【完結】俺は死んだはずだよな?   作:破れ綴じ

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タイトルが全て。
なんというあまりにも強引なIF分岐。

雑な仕事しやがって(´・ω・`)


Q. もし奇跡的に返り討ちにできていたら?

「かっ! 畜生がアシェル! 全員殺りやがってテメエ!」

 

「かはっ……ぐっ……!?」

 

「息の根止めてやる……! テメエのせいで計画は台無しだ!!」

 

 重っ……喉、潰す気か……!? 

 

 クソ、クソ、クソ……!! 

 結構良い感じだったじゃねえか! 偶然とはいえあの残党共を「残り一人」になるまで追い詰められてただろ! ふざけんなよ! 

 想定外なんざあの両家に持ち込む訳にはいかねえんだ! どれだけ必死にお前らをぶち殺したと思ってる! 残り一人殺せば終わりなのに、疲れた隙に絞め殺されて終わりなんて……そんな、そんな間抜けな話が……! 

 

 クソ、クソ、クソ……! 

 

「あばよアシェル! 地獄でボスによろしくな!」

 

「死……ね……! この……野郎!」

 

「何言ってるか聞こえねえよ、こ──ッの……?」

 

 ………………は? 

 

 

 

「──えッ。なん、だ、これ。なんで、俺の、腹から……」

 

 さっき蹴っ飛ばされた──俺のナイフが。

 なんで、コイツの腹に? 

 

 

 

「──アシェル兄」

 

「ぐ、がっ……! ネル、お前、コイツと組んでた……のか!?」

 

「うるさい。死ね」

 

「ごぷっ……!?」

 

 …………ネル。

 どうして、ここに。なんで、戻って来てる。

 今、助けられたのは分かったが、お前は、先に王都に行ったはずで。

 

 ってか、それよりさっき──「アシェル兄」って……。

 

「お、おい……ネル!」

 

「助けに来たよ、『アシェル兄』」

 

「……あ、お、おう」

 

 ……えっバレてる。

 

 やば、なんかバレちまってるぞ。

 いや、なんか危なそうな感じはしたが……い、今? 

 えっちょっ……どうしよう。すげえ形で看破されたんだが。

 とにかく、なんとか誤魔化し──

 

 

 

「──アシェル兄だよね。違うって言ったら刺すから」

 

「そうです」

 

 

 

 無理だ。なんか完全に確信してやがる。

 ここで違うっつったら、「じゃあ別人でいいんだね」で殺されちまう。

 

 ど、どうしようか今の状況。

 

 コイツは「アシェル兄」を嫌ってたはずだから、俺の正体がバレちまったのは正直問題でしかない。これまで信用しかけてた相手が因縁の実兄だって分かっちまったら、コイツに王都まで行ってもらう計画にまで支障がでてきちまう。

 それに俺はこのまま遺品を持って両家に捕まって、共通の敵として無惨に倒されるはずなんだ。ここで変ないざこざできちまって、もし両家の関係修復が失敗したらここまでの何もかもがおじゃんになっちまう。さっさと軌道修正して、コイツを追い返さないことには話が始まらね──

 

 

 

「──ごめんアシェル兄。アタシ嘘ついてた。アシェル兄のこと、大好き」

 

 は? 

 

「おま、何を……」

 

「だから一緒に逃げよ、アシェル兄」

 

「……んあ?」

 

 

 

 ……待て待て待て待て。どういうこった。

 ネルが? 俺のこと? 大好き? 冗談だろ、じゃあ今までの態度は何だったってんだ。

 い、いや。百歩譲ってあれが全部照れ隠しだったと仮定しよう。そんなことあり得ねえと思うが。そこからどうして「一緒に逃げよ」になるんだ。一緒に逃げちゃ計画が台無しで……。

 あっそうか。コイツは俺の本来の計画を知らないから、もし慕ってる相手なら一緒に逃げようって思うのは普通のことなのか。やべえやべえ頭が回ってねえ。首なんか絞めやがったアイツのせいだ。

