【完結】俺は死んだはずだよな?   作:破れ綴じ

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これ以外の方法で6章のベラとレミを退ける方法ってあるんですか……?(´・ω・`)
もう「殺す」しかなくなっちゃったよ……。


Q. もし誰かに悩みを相談していたら?

「なあ、ロエマさん。ちょっと、相談があるんだけど」

 

「あら、なあに~? 恋のお悩みかしら~」

 

「いや、そういうんじゃなくて……レミのことで」

 

「……レミちゃん?」

 

 ……もう、今の俺は油断できねえ。

 

 レミから「くれぐれも、『事故』には、気をつけてくださいね」なんて言われた手前、一切根拠はないがいつあの女から「事故」に巻き込まれてもおかしくねえ状況だ。今日はベラから逃げるためにロエマに泣きついた訳だが、それで逆に俺の命が危ないことを知らされちまった。

 俺一人の力じゃどうしようもできない。かといってあのカルに、レミ対策を頼むのは荷が重すぎる。せっかく二人きりなんだし、今ここでロエマに相談するのが俺にできる最善のはずだ。

 

 流石に前世で殺されたなんて言えないから、どう切り出せばいいか悩んだが……そこは、過去に色々あったってことにしてぼかすしかねえ。とにかく、今この瞬間に怖いってことだけ、伝わればそれでいい。

 

「その……実は、昔あの女に、命を狙われたことがあって……」

 

「ええっ!? レ、レミちゃんが……!?」

 

 ……うっ。

 やっぱり、そういう反応になるよな。ロエマにとっちゃレミはただの優雅な金持ちで、感じのいい友人だ。それ以上でも以下でもねえ。過去に人をバンバン殺してた化け物なんて、思いもしねえだろうよ。

 ただ、今は理解してもらわないと困るんだ。ここで打ち明けちまった以上、もう何の成果も無しでただ化粧だけして帰りますなんてことはできねえ。後でロエマからレミにこのことが知らされてもマズいし、今ここで確実に協力を確約できねえと、飛ぶのは俺の首だ。

 

「詳しくは言えねえんだけど……ただ、間違いなくあいつに殺されかけたんだ」

 

「アシェルちゃん……それ、本当に?」

 

「冗談でこんなこと言えないって……今朝、家を出る時も、『事故に気をつけて』って言われたし」

 

「……」

 

 ……黙らないでくれないか。今俺本当に怖いんだよ。

 いやまぁ信じたくはねえんだろうな。友人だと思ってた相手がいきなり人殺しだなんて言われて、はいそうですかと飲み込めるわけがねえ。

 でも、笑い飛ばすこともできねえでいる。きっとこの人なりに、何か引っかかってたんだ。あいつの距離の詰め方とか、普段のやけに丁寧な態度とか、謎の金払いの良さとか。普通の女がするにしちゃ、どこか妙だって。

 

「……ねえ、アシェルちゃん。こっちに来て」

 

「うおっ……ちょ、近い、近いって」

 

「その……大丈夫よ。お姉ちゃんが何とかするわ」

 

 いや、そんなこと言われても。柔らけえし、いい匂いするし、調子が狂うんだけど。

 でも……これは、いけた……のか? 声がさっきまでと違う気がする。ふわふわしてた感じが、すっかり抜けてるような。芯が通ってるっていうか、肝が据わってるっていうか。

 ……この人、こういう顔もできるのか。正直なとこ、会うたびにニコニコ笑って、可愛いだの似合うだの言ってるだけの、ちょっと抜けた優しい人だと思ってた。

 

 それが今は、こんなに頼もしい。意外だ。

 

「今日はもう、化粧の練習はいいわ。一旦、私の家に戻りましょう」

 

「えっ、いや、せっかく時間作ってくれたのに」

 

「いいの。そんなことより、アシェルちゃんの方がずっと大事なんだから。御者さんに言ってくるわ」

 

 ……そ、即答。

 

 これはとりあえず……助かった、のか。

 もし一人で抱え込んだまま、何も言わずにあの橋の向こうまで渡ってたら、レミの言う通りの「事故」とやらに巻き込まれてたかもしれねえ。根拠なんざ何もねえけど、なんとなく、そんな気がする。あの女の言葉に、意味のねえもんなんてねえからな。

 

 とはいえ、なんだろうな、この感じ。今までの人生を思い返しても、こんな風に守られた覚えがない。皆、俺に何かを求めてくるばっかりだったと思う。えっ俺今何の血縁もない無関係の人に母性感じてる? 

