【完結】俺は死んだはずだよな?   作:破れ綴じ

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そんな訳はないんですが一応IFなので(´・ω・`)
ちょっと矛盾していそうな気もしますがまぁ多分大丈夫でしょう(暴投)


Q. もし病気が一過性のものだったら?

「あぁー……」

 

「病気、治ってよかったね」

 

「ホントだぜ。人間の体の適応力ってのは凄いもんだな」

 

「キミは人形のはずだったんだけどなー」

 

 

 

「解析は済んだよ。条件も全部分かったし、ボクでも再現できそう」

 

「ほ、本当か! 教えてくれ!」

 

「イヤだね。教えたらキミは外に出ようとするでしょー」

 

「………………」

 

 

 

「なぁ……そろそろ一年経つぜ。いい加減教えてくれても……」

 

「ふぅん? 眷属のくせに、自分の立場が分かってるのかなー?」

 

「に、逃げないって……次はあるのかだけ教えてくれれば」

 

「教えないでーす。我慢してくださーい!」

 

 

 

「今日でキミが来てもう二十年だね。まだ外に出たい?」

 

「……もういいよ。王国も、滅んじまったし。今更外に出ても……な」

 

「……ボクのこと恨んでる?」

 

「まさか。じゃなきゃこんな場所で、二十年も一緒にいないさ……」

 

 

 

「キミもそろそろ寿命、か。ニンゲンの命ってのは儚いね」

 

「でもボクはもっとずっと一緒にいたいんだ。また独りは……もう考えられない」

 

「……そうだ! あの魔法を使えばいいんじゃない? それならずっと生きられるはず」

 

「そうと決まれば……あれ、どんなだっけな」

 

「あっ暴発しちゃっ──」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ……にしても、いつ見ても窓の外の景色が飛んでくのは慣れねえな。

 

「キミ、窓にへばりついてないでこっち見なよ」

 

「うるせえ、久々なんだから見させろ」

 

「何百年も生きてるくせに子供みたいだねー」

 

「『今の体』じゃまだ十年ぐらいなんだって」

 

 前の体が山奥の集落だったんだよ。こういう乗り物に乗る機会がまるでなかった。

 この「電車」って乗り物が何かは知ってるが、前の体じゃ一度も乗ってねえから、窓の外の景色が飛んでく感覚が体に馴染まねえんだよ。頭は「ああ本で読んだアレだ」って言ってるのに、腹の底が「速え」って騒いでやがるってだけ。

 成り代わりってのはそういうもんだ。記憶は全部持ち越せるが、体の経験値はゼロに戻ってる。何百年分の知識を持った初心者。それが成り代わるたびの俺だ。

 

 

 

 そう。

 俺は死亡と成り代わりを繰り返し、ノエリスと共に──数百年近くを生きている。

 

 

 

 ノエリスの結界の中で『老衰』で死亡した俺は、ノエリスから新たに「成り代わりの魔法」をかけられて、新しく成り代わった。

 死因を毎回変えなきゃいけないのは同じらしいが、新しい「成り代わりの魔法」には俺の位置を特定する魔法が仕組まれてて、成り代わった直後にノエリスが追跡できるようになってるらしい。

 

 隣のコイツはもう完全に今の発展した世界に慣れきっちまってて、手のひらに収まるあの光る板をいじりながら平然としてやがる。俺だってアレの使い方は知ってるが、前の体で触ったことねえから指が覚束ねえ。こういう差が毎回毎回地味にきつい。

 

「次で降りるからね。準備しといて」

 

「分かってるよ」

 

 で……問題は、この「電車」って乗り物を降りた後だ。

 改札? ってやつ。前の体じゃ使ったことがねえ。仕組みは分かってるし、流石に今の体で初めてじゃないが、まだ慣れない。

 前の時もここで詰まって後ろに列作っちまったんだよな。あの時はノエリスに引きずり出されて、帰りの分も全部代わりにやられた。何回目だよこのパターン。

 

