【完結】俺は死んだはずだよな?   作:破れ綴じ

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今更ですが、活動報告はこちらで行っています。
今後の作品や投稿日時の目安にどうぞ(´・ω・`)


Q. もし色々偶然が重なったら?

「兄上、流石に護衛が少なすぎるのではないか? もっと連れて行け」

 

「そうか? ならそうする」

 

 

 

「初手で、あ、怪しい人を、呪い殺しましょう! 時短、です!」

 

「なにを……! ソラナ様、ソラナ様ーッ!」

 

 

 

『アシェル! ちょっと早いけど助けに来たよ!』

 

「な、なんだあのデカいトカゲはーっ!」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「えー……それでは、兄上」

 

「ああ。じゃあこれから、『どうやって俺を王位継承第一位から引きずり下ろすか』の会議を始める」

 

 ……改めて口に出すと、なんて議題だよこれ。

 

 

 

 こんな、王城奥の、広い部屋借りて。

 錚々たる面子を集めて。それでやることがこんな会議だってんだからおかしな話だ。

 

 エリザベトと俺、アシェルことアシュレムが主催し、参加者はタリエ、ベラ、リアン、マドリー、レミ、カル、ロエマ、ネル。そこにあの貴族との戦いで突如として現れ敵をどんどん呪い殺していったソラナと、同じく突如として現れ俺を背中に乗せて戦場から逃がしてくれたノエリス。

 王城の一室で行う訳だし、正規の兵士かつ相当の実力を持ったルシアが部屋の前で番をしてくれてるが……そのルシア以外仲間全員がここに集まってる訳だ。

 なのにこれって。

 

 普通、王族が人を集めて開く会議ってのは「どうやって王位を勝ち取るか」を話すもんだろ。

 なのにうちは真逆だ。どうやって今の立場から逃げ出すかを、こんな大真面目な面子で話し合ってる。我ながら世界一情けない議題だと思う。

 

「なんで引きずり下ろすの? ボクの眷属がニンゲンの頂点でよくない?」

 

「会議に参加する気がねえなら黙ってろ」

 

「眷属だよね……?」

 

 ……しかし、どうしてこうなったんだ。

 

 いや、原因は全部分かってる。

 俺はただウッド侯爵の元領地に向かう、そんな簡単な仕事をするだけの予定だったんだ。そこで襲われて……そっから先が全部予想外だった。

 

 本来は追い詰められるはずのとこが、出発前にエリザベトの忠告で護衛を増やしまくったせいか、互角に渡り合えちまった。相手を殺しちゃならねえってのが厳しかったが、それでもまるで押されることなく長いこと持ちこたえちまった。

 しかも、突如ソラナがやってきては敵貴族のトップをバッタバッタと呪い殺していくわ、急にデカいトカゲの姿で乗り込んできたノエリスが俺を背中に乗せて連れ去って行くわ……。

 

 おかげで今や俺は、腐敗貴族の一派と戦って生き延びた勇敢な王子でありながら、同時に御伽噺の伝説の生き物を従えて空を飛んだ英雄サマ扱いになっちまった。

 教会に騙されたタリエとカルを真っ先に解放したってことで慈悲深い要素まで追加されて、国民からの人気が鰻登り。人気投票じゃないって分かっちゃいるが、それでも「アシュレム以外あり得ない」なんて地盤が一瞬で出来上がっちまった。

 

 実際の俺は本物の王子じゃねえ。

 成り代わりの偽物で、本音を言えばただ隠居したいだけの元盗賊だ。王としての責務を果たすだけの実力も無いし、エリザベトこそ王の器だってのに、このままじゃ王位を渡せねえ。

 

 だからこうして、こんな変な会議を開くことになってるんだ。

 ……やっぱりなんで? 

 

「じゃあ……辞退を申し出るのはどうですか。『自分は王の器ではない』と、公の場で表明すれば」

 

「却下だタリエ。王族にそのような自由は許されない。そもそも、エリザベト派が裏で圧力をかけたと勘繰られるだけだ」

 

「……ベラの言う通りだ」

 

 ……いや俺はその辺の事情知らねえけど。

 

 普通に辞退する、あるいは自分から戦いを降りるってことはできない。

 あれだけの英雄が、何の理由もなく自ら身を引く……どう考えても不自然すぎる。そんなことすりゃ、敵対するエリザベト派が勝ち目を失ったから脅してるんじゃないかって噂が立ちかねない。いざエリザベトが王位に立てたところで、本人の評判が落ちるんじゃ意味がない。

