反射で返しながらも覗き込まれる直前に持っているアルバムの表紙をみえるように姿勢を正せた。そして動揺しつつもさりげなく違うページから引き抜いたスタンプカードを差し出して見せる。
そこには確かにスタンプが日付とともに十個ほど押されていた。受け取ったイクノディクタスはカードをひっくり返して裏面を見る。
「……無地、ですね。右下にあるのは店名でしょうか? 『M・J・R』……これはファン感謝祭で見たところのものですね」
「あ、そういえばあの件まだ許してはいませんのよ。今度行ったら文句をつけてさしあげますわ……」
「我々も頂きましたよ。メジロ饅頭。いえ、M・J・R饅頭ですか。そういえば店先にポップアップがありましたね」
「刻印が違うだけで中身は本物なのは保証します。というか、私『パクパクですわ~』なんて言いながらお茶もお菓子もいただいたことありませんわよ!?」
メジロ本家には許可を取ってありますと小さく書かれていたこのポップアップは、春の天皇賞に向けて追い込んでいるメジロマックイーンの目には入らないまま用途を全うしたもので、その間にとられた写真は瞬く間に広がってしまったのだ。その結果、喫茶店の名前よりもメジロ饅頭のトレンドがあがり製菓店はたいそう繫盛した。
「しかしマックイーンさんが足しげく通うお店とは興味を抱きますね」
「あの、もしよろしければ休みの日に案内いたしますわ」
「是非ご案内ください。楽しみにしています」
週末。午前十時を過ぎたころ。
「あった。ここだね。表通りから外れてまぁ初見じゃ来ないとこだわ」
「ターボお腹すいたもん。みんなは何食べる?」
「お店の方におすすめを聞いてみようかと」
「定食とか置いてあったりしませんかねぃ。いざ敵情視察~」
「しっかしまぁマックイーンが来れないのは残念だったねぇ」
「はい。ですがネイチャさんが場所をご存じだったのは助かりました」
「私も場所知ってたくらいで行ったことはなかったんだよね」
そこにはイクノディクタスを含む四人の姿があった。そしてあれだけ楽しみにしていたメジロマックイーンは外食禁止令がトレーナーから出されたようで、場所を知っていたというナイスネイチャの案内と話を聞いていた他二名も加わりチームカノープスで来店した。
「今やってるフェアは『宝塚記念応援メジロパーマー監修ハニートースト』だって」
「ターボそれ食べたい。ハニートーストにする!」
「では私もそれを一つ」
「むむむ」
「タンホイザは何にするの?」
「この『ウマすぎて賄いから昇格した塩やきそば』が気になりますなぁ。ネイチャは何にした?」
「アタシはチョココロネを頼むつもり」
四人掛けのテーブルに着き、各々のメニューから食べるものを決める。
「お待たせしました~。ハニトー二つに塩やきそば一つ、チョココロネ一つになりま~す」
「ありがとうございます。アイネスさん」
「お、きたきたってアイネスさん!?」
「はろはろ~。あとこれサービスなの」
ナイスネイチャは配膳に来たウェイトレスがアイネスフウジンだったことに驚きつつ何のサービスなのかわからないドリンクに戸惑うも、意に介さぬマチカネタンホイザとツインターボは一気に飲み干した。
「おいしい!」
「うまっ。これはにんじんの甘味にはちみつの甘みが加わって……でも飲み難くなくいくらでもいけちゃうやつ」
にんじんジュースをベースにハチミツとリンゴをミックスしているとマチカネタンホイザは分析した。
「では肝心の方を一口といきますか」
「あ~っネイチャ待って! 食べる前に写真撮りたい!」
「ん? アタシもうちぎっちゃったんだけど」
ナイスネイチャは最初の一口は尻尾を軽くちぎって広口のチョコをすくって食べる派だった。それはそれとして、『も~ど~し~て~!』と言われてしぶしぶとしっぽが欠けたチョココロネは隅の方に目立たないように置かれ、ツインターボによって集合写真が撮られた。
「なるほど。一番上のものはカリっとキャラメル風味でその下からは柔らかくしっとりと調理されてますね。生クリームの上に旬のさくらんぼとチョコでコーティングされたバナナとやけにクセになる三つ葉が、総じておいしいと言えます」
まるで食レポのような感想を言うイクノディクタスの横では全力でもぐもぐしているツインターボの姿がある。
「うまっ。えっいやうまっ。このやきそば本当においしいんだけどどうやって作ってるんだろ」
「こっちのパンとチョコもさすがお店って感じですわ」
ツナを始めとした海鮮が目立つやきそばを啜りながらあがった感嘆の声を聴きながら、さすがは店で出すだけはあると褒める。そこへまたアイネスフウジンがお盆をもってやってきた。
「みーんなー、今ちょっといいですか? なの」
「あっはい。アイネスさんどうしました?」
「ごめんねー。店長がどうしてもっていうの」
