【完結】俺は死んだはずだよな?   作:破れ綴じ

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アンケートにご解答ありがとうございました!

「後日談」って書いてたのに普通にIFストーリーとか書き始めててすみません。
この場合、景品表示法違反とかになるんですかね……(´・ω・`)


Q. もし味の違和感に早く気付いていれば?

「──ッ、ぺっ」

 

「は?」

 

 え、どうした、急に。

 なんだ今の。ベラのヤツ、盃に口つけた瞬間に噴き出しやがったぞ。早速これから飲み出そうって雰囲気だったのに、いきなり全部床にぶちまけて……。

 

 それに、今お前が吐きだしたヤツ、確か古い友から譲り受けたとか言ってた酒だよな。気紛れにって、今日一番に開けたヤツ。

 かなり高いって自慢してたじゃねえか。なんでそんな上等なもんをわざわざ吐き出すんだ。もったいねえにも程があるだろ。

 俺だってまだ自分の盃に口つけてねえぞ。さっきベラに注がれたばっかで、これから飲もうとしてたとこなのに……。

 

「おい、何して──」

 

「──アシェル、飲むな。手をつけるな」

 

「は?」

 

 ……待て。

 声が変だ。さっきまで上機嫌で笑って減らず口叩いてたやつの声じゃねえ。腹の底から絞り出すみたいな、低くて硬い声。冗談を言ってる響き方じゃない。

 

「微かだが……味がおかしい。私の知っているこの酒の味じゃない」

 

「は、はぁ……?」

 

「これはおそらく毒だ。私を狙ったものの可能性がある」

 

 毒。毒、ねえ。

 

 ……は? 毒? 

 

「今考えればそうだ。古い友から、こんな折よく贈り物が届くのもおかしい。タイミングが良すぎる」

 

「……待て、マジなのか、それ」

 

「こんな高いもの吐き出しておいて冗談だと思うか?」

 

 いや、思わねえ。

 分かった、分かったぞ。ようやく理解できた。つまり、今この瞬間、目の前でベラは死ぬとこだったっていうのか。

 よく見りゃ手がちょっと震えてやがる。あんな少量だったのに、マジでここまで効果が出る毒なのかよ。

 飲み進めてたりしたら、ベラだって気づかなかったもしれねえし、一発目がこれで良かったって言うべきか悪かったって言うべきか。

 

 しかも俺、このままじゃ注がれたこいつを危うく飲むとこだったぞ。一緒に上機嫌でやってたんだから、ベラより先に口つけててもおかしくなかった。

 ベラが消されかけたと同時に、俺までうっかり巻き添えで逝くとこだったってのか? 冗談じゃねえ。盗賊の頃なら毒なんざ警戒の基本中の基本だったのに、酒がうめえだのなんだの浮かれて、すっかり気が緩んでやがった。文官の体に慣れすぎて勘まで鈍ったか。情けねえ。

 

「思っていたより、ずっと腐っている。私の見立てが甘かった」

 

「……何が言いたいんだ」

 

「上は私が嗅ぎ回っていた程度の話じゃなかったということだ。たかが一人の口を塞ぐのに、ここまで露骨に手を回してくるとはな」

 

「おい、落ち着けって」

 

「落ち着いていられるか。私はもう、ただクビにされただけの人間じゃない。消されかけたんだぞ。次がないと、どうして言える」

 

 ……ごもっともだ。返す言葉もないぞ。

 そうだよな。クビにして終わりじゃなく、口を完全に塞ぐつもりだったってことだろ。穏やかじゃねえ。そのための毒酒だったって訳だ。

 しかも、一回しくじったからってここまでするような相手が大人しく引き下がるとは限らねえ。むしろ毒を盛ったのがバレた今、向こうはもっと焦って次を急ぐ可能性だってある。

 

 上の腐り具合だの、元々腐ったような人生を生きてきた俺には何一つ知りようもないが……それでもこれだけは分かる。命を狙われたヤツが生きていると知られれば、第二第三の殺し屋が人なり酒なり形を変えてまた来るだけだ。

 

「とりあえずお前は一旦帰れ。飲みは終わりだ」

 

「待て、お前はどうするんだ」

 

「……いっそ、死んだことにするか」

 

 ……は? 

 

「私は毒で死んだ。そういうことにして、矛先を逸らす。死人なら、これ以上追われることもない」

 

「死んだことにって、お前」

 

 待て待て待て。話が飛びすぎだ。ついていけねえ。

 さっきまで酒飲んで笑ってたやつが、急に自分の葬式の段取りを組み始めてやがる。毒だの腐敗だの死んだことにだの、学のない俺にはベラの言葉を追いかけるだけで精一杯なんだぞ。

 

 そもそも、俺は休みが明けりゃまた職場に戻るんだ。お前が死んだことにして消えたとして、俺はあんな連中の下で、このまま何食わぬ顔で働き続けることになるのか? 

