【完結】俺は死んだはずだよな?   作:破れ綴じ

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考えていた謎とすごくマズイ誤解

 そういやそうだった。

 ボスがバカな命令出してからリアンとマドリーを守るために色々奔走してたが、あのクソ野郎が死んだ今、団はもう続きようがねえんだから俺にもう帰る場所は無いし、これ以上やらなきゃいけねえこともない。

 

 ボスがいなくなった今、団の奴らはどうするんだろうな。アジトに戻ったらきっとめちゃくちゃになってるだろう。誰かが新しいボスになろうとして揉めるか、それとも全員が散り散りになるか。それまであり得なかった自由ってもんを手に入れて、リーダー格の奴らが権力争いを始めるかもしれねえし、下っ端たちは誰についていけばいいか分からなくて右往左往するかもしれねえ。最悪、内輪揉めで殺し合いになるかもしれねえな。まあ、どっちにしろ俺には関係ねえ。俺はもうあの場所に戻るつもりはねえんだから。あいつらがどうなろうと知ったこっちゃねえ。

 

 となると、じゃあ次は? 

 何も考えてなかったんだが、次に俺は何をするんだ? 

 

「ああーそっか、独り占めしようってんだ! 人数が少ない方が取り分は多くなるし。なるほど、抜け目のないヤツ!」

 

「……」

 

 そんなさもお前の企みを見抜いてやったぞみたいな笑顔されても、的外れもいいとこだぞ。

 もう盗賊をする気はねえ。一回目の人生で盗賊だったのは貧しい孤児だったところを拾われて強制させられてたからで、もうボスはいない上に外の世界を知っちまった俺がもう一回盗賊をする必要はない。

 だが、盗賊団のリーダー格だった俺がバレク家やグロス家に接触するのはマズい気はする。あいつらに会いたい気持ちはあるが、有名な盗賊団の実行部隊のリーダーだってなれば指名手配されてるかもしれねえし、そんな奴が「お宅の次期当主に会いたいんですが」なんて言ってきたら怪しいことこの上ない。いや、気づかれねえかもしれねえが、リスクは避けるべきだ。

 

 もう諦めてどっかでひっそりと新しい人生を始めるか? 

 幸い色んな職業の知識があるし、山ほどの金を稼ぎたいって訳でもないなら生きていく分には不自由しねえだろう。今までの皆と会わない方がいいってのは残念だが、俺に次の人生がある保証もねえし、せっかく解放されたんだから新しく生き直すべきだよな。

 

 まあ、せめてこの成り代わりのこととか、やり残した色々な約束とか、その辺ははっきりさせられるならはっきりさせておきたかったが……。

 ──ん? 

 

「……そういえば」

 

「ん? どしたの」

 

 そういえば、文官の俺の墓には遺体がなかった──ベラがそう言ってたよな? 

 それっておかしいよな? 前の盗賊の俺の処刑記録が残ってることはちゃんと文官の時に確認したし、俺が言い出しっぺの下戸用の酒が俺の死後も作られてるってことは執事長の時に確認した。

 じゃあ……どういうことだ? 俺が生きてた記録は残るけど、死体は消えるってことか? 成り代わりで生成された俺の体は、死んだら消えるのか? 

 ああいや、でも文官の俺はきちんと墓が作られてるんだよな。死体が無いのに棺を埋めて墓を作るなんてあり得るのか? それとも俺が死んでからある程度時間が経つと死体が無くなる仕組みなのか? 

 

 それを確かめたいなら──酒家の俺の墓を調べればいいじゃねえか。

 酒家の俺が死んだ時、きっとリアンたちは俺を埋葬しただろう。元々仲良くなる気はなかったが、最終的には家の若い衆含めて仲良くなってた気がする。多分そうだ、なんか嫌われてるとかでもない限りは。

 酒家のアシェルの墓に死体があるのか、ないのか。もしなかったら、文官の俺と同じってことだ。成り代わりで生成された体は、死んだら消えるってことになる。その確認になる。

 

「ねえ」

 

「ん、何だ?」

 

「アンタ、さっきから黙ってるけど、何考えてんの?」

 

 おっと。

 無視してたの忘れてた。

 

「……えっと、墓のこと」

 

「墓? 誰の?」

 

「あー……俺?」

 

「は? アンタの墓? アンタ、生きてるじゃん」

 

「いや、そうじゃなくて……ええと、どう説明すればいいか……」

 

 クソ、説明できねえな。ネルに成り代わりの話なんてできるわけがねえ。

 

「まあ、お前は気にしなくていい」

 

「あっそ……」

 

 まあ──そもそも説明なんてしなくていいか。元々一人でやるつもりだったんだし、コイツに対して無理に説明したって俺に利点がねえからな。

 

