【完結】俺は死んだはずだよな?   作:破れ綴じ

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今回遅れたのはシンプルに関係性がこじれすぎたせいです。
意味もなく因縁とかを増やし過ぎるのは止めましょう……_(:3」∠)_


ややこしい関係性と来客が齎す真実

「全員武器を下ろせ! 毒も置け!」

 

「せ、先輩……!」

 

 ああクソ、タリエ、そんな顔すんな。

 今にも泣きだしそうじゃねえか、やっぱりお前も怖いんじゃねえかよ。お前にそんな顔させたくなかったんだ。

 

「タリエ、その毒を置け。お前が死ぬ必要はねえ」

 

「で、でも……!」

 

「いいから置け。俺が何とかする」

 

「……はい」

 

 よし、置いてくれた。

 よかった、最悪の事態だけは避けられた。これでタリエが自爆する心配はなくなった。

 

 ……で、問題はこっちだ。

 

「なぜ殿下がここに……」

 

「なるほど、そういう……」

 

 ──ルシアと、ベラ。

 

 二人とも敵意むき出しで俺を見てる。

 そりゃそうだよな、いきなり王子が現れて、しかもタリエと面識あるんだから。

 

 状況的に二人はタリエをこれまでの事件に関わった一員だと見てて、二人とも王国政府上層部の絡んだ事件でアシェルが殺されたと思ってるんだから……タリエに元締めっぽい呼ばれ方をしている、王国の頂点の王子が出てきたら──間違いなく俺が黒幕に見えるはずだ。

 

「……ッ」

 

 ルシアはボロボロだ。

 装備が破損して血が滲んで──レミとの戦闘で相当やられた……ってことだよな。レミが言ってた通り、左腕と右足からはだらだら血が流れてて、特に左腕は肩からぶらんとぶらさがったまま、動こうとしてねえ。

 

 ただ、それでも、レミに勝てるルシアが突っ込んでくりゃ──俺は為す術なく殺されちまうだろう。そうしないのは単に俺が王子だからだ。

 コイツは俺の「偉い兵士になれ」っていう遺言を大事にしてくれてるみたいだから、いくら兵士アシェルの敵の可能性があるとはいえ、軽率な真似はできねえ。王族に手を出したら、夢も何もかも終わりだもんな。

 

「……まさか王子がこの怪しげな隠れ家の主だったとはな」

 

 そうなると──俺を糾弾する役割は必然的にベラがやることになる。

 療養中に会った時の、あの弱々しくも穏やかだった面影なんてどこにもねえ。写本師の時に遭った、あの何をしでかすか分からないベラの目つきだ。完全に敵を見る目だ。

 

「やはり、お前が黒幕か」

 

「ッ、待ってくれ。俺は──」

 

「──黙れ」

 

 おいおい待て待て、短剣を向けんな! 近い! 喉元に突き付けんな! 

 

「ベラ! 流石に……!」

 

「だから何だ、ルシア。お前も仇は討ちたいだろう。お前にはできないから私がやろうと言うんだ」

 

 ああクソ、止まらねえよな、そりゃそうだ。

 ルシアと違って、コイツにとっちゃ王子だろうが何だろうが関係ねえんだ。大切な人間を殺した黒幕かもしれない相手に、遠慮なんてできるはずがねえ。墓を掘り返すほどの執念で俺を探し続けてきた女だぞ。止まる訳がねえ。

 

 実際に俺は黒幕じゃねえんだが……今何を言っても言い訳にしか聞こえねえよな。

 どうする。どうすりゃいい。このまま何もしなきゃ殺される。かといって抵抗したら余計に怪しまれる。増援もまだ来てねえ。

 落ち着け、考えろ。

 俺が黒幕じゃねえことを証明するには、どうすりゃいい。何を言えば信じてもらえる。何をすれば──

 

 

 

「……分かった。俺を拘束すればいい」

 

「……何?」

 

「逃げる気はねえし、どんなことでも話す。だから──まずは俺を拘束しろ。その上で話を聞いてくれ」

 

 問題は信じてもらえるかどうか。

 だが、その前に今は──この状況で殺意を収めてもらう必要がある。

 

 黒幕だと思ってた敵があっさり拘束を受け入れて、自分を殺しかねない相手に情報をべらべら喋るって言ってるんだ。それなら、今すぐ殺そうって発想にはならねえだろう。まだ俺が犯人って確証もねえんだし。

 

「……罠か?」

 

「いや、罠なんかじゃねえ。証明はできねえが──俺はお前たちと話がしたいんだ。お前たちが探してる『アシェル』についても知ってるし、全部話す」

 

「……ふむ」

 

 頼む、信じてくれ。

 俺は本気だ。本気で話したいんだ、コイツらに。全部。

 二人は話し合ってるみたいだが……迷ってるのか。

 当然だ。でも頼む、話を聞いてくれ。それだけでいい。

 

「……いいだろう。だが、少しでも怪しい動きを見せれば──」

 

「分かってる、好きにしろ。ほら」

 

 ……よし! 

