【完結】俺は死んだはずだよな?   作:破れ綴じ

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意外かもしれないんですが実は私ってヤンデレが好きなんですよ(´・ω・`)


Q. もしあの誘いに乗っていたら?

「──喋る! 喋るから……っ、げほっ、おぇっ……!」

 

「……賢明なご判断です」

 

 

 

 ……っ、はあっ……! 

 入る、入ってくる、入って来てる。空気だ。喉が焼けそうだし、肺が痛えし、でも入ってくる。生きてる、まだ生きてる。

 

「お話しいただけるのですよね? 執事長」

 

「……ま、待て、げほっ……おぇっ……今、整える、から……」

 

 くそ、胃の底まで上がってきやがるぞ。まだ止まらねえ。石の床が頬に冷てえし、指が震えて言うことを聞かねえ、まだ薬が抜けきってねえのか。

 畜生が、俺がこんな苦しいのに平気で見下しやがって。油断も隙もねえ。逃げようとした瞬間、また沈められて終わりだ。

 

 考えろ。俺は咄嗟に「喋る」って言ってなんとか出してもらえた。コイツが俺を引き上げたのは、俺がガルトンの隠し財産を知ってると思ってるからだ。知ってる前提で、ここまで来てやがる。

 でも俺は知らねえ。何ひとつ知らねえ。十年ぶんの記憶なんざ、最初から俺の頭にゃ無えんだよ。

 でも知らねえとは言えねえ。言った瞬間にまた水ん中だ。今度は引き上げてもらえない。

 

「……知ってる。隠し財産のこと、俺は、知ってる」

 

「では、場所を」

 

「待て──全部は、知らねえんだ」

 

「……ほう?」

 

 ……ぐ! マズいか。咄嗟に適当言ったが……いや、止まるな。

 半分本当に聞こえる嘘を積め。一気に喋るな、息が続かねえふりも兼ねて、ゆっくり、刻めばいい。それでなんとか、生き延びられる線を探すしか、今の俺には残されてない! 

 

「確かにガルトンは、俺を信用してる。だが、完全って訳じゃあ、ねえ。俺にだって、全部は明かしてねえんだよ」

 

「……」

 

「一部だ。俺が握ってんのは、ほんの一部」

 

「全容を把握しているのは……」

 

「ガルトン本人だけだ。アイツの頭ん中にしかねえ」

 

 ど、どうだ? 

 筋は通ってるはずだ。心の一番奥底じゃ誰も信用しねえ孤独な男──それはコイツ自身が口にしてたことだ。お前の前提を、お前の言葉で裏打ちしてやってんだよ。

 確かに俺は手がかりを知っている。だが、全部は知らねえ。これならどうだ? 俺を殺す訳にはいかなくなるが、隠し財産が全部欲しけりゃガルトンのところに行くのは絶対だ。

 そこで改めて俺がガルトンを吐かせれば、全財産の場所を聞きだせば、俺の嘘は誤魔化しつつ生き延びることが、できる。

 

「だから……俺と組もうぜ。お前にとっても──」

 

「なるほど。承知いたしました。『ご主人様』のおっしゃる通りに致しましょう」

 

「──は?」

 

「なにか?」

 

「い、いや……」

 

 ……ご主人、サマ? 

 

 ……いや、んなこと気にしてる場合じゃねえ。少なくともコイツの中で、多少は認めてもらえたってことには違いねえ。俺の生きたいって意思を、辛うじて繋ぐこと自体はできたんだ。もう選択肢は間違えられない。

 それに、このままいけば、俺はもう何があっても引き返せない。今この一瞬を生きるために、この化け物みたいな女と地獄の契約を交わすことになる。

 

 つまりこれから、この女と行動を共に、悪の道を進むことになる。

 

 でも、次があるかなんて、俺には分からないんだ。

 だから、こうするしか。

 

