【完結】俺は死んだはずだよな?   作:破れ綴じ

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本人が見ている夢という体なので、整合性はあまり気にしなくていい気がしてきました。

だって夢ですよ?(´・ω・`)
唐突にアシェル君が空を飛び始めてもおかしくはないんじゃないでしょうか(暴論)


Q. もし別の出口を見つけられていたら?

 正面の扉は炎の壁だ。熱が近づくだけで頬を殴ってくる。あそこは無理だ、別の場所を探さねえと。

 息が続かねえ、吸っても薄い。視界の縁が灰に塗られはじめてる。落ち着け、出口だ、出口を探せ。低いとこは火が走ってる、高いとこは煙だ。どっちもダメだ、なら抜けてる場所はどこだ。空気の流れがある場所、火が外へ吸い出されてる場所……。

 

「(……は)」

 

 窓……か?

 

 なんだってんだ。丁度、おあつらえ向きの窓があるじゃねえか。

 しかも、あの窓--よく見りゃ枠の木がもう焼け落ちて、桟も格子も無くなってる。

 

 熱で勝手に抜けたのか。何にせよ助かった!

 あそこなら押す必要も、割る必要も、蹴る必要もねえ。ただ抜けるだけだ。マドリーを抱えて腕が塞がってる俺にはこれ以上ねえ出口だ。

 マドリーの意識はねえが、まだ温い。冷えてねえってことは、まだ生きてるってことだ。それだけで十分。

 よし、窓の縁に着いたぞ。焦げた木の縁が触れたが、熱はもう抜けてる。今頬を撫でたのは煙じゃねえ、確かに外の空気だった。

 

「……げほっ、ごほっ、おえっ……」

 

 ……地面!

 土だ。石じゃねえ、土だ。冷てえ。背中に土の冷たさが当たって、それが、火の中じゃねえって何より教えてくれる。

 マドリーも……息は、してる。浅いが、止まっちゃいねえ。よし……!

 ……生きてる。二人とも、生きてやがる!

 

「--兄貴!!」

 

「……リアン!」

 

「あ、ああ兄貴! よかった、戻って……」

 

「俺のことより……早く、誰でもいい、薬家の奴らを呼んでこい……!」

 

「……ッ! あ、ああ!」

 

 喉が裂けたみたいな声しか出ねえが、戻ってこれたことは確かだ。

 だが、安心してる場合じゃねえ。ついさっきまで俺が真っ黒の空気を吸い込み続けてた事実に変わりはねえんだし、マドリーは俺なんかの比じゃねえほど火に晒されてんだ。

 

「わ、分かった! おい、お前ら、薬家に走れ! 台持ってこい、台! 水も! 急げ!」

 

「ぐっ……!」

 

「あ、兄貴! 待ってろよ! マドリーも絶対助けてみせるからな!」

 

 頼む。頼むから、このまま持ってくれよ、マドリー。

 薬家の奴が来るまで、それだけでいい。お前は俺の婚約者で、家のことに熱心で、俺の造りたかった酒を一緒に造ってくれて、リアンとも喧嘩しながら手ぇ組んでくれた女だ。こんなとこで、煙なんかにやられていい奴じゃねえ。

 

 俺が助けに入ったのは打算じゃねえ。逃げたら一生後悔するからだ。

 一度は逃げようとも思ったさ。家督を継ぎたくないから、たったそれだけで。

 だが今、俺の判断は間違いじゃなかったって思ってる。お前が助けられればさらに上乗せして俺の判断に箔がつく。

 なら、ここまで来て、最後に祈らねえ理由もねえだろ。

 

「(……持ってくれよ。あと少しだ。すぐ来る、すぐ来るから……)」

 

 大丈夫、お前を死なせはしない。

 そのために逃げずに戻って来たんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……やっぱ逃げた方が良かったんじゃねえかな。

 

「見ろよ兄貴! すげー人数だぜ! オレたちが本気出せばここまで人集められんだな!」

 

「落ち着きなさいリアン。今回の主役は彼なのよ、今日ぐらいは大人しくしなさい」

 

「へへ……悪い! でもうずうずして! な! 兄貴!」

 

「ははは……そうだなぁ……」

 

 雨降って地固まるとは言うがな。俺の救出劇が--そのまま即座に両家全体の完全和解にまで発展するとは思わねえじゃ……うわぁまだ追加の人間集まってきやがったよ。

 マジで? 俺このままだと、覚悟完了からわずか一夜にしてコイツら全員のトップになっちまうってのか? 展開が早すぎるだろ。

 

 

 