 それに……。

 

「じゃあ、タリエとソラナはどうなるんだ」

 

「……そうか。そうだな。それなら……」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「呼び出して悪かったな。療養中だってのに」

 

「い、いえ。先輩があそこまで言っていましたし、こちらとしては問題ないですが……」

 

「で、でも、こんな、人目につかない場所で、いったい、何の……?」

 

 ……まあ警戒するわな。療養中の先輩が、わざわざこんな端っこへ呼び出したんだ。気味悪がられて当然だ。

 

 だがこの──タリエとソラナを、腐り切った現場にこれ以上置いておくってのは、俺としてもちょっと気分が悪い。

 普通なら療養にかこつけて、丁度いい機会だって逃げ出して文官の職からもおさらばってとこなんだが……あそこまで感謝を伝えられた後輩達を見殺しにしたまま次の人生を謳歌しようってのも正直無理な話だ。

 だから、こいつらだけはなんとかしてやりたい。そのために呼び出したんだからな。

 まずは順を追って話そう。問題は、どっから切り出すかだ。一足飛びに全部ぶちまけたら腰を抜かしかねねえからな、特にソラナのほうは。落ち着いて、軽いとこから入れていかねえと。

 

「ベラ……元吏長な。死んだって話、もう聞いてるか」

 

「……っ、え!?」

 

「な、なに、そ、それって、一体……!」

 

「ありゃ嘘だ。生きてる。ピンピンしてる」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

 まあ驚くよな。

 数日前まで普通に上司として一緒に働いてた人間が、死んだと聞かされ……実は生きてるだなんて聞かされたら、当たり前だ。

 だが、黙ってるわけにもいかねえし、回りくどく言ったって混乱させるだけだ。そもそも本題はそっちじゃねえんだし。

 

「死んだことにして、身を隠してんだよ。ありゃ飲みすぎじゃなく、毒を盛られたからで、本人はそれに気づいて生き延びた」

 

「え……」

 

「盛ったのは上の連中だ。ベラはそれを嗅ぎ回ってクビになった。思ってたよりずっと根が深かったってことらしい」

 

「えぇ……?」

 

 まだ飲み込めてねえのか。困惑してるところ悪いが、今もベラは裏で色々動いてるぞ。

 現場で急に自傷して、血を啜り出して、そのまま床にぶちまけ出した時は何事かと思ったが、ありゃ死後の偽装工作だったんだな。

 今は信頼できる知り合いのとこに潜り込みつつ、尾行とかが無いことを調べて、自分が標的から外れたことを確認。その後、他にも忠告をしておくべき部下たちに話を通しに行ってる。

 

 で、ここからが本題だ。一気に言い切っちまったほうがいい。途中で区切るとかえって変な間ができて、悪い想像ばっかり膨らむ。

 盛ったのが誰か、なんでこうなったか、そして一番肝心の、こいつらももう無関係じゃねえってこと。順に、しかし手短に。

 

「俺達だって、押収庫の件にがっつり関わってる。あれも全部上の腐敗と地続きだ。つまり俺たち三人、とっくに巻き込まれてる」

 

「そ、そんな……」

 

「つまり、もう辞職して俺達だけ逃れようなんてできない訳だ。俺達で元凶を叩かねえと、命の保証はないと思え」

 

「ひっ……!?」

 

 怖がらせて悪いが、こればかりはもうどうしようもない。

 あの一件にどっぷり関わってる俺達が揃って辞職すれば、上は俺達が何か知ってるとして次の標的に選びかねない。

 もし大人しく文官としてのキャリアを続けてれば咎められることなく無事に生き続けることができるのかもしれねえが……そんな危ない場所で一生を潰していけだなんて、そっちの方がリスクがある。

 俺の目標は規則なんざない自由な暮らしだが、毎日命の危険に怯えながら暮らしていくだなんてまっぴらごめんだ。

 

 そう、昨日ベラと話したんだ。

 少し勇み足かもしれねえが、俺だってささっと辞めて、その後狙われねえって保証があればこんなこと言い出さねえよ。

 でも、もう顔と名前は割れちまってる。

 

「……あ、あの、先輩。相手は、上層部、なんですよね」

 

「そうだ」

 

「こっちは、死んだことになっているベラさんと、下っ端の僕たち三人だけで。とても、数でも力でも、太刀打ちできるとは……」

 