そういって取り出されたのはサイン色紙が五枚にサインペンだった。ナイスネイチャが改めて店内の上のほうを見渡せば透明な袋と額の二重に保護されたサイン色紙がそこそこ飾られている。先の春天を連覇したメジロマックイーン、先年の宝塚勝者メジロライアン、先年の春天記念メジロマックイーン、菊花賞メジロマックイーン、そしてダービー勝者のアイネスフウジンと簡素な色紙にメジロアルダン、少し日焼けした色紙に完全三冠メジロラモーヌの名前があった。
「あの、アタシというかアタシたちって特別何かに勝ったってわけじゃないんだけど……」
「名前と日付だけでいいからお願いしますって店長が手を合わせてお願いしてたの」
「でも商店街のあちこちにネイチャのサインあるよね。えーいこのこの愛されキャラめぇ」
「いいのではありませんか? 見てる人は見てるということです。我々の蹄跡をしっかりと残していきましょう」
右も左もメジロのサインだらけの店内に慄くナイスネイチャだったがイクノディクタスは乗り気で答えた。
「それで書いてもらってる間の世間話的なものだけど、みんなは注目している選手とかいる?」
「トウカイテイオー!」
「春天を連覇されたマックイーンさんでしょうかね」
「む~ん。同期の縁と帽子の縁でライスさんかなぁ」
「アタシはとくにいないかな」
四枚には個別のサインを、五枚目には寄せ書きしてもらう間に現役ながら今注目している選手などの話をし、書き終えた色紙を回収してアイネスフウジンは戻っていった。
「ご利用ありがとうございました~。こちらスタンプカードとなります。またのご利用をお待ちしております。なの」
「アプリじゃなくて現物とかこれまた珍しい」
「……これは。なるほど」
「おお~」
スタンプ面を表に個別に渡されたそれをナイスネイチャはそのままポケットに滑らせた。イクノディクタスはひっくり返して裏面の絵柄を確認し感嘆の声をあげた。それを聞いたマチカネタンホイザとツインターボも手元のスタンプカードを確認する。
ツインターボに渡されたカードにはトウカイテイオーがピースサインをしている絵が、マチカネタンホイザのものには帽子が前面にくるようにミスターシービー、ライスシャワー、マチカネタンホイザ、シュヴァルグラン、ホッコータルマエの横顔が並び、イクノディクタスのものにはマックイーンがエレガンス・ラインで腰に手を当てている姿が描かれている。
すべてが手描きで、ポイントカードの数だけ絵も違うのだろうと推察できるものだった。
「は~。器用なことするねぇ」
「これはこの店ならではの強みですね」
「今度はターボを描いてもらうもん!」
「それでネイチャのには何が描いてあったの?」
「アタシは別に真っ白でもいいんだけどな――うえっ!?」
他三名の絵がいずれも食事中のアイネスフウジンとの会話に沿ったものであり『とくにいない』と答えたナイスネイチャは何が描かれているのだろうかアタリもつけられず、それゆえに衝撃も大きいものとなる。
「……あはは。何も描いてなかったわ~」
「いやいや」
「絶対何か描いてあったもん」
「失礼。ネイチャさんお覚悟を」
「あっ……見ちゃダメ!」
イクノディクタスはナイスネイチャのポケットに戻した手をつかみ、その隙にマチカネタンホイザがポケットからカードの回収を試みる。
隠そうとしたナイスネイチャのカードに描かれていたもの、それはナイスネイチャがうまぴょい伝説の投げキッスをしている絵だった。
「おお……」
「うまぴょいだ!」
「うわなにこれ、めっちゃハズ……」
拘束を解かれたナイスネイチャは赤面した顔を両サイドのもふもふでガードしている。その隙にツインターボはその絵柄を写真に収めていた。
もちろんうまぴょい伝説はURAのシニア総括として行われるレースの勝者が踊れるもので、振り付けは一通り覚えているかもしれないが誰にもそれを見せたことはないものであろうといえる。
本来ならありえない光景でも絵として表現してもらえる。それならば、メジロマックイーンは何を描いてもらったのだろうか。イクノディクタスは事の発端を少し思い返していた。
◆
四月の末に行われた春の天皇賞。その勝者は次走を宝塚記念に定め英気を養っていた。
ほんの少し養いすぎた結果チームのトレーナーから節制命令が出され、わき腹をつつくなどして煽るとあるウマ娘の協力もあってマックイーンの部屋からスタンプカード帳を押収することに成功する。
証拠物件には短期間の間に繰り返し外食をした結果が見て取れ、改めて被告には有罪が言い渡された。
その過程で閲覧されたスタンプカード群にはすべからくルームメイトのイクノディクタスの絵が描かれており、中でも最後のページにきれいにファイリングされている三枚二列の計六枚を使って上半身が大きく描かれているものがあった。
「六紙合体、ゴッドイクノディクタス……?」