「貸して」

 

「いや、今度こそ自分でやるぞ」

 

「キミが詰まると後ろが渋滞するんだよ。前もそうだったでしょ……ほら、こう」

 

「……おう」

 

「ま、次の体になったらまた忘れるんだろうけど」

 

 忘れねえよ。

 忘れねえが、次の体の手が覚えてるかは別問題なんだよ。

 ここ数世代で発展しすぎなんだ、ずっと前の時代から生きてきた俺が慣れないのはおかしいことじゃないだろ。

 

 コイツにはこの感覚が一生分からねえんだろうな。ずっと同じ手で、ずっと同じ足で、何百年も歩いてきた魔女には。体が変わるってことの不便さが、根本的に理解の外にある。

 まあ、だからこそ毎回毎回こうやって付き合ってくれてんだろうけどな。文句言いながら。

 

 

 

 都会っていうヤツの空気は前の体の頃とだいぶ違う。

 前の体は山奥だったから、空気が冷たくて薄くて、夜は星がやたらよく見えた。こっちは人が多い分だけ空気が重たくて、夜は明るすぎて星なんか見えやしねえ。三つ前の体は都会にいた気がするが、流石に前過ぎて覚えてねえし、その都会も今と比べてここまで発展してなかった。

 でもこの騒がしさが嫌いかって言われると、そうでもねえ。何百年も色んな場所で色んな体をやってきたが、結局どの環境にもそれなりに良いところはあるんだよな。

 

「あそこの店は去年できたんだよ。結構美味しいらしいけど」

 

「お前ほんとに詳しいな」

 

「キミが今の環境で色々やってる間、暇なんだよ。街を歩くぐらいしかやることないしー」

 

 俺が色々やってる間、か。

 それもそうだよな。逐一別の人間に成り代わったところで、そこの人間関係を全部放棄して生きていける訳でもない。金だって稼がなくちゃいけねえし、家族がいるのならそれを見捨てることだってできない。

 仕事をしてる時間、学校に行ってる時間、人付き合いで出かけてる時間。ノエリスが関与しない時間はどうしたって存在するんだ。

 その間にこうやって街歩いて、新しくできた店を覚えて、時間潰してたのかと思うと──なんっつーか、ちょっと申し訳ねえな。コイツにとっちゃ、俺とずっと一緒にいたいのに邪魔な「ニンゲン」がいる訳だから。

 

「ここにしよ。入って」

 

「カフェだな。この体で入るのは初めてかもしれねえ」

 

「ほらメニュー。電子パッド制だから、先に好きなの選びなよ」

 

「おう……これはどうやって選ぶんだ?」

 

「まだスクロールに慣れてないのかい?」

 

 んなこと言われたって。

 手でつかむ場所がないから分かりにくいのは当たり前だろうが。

 それにこのメニューも……半分ぐらい何が何だか分かんねえぞ。

 名前から中身が想像できねえのがいくつかある。前の体でこういう店に縁がなかったせいだ。

 

 何百年分の記憶を持っててもな、直近の体でやってねえことは感覚として鈍るんだ。五つ前の体ん時はこの手の店によく通ってたから全部分かったんだが。流石にその頃の常識は通用しねえし。

 

「……お前が選んでくれ」

 

「眷属の癖に主に選ばせるの? ま、いいけど。キミの好みはボクが一番知ってるしねー」

 

「好き嫌いは中々変わらねえからな」

 

 一番知ってるってのは多分事実だ。

 何百年分の俺の好みを全部覚えてんじゃねえかってぐらい、コイツの選択は外れたことがない。死んで体が変わるたびに味覚も微妙に変わるってのに、それすら考慮してくるからな。

