フェリス・マルフォイはもしかして 作:かぼちゃマン
「フェリス、起きて。朝よ」
「遅刻するぞ」
パンジーとミリセントの優しい声で、フェリスは何とか目を覚ました(最終的にはミリセントに無理やり布団から引っぺがされた)。ちなみに、男子寮のデイモスたちはまだまだ眠りこけている。昨日夜通し爆発スナップや杖でチャンバラをしていたので、当分起きないだろう。
しかし、淑女の朝は早い。顔は完ぺきに美しくなければいけないし、髪をきれいに結び、しわ一つない制服を着なければならないし、ネクタイだって少しのゆがみも許されない。
それに何より、この城を移動するのは骨が折れる。
ホグワーツでの生活は楽しい。変身術の授業では、マッチの先を綺麗な針に変身させるのに成功したから誉められたし(デイモスは完ぺきに針にしたから、得意げな顔でフェリスに見せびらかした)、薬草学もいろいろな植物があって楽しい。魔法史や闇の魔術に対する防衛術はつまらないけど、居眠りにちょうどいい。
先輩たちは___もちろん当たり前だが____フェリスをとびきり可愛がってくれるし、お母様に手紙を出したらスリザリンに組み分けされたことを褒めてくれた。
ただ、移動教室だけはフェリスの天敵だ。
「ミリセント、待って……」ゼエゼエと情けない姿で、フェリスは必死にミリセントを追いかけた。動く階段? こんなのを作った人間はきっとマグル生まれに違いない。
パンジーもフェリスの背中をさすりながら「フェリスが苦しそうよ!」と必死に訴えかけた。ミリセントはやれやれとため息をついた____ホグワーツに入学して一週間が経つってのに、まだこの調子だなんて。
ミリセントは仕方なくフェリスをおぶった。「マルフォイ家の品位が!」とかきゃいきゃい言いながら抵抗しているが、遅刻するよりはマシだろう。
「今日もその移動方法? マルフォイ家の威厳たっぷりだね」デイモスがニヤニヤしながら通り過ぎて行った。
パンジーがデイモスを追いかけたが、パンチが外れてノットに命中してしまった。「なんで俺なんだよ!」
そんなこんなで地下牢に着くと、壁にはホルマリン漬けのガラス瓶や不気味な絵なんかが飾ってあった。フェリスはこっそり身震いしたので、隣に座るデイモスがにやりと笑った。
「魔法薬学の授業が一番楽しみだったんだろ?」
「ええ、そうよ。もちろん。すっごく楽しみだわ」
スネイプがやってきて出欠を取り始めた。ずっと淡々とした口調だったが____ポッターの席までやってくると立ち止まって黄色い不揃いの歯をむき出しにして笑い、猫撫で声で言った。「ああ、さよう。ハリー・ポッター。われらが新しい、スター」
パンジーと一緒にクスクス笑うと、ポッターが睨みつけてきたので、フェリスは満足した。
スネイプはつまらない話をしばらくした後(あまりにもつまらないのでフェリスはついウトウトとしてしまった)、「ポッター!」と叫んだので、フェリスは慌てて背筋を伸ばした。
「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを加えると何になる?」
フェリスはそんなのすぐに分かったが、どうやらポッターは分からなかったようだ。フェリスはポッターのほうをちらりと見てせせら笑った。
「チッ、チッ、チ_______有名なだけではどうにもならんらしい。ベゾアール石を見つけて来いと言われたらどこを探す?」
こんなの簡単だ。教科書をきちんと読んでいればわかるし、『ハリー・ポッター考察 ー英雄と闇の魔術ー』の最初のほうにも書いてある。フェリスは鼻をツンと上げた。
「クラスに来る前に教科書を開いてみようとは思わなかったわけだな、ポッター。モンクスフードとウルフスベーンの違いは何だね?」
