【完結】俺は死んだはずだよな?   作:破れ綴じ

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そばに現れ立つというところから、そのヴィジョンを名付けて……!(`・ω・´)


Q. もし焼死を選んでいたら?

「──いやでも自殺は駄目だッ!」

 

 駄目だ、圧死は無し、その選択肢はもう無しだ! 

 

 冷静に考えてもみやがれ。俺は元々転落死って形で全身ぐっちゃぐちゃになって死んでるはずだろ、圧死なんて選択肢選んでも死に方は結局ほとんど同じ、そうじゃねえのか。

 同じ死に方が二度は駄目だってんなら、圧死を選ぶのだってリスキーなことに変わりようはねえ。自分から死にに行くのが駄目かもしれねえのに、わざわざ分かり切った二重のリスクを踏みに行くほど今の俺に余裕はねえだろ! 

 

「ッ……クソ熱いな畜生が……!」

 

 なら残ってんのは焼死だけだ。

 よりにもよって、酒家の頃に一度それで焼けて死んでるが、それでもまだこっちよりは可能性がある。少なくとも、俺が自分から死にに行ったという事実はなくなるはずだ。

 同じ死因だと次が来ねえかもしれねえ、本当にそこで打ち止めかもしれねえ。そんなことは分かってるが、他に行き場所はないんだ。窓は熱で歪んで全部開かねえ、扉は外から封鎖されてる、戻ろうにも道はとっくに火に食われてる。どこをどう逃げ回ったって、行き着く先は結局この熱の中だ。

 それしか残ってねえんだから、文句のつけようもねえ。

 

 そもそも本当に同じ死因だと次が来ないのか、それだって事実なのかどうか怪しいぞ。

 一度でも確かめたことがあったか? ねえよな、一回もねえ。ただの仮説、ただの思い込み、根拠なんざ最初からどこにもなかった。

 だったらだ、ここでいっそ試してみるってのも、立派な手なんじゃねえのか。やってみなきゃ永遠に分からねえままなんだし、確かめてやるって考えりゃ、これは別に追い詰められてるわけでも諦めてるわけでもなくて、れっきとした検証だ。そうだ、検証。前向きな話じゃねえか、むしろ。

 

「……はっ」

 

 ……何が検証だ、何が前向きだ。覚悟が決まらねえだけのくせに、それっぽい言葉でくるんで自分を騙してるだけだろ。

 自分が一番分かってる。崩れかけの天井の下に立つだけ、ほんのそれだけのことができなかった。立てる機会はあったはずなのに、足が一歩も前に出なかった。俺には自分から死にに行こうって勇気が無かった。

 覚悟ってやつが、結局俺には端から備わってなかったってだけのこと。それだけのことだ。

 

 だから俺は、今から焼け死ぬことを選ぶしかねえ。

 もし圧死を選んでれば、写本師の時と同じ死に方って判定されて次がないかもしれねえ。それだけは絶対に御免被る。

 もし自殺が駄目だとするのなら、どちらにせよ次はないってことだ。焼け死ぬのを待つ以上、自殺と変わらない気もするが、少なくとも自分の意思で死地に行くのとは訳が違う。

 もし次があるとするのなら、それはそれで大きな発見だ。同じ死に方が二度あったとして、別に次の人生は問題なく存在する、その説が立証できる。今後の人生にだって大きく役立つはず……。

 

 ……これで終わるのに「今後」の人生ってのも変な言い方だな。

 この人生はここで終わるんだから次の人生だろ、なんで俺はずっと「自分の人生を終えたくない」って思って現実から目逸らしてんだ。覚悟が足りねえ俺が悪いってだけなのに、わざわざ来世でも死にに行くことを想定してるのだって気持ち悪い。

 

「ごほっ、けほっ……」

 

 どっちにせよもう駄目だ。前も後ろも横も、全部火で塞がってやがる。今更圧死が良かったなんて駄々こねようがどうしようもねえ状況まで来ちまった。

 妙だな、ここまで来るとなんも考えられねえくせに、変なとこだけ冷静だ。諦めがついたっていうのか、薄々もう駄目だって分かり切ってるから、次が無くてもいいやって思い始めてんのか。

 思えばずっと妙なことの繰り返しだったな。死んだはずなのに生き返るって、そんな夢みたいなことばっかりで……その末路が結局これ。でもまぁ他の皆がある程度無事だってことは確認が取れた訳だし、ヴェインだって始末したからソラナに危害が及ぶことも無い。

 

 だから、正直ここで終わっちまってもいい。

 次の人生があるに越したことはないが、それでも、俺は……。

 

 

 

 あっやっぱこれ駄目かも──

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ……俺は死んだはずだよな? 