 

 ひとまず拘束を受け入れてくれた。

 これで少なくとも話を聞いてもらえ……きっつ。縄きっつ。

 手首が千切れそうだぞ、ベラ。容赦ねえな。

 まあ黒幕だと思ってんだから当然か。痛えけど我慢するしかねえな。

 

「タリエ。王子の命が惜しいなら、お前もそこを動くなよ」

 

「……っ、はい」

 

 すまねえ、タリエ。

 

 俺を守ろうとして、毒まで持ち出して、それでも結局こうなっちまった。

 でもお前の覚悟は絶対に無駄にしねえから。俺が何とかするからな。

 

「これで……よし──さて、王子様。話を聞かせてもらおうか」

 

 来た。

 本番だ。ここからが勝負だ。

 

 タリエにも、カルにも、ロエマにも、マドリーにも、リアンにも、ネルにも──俺は成り代わりのことを話してきたし、それを皆信じてくれた。荒唐無稀な話だったのに、受け入れてくれた。

 だから、コイツらだって。俺のことをずっと探し続けてくれてた二人なら、信じてくれるかもしれねえ。ていうか、信じてくれなきゃ困る。俺だってずっとコイツらに会いたかったんだ。

 

 だから、コイツらにも──俺の全部を──

 

「……俺の話は、多分信じられねえと思う。普通あり得なくて、馬鹿げてて、おとぎ話みたいな話だ」

 

「いいから話せ」

 

「ああ、聞いてくれ。俺は──」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「──と、いう訳だ……その、信じられねえ話だとは、思うが……」

 

 ……全部話したぞ。もうこれで三回目か。

 成り代わりのこと。何度も死んで生き返ってきたこと。元は盗賊から始まって、兵士になったり、文官になったりして──今は王族だってこと。

 俺がアシェルだって証拠に、ルシアやベラとの思い出も話した。朝の走りのこと、装備の金具の癖を直したこと、祝祭の夜に庇って腹を刺されたこと、「偉い兵士になれ」って言ったこと。押収庫の扉をこじ開けた時に使った医務の小札のこと、一緒に飲んだ酒のこと、毒で死にかけた夜のこと、療養中に会いに行って「アシェルは生きてる」って伝えたこと。

 

 魔法とか呪いのことも話に出てきたからかなり長くなっちまったが、これで俺が持ってる記憶を全部話した……はずだ。

 これで、信じてもらえれば── 

 

「──それで、私たちが信じると思うか?」

 

 ──え? 

 

「その話が本当だという証拠はあるのか。お前が本当にアシェルだという証拠は」

 

「いや、だから。今話した内容が──」

 

「アシェルしか知らない情報を知っている人間なら、私は既に会ったことがある」

 

 は? 何を……。

 

 ……あっ。

 

「シェラだ。あの男も、アシェルしか知らないはずの情報を知っていた。あの男ですら分かるんだ。お前が黒幕であれば、アシェルの情報を知っていておかしくない」

 

「……そう、ね。私もシェラから同じ話をされているから、殿下の話をそのまま、信用する訳には……」

 

 あああ……! 

 そうか、そうじゃねえか! 

 

 酒家の俺がベラに会った時、俺は「シェラ」を名乗って文官アシェルの情報を伝えた。

 執事の俺がルシアに会った時、俺は「シェラ」を名乗って兵士アシェルの情報を伝えた。

 だから、ルシアとベラの二人にとっては、「シェラ」っていう「アシェルしか知らない情報を持っている他人と出会った経験」が既にあるってことじゃねえか。

 

 だから、今の俺が同じことをしても──「また別の誰かがアシェルの情報を持っているだけ」にしか見えねえ。

 今はレミやネルみたいに、成り代わりのことを既に知ってる、信頼できる第三者だっていねえし。俺がシェラだったってことも話したが──それだって俺をそもそも信用してねえとまず理解する気が起こらねえじゃねえか! 

 

「シェラという男を使って私たちに接触し、信用するように仕向けた……その線がまだ存在するだろう。そのシェラが死んだ今、お前自身が出てきた──そう考える方が自然だ」

 

「違う、シェラも俺なんだ! 全部俺なんだって!」

 

「証拠は?」

 

「だから、今話した内容が──」

 

「それは証拠にならない。お前が黒幕で、アシェルやシェラの情報を全て握っているなら、同じことが言えるはずだ」

 

 ああもう……! 

