【完結】俺は死んだはずだよな?   作:破れ綴じ

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ここに来た方の中には「最終話の後、仲間たちVSノエリスをどう解決するんだろうか」とお思いの方がいらっしゃるかもしれません。
後日談でその経緯が明かされるのではと期待されている方がいらっしゃるかもしれません。



無理です(´・ω・`)
あそこから綺麗に解決する経緯を書く実力が私にはありません。



以降の後日談は「なんやかんやあって解決した後の話」として把握して頂けると助かります。
長々と失礼しました。本文をどうぞ。


11. おまけ
平民と兵士と王女


「久しぶり、アシェル」

 

「ん? ルシアか、いらっしゃい。久しぶりっつっても、一週間ぶりだが」

 

「十分久しぶりだって。相棒なら毎日会わなくちゃ」

 

「ははは。んなこと言ってもお前は忙しいだろうよ」

 

 

 

「お邪魔してるわ、アシェル」

 

「お、おお、ルシアか……お前、三日前も来てなかったか?」

 

「三日前もって。『昨日はどうした?』じゃなくて?」

 

「昨日はそもそも、うち休みだぜルシア……」

 

 

 

「アシェル! 今日非番だから来たの! ここの食器棚に私のコップ置いていい?」

 

「多い多い多いてめえ昨日来てただろうが!」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「……すまない、兄上。また、押し掛けるような真似をしてしまって」

 

「いや、別にいいけどさ、暇だったし。ルシアが来るのはいつものことで、お前が来るのも嫌って訳じゃねえよ」

 

 カルの工房、その奥にある客室。ついさっきまで誰もいなかったはずの安っぽいテーブルは、今や二人の訪問者によって占拠されちまっている。

 一人は、我が物顔で茶菓子を齧りながら、俺の向かいに座るルシア。

 そしてもう一人は、その隣で、バツの悪そうな顔で茶を啜ってるエリザベトだ。

 

 ルシアはいつもの近衛兵としての装備姿だが、エリザベトは変装用にと、どこで調達したのかも分からない地味な平民の服を纏ってはいる。

 ただ、滲み出る気品までは隠せてねえ。背筋の伸び方一つ、カップの持ち方一つとっても、この薄暗い部屋には不釣り合いな高貴さが漂っちまってる。本人は完璧に市井に溶け込んでいるつもりらしいが、俺からすれば「高貴な方が庶民の恰好を楽しんでおられる」ようにしか見えねえんだよな。

 ま、王族が来たともなれば店は開けていられない。

 

「そうですよエリザベト様。アシェルもこう言ってるんですし」

 

「お前はもうちょっと悪びれた方がいいんじゃねえかな」

 

 ルシアは最近この工房に顔出し過ぎて、最近だとカルがたまに話しかけられるレベルになっちまった。カルまで、ルシアが工房にいることは「よくあること」って認識してるようになってるんだ。

 レミにもロエマにもまだぎこちなくて、俺となら普通に、タリエやリアン相手なら多少は喋れるようになった……そんなカルがだぞ。慣れってのは怖えなあ。

 

 それに対してエリザベトは申し訳なさそうというか、呆れてそうというか。

 

「そうだぞ、ルシア。兄上は隠居中の身だ。あまり頻繁に王族が出入りしては、目立ってしまうだろう?」

 

「うっ……それは、そうですけど……」

 

 俺が死んだことになっている以上、王女であるエリザベトや、その近衛兵であるルシアが頻繁にこんな場所へ出入りするのはリスクでしかない。万が一にもバレれば、せっかく平和な暮らしを手に入れた俺の生存を露見させることになるし、それが心配なんだろう。常識人だなあ……。

 ま、それでも強く命令すればルシアは止まるだろうし、そうして無理やり禁止とかしてねえあたり、エリザベトもなんだかんだルシアに甘くなってるのかもしれねえな。

 

 ……ん? あれ、気づいたら皿の上が軽い。俺の分の茶菓子がねえ。

 

「ん、これ美味しい。誰の手作り? ロエマさん?」

 

「おいこら。それ俺の分」

 

「いいじゃない、減るもんじゃなし……あ、減るか。ごめん」

 

「いいよもう。くれてやるから」

 

 流石だなお前。完全に俺に対する態度が友人そのものだ。

 

 コイツにとっての俺は「敬うべき元王子」でもなければ「気遣うべき隠居人」でもない。ただの「相棒」なんだな。だから、俺に対する不敬がどうとか、俺のテリトリーに土足で踏み込んでくることにも遠慮がない。俺が上にいようが下にいようが関係ないってことか。ルシアらしい。