「じゃあこの後、何食わぬ顔でガルトンのとこまで行って、拷問して、吐かせる。それでいいか」

 

「構いません。ご主人様が正しい判断をしてくださり、非常に嬉しく思います」

 

「……でもその前に、ちょっと休憩させて……」

 

 生き延びるためにこれからやるべきことは──もう確定しちまった。

 まず、ガルトンを吐かせる。なんとしてもだ。アイツが財産の場所を口にしなきゃ、俺の嘘はそこで終わる。終われば俺も終わる。

 ルシアを裏切ることにもなる。情報を流す約束は、もう守れねえ。ガルトンを拷問した俺がここに残れる道理はない。かといって自主すれば待っているのはルシアからの死。俺はできない約束をして、かつての相棒を裏切る最低野郎になるしかねえ。

 

 そしてなんとしても──この女を飼いならす。

 ご主人サマなんて口だけだ。実際に手綱を握らねえと、俺はいつまでも水槽の縁で生かされてるだけの駒で終わる。メイドは表の姿で、これから俺の命を支配しているのは常にコイツになるんだ。

 

 ……全部、やってやるよ。

 もう、そうするしかねえんだ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「おかえりなさいませ、ご主人様」

 

「……ああ」

 

「お上着を。湯の支度はできております。先にお召しになりますか、それとも夕食を先に」

 

「……今日は、飯だけでいい」

 

 ……毎度毎度、よくここまで気が利くもんだ。上着を脱ぐより先に手が伸びてやがる。指の動きに一切の無駄がねえ。このメイドは完璧すぎる。

 

 もう何か月になる。三か月か、四か月か。

 よくもまあ、こんな綱の上を落ちずに歩いてこれたもんだ。

 

「ご主人様は、本当に勤勉でいらっしゃる。これだけの蓄えがありながら、街に出て働き続ける。感心いたします」

 

「……働かなきゃ鈍るだろ。腕も、頭も」

 

「ええ。次の土台を作る、賢明なお考えです。流石はご主人様」

 

 ……この暮らしを始めようって言い出したのは俺だ。そうしなきゃだめだった。

 何もかもが上手くいって、金だけなら、嫌ってほど手に入れた俺とレミだけど。だからこそ、俗世から離れて、どこか静かなとこで隠居して暮らそう──そう言ってたら、俺はとっくに死んでいた。

 ありゃ危ねえ橋だった。コイツは、俺が金にあぐらをかいて何もしねえ人間かどうかを見てる。隠居なんて口にしてりゃ、リスク管理のできねえ無能と判断されて、その夜のうちに眠ったまま終わってただろう。

 

 余計な欲を出せば殺される。不測の事態に備えない姿勢だと殺される。生き延びようとする気力が見られる主じゃなければ殺される。

 

「本日の夕食です」

 

「ああ」

 

 湯気の立ち方まで計算してやがるな。

 熱すぎず、ぬるくもなく。塩の加減も、肉の火の通りも、文句のつけようがねえ。執事長やってた頃も大概美味い飯にありつけていたが、今はもっと質が上がってる。コイツが専属でつくってのはそういうことだ。

 つっても緊張で味なんざ分からねえが。

 

 ただ礼を言いすぎるな。下に遜りすぎる主人は頼り甲斐がない。

 言わなすぎるのもダメだ。驕りはコイツに厳禁だ。ちょうどいいとこを探れ。

 

「……うまいな、いつも」

 

「恐れ入ります」

 

 これでいい。多すぎず、少なすぎず。

 主人ってのは、こういう顔をしてるもんだろ。多分。

 

「本日、街でいくつか動きがございました。北の口入れ屋が一人、こちらの素性を嗅ぎ回っているようです。明日にも処理いたします」

 

「……任せる」

 

「西の取引は順調です。先方は予定通り支払いに応じる見込みかと」

 

「そうか」

 