 

 しゅんとしてるタリエには悪いが、お前の案が悪いんじゃねえ。状況がややこしすぎるだけなんだ。

 

「で、では……びょ、病気ということにして、長期療養に入る、というのは……?」

 

「それも難しいわね。一度襲撃を受けたばかりの王子が、今度は病で倒れた。そうなれば誰もが暗殺を疑うわ。そして真っ先に疑われるのは、王位を争っていたエリザベト殿下。火種を撒くだけよ」

 

「そもそも病気ならお前に頼ればいいからな」

 

 今の俺はマドリーと知り合いってことになっちまってる。

 病気相手なら王国有数の薬家の令嬢が手を尽くすだけ。それができないってことは病気じゃないってことを認める……つまり、仮病だってことを認めるってことだ。

 俺が表向き倒れて得をするのは誰かって話になりゃ、真っ先にエリザベトに矢が向く。コイツを王にするための偽装なのに、コイツの足を引っ張ったら本末転倒。

 

 縮こまってるソラナよ、お前も悪くねえからな。こんな面倒な状況にしちまったのは俺のせいだから……。

 

「スキャンダルを起こして人気を落とすのはどうかしら。女遊びがひどいとか、賭け事に溺れてるとか~……本当はそんなことないんだけどね?」

 

「無意味です。ドラゴンを従えた英雄のスキャンダルなど、むしろ『英雄にも人間味がある』と好意的に消費されるだけかと。一度根付いたこの種の人気は、多少の醜聞では崩れません。下手をすれば親近感が増します」

 

「バッサリいくなぁお前」

 

 見ろよあのロエマの顔。

 ロエマだって俺のこと「女遊び」だの「賭け狂い」だの言いたくなかったと思うぞ。

 

 しかし、巷での俺の人気はもう本物だ。何をやっても株が上がる仕組みになってるし、下手に落そうとすることが良い方向にも悪い方向にも動きかねないって危険性は理解してる。

 もはや呪いだろこれ。俺の成り代わりよりよっぽどタチの悪い。

 

 ああロエマ、そんな目でこっち見ないでくれ。せめてレミを睨むとかにしないか? 

 

「……いっそ、正体を明かすってのはどうだ。俺が本物の王子じゃねえ、成り代わりの偽物だってことを」

 

「『私は死んでも別人に成り代わる存在で、今の兄は中身が別人です』などと公表して、誰が信じる? 混乱を招くだけだ。それどころか……最悪、私が王位欲しさに狂言を仕組んだと思われかねん」

 

「だよなぁ……」

 

 ぐうの音も出ねえ。本当に出ねえ。

 

 成り代わりなんて、ここにいる連中が信じてくれたのが奇跡みてえなもんだ。レミやマドリーやエリザベトが保証してくれて、ようやく信じてもらえた。それを国民全員に信じさせろなんて、できる訳がねえ。

 どう考えても俺は王の器じゃないのに、どんどん「俺を王にしろ」って方向性の事実ばっかり出てきやがる。どうしろってんだこれ。

 

 会議の雰囲気も変な感じだ。皆黙り込んじまってるし、誰も次の案が思いつかねえ。

 ここで最適な案を出せないと、エリザベトが王になれず、この国は結局滅んじまう。

 だがどうしたってこうも状況がずっと詰んでやがんだ。

 何か、何か他にいい案は……。

 

 

 

「……兄貴が王様でいいんじゃねーの?」

 

 ……は? 

 

「えっだよね! アシェル兄が王様ってなんかカッコいいし!」

 

 ……おい? 

 

 

 

「ま、待て待て二人とも。それだとこの会議の意味がねえじゃねえか。もっとよく考えろ」

 

「……別にここまで人気なんだし。兄貴なら意外と上手くやれそうな気もするぜ?」

 

「いや普通にできるでしょ。アシェル兄、お城の金庫は開けておいてね!」

 

「裏切りやがったなお前ら」

 

「ほらやっぱりこれでいいんじゃん。大人しくニンゲン共を治めてやりなよ」

 

「ノエリスは物知らずだからそんなこと言えるんだ」

 

「えっひどくない?」

 

 ……マズイ。

 リアンやネルがこの話題になんとなく賛同しなさそうなことは察してたが、会議の流れがそれを後押ししちまってる。リアンは俺が偉くなることに抵抗がないし、ネルは別の目的のおかげで反対する気配がねえ。

