【完結】俺は死んだはずだよな?   作:破れ綴じ

112 / 120
次回作『僕のくせにボクの邪魔しないでよ!』が完結したので、文章の練習でまた10話ほど書いてみようと思っています。
もしよろしければお付き合いください。

初期アシェルの口調を思い出すのが大変でした……(・ω・`;)


12. おまけ(IF)
Q. もしあの傷がもう少し浅かったら?


「──もう少し。もう少しだから」

 

 ……ルシアの声、さっきより低いな。俺の足が動かなくなったせいで今は完全に背負ってもらってる状況。おかげで進みはだいぶ鈍足だ。

 一番の近道が裏手の道だったことと、見習い兵が皆任務に出払ってるおかげで兵舎の周囲はほとんど人がいない。いても速度が上がるかは分からないが。

 

 とにかく俺も呼吸のリズムを整えよう。ちょっと痛むが、ここで踏ん張らなきゃまた……いやでも思った以上に痛いな。

 これもしかして軽傷じゃなかったか? 最悪、死ぬのも覚悟しねえと。

 

「血、止まってきてる。さっきよりは。だから、もう少し」

 

 止まってきてる、だと。何を見て言ってんだか。

 気休めだろ。死ぬ前ってのは楽になるもんだ、盗賊の頃に何度も見た。腹の熱が引いてきてんのも……やっぱりそういうことだ。こいつは知らねえだけ。

 

「痛む?」

 

「……まあ、刺された、しな」

 

「それだけ喋れるなら、まだ平気」

 

 平気なもんか。

 声が細いのは自分でも分かるんだよ。喉に砂が詰まってるみてえだ。喋ってんじゃねえ、喋れてるふりをして息を繋いでるだけだ。

 

「ねえ、起きてる? 返事して」

 

「うる、せえ。聞こえてる」

 

 耳はまだいい。目はダメだ。視界の縁が黒い布みてえに寄ってきてる。

 寄ってくる寄ってくる。あー、これだ。この感じは知ってる。前世で縄かけられたときの、最後のあれだ。

 

「もうちょっと、本当にもうちょっとなの。寝ないで。寝たら怒るから」

 

「なんだ? やさしいじゃねえか……」

 

「ええそうよ。だから起きてて。ね、できるでしょ、あなたなら」

 

 できるでしょ、ときたか。

 買いかぶりすぎだ。俺は別に、強くもなんともねえ。元盗賊なんてのは逃げるのだけ上手いザコだ。逃げ場のねえ傷からは逃げられねえよ。

 

 ……あー、だんだん意識がぼやけてきた気がする。

 これが年貢の納め時ってやつか。

 

 じゃあ俺、せっかく生き返って、二回目のチャンスを……三週間で潰しちまった、って? 

 はっ、お笑いだな。俺みたいな奴が上手くやろうとしても、ここらが限界ってことかよ。

 

「あとちょっと。ねえ、聞こえてる?」

 

 ああでも、そうか。

 俺が来なきゃ、コイツ死んでたんだよな。

 盗賊として何も成せずに死んだ俺が。将来の王族の近衛兵隊長殿の命を救ったってことか、それも三週間で。

 なら、だいぶ上手くやった方……か? 

 

「──なあ」

 

「な、なに。待って、もう着くから、本当に着くから」

 

 いや、一応、だがな。

 せっかくだから言っておかねえと。

 

「お前、偉い兵士になんだろ。せっかく生かしたんだから、頑張って、くれよ」

 

「……っ! そんなっ、死ぬ前みたいなこと言わないで!」

 

 はは。お前は間に合わせる気でいんのか。律儀なやつだ。

 でもよ、なんだかちょっといい気分なんだよ。

 血が抜けてるのもあってか頭がふらふらしてよ、ちょっと眠たいっていうか。

 

 まぁつまり。

 俺は多分、死ぬんだろうよ。

 

 正直もったいねえ気もするが、まだやり残したこともあるが。

 二回目の人生は、クソみてえな一回目に比べりゃ。

 中々、悪くなかった、と思う。

 

 だから、最後に、それだけ言っておきたか……った……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ……俺は死んだはずだよな? 