 いや、問題が解決できたのはいいことだぜ。その点については一切文句ない。

 俺は逃げてばっかの人生を振り返り、これからはちゃんと向き合うと決めて前に進んだ。その結果、リアンとの約束も無事果たせて、マドリーは顔に火傷こそ残っちまったものの命に別状はなし。薬家がストックしてた薬酒は奇跡的にいくつか無事だったらしい。

 放火した犯人は無事捕まり……その後どうなったかは知らないが。共通の敵が生まれたことと、二人の次期当主を救い出すという目的の下、両家はこれ以上ないほどの連携を見せ、最終的にその結束は過去最高のものとなった。

 皆が努力し合った甲斐あって、両家の間には互いの苦手意識ってもんが薄れていき、今や俺とマドリーの結婚--そして俺の後継ぎに異を唱えるヤツはゼロになっちまったと。

 そのままの流れで、俺の栄誉を称える大々的な宴会を即日開こうってんだ。無事だった薬酒の試飲も兼ねて、と。

 

 本当に待ってくれ。

 展開が……早い……!

 

「どうした兄貴? 暗い顔して。腹でも痛ぇのか?」

 

「それは大変だわ。愛しの夫にもしものことがあれば、」

 

「大丈夫……大丈夫だから……」

 

 そりゃ俺は覚悟決めたさ。もうバレクから逃げないって決めたさ。

 でも今思えばその覚悟は曖昧だったんだ、多分。心のどこかで「俺は酒関連にだけ関わっていたい」「上手い感じでリアンに譲りたい」「俺はサポートに徹していればいい」なんて甘い考えがあったんだよ。

 リアンとの約束を破る気はなかったし、マドリーを見捨てるつもりも無かったが--その日の内に両家の全員から「あんたが主役」みたいな眼差しを向けられるだなんて予想できるか?

 断言するね。俺は次期当主って立場の重みを今の今まで理解できてなかった。

 

「……マドリーは、隠さねえのか、それ」

 

「これ? 隠す理由がないでしょう。これは貴方が私を助けてくれた証なのだから。むしろ誇らしいくらいよ」

 

「そうかよ」

 

 マドリーの綺麗な顔は左半分が薄く引き攣れたみたいな跡が残っちまった。なのにそれを化粧で塗り潰そうともしてねえ。堂々と晒してやがる。

 まあ、本人が気にしてねえなら何よりだよ。どっちかっていうと気にしてねえっていうより、これがあっても貰ってくれる相手ができたから気にしなくて済んでる、ってのが本音な気もするが。

 

 そういやさっきマドリーの親父さんにも会ったな。

 一応これまでもちょくちょく顔は見てたんだが、もうとにかく感謝されっぱなしだった。一生分会話したんじゃねえかな。

 ただ、喋ってるうちにどんどん話が誘導されてたような感じがした。流石はマドリーの血縁ってだけはあるか。

 もしかして俺、何かしらの言質取られてんじゃねえの。外堀埋められてる? もうマジで逃げられない?

 

「いやぁにしても兄貴!! こうなりゃもう兄貴が次期当主で確定だよな!? オレ、もう何の文句もねえからな!」

 

「リアン、声がでけえ」

 

「親父も認めてるし、薬家も歓迎してるし、職人たちも兄貴のためなら何でもやるって言ってる!」

 

「おう」

 

「オレ、兄貴の右腕として一生支えるからな! 兄貴とオレで、バレク家は安泰だ!」

 

 ……そうなんだよなぁ。

 これからどうすっかなぁ……。

 

 俺としては正直、「逃げられるなら逃げたい」って気持ちが全くない訳じゃない。リアンに当主を継がせて俺だけバックレるって選択が取れるなら、今でも取りたいと思ってる。

 そもそも俺はルシアとタリエとソラナの様子を見に行かなきゃならねえんだ。タリエかソラナに至っては無職の可能性だってある。次期当主にもなれば自由に王都へ出発なんて夢のまた夢だ。

 

 ただ、それと同時に、俺は--このままバレク家の当主として骨を埋めても良いかもしれねえと思い始めてる。

 そもそもが今の空気だ、断れる雰囲気じゃねえ……っていうかどう足掻いても断れる空気じゃねえし。ここまでお膳立てしてもらっておいて、「じゃあさよなら」ってのはあまりにも気が引ける。リアンとマドリーのことだって好きだし、他の連中に対しても結構愛着が湧いてきてる自覚はある。

 やっぱり逃げた方が良かったんじゃないか……なんてあり得もしない妄想を捨てることはできねえが、心の奥底では今の立場に向き合うべきだって気持ちもある。正直諦めがつきかけてんだろうな。

 

 でもなぁ……。

 そうなると、経営とか政治とかの勉強をしないといけないのかね。そこらの知識全部忘れちまってるのに、どうすればいいんだって話--

 

「--アシェル」

 

 ん? 誰だ?