 

 もどかしいが、確かにそうだ。俺が黒幕で、アシェルやシェラから情報を搾り取っていたなら、同じ話ができる。二人の言ってることは筋が通ってる。二人に信用してもらえるだけの点がまだ足りねえんだ。

 

「アシュレム王子。『お前が黒幕ではない』という証拠を見せろ。あるいは、『お前が信用に足る人間だ』という証拠を」

 

「そんなこと言われても──」

 

「証拠がないなら、お前を黒幕と見なすしかない。そうなれば──分かるな?」

 

 クソ、どうすりゃいい。

 証拠なんてどうやって見せればいい。俺が黒幕じゃないことを証明する方法なんて──

 

「──先輩は黒幕なんかじゃありません!」

 

「っ!」

 

 タリエ、お前。

 いや、助かる。けど──

 

「先輩は本当にアシェル先輩なんです! 僕は知ってます、先輩は──」

 

「黙れ、タリエ。お前の証言は信用できない」

 

「そんな──!」

 

「お前は王子の手下だ。王子を庇うために嘘をついている可能性がある。お前の言葉には何の価値もない」

 

 畜生……! 

 タリエは俺を庇おうとしてくれるだろうが、二人に取っちゃ俺の「手下」に見えてるんだから、何を言っても「手下の言い訳」にしかならねえ。俺を庇うために嘘をついてるって思われて終わりだ。

 

 どうする。どうすりゃいい。このままじゃ──

 

 

 

『その話、聞かせてもらった』

 

 ……は? 

 え、扉の向こう側から……え……? 

 

 

 

「兄貴ーっ!!」

 

「アシェル兄ーっ!!」

 

「二人共、急に飛び出すなってあれほど……!」

 

 ──は!? 

 リアン!? ネル!? マドリー!? 

 

「兄貴! 大丈夫か!? カルから聞いて飛んできたんだ!」

 

「アシェル兄! 怪我してない!? 縛られてるじゃん! 何この女たち!?」

 

「いや、いいタイミングだったのかもしれないわね……」

 

 お前ら、なんでここに。

 

 ……って。

 

 

 

「今の話が事実であれば、王国を揺るがす事態であるぞ──兄上」

 

 

 

 エ、エリザベト……!? 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「エ、エリザベト様……!?」

 

「マドリー嬢……!? なぜここに……!?」

 

 二人の動きが、二人の殺気が──分かりやすく止まっちまった。

 さっきまで肌を刺すみてえに痛かった敵意が、嘘みてえに薄れてやがる。喉元に押し当てられてた冷たさも気づかないうちにどっか行っちまった。

 

 なんだよ、これ。

 何がどうなって……うおっ!? 

 

「兄貴! 大丈夫か!? 今解くからな!」

 

「ねえアシェル兄! 後でお礼してね! タリエの縄も解いた方がいい?」

 

「え、あ、ちょっ」

 

 あ、いや、助かるけど! てか、そもそもお前ら、なんでここに。

 俺は確かに「危ないから来るな」って伝言を頼むようカルに行ったよな。なのになんで、リアンとネルとマドリーがこの場所に来てるんだ。いや、件の犯人は危険人物じゃなかったから今思えば杞憂なんだが……。

 

 ……って、カル! 

 カルもいるじゃねえか、一体どうしたんだ──

 

「す、すまないアシェル。危険だって、伝えに言ったら、『じゃあ助けに行く』って三人とも、言っても聞かず……」

 

「あ、ああー……」

 

 ……なるほど。確かにそうか。

 コイツらが「危ない場所に俺一人で行く」って言ったら、来ねえ訳がねえのか。うっかりしてた。

 

「護衛が息を切らせて城に戻って来た時は何事かと思ったが……随分と賑やかなことになっているな、兄上」

 

「あ、ああ……悪いな、巻き込んで。ちょっと込み入った事情があってな」

 

「事情、か。まあ、見ていれば大体察しはつくが……私が着いてきたことは間違いではなかったようだな」

 

 ……で、エリザベト。

 お前は俺の護衛が城に増援を呼びに行ったのを見て、不審に思ってここまでついて来た……と。ついさっきまで一緒におとぎ話を読んでた兄貴が緊急事態になったからと、ここまで来たってのか。

 こんな修羅場に来といて、眉一つ動かさねえ。相変わらず肝が据わってんな、コイツ。俺なんか心臓バクバクだってのに、まるで茶会に遅れてきたみてえな顔しやがって。

 

 いやでもまあ、助かったけど……。

 

 

 

 ……ただ、二人の殺気はどうして収まったんだ。

 ルシアは……なんとなく分かる。コイツにとってはエリザベトが一番憧れの対象なんだ。エリザベトが来たことで、推定犯人とはいえど実の兄の王子を睨みつけるなんて真似ができなくなったのは分かる。

 

 ただ、ベラはどうして……。

 

「……マドリー嬢は、この場所にいるはずが……」

 

「久しぶりね、ベラ。随分と元気になったみたいで安心したわ」

 

「……!」

 

 ……え? 

