【完結】俺は死んだはずだよな?   作:破れ綴じ

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ちょっと場面移動が多すぎて分かりにくいかもしれませんね。
どうしたものかなあ……(´・ω・`)


大騒ぎの会合と仲間との合流

「……左様でございましたか。殿下の御命を救った恩人たちだったと」

 

 ……ふう。

 よし、どうにか通りそうだ。

 

 側近の男は、納得したような顔で頷いてやがる。

 大急ぎででっちあげた「昔、隣国へ訪問道中、馬車が崖から落ちちまって。その時に助けてもらった」なんて、三文芝居もいいとこの作り話だったが。マドリーの「感極まって取り乱してしまいましたわ」っていう涙の演技が効いたみたいだ。

 急に泣き出したから俺はビビったぞ。そこにすぐ乗せられた俺も俺だが。

 

「そうだ。で、さっきの謁見は……俺たちの間で決めてた合言葉みたいなもんだから。その、お前たちは気にしなくていい」

 

「で、あれば。無下にはできませぬな──それにしても、今の態度は度が過ぎるように思えますが……」

 

 いやまあ。

 それは俺もそう思う。流石に。

 

「それにしても、本当にアシェルだったなんて……となれば、私は王子妃ということになるのかしら?」

 

 マドリーは椅子に座る俺の頭を胸に抱きしめて、ひたすらに撫でてきてるし。

 そろそろやめてくれないかな。なんか当たってるし、普通に恥ずかしいんだけど。

 

「兄貴が王子かー……やっぱ兄貴が一番すげーんだな! うちの酒も今以上に箔がつくぜ!」

 

 リアンは俺の腹当たりに抱き着いたまま、ずっと頭を擦り付けてきてる。

 お前には分からねえだろうが結構くすぐったいんだぞ。後でお前にもやってやろうか? 

 

「王族ってのもいいけどさあ、アシェル兄はいつ私のとこに帰ってくんの? ずっとここにって訳じゃないでしょ?」

 

 ネルは俺の足に全身で抱き着いてまるで離そうとする気配がねえ。

 これも大概くすぐっ……おい、今舐めなかったか? え、舐めたよな? なんで? 

 

「あ? ネル、抜け駆けか? アシェルは俺の兄貴なんだから、てめーにどうこうする権利ねーだろうが!」

 

「うっさい! そもそも私の方が先に妹だったんだけど!? 後から弟になった癖に!」

 

「ほらアシェル、こっち行きましょう? 煩い二人は放っておけばいいわ」

 

「──な? こんな感じで特に問題はないはずだろ?」

 

「……まあ、殿下がそう仰るなら、我々から何か言うことはありません」

 

「ありがとう、悪いな」

 

 この光景を見せられれば、誰だってこの三人に敵意がないことは見て取れるだろう。武器を手に取る必要性はないってことだ。それ以上に、「王族に対して度が過ぎる態度」の説得力も並行して増していく訳だが。

 ていうか、そろそろ重い。物理的にも精神的にも重い。マドリーの圧と、リアンの体重と、ネルの締め付けで、俺の体力がガリガリ削られていく感じがする。

 

「それで殿下。彼らについては……」

 

「あー……もう夜だし、コイツらには今夜王城に滞在してもらうことにする」

 

 よくよく考えりゃもう夜中だ。こんな時間にコイツら三人を外に放り出して帰れって言うのはあまりにもばつが悪い。

 俺の現在についての説明もしなきゃならねえし、逆にどうしてここにいるのかとかの話も聞かせてもらう必要があるから、とりあえず落ち着ける場所に移動しよう。そこならいくらくっつかれても問題ねえし。

 

「だから、えーと……一番良い客室を用意してくれ。命令だ」

 

「承知致しました。では、直ちに賓客用の部屋を用意させましょう。案内致します」

 

「ありがとう。ほら、お前ら、行くぞ……って」

 

 ああこら、まとわりつくな。止めろ離れろ、一歩歩くたびに「兄貴ー」「アシェル兄ー」って両方から喋りかけてくんじゃねえ。平衡感覚が狂っちまうだろうが。圧かけてくるだけで何もしねえマドリーを見習えよ。あっちもあっちで怖えけど。

 ほら、側近が明らかに困惑してるじゃねえか。周りの護衛たちも「は、はあ……」って感じだったのが見えなかったのか。俺だからいいんだが、他のヤツらにやったら間違いなく面倒事になるし、もっと冷静になってくれねえと。

 

 おら、さっさと廊下に出て──

 

