フェリス・マルフォイはもしかして 作:かぼちゃマン
フェリスは談話室でザビニを待った。もう十一時半だというのに、ザビニはやって来ない。
_____すっぽかしやがったわね。フェリスは仕方なく、抜き足差し足で談話室を抜け出した。夜の廊下はひんやりしていて、静まり返っている。
ぽちゃん、と水音がして、フェリスは急いで振り返った。良かった、何もいないわ。
「早かったじゃない」トロフィー室には、既にポッターとウィーズリーがいる。フェリスは内心、一人でなくなって少し安心していた。
「____あなたって本当に愚かなのね。そんな風に見えなかったのに、残念だわ」
ポッター達が返事をする前に、グレンジャーが現れた。その隣には泣きべそをかいているロングボトムもいる。
____なんで二人がここに? まさか、ポッターがグレンジャーを連れ出したのかしら。
フェリスはグレンジャーを無視し、ポッターに話しかけた。
「女の子を夜中に連れ出すなんて、本当に調子に乗っているのね。生き残った男の子だから?」
「ハーマイオニーは勝手についてきたんだよ。君こそ、ザビニはどうしたの? まさか奇襲をかけるつもりじゃないよね?」
「勝手にですって? よくそんな風に言えるわね。みんな、早く帰りましょう。マルフォイ、婚約者のグリーングラスもきっと心配しているはずよ」
「____婚約者じゃないわ!」
フェリスの声に驚いたロングボトムが、トロフィーの棚に頭をぶつけてしまった。ガシャン! と大きな音がする。
「まずいぞ、そんなに大きな音を立てたら……」五人は黙り込んだ。息も止めるほど。
「生徒が抜け出しているぞ……」不快な声と猫の鳴き声が聞こえた。管理人のフィルチが、夜の見回りをしていて、だんだん足音が近づいてくる。
五人は暗闇の中で、相手の顔も見えないのにうなずきあった。長い回廊を石のようにこわばって這い進む。あまりに静かなので、ミセス・ノリスの足音すらとても大きく感じた。
ロングボトムが耐えられなくなり、ウィーズリーと勘違いしてフェリスの足元にしがみついた。フェリスはたまらず悲鳴を上げ、ロングボトムも叫んだ。
「うわあ、ロンじゃない!」
「変質者だわ! ああ、ロングボトムね____ちょっと、離れなさいよ!」
ロングボトムはしがみついた相手がフェリスだと気づくと、情けない悲鳴を上げて後ろに飛び跳ね、その勢いで鎧にぶつかた。鎧はすさまじい音をして倒れ、フェリスは驚いて固まってしまった。
「逃げろ!」
ポッターがそう言うと、みんな慌てて走り出した。鎧の奥に目がある気がして、フェリスは恐怖でまだ固まっている。
「_____何してるんだ!」ポッターはフェリスの手を引いて素早く走り始めた。フェリスの心臓は飛び出しそうなほど高鳴っている。鎧はとても怖かったし、暗い廊下も怖いし、フィルチが追ってくるかもしれないし、お父様に知られたらきっと落胆されてしまうし……この心臓の音がポッターに聞こえていたらどうしよう。___手汗はかいていないわよね? フェリスの脳みそは恐怖と焦りで爆発寸前だ。
「たぶん巻けたな。もう追ってこれないさ」壁に寄りかかっているウィーズリーが言った。目を凝らすと、呪文学教室の近くなことが分かった。ポッターは立ち止まり、フェリスの手をぱっと離した。
「だから言ったのよ!」ゼイゼイせき込みながらグレンジャーが言った。ロングボトムはまだ泣きべそをかいている。
「でも、どうしてフィルチはトロフィー室だって分かったんだろう?」
「どうせコイツが告げ口したんだ」ウィーズリーがフェリスを睨みつけた。
「馬鹿ね、それなら私が来るはずないじゃない」
でも、確かにおかしい。マーカス先輩の話によれば、トロフィー室にフィルチはあまり来ないはずだ。ザビニがわざわざ告げ口なんてするはずないし……フェリスはザビニと話した時のことを思い出した。フロイドがやけにニヤニヤしてこっちを見ていた気がする。
「____フロイド! あいつったら……」
「へえ、同じ寮の仲間に裏切られるなんて、ずいぶん人望がないんだな」
「うるさいわね! フロイドはちょっと変なのよ」
よく考えれば、デイモスといい、フロイドといい、ヘクターといい、スリザリンの男子生徒は変なのばっかりだ。
「とにかく、早く寮に戻ろう」
一人で地下まで行くのは少し怖いが、フィルチに捕まるよりはマシだ。五人は立ち上がったが、その瞬間、ドアの取っ手がガチャガチャ鳴り、教室からピーブズが飛び出してきた。
「へーえ、こんな時間に! 生徒が! いーけないんだいけないんだ!」
「ピーブズ、頼むから黙ってくれ。僕たち、退学になっちゃう。ほら、マルフォイも何か言えよ」
「ええっと……血みどろ男爵に言いつけるわよ」
ピーブズが血みどろ男爵を恐れているのは、スリザリン生の間では周知の事実だった。移動教室中に邪魔されると、スリザリン生はみんな血みどろ男爵の名前を出すのだ。
「でも今、男爵様はいない! それに、夜中に抜け出すのが悪いんだ……これは君たちのためなんだぞ、イッチ年生」