 

 

 

「よく……やったな」

 

 ……えっ誰だ?

 初対面だろお前。まず名乗ってくれないか。

 

 

 

「父親として……儂はお前を誇りに思うぞ」

 

 マジで誰だよ!

 いや父親なんだろうが……完全に初対面じゃねえか! 

 

 

 

「よう親父! 会が始まる前に兄貴の顔見に来たのか?」

 

「そうだ。リアンも元気そうだな」

 

「おう! 兄貴がいれば俺はいつでも元気百倍だ!」

 

 うーわ。

 うーわ。

 

 多分そういうことだよな、次期当主予定だった息子が両家を引き合わせる一大イベントを見事成し遂げちまったから、その晴れ舞台を見るために療養先からわざわざ戻ってきたってことだよな。

 えっ何言えばいいんだこれ、親父との思い出話とか振られたら何も言えねえぞ? リアンにフォロー頼むのも不安が勝つし……。

 

「今だから言うが、お前にこの家は重いとさえ思っていた。仕方ないとはいえ、お前に次期当主などと」

 

「お、おう」

 

「だが、今回の話を聞いて安心できた。お前は、儂が思っていた以上に立派な男だ」

 

「……そ、そうか?」

 

「そうだ。お前なら、バレク家を任せられる。お前の酒造りには期待ができる」

 

 ……おいおい。

 あんた酒を見る目は確かなのかもしれねえけど、子供を見る目は愛情で曇っちまってるよ。どう考えても俺に当主の才能は無いぜ?

 

 いやまぁ。会ったこともねえ親父だし。この体の記憶も俺にはないとはいえ。なんだか少し嬉しくなっちまうのは否めないが。

 この体が覚えてんのか、それとも俺自身がどっかで親ってもんに飢えてたのか……ああいや、そんな俺の事情は今どうでもいいんだけども。

 

「今日はお前の第一歩を確かめるためにも来たんだ。なんでも、飲めない人間でも飲めるという例の酒、完成したそうじゃないか」

 

「……へ? あ、ああ……」

 

「どれ。今回は儂が試飲し、病人相手にも問題ないか、このボロボロの肉体を以て人柱になってやろう。はっはっは」

 

「……」

 

 あれ? これ、コイツが酒飲みたいだけじゃないか?

 今まで色々言って来たが、俺達が完成させた薬酒にピンと来て、自分みたいな病人でも飲めるんじゃないかって期待してきてるだけじゃないかコイツ?

 

「……んん。なので、これからは時々、家にも顔を出そう。お前と一緒に、バレク家の未来を考えたい」

 

 ……いや、もう。考えすぎだな。

 一応親父が欲望満載で話しかけてきているかもしれないって懸念はあるが、ともかく言ってることは感動的な内容なんだ。

 リアンも見てる。マドリーも見てる。ここで差し伸べられた手を握らず突き返すような真似はできない。

 正直この手を俺が握っていいのか。会ったこともねえ親父の手を、元の息子が握るべき手を……本当に俺が握って良いのかって不安はあるが。

 

「……ああ。頼む、親父」

 

「うむ」

 

 ……温い。

 痩せて骨ばってるくせに、妙に温い手だ。なんでだろうな、この手の温度だけは、ちょっと、忘れたくねえような。

 

 親父。薬家の当主。マドリー。リアン。職人ども。全員が全員、俺に期待してやがる。

 火事で命懸けで助けたのは本当だ。だが、それが「次期当主決定」「婚約継続」「バレク家の未来」にまで雪だるま式に膨らむなんざ、誰が予想できる。

 ただ、逃げたいって気持ちはあっても、実際にそれができるかどうかは別だ。

 ここで全部蹴っ飛ばして消えたら、俺は今までで一番のクズだ。盗賊やってた頃の俺ですら、ここまで薄情じゃなかった気がするぜ。

 

「当面は、頑張ってみる……か」

 

「アシェル?」

 

「兄貴?」

 

「いや、なんでもない」

 

 声に出してみれば、思ったより悪くねえ響きだ。

 火事で死んでりゃ、こんな面倒な悩みもなかった。次の体に移って、また知らねえ場所でゼロからやり直してたんだろう。それに比べりゃ、悩めるってのは、生きてる証拠だ。

 もし逃げるにしても、もうちょっと様子を見てからでいい。それに、ちょっとだけ気になってる自分がいる。あれだけ美味い酒をどうやって設計したのか。あの味を造り上げたって男が何を考えてるのか。知りたい、って気持ちが、無いと言ったら嘘になる。