_______この問題はちょっと……分からない。フェリスはスネイプにあてられませんようにと下を向いた。
「分かりません。ハーマイオニーが分かっているようですから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」
フェリスは顔を上げ、急いで“ハーマイオニー”を探した。ぼさぼさの髪に、大して美人とも言えない顔立ちの女子生徒が、天井に届きそうなほどに手を伸ばしている。_____へえ、入学してまだ一週間なのにもうそんなに親しい女子生徒がいるなんて、ずいぶん調子に乗っているじゃない。
フェリスは“ハーマイオニー”を睨みつけたが、本人は全く気づいておらず、プルプルと震える手を伸ばし続けている。
「座れ、グレンジャー。グリーングラス、答えなさい」
なんと、スネイプはハーマイオニー・グレンジャーではなくデイモスを指名した。マーカス・フリントの言う通り、スネイプのグリフィンドール嫌いは相当なものらしい。
「はい。アスフォデルとニガヨモギを合わせると、“生ける屍の水薬”と呼ばれるほど強力な眠り薬となります。ベゾアール石は山羊の胃から取り出す石で、たいていの薬に対する解毒剤になります。モンクスフードとイリフスベーンは_____違いはありませんね。どちらもトリカブトのことです」
デイモスはいつも通り微笑みながらそう答え、前の席のノットが「さすが、魔法薬学の権威の息子だ」と小さく拍手した。その後スネイプは生徒たちにデイモスの発言をノートに書きとるように言い、デイモスに三点加点した後ポッターから一点減点した。フェリスはポッターに舌を出したが、ポッターの代わりにウィーズリーが口パクで「クソ野郎」と言ってきた。弱い犬ほどよく吠えるのだ。
その後、スネイプは“おできを治す薬”を作るために生徒たちをペアにしていったのだが……。
「ふん、足を引っ張らないでよね」フェリスは隣にいるポッターにそう言った。
なんと、どうしてもポッターをウィーズリーと引き剝がしたかったスネイプは、あろうことかフェリスと組ませるという暴挙に出たのだ。
フェリスはポッターにぎゃふんと言わせるチャンスだと張り切り、注意深く干しイラクサを計った。そのあと、スネイプがやってきて、角ナメクジのゆで方が完璧だと褒めてくれたのでフェリスは鼻高々になった。
「私の角ナメクジの茹で方が完璧ですって。あなたがヘビの牙を砕くときは注意されてたのに!」
「別に、君の茹で方はシェーマスのとそう変わらないように見えるけど。依怙贔屓されて良かったね」
「何よ! 負け惜しみ? そう言うなら見てみなさいよ、あなたのお友達のウィーズリーなんて……」
フェリスがそう言ってウィーズリーとロングボトムの大鍋をのぞき込もうとした瞬間、地下牢いっぱいに強烈な緑色の煙が上がり、周りが見えなくなったフェリスは何かの液体に滑って転んでしまった。
スネイプがやってきてロングボトムを怒鳴りつけ、杖を一振りすると煙と液体が消えた。
フェリスの白い脚いっぱいに、おできが広がっている。ロングボトムのほうは鼻にまでおできが出来ている。
「フェリス!」パンジーが涙目になりながらフェリスに駆け寄った。
「ポッター! なぜ注意しなかった? ロングボトムが間違えば、自分のほうがよく見えると考えたな。それに、ケガをしているマルフォイを助け起こそうともしないとは。グリフィンドールから三点減点。ロングボトム、大なべを火から降ろさずにヤマアラシの針を入れたな? グリフィンドールから一点減点_____パーキンソンはマルフォイを、ポッターはロングボトムを医務室まで連れて行くように」
スネイプがポッターから三点も減点したが、フェリスは少しも嬉しくなかった。おできだらけの脚を見られるなんて最悪だ。フェリスはロングボトムのことがポッターやウィーズリーと同じくらい大嫌いになった。