 

「安心してね、アシェルちゃん。レミちゃんには秘密にするし、こっちで対策を考えるから」

 

「……あ、ありがとう」

 

「いいのよ~。カル君にはこっちから連絡しておくわ、それでいい?」

 

「……はい」

 

 ……とりあえず、今日は乗り越えられた、かもしれない。少なくともこの人の家に匿ってもらえるなら今日の命は保証されたようなもののはず、だ。

 一旦今は、この相談が良い結果に繋がることを、ただ祈っておこう。

 

 明日には何が起こるか分からねえけれど……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「俺と……結婚、して、くれないか」

 

「起き抜けに何言ってやがんだテメエ」

 

 

 

 え、なになに? どういうこと? なにこの状況? 

 

 なんで目が覚めたら目の前にカルがいて──目覚めた瞬間にカルからプロポーズ受けてんだ。これプロポーズだよな? プロポーズで合ってるよな? 状況が状況なだけに確信が持てねえぞ。

 寝ぼけて変な夢でも聞いたか。まだ頭が起きてねえ。目の奥が重いし、ここがどこかも一瞬分からねえ。

 ああ、そうだ。ロエマの家だ。昨日レミのことを相談して、そのまま安全のためって名目でとりあえず泊めてもらって、カルにはロエマが連絡して……いや、待て。

 

「……カル? なんでお前がここにいんだ」

 

「……」

 

 おかしいだろ。ここはロエマの家だぞ。俺はレミから逃げるためにここに匿ってもらったんだ。なのに、なんで写本工房にいるはずのカルが、朝っぱらから俺の枕元に。

 しかも今こいつ、結婚って言ったか。顔真っ赤にしやがって。聞き間違いじゃねえよな。

 

 結婚。俺と。

 ……えぇ? 

 

「夢か? まだ寝てんのか、俺」

 

「……夢じゃない」

 

 ……待て待て。急すぎんだろ。展開が早すぎる。意味が分かんねえって。

 

 そもそも、コイツはなんでこんなこと言って来た? 

 俺に気があったのか? いつからだ、いつからこんな。俺がいようがいまいが、最初は完全に無視だったろ。

 いや、カルと仲良くなってる感じは確かにあった。いつの間にか向こうが俺のことを女として意識して、そういうこと考えたりしてたとしてもおかしくはねえ。昨日の出発前だっていい雰囲気だった気はするし、コイツの中で何か大きな転換点があって、そのせいでこんな行動にでちまった可能性はある。

 でもいくらなんでも急すぎないか? そこまでデカい変化が俺が寝てる間に起こったっていうのかよ。

 

 カル自体は……断られるのは分かってたって顔だが。

 いや、そりゃそうだろ。男にプロポーズされてんだぞ、俺は。体は女になっちまったが、頭の中身は何一つ変わってねえ。俺は男だ、ずっとそのつもりでやってきた。

 

「悪いけど、俺は……お前が思ってるような女じゃ」

 

「別に」

 

「は?」

 

「別に……そういうことを、してくれってことじゃ、ない」

 

 ……そういうこと、って? 

 

「キスとか、そういうのは……嫌なら、しなくていい」

 

「……は?」

 

「ただ……側に、いてほしいんだ」

 

 ……側に、いてほしい、か。

 

 いや、それ自体は助かる。別に俺だって夜の相手してほしいとか言われてたら普通に困ってた。

 でもそれなら、今と何が違うんだ。毎日同じ工房にいて、俺は受付に座って、こいつは奥でペン走らせて。暇だって言えば心配してきて、辞めねえって言えば安心した顔して。あれと何が違う? 名前がつくだけじゃねえのか。結婚なんて大層な名前が。

 

 何より、お前がそこまで必死な顔する訳が分からねえ。

 ただ何かメリットがある訳でもないのに、関係性の名前を変えることがそこまで重要か? それでお前に何がある。俺を好いていたとして、それならもっとゆっくり話を進める方が得策だろ。こんな博打みたいなプロポーズに打って出る必要性が理解できねえぞ。

 

「……その、返事は」

 

「待てって……ちょっと考えさせろ」

 

 ああクソ、どうすりゃいいんだ。

 俺は男だ。それは捨てねえ。捨てる気はねえ。納得なんて、これっぽっちもしてねえよ。

 急にこんなこと言われた理由もはっきりする必要がある。「今じゃないとダメだと思った」とか言われりゃ何も言い返せねえが。それに俺の安全をどうするのかって問題だってあるし。

 