「わ、私も……に、逃げるとか、隠れるとか……そういう方が……」

 

 ……まっとうな心配だ。

 ベラの方でも信頼できる仲間をかき集めているとはいえ、文官数名、内一人は死人扱い。普通に勘定すりゃ詰んでる。こいつらの言い分は一つも間違っちゃいねえ。

 相手がどれほどの規模かも分かってない。ただの政院の管理者なのかもしれないし、もしかしたら貴族とか、そういう大物の可能性だってある。

 急にこんなこと聞かされてすぐ動ける訳もないし、不安に思うのも当然だ。

 

 だが、むしろ正しいからこそ、ここで安心材料を出してやらねえと前に進まねえ。何も丸腰で殴り込もうって話じゃねえんだ。

 

「当てがある、協力者だ。今もこっちに向かってる」

 

「協力者……?」

 

「文官の外にいる奴でな。前の暗殺者騒ぎで俺を助けてくれた相手だ。信用できる」

 

「……!」

 

 察しがついたみたいだな。とはいえ二人は二三話をしただけだろうが。

 アイツは上の息がかかってねえし、腕も立つ。正義感に燃えてるし、裏切りなんてすることもない。政府の中に腐ったヤツが要るかもしれないなんて話を聞けば間違いなく協力してくれるだろう、うってつけの人材だ。

 

 しかも俺はソイツとちょうど待ち合わせの約束をしてた。

 交渉の席の準備は既に整ってた訳だ。そこで動かなきゃ次の機会はいつか分からねえ。

 

「ただ、ソイツの前では俺のことは『シェラ』と呼べ」

 

「……?」

 

「アシェルじゃねえ。事情があるんだ、詮索はしないでくれ」

 

「……わ、分かりました。理由は、聞きません」

 

「は、はい……覚え、ます……」

 

 物分かりがいいのは助かるぞ。妙に勘ぐらず、言われた通りに飲み込んでくれるのは。

 こういうときばかりは、こいつらの素直さがありがてえ。

 

 あくまで、こっちの事情で、話を信じてもらえなかった時の保険として主張した「偽名」だったんだが……全部を話すのは、やるべきことが終わった跡だ。

 王女サマの近衛兵を目指すアイツにとって、上に反抗する兵士っていうのは都合が悪いかもしれねえが。それでもアイツはやると言ってくれたからな。

 

 

 

「ごめんなさい、待たせたかしら。シェラから話は聞いているわ──王国兵士のルシアよ、よろしく」

 

 ……いやでもコイツがただの脳筋の可能性もあるな。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 終わったな、とりあえず。

 この提案をした時はまさかここまで長続きするとは思ってなかったが……よくもまあ、こんなところまで辿り着いたもんだ。

 

「先輩……ついにここまで来ましたね」

 

「わた、私が……こんなこと、できるなんて……えへへ」

 

「世間から見れば今は私達の方がお尋ね者かもしれないな」

 

「……そうだな」

 

 最初は何の手がかりもねえとこからの出発だった。腐敗が上にある、ベラが嗅ぎ回ってクビにされた、毒を盛られた──分かってたのはそれだけ。

 一応相手が政府ってのもあって、少し判断を間違えばこっちの身だって危ない状況だった。元の数人に加えて、ベラのコネによる信頼できる筋の協力に、他数人の文官。そんな継ぎはぎのチームで、俺も文官としての仕事を続けつつ、裏でバレないように情報を集めてきたんだ。

 

 相手が直属の上司なのかも分からないし、もっともっと規模の大きい敵かもしれない。誰が糸を引いてるのか、どこを叩けば崩れるのか、何ひとつ見えてなかった。文官の書類を読む頭もろくにねえ俺が、政の裏側を探ろうってんだから、最初から無茶な話ではあった。

 実際に空振りばっかりだったし。これだと睨んだ筋がただの偶然だったり、繋がってると思った線がぷつりと切れてたり。危ない橋も渡った。

 素人の寄り合いだ。盗賊の勘と、文官の知識と、兵の腕、どれも中途半端に持ち寄って、何度も道を間違えて、そのたびに引き返して。よくもまあ全員生きてここにいるもんだと、我ながら呆れる。

 

「でも……これで、終わるんですよね」

 

 タリエなんか、最初は様子のおかしくなった先輩を心配してただけのはずが、今じゃ何かあるたび真っ先に俺を頼ってくる。

 一番の原因は俺が助けに行ったあの押収庫の事件なんだろうが……ここまでの活動を通じて、俺に判断を仰ぎ、指示を待って、終われば律儀に礼を言う。

 慕われてるって言ってもいいんだろうな。あの一言多い生意気な文官が。

 