 新しい体になるたび「今回の体は甘いの好きそうだね」とか「辛いの平気な体だ」とか、俺より先に俺の味覚を把握してやがる。怖いっちゃ怖いが、助かるっちゃ助かる。何百年もこうしてきたんだ、今更どうこう言う気にもなれねえ。

 

「南の方にまだ行ってない場所があるんだよね」

 

「お前が行きたいなら付き合うよ」

 

「当然。眷属なんだから。親御さんの許可は取ってね?」

 

 何百年もこの繰り返しだ。

 成り代わるたびにノエリスが迎えに来る。どんな場所に飛ばされても、コイツだけは必ず見つけてくる。で、前の体の後始末をして、新しい体に馴染むのを手伝って、また二人で歩き出す。

 

 行き先に大した意味はねえ。ノエリスが行きたい場所に付き合うこともあれば、俺が気になった場所に寄ることもある。目的のない旅。でもそれが、もう何百年も続いてる日常で、これからも多分ずっと続く。

 仲間は全員とっくにいなくなった。ルシアも。タリエも。ベラも。リアンも。マドリーも。レミも。カルも。ロエマも。ネルも。ソラナだって人間だ、魔女みたいに何百年も生きちゃいない。

 残ったのは俺と、こいつだけだ。

 

「……ん? あの看板……」

 

「どうしたの?」

 

「……いや。昔の知り合いの名前を見かけて」

 

 ──バレク。

 

 ……まだ残ってんのか、あの名前。

 リアン。お前が継いだ酒家の名前が、数百年経ってまだブランドとして続いてやがるのか。お前自身はとっくにいなくなったのに、お前が作った酒だけはこんな形で生き延びてるぞ。

 多分俺が継いでりゃあの家の名前は残ってなかっただろうな。なんか、変な気分だ。嬉しいのか寂しいのか分かんねえ。多分両方だ。

 

 ノエリスはこういう時に何も聞いてこない。黙って隣にいるだけだ。何百年も一緒にいると、この間の取り方が分かってくる。コイツは、もう存在しない俺の仲間達にも、新しくできた俺の人間関係にも全く興味はないからな。

 

「お、ノエリス。あっち見ろよ、すげえデカいの吊ってるな」

 

「工事現場だね。最近あの辺り、再開発してるみたいだよ」

 

 へえ……工事現場。

 そうなんだよな、俺の生まれた時代にこんなデカい機械は無かったし、建物を作る時は基本人の手だったはずだ。前の山だらけのド田舎じゃあ見る訳も無いし、それ以上前の人生だと……ギリギリ見た覚えがあったかなかったか。

 鉄骨ってあのぐらいあんのか。あんなのが落ちてきたらひとたまりもねえな。

 そういうことを覚えてねえあたり、その辺は社会の方が発展したってことなんだろうけど。

 

「……ねえ、アシェル」

 

「ん?」

 

「あれ、落ちてきたら結構すごいことになるよね」

 

「……まぁ、そりゃそうだろ」

 

 

 

「次の死因、あれにする?」

 

 

 

 ……何百年も、こうやって死因を選んできた。

 コイツの口から出てくる「次の死因」って言葉に、もう何の違和感もない。

 最初の頃はさすがにぎょっとしたが、何回も聞けば慣れちまう。慣れちまった自分がどうかと思わないでもないが、まあ何百年も一緒にいるってのはそういうことだ。

 

「……圧死は前にやったろうが」

 

「あれは瓦礫でしょ。鉄骨は初めてじゃない?」

 

 屁理屈こねやがって。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「──クソ、まだ追ってきてやがる!」

 

 ああ最悪だ! 何回かに一回あるとんでもない修羅場に飛ばされちまった! 

 

 何百年も生きてりゃこういう回もあるってのは重々承知してるが、それにしたって今回はハズレがすぎるだろ。目ぇ開けた瞬間に銃声が聞こえて、気づいたら組織の連中に追い回されてて、何が何だか分からねえまま走ってる。

 成り代わった先がどういう人間だったのかなんざ考えてる暇もねえ。分かってるのは、こいつは相当恨みを買ってたってことと、俺にその尻拭いをする余裕が一切ねえってことだけだ。

 

「──アシェル、こっち!」

 

「! ノエリス、来てくれたか!」

 

「角曲がるよー!」

 

「おう!」

 

 やった! 