 でも──こいつの、この必死さだ。普段あんなに何も言わねえやつが、こんなに言葉を絞り出して。断ったら多分、もう元には戻らねえ。今の暮らしも、あの工房も。

 それは……嫌だな。今の暮らしは、嫌いじゃねえんだ。むしろ、今までで一番マシだ。それを、自分から壊すのか。

 

「……今と、何かが変わるのか」

 

「何も。変わらない、ただ、結婚したってだけだ」

 

「じゃあどうして」

 

「……そうじゃないと、お前は、どこかへ行ってしまいそうだ」

 

 ……そんなことしねえって。

 

 いやでも、なんとなく分かった。

 元々コイツは俺にそこそこの好意を抱いてたんだ。それこそいずれ結婚するんじゃねえのぐらいの。

 そんな中、急にガラの悪いベラに絡まれて、そこから逃げるように……っていうかそのまんま逃亡。日が暮れたと思ったら、ロエマから急に俺が外泊するって聞かされるんで不安になった。俺がいなくなりそう、と思って焦りのあまりこんな唐突な距離感の掴めない暴挙に出た。

 だが、根底にあるのは本当に俺と一緒にいたいって願望だけ。俺の肉体にしか興味がないって訳じゃないから、必ずしも夫婦らしいことをする必要はない。関係が変わることはない。

 ただ、側にいてほしい。その確約として、結婚してほしい。

 

 俺は……その申し出を拒否して、今の暮らしを捨てるほど。

 コイツが嫌いって訳でも、ない。

 

「なら、まぁ……」

 

「っ、本当か!」

 

「ああおい! 仕方なくだっての!」

 

 そうだ。よくよく考えたら俺に建前上の夫ができるだけで、特にデメリットがない。

 メリットだってねえが、少なくとも今の暮らしに影響はない。俺が本気で嫌がればカルが手を出してこないってのは分かってるし、産みたくない子供を産む必要性だってない。

 妻になればより親身になって俺の悩みを聞いてくれるかもしれないし、それが対ベラや対レミの足掛かりになるかもしれない。

 次の人生で面倒になりそうではあるが、そもそも次があるか分からないから考えるべきじゃねえ。

 

 だから、まぁ、仕方なくだ。

 今まで通りでいいなら、少しぐらいは、いい。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 それから数年間の生活は──驚くほど充実したものだった。

 

「おはよ、カル」

 

「……その、おはよう、アシェル」

 

「ほーらいつまでも緊張してんじゃねえぞ。もう夫婦になってどれだけ経ったと思ってんだ」

 

「わ、悪い。そうだよな……よし」

 

 朝起きて、飯の支度をして、洗濯をして、ほつれた服に針を通す。最初の頃はほとんどまともにできなかった。慣れない調理器具で指を切るわ、洗い物は半端だわ、縫い目はぐちゃぐちゃだわ。それが今じゃ、何も考えなくても手が動く。盗賊の頃も、兵士の頃も、こんな暮らしとは無縁だったのにな。妙なもんだ。

 カルも変わった。昔は客が来るたびに俺の後ろに引っ込んでた、あの口下手が。今じゃ受付にも立つようになった。きっかけは、俺がレミを怖がってたことだ。俺が逃げ込めるように、自分が前に出るって決めやがった。相変わらず客とまともに喋れてんのかは怪しいもんだが、それでも、あいつなりに。

 

 おかげで、戸籍ってやつの上じゃ──俺はもうすっかりカルの妻になっちまった。

 あの日、ロエマの家で寝起きにわけの分からん求婚を受けて、紙の上で正式に夫婦になった。式も指輪もねえ。それでも、妻だ。何回考えても、変な感じだが。

 暮らしやすいよう、あの日のうちに工房はもっと広い建物に移ったし、俺が外に出ることはほとんどなくなっちまったが、それ以外は概ね同じ生活だ。

 

「今日は、ロエマさんが来るんだったか」

 

「おう。まあ俺が対応するし、お前は仕事頑張ってろよ」

 

「ああ……」

 

 朝、あいつが工房に降りる前。今日の天気がどうとか、注文がどうとか、何気ない話をすることが増えた。前はこっちが何を言っても「……」で終わってたのが、今じゃ向こうから言葉が出てくる。

 ちょっと注意してみてみれば、節々から「カルは俺のことを意識してた」ってのが少しずつ分かるようになってきた。

 なんだろうな、これは。距離が縮まったってことなのか。それとも、俺の方が無自覚にあいつを気にしてるから、そう見えちまうだけなのか。

 判別がつかねえ。前は、こんなこと考えもしなかったんだが。

 