ピーブズがそう言って、思いっきり息を吸い込んだ。その場にいた全員が、「終わった」と思った。しかし、その瞬間低いしゃがれ声が響き渡った。「スリザリン生に何をしておる……」
「エッ、男爵様!?」
ピーブズも五人も、周りをきょろきょろと見まわすが、誰もいない。
「わけあって姿を隠しておるのが分からんか!」血みどろ男爵がピーブズを叱った。
「申し訳ございません……」
「分かれば良いのだ。わしの目が黒いうちにさっさと消えろ」
ピーブズはすっかり大人しくなり、すぐに闇に溶け込んでいった。
「血みどろ男爵って、意外と良いやつだったんだな」ウィーズリーがほっと一息つきながら言った。
「____君からそう言ってもらえるとは、光栄だよ」
それは先ほどまでのしゃがれ声ではなかった。さっきまで何もなかった場所に、デイモスがすっと姿を現した。
「ごめんね、グレンジャー。寝坊しちゃって」
デイモスがほほ笑むと、グレンジャーは声を上ずらせながら「いいえ、悪いのはこの人たちだもの」と言った。
「スリザリンのやつに告げ口したのか!」
「そうよ、マルフォイを止めてもらうように言っておいたの。言って良かったわ、彼が来なかったら危なかったもの」
「うん。確かに、ハーマイオニーの言うとおりだ。ありがとう、グリーングラス」
「こちらこそ、フェリスのせいで申し訳ないよ。それじゃあ、早く帰ろう。まだフィルチが見張ってるだろうから」
フェリスは不貞腐れたまま、デイモスと一緒に透明マントに入っていた。
「これ、セオが貸してくれたんだ。ほんと、あいつって何でも持ってるよ」
「ふーん。これを着て、私たちをニヤニヤ見てたってわけ?」
____ポッターもグレンジャーも、こんな奴にお礼を言ってありがたがっちゃって、バカみたい。デイモスはいっつもフェリスの周りをうろちょろして、「僕は賢いですよ」「僕は良い子ですよ」「僕は大人ですよ」とアピールするのだ。
お母様もお父様もデイモスを誉めそやす。それなのにデイモスは鼻にかけない。フェリスはデイモスのそんな所がずっと気持ち悪いと思っていた。
「まあ、君が鎧に怯えてる所くらいは見たかな。走るのが速いから追いつくのが大変だったよ。移動教室の時のトロさはどこに行ったんだい」
「うるさいわね。怯えてなんかないわ」
そう言いながら、フェリスはずらっと並ぶ鎧から目をそらした。どうしてこんな気味が悪いものを学校に置くのか、全くわからない。そもそも、動く階段や壁のふりをした扉だって、学校に必要なはずがない。
「あの鎧って、敵を倒すために置いてあるらしいんだ。だからあんまりじっと見ないほうがいい、敵だと勘違いされちゃうかも」
「ヤダ!」フェリスは慌てて目をそらした。
「まあ、生徒を襲うことは絶対にないみたいだけどね。グレンジャーが言ってた」
どうやら、デイモスは知らないうちにグレンジャーとずいぶん仲良くなったみたいだ。フェリスは気に食わず、不満げに鼻を鳴らした。
「へえ、ああいうのが好みならおじさまにそういえば良いじゃない」
「まさか。グレンジャーはマグル生まれだよ」
「マグル生まれですって!?」フェリスは思わず大声を出した。確かに聞いたことのない姓だと思ったが、まさかマグル生まれだったなんて_____それなのに、あんなにポッターと親しげにしているなんて。
「あんなのと親しくするなんて! ……グリーングラス家としての誇りはないの? あんな、穢れた、」
「
フェリスは黙り込んだ。その話をされると、何も言い返せなくなってしまう。
「『血みどろ』!」合言葉を言い、二人は寮に入った。
「フェリス!」談話室に足を踏み入れた瞬間、パンジーが勢いよく抱き着いてきた。ミリセントはスクワットをしていて、ソファには寝ぼけ眼のノット、ザビニとフロイドは目の周りに青あざを作って正座している。
「私、本当に心配したのよ!」
パンジーがフェリスに抱き着いたまま言った。
「目が覚めたらいないんですもの! それで、コイツと何か話してたのを思い出して……あの女からいろいろ話を聞いていたデイモスが急いで駆けつけて……」
ちょっと夜中に抜け出しただけなのに、ずいぶんな慌てっぷりだ。パンジーは滑稽なくらいフェリスに過保護だ。
「別に、大したことないわ」
「いいえ、女の子が夜中に歩き回るだなんて! 本当、コイツらが止めるべきだったわ。フロイドったら、フィルチに言いつけるなんて本当に信じられない!」
パンジーが二人をにらんだので、ザビニとフロイドはしゃんと背筋を伸ばした。
「ねえフェリス。約束してちょうだい……もう危ないことはしないって」
パンジーが涙目で見つめてくる。
____どうせ、マルフォイ家に媚びを売っているだけのくせに。フェリスはそう思いつつ、小さな声で「ごめんなさい」とつぶやいた。
一方その頃、ポッターたち四人組はデイモスから告げ口を受けたフィルチに追い回され、禁じられた廊下に入り込んでしまっていた。