男しか出ません。問題無いと思いますがちょっと嫌な予感がした方は注意をば。
……コイツらいっつも飲んでるな(´・ω・`)
「……先輩。その、足……開かないでください」
「ん? ああ、悪い悪い。癖でな」
「癖って……スカートなんですから、気をつけてくださいよ。目のやり場に困ります」
「タリエの言う通りだぞ兄貴! 俺だって、その……見ててドキドキするし……!」
「ははは、お前ら初心だなあ。中身は俺だぞ? 何をそんなに意識してんだか」
「そ、そうだよな? 中身は兄貴なんだよな……あれ……?」
「おっと、カル。どうした?」
「……アシェル。また、胸元開いてるぞ」
「あ? ……マジか。ボタン外れてたかな」
「……ほら。じっとしてろ」
「おお、悪いな。ありがと」
「……何ですかあれ。カルさん、手際良すぎませんか……?」
「男だけの飲みって聞いてたのに……兄貴だけ雰囲気が違いすぎだぞ……」
「なんださっきから。お前ら男じゃねえか。そんなにドギマギしなくても」
「だから言ってるじゃないですか! 先輩のその姿が完璧すぎるからですよ!」
「俺は、同居してるし、見慣れてるが……まあ、無防備だからな……」
「そうか? 男だけだから逆に気にしなくていいもんかと……」
「ああそうそう──そういや、今日はこれのために集まってもらったんだった、ほら」
「……手紙、ですか? 随分と上質な封筒ですが」
「なんだなんだ? 兄貴に果たし状か? それとも借金の催促か?」
「いやこれ、ラブレターでさ──男から」
「……!?」
「えっ!?」
「はあっ!?」
*
おー。
驚いてやがる驚いてやがる。思ってた通りの反応だぞ。
今日は久しぶりに男だけで集まれる飲みの回なんだが……こんな話は普通異性にしねえからな。同性だけが集まってる場所で打ち明けるのが定石だ。
……ま、見た目女の俺が言っても変な気もするが。
「おおお、男……って、兄貴に、男が惚れたのかよ!? え、それ……!?」
「あ、相手は誰なんですか!? どこのどいつです!? まさか、僕の知ってる相手ですか!?」
狭い工房で二人して椅子から転げ落ちそうな勢いで身を乗り出してきやがって。
タリエに至っては目が完全に据わっちまってるし、リアンも顔真っ赤にして鼻息荒くしてる。
まあ、無理もねえか。
自分の尊敬する兄貴分が、男から求婚されたなんて聞かされりゃ、思考が混乱してもおかしくねえよ。俺だって逆の立場なら「何やってんだお前」って言うに違いねえ。
ただ、こいつらの反応は「そういう困惑」じゃなく──純度百パーセントの「心配」ってのが問題なんだが。
「落ち着けって。相手はどこぞ商会の跡取り息子だ。店にこの前来てた客でな、見た感じ真面目そうな、善良な一般人だよ」
……おい。
なんだその顔は。安堵すると思ってたのに、逆に剣呑な雰囲気増してんぞ。別にそんな親の仇を見つけたみてえな目しなくてもいいと思うんだけど。
「商会の跡取り……? ふざけやがって! 兄貴に変な気起こすんじゃねえよ! 家の連中も必要ねえ! 俺が今から一人で行ってシメてきてやる!」
「おいおいおい待て待て待てリアン、座れ。暴力はダメだ」
「……少し調べれば埃の一つや二つ出るかもしれません。それさえ暴ければこの告白は無かったことに……危ない相手なら最悪、あの毒を使えば……」
「待て待て待て! 落ち着けタリエ! 何しでかす気だお前!」
なんで……?
二人とも酔ってねえよな? リアンは年齢的にまだ飲まねえし、タリエもそこまで強くねえから飲まねえし。
なのにどうしてそう極端な方向に走ろうとしてるんだ。相手はただの勘違いした一般人だぞ?
俺を女だと思い込んで、純粋に好意を寄せちまっただけの哀れな男だ。それを物理的にボコったり、社会的に抹殺したりなんて、あまりにも理不尽すぎるだろ。
心配してくれてるのはありがたいが、そこまでしなくてもいいって。俺の身を案じるあまり、周りが見えなくなっちまってるのか?