 というか、そういう発言されることが一番マズイかもしれない。一回そういう空気感ができちまったら、会議の流れ全体がそういう方向性に流れかねない。皆黙ってるのも、「良い案が思いつかないから」じゃなくて「反論する意味があるのか悩んでるから」になっちまう。

 

 ……おい皆、本当にそんな顔しないでくれよ。

 きっと探せば他にも色々方法は見つかるはずなんだ。考えればきっといつかは正解が見つかるはずなんだ。諦めないでくれよ。「リアンとネルの言う通りかも……」みたいな顔しないでくれ。「アシェルが王様……別に悪くないな」みたいな顔しないでくれ。「えっこれなんの会議だった?」みたいな顔しないでくれ。

 このままじゃ真面目に考えようとしてるのが俺とエリザベトだけになっちまう。

 

 なんで俺が、自分を王座から引きずり下ろすために、ここまで必死にならなきゃいけねえんだ。普通、逆だろ。世継ぎ争いってのは座りたいヤツが足を引っ張り合うもんだろうが。

 ああクソ、俺の人生こんなのばっかりだな。死んでも逃げられねえと思ったら、今度は人気がありすぎて逃げられねえときた。生きてても死んでても袋小路かよ。

 

「……兄上。どう、しようか」

 

「丁度俺もそう言おうとしてたところだ」

 

 どうしようか、エリザベト。

 俺もう次の手が見えなくなってきたよ。

 

 

 

「ふふん。アシェルが偉くなればその主人のボクはもっと偉くなるってことだよね?」

 

「ルシア! このバカ主人つまみ出せ!」

 

「了解アシェル! ちなみに私は、アシェルは兵士になるべきだと思うわ!」

 

「えっちょっやめっ引っ張らな──」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ……本当にどうしよう。

 あんなに時間かけて、会議が終わってもこうして部屋でずっと考えてるのに……マジで何も思いつかねえ。

 

「兄上、一度休憩だ。ゆっくり話し合おう」

 

「そうだなエリザベト……俺もう良い案が思いつかねえ」

 

 ……どうしてこうなっちまったんだ。

 俺は意を決して自分の秘密を仲間たち全員に打ち明けるって一大イベントを成し遂げたはずじゃないか。全員の無事を確保して、ソラナもこうして戻って来てくれたじゃねえか。エリザベト最大の障害である教会の幹部共もなんだかんだあって全員死にやがったじゃねえか。

 なんでこうなるんだ。なんで一番の障害が俺になってるんだ。誰がこんな状況にしやがった。そいつは間違いなく頭がおかしい。

 

 エリザベトだって困ってるじゃねえか。

 本当はどう考えてもコイツが王の器だったんだぞ? 俺の虚像なんかにいきなり横取りなんてされていい人間じゃない。国を想う気持ちも、それを成すための能力もコイツが一番最適だってのに。

 さっきの会議にルシア入れるべきだったかな。ルシアならエリザベトを王にするために必死に考えてくれるはずだからな。タリエやベラやマドリーやレミに思いつかなかったことをルシアが思いつくかどうかは分からねえが。

 

 ……最悪の手段としては。

 教会と繋がってたどこぞの貴族をもう一度焚きつけて俺にぶつける……とかか。

 

 俺は急に表舞台から消えられないのは、疑いの目が全部エリザベトに向いちまうからだ。

 だから、俺は──あの貴族にとっとと捕まって、そこで死んでおけばよかった。

 そうすれば、もう競争相手は存在しない。世論は同情票としてエリザベトに集まっていく。俺を殺した貴族を討てば盤上は完全に支配したも同然だ。

 俺はそれができなかった。護衛とソラナとノエリスに助けられちまった。

 

 だから、マッチポンプでもいい。

 もう一回俺が死ぬような状況まで追い込まれれば、そのまま偽装死に持ち込める可能性がある。

 幸い、マドリーがくれた薬がある。あれを一気飲みして副作用で仮死すれば、俺の命はそのまま俺が死んだと社会にアピールすることができるかもしれねえ。

 犯人が教会絡みの貴族ならエリザベトが差し向けたと思われる可能性は薄い。実際俺には狙われるだけの理由があるんだから。俺が「辞退する」状況を造り上げることができる。

 

 さっきの会議じゃとても言えなかったが、この方法なら、いずれは……。

 

 

 

「……もう、兄上が王でも、いいのかもしれない」

 

 

 

「っ!? げほっ、え、げふ、かはっ……!」

 

「きゃっ!? ……え、あ、だ、大丈夫か!?」

 

 だ、大丈夫じゃねえよ! 

 お前まで急に何言い出してんだ! お前は唯一俺の味方だったはずじゃねえのか! 