「で、ついてっていい? 他に行くとこないし。アタシもどうすればいいか分からないし」

 

「あー……いいぞ」

 

「言ったな! お宝が手に入ったらアタシと山分けだから!」

 

「……好きにしてくれ」

 

 んなもん手に入らねえけどよ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 夜中になってから、俺は近くの共同墓地に向かった。多分墓を作るってなったらそこだよな。

 夜中を狙うのは人がいない時間を見計らってこっそりと忍び込む必要があるからだ。昼間に人目のある場所で墓を掘り返してるヤツは間違いなくヤベえヤツだからな。

 

 さて、どこから探すか。

 墓石の文字を一つ一つ確認していくしかねえな。

 アシェルって名前は、そんなに多くねえはずだから、見つかるとしたらすぐ見つかるだろ。

 

「で、何探すの?」

 

「アシェルか、あとバレクって名前の墓」

 

「は? アシェル? なんで? アシェル兄の墓だったりするの?」

 

「違う。とにかく探すぞ」

 

 ……不満そうな顔すんなって、不貞腐れるなよ。「じゃあアンタの墓か」じゃねえよ。ついてくるなら無駄口叩いてないで手伝えってんだ。

 とりあえず一つ一つ確認していかねえと……。

 

「ねえ、これは? これがアシェルじゃない?」

 

「おっ、見つけたのか……んだよ違うじゃねえか」

 

「じゃあこっちは? これも違う?」

 

「全然違うぞ」

 

 どこ見てんだコイツ。

 アレン、アルベルト、アーサー……。アだけ合ってんな。他全部違うぞ。

 

「探すなら真面目に探せよ。かすりもしてねえじゃねえか」

 

「……いやだって、アタシ読めないから分かんない。全部同じに見えるもん」

 

「ん? ……ああ、そうか。読めねえ奴だって多いか」

 

「そうだよ。アタシたちの中で文字読めるのアシェル兄だけだったし……」

 

 ……そうだった、普通はそうか。

 盗賊団の下っ端なんて、字を読めない奴ばっかりだもんな。俺は生き延びるために死ぬ気で文字覚えたが……ネルはそうだよな、文字なんて読めねえよな。忘れてたよ。

 

「じゃあ、適当に指差すな。全部違うから。分かんねえなら外で待ってろ」

 

「ひどい」

 

 ひどくて結構だよ。

 

「あー、違う」

 

「ん? これもちげえな」

 

「……あれ。おかしいぞ」

 

 んん? 

 アシェルって名前の墓も、バレクって名前の墓も見つからねえな。一つ一つ、丁寧に確認したつもりだが……でも、全部違う名前だったぞ。アシェルに似てる名前はあるが、アシェルそのものは一つも見つからねえ。

 

「──ねえ、もう諦めたら? 全部見たじゃん」

 

「そんなはずは……。もう一回見てくる」

 

「え、マジで? もう一回全部見るの? さっきので全部見たじゃん。それで無いならもう無いって」

 

 ただ見落としてただけなのかもしれねえ。暗いから、読み間違えたってのもあり得るだろう。今度は、もっと注意深く見ればいい。一つ一つ、丁寧に確認して……。

 

「──やっぱり見つかんねえな」

 

「ほらやっぱり」

 

 共同墓地には、アシェルって名前の墓も、バレクって名前の墓も、ねえ。

 二回も探したってのに、一つも見つからねえぞ。見落としてるのか? いや、でも二回も探したんだぞ。見落とすはずがねえよな。アシェルって名前はそうそう見ねえんだから、見つかればすぐ分かるだろうに。

 ──じゃあ、どこにあるんだ? 

 

 バレク家の屋敷に墓があるのか? ガルトンほどじゃねえとはいえ、それなりに金はある家だし、屋敷の庭とかに墓を作ってる可能性もあるよな。

 いや、それとも──そもそも俺の墓自体がねえのか? 俺はリアンたちとそこそこ仲が良かったつもりだが……もしかしたら実は嫌われてて、死んだ俺の墓を作るつもりが無かったとか……。

 

「ねえ、次はどうするの? もう諦めて別のとこ行く?」

 

「……バレク家の屋敷に行く。墓はそっちにあるかもしれねえ」

 

 もしかしたら墓がねえのかもって思ったが……いや、それだとしたらだいぶ嫌だぞ……。

 希望を言うなら、バレク家の庭にでっかい字で「アシェル」って書かれた墓があってほしいんだけども。

 無かったらどうしよっかねえ……。

 

「……屋敷に忍び込むの、ヤバくない? 捕まったらどうすんのさ」

 

「危険はあるだろうが、俺はやるぞ」

 