 

 

 

「生きてんじゃねえか俺」

 

 

 

 腹が痛え。痛えってことは、生きてるってことだ。

 鼻につくこの消毒薬の匂いに、見飽きたこの天井。

 

 死に損なったか、これ。

 

 覚悟は決めてたんだぞ。ルシアに偉い兵士になれって言い遺して、こいつ救えたなら二回目の人生も悪くなかった、なんて殊勝に納得して目を閉じたんだ。

 あれで終わるはずだった。元盗賊が見習い兵を庇って死ぬ。柄にもなく、随分と格好ついた幕引きだったろうが。

 

 なのに、この腹の包帯はなんだ。

 気まずい。盛大に感傷に浸って、いい感じに締めて死んだつもりが、しっかり生き残っちまった。相棒を救えたなら悪くねえ、なんて呟いてた俺が、今となっちゃただの間抜けだ。そもそも盗賊崩れがそんな殊勝なこと考えてたのがおかしかったんだよ、柄じゃねえ。絆されすぎだ。

 

「……んぅ」

 

「ん?」

 

 あれ。

 誰だ、この寝台に突っ伏して寝てやがんのは……って、ルシアか? 

 見違えた。髪も乱れて、いつものきっちりした感じが見る影もねえ。

 

 足、包帯巻いてんな。薄く血が滲んでるし……ああ、そうか。裸足で走ってたからだ。あの土壇場で靴の付け間違えやらかして、脱ぎ捨てて、それで石だの砂利だの裸足で蹴って俺を運んでたんだ。それで自分も怪我してんのかよ、馬鹿が。

 

 盗賊やってた頃は、誰かに必死で助けられたなんて経験は一度もなかった。仲間ってのは互いに利用し合うだけの関係で、致命傷負ったやつは置いて逃げる、それが暗黙の了解だった。俺だって何人も置いてきたし、逆の立場なら置いていかれてた。

 それが、靴を捨ててまで運ばれて、こうして生きてる。

 元盗賊が聞いて呆れる。

 

「──目が覚めたか」

 

「……おっと。あー……」

 

「医務官だ。目覚めたばかりで混乱しているのか」

 

「そう、か。悪かった、です」

 

 やべ、気づかなかった。誰か入って来てたのか。

 白衣に道具入れ……医務官ってので間違いなさそうだ。

 

 いやルシアが運んできたんだからここに医務官以外はいねえだろ。

 すぐ考えれば分かることを……俺はさっきからどこまで油断してる。

 

「傷は深かったが、急所を逸れていた。出血は多かったがな。あと半刻運び込みが遅ければ、今頃は別の話をしていた」

 

「半刻……」

 

 ……じゃあ際どいとこだったってことか。この腹の痛みも納得だ。

 けど、礼を言うほどの元気はまだ出てこねえな。

 

「あの女が運んできた。血の量を見て、正直、駄目かと思ったが……処置の間もずっと離れなかったのでな。休めと言っても聞きやしない。もう三日、ろくに寝ちゃいないはずだ」

 

「三日……だと?」

 

「目が覚めたなら、起こしてやれ。どうせあんたの顔を見ないと、まともに寝やしないだろうからな。では」

 

 マジか。

 三日も眠らずに張り付いて、足を傷だらけにして、こいつは……。

 律儀だな。真面目過ぎる。自分のためでもねえのに、そこまでする意味が分からねえ。盗賊だった頃の俺には、一生かかっても理解できねえ種類の馬鹿さだぞ。

 

 医務官が出て行って二人っきりになっちまったけど……どうしてやろうか。

 起こすか、迷うな。三日寝てねえなら、寝かせといてやるのが筋な気もする。けど、あの医務官の言い分だと、起こさねえ方がこいつは休まらねえらしい。なんかこう……複雑な状況だな。

 

「相棒、ねえ……」

 

 お、肩が動いた。気配で気づいたか。

 ああでも、寝起きで頭が追いついてねえな。目の焦点が合ってねえ。

 

 一色に濡れた、光の無い目。

 ……寝起きってこんな目になるのか? 

