【完結】俺は死んだはずだよな?   作:破れ綴じ

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遅れました!

(多分)最終章(予定)です!
この章のうちに終わるかな……?(´・ω・`)


10. 王族
すべての頂点と囚われていた二人


 俺は死んだはずだよな? 

 ……だけど、こうしてるってことは。

 

「……生きてる」

 

 心臓は……問題なく動いてるな。肺にも抵抗なく空気が入ってくるし、さっきまであった苦しさはもうねえ。喉も痛くねえし、頭もぼーっとしてねえし、体も軽い。

 いつものことだが──さっきまで指一本動かせなかったってのが嘘みてえだ。

 

 てことは──次があった。本当に次があったんだ。

 あの成り代わりの魔法は、ノエリスが言うには「理論上あり得ない」ってことだが、それでもやっぱり実際にはちゃんと動くってことだよな。

 アイツの理解の及ばないとんでもない魔法だったから、俺が生きてるうちに解析を終わらせられなかったってだけで、魔法そのものは問題なく機能してたと。多分そう言うことだろう。

 確証は持てねえが、とにかく俺は生き返った。十一回目の人生だ。

 

「……ノエリス」

 

 アイツ、あの後、どうなったんだろうか。

 

 俺が死ぬ直前、なんとか引き留めようと必死に解析結果を話してくれてたのは覚えてる。「アシェルって名前の別の肉体が作られる」とか「真面目で敵意を持たれないよう認識させられてる」とか「死因が原因で魔法が止まることがある」とか。

 ただ、それでも俺が生き返れるかどうかの是非は分からないままで、とにかく焦った声で話しかけたとこが記憶に残ってる。会えることならもう一回会いに行って、「俺は無事だ」ってことを伝えに行きてえが……いざ一人で外から入っていって、真の迷いの森の中心まで辿り着ける自信がねえからな……。

 

 まあ……考えても仕方ねえか、今の俺にできることは何もねえし。

 またいつか、何かの方法で会えることを祈るしかねえよな。お前が元気でいてくれることを願ってるよ。

 

「さて、と──じゃあ、いよいよ本題だが……ここはどこだ?」

 

 毎度恒例の場所・立場確認だ。

 もうこの作業にもすっかり慣れちまった。死後の作業になれるってなんなんだろうな。

 

 寝てる場所は……でけえベッドだな、これ。俺一人で寝るには贅沢すぎるぐらいのサイズだし、生地も今までにないほど肌触りがいい。枕もふかふかで、羽毛か何かが詰まってやがる。庶民が使うような藁の枕とは訳が違う。

 天井もやたらめったら高え。その上、絵画みたいな模様が描かれてて、金色の縁取りまである。家具も全部立派だ。机も椅子も、一つ一つが芸術品みてえな作り。彫刻が施されてて、木材も一級品って感じだ。脚の部分にまで細かい装飾が彫られてて……こんなもん作るのにどれだけ時間がかかったんだろうか。

 床も違う。石畳じゃなくて、何か高そうな木材が敷き詰められてる。一枚一枚が綺麗に磨かれてて、月明かりを反射してるような。継ぎ目もほとんど見えねえし、カーテンも分厚くて、光を遮るためだけじゃなくて装飾のためにあるような感じだ。模様が複雑で、見てるだけで目が疲れてくる。

 

 ……こんな高級そうな部屋、今まで使ったことねえぞ。

 酒家の自室だって、執事の自室だって、ロエマの家だって、ここまで豪華な見た目じゃなかった。ガルトンの部屋でさえ、こことは比べ物にならなさそうだ。ネルなら目を輝かせて懐に入れていきそうな宝の山そのものってところ。

 

「……そうだ、窓の外は」

 

 今の状況を確かめるなら窓の外を見るに限る。窓があるかどうかでまともな部屋なのか分かるし、窓の外の街並みを見れば今の場所が王都かどうか分かるし、窓の外から王城を見れば大体の現在地を測ることもできる。

 

 ていうか、窓まで豪勢なのかよ。バカみてえなデカさしやがって。

 街並みは……確かに王都だな。映る景色からして──相当高い階層にある部屋らしい。

 

 で、えっと、えっと……。

 

「……あれ?」

 

 ……王城が見えねえ。

 

 バカみてえに広い庭は見える。手入れの行き届いた芝生と、綺麗に刈り込まれた木々と、汚れの何一つない噴水まである。

 ただ、どれだけ遠くを見ても──王城が見つからねえ。

 

 いや、待て。王城が見えねえってことは──逆にここが王城の中ってことか? 