 

 なら、今やるべきことはネルに再度同じ説明をして今度こそ王都に誘導することだよな。

 だよな、うん。俺はまだ用事が残ってるから先に行けって……。

 

 

 

「アシェル兄。王都に戻るつもりなんてないよね。そのまま捕まるつもりなんでしょ」

 

「おっとぉ」

 

「だからコイツらに濡れ衣着せて逃げよ、ね?」

 

「いやいやそれじゃ………………ん?」

 

 

 

「こいつら、ウチの残り物共でしょ。噂の遺品狙って来た、大馬鹿」

 

「えっと……ああ、そうだ」

 

「じゃあ、こいつらに遺品持たせて、押し付ければいいじゃん」

 

 ……何、だと? 

 それは……いや、確かに。

 

 なんてこった。ネルの言う通りだ。

 

 死体に遺品握らせて残してきゃ、アイツらは「犯人は盗賊団」「内輪揉めで全滅」って思う。両家は犯人討ったって納得する。俺が、死ぬ必要……なくなるじゃねえか。計画が、別の形で完成する。

 ……コイツ、盗賊の悪知恵を、盗むためでも、奪うためでもなく──俺を生かすために。

 マジか? 昔のお前なら、絶対こんなこと言わなかったろ。死体から金漁ることはあっても、誰かのために頭回すなんて。それが今、迷いもなく、俺を死なせねえための策、出してくるなんて。

 

「アタシ、もうアシェル兄がいなきゃ生きていけないから」

 

「……そんな、ことは」

 

「そうなんだってば。だから、一緒に行こ? もう、お宝とかいいから」

 

 ……ああ、クソ。

 

 覚悟、決めてたのに。これでいいって、納得してたのに。全部ひっくり返してきやがる……。

 どこからバレちまったかは皆目見当もつかないが、もうどう言い直したって取り繕えねえ。ここでネル以上の意見を思いつく自信も無いし、両家の捜索団が近づいている以上のんびり考えてる暇もない。

 それ以上に。腹違いとはいえ、肉体が違うとはいえ、一度はコイツの兄貴だった俺の身として──コイツの成長を、無視できねえ。無視したく、ねえ。

 

「……分かった。やるぞ」

 

「! ははっ、だよね! 知ってた。アシェル兄なら、当然そうするって!」

 

 ……ああ。

 そうだな。お前の兄貴なら、きっとそうする。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 あれから、何日経ったっけな。

 

「あー疲れた! あの親方、いっつも怒鳴ってさ。もっと丁寧に運べって」

 

「盗みよりマシだろ」

 

「……まーねー。追手が来ないだけマシか。アシェル兄だっているし」

 

「……」

 

 あの夜、ネルの言う通り死体に遺品握らせて逃げて。それっきり、追手の気配なんざ一度もねえ。そもそも俺達の存在は知られちゃいなかったが、両家もきっと「盗賊が獲物を奪い合って共倒れした」で片付けたんだろうな。狙い通りっちゃ狙い通りだ。

 リアンとマドリーが完全に和解できたかは分からねえままだが、とりあえず当初の目的は果たされた。しかも俺は無事生き残ることができて、ネルだってこうして安全に王都まで連れて来られてる。日雇いで食いつないでる身とはいえ、少なくとも俺は自由になったからソラナ達の安否を探るための時間も確保できた。

 

 できた、はずなんだが。

 

 ……なんで俺、まだここにいるんだ? 

 

「アシェル兄、これ食べる? アタシの分」

 

「お前が食え。荷運び大変だったんだろ」

 

「えー、でもアシェル兄の方が体使ってるじゃん」

 

「いいから食え」

 

 ……毎日これだ。

 毎日安い部屋で、安い飯食って、くだらねえ愚痴聞いて、寝て、起きて、また同じことの繰り返し。

 

 明日こそ出る。明日こそ俺はやることやる。そう思って、もう何日経った? 