「いいか、相手に悪気はねえんだ。だから手荒な真似はなしだ。物理的にも、社会的にもな」
「で、でも兄貴ぃ……! 俺の兄貴が……!」
「納得できませんよ……先輩にそんな不敬な真似をして、タダで済むとでも……」
「不敬も何も、俺はただの受付嬢だぞ? 客が店員に惚れるなんてよくある話だろ」
……コイツらがここまで熱くなってるのを見ると──やっぱり女性陣には内緒にしておいて正解だったな。
俺の所感なんだが、女性陣は男性陣に比べて俺に対する感情の比重が大分大きい気がしてたんだ。もし、レミに知られたら「護衛の必要性がどうの」とか言ってほぼ毎日店に来るようになるかもしれねえし、ノエリスに知られたら「眷属に手を出すな」とか言って火吹きかねねえし。ソラナにでも知られた日には……心配のあまり教祖の仕事放り出して駆けつけてくるだろう。他の皆は真面目だからそんなことねえとは思うけど……。
それに比べて、コイツらならまだ俺が止めれば止まる。制御可能な範囲内だ……多分。
「……で、どうするんだ?」
対してカルだけは相変わらずマイペースだな。
リアンやタリエが騒いでる間も、手元のグラスを傾けるペースが変わってねえ。驚いてない訳じゃなさそうだが、それどころか──ラブレター見せた時は明確に動揺してた気がするが。コイツにとっちゃ珍しい反応だったな。弄っておけばよかった。
まあ、そんな感じで、どこか他人事というか、俯瞰的に見てる感じがする。まあ、カルにとっちゃ「またか」って感じなのかもしれねえな。俺の周りで騒動が起きるのは日常茶飯事だし。
慣れたのかな。それはちょっと嫌だな。
「どうするも何も、断るしかねえだろ。そもそも相手のことなんて客としてしか知らねえしな」
相手が男ってのも勿論そうだが、それ以上に──相手のこと全然知らねえのに安請け合いするってのもなんとなく良くない気がしてる。
俺が知らねえヤツに告白したとして、一回受け入れてもらえたけど「こんなヤツだとは思わなかった」って言われてフラれたらガラにもなく落ち込んじまいそうだ。
「そりゃそうだ! 兄貴が俺の知らねえヤツと結婚なんてありえねえ!」
「当然です! 先輩の隣に立つ人間がそう簡単に決まって良い訳がないですから! もっと昔から先輩を支えている人じゃないと!」
おっ、二人ともようやく頷いてくれたか。
まあ、断るって結論に異論はねえよな。ちょっと熱量がおかしい気もするけど。
で、問題は「どうやって断るか」だ。
「ただな、理由もなく『ただ知らねえ』ってだけで無下に断って逆恨みされるのも面倒だし、かといって引き伸ばして店に変な噂が立つのも困る。あくまで俺は『受付嬢』として、角が立たないように断りてえんだよ」
俺が男だとバラせば一発で解決する話だが、「女装する必要がある」って情報をそれなりの相手に与えることになっちまう。最悪、今の生活を捨てることになるから論外だ。
かといって曖昧な──「タイプじゃない」とか「仕事が大事」とかで断ると、諦めきれずに粘着される可能性もありそうだ。相手は商会の跡取り、金と暇に物を言わせて通い詰められたら商売あがったりだ。こんなことのためだけにエリザベト動員する訳にもいかねえし。
不義理だと思うから手紙は読んでねえが……初めに告白された時も「一目見た時から心を奪われました」だの「貴女の笑顔が忘れられません」だの言われたんだよな。
だから多分手紙の中身も、そんな感じの熱烈な内容っぽい気がする。本気度が高いってことは、それだけ諦めが悪いってことでもあるから、生半可な断り方じゃ引かねえかもしれねえ。
「どう思う? やっぱり『よく知らねえから』って理由だけじゃちょっと足りねえ……よな?」
「……まあ、嘘じゃねーけどよ。それって『じゃあこれから知っていこう』って言われたらどうすんだ? 少なくとも俺は兄貴にそんなこと言われたら『いいぜ』って言うぞ?」
「確かに。相手が前向きなタイプなら、むしろチャンスだと思われるかもしれませんね。『まずはお友達から』なんて言われたら、断る口実がなくなりますよ」
……うーん。
だよなあ。やっぱりその通りだ。
真面目そうなヤツだったし、段階を踏んでアプローチしてくる可能性は高い。そうなると泥沼だ。「友達から」って言われて断るのは、流石に角が立つし。かといって友達になったらなったで、今度は「そろそろどうですか」って詰め寄られる未来しか見えねえ。
「それに、相手は商人でしょう? 交渉事には慣れているはずです。『知らない』という理由は、『知れば解決する』という交渉の余地を残すことになりますよ。少なくとも僕ならそうします」
「うわあ……嫌な説得力があるな」
タリエの奴、妙なところで鋭い指摘をしてくるなあ。なんで最後にそういうこと言ったのかな。詳しいのかな。
でもまあ、確かに商売人なら、断られてからが本番だと思っててもおかしくねえ。押してダメなら引いてみろ、引いてダメなら金を積め、みたいな思考回路してたら最悪だ。
「じゃあ、『仕事が恋人だから』ってのはどうだ?」
「それも弱いです。結婚しても仕事は続けられる、むしろ俺がサポートする、なんて言われたら終わりですよ」
「そうか……逃げ道が、ないな……」
……お?
