無能な悪役貴族、奴隷少女と共に貴族学園を征服する 作:メソポ・たみあ
六年という歳月はあっという間だった。
父テオフィール指導の下で剣術を磨いていった俺は、十四歳の頃にはほとんどの技術を吸収。
十五歳になると免許皆伝の称号を与えられた。
もっとも、父の修行はそれはそれは厳しいモノだった。
体力が追い付かず剣術の基礎もおぼつかなかった最初の頃は、もう何度もゲロを吐いてぶっ倒れるほどだった。
父は俺を殺す気なんじゃないかと、割と本気で心配になったくらい……。
とはいえそんな修練の日々を送ったお陰で、心技体あらゆる面で鍛えられたと思う。
シュターク流剣術は「追い詰められた時にどれだけ実力を発揮できるか」を重んじる流派。
基本的に多対一の状況を常に想定し、故に双剣という武器を扱う。
多人数を一人で相手取る時、人は肉体的にも精神的にも必ず追い詰められる。
だからこそ自分を限界まで追い込むという訓練を定期的に行い、精神が鍛えられるのだ。
今の俺とゲームに出てくるヴォルツでは、その性根は天と地ほども違う――と思いたい。
……まあどれだけ精神を鍛えても、この目つきの悪さというか性悪にしか見えない顔立ちだけは変えられなかったが。
顔ばかりは生まれつきのモノだからな。
仕方ない。
そんなこんなで――
「ヴォルツよ、お前ももうすぐ
十六歳の誕生日を二ヵ月後に控えたある日。
剣術の練習中、父がそんなことを言った。
「そうですね、俺ももう十六歳になりますから」
「学園というのは同い歳の者が集まるからな。きっと友人知人もできるであろう」
「ハハハ、楽しみです」
「ワハハ」
にこやかに談笑する俺と父。
――嘘である。
本当はちっとも楽しみなんかじゃない。
行かずに済むなら行きたくなんてない。
だって、そこで俺は破滅させられるかもしれないのだから。
っていうか貴族学園って、ぶっちゃけ名ばかりの最低最悪のゴミ溜めだしさ……。
――貴族学園。
正式名称『ベルクバウ貴族育成学園』
『グランギニョル・スレイヴ』の主舞台となる場所であり、作中では単に貴族学園と略して呼ばれる。
十六歳となった貴族の令息令嬢はこの学園に入学し、貴族とはなんたるかを学ぶ由緒正しき教育施設――。
……というのは、ぶっちゃけほぼ建前。
ゲーム的には貴族共が凌辱非道の限りを尽くすための、体のいい舞台装置に過ぎないんだよな……。
学園とは形ばかりで、実際には貴族たちが横暴に横暴を重ねて身勝手気ままに振舞いまくる、この世の地獄。
当たり前みたいに貴族共が学園内で奴隷を凌辱するわ、貴族間での苛烈な派閥抗争で普通に死人が出たりするわ……。
ゲームをプレイした人間なら、誰しも思ったはずだ。
「この学園、幾らなんでもモラルと治安が終わりすぎてるだろ」――と。
まあ作品自体がハードな凌辱エロゲですし。
そんなことを突っ込むなんて野暮なのかもしれないが。
いやホント、マジで行きたくねぇ……。
「ああそうだ、貴族学園となると――お前に〝奴隷〟を買い与えねばならないな」
ふと思い出したように父が言う。
――〝奴隷〟。
その単語を聞いた瞬間、俺の心はさらにどんよりと暗い気持ちになった。
「…………奴隷、ですか」
「今日辺り奴隷商の下へ行ってきなさい。お前が自分で選んでくるといい」
内心で深いため息を漏らす俺とは対照的に、晴れやかな笑顔を崩さない父。
……この世界の貴族にとって、奴隷を持つというのは至極当たり前の行為だ。
だから奴隷を買うことにも飼うことにも、罪悪感など微塵もない。
そして奴隷をどんな風に扱おうと、誰もなにも言わない。
例えば俺が女の奴隷を購入し、買ったその日に激しく凌辱――からの、うっかりやり過ぎて殺してしまったとしても、父はちょっと注意するくらいで軽く流すだろう。
どこまでいっても、貴族にとって奴隷とは物であり所有物にすぎないのだ。
所有物をどう扱おうが所有者の勝手――そういう感覚なのである。
…………ドン引きだよ。
この世界がゲーム世界であると理解し、異なる視点から俯瞰している俺にとって、この風習は本当に引く。
だって「奴隷だから」って理由でなにしてもOKなんだぞ?
凌辱しようが、腕を切り落とそうが、うっかり殺してしまおうが、なにしてもOKって……。
もう倫理の〝り〟の字もないだろ。
引くわマジで。
この世界の貴族共は蛮族かなにかですか?
そういう転生前の感覚が備わってしまっているので、俺は奴隷が欲しいとか思えない。
いやまあ……俺が奴隷を欲しがらない一番の理由は、倫理どうこう以前に「奴隷が俺を破滅させてくるから」なんだけど……。
ヴォルツ・シュタークは奴隷から嫌われまくるからさ……。
小物で無能でドSのド畜生だから……。
生き方を変えた今の俺でも奴隷たちから嫌われるかはわからないが、関わらずに済むなら関わりたくないんだよなぁ……。
「どうしたヴォルツ? 顔色があまり優れんようだが……」
「いやぁ……奴隷とか正直、あんまり欲しくないかな~と思いまして……」
「貴族学園に通う貴族は、必ず奴隷を一匹飼うことが義務付けられている。ワガママはいかんぞ」
「ハハ、ハ……」
もう乾いた笑いしかでない。
なにが楽しくて、自分を破滅させるかもしれない奴隷を傍に置かなきゃならんのか。
そんな悩みを父に言えるワケもなく――剣術の修練の後、俺は奴隷市場へと足を運ぶことになった。