 最初は指折り数えてたはずだが……数えるの止めたのはいつだったか。動かなきゃいけねえだなんて分かりきってんのに、どうしてか足が動かねえ。なんで明日明日って先延ばしにし続けてるんだ俺は。

 盗賊の頃は、危ねえと思ったら一秒でその場を離れられたはずの俺が。レミから逃げるためなら骨が折れたって走るだろう俺が。なんで今、こんなぬるい場所で、ネルと一緒にいるだけで満足しちまってるのか。

 

「アシェル兄、聞いてる?」

 

「聞いてるよ……っておい、止めろ。なんで匂い嗅いでる」

 

「んー、いい匂いだから。すっごく好きな匂い」

 

「汗臭いだけだろ。そんな勘違いされるようなことするな」

 

「勘違いしてくださーい」

 

 コイツもコイツで変なやつだな。

 いや……変、なのか? これ。変だって思う俺の方が、もう麻痺しちまってんのか。

 

 俺の正体が実兄だって気づいたのはどうしてか、今でもよく分かってないが……コイツが俺を慕ってたってのはどうやら事実らしい。前とは比較にならないほど距離が近くなったし、露骨に誘うような言動が増えてきた。

 今の平和で地道な暮らしを退屈そうに思ってるのがちょっと気になるが。それでも、俺を信じてこんな暮らしを続けてくれている。

 

 ……ああ、分かってる、本当は。

 コイツも、俺も。お互いがいなきゃ動けなくなってる。

 俺達は──共依存しちまってるんだ。

 

 ネルは俺がいねえと不安がって、俺がいるところにべったり貼りついて離れねえ。で、俺は俺で、コイツを独り立ちさせるべきなのに、一人にするのが心配だとか、まだ常識が足りねえとか、もっともらしい理由をいくらでも並べて見捨てられねえ。

 けど、そんなもん全部、後付けの言い訳だ。本当はこの状況から抜け出したくねえだけ。

 分かってる。痛いほど分かってる。分かってんのに──このぬるさが、嫌じゃない。それが一番たちが悪い。誰かと飯食って、誰かが隣にいて、それだけのことが、とにかく居心地いい。

 

「今日さ。外で女と話してたでしょ、アシェル兄」

 

「あ? ああ、仕事の依頼主だよ。大した話しちゃいない」

 

「ふーん……えいっ」

 

「おい、痛えって。なんだよ」

 

「……別に」

 

 なんだコイツ。機嫌でも悪いのか。たかが仕事の相手と喋ったぐらいで。俺がどっか行っちまうとでも思ってんのか。女と話してたら、そのまま消えるとでも。心配性なやつだな。

 いや、そりゃそうか。あの夜、目の前で俺が絞め殺されかけてんの、こいつは見てんだ。もう少しで俺が死ぬってとこを、間近で見ちまってる。そりゃ、ちょっと俺が視界から消えるだけでも、不安になるか。

 

「ほら、もう寝るぞ」

 

「うん。よいしょっと」

 

「近えって」

 

「でも、好きでしょ?」

 

 ……寝床が広くねえのも、多分共依存の原因なんだろうな。

 

 ネルは俺がいなくなるのが怖い。俺はなんだかんだ相手のことが気になる。だからお互いがいなくならないか常に気になってる。

 

「アシェル兄の心臓の音、好き」

 

「……そうかよ」

 

「明日も一緒にいてね、アシェル兄」

 

「どこにも行かねえよ」

 

 嘘じゃねえのが、たちが悪い。咄嗟に出た言葉だってのに、これっぽっちも嘘が混じってねえ。本心で、どこにも行かねえって言っちまった。

 

 動かなきゃいけねえのに。出ていかなきゃいけねえのに。やることが、やらなきゃいけねえことが、こんなにあるってのに。それでも、こいつを置いてどこかに行くって考えただけで、胸の奥が重くなる。

 明日も、明後日も、どうせ同じだ。明日こそって思って、また飯食って、また心臓の音聞かせて、また「どこにも行かねえ」って言っちまう。その繰り返しの先に、何があるんだろうな。

 

 ……いや、考えるのはよそう。今日のところは。今日のところは、これでいい。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「──おい、アンタ。もしかして、あの時の……兄貴の方か?」

 

「……あ、ああ、久しぶりだな」

 

 ……は? 