うわ、もう空かよ。カル、お前いつの間にそんな飲んだんだ? 俺たちが話してる間にペース上げすぎだろ。ちょっと目が据わってる気がするぞ。
まあ、リアンとタリエがあーだこーだ言ってる間、手酌で黙々と飲んでたからな。こいつは酒が入ると口数が減るか、逆に妙なことを言い出すかのどっちかだが……今日はどっちだ?
「……なら、練習してみればいい」
「へ?」
……これは。
「ああ。いきなり本番でやるから失敗するんだ。ここで一回、練習をしておけばいい」
「……練習?」
「俺たちの誰かを相手役にして、実際に断ってみるんだ。そうすれば、どんな返しが来るか、どう切り返せばいいか、把握できるだろ」
これは、妙なこと言い出す時のカルだ……!
*
「……よし、決めた──カル、お前頼めるか?」
「……俺か?」
「ああ。一番落ち着いてるし、客観的な意見くれると思って。お前が一番適任だろ」
……おい横の二人。なんだその不満そうな声は。
お前らが練習台になりたがってたのは知ってるが、これは遊びじゃねえんだぞ。俺の平穏な隠居生活がかかってるんだ。毒を持ち込むようなタリエだったり、人の墓荒らして回るようなリアンと比べりゃ、カルは変に暴走することもねえって思えるだろうが。真面目にやってくれそうなヤツを選んで何が悪い。無視だ無視。
「……分かった。付き合う」
よし、交渉成立だ。グラスを置く音が小気味いいぜ。やっぱり持つべきものは冷静な同居人だな。
コイツなら、相手の商会息子が言いそうな台詞を想定して、的確かつまともな返しをしてくれるはずだ。
「じゃあ、始めるぞ。俺は工房の店員シェラとして働いてる最中って設定で……お前は客として来て、俺に手紙を渡した直後ってことでいいか?」
「ああ……構わない」
……おお、距離が近いな。
机一つ挟んで向かい合うと、普段見慣れてる顔でも改めて意識しちまうもんなのか。
まあ、あのメイド服も似合ってた辺り、カルって結構整った顔立ちしてるし、真面目な顔で真っすぐ見つめられるとちょっと調子が狂うぜ。
「コホン……あの、シェラさん。手紙、読んで、いただけましたか……?」
おっ、意外と演技派だな。
普段の興味なさげな気だるい口調じゃなくて──苦手なヤツを前にしたときの、緊張したような、丁寧な口調で話しかけてきやがった。
思えばあの商会息子もこんな感じだったかもしれねえなあ。
……コイツ、案外こういうの上手いのか?
「あ、ああ。読ませてもらったよ……で、その、気持ちは嬉しいんだが」
ええと……ちょっと申し訳なさそうな感じの顔は……こうか?
相手を傷つけないよう、でも期待を持たせないように、絶妙なラインを攻めねえと……。
「悪いが、お前のことはよく知らねえから……付き合うとか、そういうのは無理だ。ごめんな」
どうだ? さっきは却下されたが、シンプルで、一応角の立たない断り方だと思う。
後は表情で精いっぱい「てめえは脈なしだぞ! 諦めろ!」って伝えつつ、かといって人格を否定する感じは無さ目に……おお、完璧じゃねえか?
さあ、カル。ここからどう返す? 「そうですか、残念です」って引き下がるか? それとも「友達から」って食い下がるか? どっちにしろ、お前の返し次第で、気分的にも対策的にも次の行動を考えられるぞ。
「……よく知らない、か」
お? なんだその目は。演技にしては随分と熱がこもってねえか?