 

 まあ、俺だってルシアに対して文官の時だったり執事の時だったり信者の時だったり、仕方ないとはいえ──色々自分の素性隠して騙してることがあったからな……。

 そういうこともあって俺からは強く言えねえし、今の状況に文句言うつもりもねえ。コイツがこれだけ距離近いのも、今まで騙されてたこととか、ずっと生死不明だったことが重なった故の反動だろうし。

 

 それに──俺もルシアのことは「相棒」だと思ってるから、案外この距離感が心地よく感じちまってるんだよな。レミはどっちかっていうと「警戒対象」で、ネルは「守るべき妹」だし、ノエリスは「自分よりも上位の存在」って感じで。残りの面子とはずっと二人きりだった印象無いし、最初から最後までずっと対等だったのはルシアだけな気がする。

 

「全く……兄上への敬意というものをどこへ置いてきたのだ」

 

 エリザベトは呆れ果てたような吐息ついてるが……その声色は、無作法な部下を叱る上司のもので、それと同時に手の焼ける友人を諌める保護者のものみたいな感じもする。

 

「敬意ならありますよ。アシェルは私の背中を預ける相手ですから」

 

「背中を預ける相手の菓子を奪うのがお前の流儀か?」

 

「栄養補給は兵士の義務です」

 

「屁理屈を……」

 

 この二人の関係も、傍から見ていると不思議なもんだ。エリザベトはルシアの不敬スレスレの態度を「実力があるから」という理由で黙認しているが、それ以上に、この遠慮のない距離感を心地よく思っている節がある。元々それを担当してたのは俺だったが……俺は死んだことになってるからな。

 主従ではあるが──俺をダシに、王城じゃできない普通の会話を楽しんでるような──

 

「──それにしても、兄上」

 

「ん? どうした」

 

「その髪色はやはり──何度見ても慣れないな」

 

 ああ、これか。

 

 今の俺は変装するってことで、黒に髪を染めて、かつての王族としての証であった金髪を見る影もなく塗り潰した。

 金髪ってのは結構珍しいし、一般市民に紛れるためには必須の処置だ。エリザベトだって、その必要性は頭では理解してるはずだが……。

 

「変装が必要なのは理解している。だが……どうしても違和感があるのだ。以前の──私と同じあの色こそが、見ていて安心するのだが」

 

 あー……。

 まあエリザベトは金髪の俺を見慣れてたって記憶を埋め込まれてるから、今の俺に違和感が強いのか。

 

「そうですか? 私は中身がアシェルなら、髪色なんてどうでもいいですが」

 

「まあ、こればかりは私の好みだからな。どうだろう兄上、私と会う時だけでも元の色に戻すというのは……」

 

「いや、それは流石に面倒くせえよ……染め直すのにどれだけ時間かかると思ってんだ」

 

 エリザベトにもなんかこだわりとかがあるのか? 

 そんな頻度でコロコロ髪色変えてたら、王子かどうかより単純に目立ちやすくなると思うんだが。目立ったところでうちの店がそんなに沢山の客を抱えきれねえし、俺が生きてるってなってもそれはそれで面倒だぞ? 

 隠居生活ってのは、もっとこう、枯れたような静けさがあるもんだと思ってたが、なにが好きでこうも俺に構いたがるんだ。

 

 まあ、その騒がしさを、──俺自身が心地よいと感じちまってるのが、一番の元凶なのかもしれねえが。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「……やっぱり──少し落ちた?」

 

「痛い痛い痛いって」

 

 さっきからお前は何を足揉んでるんだ。爪が食い込んでるんだよ。

 マッサージにしちゃ殺意が高すぎるだろ。肉の奥にある筋肉の繊維を一本一本確認して、その質を問いただされてる気分だったぞ。

 

「ちゃんと走り込みしてる? これじゃあ、いざという時に反応が遅れる」

 

「一応毎朝六周してるけど……おい、跡がついちまうぞ」

 

「んー……」

 

 無視かよ。

 ルシアが顔見せるようになって毎回こうだが……これに関しちゃ久しぶりに会った友を見る目じゃねえな。愛用の武器の状態を確認する職人みたいな目で見んじゃねえよ。刃こぼれはないか、錆は浮いていないか、重心は狂っていないか。そんな冷徹で、執着に満ちた目つきだぞ。

 

「だから隠居してるんだって。戦ったり訓練することもねえんだから、筋肉なんて落ちて当然だ」

 

「関係ないわ。貴方が鈍ったら、私の背中を誰が守るのよ」

 

「お前は守られる側じゃねえだろ……守れるなら俺が守りてえけど」

 

 ……前から思ってたが、コイツやっぱり──俺を兵士に戻そうとしてないか? 