 

「何を……」

 

「い、いや……ここまで支持が強固なものになれば、下手な行動は逆に国のためにならないのでは……と」

 

「俺が王になるのが一番国のためにならねえよ!?」

 

 待ってくれ、現実を一番理解してるのがエリザベトなんじゃなかったのか。

 さっきのお前の態度は何だったんだ? 俺をどう引きずり下ろすかじゃなくて、諦めるかどうかを考えてたってことなのか? 

 俺はお前を王にするって自分に誓ったばっかりだってのに、そんな、そんなこと言われちまったら……。

 

「……国民が信頼を置いていないのなら、それを王とは呼べない」

 

「エリザベト……」

 

「下手に信頼を落として王になるより、より支持される存在が導くべきなのが、事実だ」

 

 ……違う。

 エリザベトが一番に思ってるのはいつだってこの王国だ。だから、俺を王にするってのは……エリザベト本人が「そうした方が国にとって一番いいと思ってる」ってことになるから、なのか。

 自分が王になって、国を良くするつもりだったが……もしそれが国にとって逆効果になるなら、退くことも厭わない……と。

 

「だが、王政はどうするんだ。説明した通り、俺はただの盗賊崩れだ」

 

「『ただの』ではないと思うが……それに関しても一応、考えがある」

 

 あっなんだそうなのか。

 なら安心した。エリザベトに考えがあるなら、それで問題ない。俺は大人しくその計画を実現させるまでで──

 

 

 

「──王戦後、私が『愚かにも反旗を翻した』ことにして、兄上が私を逮捕し、幽閉すればいい」

 

「何言ってんだお前」

 

 

 

「いやだな! 兄上は私を拘束したという体で、裏で王政を代行させればいいのだ」

 

「え? ああ……」

 

 なるほど、そういうことか。

 

 要は俺がタリエにやらせてたみたいに、本来俺が王になってやらなくちゃいけなくなった仕事をエリザベトにやらせるってことか。

 普通ならいくら王とはいえ他の王族に仕事を代行させるなんて真似させられないが……それがクーデターを起こされた後なら話は別だ。俺が王の権限を乱用して、「仮にも家族だから牢に閉じ込める訳にはいかない」「ただ自由にさせる訳にもいかない」「自分の管理下で幽閉する」と宣言してしまえば、エリザベトの管理は俺に委任される。

 そうすれば俺は王のまま、エリザベトと自由に会合することができるようになり、王としての仕事は裏でエリザベトに任せることができる。採決に関しても全部エリザベトが行うから、国をよくするための政策も全てエリザベトの意図通りに施行出来るってことか。

 

 だから、自分を逮捕してしまえばいいと。

 

「だが、それは、お前が……」

 

「兄上、言うな」

 

「……っ」

 

「覚悟の上だ。この国のためであれば、私の自由なぞ大した意味は無い」

 

 ……そんな訳、ないだろ。

 

 お前のその提案はお前の自由を完全に無視したものだ。いくらなんでもあまりにも非道すぎる。

 俺が戦場で死ねなかったのは俺の責任だ。お前のせいじゃないし、むしろお前は俺を助けるために「護衛を増やせ」と忠告してくれた側だ。国に従うという目的のために、ちょっとした判断ミスで自分の人生まで全部かごの中に入れるような真似する必要はねえ。

 どう考えたって理不尽、どう考えたって不道理だろ。いくら国のためとはいえ、お前にそこまでの犠牲を強いるなんて、今の兄として俺は見過ごせない。

 勿論、現状それが最良の選択肢なんだってことは俺だって重々承知だが……。

 

「あくまで管理するのは兄上だ。私の身の安全は王になるより保証されるだろう」

 

「そうかもしれないが……そういう話じゃないだろ」

 

「私の名誉や評判などは気にしなくていい。それを今担っているのは兄上だ」

 

「違う、そうじゃない、そうじゃないんだ」

 

 お前はまだ子供なんだぞ。

 タリエやソラナよりちょっと年下で、リアンやネルより少し年上ぐらいの、まだまだ子供のはずだ。

 

 俺だってまだそんな覚悟できてない。いくら書類仕事は任せるからって、実際の国の行事とかには俺が顔出して王として振舞わなくちゃいけないんだろ。そんなの無理だ、できっこねえ。

 元々ただの盗賊崩れだったんだ。それ以外道が無いなら諦めて引き受けるが……まだ完全に詰みだと決まった訳じゃねえだろ。どう考えても適材適所の真逆を突っ切ってる。

 