 リアン……だと!? 

 

 おいお前、なんでこんな所に……いやいや落ち着け、ここは王都だ。王都にリアンが来ちゃいけねえ理由なんざどこにもない。薬酒の売買でグロス家と組んでたんだし、商売の都合で来たって言われりゃ全く不思議じゃねえ。むしろ、こうして営業に来れてるなら、両家の関係は改善したってことだ。

 

 ……なんか痩せた気もするが、多分そうなんだろ。マドリーとは上手くやれてるんだよな? それで今は話題の薬酒の宣伝のために若い衆引き連れてこっちに来てるってことなんだよな? それならそれでいいんだが。

 問題は俺の方だ。ネル今は丁度休憩に出てていねえが、もしいたらどんなボロ出すか分からねえ。リアンの安否が確認できた以上、ネルが戻ってくるまでに急いでリアンを遠ざけねえと。

 

「ま、まあ元気そうで何よりだ。俺はちょっと用事が──」

 

「あ……あの、さ」

 

 ……引き留めないでくれ。

 何だよ急に。俺はさっさとお前から距離取らないといけねえんだよ。リアンと離れるのは心苦しいが、俺のためにもお前のためにもここは穏便に離れておくのが一番なんだ。要があるなら手っ取り早いのにしてくれ。

 

「……いや、その。変なこと言うけど」

 

「何だ?」

 

「…………」

 

 な、何だ。何を言い出すってんだ。

 実はいろいろあってマドリーとは上手くいかなかった、みたいなこと言うなよ? いや、俺にそんなこと伝える道理はないが、そんなこと聞かされたら俺は卒倒する自信があるぞ。せめて、ポジティブ寄りの発言であることを願っ──

 

 

 

「──アンタ、オレの……兄貴の、代わりになってくれないか」

 

 …………は? 

 

 

 

 ……おい、お前、今、何つった? 

 

「……何言ってんだオレ、忘れてくれ。自分でも訳分かんねえこと言ってる。ごめん」

 

「……待ってくれ待ってくれ、ちょっと……は?」

 

「だ、だよな、どうしたんだオレ。兄貴の代わりなんている訳ないのに、前に会った時から、なんだか兄貴みたいな感じがして……」

 

 代わり? 俺が? お前の兄貴の? 

 待てよ、冷静になって考えろ。お前と「今の俺」は一回日雇いの現場で会っただけだぞ。なんでそうなる。なんでいきなりそんな話になる。

 そりゃ、確かに俺はなんか適当な勢いで前世の内容入り混じった変なこと口にした可能性はあるさ。リアンだって、喋り方が似てるとか、あの時の言葉が忘れられないとか、そんな些細なもんにしがみつくしかないぐらい追い詰められてるのかもしれない。

 

「でも、でもオレ……やっぱり兄貴が、兄貴がいないと、兄貴がいてほしい……」

 

「ちょ……な、泣くなって! ああもう!」

 

 畜生、これも全部俺のせいなんだぞ。泣かないでくれ、本当に、頼むから。

 お前の兄貴は、ここにいるんだよ。お前が待ってる相手は、今お前の目の前に座ってんだよ。信じられないかもしれねえし、俺だってどうしてこんなことになってるか分からねえが、本当にそうなんだ。

 