「ああフェリス、本当こんなの……ひどいわ」パンジーがフェリスの頭を撫でた。ロングボトムはポッターにしがみついて泣き続けていて、鼻水がつきそうになったのでポッターは顔をしかめた。
「ちょっと! あんた、フェリスに謝んなさいよ! 女の子の体に傷をつけるなんて最低だわ!」
パンジーが怒鳴ると、ロングボトムはますます泣き始めた。
「パーキンソン、ネビルもわざとやったわけじゃないよ。それに、どうせすぐに消えるよ」
ポッターがかばったが、それは完全に逆効果だった。パンジーは更に怒ってポッターに近づいた。ポッターはひそかに「パーキンソンって、パグ犬に似てるな」などと思った。
「そもそもあんたがフェリスをきちんと見守ってないからこうなったんでしょう! フェリスはこう見えて意外とドジなのよ、転びそうになったら支えなさいよ!」
いつもなら「ドジじゃないわ!」と怒るはずだが、フェリスは脚のおできを見てしょげていた。____あんな風にすっころぶなんて、きっとポッターは私を間抜けだと思ったに違いないわ……。屈辱だわ……。
「ちょっと待ってよ。君といいスネイプといい、僕のことをスーパーマンか何かだと思ってるの? 僕は自分のことだけで精いっぱいだ」
「言い訳するなんて恥ずかしくないの? ああ、スネイプ先生はどうしてこんなのと組ませちゃったのかしら。アンタが断ればよかったのに! フェリスとペアだなんて畏れ多いって」
「君かグリーングラスが組めば良かっただろう!」
「本当にそうだわ! デイモスに任せるべきだったのよ。あんなんだけど優秀だし、何よりフェリスの婚約者だもの」
フェリスはその瞬間、石のように固まってしまったが、二人ともそのことに全く気付かず言い争い続けた。ロングボトムは少し泣き止んでいた。
「そうだよ。僕だってマルフォイとなんて組みたくなかったしね」
「なんてこと言うの! フェリスの気持ちを考えなさいよ、アンタはフェリスの初恋なのよ!」
やらかした、とパンジーが気づいた時にはもう遅かった。フェリスは白い顔をウィーズリーの髪の毛くらい真っ赤にして「パンジーなんて大嫌い!」と叫んで走り去ってしまった。いつも移動教室でゼエゼエ言っているとは思えないくらいの足の速さだ。パンジーもあわてて追いかける。
_____マルフォイって、本当、何なんだろう。ポッターは呆れた目で二人を眺めた。ロングボトムはもう完全に泣き止んでいた。
「ええっと、それで? なんでこんなことになってるんだ」
授業後、ノットと一緒にお見舞いにやってきたデイモスが尋ねたが、ミリセントは首を横に振った。
もうほとんどおできは治ったというのに、フェリスは布団を頭からかぶってベッドから出てこようとしない。
「____パンジー。ほんとに、酷いわ……グスッ」
「ええ、そうよねフェリス。初恋だなんて、言うべきじゃなかったわ」
それを聞いてノットが「どうせポッター関連だろ」と言ったので、ミリセントが思いっきり脛を蹴っ飛ばした。ノットは喋ることもできず脚を抱えてのたうち回った。
「別に、初恋じゃないわ……グスッ。それに、デイモスが婚約者だなんて……どうして言ったのよ! ひどいわ、絶対知られたくなかったのに……恥ずかしいわ」
「ええ、そうよね。ごめんなさい。大丈夫よ、フェリスが卒業するまでにきっと、かっこいい純血の男の人が現れるわ」
フェリスは布団から出て、パンジーに抱き着いた。
「____こういう時、どんな顔すればいいのか分からないんだけど」デイモスはミリセントに言った。なんだかすごい侮辱をされている気がしていた。
「笑えば、いいと思うよ」ミリセントはそう答えていつものように窓の外を眺めた。ノットは未だ脚を抑えて呻き続けている。
「早く出て行きなさい。医務室は生徒がおしゃべりする場所じゃありません」
マダム・ポンフリーがぴしゃりと言い、五人はすぐに追い出されてしまった。
短くなった。