 俺を相棒として認識してるのは分かってるが……俺が王族であることは気にも留めねえ癖に、俺が衰えるようなら鍛え直そうとしてる気がする。

 俺が「隠居した一般人」だってことが、コイツの頭の中じゃ「整備不良の兵士」に変換されてるんじゃねえか? 俺が上の立場にいてもそのことを意識することは無く、俺が下の立場になったら無理やり自分と同じ立場に引き上げようとしてるような……。

 

「全く……兄上を何だと思っているのだ。整備が必要な装備品ではないのだぞ」

 

「いえ、エリザベト様。整備は重要です。私は後悔しないためにも──二度と自身の準備を怠らないと心に誓っているので」

 

「それ兄上に関係あるか……?」

 

 二度と自身の準備を怠らない……ってなんだ。あれか? 装備のつけ間違えとか、整備のし忘れとか、お前がよくやってたあの間違いで何か大きな失敗をした経験があるとか? 

 そういや文官の頃見かけた時にはそういったミスがなくなってたな。あの瞬間までにそういう苦い思い出をしたのかもしれねえ。

 

「そもそも、兄上も甘すぎる。そのような態度では、ルシアの暴走を助長するだけだ」

 

 おお、茶啜りながら説教とは余裕だな。

 こっちは若干足の感覚がなくなりかけてるぜ。

 

「ルシアは優秀だが、兄上のこととなると歯止めが利かない。毅然と線を引かねば、彼女のためにもならないぞ」

 

 それはごもっともだ。

 王女としての威厳を保ちながら、友人としてのルシアを案じ、兄としての俺を気遣う。

 この場において、エリザベトだけが唯一まともな感性を保っているように見えるな。

 俺とルシアの、傍から見れば若干依存を含んでいそうな関係性を──一歩引いた「安全圏」から眺めている観測者。それがエリザベトの立ち位置ってわけだ。

 

「アシェルが良いって言ってるんだからいいじゃないですか。ほら、こっちの筋肉も。張りはあるけどパワーが足りない」

 

「お前と同じパワーのヤツは存在しねえって……」

 

「それでも。ほら、次の非番の日、演習場を借り切ったから。二人きりで訓練しましょ?」

 

「俺の予定は?」

 

 俺の予定なんて聞いちゃいねえ。決定事項として突きつけてくる。 俺を自分と同じ高さまで引き戻すまでは、絶対に逃がさないつもりらしい。

 生憎ずっと空いてるからいいけども。何準備すればいい? 槍と装備か? 元王族権限と近衛兵権限で訓練所の教官を呼びつけて監修でもさせるか? 

 

「……ルシア。元王族を──しかも隠居した一般人を演習に巻き込むなど……」

 

「エリザベト様。私はアシェルより息の合う相手を知りません。彼との連携こそが、陛下をお守りする最強の布陣なんです」

 

「兄上の同意が得られるのならいいが……」

 

 おお、迷いのねえ声。別に全然いいけど。

 私が彼を引き上げ、彼が私を支える。そうやって互いを高め合うのが『相棒』だと言わんばかりの熱量。間違いなく不敬だが、コイツの中じゃ「王を守るため」って大義名分と「俺と戦いたい」って私欲が完全に一致してるらしい。

 

 

 

「しかしだな。いくらお前が兄上を好いているとはいえ──」

 

 ん? ……え? 

 ……好いている? 

 

 

 

「いやいやいやいや……エリザベト様、好いているだなんて。私とアシェルは相棒です。そういった浮ついた関係性ではなくて……」

 

 あ、そうだよな。びっくりした。

 急にエリザベトがふわふわしたこと言い出したから驚いちまった。

 

「……そうなのか? 私はてっきり──兄上と二人きりになりたいからこれほど執着しているのかと」

 

「何言ってんだエリザベト」

 

「そうですよエリザベト様」

 

「……そうか、私の早とちりか」

 

 エリザベトが不思議そうに首を傾げてる。

 王族ってのは、男女が親しくしてるとすぐにそういう風に見ちまうもんなのか? 政治的な結婚とかが多いから、色恋に敏感なのかもしれねえな──だが、俺たちにそれは適用されねえぞ。ルシアが俺にべったりなのはあくまで相棒だかららしいし。

 

「いやな。兄上の話によると、ルシアはかのガルトンの執事長と交流があったそうじゃないか」

 