 邪魔をするな。関知しすぎるな。コイツの悪事に口を挟めば、それだけで終わる。

 ここで「やめておけ」なんて言ってみろ。主人として相応しくないと判断される。逆に「もっと派手にやれ、金を使え」なんて煽ってみろ。必要以上の欲を抱いた危険な人間と見なされる。

 

 俺を殺したくない、一緒に逃げないかなんて提案しておいて。コイツと二人きりになると始まるのは「完全にレミ主導の下で動く、表と裏のご主人様ごっこ」だ。

 表向きレミは俺のメイドだが、活動方針は全部コイツが決めていて、俺はただそれに従うだけ。実際には主人でも何でもない。「ご主人様」って呼ばれてコイツのごっこ遊びに付き合わされるだけの木偶の坊。

 

 それでも本当の悪事は全部俺に事前確認を取ってくる。

 あくまで主人とメイドって関係に固執してるのか、いざという時に全責任俺に押し付けていくつもりなのか、俺にも片棒担がせて逃げられないようにしたいのか。

 

「もう一件。あの女兵士の捜索が、東の区画まで及んでいるようです」

 

「……ふん」

 

「ご心配には及びません。こちらには辿り着けないかと」

 

 心配しかねえよ。

 だが顔には出さねえ。出せねえ。

 

「だろうな。うまかったよ」

 

「お下げいたします」

 

「ああ」

 

 食器を下げる手つきも、相変わらずだ。音ひとつ立てやしねえ。

 杯に残った酒は安酒でも高い酒でもねえ、ちょうどいいやつ。これもコイツが選んだ。何もかも、コイツの掌の上だ。

 

 あの日、ガルトンが全部吐きやがったのは──俺にとって本当にいいことだったのか。

 俺が予想してた以上に効いたのは、痛みでも脅しでもなかった。俺の裏切りそのものだ。アイツは誰も信用してねえ男だったはずなのに、心の底じゃ──執事長の俺だけは、信じてやがった。

 その俺が刃を向けた瞬間の、あの顔。理解が追いつかねえって顔。長年連れ添った懐刀に裏切られて、頭が真っ白になってるみたいで。そんな隙をレミが見逃す訳がない。

 動揺しきったガルトンは、レミの拷問技術で隠し財産の場所も、その額も、何もかも喋った。あっけねえもんだった。

 

「ご主人様。お休みの支度が整いました」

 

「……ああ。今行く」

 

 休む準備が整ったって言われても自分の部屋に鍵だってかけられない。あの女が開けようと思えば、どんな鍵だって開く。

 主人なんだからって、「部屋に入ってくるな」とか「俺の自由を尊重しろ」だなんて言えるはずもない。部下の善意を無下にして自分の主張を通そうとする人間が、主人なんて役割を与えられないのは明白だ。

 

 アイツは今の暮らしにとにかく満足してるし、俺に対する愛着も湧いてるみたいだ。やろうと思えば夜の部屋に呼びつけることだってできるだろうし、アイツだってある程度応じてくれるだろう。

 でも、立場を笠に着て支配しようとすりゃ、レミにいずれ「最近欲を出してきた」と思われかねない。そうなりゃまた殺す理由ができちまう。どこを踏んでも地雷だ。

 

 だから俺は、コイツの頭ん中にある理想の主人ってやつを、毎日毎日なぞり続けるしかない。なぞり間違えた瞬間に死ぬ、そういう絵を、必死で。

 

「おやすみなさいませ、ご主人様」

 

「ああ。おやすみ」

 

 ……それでも一応、ようやくの一人だ。

 

 タリエ、ソラナ。お前ら、無事にしてるか。

 タリエは相変わらず市務課で働いてるらしい。痩せちまってたのが気がかりだが、生きてる。それでいい。

 ソラナは……まだ、分からねえ。墓に名前は無かったから、どこかで生きてるはずなんだ。もし完全に孤立して、墓を建ててくれる知り合いすらいなかった……そんな最悪の結末じゃねえ限りは。