 間に合った! 

 

 こうして危ない目に突っ込むことは多々あるが──それでもノエリスがすぐ見つけてくれるのは本当に幸運だ。不幸中の幸いっていうか、今回は不幸が強すぎる気がしねえでもないが。

 こいつは追跡魔法で俺の位置を常に把握してるから、成り代わった直後に駆けつけてくれる。到着した時点でもうこの有様ってのはアレだが、まあコイツを巻き込んだところで心配は要らない。見た目はこんなんだが中身は何百年も生きてる魔女だ。銃弾の一発や二発じゃどうにもならねえ。

 問題は俺の方だ。こっちはただの中年の体で、膝がもう笑い始めてやがる。

 

「……ちょっと距離取れたか?」

 

「多分ね。でもそんなに持たないよ」

 

 だろうな。

 息を整える間に状況を整理しねえと。

 

 まず──あいつら銃持ってた。何丁か分からねえが、少なくとも二発は聞こえた。

 

「なあノエリス、銃ってさ」

 

「うん。だいぶ前に使ったよねー」

 

 やっぱりか。銃殺は経験済み。何回目の人生だったか、具体的な回数なんざとっくに忘れたが、銃で撃たれて死んだことがあるのは間違いねえ。あれは確か──いや、もう覚えてねえな。百年以上前のことだ。体も場所も名前も全部忘れた。

 けど「銃で死んだ」って事実だけは記録に残ってる。ノエリスの方が正確に覚えてるだろう。あいつはこういうのを一つ残らず把握してやがるからな。

 

 ってことはだ。このまま追いつかれて撃ち殺されたら、同じ死因で死ぬことになる。刺されて血ぶちまけるのと、鉛玉で血ぶちまけることのなにが違うかは分からねえが、まぁそれでも銃殺はかつて使えるタマだった。今は無理だ。

 同じ死因は駄目だ。次が来なくなる。何百年も繰り返してきたこのサイクルが、ここで途切れちまう。それだけは避けなきゃいけねえ。

 

「逃げ切れると思うか」

 

「難しいんじゃないかな。この体、あんまり足速くないし。キミ、めちゃくちゃ息切れてるよ」

 

「……自覚はある」

 

 成り代わった先の体の性能に依存するのが毎回辛いとこだ。

 盗賊の時みてえに身軽な体だったらとっくに撒けてるんだが、今回の体は明らかに運動不足の中年で、走るどころか早歩きですら怪しい。しかも腰が痛え。なんだこの腰。前から悪かったのか。運動不足か? 

 

「ボクの魔法で片付ける?」

 

「やめとけ。こんな街中で派手にやったら別の面倒が増える」

 

「前にもそう言ってたよね。百五十年前ぐらいに」

 

「覚えてんのかよ」

 

「ボクは全部覚えてるよー。キミと違って」

 

 ……敵わねえな。

 俺は体が変わるたびに感覚がリセットされるし、古い記憶ほどぼやけていく。でもコイツはずっと同じ頭で、全部覚えてる。俺が忘れたことも。俺が覚えてないことも。全部。

 

 いや今はそんなこと考えてる場合じゃねえ。

 問題は……今この状況をどう打破する、か。

 

 選択肢を整理しよう。

 逃げ切るのは体力的に厳しい。ノエリスの魔法は街中じゃリスクがでかすぎる。隠れたところであいつらは組織の人間だ、この辺の地理は把握してるだろうし、監視の目だってあるかもしれねえ。

 