 

 

「──やあ、兄上か。こんな時間まで政務とは、精が出るな……って、え?」

 

「あっ」

 

 

 

「えっ、あっ……き、緊急事態! 衛兵、衛兵! 不届き者を捕らえよ! お兄様──じゃなかった、兄上を救出しろ!」

 

「また妹か! 兄貴には弟の俺だけで十分だってのに!」

 

「誰コイツ! 何アシェル兄に気安く『兄上』とか『お兄様』なんて呼んでんの!?」

 

「こら! 二人とも落ち着け! エリザベトも! コイツら不届き者じゃねえから!」

 

 ああもう! 俺が王子ならこうなること分かり切ってただろ! 

 よりにもよってエリザベトに対抗意識燃やしてんじゃねえ! 俺と違ってガチ王族なんだから! こっちに不敬働いたらマジで問題なんだぞ! 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 エリザベトには「俺の古い友人だ」とだけ伝えて、なんとかその場は収まった。

 リアンとネルは最後まで不満そうだったが、マドリーが二人の首根っこを掴んで黙らせてくれたおかげで、それ以上の騒ぎにはならずに済んだ。エリザベトも「兄上にも色々あるのだな」と呆れ顔だったが、深くは追及してこなかった。

 

「──とまあ、そういう訳だ。信じられないかもしれないが、俺は何度も死んで、今回はこの体で目覚めたってことになる」

 

 で、今は客間だ。

 長椅子に腰を下ろして、向かいに座る三人に成り代わりのことを一通り説明し終えたところだった。盗賊から始まって、酒家の跡取りや盗賊のリーダーを経て、今の立場にいるんだと。我ながら口に出すと馬鹿みたいな話だと思うが、これが事実なんだから仕方ねえ。

 

「……成程ね」

 

 マドリーは腕を組んだまま、難しい顔で俺の話を咀嚼しているようだった。

 信じていないって顔じゃなさそうだが……。

 

 ちなみに弟妹二人にはあんまり話してない。さっきからずっと「なんでだよー……兄貴は俺だけの兄貴だったはずじゃねえのかよー……」とか「今のアシェル兄とは兄妹じゃないからむしろあの女よりチャンスってこと……?」とかブツブツ言ってて、あんまり頭に入ってなさそうだし。

 

「正直なところ、魔法や呪いの存在含めて、納得できるかと言われれば全くできないわ」

 

「そうか……じゃあ──」

 

「──ただ、貴方が私の知っているアシェルであることは間違いない。話し方も、仕草も、私を見る目も、全部あの時のまま。だから、理解はできる」

 

「……!」

 

 お……おお! 

 分かってくれるのか! 

 

 流石マドリーだ。コイツは頭の回転が速いし、物分かりも悪くない。知らない知識に対しても、現実に何が起こってるかを把握して、頭の中でしっかり情報を整理しようとしてくれてる。

 礼を言おうとして口を開きかけたが、マドリーは「礼には及ばないわ」と先回りして遮ってきやがった。本当に敵わねえな。

 

 

 

 あの後、どうして三人が今の状況にあるのか聞いてみたが、これまたマドリーが懇切丁寧に教えてくれた。

 

「──というのが事の顛末よ。分かってもらえたかしら?」

 

「おう。おかげで理解できた。助かったよ」

 

「どういたしまして」

 

 へえ……なるほど、そんなことが。

 

 マドリー曰く、マドリーとリアンが森で遺品盗難の犯人を捜しまわってた後、俺を殺した「眠らずの狼」の残党を見つけたらしい。聞いてた感じだと、残党は俺を殺した後遺品を全部奪って行ったらしく、二人はそれを証拠に残党共を真犯人だと断定して、数の暴力で「始末した」と。

 こわ。自業自得だけど。

 

 で、その後、近くで俺の遺体と、傍らで泣き崩れているネルを発見したんだと。

 ネルには王都に行けって言ってたはずだが……不安になって戻ってきちまってたのか。

 マドリーはネルのことを例の墓荒らし犯だと、リアンは働きに来ていた兄妹だと思ってたから、「ここで彼女も始末しましょう」「流石に可哀想だろ」の二つに意見が割れたらしい。どちらも、兄を失って泣き叫ぶネルを遺品泥棒本人だとは疑わなかったようだ。

 

 で、何故かネルは俺の「成り代わり」のことを察していて、そのことを二人に話したらしい。これについては何故か分からないが……もしかしたら一緒にいた時から、ネルは俺が一番初めの俺と同一人物だと悟ってたのかもしれねえな。