 

 ……そして、ルシア。

 

 俺に裏切られたって分かった瞬間から、ルシアについての良い噂をずっと聞けてない。

 なんでも、ガルトン邸に乗り込んだ後、「アシェル!」「シェラはどこへ逃げた!」って半狂乱でキレちまって……仲間内に怪我人を出しちまって、謹慎を受けたとか。

 その直後に、兵士としての職務も、近衛兵になるって夢も、何もかも投げ捨てて、シェラを探し始めた。あの真面目だったルシアが、だ。俺なんかのせいで。

 

 罪悪感はある。確かにある。できねえ約束をして、生きてもいねえ兵士アシェルをエサにして、あいつの一番柔らかいとこを利用した。最低だ。分かってる。

 

 ……でも、それ以上に。今の俺は、ルシアが怖い。

 あんな顔をする女になっちまったのは、俺のせいだ。だが、暴走したあいつが何をするか、もう俺には読めねえ。見つかれば、殺されるのは間違いない。あの喉に当てられた指の冷たさを、忘れちゃいねえ。

 怖い。大切だった相棒に恐怖しちまうほどに。罪悪感ごと飲み込んじまうくらいに、怖い。

 

 それでも──レミとは、まだ衝突してねえ。

 俺もルシアも、とりあえずは生きてる。誰も今すぐには死なねえ。

 これが最善だ。胸を張れたもんじゃねえし、いつまで続くかも分からねえ。だが、今この瞬間、全員がまだ息をしてる。それだけは、辛うじて守れてる。

 

 ……それでいい。それで、いいんだ。

 

 もうさっさと寝よう。主人が夜更かししてりゃメイドは休めない。

 とりあえずはこの暮らしを、俺はこれからずっと続けていく。

 明日も、また綱の上だ。落ちねえように、歩くだけ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「ご主人様。今日は、地下までお越しいただけますか」

 

「……地下? また、変なヤツが引っかかったのか」

 

「ええ。ご足労おかけします」

 

 わざわざ呼びに来るなんて珍しいな。いつもの報告ならその場で済ますだろうに。

 もう俺もだいぶコイツとの暮らしになれちまった。もう一年経つってのに。それでも呼び出すなんてよっぽど真っ黒なことしたときぐらいだ。もう嫌な予感がしてきたぞ。

 

「こちらです」

 

「ああ……」

 

 

 

 ……は? 

 

「……んぐ……ごふっ……!」

 

 ……ル、ルシア? 

 

 

 

 なんだ、あれ。椅子に、縛られて。目隠しがされて。口の端から、垂れてるのは──血か。

 なんで。なんでここにいる。東の区画までしか来てねえって、辿り着けねえって、前にも言ったじゃねえかお前。なんで、なんでこんな、ここに。

 

「驚かせて申し訳ありません。昨夜、ここまで嗅ぎつけられまして。ですが、問題ありません」

 

「問題……お前、これ……」

 

「手強い相手でした。もう少し成長していれば私も危うかったかもしれません」

 

「は、ちょ……」

 

「口の中までは無防備だったようで、舌ごと切り落としました。今は痺れ薬も飲ませてあります。指一本、動かせません」

 

 ……口の中は、無防備だ? 

 じゃあなんだ、お前。そこ以外は狙っても効果が無かったから、そんな場所に刃物を突き立てたっていうのか。よりにもよって、それを、俺の、かつての相棒に。なんてことを。淡々と、よくもまあ。

 

 最悪だ。遂にルシアとレミが出会っちまった、それもルシアの完敗っていう最悪の形で。

 俺はルシアとの約束を破って逃げたシェラで──いやそんなことどうだっていい。どうすればいいんだ、俺は、ルシアをここからどうやって逃がせば。

 

「これだけ追い詰められても辿り着くとは、大した執念です」

 

「……」

 

「ですが、もう終わりですね」

 

 終わり、だと。

 

 

 

「殺しましょう」

 

「──っ」

 

「ご主人様の手で。それとも、私の手のほうがよろしいですか。どちらでも構いません」

 

 

 

 ……マズイマズイマズイ! 