 

 ……よし、大丈夫、意識はある。成り代わりは発動したってことだ。杞憂だった。

 天井が見える、いつも通りだ。知らない天井が見えて、ここがどこかも分からなくて、何回目かの人生が──

 

『……いや、待て』

 

 おかしいぞ。

 この天井、知ってる。見覚えがある、なんてレベルじゃねえ。つい最近ここにいた記憶があるぞ。光の射しこみ方とか、薄暗い雰囲気とか、ちょっとくぐもった空気感まで、全部覚えがある。

 

 ここは……。

 

 

 

 ……ソラナの部屋だ。

 

 

 

 何だこれ。なんで成り代わり先がソラナの部屋なんだ。こんな偶然あり得るか? 

 いやいや、そりゃおかしいだろ。成り代わりは別人の体に入る。前の人生のどこかに放り込まれるんじゃなくて、全く新しい体で、全く知らない場所で目を覚ますのが毎回のパターンだ。なのに、俺が今いるのは見覚えしかない場所で、天井の染みの位置まで一致してる。

 なんだ、これ。どういうことだ。

 

 そうだ、俺の体はどうなってる。偶然の可能性があるってんなら俺の体を見れば──

 

『……何だ、これ』

 

 何かがおかしい。手は見えてる。でも感覚が曖昧っていうか、自分の体がどこにあるのか掴めねえっていうか。

 これまで何度も知らない体に入ってきた。毎回最初は違和感があった。でもそれは「馴染んでない」って感覚であって、「体そのものが薄い」って感覚じゃなかったはずだ。

 っていうかさっきから声もおかしい。出るっちゃ出るが、こもってるような、壁の向こう側から喋ってるような……反響が変だ。何だこれ、気持ち悪ぃ。どうなってんだ今の体は……。

 

「アシェルさん! め、目が、覚めたん、ですね……?」

 

『……え?』

 

 ……ソラナ? 

 え、は。ソラナの声……だ。間違いない。

 

 えっでも……おかしいだろ。成り代わりなら俺は別人の体にいるはずだ。ソラナの部屋にいるのは百歩譲って良いとして、ソラナからすれば知らない顔の知らない人間のはずだろ。

 なのに「アシェルさん」って名指しで呼ばれた。成り代わったのに前の名前で呼ばれるなんて、今まで一度もなかった……はず、なのに。

 

 

 

 ……成り代わりが起きてない? 

 

 

 

 俺はあの屋敷で焼死を選んだ。圧死の覚悟ができなくて、転落死と同じ判定になるかもしれねえって怖くなって、自分から死にに行く勇気もなくて。消去法で焼死しか残ってなくて。同じ死因だから次が来ないかもしれないって、分かった上で受け入れた。

 あの炎の中で、もう駄目だって思って、最後の最後に「あっやっぱこれ駄目かも」って──

 

「あ、あの……び、びっくり、してますよね。そ、その……じ、順番に、せ、説明、しますから……」

 

『お、おい、ソラナ。何を説明するつもりだ。俺に何が起きたんだ』

 

「アシェルさんが、し、死んじゃった、のは……す、すぐ、分かったんです。反応が、き、消えて……だ、だから、急いで、現場に……」

 

 反応? が消えた? 

 ……よく分からねえが、それは要は俺が死んだってことだよな。

 で、死んだのにこうってことは……。

 

 ……駄目だったのか。

 本当に。マジで駄目だったんだ。

 俺は、成り代わりに失敗して……。

 

 ……じゃあ、今のこの状況は何だ? 

 

「そ、それで! 死体を、持ち帰って……蘇生を、ためして……な、何度も、何度も、失敗、して……」

 

『……何度もって』

 

「数えきれない、ぐらい……で、でも、ど、どうしても、あ、諦められなくて……や、やっと成功、して……!」

 

 ……そうか、そういうことか。

 

 じゃあ、俺は結局死んじまったんだ。同じ死因での成り代わりは認められなかった。

 だが、俺のことを心配したソラナがなんとか死体を引きずり出して、この場に運び出し、蘇生の呪いを成功させて、今の俺を魂だけの存在──つまり幽霊として生き返らせることに成功した。

 元々ソラナが蘇生をしようとしてたことは文官の俺の死体を見たからよく分かってる。あの時は結局できずじまいだったが、今はもうそこそこの時間が経ってる。俺という丁度いい研究材料もとい前例が現れちまったおかげで、ソラナは遂に禁忌まで実現できるようになっちまったと。