 仮にここを切り抜けても、この体でまともな生活を送れる保証なんざどこにもねえ。人間関係は始まってすらいないし、楽しむ余裕もねえ。何より──このまま生き延びたところで、次にいつ同じ死因で殺されるか分からねえリスクが付きまとう。銃が蔓延してる環境で、組織に追われてる体で、銃殺を避け続ける生活。冗談じゃねえ。

 逆に言えば人間関係の清算や色々楽しむ予定がそもそもねえから後腐れないってメリットがあるが。

 

 何百年もやってきた中で、こういう緊急脱出が必要な回は何度かあった。まともに生活もできねえまま、条件も何もなく即座に死を選ぶ回。ハズレ中のハズレ。

 でも、慣れた。こういう時の判断にはもう迷わねえ。迷ってる暇があったら切り替える。それがこれまでで学んだことだ。

 

「ノエリス、今回は無理だ。このままじゃ銃で死ぬ。切り替えよう」

 

「……だよね。ボクもそう思ってた」

 

 こいつは分かってる。何百年も一緒にやってきた相棒だ。俺が「切り替える」って言ったら何を意味するか、説明なんざ要らねえ。

 

「今回は短かったねー」

 

「ああ。過去最短かもな。目ぇ開けてからまだ数時間経ってねえんじゃねえか」

 

「三時間ぐらいだよ」

 

「大差ねえよ」

 

「前に似たようなのあったよね。成り代わった先が海賊で、船の上で目開けた瞬間に嵐だった時」

 

「……あったな、そんなの」

 

 あのときはなんとかノエリスが引き上げてくれたが、俺の意識が危ないってんで凍らせることにしたんだったか。確か溺死はその四回前くらいに経験してたし、溺れじぬって選択肢は選べなかった。

 そうだ。何百年もやってりゃ、こういう話がいくらでも出てくる。笑い話にするにはちょっと物騒だが、二人の間じゃもう日常の一コマだ。

 

「惜しいとか思わない?」

 

「何が」

 

「今回の体。まだ何もしてないのに」

 

 ……まあな。何もしてないどころか、逃げてただけだ。この体が何歳で、何が好きで、どんな人生送ってたのかすら知らねえまま手放すことになる。

 でも、しょうがねえだろ。このまま撃たれて死んだら全部終わりだ。何百年分の旅が、こんなところで止まっちまう方がよっぽど惜しい。

 

「いや? 次の体がもっとマシかもしれねえし」

 

「マシなハズレって何。ハズレはハズレでしょ」

 

「ハズレにも程度ってもんがあんだよ。追われてない体ならそれだけでマシだ」

 

「あはは。キミの基準、だいぶ下がったよね。昔は結構文句言ってたのに」

 

「何百年も同じ文句言ってらんねえだろ」

 

 ……さて。

 覚悟はとっくにできてる。何十回もやってきたことだ。目を閉じて、ノエリスに任せて、次の体で目を開ける。それだけのことだ。

 最初の頃は毎回怖かった。今はもう手順の一つでしかねえ。怖いとか悲しいとかじゃなくて、ただの切り替え。終わりじゃなくて、中断。一時停止して、再生ボタンをもう一回押すだけ。

 

 ま、なにはともあれ。

 自殺が魔法に影響しなくてよかったよ。

 

「──じゃあ」

 

 

 

「今回の死因は何にする?」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「……なんだ今の」

 

「いや……まさかボクもこんなものが見えるとは思わなくて」

 

「俺、普通にバンバン死んでたよな」

 

「招待したのがキミだけで良かったよ……」

 

 ……そうだ。

 

 そうだった。

 

 あんなの見りゃ全員卒倒するわ。

 

 今日俺は、ノエリスに招待されてコイツが泊ってる宿に来てたんだ。なんでも「いつもみたいに『窓の魔法』をかけようと思ったら急に暴発して未来の映像が流れ始めた」とかなんとかで。珍しいから見に来ない? なんて誘われて……。

 得意じゃない魔法は時間がズレることがあるって前に聞いた覚えがある。それで未来の映像が映っちまったと。窓の魔法は初めてじゃねえだろお前。

 

 というか……未来、だ? 