「なんでそこまで……何を確かめたいの?」

 

「言っても分からねえって。別にお前はついてこなくていいから大丈夫だろ」

 

「いや、ついていくけどさ」

 

 お前こそなんでだよ。前世共々俺のこと嫌ってたんじゃねえのかよ。

 いや、いいけどさ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「なかったね」

 

「無かったなあ……」

 

 無かった……。

 侵入は上手くいったし、帰ってくるまで誰にも見つからなかった。それはよかった。盗賊時代に身につけた技術が役に立った。塀を乗り越えるのも、音を立てずに歩くのも、昔取った杵柄ってやつだ。

 ただ悪い知らせは、結局庭に墓が見つからなかったってことだ。庭の隅にも、木の根元にも、屋敷の裏にも、全部探したが墓らしいものは何もなかった。

 

 じゃあどこにあるんだ? 

 もしかして家の中に墓があるのか? 

 ちょっと学の足りねえ俺には常識が分からねえが、もしかして墓を家の中に作る人もいたりするってことなのか……。どうだろ、正直それはあり得ねえと思うが。聞いたこともねえし。

 

 それとも、グロス家に墓があるのか? 

 俺はマドリーを助けたんだし、元々マドリーの婚約者だったんだからそっちに作ってもらってるって可能性も……いや、よその人間の墓を自分の家に作るって普通じゃねえよな。リアンやマドリーが「せっかくだからグロス家の庭に墓を作ろう」なんて考えるはずがねえ。

 

 じゃあやっぱり、そもそも墓がねえのか? 

 リアンはいつも俺のアイデアを信じてくれた。俺が死んだ後も、そのアイデアを実現してくれた。だから、俺のことを嫌ってたとは思いたくない。マドリーも俺の話を聞いてくれた。俺の悩みだって聞いてくれたし、結構親身になってくれてた覚えもある。

 なのに墓はねえ──もしかしてそういう文化だったり? 

 実はやっぱり嫌われてたってことなのか。それか、長男ってだけで、兄貴ってだけで、婚約者ってだけで、案外どうでもいい存在だったのかもしれない。まあそもそも──俺が思ってるほど仲良くなかったのかもしれねえな。無意識の内に、アイツらとは仲が良い関係でありたかったっていう俺の独りよがりなのかも。

 

「ねえ、もう疲れた。さっきからこれ何なの? どうなったら終わりなの?」

 

「ああもう、分かったから──ちょっと休憩しようか」

 

 とりあえず、あっちの方の──道の外れに移動するか。

 人目につかないし、なんかスペース開いてるし、良い感じの岩もある。

 ちょうど良い。あそこでちょっと休憩しよう。ネルも疲れてるみてえだし、俺だって正直疲れた。夜中に墓地を探し回って、屋敷に忍び込んで、一時間以上探し回ったんだから。疲れるのも当然だ。

 

「ああー! 疲れたー!」

 

「あんま声出すな。一応犯罪者だぞ俺たち」

 

「……チッ。はーい」

 

 舌打ちするな、舌打ちを。

 まあそうだな、俺も歩き詰めだったし、ちょっと躍起になってことは認めるが……。

 

 ──ん? 

 

 ……んだこれ。なんか書いてあんなこの岩。

 暗くて読みにくかったが、よく見るとなんか彫り込まれた跡が見える。傷……かと思ったが、違うなこりゃ。文字か? 

 

「え、っと。……ア……シ……」

 

 ……あ? 

 これ、「アシェル」「バレク」って……。

 

「お、おお!? これだ! これじゃねえか!」

 

「え、なになに。うるさいよ、静かに」

 

「知るか! これが探してたヤツだよ!」

 

「えっこの岩? ……あっこれが墓?」

 

 ただの岩かと思ったが、じゃあこれ墓石ってことか? 確かによく見りゃ普通の石じゃなさそうだったが、夜の闇でそんなの気づかなかった。じゃあこの場所が辺に人目から離れた位置なのも、変にスペースが開いてるのもここが専用の墓地だからってことか? 