 そうだ、昔は俺に悪事を押し付けるためルシアのことも容認してやがったが、今はガルトンがいないんだ。今のレミにルシアを生かす理由なんて微塵も存在しちゃいねえ。

 それを、当たり前みてえな顔しやがって。もう一年だ、コイツは俺のことを従順だと信じている。信頼関係ができていると思い始めている。だから俺に猶予をくれている。

 

 言葉が、出ねえ。

 何か言え。何か言わねえと。だが、何を。殺せって言うのか。俺が、ルシアを? 

 殺せと言えば、俺は生きる。言えなきゃ、俺が死ぬ。

 分かってる。頭では分かってる。なのに、口が。

 

 なんでこんな、こんな急に。

 よりにもよって、ルシアを。

 

「ご主人様? どうなさいました」

 

「……いや」

 

「……私たちは、同じ判断を下すはずです。そうでしょう?」

 

「……っ、待っ」

 

「……どうして」

 

 ……あ。

 

 

 

 ──スパッ……

 

「ぐ、ふっ……!」

 

 あっ……。

 

「ル、ルシア──ルシア!」

 

 

 

 レミ、お前、何して。

 なんで、ルシアを刺しやがった。まだ、何も言ってなかったはずだろ。

 待っ、待ってくれ、どうしてそんな。

 嘘だろ。今、何が。見もせずに、俺から目を離さずに、それで、お前。

 

「どうして、答えてくださらなかったのですか?」

 

「おま、お前、俺がまだ何も!」

 

「私たち、通じ合っていましたよね」

 

 ──ドサッ! 

 

 や、ばっ。馬乗り、に……コイツ、首絞めてきやがった……! 

 ふざけんな、どけお前。俺はルシアを見に行かねえと、まだ助かるかもしれねえのに。畜生が、どこで間違えた。ルシアを殺せなんて言える訳ねえだろうが、そんなちょっとミスで、ここまで崩れちまうような……! 

 

「ずっと、ずっとです。今の暮らしで、私がどれほど」

 

「離……せ……!」

 

「あなたなら、当然、『殺せ』と言ってくださると、信じて」

 

「ぐ、っ……! お、い……」

 

「なのに、どうして。どうしてですか?」

 

 なんだそりゃ、今更何言ってやがる。

 今まで何回も主人のこと裏切って来ただろうに、何で今更意見が食い違うことにここまで固執しやがる。自分が良くて主人に見捨てられるのは嫌だって、そんなの認めねえって言いやがるのか。自己中すぎだろうがこの女……! 

 まずい、息が、入らねえ。喉が潰れる。視界の端が、白く滲んでる。レミの声が遠い。水の中みてえに──こもって、聞こえ……。

 

 まさか──また、これか。また、これで終わるのか。

 

 最善だと思ってた。全員生きてる、それでいいって。胸を張れねえなりに、最悪な方法だが、それでも守れてると思ってた。なのに現実はどうだ、何一つ守れてないじゃねえか。

 ルシア、すまねえ。お前を、エサにして、裏切って、挙句に。恨みとはいえ、お前は俺を探して、ここまで来て、それで。守るどころか。こんなことに巻き込んじまって。

 

 俺は、自分可愛さに、殺すなって言ってルシアを守ることも。殺せってレミに命じることすらもできないで。

 

 ……次が、あるのか。今度こそ、本当に。

 分からねえ。分からねえのに──

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「──カハッ……!」

 

「ご主人様、お目覚めになられましたか」

 

「は………………ひっ!?」

 

「えっ」

 

 な、なんだここ!? どこだここ!? 

 なんでレミが、どうして今こんな……! 

 

 ……ん? 

 

 地下室じゃ……ない? 

