無能な悪役貴族、奴隷少女と共に貴族学園を征服する 作:メソポ・たみあ
――奴隷市場にやって来た。
……それはもう、めちゃくちゃ重い足取りで。
マジで来たくなかった。
本当に来たくなかった。
帰れるなら今すぐ帰りたい。
だが父から「贔屓にしている奴隷商がいるから会ってくるといい」と言われて送り出されてしまったので、会わないワケにはいかない。
「……帰りてぇ」
思わずポツリと呟く。
俺が訪れた奴隷市場は、クーナウという町の一角にある。
読んで字の如く奴隷が売買される場所であり、主たる顧客は貴族や豪商などの上流階級、次点でミドルアッパークラスの富裕層。
奴隷は金さえあれば買えるので、基本的に奴隷商は誰にでも奴隷を売ってくれる。
とはいえ一見さんの中流階級と貴族のような上流階級を一緒くたに扱うのは世相的にも許されないので、流石に扱いが変わってはくるが。
「さあさあ見てらっしゃい! 今日は活きのいい奴隷が沢山入荷してるよ!」
奴隷市場の中を歩いていると、奴隷商の威勢のいい声が聞こえてくる。
「男を買って力仕事をさせるもよし! 女を買って家事をやらせるもよし! 顔のいい女奴隷もいるから、肉穴として抱き潰しちまうのもおススメでさぁ!」
そう叫ぶ奴隷商の背後には、檻に囚われた何人もの奴隷たちの姿。
奴隷たちの誰もがボロ雑巾のような衣服に身を包み、怯えた表情を浮かべている。
彼ら彼女らがどこから連れてこられたのかはわからないが、おそらく敵国から占領した村々から浚ってきた者たちか、でなければ親族から身売りとして売り飛ばされた者たちか。
あとは、航海者が遠く離れた異国の地から浚ってくるってパターンもあるだろう。
いずれにしても、自分から奴隷になりたいと言って奴隷になる者などいない。
商品を売ろうと活き活きとビジネススマイルを浮かべる奴隷商とは対照的に、奴隷たちは完全にお通夜ムードだ。
「うぅ……ゲロ吐きそう」
奴隷市場に充満する、人の悪臭。
ほとんどの奴隷は集団で檻の中に押し込まれ、身体を洗われたりもしないので、基本的に衛生状態がよくない。
なのでどうしても、不衛生な人間の匂いに市場全体が包まれてしまう。
……『グランギニョル・スレイヴ』の中には、そういう臭いがむしろ好きだと抜かす変態もいたけど。
っていうか、それって
ワザと不衛生な場所で奴隷ヒロインを凌辱するとかやってたからな、ゲーム内の俺。
今思い返しても引くわ。
――そんなことを思っている内に、俺は父から教えられた奴隷商の店へと到着。
そこは奴隷市場の中でも一際大きく、絢爛な佇まいの建物。
一目で貴族などを相手にしている「高級な店」と判別できる佇まいだ。
「はあぁ……入りたくないけど入るか……」
ここまで来たからには仕方ない。
俺は意を決し、建物の中へと入っていく。
「えっと、すみませ――」
「いらっしゃいませヴォルツ・シュターク様。あなた様のご来訪をお待ちしておりました」
俺が入るや否や、即座に一人の老紳士と多数のメイドが出迎えてくれる。
まるで待ってましたと言わんばかりに。
――怖っ!
まさか俺が来ることわかってたのかよ、この人たち!?
父の奴、いったいいつの間に連絡を……!?
っていうかホントに連絡なんて入れたのか……!?
そんな素振りなかったけど……!?
連絡も取り合わずに俺が来ることを察知したんだとしたら、もはやエスパーかなにかだろ……!
普通にビビるわ……!
