【完結】俺は死んだはずだよな?   作:破れ綴じ

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22:30ぐらいでプロットの大修正が発生して遅れました。
どうして人は時間が経ってから矛盾に気づいてしまうのでしょうか。
色々ありますが、今回も遅れてしまい申し訳ありません。

こればかりはどうしようもないので、どうか許して頂けると……。
なんとか今日中には間に合わせたので何卒……m(__)m


長く生きた証と晴れない気分

 ソラナが来てから……今日で何日経ったんだっけか。

 五日? いや、もうちょっと経ってるかもしれねえ。

 

「げほっ、ごほっ……」

 

 よく覚えてねえが、ずっと前からちょくちょく出てた咳が、最近になって止まらなくなってきた気がする。ソラナが来るまでは誤魔化せてたような数だったが、最近そうでもない気がしてきた。

 最初は大したことなかったんだ。ちょっと喉が痛えぐらいで。森の空気のせいだろって思ってたし、実際そうかもしれねえし。

 ただ、三日前ぐらいから明かにおかしくなってきた。朝起きたら喉がガラガラで、唾飲み込むだけで痛えし、水飲んでも治らねえ。むしろ悪くなってる気さえする。

 昨日なんか飯食ってる時に咳き込んで、ノエリスに怪訝な顔された。大丈夫って言ったが、絶対信じてなかったな。

 

 今こうしてみると、日に日に酷くなってるような……。

 まあでも、盗賊の時はもっと性質の悪い風邪が流行ってたこともあったし、それに比べりゃまあこれぐらいなんてことねえか。

 

「ねえ、アシェル。今日の解析は止めておこうか」

 

「んんっ……あ? なんでだ? 俺は大丈夫だぞ?」

 

 心配してくれてんのか? ありがたいが、これぐらいで解析作業を止めなくてもいいぞ。

 確かに咳は出るし喉も痛いが、それだけだ。体が動かねえわけじゃねえし、意識だってはっきりしてる。ノエリスだって俺のために時間を割いてくれてるんだ。こっちが弱音を吐いてどうすんだよ。

 

「でも、キミ、咳が止まらないじゃない。無理しなくていいよ」

 

「無理なんかしてねえって。ちょっと喉が痛いだけだ」

 

 本当に大したことねえんだ。心配かけて悪いが、これぐらいなら問題ねえ。

 それに、解析が進まなきゃ、いつまで経っても答えが出ねえ。俺がここにいる意味がねえ。

 

「……そう、分かった。でも、辛くなったらすぐ言ってね」

 

「ああ、ありがとな」

 

 ノエリスが心配そうな顔をしてやがる。

 ソラナが来てから、コイツも明らかに態度が変わったよな。前なら眷属がどうとか言ってきそうなもんなのに、今は逆に心配してくれてる。性格こそ最悪だが、俺限定で結構大事にされてるって感じがする。

 悪い気はしねえ。むしろ、ちょっと嬉しいぐらいだ。コイツにも友情ってもんが芽生えてきたのか──

 

「──んんっ、ごほっ、ごほっ……」

 

 ああもう……また咳だ、締まらねえな。

 水でも飲めば収まるか? 数日経てば治ってるだろうし、あんまり気にし続けても意味ねえだろうけど。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「──ボクはね。昔は、ただの村娘だったんだ」

 

「……ん? 何の話だ?」

 

「いいから、聞いててよ」

 

「まあいいが……」

 

 何だ急に。書き起こした魔法陣見ながら何喋り出してんだコイツ。解析の途中だろ。

 ていうか、村娘? お前が? 性格極悪のこの魔女が、ただの村娘だったって? 人を弄んで、遭難者の生死を賭けて遊んで、俺を眷属にして脅してきたコイツが? 

 

「ボクが住んでた村はね、小さくて貧しい村だった。でも、みんなで助け合って生きててね。ボクもその一人で、いつか素敵な人と結婚して、幸せな家庭を築くんだって夢見てたんだ」

 

 ……ええ? 悪いけど今のお前からは全く想像できねえぞ。

 昔は結婚を夢見てたって。どんな人生送ったらそこまで変わっちまうんだよ。

 

「でもね……ある日、村に災厄が降りかかってさ」

 

「……なんか話がマズイ方向に進んでるんだが」

 

「そんな大したことじゃないよ。作物が育たなくなって、家畜が次々死んで、井戸の水も枯れたってだけ。皆困り果てて、色々手を尽くしたけど……まあ、何も変わらないよね」

 

 ……なんだ、急に声が暗くなったな。

 これ三百年前の話ってことだよな。それでもこれだけ鮮明に覚えてるってことは相当印象に残るような出来事があったってことで──

 