 

 あ、ああ! そういうことか! 

 ベラは毒にやられた後、マドリーのいるグロス家で療養してたんだ! だから、ベラとマドリーには接点がある! そのマドリーがこの場所に来れば、勢いが削がれるのも当然じゃねえか! 

 

「何故……マドリー嬢が、ここに……」

 

「貴女が探している『アシェル』に会いに来たのよ……もっとも、こんな物騒な歓迎を受けるとは思わなかったけれど」

 

 さっきまでの勢いが削がれてる。恩人を前にして、強気でいられなくなったのか。

 ……そりゃそうだよな。マドリーに命を救われた身で、そのマドリーが俺の味方だって分かったら、どう反応していいか分からなくなるに決まってる。

 

「……ベラ、彼の話は真実よ。私は彼を知っている──グロス家の名に懸けて保証するわ」

 

「いや……でも、そんな……」

 

「私が貴女に嘘をつく理由があると思う?」

 

「……それは」

 

 そ、そうか……! 

 ベラにとっちゃ、マドリーの言葉は疑いようがない。

 

 ベラにとって、信じるかどうかの判断基準は──信用のできる、上層部の腐敗に関与していない、第三者の保証があることだ。

 コイツは上層部の腐敗に巻き込まれて毒殺されかけたが、グロス家に療養して快復することができた。もしマドリーが上層部の腐敗に関与してるなら、療養の最中に殺すことだってできたのに……当然だが、そんなことは起きなかった。ベラにとって、マドリーの発言は信用に値するってことになる。

 

「エリザベト様……!」

 

 ルシアの声には……縋るような響きが混じってるような……。

 

 そうだよな、お前にとっちゃエリザベトは全てだ。憧れて、敬って、この人のために夢を信じ続けてきた相手なんだ。つい最近近衛兵としての志願書も出したばかりのはずだ。

 その人間が今、扉の前に立ってる。混乱するのもしょうがねえ。

 

「ルシア。貴公の忠義と武勇は聞き及んでいる。だが、その矛先を向ける相手を間違えてはならんぞ」

 

「……え?」

 

「兄上は黒幕などではない。私と共に、この国の腐敗を正そうとしている同志だ。私が保証する」

 

「じゃ、じゃあ……!?」

 

 ……エリザベトまで言ってくれた。

 俺がさっき話したこと。成り代わりのこと。マドリーだけじゃなく、エリザベトまでが、俺の話は本当だって保証してくれてる。ルシアが信じてやまない王女様が、俺は敵じゃねえって明言してくれてる。

 

 ──今なら、二人とも信じてくれるかもしれない。

 

「……ルシア、聞いてくれるか」

 

「で、殿下……あなたは……」

 

「それに、ベラもだ」

 

「……あ、ああ」

 

 喉元の冷たさが、完全に消えた。

 敵意も、殺気も、もう感じねえ。

 

 さっきまで殺されかけてたのに。俺の言葉じゃ何も届かなかったのに。何を言っても「黒幕の言い訳」にしか聞こえなかったはずだ。

 でも今なら。マドリーとエリザベトが来てくれたおかげで、ようやく──俺の言葉が、ようやく届く土台ができたんだ。二人が保証してくれた今なら……俺の言葉を、信じてくれるかもしれねえ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「その二人とも……俺がさっき話したことは、全部本当なんだ」

 

 信じてくれ。頼むから、信じてくれ。

 マドリーとエリザベトが保証してくれた。俺の言葉だけじゃ届かなかったけど、今なら届くはずなんだ。

 

「……本当に」

 

 ルシアの声が震えてる。

 

「本当に、アシェル、なの……?」

 

「ああ。本当だ」

 

「でも、あの時、あなたは死んだ。私の目の前で、私を庇って……私のせいで……」

 

 まだそんなこと言ってんのか。

 ずっと、ずっとそうやって自分を責め続けてきたのか。俺が死んでから、ずっと。

 

「お前のせいじゃねえよ」

 

「でも……! わた、私、私が、靴の結び方を、間違えてさえいなければ……って……!」

 