 じゃあ今度の俺は、王城内の関係者に成り代わったって? 

 

「……鏡だ、鏡を見れば何か……!」

 

 部屋の隅に確かでけえ鏡があったはずだ。全身が映るヤツ。

 あー……知らねえ顔だ。そりゃ当たり前か。毎回違う顔になってんだから。

 

 今回は……男だな。年齢は二十代ぐらいか? 髪は金色で、顔つきもだいぶ整ってる。

 寝間着も高級品だ。生地が触ったこともないヤツ。少なくとも庶民が着るようなもんじゃねえ。刺繍まで入ってやがるし、胸元には紋章みたいなもんまである。

 どっかで見たことありそうな紋章だ。曖昧とはいえ、んなこと気にしたことねえ俺でも覚えてるってことは──相当な大物ってことだぞ……。

 

「とりあえず、一回外に出るか……」

 

 状況が分からねえし、この部屋だけじゃ現状何も分からねえ。

 多分真夜中だし、音さえ立てなきゃ誰にも見つからねえだろ。

 

 扉はどこに……ああ、あそこか。

 鍵はかかってねえみたいだな、よし。そっと開けて──

 

『……殿下? どうなさいましたか』

 

 ──うおっ!? 

 え、やべ、普通に外に誰かいるんじゃねえか──

 

 

 

 ……でんか? 

 でんか、って……? 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 結局護衛に見つかって部屋に戻されて。

 そのまま寝るに寝れず朝を迎えたら、今度は侍従が何人も来て「お着替えの時間です」だの「お顔をお拭きしましょう」だの言いながら、俺の体を触りまくってきやがった。マジで? 今の俺ってそのレベルで偉いヤツなの? そんなヤツに今なっちまったのか俺? 

 

 状況が分からねえから抵抗もできねえし、何か変なこと言って怪しまれるのも嫌だし、結局されるがままになっちまって、訳も分からないまま見た目整えられて別の場所に連れて行かれたんだが。

 ……何だここ。

 

「広……」

 

 めちゃくちゃ広え部屋だ。天井も高えし、壁には絵画が飾られてるし、床には絨毯が敷かれてるし、窓からは見たことねえくらい綺麗な朝日が差し込んでるし……。

 机まででけえ。長方形の立派なテーブルで、椅子が何脚も並んでる。食器も全部ピッカピカで、ナイフやフォークまで装飾が施されて……絶対使いにくいだろこんな食器。

 並べられてる料理だって見たことねえぐらい豪華だ。パンに、スープに、肉に、魚に、果物に……豪華すぎねえか、これ朝飯だよな? 量も多えし、種類も多えし。

 

 んで、テーブルの向かい側に──誰かいる。

 若え女だ。年齢は……十代後半ぐらいか。髪は俺と同じ金色で、俺以上に顔立ちも整ってて、服装も同じく高級そうだ。ドレスみたいなもん着てやがる。多分ドレスだよな、あれ。自信ねえけど。朝飯食うのにそんな格好するか普通。

 

 

 

「──やあ、兄上。おはよう」

 

 

 

 ……兄上? 

 

「……どうかしたのか? 急に振り向いたりなどして……」

 

 ……他に今誰もいねえよな。

 近くにコイツの兄貴がいたって訳じゃねえよな。

 

 じゃあ、俺のこと言ってんのか、さっきの──兄上ってのは。まさかだとは思うが。

 ……とりあえず返事しとくか。変なこと言って怪しまれるのも嫌だし。

 

「ああ、おはよう」

 

 ん? 何だ今、ちょっと顔が変わったな。

 驚いたのか、それとも不満そうなのか、よく分からねえが何か反応があった。

 

「兄上は、今日も政務か?」

 

「えっと…………ああ、まあ」

 

 せいむ? せいむって何だ? 

 分からねえからとりあえず肯定しとくけど、もしかしなくても今の状況って結構面倒臭い立場だったりするんじゃねえか。

 

 ていうか、この子、どっかで見たことある気がするんだが……。

 

「そうか。では今日も──国のため、民のために、共に励もうではないか」

 

 国のため……民のため……。

 金色の髪、整った顔立ち、高級そうな服装……。

 

 

 

 ……あれ? 