 

「アシェル……?」

 

「よう」

 

「……っ」

 

 何か言うべきか。

 ありがとう、とか、悪かった、とか、いくつか浮かぶが……どれも俺の柄じゃねえ。

 口に出した瞬間、寒気がしそうだ。だから、つい話を逸らしちまう。

 気の利いた言葉なんざ出てこねえんだ。生き返った第一声が「よう」って、我ながら締まらねえな。

 

「お前、足、大丈夫なのか」

 

「……靴、どっかに、置いてきた」

 

「馬鹿か」

 

「馬鹿でいい」

 

 馬鹿でいい、ときたか。

 普段あんだけ真面目ぶってるくせに、肝心なとこで開き直るんだな、こいつは。

 

「生きてくれて、よかった」

 

「……お前のおかげだよ」

 

 素直な礼が、自分でも驚くほどするっと出た。

 じゃあ出てから気恥ずかしくなるのはどういうことだ。柄じゃねえって、さっき思ったばっかりなのに。

 

「祝祭、無事に終わったって。王女様も、ご無事。あなたのおかげ」

 

「お前のおかげでもあるだろ。トドメ刺したのはお前だ」

 

「私は、間に合っただけだから」

 

 間に合っただけ、か。その間に合うのが、一番難しいんだがな。

 盗賊の頃、間に合わなかった夜を何度も見てきた俺が言うんだから間違いねえ。

 

 まあでも、祝祭は無事に終わったんだな。

 暗殺役はあれだけだったってことか。随分安い作戦だったってことだが……ルシアが素早く連絡を入れてくれたから早期に対策ができたってことなのかもしれない。

 

「あの、これからの配属のことなんだけど」

 

「……は」

 

「同じ部隊にしてくれって、頼んだの。あなたとずっと、相棒でいたいから」

 

「……お、おい」

 

 おいお前。いつかここを抜け出すって決めてたんだぞ俺。

 元盗賊として、本当なら牢で首を落とされて終わってたはずの俺。生き延びた以上、本来なら次に逃げる算段を立てるべきところだ。なのに、目の前のこいつが、それを許さねえ言葉を重ねてくる。

 

「……どう?」

 

「ぐ……」

 

 ……別に、抜け出す気が消えたわけじゃねえ。

 今でもチャンスがありゃ、いつかここを離れるべきだと思ってる。元盗賊が兵士として生き続けるなんて、どこかで必ず破綻する。バレた瞬間、今度こそ本当に終わりだ。それは変わらねえ。

 

 ただ……。

 

「……まあ、しばらくはな」

 

「しばらく?」

 

「相棒、よろしくってことだよ。当面は」

 

「当面、ね。じゃあ、その当面を、できるだけ長くするから。私、もう二度とあなたをあんな目には合わせないから」

 

「そういう意味じゃ……」

 

 いや、もう勝手にしてくれ。

 

 逃げ出す気は変わってねえ。変わってねえが、今すぐじゃねえ。当面は、ここで生きる。

 それを「逃げる準備期間」と呼ぶのか、「生きる選択」と呼ぶのか、自分でもよく分からねえ。どっちでもいい気がするし、どっちでもよくねえ気もする。

 ただ、目の前で「相棒」なんて呼べる相手が一人いる限り、急いで逃げる理由も、別にない。

 

 俺みたいなヤツがどこまでいけるか、どうせ大した兵士になんざなれねえだろうが。

 ま……急ぐ旅でもねえか。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「なれてんじゃねえか俺」

 

「(ルシア、私の護衛は何を……?)」

 

「(アシェルってああいうところがあるんです、エリザベト様)」

 

 しかも例の王女サマ専属の近衛兵って……。

 

 

 