 てことは、この下に棺が埋まってるってことだよな? 死んだ俺を入れたはずの、今は空っぽのはずの棺が埋まってるってことだよな? なんで、こんな分かりにくい場所なんだよ。通いにくいだろ。素直にバレク家の庭の中に墓を作ればよかったのに、訳分かんねえ。

 

 ──まあいいや。

 とりあえず掘り返すか。

 

「えっなんでなんで。なんで急に掘ってんの」

 

「見てるだけなら手伝え」

 

「えー……」

 

 道具はねえから……手だな。

 爪に土が入ってくるのが気持ち悪いが、でも今このチャンスを逃す訳にもいかねえし。偶然見つけた場所なんだから、これで道具を取りに行ってたら次ここに戻ってこれる確証もない。

 

 どれくらい掘ればいいのか。どこまで掘れば棺が出てくるのか。人間を埋葬したことはねえから分からねえけど、それでもとにかく掘るしかねえ。もしかしたら棺なんてねえかもしれねえし、これがただ俺の名前が書かれただけの岩で、墓じゃねえって可能性もあるが、それでも掘るしかねえ。

 

 ネルは……手伝ってこないな。さすがに疲れた時にこんな訳分かんねえことしたくねえか。

 いやまあいいけど。この薄情者。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「あれえ……?」

 

「うわ──死体じゃん。なに、なんでこんなもん開けんの」

 

 そうだ──死体だ。

 

 皮膚はほとんど残ってなくて、筋肉とかがドロドロに溶けて、結構骨が見えてる。これまでで……大体二十週間ぐらいか? 大体それぐらい経ったら人間はこういう風に腐っていく。

 顔の判別はつかなくなっちまってるが体格的には大体酒家のアシェルと同じぐらいだ。じゃあ多分、ここにあるのは他人の死体って訳でもなさそう……てことは、これ俺そのものだよな。

 

 ──じゃあ、おかしくねえか? 

 

「あっ、なるほど? ここにお宝があると思ったってこと。馬鹿、これは棺だよ」

 

「んなこと知ってる」

 

「……? じゃあ棺の中にお宝を埋まってたはずだった? 普通に死体しか入ってないじゃんか」

 

 そうだ、そうだよな。

 死体が「入ってる」よな? 

 なんで、だ? ベラは文官の俺の墓には遺体がないって言ってた。

 だから俺だって、酒家の俺の墓もてっきり空だと思ってたのに。

 

 なのに──ここには死体がちゃんとある。

 

 見れば見るほど分からねえぞ。文官の俺と酒家の俺の違いは何だ? 成り代わりの条件と関係があるのか? 成り代わってから五回経つと死体が消えるみたいな……? 

 それとも、埋葬の仕方か? いやでも、そんな変なやり方でもねえよな。じゃあ、そもそも文官の俺の墓が空だったのは、誰かが掘り返したからって可能性もあるのか? ベラが掘り返す前に、誰かが先に掘り返してたとか。

 でも、それなら誰が? 何のために? 

 

 ネルが棺を覗き込んで首を傾げる。興味津々って感じの顔で死体を見てやがる。コイツは仕事柄、人の死体なんざ散々見てるからこの光景にも驚いたりはしねえだろうが。

 

「──ていうか。ねえ、誰コイツ?」

 

「……知らねえ」

 

 知ってるけど。

 ていうかアシェルの墓の下にある棺の中なら「アシェル」一択だろうが。

 

 そもそも、墓がなんでこんな分かりにくいところにあるんだ? 共同墓地にもバレク家の庭にもなくて、道の外れの岩。普通、こんなところに墓を作るか? 家族の墓なら、もっと分かりやすい場所に作るだろ。それとも、何か理由があるのか? 

 

 ていうかこれ普通に罰当たりじゃねえか? ベラがやったって言ってたから俺もそうすりゃいいやって思ってたし、どうせ中身は空っぽだろうから罰当たりでも何でもねえって思ってたが。中に普通に死体があるんじゃねえか。中のヤツに恨み殺されても文句は言えねえぞ……。

 

 ──あっでも中のヤツは俺自身だったわ。別にいいのか。

 

「……なんか変だ、アンタ。本当に何考えてるか分かんない」

 

 ……俺もだよ。

 

 自分でも何やってるのか分からなくなってきた。墓を掘り返して、死体を確認して。それで結局何も分かってねえんだけど。

 分かったのは死体があるってことだけだ。それに何の意味があるんだ? 成り代わりの謎は何も解けてないし、むしろ疑問が増えただけだぞ……。

 

「はあ……」

 

 ああ、ため息なんてついてんじゃねえよ、俺。

 とりあえずは目的達成したんだからいいじゃねえか。後はこれを元に戻して新しい人生に戻るだけだろ。朝になっちまう前に、さっさと片付けねえと……。

 

 ──パサッ

 

「……あ?」

 

 後ろから音がした……ような。

 いや、まさか。

 

 振り返る。誰か立ってる。

 月明かりに照らされて、顔がはっきり見える──見覚えのある顔、忘れるはずのない顔。

 

「……っ! ……貴方! ここで何を!!」

 

 ──マドリー。

 え、どうしてここに。

 

「えっ、ちょっ。待っ──」

 

 ──やべ。

 今の俺、傍から見たらただの墓荒らしそのものじゃねえか。




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