さっきまでの丁寧な口調が消えて、いつものカル……いや、いつも以上に真剣なカルが──
「──知らないなら、知ればいい……だろ。俺は……俺はずっと、お前のことを見てきたんだ」
「え?」
……おい待て、台詞が違うぞ。
設定だとお前は「店に数回きただけの客」だろ? 「ずっと見てきた」ってのは無理があるんじゃねえか? それとも、ストーカー気質の客って設定をアドリブで入れてきたのか?
「い、いや、見てきたって言われてもな。俺はお前のこと客としてしか……」
「客としてだけじゃない。俺は、お前の……働く姿も、笑う顔も、全部知ってる」
えっちょっ近いって。身乗り出してくんな。
酒臭さはねえが、その瞳の奥にある光が強すぎて仰け反っちまったぞ。もう脈無しだってことを隠す気も無い態度だぞこれ。
えっこれ、演技なのか? 演技にしては迫真すぎねえか? リアンとタリエも後ろで「えっ?」「は?」ってざわついてるし、完全に空気が変わっちまってるぞ。
「俺は……お前が一人で頑張ってるのも、たまに無理して笑ってるのも、全部見てきたんだ。だから……」
……あんまり告白断って来た相手の手を掴むべきじゃねえと思うんだがー……。
ていうか……話が飛躍しすぎてねえか? こいつの手、こんなに熱かった覚えもねえし。職人の手ではあるがちょっと細くて──なのにその握る力が強すぎて痛いくらいだ。
「……カル? おい、ちょっと役に入り込みすぎじゃねえか?」
……手が引けねえんだけど。
なんか力強くなったんだけど。
え、離さねえつもりかよ。マジか?
ここから先はガチの力比べだぞ?
「入り込んでる? ……そうかもな。あの頃の俺なら、これくらい思ってたかもしれない」
「何言ってんだお前」
……え、酔ってんのか?
いや、確かに結構飲んでたけど、ここまで訳の分からねえことを言い出すほど泥酔してるようには見えねえ。呂律も回ってるし、目もしっかりしてる。
だとしたら、なんだこの状況は。俺はただの断る練習をしてたはずなのに、なんでこんな真剣なトーンで語りだしてんだ?
「……アシェル」
……名前呼んじゃったよ。設定忘れてるじゃねえか。
相手は俺のこと「シェラ」だと思ってる設定だろ? 本名呼んだら台無しだぞ。
「俺は……お前と一緒にいると、落ち着くんだ。俺ができないことをしてくれるし……お前がお前だった時は一瞬なのに……お前がいない生活なんて、考えられなくて……」
……えっと、まあ、それは分かる。
俺たちは同居人だし、仕事のパートナーでもある──それは俺が女だった時も今も同じだ。俺がいなくなったら店も回らなくなるだろうし、カル一人じゃ寂しいだろうよ。俺だって、お前との生活は気に入ってるしな。
でも、それを今ここで、こんな熱烈なトーンで言う必要あるか?
後ろの二人が「これ練習ですよね? え、僕以外にも……?」「カルの野郎、俺の兄貴に何やってんだ?」ってヒソヒソ話してるのが聞こえねえのか?
「だから……俺はなんとなく、お前と、いずれは──結婚、するのかと思ってた」
「……え?」
結婚?
親友とか、家族とかじゃなくて……結婚?
ええ……予想外の単語が出てきて、どう反応していいか分からねえんだが。
対照的にお前の顔が真剣そのものですぐ否定しづらいんだけど。冗談や演技で言ってる顔でもねえし。心底そう思ってた、あるいは今も思ってる、そんな切実な響きが込められてるような。
「……け、結婚って……お前……」
まさか……マジでそうなのか?
あの時のお前は……「いずれこの女と結ばれることになるのかな」って思ってたってことか?
で、写本師の俺がそのままちょっと成長したみたいな今の俺を見て、ちょっと懐かしくなって、気持ちが溢れてきてる……?