「──それで、村の長老たちが決めたんだ。『神様に生贄を捧げれば、災厄は収まる』って」

 

「えっ」

 

「で、選ばれたのが──ボクだった。ボクは、村で一番若い娘だったから。『若い娘を捧げれば、神様も喜ぶ』って、そう言われたんだ」

 

「ええ……」

 

 うわー……最悪だろそれ。

 こいつが魔女になった経緯なんて、碌でもない話に違いないと思ってたが……幸せな村娘がある日突然魔法に目覚めて魔女になりましたなんて、そんな都合のいい話がある訳ねえもんな。

 若いから選ばれたって、そんな理不尽な話があるかよ。神様が喜ぶとか、そんな勝手な理屈で人を殺そうとするなんて。

 

「当然嫌だったさ。まだ恋もしてなかったし。でも皆おかしくなっててね……誰も助けてくれなかった」

 

「ボクを縛り上げて、森の奥の祭壇に連れて行かれてさ。ボクは泣いて、叫んで、助けを求めたけど……誰も振り返らないし。みんな、ボクを見ないようにして、祈りの言葉を唱えてた」

 

「祭壇には、古い石の台があって。そこにボクを寝かせて、長が剣を掲げて、『これで村は救われる』って、そう言いながら」

 

「ボクは、死ぬんだって思った。ここで終わりなんだって。夢も、未来も、何もかも、ここで終わるんだって」

 

「なんでああなっちゃったんだろうね。変な教えが流行ってたのは知ってたけどさ」

 

 ……声が若干震えてる気がする。なんで急にこんな重たい話してきやがったんだ。

 剣を掲げられて、周りは祈りの言葉を唱えてて、誰も助けてくれない。絶望しかねえよそんなの。どんな気持ちだったんだろうな、その時。

 多分昔あった邪教かなんかに村の連中が唆されて、そこに厄災が合わさってエスカレートしたまま止まれなくなったってことなんだろうが……胸糞悪い。

 

「でも、その瞬間。何かが起こったんだ」

 

「……何かって?」

 

「分からない。多分その儀式は本物で、ボクは本当に魔女になっちゃったってことじゃないかな。なんか皆喜んでたし」

 

 えっ、魔女ってそんな風になれるもんなのか。

 

 いや、昔は魔法使い多かったらしいし、同じ方法で覚醒してたヤツがいたのかもしれねえけど。

 生贄にされかけた瞬間に、魔女として覚醒したと。なんていうか、皮肉な話だな。神様に捧げるつもりが、逆に魔女を生み出しちまったって。因果応報ってやつか。

 

「で、気づいたら、ボクの周りに炎が渦巻いてて。発動すら調整できなかったのかな。イヤな大人も、仲の良かった友達も含めて全員焼き殺しちゃってさ」

 

「……ああ」

 

「それで、『ざまあみろ』って気持ちと、『自分で自分の居場所消しちゃった』っていう気持ちで、なんだか、ごちゃごちゃになって」

 

「えっと……」

 

 ……これ黙って聞いてていいヤツなのか。

 とんでもねえ過去がどんどん開示されてるんだが。ちょっと気まずくて適当な相槌しか打てねえんだが。コイツもこんな嫌な思い出喋って辛くねえのかよ。

 

「それから、自棄になって。幸せな未来なんて、もう夢見られなくなったから何もかもがどうでもよくなっちゃって。だから、色んなとこで暴れ回ってたんだ」

 

「竜の姿に変身するとやっぱり目立つんだよね。『伝説の魔女ノエリス』って、恐れられるようになって。討伐隊が何度も来たけど、全部返り討ちにしたよ」

 

「でも……百年ぐらい前かな。流石に疲れたんだ。追われるのに、もううんざりして。この森に結界張って引きこもることにして」

 

 ……なるほどな。

 そりゃ『伝説の魔女』って呼ばれてるのも納得だ。そこまで世界中で暴れまわって、なお健在ってことが一度も負けてないことの証明だ。逆に伝説にならない方がおかしい。

 ただ、コイツに歯向かったヤツは全員殺されたんだろうし、それに合わせて百年もの月日が流れたから、巷じゃ話を聞かなくなったと。俺みたいな学のねえヤツは存在を聞いたことすらないってまで忘れられていったんだ。

 

「まあ、当時はこんなことよくあったんだよ。魔法使いもいっぱいいたし、きっと皆同じ儀式をしてたんだね。中でもボクだけ格別才能があったんだ」

 

「……知らなかった」

 

 だから、そんなヤベー教えが広まってない今じゃ魔法使いなんて空想の存在だと。

 そういった経緯でコイツの性格も捻じ曲がっちまったと。そういうことか。

 