 

「あれはマジに起こる未来なのか?」

 

「……どうだろう。こんなの初めてだしボクも断言できないかも」

 

 じゃあ今見てたのは全部、これから起きるかもしれねえことだっていうのか。

 始まり方が元とは違ったから厳密には別の世界軸の話なんだろうが……将来的に俺は何度も何度も死と再生を繰り返して。何百年も経って、知らねえ乗り物に乗って、知らねえ街を歩いて、仲間が全員いなくなった世界を二人で旅して。

 最後には──「今回の死因は何にする?」、と。

 

 あの映像が本当に未来になるなら、俺はこれからノエリスと何百年も一緒にいることになる。何十回と死んで、何十回と蘇って、その度にノエリスが死因を選んで、俺を殺して、また迎えに来る。

 仲間は皆、寿命でいなくなる。当然って言えば当然だが……残るのは俺と、こいつだけ。

 

「ねえねえアシェル」

 

「何だよ」

 

「キミ、ずっとボクと一緒にいてくれるんだねー」

 

「……何が『ねー』だ」

 

「ボク嬉しいなー。キミはボクの傍をずっと離れないってことでしょ? 眷属の鑑だねー」

 

 いや……まぁ、別に……そうかも、しれないが。

 いやしかし、俺は相当驚いたぞ。

 確かに老衰で一回死んだ後はもう一生を生きることになるって覚悟はしちゃいたが……別に死因を繰り返せば、その後も永久に生き続けられるってのは盲点だった。確かにそうすればノエリスは一人にならないし、できることならやってやりたいが……何回か相当辛そうな死に方もあったぞ。

 

 声が弾んでるあたりお前は相当満足だったんだろうな。未来の映像を見てショック受けるどころか、確定情報貰ったみたいに喜んでんだし。

 俺が何十回も死ぬ映像見てそれかよ。ご主人サマとして失格じゃねえ? 

 

 

 

「それにさ、みんないなくなってくれるんだね」

 

「おいお前」

 

「だって邪魔じゃん。別に皆のことが大事なのはキミであって、ボクにはどうでもいいんだもの」

 

 

 

 ……こいつは。

 分かっちゃいたが、改めて面と向かって言われるとドン引きだぞ。コイツが俺を独占したがってんのは今に始まったことじゃねえし、仲間のことを邪魔だと思ってんのも薄々知ってたが。

 でも「助かるなー」はちょっと……笑顔で言うのがまたちょっと……。

 

「ねえアシェル、ボク達の未来って素敵だねー」

 

「……素敵かどうかは俺の基準とだいぶ違うけどな」

 

「でもキミ、映像の中で楽しそうだったよ? ボクと一緒に電車乗って、ごはん食べて、笑ってたじゃん」

 

 ……言い返せねえ。

 確かに、あの映像の中の俺は楽しそうだった。ノエリスと二人で、何百年もの旅を、それなりに楽しんでるように見えた。

 分かっちゃいたが──映像で見せられると、なんか妙な気分だな。こいつと何百年も一緒にいる未来。仲間が全員いなくなった世界。死因を選びながら生き続ける日々。

 

「……ノエリス」

 

「なーにー?」

 

「お前と一緒にいるのは、まあ、別にいいよ」

 

「うんうん」

 

 

 

「でも皆とはもっと仲良くしようぜ。かわいい眷属の頼みじゃねえか」

 

「えー」

 

 こいつ絶対やらねえな。




A. 王国及び物語に関連するありとあらゆるものは滅びる。
  アシェルは二度どころじゃない回数死ぬ。
  ノエリスは我が世の春を謳歌する。

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文章練習でまたいくつか後日談を書こうと思うのですが、需要ありますか?

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