 

 ……そもそも、自由に酒が飲める立場だしな、今は。

 そこに美人な嫁と、頼れる右腕がついてくるだけ。

 王都だって、案外俺無しでも上手くやれてるかもしれない。

 だから、悪い人生じゃ、ねえのかもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……あんま飲めねえくせに宴の主役ってのも疲れるもんだ」

 

 外はひんやりしてやがるな。少しだけ顔が冷えて気持ちいい。さっきまでの熱気と拍手から離れると、耳がじんと鳴るような。

 ちょっとトイレに行くだけでも周りがやいのやいの言ってくるってのは流石に面倒だが……まぁ俺に懐いてくれてるって考えるか。

 リアンだけじゃなくマドリーも着いていくとか言い出した時は流石に驚いたが。アイツ、着いてきて何するつもりだったんだ?

 

 ……ん、あれ?

 人影? こんなところに……。

 

「……」

 

 ベラ? 

 

 なんでここに……って、ああ。別におかしくないか。

 ベラは薬家で療養中の患者なんだから、一応は薬家の関係者だ。体調が回復しつつあるなら、両家の宴に呼ばれてても不思議はねえな。療養中の身でわざわざ顔出しに来たってのもだいぶ律儀なもんだが。

 

 そういや俺も、ベラにちゃんと本当のこと言わねえとな。

 慰めのつもりであんな言葉口にしたが、現実はちょっと違う訳だし。今は無理だとしても、いずれは本当のことを教えるべきだろうから。

 

「! シェラ……」

 

「よう、ベラ。久しぶ──」

 

 

 

 --グサッ

 

 ……あれ。

 

 

 

 ……熱い。

 なんだ。熱い、熱い、なんだこれ。何かが、入ってる。腹の中に、硬いのが。

 え? なんでべラがここまで近づいてるんだ? 俺の目と鼻の先だぞ?

 あれ、なんで腹が熱いんだ。これ、覚えがあるって言うか、何か、刺さって……。

 

「よくも、騙してくれたな」

 

「……っ、は、は?」

 

「お前の名前は偽名だろう」

 

 ……え?

 

 頭が、追いつかねえ。

 待て、今俺刺されてるのか?

 刺してるのは……ベラ? なんで?

 俺、なんで今、刺されて……。

 

「通名はアシェル、か。私に言ったことは嘘だったんだな」

 

「ま、待て……がはっ」

 

「彼の名を騙って英雄ごっこは楽しかったか? 弱った患者の心を救うのはさぞかし気分が良かっただろう」

 

「ちが、ち……」

 

「他の何人にも聞いたが、アシェルはお前だけだと。王都にそんな知り合いはいないと聞かされた。全員がだ」

 

 ……ま、まずい!

 最悪だ、本当に最悪だ!

 

 なんて、こった……俺があの救出劇を繰り広げたせいで、両家で俺の名前が飛び交うようになったんだ。

 もし俺が死んでりゃタブーみたいな扱いになってただろうが……現実はそうじゃない。ベラがそこから、あの偽名の嘘に気づくのだって、簡単に予想できる……!

 

「お前の慰めは、全部、嘘だった。生きてるだと? あれは何だ。あの時、私を救うみたいな顔で並べた言葉は、全部……っ」

 

「ベ……ラ……聞いて、くれ……」

 

「二度と聞くものか。もういい、さっさと王都に戻って彼と同じ墓に入って死んでやる……お前を殺した後でな!」

 

 言いてえ。言いてえのに。何をどう言えばいい。成り代わりだ、なんて言ったところで、信じるか。信じたところで、お前の怒りが収まるか。

 収まるわけ、ねえよな。あれは慰めのつもりだったんだ。本当に、生きてるつもりだったんだ、俺は。俺の中じゃ、俺は生きてたんだから。

 

 でも、お前から見りゃ。死んだ男の名前を騙って、のうのうと、英雄面して。

 

 ……ああ。そりゃ、刺されても、文句、言えねえか。

 

 でも待て。待ってくれ。今日なんだぞ。今日、決めたんだ。逃げねえって。向き合うって。

 俺が、ここで死んだら。あいつらは。

 

「マ、ドリー……リア、ン……」

 

 駄目だ。視界が、暗い。さっきまであんなに明るかったのに。さっきまで、喝采の中にいたのに。

 兵士のときとは違う、こりゃ血を失いすぎたっていうよりも、刺されちゃまずい場所が切られた感じがする。応急処置とか、しても、間に合わないような。

 

 ……はは。なんだよ、これ。せっかく、覚悟、決めたのによ。今度こそ、逃げずに、生きてやろうって、思ったのによ。

 逃げてばっかりの人生に、初めて、けりをつけようとした、その日に……刺されて、終わりかよ。

 

 四回目は、こんな終わり、方--

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(--ねぇベラ? そろそろ私の順番じゃない? アシェルを渡してほしいのだけど)」

 

「(も、もうちょっとだけ待ってくれ。こんなことできる機会、今ぐらいしか……)」

 

「--うおわあああああ!!!」

 

「なっ、うわっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

 な、なんだ!? 夢か! 夢だ! また夢だ!