 ……そういうことに、なるのか。

 

 ……嬉しいような、困るような。

 いや嬉しいな。どっちかっつったら嬉しい。本当は今頃意識すらなく死んでたってことになるんだし。

 鏡、鏡はどこだ。とりあえず自分の姿を確認しねえと。

 

『……映ってねえな』

 

 ソラナの部屋は映ってる。机も、本も、壁も。

 でも俺だけがいない。ここに立ってるはずの場所に、何も映ってない。

 机は……おい嘘だろ、通り抜けたぞ。本だって持てやしねえ。本当に綺麗さっぱり魂だけになってやがる。

 

『ソラナ。俺は今、お前以外の誰かに見えてるのか?』

 

「み、見え、ない……と、思います。わ、私の、呪いで、つ、繋ぎ留めてる、だけ、ですから……」

 

『お前から離れることは』

 

「で、できない……と、思います。別に、そんな必要、な、ないかなって……」

 

 そんな必要って……。

 

 いやでも……そっか。お前はそうだよな。

 お前にとっちゃ、俺がここにいるだけで十分なんだ。体があろうがなかろうが。触れようが触れまいが。映ろうが映るまいが。お前にとっちゃ、そんなことはどうでもいいんだ。俺がいるだけでいいなら、俺を遠くに行けるような蘇生をする意味もない。

 俺は、他の誰にも見えない……お前の隣をふわふわ漂い続けるだけの背後霊になっちまった、と。

 

『……』

 

「……アシェルさん?」

 

 でもよ、ソラナ。お前はまだこの教会の中にいるんだ。

 ヴェインは俺がやった。あの化け物はもういない。だがこの組織はヴェイン一人で回ってた訳じゃねえ。他の幹部も、信者も、仕組みも、全部まだ動いてる。お前はまだ、この中に囚われてる。

 

 で、俺はお前から離れられない。お前にしか見えない。お前としか喋れない。

 体はないが、頭は複数回の人生で使ってきた。全部まだ俺の中にある。

 使い道がない、なんてことはねえはずだ。

 

『ソラナ、この体について、もう少し色々教えてくれ』

 

「……はい! よろ、喜んで!」

 

 なら、今の俺にできることをもっと知っておこう。

 覚悟もできずに焼け死んで、成り代わりすら起きなくて、幽霊として無理やり引き戻された俺に、これ以上立派な役目があるとも思えねえ。それでも、一つだけやれることがあるなら。

 

 せめてコイツだけは、ここから出してやる。

 当初の目的通り、このクソ組織から、ソラナが無事抜け出せるよう──俺が導いてやるんだ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ……それがどうしてこうなるかねぇ。

 

「──以上が、き、今月の、報告、です」

 

『おう。まあまあ無難にまとまってんな。三ページ目の献金の数字だけちょっと多すぎるから、もうちょい適正な額に落とした方がいい。信者を絞りすぎると足元すくわれるぞ』

 

「そ、そうですね、分かりました! あ、あと、南部の支部から、連絡が……」

 

『ああ、あれな。放っとけ。あっちは勝手にやらせときゃ自滅する。手を出すだけ損だ』

 

「は、はい……!」

 

 何やってんだろう俺。

 教祖の参謀って何だよ。幽霊の参謀って何だよ。

 

 

 

 思えば遠くまで来ちまったもんだ。

 最初は──ソラナをこの教会から脱出させるつもりだった。コイツを外に連れ出して、まっとうな暮らしに戻す。それが俺の役目だって、覚悟を決めたはずだった。

 

 なのに何がどうなった。

 ヴェインを殺った後、あの野郎が占めてた最高幹部の座が空いた。ここまではいい。問題はその後だ。空いた椅子を巡って教会の連中が牙を剥き始めやがった。

 ソラナは幹部とはいえ、おどおどしてるし押しが弱い。権力争いの煽りを食って潰されかねなかった。だから、敵対しそうな奴が先に潰れるよう誘導した。あいつの弱味をソラナの耳に入れて、コイツの派閥の内部対立を煽って。こりゃ一体どの人生で積んだ経験だ? こんなとこで役に立つとは思わなかったが。

 で、気づいたらソラナが最高幹部に収まってた。潰す相手がいなくなったら、残るのはソラナだけだったんだ。当のソラナは「え、わ、私が?」って顔してたが。俺だって気づかなかったよ。

 