 

 

 

 待て、この顔──ノエリスの窓で見た顔じゃねえか? 

 ああやっぱりそうだ、思い出した。あの時、ノエリスが「王女様の様子」って言って見せてくれた、あの女の子の顔だ。間違いねえ、この顔は確かにあの時見た。ノエリスが「軍議をつまらない」って言ってたの確かに覚えてる。

 

 ってことは、この女が──例の「アレ」ってことなのか? 

 コイツが、ルシアが憧れてるって言ってた、ノエリスが日常的に覗きをやってた、祝祭でパレードの中心人物だった……あの『王女サマ』なのか? 

 

 ……初めて生で見たぞ。

 えっと、名前は何て言うんだったか。見習い兵士や執事長の時にルシアが何度か名前を話題に出してた覚えがあるような気がするんだが……確か、「エリザベト」だったか? 学がねえと、この国の一番人気の女の子の名前だって分からねえんだよ畜生。

 意外にも噂の王女サマの姿を生で見れたことはなかったんだよな。見習い兵士の時も俺たちは祝祭の裏で揉みくちゃやって死んでたし。そこから多分、今に至るまでまだ一年経ってねえから次の祝祭もまだだし。

 へえ、ノエリスの窓で見た時にも思ったが綺麗なヤツだな。生憎俺はあんまり好きになれそうなタイプじゃなかったからそこまで興味無かったんだけども。生だとこんな感じか、思ってたより威厳があるというかカリスマ性があるというかなんというか……。

 

 で、今凄まじく嫌な予感がするんだが。

 いつもの「死に直結するタイプの嫌な予感」じゃなくて、ただ純粋に「嫌なことが予想できそうな感じ」って意味の嫌な予感がするんだが。

 

 目の前の女が──所謂、世間で大人気の聖人王女サマだとして。

 その王女サマには──王族にしては珍しく、兄弟がいなかったはずなんだ。

 ソイツが俺のことを、「兄上」って呼んでるってことは……。

 

 

 

「──兄上?」

 

 

 

「……っ! あ、ああ、悪い。ちょっと考え事してた」

 

「……そうか。兄上も色々と考えることがあるのだな」

 

 というか、さっきからこの女の子の見てくる気配に何か妙な含みを感じる。じっとこっち見て……何だ値踏みでもしてんのか、それとも何か疑ってんのか、何だろうなこの感じ。

 敵意ってほどじゃねえが友好的でもねえ、距離を置いてるっていうか警戒してるっていうか……。

 

「まあいいだろう。兄上、食事を」

 

「……ああ、そうだな」

 

 とりあえず飯食うか。

 このパン、めちゃくちゃうめえ。こんなうめえパン食ったことねえぞ、ふわふわでほんのり甘くてバターの香りがして……。

 スープもうめえ、野菜の甘みがしっかり出てて塩加減も完璧で温度もちょうどいい。肉もやべえ、柔らかくてジューシーで香辛料の香りが絶妙で……。

 バレク家やグロス家やガルトン邸やロエマにも飯を馳走になってた身分の俺ですら、ここまでのものを食べれた記憶はない。それが余計に……今の立場を実感させるような。

 でも、そうだよな。じゃなきゃ説明がつかねえよな。 

 

 今回の俺は──王族。

 ていうか、王女サマの兄ってことは、この国の王サマんとこの長男ってことで。

 

 王位継承権第一位ってこと……になる、よな。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「実は、その……今日は、体調が悪くてな」

 

「体調が、でございますか。では殿下、医者を呼びますので」

 

「ああいい、そこまでじゃない。休めば治る……はずだ」

 

「左様でございますか……」

 

 ……殿下。

 やっぱり俺のことを殿下って呼んでやがる。あんまり厳密な意味は分からねえが……多分殿下ってのは王子サマって意味だよな。もうそう呼ばれるしかねえのか。慣れるしかねえのか、これ。

 

「ああ。だから、今日の予定は……できれば、全てキャンセルにしてほしい。頼めるか……?」

 