 目の前の人間が「複数のアシェル」について話し出し、リアンとマドリーも「別のアシェル」を知っているから、「成り代わり」にも心当たりがあった。しかもネルの語る「アシェル」の特徴が、自分たちの知っている「アシェル」と完全に一致していることに気づいた──結果として、二人はネルを保護することに決めたという。

 

 そして、「次のアシェル」を探すため、それぞれの共通点を炙り出していって──同じ名前で、初めからいたと認識していて、急に性格が変わった人物を探すことにした、と。

 完璧じゃねえか。やっぱり面子にマドリーがいたからそういう可能性にまで思い至ったんだろうが。

 

「貴方がネルに残した手紙の中で、王都に行くように指示を書いていたでしょう。だから、次の貴方が王都にいる可能性があると考えて、三人で王都に来たのよ」

 

 手紙書いててよかったー……。

 コイツらはネルの発言を信じて、俺の残した僅かな手がかりを頼りに、ここまで来てくれたってことか。

 

「──それで、アシェル。今夜は私の部屋で寝るのよね?」

 

 ……は? 

 

「婚約者として、夫の寝所の安全を確認するのは義務だわ。それとも──私が貴方の部屋に行こうかしら?」

 

 えっ……は? 

 

 何を言い出すんだコイツは。真顔で言うことじゃねえ。

 確かにもう遅い時間だが、さっきまでの話とまるで脈絡がねえぞ。

 

「え!? じゃあアシェル兄、アタシの部屋来てよ! ベッド大きいから今度こそ二人でも寝られるよ!」

 

 うわ。ブツブツ言ってたネルまで乗っかってきやがった。

 

 いや待て、落ち着け。俺は今、この国の王子なんだぞ。

 この王城だって俺の家なんだ。その俺がなんで客間で寝るんだよ。明日また会いに来るから、一晩だけ大人しくしてくれればいいのに。明日は明日で、皆で外に出てやることがあるんだし。

 

 そもそも、マドリーもネルも俺と一緒に寝る理由がねえじゃねえか。そういう約束した訳でもねえのに──

 

 

 

「──ん? 兄貴は俺の部屋で寝るんじゃねえの? 兄貴が死んだあの日、俺のとこに戻ってくるって約束してたよな? だろ?」

 

「おっとそうだったそうだったリアン今晩はよろしくな。さあ男だけの夜更かしと洒落込もうぜー」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

『や、やっぱり……反応は、王城から出てるよね……これじゃ、だ、誰が次の人なのか、分からないなぁ……』

 

『あの、我々は何をすれば……』

 

『……あっ? あ、ああ。そうですね──じゃあ、皆さんは、王城から出てくる馬車を、強襲して、みましょうか』

 

『え? 強襲?』

 

『……これで情報が、集まるかなぁ……』

 

『強襲? 我々が? 王家の馬車に? えっ?』

 

 

 

「……こっちに行きましょう」

 

「うおっ……っと」

 

 マドリーか。何で急に引っ張るんだ。

 昨日全員で王城に泊まって、今日は皆と用事があるから、お忍びで外に出てるんだぞ。あんまり護衛が驚くようなことされちゃ困るんだけど。後で俺が側近に怒られるんだけど。

 ……まあ、マドリーがこういう顔してる時は従っておいた方がいいか。

 

「……あの連中には近づかない方がいいわ。危険よ」

 

「連中……?」

 

 何の話だ? 

 ……って、ああ、あのローブ。道の向こう側にいるのは──光明の教会の連中か。

 気づかなかったが、あんな日中から堂々とローブ着て動いてるのかよ。確かに関わりたくねえな、アイツらには。

 

「昨日の話を聞く限り──貴方も知っているのでしょう? あの組織は、表向き慈善活動を装っているけれど、裏では色々やっている。少なくとも、貴方が王子という立場にいる間は関わらない方がいいわ」

 

 だな。昨日、俺がかつて信者だったってことも話したからな。

 あの献金の横領、信者の洗脳、不要になった人間の処分も全部。場合によっちゃこの中の誰よりも詳しいかもしれない。

 で、マドリーは教会の連中を支配下に置いてたこともあったから、連中にいち早く気づいたのか。

 

 ……まあ、そうだな。

 王子が特定の宗教団体と接触したなんて噂が立ったら、面倒事にしかならねえ。俺の正体がバレる危険だってある。ソラナのことは気になるが……今は関わるべきじゃねえか。

 