「すまないな、二人とも。わざわざ話し相手になってもらって」

 

「気にしないでくださいエリザベト様!」

 

「まぁ、こっちもゆっくり休めるから助かってるしな」

 

 警備の合間に休めってわざわざ私室に呼んでくれてんのは、こちらの王女サマの厚意だ。

 せっかく差し出されたもんを突っぱねる理由もねえし。盗賊の頃の俺なら毒を疑って一切気が抜けなかったが……ここの飯も茶も、もう何百回と腹に入れて生きてる。

 あの頃に比べて、今はずっと忙しいし、ずっと飯に困らないし、ずっと充実した暮らしができてる。まさかこうなるとはな。

 

「ふふっ。アシェルの口調は相変わらずだな」

 

「あー……すみ、ません」

 

「いや、いい。私としてもいい気分転換になる」

 

 苦笑いされてるが、向こうも嫌そうじゃねえ。相変わらず器の広い王女サマだぜ。

 エリザベトは俺が敬語苦手なのを分かっていて、むしろ気を使わず話せる相手だと、ちゃんと勘定に入れてくれてる節がある。

 周りが「王女殿下」と腰を折る連中ばっかだし、そんな中じゃ俺みたいなのが一人くらい混じってる方が、肩の力も抜けるってことなんだな。

 

「しかし……あの戦が終わって、もう一年になるのだな」

 

「そうですね。あの頃は大変で……」

 

「一年、ね。もうそんなになるのか」

 

 時間が経つのは早いもんだ。

 俺達が祝祭での功績を理由に正規兵に昇進して……そんなに日も経ってない頃だったか? 

 何人かの文官が巻き込まれた事故が起きたと思ったら……そこから国内の情報が流出しだして気づいたら隣の国とのドンパチが始まっちまったんだよな。

 それがどうにか片付いて。その間に俺もルシアも、見習いから正規兵、そんで王女付きの近衛兵にまで成り上がっちまった。盗賊崩れの出世物語にしちゃ、出来すぎだろ。

 

「あの戦、二人がいなければ王都がどうなっていたか。私は今でもそう思っている」

 

「大げさじゃ?」

 

「大げさなものか。敵の動きを読み、策を立てたのはアシェル。それを寸分違わず形にしたのがルシア。『策のアシェル』『力のルシア』──お前たちの組みが、幾度戦況を引き戻したことか」

 

 策のアシェル、ねえ。大層な二つ名もあったもんだ。

 内心、むず痒くてしょうがねえ。実際のとこ、俺がやってたのは盗賊稼業の延長だよ。どこが手薄になるか、どこから来るか、あの「嫌な予感」の勘を、そっくり戦に貼り替えただけ。立派な軍略でもなんでもねえ。

 

 あの戦争の頃には……というか、俺が九死に一生を得たあの日から、ルシアは眠ってた才能が開花したみたいにメキメキ強くなっていっちまった。気づきゃ俺なんざ足元にも及ばないくらいに。

 もしルシアに置いてかれちゃ他に信用できる人間のいない俺には生きていける当てがない。だから、なんとか食らいつこうと盗賊時代の知恵を根こそぎ引っ張り出して、必死こいて並んでただけのことだ。

 

 そうすれば、いつの間にか重要な作戦に参加できるほど評価してもらえるようになって。

 その作戦が王女の命を助ける、大きな役目を果たした。そのおかげで今がある。

 

 だが……どうしてルシアはあそこまで強くなっちまったんだ。

 何か、強くならないとって常に気を張ってたみたいだが。なんか心境の変化でもあったのか? 