「これで、失敗、したら……うぅ……」

 

 ソラナも、相変わらずびくびくしてやがるが、あいつはあいつで自分の役割を見つけて踏ん張った。

 書類の照合、細けえ記録、人が見落とすとこを拾う目。怖がりながらも、いざってときに逃げ出さなかった。大したもんだ。最初に泣きべそかいてたやつと同じとは思えねえ。

 ここまで協力してくれたのも、俺が助けてやったからなんだろうか。本当に世話になったから、あそこで二人を助けにいった選択肢は間違ってなかったと、今になって実感してる。

 

「……『シェラ』。その……いよいよ、だな」

 

「ベラ……」

 

「まさか、お前……とこんな仲になるとは思っていなかった」

 

「そりゃこっちの台詞だぜ」

 

 裏で動いてくれてるベラとも、やり取りを重ねるうちに、変な信頼みたいなもんが育っちまった。死人扱いのまま手紙だの符丁だので繋がって、時折二人で出会い、互いの背中を預け合う。

 共に死線を潜り抜けた……いや俺はあの酒を飲んでないんだが。そういうこともあって、一番多くの修羅場を共にした相手はコイツだったように思える。あの食えない女と、こんな組み方をする日が来るとはな。

 

 ただ、一つ問題があるとすれば……。

 

「──シェラ」

 

 ……っ、ルシア。

 

「全部終われば。本当に『彼について』教えてくれるのよね?」

 

「……ああ」

 

「そう。ならいいわ」

 

 ……ルシアだけは、あまりチームに馴染めている感じはしなかった。

 

 ルシアが手を貸してくれたのは、俺達の正義に共感したってのもあったが……「全部終わったら、アシェルのことを話す」──シェラと名乗った俺との約束によるものが大きかった。

 その場じゃ、とりあえず話に乗ってもらうために偽名なんて名乗ったが、何度もチームで動いていくうちに「コイツの俺に対する執着の強さは普通じゃない」ってことに気づいちまった。もし、俺が初手で「俺がアシェルだ」なんて名乗ってればその場で首を落とされたかもしれないし、初手じゃなくても多分そうなってただろう。

 だから腕は確かでも、連携はどこか噛み合わなかった。あいつだけ、見てる先が違う。俺たちが追ってるのは腐敗の元凶で、あいつが追ってるのは、死んだはずのアシェルの行方だ。

 

 その「アシェル」ってのが、名を偽って隣に立ってるこの俺だってんだから、笑えねえ。

 協力してもらうたび、礼を言われるたび、胸の奥が小さく痛むような。あいつは死んだ相棒の話を聞きたいだけで、その相棒は別人の顔で、別人の名前で、すぐ横にいる。打ち明けられねえまま、ここまで来ちまった。

 

「……で、行き着いた先がこれなんだよなぁ」

 

「ま、まさか、ここまで、悪い人がいた……だなんて……」

 

「俺もここまでとは思ってなかったぜ……」

 

 そう。

 辿り着いた頂点は……まさかの、マジに貴族サマだったってんだからよ。

 

 名前を知ったとき、全員が固まったのをよく覚えてる。下っ端の文官からすりゃ、口にするのも憚られる雲の上の人間だ。まさか貴族そのものが糸を引いてたとは。

 ベラですら「そこまでとは」って絶句してた。腐敗の根が深いとは思ってたが、これは深いなんてもんじゃねえぞ。

 

 しかもその貴族、調べていくと「ヴェイン」とかいう得体の知れねえ男とも繋がってるらしい。

 何者かは掴みきれてねえが、まともな筋の人間じゃねえのだけは匂いで分かる。辿った線の全部があの貴族に繋がってるんだし、あんな男と関係があるのに、あの貴族がマトモなヤツな訳がない。

 あそこが頂点だ。あいつを崩さなきゃ、この腐敗は終わらねえ。

 逆に、そこさえ上手く叩ければ──この戦いも終わるってことだ。

 

「……雲の上だろうが、行くしかねえか」

 

「どこまでも着いていきますよ、先輩」

 

 ……最初は逃げ出したかったはずなんだがな、俺は。

 規則だらけの文官稼業なんざ、さっさと放り出して自由に生きるはずだった。

 相手が貴族レベルの大物だと、初めから分かっていれば、こんな提案だってしなかったかもしれない。言っちゃ悪いが、もっと軽く済む問題だと思っていたからだ。

 だが、相手が誰だろうと、もう引き返せるとこはとっくに過ぎてる。掴んだ手がかりは本物だ。

 

 なら、あとはヤツを追い込む準備をするだけ。

 さぁ、決着をつけよう──

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ……はッ!? 