「分かった。近づかねえよ」

 

「賢明ね」

 

 

 

「ところでアシェル兄、これって今どこに向かってるの?」

 

「隠れ家だ。信用できる連中を匿ってる」

 

 それよりネルは掴んだまま離さねえ袖を離してほしい。

 お前、王城出てからずっとくっつきすぎだぞ。まあ嫌じゃねえけど、歩きにくい。

 

「へー! そんなの持ってるんだ。凄いじゃん!」

 

「いやあ……」

 

 凄いっていうか。ロエマに用意してもらっただけなんだけどな。

 でも、こうやって素直に感心してくれるのは悪い気分じゃねえな。

 

 市場を抜けて、人通りの少ない路地へ進んでって。護衛には離れてついてくるよう言ってある。三人との会話を聞かれたくねえし、そもそもガチガチに守られながら移動するのは俺の性に合わねえし。

 

「兄貴の仲間かー。どんなヤツらなんだ?」

 

「会えば分かる。悪いヤツらじゃねえよ」

 

「えー、教えてくれたっていいじゃんかよー」

 

「すぐ着くんだから待てって」

 

 リアンも気になるか。

 反対側からぐいぐい寄ってくるのを止めればすぐ教えてやってもいいんだが。挟まれてるぞ、俺。

 

 タリエとカルとロエマとレミ。

 成り代わりのことを知ってて、今の俺に協力してくれてる仲間たちだ。

 この三人も王都で自分たちの仕事と並行しながらこれから一緒に動くって約束してくれたし、それなら顔合わせは早いに越したことはねえ。

 ……レミのことをどう説明するかは悩むところだが。そもそもアイツを「仲間」と言い切っていいのか、正直まだ分からねえけど。少なくとも敵じゃねえってことだけは確かなんだが。メイドがメインの護衛だって聞かされても普通意味が分からねえよな。

 

「アシェル、私のことも紹介してくれるのよね?」

 

「当たり前だろ。お前らも俺の仲間だ」

 

「……ふふ、仲間、ね」

 

 マドリーは涼しい顔で隣を歩いてる。

 コイツは落ち着いてるな。リアンとネルが騒がしい分、余計にそう見える。

 ただ──何だその含み笑いは。もしかして婚約者って言ってほしかったのか? 

 言ってもいいんだが……今の俺は酒家のアシェルじゃないから俺たちの親がちょっと困るんじゃねえか? 

 

「アシェル兄ー、まだー?」

 

「もうすぐだって」

 

「兄貴、腹減ったー」

 

「着いたら何か食わせてやるから」

 

 やかましいな、コイツら。

 ネルは相変わらず袖を離さねえし、リアンは隙あらば腕を組もうとしてくるし、マドリーは涼しい顔しながらもやたらめったら距離が近えし。三人とも、俺から離れる気がまるでねえらしい。

 でも、こうやって騒がしいのも悪くねえか。嬉しいようなくすぐったいような、こそばゆいな、この感じ。王城にいる時とは全然違う。肩の力が抜ける感じがする。

 

 とか考えてたら……見えてきたな。

 ロエマが用意してくれた隠れ家だ。外観はぼろいが、それがいい。目立たねえし、誰かに見つかる心配も少ねえ。個人的には王城なんかよりずっと落ち着く場所だ。

 

 いつもは建物の外にレミがいるはずなんだが……いねえな。見回りに出てんのか? 

 まあいいや、鍵はかけてあるし、その鍵は俺が持ってるし。

 

「じゃあ入るぞ。紹介したいヤツらがいる」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「──あれ? タリエだけか?」

 

「あっ、先輩! お疲れ様です! えっと、今は僕だけですね。カルさんはロエマさんと買い出しに行ってて、レミさんは外の見回りをしてくれてます」

 

「そうか。まあいいや、丁度いいか」

 

「? えっと、先輩? 今日は何か──」

 

 

 

「──紹介するな。リアンとマドリーとネルだ」

 

「リアンだ! 兄貴の弟だぞ!」

 

「ネル! アシェル兄の妹!」

 

「マドリー、アシェルの婚約者よ」

 

「……え? 弟? 妹? 婚約者?」

 

 

 

「今日からこの三人も隠れ家に来ることがあると思う。把握しておいてくれ」

 

「えっ? いや、えっ?」

 

「ちなみにマドリーはかなり頭が良い。タリエ、お前の作業の助けになるよう頼んだから、困った時は頼ってくれ」

 

「……いや……その、誰ですか?」




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