 ああ畜生! なんだってあんな夢! でも良かった!

 

「……?」

 

「……?」

 

「……?」

 

 ……で、今の、この状況は何だ。

 急に飛び起きれたから良かったものの、結構長い沈黙が流れちまってる。

 

 多分また昔の頃の夢を見てたんだろうが……つまりさっきまで寝てたってことだ。

 思い出せ。俺は何をしてて……。

 

「ア、アシェル! お、起きたのか、はは、ははは……」

 

「わ、悪い夢でも見たのかしら……すごい声だったけれど」

 

「えっと……ああ、悪い」

 

 ……窓の外から見えるグロス家の庭。

 時間帯はかなりの深夜。リアンやネルみたいな良い子はおやすみの時間。

 周囲には空になったいくつもの酒の瓶。飲みでここまで開けるのは珍しい。

 俺の隣には、暑かったのか……若干顔の赤い、脱ぎ掛けのベラとマドリー。

 

 ここから導き出されるのは……。

 

 

 

「……俺。潰れて寝てたのか?」

 

「……え、ええ、そうよ。つい、さっきまで」

 

「何しても起きないから、相当深い眠りだったぞ……?」

 

 

 

 ……そうだ。

 

 そうだった。

 

 俺は今日、マドリーとベラの三人で飲む予定だったんだ。

 この集まりも結構繰り返してきたし、ちょっと刺激が欲しくて、見たことない酒を買ってみたりして。珍しくマドリーとベラが「慣れない酒だし、少し怖い」「これでも女だし、お前に隙を見せたくないから」とか言い出したから俺が率先して飲んでたんだ。

 今思えば絶対あれは二人とも分かってたし、誘導だったが……俺は好奇心に勝てず。早い段階で眠くなっちまったんだ。

 

「(もう……ベラが時間をかけすぎるから、私だけ何もできなかったのだけれど)」

 

「(仕方ないだろう! 勝負に勝ったから一番手は私だったはずだ……!)」

 

 で、二人はそれをいいことに俺にいたずらしてた、と。

 なんて平和なんだ。

 

「ほら、アシェル。とりあえず水と酔いに効く薬よ」

 

「……その……怒っているか? 少し、私達もふざけすぎたような……」

 

「おう……」

 

 あー……にしても、なんか頭がふわふわする。まだ酔いが残ってんのか、それとも薬の効果か。

 目の前でベラが困ってる。キレたらあそこまで怖くなるベラが、眉下げて……おお、結構顔が良い。

 

 さっき見たあの夢はとにかく最悪だった。

 俺は酒家のトップとして、なんだかんだ自分の運命を受け入れつつ歩いてたように見えるが……ラストは大好きな仲間に刺されて死ぬってオチだ。

 ありゃ百パーセント俺が悪かったし、そういったところ軽率だったから後に苦しんだのが今の俺だったんだが……よりにもよってあんな風になるとは。

 そもそもあの方向だと、ソラナの未来まで終わっちまうし……両家が再度暴走するのは間違いねえ。

 

 ああならなくてよかった……よっと。

 

「ん、ん!? ちょ、アシェル!? 何をしている!? 私の顔に何か……」

 

「ま、待ってアシェル! 貴方は私の夫なのよ!? 妻の目の前で他の女に何を……!」

 

「アシェル、私はまだ、その、心の準備が……」

 

「ベラ!!」

 

 なはは、悪戯の仕返しだ。

 別に取って食いやしねえよ。お前の顔をよく見たかっただけだ。

 

 ただ、俺の仲間は俺の仲間なんだって。

 信頼して側にいても大丈夫だってことを実感したかったんだ。

 

 あんな怖くて辛い思い、二度とごめんだから。

 

 

 

「い、いや。覚悟はできた、何が来ても受け入れよう……」

 

「ベラ!!」




A. バレクとグロスの仲が改善し、後に本編通り決裂する。
  ベラが冷静じゃいられなくなり、暴走する。多分この後殺される。
  ソラナは助からない。

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文章練習でまたいくつか後日談を書こうと思うのですが、需要ありますか?

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