 え、じゃあ、レミは殺してなくて、ルシアは死んでない……? 

 俺も首なんか絞められてねえし、そもそも悪の道なんざ進んですらいねえ。

 てかどこだここ。外? 空が見えるし、空気が頬を撫でてるし、俺今、布みたいなもんの上に乗せられてるような……。

 

 

 

「……少し煙を吸ってしまわれたのかもしれません。先程のことは覚えておられますか?」

 

「さき……ほど」

 

 

 

 ……そうだ。

 

 そうだった。

 

 俺はさっき、火事に巻き込まれたんだった。

 レミと一緒に飯の買い出しに行って、買い物ついでに良さげな食材の知識でも教えてもらおうとか思ってたんだ。レミってそういうのに詳しそうだし、俺の稼ぎなんざ店主のカルに比べれば大したことないんだから、ちょっとでも工房に還元できるようになりたいとか考えてて……。

 で、どこぞの馬鹿がボヤ騒ぎを起こしやがったんだ。

 

 じゃあ俺は、煙を吸い過ぎて意識を失ってたのか? それでレミがなんとか安全な場所まで避難させてくれたっていう……。

 

「もっと迅速にご主人様の首を絞め落とすべきでした。申し訳ありません」

 

「いやそっちかい」

 

 バリバリ首絞められてたぜ。あの夢の内容ってもしかしてそれが原因か? 

 

 いや、今回のこっちは俺が煙を吸い込まねえように、一時的に意識を失わせたって意味なんだよな。それで意識のない俺を安全な場所まで避難させたっていう。あんな夢で見た自己中な理由じゃなくて、俺を助けるための善意で行った……。

 いやこれ善意かな。本当に善意かな。コイツの趣味入ってないかな。煙より絞め落とされる方が危険だったりしないかな。言わねえけど。

 

「あと……ご主人様。差し出がましいことではあるのですが……」

 

「……なんだ」

 

 

 

「その、今回の件は……あの女兵士には、内密にしていただけると……」

 

 

 

 ……ああ、そうだよな。

 ルシアはちゃんと生きていて、あの完全に暴走しちまったルシアじゃなく、きちんと正統に努力を重ねた今のルシアであれば、レミが何も言い返せない程度には強くなってるんだよな。

 で、ルシアはノエリスがいる以上レミに手を出せないが、命を守るためとはいえ「俺の首を絞めた」なんて聞かされたらガチギレする可能性だって十分にある。

 

 で、今のコイツは、俺に捨てられるかもってことに怯えてたから、俺に庇ってもらえないんじゃないかって不安になったんだ。

 

「んなビビらなくていいって……ありがとうな、助けてくれて」

 

「当然です。ご主人様は、私の……唯一のご主人様ですから」

 

 それは今までのご主人様をご主人様と認めていませんっていう……。

 

 いや、どうでもいいか。

 今のレミは俺の仲間で、いつ殺されるかってビクビクすべき相手じゃなくて、ルシアとも即殺し合いって空気ではな……いやこれは怪しいけれど。一応は平和に暮らせてるんだ。きっと俺を殺そうだなんて考えてはいないはず。

 コイツがいないと成り立たない修羅場だっていくつもあったし、逆にコイツだけに依存してたらあの夢みたいな悪の道一直線だった可能性もある。今の適度な距離感が丁度いいんだ。

 

 そう思うと……。

 

「……お前が仲間で良かったって、そう思えるよ。いつも助かってるぜ」

 

「……! ふ、ふふふ。ご主人様、そのようなこと……」

 

 ん? なんで今一瞬首元に手を伸ばそうとした? 

 やっぱりお前の趣味だったのか?




A. アシェルは死ぬ。
  ルシアも死ぬ。
  ガルトンとかも当然死ぬ。しかも全財産奪われて。

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)
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文章練習でまたいくつか後日談を書こうと思うのですが、需要ありますか?

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