――い、いや、気圧されるな俺。
ここで舐められて適当な奴隷でも押し付けられようモノなら、それこそ破滅への第一歩となりかねん。
あくまでヴォルツらしく、毅然とした態度でだな……。
俺は無理矢理に口の端をニヤリと釣り上げ、
「ク、ククク……出迎えご苦労。僅かでも俺を待たせないとは、実に殊勝な心掛けではないか」
「お褒め頂き光栄でございます」
「どれ、さっそく奴隷を見させてもらおう。言っておくが、半端なモノを出してくれるなよ」
「勿論、承知致しております。私めが目利きした選りすぐりの奴隷をご用意させて頂きますので、きっとヴォルツ様のお眼鏡にも叶うことかと」
あくまで
彼はすぐに俺を奥の応接室へと案内してくれる。
……俺の態度、おかしくなかったかな?
なんか堂々としようと思うと、ついつい元のヴォルツの口調とか笑い方が出ちゃうんだよな……。
露骨に性格悪いと思われそうだから嫌なんだけど……。
内心ハラハラしているのを必死に隠しながら、俺は応接室のソファにドカッと座る。
それと同時にすぐさま淹れたての紅茶を運んで来てくれるメイドたち。
仕事早すぎるだろ。
なんかもう、俺の方が場違い感が出てきちゃった気がするよ……。
奴隷商の老紳士も反対側のソファに座り、
「改めまして、私めは奴隷商のロージェル・パッパーガーと申します。お父君であるテオフィール様には、ご贔屓にさせて頂いております」
「うむ、父から聞いている。あの父がわざわざ紹介するほどなのだから、よほど腕利きの奴隷商なのであろう」
「いえいえ、私めなどは一介の奴隷商にすぎませんで……」
相変わらず腰の低い態度のロージェル。
うーむ、奴隷商って仕事柄的に性格の悪い悪徳商人って先入観があったんだけど、この人はなんかイメージとズレるな……?
まあ誠実に対応してもらえるなら、それに越したことはないが。
「差し当たりまして、さっそくご商談に入らせて頂ければと」
「うむ」
「まずは、ヴォルツ様はどのような奴隷をお探しでありましょうか?」
「あ~そうだな、とりあえず
明け透けに言う俺。
何故、まず始めに男という性別を指定したか?
それはゲーム内でのヴォルツが女奴隷が大好きで、彼女たちに恨まれた結果破滅という運命を辿ったからだ。
ならば逆に、女奴隷を傍に置かなければいいのではないか?
そう思ったのだ。
女奴隷が傍にいない。
女奴隷から恨みを買わない。
これだ、完璧だ!
ククク、我ながらなんと賢い破滅回避術。
これならば奴隷を飼うという貴族学園の義務をパスしつつ、破滅回避を――
――なんて俺は思ったのだが、ロージェルは悩ましそうに少し眉をひそめる。
「男……でありますか」
「な、なんだ? なにかおかしなことを言ったか?」
「いえ、ですがヴォルツ様は、貴族学園の中でお飼いになられる奴隷を探しにいらしたのですよね?」
「そ、そうだが」
「ふーむ……貴族学園で飼われる奴隷は、
ロージェルは微妙に言い難そうに眉をひそめ、
「失礼を承知で申し上げさせて頂きますと……学園内で同性の奴隷を連れ回しては、
「は?」
「ああいえ、ヴォルツ様のご趣味は充分に尊重させて頂きます! ご安心を!」
ロージェルはすぐに、こちらの機嫌伺うように笑って見せる。
「であらば、華奢な美少年がよろしいでしょうか? それとも筋骨隆々の成人男性の方が? いずれにしても、同性への奉仕を仕込む必要があるでしょうから、幾ばくかお時間を――」
「い、いや、待て、待て待て」
俺にそんな趣味はない。
いや、そんな趣味って言い方をすると本当にそういう趣味の持ち主に失礼だからアレなのだが、とにかく同性愛の趣味はない。
同年代の貴族が集う貴族学園で、そういう趣味の持ち主と思われるのは、だいぶキツイ。
特に貴族なんて連中はレッテル貼るの大好きなんだから。
一度レッテルを貼られたら、卒業後死ぬまで陰口を叩かれ続けるに決まっている。
俺は深く長いため息を口から漏らし、
「……やはり、女の奴隷を見繕ってくれ」
ロージェルにそう頼んだ。