「……でもさ。キミは、ボクを裏切らなかったよね。ボクが苦しんでた時、助けてくれた」

 

「いや、それは……」

 

「あの女は森の外に出る方法を知ってた。それに着いていけば、キミは今頃自由だった。ボクは遠距離の魔法攻撃が使えないから、一度出ればもう心配は無い……なのにキミは残ってくれた」

 

「……」

 

 ……いや、そうだが。

 俺はただ、ノエリスが死んだら解析が終わらなくなるから困るってだけで。別にお前のことを心配してた訳じゃ……いや、それも嘘だな。

 確かにあの時俺は心配してた。ノエリスが苦しんでるのを見て、何とかしなきゃって思った。純粋に、こいつが死んだら嫌だって思ったんだ。何でだか知らねえが。

 

「だから、この話をしたんだ。キミになら、打ち明けてもいいって」

 

「……そうか」

 

 ……何て返せばいいのか分からねえよ。

 俺は解析さえ終われば、さっさと自死してここを離れるつもりだったのに……。

 

 ああ……なんだか、胸が重たくなってきた……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「あれ……やっぱりこれ、おかしいよね……」

 

 ノエリスが何かぶつぶつ言ってやがる。窓に投影した魔法陣を見ながら、首を傾げて。

 珍しいな、こいつがこんなに困った顔するなんて。いつもなら余裕綽々で、何でもできるみたいな態度だったのに。最近、解析を重ねるごとにこんな表情してることが増えたような。

 何か問題があるのか。それとも、俺の成り代わりがそれだけ複雑ってことなのか。

 

「どうした?」

 

「えっと……キミの成り代わりの魔法なんだけどさ」

 

「ああ」

 

 解析の結果か。今日の分で、かけられた魔法の全体を把握できてたって聞いてたが……なんか進展があるのか。あれば助かるんだが。

 もう何週間も同じことの繰り返しで、正直なところ早く答えが欲しい。ただ、ノエリスがこんなに困ってるってことは──何か問題があるってことだよな。少なくとも、この表情を見る限り、良い知らせじゃなさそうだ。

 

 

 

「……やっぱり、これ、よく分からないや」

 

 ……うーん。

 いや、そんな簡単にいくとは俺も思ってなかったけど。それでも想像以上に望みの無さそうな回答が来たぞ。

 

 

 

「ごほっ……分からないって……お前、ずっと解析してたんじゃねえのか?」

 

「してたよ。してたけど……本当に、分からないんだ」

 

 ……おい。

 何が分からないんだ。構造か? 発動条件か? それとも、魔法そのものが理解できないのか。ここまで来るのに何日もかかったってのに、「収穫無しで終わりそうです」だけはゴメンだぞ。

 

「いや、えっとね……キミの成り代わりの魔法、全体の構造は理解できた。時間をかければ、ある程度の条件も絞れると思う」

 

「……それなら十分じゃねえか、何を──」

 

「でもさ、この魔法、何回見ても──どうして生き返れるのか分からないんだよ」

 

 ……どうして生き返れるのか、分からない? 

 構造は理解できたって言ったよな。条件も絞れるって。それだけ分かれば、俺が次に進むための条件は一応満たせることになると思うんだが。じゃあ、何が問題なんだ。

 

「……この魔法が、どうしてキミの成り代わりを実現できてるのか見当がつかない。それに加えて、ボクでさえ一か月は動けなくなるぐらいの魔力が必要だし、その上あまりにも不安定すぎる」

 

「いやでも、現に俺は成り代わってる訳で」

 

「それがあり得ないって話なんだよ」

 

 ええと……? 

 そりゃ、現実にはちゃんと動いてるが、理論上じゃ動作する保証が取れないってこと……なのか? 

 

 んなこと言われたら不安になってくるな。

 俺はこれまで経験してるから発動するって理解してるが、ノエリスはその経験がないから「この魔法が理解できない」がそのまま「成り代わりなんてあり得ない」っていう結論に到達したんだ。

 もしかすると「十回目の成り代わり」で回数制限が来て、魔法の構造自体が変わっちまってるなんて可能性もある。単純に難しすぎるからまだノエリスが理解しきれてないってんなら話は早いんだが……。

 

 じゃあ──例え発動条件が絞り込めたとしても、次があるって確約が無い限り、死ぬのは避けるべきなのか。

 

「悪いね。この調子だと、完全な解析にはかなり時間がかかると思う」

 

「そうか……いや、構わねえよ。俺はお前の眷属だし、こっちが頼んでる立場だからな」

 