 ……むしろ最近じゃ、少しぐらいは応えてやってもいいんじゃないかって思い始めてる。

 今の俺って、カルにずっと我慢させてる立場だ。家事はやってるとはいえ、今の俺は養ってもらってる身。あのプロポーズの時はとにかく驚いたが、今じゃ抵抗もちょっと薄れてきた。

 いきなりベッドに潜り込むなんてことはしないが、頬にキスぐらいなら……まぁ、してやってもいいかもしれない、なんて。

 

 ……どうしちまったんだろうな、俺は。

 体が女だから、意識までそっちに引っ張られがちだ。

 

「アシェルちゃん、こんにちは~」

 

「ん、ああ。今茶ぁ出すよ、ロエマさん」

 

 まあ、それでも。

 カルがいて、時々ロエマがやって来て、この暮らしがある。今までで一番、穏やかだ。

 

 レミにもベラにも、もう長いこと会ってねえ。

 あれだけ怖かったレミが、何故だかいつの間にか影も形も見えなくなった。店の位置が変わっちまったから、ベラの「後日伺う」も来ずじまい。

 タリエとの交流は一応続いてはいるが、結婚以降のあいつはどこか歯切れが悪くて、頻度もずるずる減ってきてる。ルシアやソラナのことも、こっちは今も進行中だ。ぶっちゃけ皆についてのことで進捗はまるでない。

 

 ……いくら店が変わったとはいえレミやベラが一切姿を見せないってのはちょっと不自然な気もするが。

 レミはともかく、ベラとはいずれ向き合うつもりでもあったんだ。ここまで姿が見えないと逆に不安になる。

 

「? どうしたの、アシェルちゃん? 何か気になることでもあった~?」

 

「ああいや、最近レミとベラを見ないなって……あっ、ロエマさんはベラのこと知らねえか」

 

「……あ~、あの人のことかしら。知ってるわよ~」

 

 ……ん? 

 

 えっ、そうなのか? 

 ロエマとベラに接点なんて……それこそ俺以外に、無かった気がするが。

 

「アシェルちゃん、カル君は良くしてくれる?」

 

「え? ああ、はい。すごく健全に、やらせてもらってるけど……」

 

「そう。やっぱり彼に任せてよかったわね~」

 

 ……待ってくれ。

 何か言い方が変じゃないか。

 彼に任せる? 俺とカルが結婚したのは俺達同士の意思によるものだよな? 「任せた」なんて、元々そこの裁量決める権利がロエマにあったみたいな言い方じゃないか。

 それに、レミやベラの話から、どうしてそんな方向に……。

 

「それよりアシェルちゃん。今日はちょっと相談がしたくて」

 

「……」

 

「最近雇ったメイドに手伝ってもらったんだけどね~……聞いてる? アシェルちゃん」

 

「え、ああ……」

 

「相談っていうのはね。アシェルちゃんのご両親についてなんだけど~」

 

 ……メイド。

 待ってくれ。ちょっと変な妄想が頭をよぎったんだが……もしかして。

 

 

 

 今の結婚は、ロエマが誘導したものだったり、するのか? 

 

 

 

 いや、でも、そんな、まさか。

 だが、そうだとすると色々辻褄が合う。

 

 カルがいきなり結婚を申し込んできたのはどうしてだ? いくら俺のことが不安だからって、俺のことが好きだからって、いきなり告白なんてするか? 誰かに唆された可能性が無いか? 

 ベラが来なくなったのはどうしてだ? アイツの執念は本当に腹の底が冷えるような思いがした。店の位置が変わったぐらいで諦めるか? 誰かが締め出している可能性が無いか? 

 レミが狙わなくなったのはどうしてだ? あの女があんな意味深なことを言っておいて、結果何もないなんてあり得ねえ。もしかして誰か他に仕えるべき理想的な主人が見つかったんじゃないか? 

 カルがすぐに工房の拠点を移したのはどうしてだ? 元の工房はロエマが貸していた場所。今の場所もロエマが貸している。もっと大きくて、頑丈な建物で、ロエマの完全な管轄下にある。

 

 カルは信頼できる男だ。例え誰かが目を離していたって、その間はカルが守ってくれるだろう。守るべき妻ができれば猶更だ。

 その間に、大事なものは手元の頑丈な箱に連れてきて、怪しい奴は追い出すなり、危険な奴は管理するなりすれば、その大事なものを守ることができる。

 

 ロエマはカルを──容易に誘導できる人間だ。

 

 カルの、俺に対する気持ちは──誘導されたものだったかもしれないのか? 