 

「もっとも──私の槍が活きたのは、アシェルの存在があってこそですが」

 

「逆だろ。お前の槍がなきゃ、俺の策なんざ絵に描いた餅だ。実際ルシアがいなきゃ、俺はとっくにどっかで野垂れ死んでるよ」

 

「城に紛れた間者を暴いたのもアシェルだったな。ルシアが取り押さえるより先に、もう誰が黒かを言い当てていたとか」

 

「ありゃ顔に出てたんだ。誰でも分かる」

 

「誰にも分からないのだから、間者なのだろう」

 

 ……言い返せない。

 まあいい、別に褒められる分には俺に問題なんてない。貰えるものは貰っておくのが筋だからな。

 その信条も、盗賊時代に培ったもののはずだったんだが。

 

 そもそも、どうして俺はここまで来ちまったんだろうな。

 元々逃げ出すつもりだったのに──あの後タリエから渡された「処刑名簿」に自分の名前が載ってたのを見ちまったのが原因だったか? 

 

 あの名簿に俺の名前が載ってた以上、顔も名前も割れてる状態で抜け出すのは得策とは言えなくなっちまった。そのままずるずるとルシアとの相棒関係を続けてきて……今じゃこれだ。

 ……いや、これだって今じゃ本当か分からない。俺はあの兵士としての生活を心底気に入ってしまって、そこから離れたくない言い訳に「名簿に名前が載っていた」って事実を引っ張り続けてたのかもしれない。

 逃げ出すための時機が今じゃないなら、その間は無理にルシアの元から逃げ出さなくていいんだって思うと……。

 

 ……絆され過ぎか。

 いや、王女サマを守る身分である以上、絆されちまったぐらいが丁度いいんだろうが。

 

「……アシェル。一つ、前から言っておきたかったのだが」

 

「ん?」

 

「お前は祝祭の夜、裏手で刺客を退けたのだろう。あれがなければ、私は今この世にいなかったかもしれない」

 

 ……ああ、そうだったな。懐かしい、そんなこともあった。

 つまり俺はあの夜、ルシアの命を救っただけじゃなく──エリザベトの命も守っていたことになるってことだ。

 

 エリザベトも、王位を継ぐために今まで必死に色々努力してきた訳だが……周りには友人って呼べる関係の人間も、それこそ心の内をさらけだして頼ることができる相手だっていなかった。

 なんなら兄弟さえいなかったって話だ。そりゃ王族って立場である以上、似たような存在はいるかもしれないが……いやそれでも王族に兄弟が一人もいないっていうのは変な気がするが。

 いくら功績が積み上がっていたとはいえ、俺達をそばに置く判断をしてくれたのは──案外寂しかったっていうのがあるのかもしれないな。自分の命を守ってくれるようなヤツなら、信用してもいいんじゃないかっていう……。

 

「だから、私は……お前のことを買っているんだ」

 

「おう。感謝してますよ」

 

「……いや、それだけじゃなく。私は、本当に──」

 

「──当然です! アシェルは、私の相棒ですから」

 

 お。

 ルシアが横から割り込んできた。会話が二人だけになって寂しくなったのか。そういうところは主人と似てるよなお前って。

 

「殿下のお命をお守りするのも、この相棒と二人でこそ。そういう約束ですので」

 

「あー……そういうこと、です」

 

 なるほどな。

 王女サマからの礼を、自分とのコンビの手柄に綺麗にすり替えやがった。上手いもんだ。

 俺一人が手柄顔して頭下げられるより、よっぽど座りがいい。こういう時に横からスッと補ってくれんのは、ほんと助かるんだよな。流石相棒、気が利く。

 

 ま、コイツ自身が敬愛する王女殿下に褒めてほしかったっていうのもあるんだろうが。

 そこんところはコイツの相棒さ。黙っておいてやるのが役割ってもんだろ。

 

「……そうだな。お前たちは、いつでも二人で一つだ。私が……口を挟む隙もない」

 

 で、我らが主人も聞き分けがいい。

 まさに俺達の三角関係ってのは、巷の与太話にあるような余計なものが一切入り交ざらない、純粋な交友関係だけでできた理想的なものってことだ。

 牢の石の上で首差し出してた頃の俺が、今の絵面を見たらどうするか。何の悪い冗談だって笑う──いや、笑いもしねえか。端から信じやしねえだろうよ。

 