 どうしようか、やっぱり告白すべきか。

 こんな状態のリアンを放っておくことなんて流石に良心が痛みすぎてとてもじゃないができねえ。ネルにだってバレちまったんだし、熱心に説得すりゃなんとか信じてもらえるかもしれない。元々、赤の他人が「リアンの兄貴」を主張しようもんならバレク家総出でボコボコにされかねないが、今の俺はリアンから「兄貴替わり」に思われかけてる。可能性がない訳じゃない。

 

 ネルだって分かってくれるはずだ。リアンは年だって近いし、今はしょげてるが普段はもっと活発で元気いっぱいの良いヤツだ。ここで関係を築ければ両家の現状だって聞きだせるし、マドリーとも交友を結べる。今の極貧生活からも解放されるかもしれないし、ネルだって嬉しいだろ。

 

 そうだ、よし、何をビビることがある。言うだけだ。俺がアシェルだって。信じてもらえるとか不安に思ってる場合じゃない。誠意を見せろ。全部俺から始まったんだ。ケジメをつけるべきだ。

 

「リア──」

 

 

 

「ぐっ──!?」

 

 

 

 ……え? 

 

「──リアン!!」

 

「……な、んで。オレの、名前……」

 

 何だ今の。背中から何か──刃物? 誰が。いつの間に。

 おい、倒れんな! 血が……さ、刺されたのか。おい、しっかりしろ! 

 おい……嘘だろ。おい、リアン、リアン! 

 

 

 

「──ただいま、アシェル兄」

 

 ……は。

 ネル。いつ戻って来てた。いつから聞いてた。いつナイフを……。

 

 待て、お前が……刺したのか? 

 

 

 

「や……やっぱ、オレの名前……は、はは、兄貴、兄貴な、のか……!」

 

「うるさい。死ね」

 

「止めろ!」

 

「なんで? コイツはアシェル兄を盗ろうとした。妹はアタシだけなんだから、ポッと出のガキに『兄』なんて呼ばせない」

 

「……っ!?」

 

 なんで、なんでこうなる!? 

 とにかく急いでリアンの血を止めねえと、近くに酒家の連中だって来てるはずだ、大急ぎで人を呼べばまだどうにでもなる。俺のせいでお前が死ぬなんてあっちゃならねえ。お前は成り代わりなんざできねえんだぞ。

 

「これでここにはいられなくなっちゃったね」

 

「それどころじゃないぞネル、急いで人を呼ばないと──」

 

「──だから一緒に逃げよ、アシェル兄」

 

「……待て、待て、待ってくれ」

 

 ……ああ、クソ。

 分かっちまった。分かりたくなかった。

 

 ネルは──あの夜と同じことをしてるだけだ。コイツはリアンの荒れた一面しか見てない。リアンを脅威だと判断したから、排除して、俺の手を引こうと、逃げようって言う。あの夜はそれで俺の命が助かった。判断は正しかった。

 でも今倒れてるのは敵じゃねえ。俺の弟だ。

 

 共依存だって自覚はあった。お互いがいないと動けなくなってるって、分かってた。でもそれが、こういう形で出てくるなんて思ってなかった。

 俺がどこにも行かねえって言い続けた結果が、これかよ。俺がぬるい場所を抜け出す気力を失くして、こいつの隣にい続けた結果が──これかよ。

 俺の言葉が、全部裏目に出てる。

 

「あに……あに、き……」

 

「知ってるよ。アシェル兄なら当然そうしてくれる、でしょ?」

 

 ……明日こそ、なんて言ってる場合じゃなかったんだ。

 とっくに手遅れだったんだ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ……夢で良かったよ本当に。

 

「……で? 何があった?」

 

「ネルが転んで、運んでた薬品が全部貴方に降りかかったの」

 

「俺が意識を失ってた理由は分かった。で、ネルは?」

 

「あそこで正座させてるわ。リアンに見張らせてる。相当ご立腹よ」

 

「流石だぜマドリー」

 