 多分こうやってずっとついてきてる男は──側近の人間なんだろう。俺に急に仮病を使われて、まあ当然のように困った顔してやがる。

 ただ、すまねえな。政務……多分王族としての仕事だよな。んなもん言われても、俺には何すればいいのか全く分からねえ。そんな状態のヤツにこの国のあらゆる要素を左右する大役を担わせるってのは、アンタとしても気が進まねえはずだよな。

 

「殿下、本日は重要な会議が……」

 

「悪い、本当に無理なんだ。体調が悪くて、頭も回らねえし」

 

「……承知いたしました」

 

 よし、助かった。

 

「では、本日出席の会議は緊急のものを除いて全て延期と致します。その間は自室で、政務の書類のみお目通し頂くということで」

 

「えっ? ……あ、ああ」

 

 おっとお? 

 

 机の上に書類が山積みになってる。側近のヤツが何枚か選んで並べてくれたらしい。

 俺は体調が悪いって言ったはずなんだが。もしかして王族って多少気分が悪いぐらいなら普通に部屋でできる仕事を全部押し付けられるってことなのか? 

 夢がねえなあ。金持ちの頂点ってのは案外好き勝手できねえ立場なのか。

 

「ではこちらが、近日中に処理が必要な緊急性の高い書類でございます」

 

 ……うげえ。

 めちゃくちゃ多えじゃねえか。しかも全部難しそうな内容が書いてある。何だこれ、全然読めねえぞ。文字は読めるが意味が分からねえ。なんか文官の時もこんな感じだった気がするが──あの時に比べてレベルが一つも二つも違う。少なくともまともな文官も勤めきれたか怪しい俺にはどう足掻いても無理だ。

 

「えっと……これは……」

 

「こちらは北部の税収に関する報告書でございます。こちらは南部の治安に関する報告書で……」

 

 税収? 治安? 何のことだ? 

 一つ一つ説明してくれてるとこ悪いが、全然頭に入ってこねえぞ。専門用語ばっかりで何が何だか分からねえし、そもそも俺にこんなもん処理できる訳がねえだろ。適当にサインでもすればいいのか? 

 

 ……ん? なんだこの小せえ紙……。

 なんか一つだけ避けて置かれてて……。

 

「これは?」

 

「ああ、それは嘆願書でございます」

 

「……嘆願書?」

 

「はい。処刑予定の罪人への、助命嘆願でございます」

 

 ……処刑予定。

 懐かしいな。なあ側近のおっさん知ってるか? 俺も昔処刑されたんだぜ。

 この嘆願書を書いたヤツは、そんなヤツを助けたくなったと。

 へえ。俺にはそんなの無かったけどな。まあ俺なんて助けたいヤツいねえからな。

 

 ていうか、王族ってこんな仕事もするんだな。

 あれか? 色々な審査を通して、最後に俺がチェックする、みたいなヤツなのか? 

 

「どんな罪なんだ?」

 

「機密書類の悪用、とのことです」

 

「機密書類の……悪用?」

 

「はい。王国の機密書類を不正に使用したとして逮捕されました。ただ嘆願者は、これを不当逮捕だとして再調査を要求しております」

 

 不当逮捕かあ。

 機密書類の不正利用ね。んなもん不当も何もないと思うが。

 犯行現場を見られた見られてないってケースより、ちゃんと証拠が残った事件だったってことだろ。

 

「殿下、この嘆願書は通常であれば却下されるものでございます。嘆願者は罪人には個人的な交友があったことが確認されており──そもそも機密書類の悪用は重罪、証拠も揃っておりますので」

 

 ……待てよ? 

 俺もその犯人はクロで間違いねえと思うが……この書類が出てるってことは、一応仕事としてこなさなくちゃならねえってことだよな? 

 

 じゃあ俺はこの罪人に会いに行って、その罪人を「コイツはクロだ、嘆願書は受理しない方向性で通せ」って命令したら、俺は一応仕事をしたことになるんじゃねえか? 

 俺のとこに紙が来てるってことは俺の最終判断が必要ってことだろ? で、俺は分かり切った有罪判決をその場で決めるだけで、サボりじゃなくてちゃんと仕事をしてますよってアピールができる。だよな? 