 不思議だ。不思議なんだが、不思議と、嫌じゃねえ。

 それどころか最近は、こういう何でもねえ時間が、妙に据わりがいいときてる。

 変わっちまったのかもな、俺も。

 あれだけ規則だの群れるだのは性に合わねえって、口を酸っぱくしてたくせによ。

 

 今、あの文官──タリエがどうしてるのかも気になるが……まあ、いい。当面は、これで。

 その「当面」が、いつまで続くのかは、自分でもよく分かんねえ。分かんねえけど……。

 

「ふふっ! アシェル?」

 

「おう。俺達は王家公認の『相棒』だからな」

 

 隣にルシアがいる限り、急いでどっかへ消える理由も、別に見当たらねえんだよな。

 むしろ、こんな暮らしなら、ずっと続いてくれとさえ──

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ……なんだ今の。

 

「──アシェル! 良かった、目が覚めた!」

 

「……? ルシ……ア?」

 

「良かった……! ご、ごめん、私、力加減を間違えて……!」

 

 ……は? 

 

 えっと……どういうことだ? 

 俺、寝てた……っていうか、気絶してたのか? 今さっきこの瞬間まで? 

 

 お、思い出せ。何があった……? 

 

「ルシア! 兄上との訓練は細心の注意を払うようにと!」

 

 ……そうだ。

 

 そうだった。

 

 俺はルシアの頼みで、二人きりの訓練をすることになったんだ。

 毎日毎日店に押しかけてきて、カルが嫌そうな顔してたから仕方ないなってことで……いや、俺もあの頃のルシアとの対等な関係が懐かしくなって、つい引き受けちまったんだ。

 

 ただやっぱり、その力の差は歴然で。

 ルシアもそのことに薄々気づいてたみたいだが、俺が男の意地でつい見栄を張って「いつものままでいい」なんて言い出したからお互い勢いづいちまって……。

 

 それで、エリザベトが様子を見に来たのとちょうど同時に。

 つい注意が逸れちまった俺がかなりいい一撃を貰っちまって……。

 

「いやでもエリザベト様! 私とアシェルの実力は拮抗しているはずで……」

 

「それはお前の願望だろう! ああお兄様、体調に問題はないか?」

 

 ……でも。

 俺とルシアは……。

 

 

 

「俺達は……『相棒』、だから……」

 

 

 

「……っ! アシェル!!」

 

「な……! あ、あれほどルシアを甘やかしすぎないように言ったのに!」

 

「あっやべ」

 

 変なこと口走っちまった。どうしたんだ俺。さっきまで見てた夢のせいか? 

 俺とルシアが一緒に何かするのは、当たり前のことで。いや、それも初めの内だけだったが、あの二週目の人生が俺の中で大きなものになっていて……あれ、俺達はずっと二人で組んできた相棒同士で……。

 ああまずい。まだ混乱してる。

 

 ただ……あの夢の人生も良いものであることは確かだが。

 あのままだとタリエとソラナは仕事の過程で殺されてたし、ベラも口封じで殺されてた。この国は戦争を乗り越えられたが、被害も出ていたし内部のいざこざでエリザベトの王位就任に支障があったかもしれない。

 

 そう思うと、やっぱり今の方が良かったのかもしれない……な。

 

「アシェル! やっぱり、あなたも私達のこと……!」

 

「お兄……兄上! これからはもっとルシアに厳しくだな……!」

 

 いや、今現在のこれは違うか。

 少なくとも自分の力量ははっきり把握しておくべきだったな。変にプライド張るのは良くないってことだ。

 

 昔は自分のプライドなんざ気にしなかったのになぁ……。

 なんでこう変わったのかなぁ……。




A. アシェルとルシアの関係性が強固になる。
  エリザベトは少し寂しくなる。
  タリエとソラナとベラは死ぬ。

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)
お気に入り・評価・ここすき等も、可能であればぜひお願いします。大喜びします。

文章練習でまたいくつか後日談を書こうと思うのですが、需要ありますか?

  • ある
  • ない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。