「あ……いや、その……違う、今のは……」
「えっ……おい」
「……昔は、そう思ってたって、だけで……」
どうした今更。顔が耳まで真っ赤だぞカル。
なんだよ、今の間は。否定するならもっと早くしろよ。変な空気になっちまったじゃねえか。
昔ってやっぱり俺が女だった頃だよな? だとしても「結婚するんだと思ってた」なんて台詞、普通今の俺に言うことじゃねえだろ。いきなりすぎてビビったぞ。
「……その、気持ち悪いよな、男同士で……忘れてくれ」
「……別にいいけど」
いやまあ、俺はお前のこと信頼してるし、お前が俺を大事に思ってくれてるのは分かってるし。
その表現がちょっと不器用で、たまに重たいだけで……根っこにあるのは善意だって知ってるから。
というか……。
──『あ、アシェル。非番だから、明日も来るわね。いいでしょ?』
──『人の寝顔を見ておいて……ただで帰れると?』
──『ご主人様。あの男、先ほどご主人様を睨んでいましたが……』
──『この前電撃魔法失敗したから、そのうち他のヤツに雷降るかも』
──『アシェルさん……♡』
もっと怖い連中山ほど知ってるからなあ……。
それに比べりゃ身近な異性との未来を想像したことがあるなんて健全でしかなくてなあ……。
むしろ可愛く見えてきたぞ。いつもお前は頑張ってるからな。
俺に甘えたきゃ甘えるか? ん?
*
「ず、ズルいぞカル! なんか良い雰囲気だし! 俺も兄貴に告白されたいし! あんな風に見つめ合って『結婚』とか言われたら……!」
「リアン君、落ち着いて! そ、その、気持ちは分かりますけど──あれは告白を断られるシーンであって、告白されるシーンじゃないですよ……!」
「ぐぬぬ……! でもよぉ、俺の兄貴が……!」
「何言ってんだてめえらは」
コイツらは俺に何を求めてるんだ。
男同士の友情ってのはもっとこう、さっぱりしたもんじゃねえのか?
もしかして──俺の周りにさっぱりしたヤツなんて一人もいねえ?
あっそういうこと? マジ?
「……部屋に戻る」
「あ、おい待てよカル。逃げるなよ」
おいおい、あんなこと言ってそのまま帰るなんて生殺しじゃねえか?
今なら告白したまま待たされてる相手の反応も分かるぜ。今のカルみてえな気分なんだろうな。
にしても、なんでこんな面白く思えるんだろうな。
いざ冷静になってみれば、なんかこうすげえ嬉しいような。意外なもん見れたというか、面白いもん見れたというか──弄ってやりたくて仕方がねえ。
「うっ……! やめろ、アシェル」
「へへ、お前も可愛いとこあんな。昔はそんなこと考えてたのかよ」
「……うるさい。忘れてくれって言っただろ」
「はいはい。ま、俺は結構酔ってるお前を部屋まで送るだけだからな。それは断らねえだろ?」
「……っ、分かった……」
むすっとした顔でそっぽを向きやがって。なんだよ、照れてんのか?
普段はクールなくせに、中身は意外と乙女みたいなとこあるじゃねえか。案外むっつりというかなんというか、こいつの新たな一面が見られて、俺としてはちょっと得した気分だぜ。
「まあ、冗談は置いといて……断り方は決まったな」
「……あ?」
「お前の演技のおかげで閃いたよ。『既に同棲してる男がいる』って言うことにするぜ」
これなら嘘じゃねえ。
俺たちは実際に同棲してるし、相手のカルは男だ。
相手がどう解釈するかは知らねえが、少なくとも「男の影」をちらつかせれば、大抵の男は引くはずだ。実際に証明しろって言われたら、抱き着きながらカルを連れて着てやればいいし。俺が男だってバレるリスクも低い。完璧な作戦だろ?
「……っ!」
おっと、危ねえ。
おいおいどうした。何ただの平坦な場所で転げかけてんだ。酒が回ったか?
……意外と軽いな、コイツ。前々から思ってたけど職人の割には線が細いっていうか……。
「……悪い」
「気にするな。ほら、しっかり立てよ」
……なんだその目は。俺の顔になんかついてるか?
女装した俺の顔が近すぎてドギマギしてんのか?
「……アシェル。お前、力……」
「あ? 当たり前だろ。俺はもう『女』じゃなくて、『男』なんだぜ?」
ま、今のお前は、その女みたいな男の俺に抱き留められて、性別逆転みたいな状況になってる訳だがな。
ははは。
「そ、そうだよ、な。お前は、もう……男で……じゃあ、俺は何を……」
「何言ってんのか知らねえが──今日はもう寝ろよ。明日も仕事だぜ?」
「あ、ああ。そうだな……ありがとう」
「なに、どういたしまして──俺の『彼氏』の時はよろしくな。じゃ、おやすみ」
「え……あ、う、うん……おやすみ……」
感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)
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文章練習でまたいくつか後日談を書こうと思うのですが、需要ありますか?
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