 ここでやめときゃ良かったのかもしれねえ。

 でも、つい他の仲間たちのことが気になっちまった。ルシアは、タリエは、ベラは、リアンは、マドリーは、カルは、ロエマは、ネルは、レミは……まぁ別によかったが。教会の外にいる皆が、無事なのかどうかって。

 確認したかった。でも幽霊の俺に直接何かできるはずもねえ。教会の力を使うしかなかった。情報網を動かすには権限が要る。権限を得るにはもっと上に行くしかない。もっと上に行くには邪魔な連中をまた潰すしかない。

 

 その繰り返しの果てに、教祖との対決まで辿り着いちまった。

 幽霊が一匹ついてるだけのおどおどした幹部とはいえ、こっちには呪いの力がある。あっちは教会の頂点に何十年も君臨してたとはいえただの耄碌した権力欲の成れの果てでしかない。勝負の結果は明白だった。

 おまけにこの教祖ってのは信者に滅多に姿を見せない。実態なんざほとんど誰も知らねえ。だから、ソラナがそのまま団体を乗っ取っても周囲にまるで感づかれなかった。こっちには呪いなんて目に見えて便利なものがあるから、疑ってかかってきた貴族を使えば信者達へのデモンストレーションだってできる。

 拍子抜けするぐらいあっさりと──ソラナは教会の頂点に立っちまった。

 俺はそんな教祖サマの参謀役であるおつきの幽霊だ。意味分かんねえ。

 

 おかげで、皆の無事は確認できた。

 教会自体を掌握できたから、手を出さないように指示しとけば危ないことはもうない。

 誰かが極端に危ない状況に置かれてるって可能性は、全部潰せたはずだ。

 俺ってアドバイザーの才能あったのかな。こんなつもりじゃなかったんだけどな。

 

「ア、アシェルさん。お、お茶、入れましたけど……」

 

『……おう、ありがとな。湯気の立ちあがりを楽しんどくぜ』

 

「え、えへへ……」

 

 コイツはこうだ。

 教祖の威厳を纏って信者の前に立った五分後に、部屋に戻ってきたらこれ。味も香りを楽しむこともできない茶を淹れては照れる。何も変わっちゃいねえ。

 おどおどしてて、押しが弱くて、でも芯のところでは折れなくて。教祖になっても相変わらず「アシェルさん」で、相変わらず俺の隣にいるだけでほわほわしてやがる。

 俺がいるだけで嬉しそうにする。体がなくても、触れなくても、映らなくても。ただ隣にいる、それだけで。

 

 脱出させるはずだった。ソラナをここから出して、まっとうな暮らしに戻すはずだった。なのに今じゃ教会のトップだ。脱出どころか、教会そのものがコイツの手の中にある。目的と結果が完全にひっくり返ってる。

 考えてみりゃ大失敗もいいとこだ。コイツは俺を蘇生させるっていう大躍進を果たしたのに、俺はといえば当初の目的を果たすこともなく自分が確認したいから、危ない目は摘んでおきたいからって遠回しに助言だけして間違った方向に誘導し続けた。

 

 でもこっちだってよくよく考えてみりゃ危険はない。

 ソラナは勿論、他の誰だって脅かされない。それどころか仲間全員の無事が保証できるよう根回しだってできる。教会に蔓延る悪の根や、貴族の癒着、信者からの搾取も徐々に規模を縮小させていけば、王国自体を豊かにすることだってできる。

 

「アシェルさん。き、今日も、お疲れ様、でした……」

 

『お疲れさん。お前もな』

 

「え、えへへ……ア、アシェルさんに、そう言って、もらえると……が、頑張れます……!」

 

『……そうかよ』

 

 体はない。触れない。映らない。ソラナ以外の誰にも見えない。声もかけられない。仲間の無事は確認できたが、そこに俺がいたことは誰も知らない。

 でもコイツは俺がいるだけで笑ってくれる。俺の言葉で動いてくれる。俺がいることに、意味を見出してくれてる。何回もの人生の果てに辿り着いたのが、ソラナの背後霊。冗談みてえな結末だが──悪かねえのかもしれない。悪くねえって、思い込んどこう。

 

 ……これも、一つの幸せな終わり方なのかもしれねえ。

 ちょっとだけ、寂しいけどな。

 

 まあ、いいか。

 明日もソラナの隣で、飲めない茶の礼でも言ってやるとしよう……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「本当に催眠なんてあるんですね……」

 

「そうだな。なんだかいけないことをしている気分だが……」

 

「じゃ、じゃあこの辺りで……はい! お、起きてください!」

 

「はッ!」

 

 な、なんだ!? 