 な、考えてみろよ。

 ただの一人の盗賊が、そこまでの権利を手に入れるなんて。

 

 あり得ない。

 絶対にありえない。

 そんなことあっちゃならない。

 俺はそんなもの欲しくない。

 

 

 

「この国と、私の身が……欲しくないか? お兄様」

 

 

 

 欲しく、ない、はずだ。

 俺は……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「……お兄様」

 

「はい」

 

「私の日記を探す協力をしてくれたことには、感謝している」

 

「はい」

 

 

 

「だが……中身を読む必要はあったか?」

 

「ありませんでした」

 

 

 

 ……そうだ。

 

 そうだった。

 

 俺はエリザベトの「日記」を探しに資料室に来てたんだった。随分読み耽っちまった。あまりにもとんでもない内容だったもんで。

 元々エリザベトがここから借りた本を返すためルシアに「これらの本を返しておいてくれ」って渡した本の中に……エリザベト本人の日記が混ざりこんでたとかなんとかで。中には重要な情報も隠されてるし、何があっても読ませる訳にはいかないからって秘密裏に協力を頼まれてた訳だが……。

 

 ……えっとあれはなんだ? 

 俺は何を読んだ? 

 

 何だったんだあれ。

 

「そうだな。お兄様は中身を読む必要はなかった。すぐ返せばよかったのだ」

 

「言い訳していいか?」

 

「……許す」

 

「俺、お前の日記帳知らないから中身見ないと判断できな──いてっ」

 

 おいお前なんで小突きやがった。

 いや悪かったけど。読んじまった以上、悪いのは俺だけど。

 

 だが、気になるだろ? 

 秘密のためか表紙にも背にも一切文字が書かれてないから、エリザベトの日記かどうか判断するには中身を多少読まないと始まらねえし。

 いざ適当なところでページを開けたら、『どうやって俺を王位継承第一位から引きずり下ろすか』の文字列だぞ? んなもん気にならない方が無理ってもんだろ。

 いや、俺だってその文字列が箇条書きでメモ書きとか歴史書みたいにまとめられてたら読まなかったよ。そんなもん勝手に読んだら失礼だからな。

 

 

 

 でもあれ俺視点だったぞ? 

 

 

 

 アシェル、アシュレムの一人称視点だったぞ? 

 お前の日記だよな? 作エリザベトだよな? 

 どうやって無視しろって言うんだよ。怖いだろ。

 お前の名前で怪文書書かれてみろ。気持ちわかるか? ん? 

 

 しかも、あのオチはなんだよ。

 国とお前が欲しいかって? 欲しい訳ないだろ。もう俺は盗賊じゃねえし。あの後、俺はどう返事したことになってるんだ。業が深すぎるぜ王族ってのは。

 言わないけどな。今怒られてる立場なんだし。

 

「とにかく! 今日は助かった。これからはこのようなことがないよう心掛ける」

 

「おう。俺も今日は『役に立てなくて』悪かったな」

 

「……そうだな。だが、二人で探したから捗ったのも事実だ」

 

「ならいい。俺も『お前が』見つけられて満足だよ」

 

「……」

 

 ……よし。これでいい。

 俺は初めからあんなもの見なかった。エリザベトが心の中でどんなこと考えてたかとか、どんな妄想してたかは俺には一切分からなかったし、そもそも見つけたのも俺じゃない。俺は人の日記を深々と読むような人間じゃないし、そもそも気になる内容なのかも分からない。

 これでいい。今日は何事も無かったんだ。エリザベトは失くした日記を自分で見つけ出せた。それですべて解決する。

 

 じゃあ早く戻ろう。

 部屋の前でルシアがきっとまだかまだかと待ってるぜ。返しに行ったのがお前の日記だって聞かされて、自分は悪くないのにずっと謝ってたんだから。早く安心させてやらないと可哀想だ。

 

 だから……。

 

 

 

「お兄様は……その、欲しくなかったのか?」

 

「なんでお前が蒸し返すんだよ」




A. アシェルが王になる(?)。
  エリザベトが逮捕される。
  それ以外に特に致命的なことは起こらない……かも。

これでIF終わりです。ここまで読んでいただきありがとうございました。
IFって結構書くの楽しいですね。キャラと設定を思い出すのが大変でしたが。

次回作『大切な人を救うために死に戻る能力』書いてます。
よろしければ是非そちらも見ていってください(´・ω・`)

文章練習でまたいくつか後日談を書こうと思うのですが、需要ありますか?

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