 もしノエリスが二十四時間ぶっ通しで、他のことに目もくれずこの作業に集中してくれれば早いうちに分かるんだろうが……俺、そんなこと頼める立場じゃねえからな。

 仕方ねえ。もっと時間を置いて、徐々に情報が分かるのを待たねえと。

 

「……ふーん? ちゃんと立場を弁えてるんだね。キミもようやく眷属としての自覚が芽生えてきたってこと?」

 

「言っとけ」

 

 せっかく俺たちでここまで来たんだから、不確定なまま終わりにするのはもったいねえだろってことだよ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「ごほっ、げほっ……」

 

 ……おかしい。

 ノエリスの過去を聞いた時に感じた胸の重さが今になっても取れねえ。あの時は重たい話聞かされて気分が沈んでただけかと思ったんだが……そうでもないような。

 咳が出るのもこれでさっきから何度目だ。喉の奥が痛えし、息吸うたびにヒリつく。

 

「栄養が足りてねえのか……?」

 

 一応毎日、食べられる食材で一日三回の食事を心がけてるんだが……やっぱ、食べられるってだけで栄養とかが全然ねえから病気にでもなっちまったのか? 

 人形が病気になるってのもよく分からねえ話だが──俺には魂があるんだし、腹も減るなら病気になったっておかしくねえし……。

 ただ、探検家の時はこの森で餓死したんだよな。あの時は食い物も水もなくて、ノエリスと一緒に真の迷いの森に入っちまって、結局出られなくなって死んだ。それに比べりゃ今は食い物も水もあるし、ノエリスの小屋っていう安全な場所だってある。だから大丈夫だと思ってたんだが……。

 

「んんっ、ごほっ……」

 

 ああ、また出た。止まらねえな、これ。

 喉の奥が焼けるように痛い。息を吸うたびに、何かが引っかかるような感じがする。風邪ってこんな感じだったっけか。

 でも、ノエリスに心配かけたくねえし、大丈夫だって言った手前、今更辛いなんて言えねえよな。これぐらい、我慢すれば何とかなる。少し休めば治る。そうに決まってる。

 

「はあ……ぐだぐだ言ってたって仕方ねえか」

 

 とりあえず、飯作らねえと。解析が進まないなら、俺にできることは限られてるし。まだ腹は減ってねえが、食わなきゃ体が持たねえ。大丈夫だ、これぐらい。ちょっと体調が悪いだけだ。 

 それに、何か作業してた方が気が紛れる。外のことを考え始めると、焦りばかりが募ってくるし。んなこと考えても仕方ねえのに。解析が終わるまで、今はここで大人しく待つしかねえんだから、焦ったって何も変わらねえ。

 

 備蓄してある食糧袋には今何があるんだっけか……。

 ああ、まだ残ってるな。一昨日ノエリスと一緒に森を通って調達してきたヤツだ。木の実と、食える草と、あとは干し肉が少し。大したもんじゃねえが、これで何か作るしかねえ。

 何を作ろうか。木の実を煮て、草を刻んで、干し肉を少し足せば……まあ食えるもんにはなるか。味はともかく、腹は膨れるし、それで十分だよな。

 

 じゃあ、さっさと取り掛かろう──

 

「……っと」

 

 あれ。

 

 なんだ、これ。体が、だるい。

 立ち上がろうとしたのに、足に力が入らねえ。さっきまでこんなんじゃなかったのに。ちょっと咳が出るぐらいで、こんなに体が重くなるもんか。おかしいな。

 袋まで妙に重え。いつもなら片手で持てるのに、今日は両手でやっとだ。何でだ。中身は変わってねえのに。腕にも力が入らねえし、指まで震えてる気がする。

 ……気のせいだよな? 疲れてるだけだろ? 

 

「……大丈夫だ、大丈夫」

 

 大丈夫だ。これぐらい、何ともねえ。ちょっと休めば治る。そうだろ。

 何が悪かったは知らねえが、どこかしらで日頃の生活習慣を怠っちまったんだろう。そのツケが巡って来てるだけだ、これぐらい自分でなんとかできなくてどうする。

 そもそも昔はもっと酷い状況でも動いてた。盗賊の時なんか、怪我してても逃げなきゃ死ぬから無理やり走ってたし。今回だって同じだ。ちょっと体調悪いぐらいで止まってられるか。

 

 よし、そうと決まればさっさと立ち上がって──

 

 

 

「……え?」

 

 あれ、何で、俺、横向きになってる。地面が冷てえ。

 いつ倒れた。立ち上がろうとしたはずなのに。

 体が動かねえ。腕も足も言うこと聞かねえ。

 

「──っ!? な、んだ、これ……!?」

 

 やべ、え。

 体が。

 ノエ、リス。




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