 ……そうだ。

 

 そうだった。

 

 俺は成長したネルの仕事ぶりを見に来たんだった。ここにはよく来てるし、様子を見に来るたびにネルもリアンも……多分マドリーも喜んでくれる。最近じゃ少しずつ仕事も増えて、給料も増やしてもらってるってネルが言ってたから、マドリーもなんだかんだ認めてるんだろうな……って感慨深くなったりして。

 で、気紛れで土産を持ってきたらアイツが思いっきり余所見して……あー。

 

 そこから先の記憶が無いってことはそういうことだな。

 俺の登場に浮かれちまったネルが偶然薬を運んでるって重要なに夢中だったもんで、中身を全部俺にぶちまけちまったと。マドリーが何も言ってこねえあたり本当に危ない薬じゃないのかもしれねえが……こりゃ俺のタイミングが悪かったな。

 

「本当にごめんなさい、アシェル。この責任は管理者の私にあるわ。なんでも言って頂戴」

 

「別にいいって──」

 

 ──「わーかってんのかテメー!! ネルに兄貴の弟を名乗る資格はねー!」

 

 ──「リアンだって余所見してたじゃんか! あとアタシは妹ですー!」

 

「反省してないみたいねあの馬鹿……」

 

「まぁ、うん……」

 

 にぎやかでいいことだよ。さっき見てた夢に比べればずっと。

 

 にしてもさっきの夢は本当に最悪だった。あんな目覚めの悪い夢はレミに首絞められた時以来だ。俺が死ぬのはまだいいが、俺のせいで他の誰かが死ぬところは本当に見たくない。皆は何も悪くないってのがそれに拍車をかけてて最悪だ。

 ネルとの距離感も兄妹として絶対に健全じゃなかったし、あの暮らしを続けてれば面倒が起きたのは目に見えてる。リアンだってまるで立ち直れてなかったし、あの様子じゃマドリーもヤバそうだ。

 

「ほら、アシェル。貴方からも叱ってあげて」

 

「そうだぞ兄貴! だからあの土産はオレだけに渡すべきだ!」

 

「リアン! 抜け駆けは──」

 

「──ネル?」

 

「はい」

 

 土産なんざ好きに食えばいいのに……。

 

 何より、ネルのタガが完全に外れちまってるのが危なすぎる。妹のポジションを取られたくないからって即殺しの考えが頭に浮かぶのは盗賊時代の慣習がまるで抜けきってない証拠。あの共依存状態はネルの感情を「排斥寄り」に持っていく危険なものだったんだ。

 そう思えば今の、マドリーがネルを押さえつけてる構造はすごくいいのかもしれない。あんな惨劇に陥ったのは俺がネルに入れ込みすぎて、俺自身排他的な傾向に陥ってたからだ。今のこの環境なら、ネルはきっとあんな危険な思考に突っ込まない……はず。

 

 だから……。

 

「じゃあ、ボスにこってり絞ってもらってくれ。マドリーが見てくれるなら安心だから」

 

「アシェル……! ふふ、そうね、任せて。期待には応えて見せるわ」

 

「えっ、えぇーっ!? アタシが悪かったけど……庇ってくれないの?」

 

 悪いなネル。いつもなら庇ってたんだがな。

 いくら身内だからってあんまり贔屓しすぎるのはよくないって身を以て知ったばかりなんだ。俺のわがままを許してくれ。

 

 

 

「なあ兄貴! オレは! オレは何すればいい! 何でもやるぞ!」

 

「土産食ってろ」

 

 ほれ、あーん。




A. リアンは死ぬ。
  マドリーは燃え尽きて表に出てこなくなる。
  ネルだけは絶好調。本編よりも絶好調かも。

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お気に入り・評価・ここすき等も、可能であればぜひお願いします。大喜びします。

文章練習でまたいくつか後日談を書こうと思うのですが、需要ありますか?

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