 

「せ、先輩!? 大丈夫ですか? 今、立ったまま白目を向いていたような……」

 

「……っ! だ、大丈夫だ! 今戻って来た!」

 

「え、えぇ……? 本当に大丈夫ですか……?」

 

 な、なんだなんだなんだ? またこれか? 

 つい最近もこんなことあった気がするぞ? なんだったんだあれ? 

 

 え、えーと……確か俺は今……。

 

「な、何か書類の内容に不備がありましたか? であれば、確認しますが……」

 

 ……そうだ。

 

 そうだった。

 

 俺は今日、タリエの仕事の見学に来てるんだった。

 ただの一文官から王城のエリートまで一気にグレードアップしたタリエの仕事ぶりが気になって、本気じゃなかったが少し仕事を見てみたいってバカな頼み事をしたんだ。

 

 冗談のつもりだったし、やってることはスパイ行為にも等しいから通るとは思ってなかったが、エリザベトもベラも「まぁ、兄上なら、別に……」「文官の知識もあるしな……」みたいな軽いノリで許可を出しやがったし。タリエも「先輩が見守ってくれるそうなので! いつも以上に頑張ろうと思います!」ってやる気になって後には引けなくなって……。

 

 で、ちょっと仕事してる紙きれ覗いてみたら俺がやってた頃とはあまりにもレベルの違いすぎる内容が目に飛び込んできて……一瞬意識飛んでた。

 マジかコイツ。めちゃくちゃレベルの高い仕事してないか? 文官時代以上に何書いてあるかさっぱりわからなかったぞ俺? 今になって地頭の差をひしひし感じるというか。

 

 ……というか俺。

 王子の頃の潜伏期間中に、ろくに知識もないままこんな仕事させてたってことになるよな? やっぱり俺、相当非人道的な采配してたんじゃないか? いくら頼れるからって負担押し付けすぎだろ……。

 

「あ、ああ、いや。大丈夫、だ。お前の仕事ぶりに感心してて」

 

「そ、そんな……! ……いえ、憧れの先輩が誇れる、そんな僕であれるよう、日々努めてますから!」

 

 け、健気ー……。

 その「そ、そんな……」は夢で見たヤツとはだいぶ感触が違うんだよな。いやいいぜ別に、お前が満足できてるなら俺の方から文句つけたいところなんて何もないんだしよ。

 

 それにしても、本当に俺は良い後輩を持てたんだな。

 あの夢の中でも、タリエは不安な点を述べることはあっても、俺の意見に反抗したり不満を示したりはしなかった。それが良いことって訳じゃないが、コイツは自分が信じた相手を最後まで徹底的に信じようとしてくれているんだ。

 とても俺に圧迫面接してた生意気な少年と同一人物だったとは思えないぜ。なんだったんだろうなあの圧迫面接。

 

 ……あー。でも、あの夢のままなのはよくなかったかもしれねえ。

 あの夢の中だと俺達は希望に突き進んでるように見えてたが……今考えればどうみても戦力不足だった。法的機関に訴えかけるつもりだったのかもしれないが、「光明の教会」の手はもっともっと上層にも広がってるし、それだけじゃどうしようもない。ヴェインの存在まで辿り着いたはいいが、それ以上先は見えないまま、ヴェインの手駒の一貴族が終着点だと勘違いしちまってた。

 タリエとカルの繋がりが強くなかったし、ソラナから教会の情報も手に入らないから結局問題は解決しないまま全滅ルートだって有り得てた未来だ。敵の内情に潜り込み、敵を明確に倒しきり、王女による粛清を確約するっていう手段を踏めてないから、あのままじゃ完全な解決には至れなかった。

 

 そう思うと、やっぱり今の方が良かったのかもしれない……な。

 

「……先輩? やっぱり何か、書類に問題がありましたか?」

 

「ん? ああいや、俺にその書類のことは分からないし……」

 

 

 

「──任せてください! 先輩が仰るなら、その通りに処理を行いますから!」

 

 

 

 ……いやダメだろ。

 

 それ国の政治に関係してる書類だろ。

 流石に俺が何言おうと信じちゃダメだと思うぞ。

 やっぱお前ただ健気っていうより変なフィルター俺にかかってないか?




A. 対上層部の腐敗チームが結成される。
  ルシアとの関係は複雑になり、タリエ/ソラナ/ベラとの関係は深まる。
  チームはヴェイン及び教会に敗北し全滅する。

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