 

「アシェルちゃん、どうしてかいくら調べてもご両親の記録が出てこなかったの」

 

「……ぇ」

 

「で、アシェルちゃんにも身元を保証できる人がいるといいなと思ってね~」

 

 ……それは、そうだ。

 兵士の頃だってそうだった。ルシアが兵士の俺には親が存在しなかったって言ってた。多分、この現象自体がそういう存在なんだ。それ自体はどうでもいい。

 だって俺は今、カルのことが気になってるんだ。別にアイツの気持ち自体は嘘じゃねえだろうが、俺は本来やるべき進捗半ば放り投げる形で今の生活をしてるんだぞ。

 

 なのに、なんで、今その話を……。

 

「それで、私の親に『アシェルちゃんを養子にしてくれないか』って頼もうと思うんだけど、どう思う?」

 

「な、なんでそんなことを……?」

 

「なんでって……言ったじゃない。『お姉ちゃんがなんとかするから』って」

 

 

 

「妹を守るのは、姉の役目でしょう?」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「──それはちょっとやりすぎだと思う!」

 

「きゃっ!」

 

 はっ! 

 

 なんだこの柔らかい枕……!? なんだこのいい匂い……!? 

 ここは一体……? 俺は誰だ……? 

 

 ……。

 

 

 

 ……いつもの工房で、元王子のアシェル。

 

 ……またこれか!! 

 

 

 

「何か嫌な夢でも見たの? 凄い起き方したけれど~……」

 

「えっと……悪い、今どういう状況だった?」

 

「アシェルちゃんが眠そうだったから膝枕を……」

 

 ……そうだ。

 

 ………………そうだったか? 

 

 マズイ、何も思い出せねえぞ。

 確かに昨日は急ぎの写本があったから、カルに頼まれて一緒に夜遅くまで作業をやってたんだ。カルは慣れてるからいいが、俺はまだまだ未熟だから相当体力を使っちまって。明日はロエマが来るから早めに休もうとしたんだ。

 で、ロエマが来て、それを迎えて……。

 

 ……そこからどうしたっけ。

 

「カル君が『アシェルは疲れてるから』って言ってて、だからお休みさせてあげようとしてね~?」

 

「それで膝枕で爆睡しちまってたと……いや、悪かった」

 

「も~、いいのに~」

 

 なんてこった。じゃあせっかく来てくれた客人に俺は膝出させてたってことかよ。

 カルが気遣ってくれたのは嬉しいが、立場で言えばロエマの方が上なんだし、病気って訳でもないんだから叩き起こしてくれればよかったんだ。

 というか、今のは酷い夢だった。あんな夢見ないためにも是非とも叩き起こしてほしかった。

 

 思考が女の体に引っ張られ過ぎてカルの妻であることに違和感を感じにくくなってたし。平和な暮らしに染まりすぎてて仲間の行く末を確認するって目的を半ば放棄しちまってた。いくら怖いからって慎重になりすぎだ。

 そもそも俺とカルが結婚なんて……頬にキスぐらいは今でも正直別に構わないが、それにしたってちょっとあり得ない夢だった。

 

「どうして枕は良いのにあんな夢を……」

 

「ほ、本当に大丈夫? 膝じゃダメだった?」

 

「いや……」

 

 それに見ろよこの善意に満ち溢れた瞳を。

 対してお前が見た夢は何だ、アシェル? 夢の中のロエマは金で怪しい奴を管理し、戸籍やら職場やらを強権で無理やり操作して、俺の結婚相手まで自分で決めた上、妹扱いして合法的に囲い込もうとしてたんだ。親に養子にしてもらうよう頼むって、戸籍上でも無理やり姉妹になろうとしてたってことだし。

 そんなのやってることは倒錯した趣味の貴族と変わらねえ、失礼にもほどがあるだろ。

 

 俺ってもしかして、心の奥底じゃロエマにあんなこと思ってたのか? 

 現実のロエマは、妹のためだったらどんなことでもやるんじゃないかって? 

 そんなまさか……。

 

 まさか……。

 

 ……。

 

「……ロエマさんって、大切で壊れやすいものって……どう保管する?」

 

「えっ? ……う~ん、そうね~」

 

 

 

「奥の奥に押し込んで鍵をかけて、無事が保証できるまでは絶対取り出さない……とか?」

 

「……」

 

 

 

 ……まあ、守ってくれてるんだもんな。

 深く考えないことにしよう……。




A. レミはロエマを新しい主人に見据える。
  ベラはロエマの妨害でアシェルを見失う。
  カルとロエマは我が世の春を謳歌する。

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文章練習でまたいくつか後日談を書こうと思うのですが、需要ありますか?

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