「? そうですが……」

 

 おっと? 話が変わったぞ。

 執事長。あれはレミとの思い出であると同時に俺の黒歴史の一つだ。ルシアにとっても、俺に騙されてた苦い記憶だろう。

 

「その執事長──『シェラ』もまた、兄上自身だった訳だが……ルシア、彼と手紙のやり取りをしていなかったか?」

 

「えっ? あ、はい。情報交換のために……」

 

「その中に、亡くなったと思っていた兵士の兄上へ宛てた手紙もあったと聞くが」

 

 ああ、あったな。

 交換して序盤は重たい感情&俺救出への決意表明みたいな感じだったが、決意表明なんて何回もすることじゃねえし、徐々に俺への熱い思いを綴ってる恋文みたいな内容に移行してたのを覚えてるぞ。

 思えばあれが初めて知り合いが『壊れた』のを認識した時だったのかもしれねえな。

 

 ……おいどうした、ルシア。

 俺の足を掴んでる腕がどんどん力失ってきてるが。

 

「え……と、じゃあ……私があの手紙を渡してたのは──アシェル、本人で……」

 

「ああ、そうだぞ」

 

「わ、私は……あの手紙を読んだ相手に、直接対面して……あんな、デレデレと……?」

 

「お、おお。そうだぞ」

 

 会う度毎回嬉しそうだったよな。お前でも乙女みたいな顔するんだなって思ってたぞ。

 言えば殺されるかもしれねえ状況だったし、別にわざわざ口にする必要もねえだろうからわざわざ指摘したりしねえけど──

 

「──わ、わわ、わあああああ!!」

 

「きゃっ!?」

 

「うおっ!? ど、どうしたルシア!? 大丈夫かエリザベト!」

 

 横で急に叫ぶな! 耳の奥が破れるかと思ったぞ! 

 

 え、えっと、そりゃそうか! 死んだと思ってた相手への激重な決意表明の手紙を実は本人に直接手渡ししてて、それを読んだ相手と毎回素知らぬ顔で出会ってたなんて事実、穴があったら入りたいどころの騒ぎじゃねえよな! 

 俺は気にしてねえから落ち着け! 覚えてねえから! 

 ああもう、覚えてねえなら直接口に出して慰められねえじゃねえか! 

 

「お、思い出しました! 外の護衛との連携確認をまだしてなくて! 失礼します!!」

 

 おお、すげえ勢いで出て行っちまった……。

 お前がいないと、ただ俺とエリザベトが会ってるだけじゃねえかよ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「……なんだアイツ。急に走り出して」

 

 騒がしいヤツだな。出ていくのは勝手だが、俺の足を中途半端に揉みしだいたまま放置していくのはどうなんだ。血行が良くなったんだか悪くなったんだか分からねえよ。

 

「ふふ……可愛らしいところもあるではないか。普段はあんなに勇ましい近衛兵だというのに」

 

 対してエリザベトはしたり顔だ。直接口には出してないが、顔が「そら見たことか」って語ってる。

 

 こういう顔を見るのも初めてだな。普段は王女として振舞うように努力してるヤツだし、ルシアみたいな友人ができて、ちょっと人間的にも余裕が出てきてるのかもしれねえ。

 ほんの少し前までは王子の俺と一緒に会議とかやってたが、今のエリザベトは頼る相手はいなくなった状態で政務をしてることになる。俺がいなくなって、寂しい思いをしてるかもしれねえ。だから、そのポジションにルシアがついてくれたのは喜ばしいことだよな。

 

 まあ、別に今の俺とエリザベトも全く会ってないって訳じゃ──

 

「──さて、私もそろそろ帰る準備を始めるとしよう。ただ、その前に……」

 

 

 

「……お兄様、肩を貸してもらえるか」

 

「ん? ……おお。そうか、二人になったからか。よしよし」

 

 

 

 

 

「……次の密会なのだが──一週間後ではなく、明後日にしないか?」

 

「元の予定より随分近くなったな……政務が忙しくなりそうか?」

 

「そうだ。今回も城からの使いを出す。ただいつも通り私の部屋に来てくれればいい」

 

「ああ、いいぞ。兄貴に好きなだけ甘えとけ。今のお前は一人で頑張ってるんだから」

 

「ふふ……では、また二人きりで会えることを楽しみにしている。お兄様」




こんな感じのヤン……ちょっと思いの重い話を後日談として10話ほど書いていく予定です。
ヤンデレと言うには控えめかもしれないので。

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)
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