今度こそ、船長を、仲間を、そして未来を守るための──
ロロノア・ゾロのやり直しの航海日誌である。
エッグヘッド。五老星に囲まれたあの島で、俺たちは限界だった。
覇気でも剣でも、未来を切り開くには──届かなかった。
"もう二度と負けねェ"と誓ったあの日から、何も変わってなかった。俺は、また──守れなかったんだ。
あの時、全身に走った衝撃と、世界が崩れるような眩暈の中で、意識が途切れた。
──そして、目を覚ました。
「……は?」
ザラつく地面。焦げ臭い空気。朽ちかけた木の杭に、両腕を縛られて──俺は磔にされていた。
「……シェルズタウン、か」
懐かしい地名と、目の前に現れた麦わら帽子の少年。
まぎれもなく──あの日のルフィだった。
※※※
"海賊狩りのゾロ"。そう呼ばれていた俺は、海軍に捕まり、海軍基地の広場で晒されていた。
確かにあの頃の俺だ。
縛られた両手を見ながら、過去を生き直す実感が、少しずつ湧いてくる。
亡き友人のぶんまで、強くなるからと誓った、あの日から。
大剣豪になるまで、もう二度と負けないと誓った、あの日から。
現実は、何ひとつ変わっていなかった。
「俺は、神を信じねェ。地獄から蘇ったこの命を有難く使わせてもらうぜ。」
船長と親友との約束を果たせなかった。
だから、今度こそ──。
「──来たか」
己の命をあいつに預けてから、一度たりとも、あいつが海賊王になれないと疑ったことはなかった。
そんなあいつの気配を感じ、間も無く自分の前に現れることを、確信のように感じ取っていた。
「俺が知っているあいつの気配はもっとでかかった。だが、今は小さい。どうやら俺以外の奴は力が昔のままのようだ。これから、あいつを鍛えがいがあるな」
※※※
海軍基地の高い塀の向こう側──そこに、二つの気配があった。
「あれがそうか…あの縄をほどけば簡単に逃がせるよな、あれじゃあ」
「ば…ばかを言わないでくださいよ!!
あんな奴、逃したら町だって無事じゃ済まないし、ルフィさんだって、殺そうとしますよ!
あいつは!!!」
「おい、お前」
「ひぃ!!」
この頃のコビーは泣き虫だったな。
今見ると、なおさら頼りねェ……だが、悪くねェ目をしてやがる。
「ちょっとこっちに来て、この縄ほどいてくれねェか。もう九日間もこのままだ。さすがにくたばりそうだぜ」
「おい、お前ゾロだろ? おれはルフィ! 俺は今、一緒に海賊になる仲間を探しているんだ」
相変わらずうるせェ奴だな──だが悪くねェ。
「海賊だと? 自分から悪党に成り下がろうってのか。御苦労なこって…」
「俺の意志だ! 海賊になりたくて何が悪い!!」
──ああ、知ってるさ。
お前が“海賊王になる男”ってことも。
「で? まさか縄をほどいてやるから力を貸せだの言い出すんじゃねェだろうな」
「別にまだ誘うつもりはねェよ。お前悪い奴だって評判だからな」
「それにお前────自分で縄、ほどけるじゃねェか」
……どうやらこの頃からお前は、“見聞色の覇気”の才能があったらしいな。
「ル、ルフィさん!! 何馬鹿なこと言ってるんですか!!」
「わかるのか?」
「ああ。お前からただならぬ気配を感じる。お前、なんでわざと捕まっているんだ?」
「別に大した理由はねェよ────ただ、」
その時、ルフィの後ろから小さな気配を感じた。
──ああ、思い出した。おにぎりの恩人だ。
少女は塀をよじ登り、俺の前までやってきた。
「俺に何か用か…」
前世では強い言葉で追い返してしまった。
でも今回は──わかってる。あの時、どんな気持ちでおにぎりを持ってきてくれたのか。
「あのね、私、おにぎりを作ってきたの! お兄ちゃんずっとこのままでお腹空いてるでしょ? 私、はじめてだけど一生懸命作ったから…」
「そうか。今ちょうど腹が減ってたところだ。悪いが、食わせてくれるか?」
「うん!!!」
少女は満面の笑みで、おにぎりを差し出した。
「うまかった。ごちそうさま」
「よかった!! 私、おにぎりは甘い方がおいしいと思って砂糖をいれたの!! 気に入ってくれてよかった!」
「世話になったな。ありがとう。……だが、ここは危ねェ。早く家に帰りな」
「うん! またおにぎり作ってくるね!!」
そう言って少女は再び塀を登り、村へと戻っていった。
「来たか……」
気配でわかる。あの、七光りバカ息子がこっちへ向かってきている。
「ロロノア・ゾロォ!!! しかししぶとく生きてやがるな、てめェは!」
そろそろ脱走するか……。
しかしまあ、七光りのバカ息子といい、コビーといい──たった数年で変わりすぎだろ。
両腕に覇気を流す。
黒い稲妻が走り、朽ちかけた杭はその瞬間──完全に消し飛んだ。
俺は自由の身となる。
「き、貴様!! 罪人が脱走したら、死刑だぞ!! 今すぐ拘束されろ!!」
「知るか。それとも、お前が俺を拘束するのか?」
「ひえっーーー お、親父に言うぞ!!!」
「好きにしろ」
その瞬間、俺の“王”としての威圧感が一気に解き放たれ、周囲の海兵たちは次々と気絶した。
「ど、どうなってるんだ……」
目の前の光景が現実とは思えず、コビーは茫然と立ち尽くしていた。
「決めたぞ、コビー!! 俺はゾロを仲間に引き込む!!!」