 

「なあ、この罪人に会いに行けるか?」

 

「……会いに、でございますか?」

 

「ああ。様子を見に行きたい」

 

 困った顔してやがるな。

 まあそりゃそうか、王子が急に罪人に会いに行くとか言い出したら、そりゃ困るよな。

 

「殿下、それは……」

 

「体調が悪くて執務ができねえんだ。だから代わりにこれぐらいの仕事は早めに片付けさせてくれ。いいだろ?」

 

「……承知いたしました。では牢獄へご案内いたします」

 

「ありがとう。助かる」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「……殿下、一つ申し上げてもよろしいでしょうか」

 

「何だ」

 

「はい。この嘆願ですが、いくら殿下といえど無暗に受け入れますと、王位継承にも悪影響が……」

 

 ……王位継承? 

 ああ、そういうことか。

 

 多分、俺とエリザベトが次の王サマの候補ってことで、無暗矢鱈と犯罪者を出してると王位継承に響くからやめてくれよってことだよな。

 俺の記憶じゃ、王になるのはエリザベト王女でほぼほぼ確定だったはずなんだが──俺自身が新しく王子として生成されたことで、この国じゃ「王の二人の子供たちが次期争いをしている」って認識になってるってことだよな。

 

 俺は全然エリザベトが次期国王でもいいと思うんだけど。

 俺自身国王なんてものになる気は全くねえし。別に好きにすればいいぞ。

 

 ま、そんなことそのまま言う訳ねえが。

 

「大丈夫だ。別に嘆願を受け入れるつもりはねえから」

 

「……と、仰いますと?」

 

「だから、罪人に会って、コイツはクロだって判断して、嘆願は却下する。それだけだ」

 

「ああ! 左様でございますか。それならば問題ございません」

 

 そうこうしてると……やっと着いた。牢獄の入り口だ。

 ああ懐かしい。俺も昔ここに捕まってたんだよな。ここからすべてが始まったんだ。

 看守が二人、門の前に立ってて、俺たちを見て慌てて頭を下げてる。おお、この二人にも覚えがある。少なくとも牢の中じゃ俺を人間扱いはしてくれなかった連中だ。

 

「殿下! ようこそおいでくださいました!」

 

 ……おお。すげえ。

 一回目の人生で俺を見下した目で見てた看守の連中が、今じゃ俺に対しビクビクしてやがる。ちょっと悪い気がしてきた。急にこっち来たのは俺だし、そのこと知らされたのだって今日その日なのに。

 側近が「罪人を部屋に連れてきましょうか?」とか言ってたのを、時間稼ぎの邪魔になるからって俺が拒否したから、俺の方から出向くことになったんだ。すまねえな、俺の我儘でわざわざ緊張するハメになっちまって。

 

「ああ。ちょっと人に会いに来た。急で悪いが通してもらえるか?」

 

「承知しております! こちらへどうぞ!」

 

 ……ああ、懐かしいな、この匂い。

 湿った石の匂い、錆びた鉄の匂い、そして人間の匂い。嫌というほど嗅いだ匂いだ。

 

「殿下、あちらの牢でございます」

 

 ああ、あれか。

 どれどれ……。

 

 

 

『すみません。僕の計画で、二人とも捕まることになってしまって……』

 

『……別に。俺だって、アシェルの望みなら……叶えてやりたいと、思っただけだ』

 

『いえ、それでも僕は、協力してくれたあなたまで巻き込むつもりは……』

 

『捕まるのを承知で、協力を持ち掛けたのは……俺だ。だから、気にしなくて……いい』

 

『……そうですか──ありがとうございます。あなたと、シェラさんと、あの集会で出会ったもう一人の協力者のおかげで──ヴェインは死んだ。先輩の無念は晴らせた訳ですから』

 

『いや……俺だって。アシェルの……アイツの叔父の仇を打てて、悲願を遂げられて、満足してる』

 

 ん? 

 あれ? この声……。

 

 

 

『それでも、ありがとうございます。あなたと知り合えてよかった──カルさん』

 

『……俺こそ。うちの常連と、墓まで一緒とは……思ってなかった──タリエ』

 

 

 

「──で、どう致しましょう、殿下。とはいえ答えは勿論……」

 

 えっ? 

 あっ。

 

「は? いやいやいやいや何言ってるんだお前。釈放だ釈放今すぐあの二人を解放しろ。拘束を全部解除して俺の部屋に連れて行け」

 

「えっ? えっ!? で、殿下!? 殿下ーっ!!?」




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