「何度でも言う。お前のせいじゃねえ。俺が勝手にお前を庇ったんだ。お前は何も悪くねえ」

 

 頼む、分かってくれ。お前が泣いてるのは分かってる。声が震えてるのも分かってる。ずっと堪えてきたものが、今、溢れ出してるんだろ。

 でも、もう自分を責めなくていいんだ。俺は生きてる。こうしてお前の前にいる。

 

「お前はもう何度も俺の命を救ってくれたし、お前がいなきゃ今の俺はいなかった。お前が俺との約束を守ろうとしてくれてたこと、ちゃんと知ってるし、それを今でも追い続けてくれて、俺は嬉しいんだ」

 

「……アシェル……」

 

「だから、もう自分を責めんな。な?」

 

 ずっと言いたかった。

 色々な事情が重なって、ずっと言えなかったけど、言う勇気が湧かなかったけど。ここまでお膳立てさせられて、その上でまだ言わないなんてあり得ねえ。

 だから言うぞ、何度でも言うぞ。

 

 

 

「……私も」

 

 ベラの声も震えてる。

 コイツは、俺を巻き込んで殺しちまったってことをずっと根に持ってたし、俺に会いたいって──俺に謝りたいってずっと言ってたから……。

 

「私も、ずっと……お前を探してた。あの夜、私のせいでお前を巻き込んで、毒を飲ませて……」

 

「ベラ、それは……」

 

「シェラが『アシェルは許してくれた』と言って安心できたが……お前の遺体が墓にあって、シェラが信じられなくなって、やっぱり私は、許されていないのだと……」

 

 やっぱり、お前もなのか。

 俺は許してたのに、俺がはっきり言葉にしてなかったから──そのせいでお前もずっと自分を責め続けてきたのか。

 

「お前も被害者じゃねえか、お前が背負う必要は何一つないんだって」

 

「でも、今でも思うんだ。やっぱり、お前を誘ったことが……」

 

「そしたら、お前一人で死んでたかもしれねえだろ。俺はそっちの方が嫌だ」

 

 本当だ。本当にそう思ってる。

 お前が生きてて、俺も生きてて、こうしてまた会えた。それでいいじゃねえか。

 

「そもそも言っただろ、『気にしてるようならそっちの方が迷惑だ』って。忘れたのか?」

 

「いや、まさか、そんなこと……」

 

「じゃあ気にしないでくれよ。また一緒に飲もうぜ。酒に詳しい家族がいるんだよ」

 

 お前は酒に詳しそうじゃねえか。

 サシで飲んだのは一晩きりだったが、お前とはいい友達になれるとあの時からずっと思ってたんだ。あんな嫌な思い出でその縁を断ち切るなんて言わないでくれよ。

 

 

 

「……馬鹿」

 

「あ?」

 

「馬鹿よ、あなた。どうして、もっと早く言ってくれなかったの。私がどれだけ……どれだけ苦しんだと思ってるの」

 

「悪かったよ。死んじまったもんは仕方ねえだろ──ルシア」

 

 怒ってんのか。泣いてんのか。両方か。

 分かんねえけど、でも──伝わったんだな。俺の言葉が、ちゃんと届いたんだな。

 

「お前、死んだくせに生きてるなんて、そんなこと、分かる訳ないじゃないか……」

 

「俺だって意味分かんねえよ」

 

「……本当に、生きてるんだな」

 

「生きてるって。いくらでも確かめていいから──ベラ」

 

 こっちは笑ってる。泣きながら、笑ってる。

 怒ってるのか、呆れてるのか、安心してるのか、全部ごちゃ混ぜになったみてえな声だ。

 

「……悪かったな、心配かけて。本当にすまねえ」

 

 二人とも、俺を探すためにどれだけ走り回ってきたんだろうな。

 

 情報屋を潰して回ってたのも多分、この二人なんだ。

 後ろ暗い情報屋ばっかりだったが、そういう事情に通じてたのはベラの経験からなのか。黒い仕事してるソイツらは、正義感の強いルシアによって、情報を搾り取られた後で潰されたってことなんだろう。

 そして、レミと戦って、タリエを追い詰めてたのも。全部、俺に会いたかったから。俺を探してたから。

 

「その、また会えて、本当に嬉しいんだ。信じてくれて──ありがとうな」

 

「……私も! アシェル!」

 

「……私、もだ。アシェル……」

 

 ああ、やっとだ。

 やっと、二人に会えて、やっと、二人に本当のことを伝えられた。

 何度も死んで、何度も生き返って、大変なことばっかりだったけど。

 こうしてまた、会いたかった人に会えたから。それだけで、全部報われた気がする。




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