 俺は幽霊で、それこそウィスプ達みたいに睡眠なんてとらないはず。ああ、茶が飲みた……。

 

 ……ん? 

 

 

 

「アシェルさん! え、えっと……どうですか、記憶はありますか?」

 

 

 

 ……そうだ。

 

 そうだった。

 

 俺は催眠体験のデモンストレーションをしてたんだった。

 ソラナと俺が「呪い」についての明らかに意味不明な会話してたところをタリエとベラに聞かれちまったから、それの言い訳をするために「ソラナが催眠術を勉強してる」ってことにして、お披露目会をすることになったんだった。

 俺はてっきり、そういうフリをすればいいんだと思って、ただ椅子に座って催眠をかけてもらったんだが……。

 

「……す、すげぇ。ここ十分の記憶が綺麗にねえ」

 

 ……ヤベエ。

 これマジの催眠……っていうか、そういう「催眠状態にする呪い」だ。んなもんまであるのか。

 

「ほ、ほら! すごい、ですよね?」

 

「凄いですよ! 記憶がないってことは意識が催眠下にあったってことで……!」

 

「……アシェルが言うなら事実なのだろうな。実際、ずっと虚ろな目をしていた」

 

 てことは、あれか。俺、椅子に座ったままボーっとした目の状態で放置されてたのか。なんか拷問みたいだな。

 二人の様子を見るに……完全に信じきってる。っていうか、フリも何もこれ事実だったからな。少なくともソラナが「呪い」なんてものに手を染めたって事実は知らないまま、「ソラナが趣味の範疇で催眠術を嗜んでる」って程度の認識には置き換わったってことでよさそうだ。

 

「先輩、気分に変化はありませんか? もう一回やるのはキツイ、みたいな」

 

「いや? 本当に、一切変化は感じないな」

 

「くすぐられている感覚はあったか? 一切笑わなかったからおそらくそうなんだろうが」

 

「そんなことしてたのか? 全く感じなかったぞ。マジで?」

 

「や、やろうと思えば、アシェルさん側を、動かすことも、できますよ……!」

 

「マジで?」

 

 すっげえ高性能。そうか、くすぐりか。そりゃ笑い出さなきゃ意識が飛んでる証明になるか。体をまさぐられても何も気づかないあたりこれ相当だな。

 しかも俺の方から自由に動かせると。催眠前に下準備と称して色々されたから簡単にはできないんだろうが……やろうと思えば公衆の面前で思いっきり奇行に走らせることもできるって意味だよな。逆らえば社会的死亡もあり得なくないと。

 ソラナお前もっと誇っていいよ。パワフルな超常現象じゃノエリスに分配が上がるけど、胡散臭い超常現象ならダントツでお前の精度がぶち抜いてるよ。口裏合わせとかじゃなくてマジで全く気付かなかったし。

 

 それにしても……催眠中でも夢って見るもんなんだな。

 

 あの夢は……中々新鮮、というか新しい感じだった。なんてったって俺が完全に死亡する夢だもんな。今までにないパターンだ。ノエリスも言ってたし、本当にあそこで圧死を選ばなかったら俺は幽霊になってたかもしれねえのか。

 一応あのままでも皆の平和は守れたかもしれないが……ただ、あの未来だとソラナを結局教会から引き離せてないってことと、ノエリスが独りぼっちのままだってことと、エリザベト達とは敵対関係にあるって問題が残ってるな。俺も幽霊よりかは、色々楽しめる今の体の方が良いし。圧死を選んだ選択肢は間違ってなかったというべきか……。

 

 どちらにせよソラナ様様だな。

 コイツがいなきゃどの未来でも詰むことは確定だった訳だから。俺達の中じゃ間違いなく一番可能性秘めてるって言っても過言じゃない。

 

「──流石ソラナだな。お前みたいな後輩がいてくれて、俺は誇らしいよ」

 

 

 

「(……ソラナ、アシェル側の行為は指定できるのか? どこまでできる?)」

 

「(えっと……アシェルさんにできることなら、おそらくなんでも、です……!)」

 

「(じゃ、じゃあもう一回先輩に催眠をかけてみますか? 今度は長めで)」

 

「……ソ、ソラナ? というか……三人とも、何の話してるんだ?」

 

 え、急に俺を省かないでくれよ。気になるじゃないか……。




A. アシェルは死ぬ。
  ソラナは昇進する。
  ノエリスとの整合性を保つため、アシェルは二度死ぬ。しかも幽霊で。

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文章練習でまたいくつか後日談を書こうと思うのですが、需要ありますか?

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