ウマ娘プリティーダービー -伝説と呼ばれた新宿の種ウマ男-   作:龍角散ガム

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ウマ娘の小説でシティーハンターの下ネタはどこまで描いていいのか、塩梅が難しいねんな


メジロの至宝を守れ①

名門メジロ家。

それは、シンボリ家、サトノ家、そして華麗なる一族と並び称される、日本屈指の名家である。

その名は、ウマ娘を知らぬ者でさえ一度は耳にしたことがあるほど広く知られていた。

 

三冠を達成した偉大なる先達『メジロラモーヌ』を筆頭に、多くのウマ娘たちがその歴史に名を刻んできた。

だが、栄光の名のもとに歩んできたその血筋も、今は陰りを見せ始めていた。

 

近年のメジロ家は、確かにGⅠでの勝利こそあれどかつての圧倒的な存在感は失われつつある。

今や無名のウマ娘たちが次々と頭角を現し、名家に生まれたというだけでは勝てぬ時代となった。

『メジロが勝つのは当然』。

そんな神話めいたジンクスも、いつしか人々の記憶から薄れつつある。

 

メジロの名は過去のものになりかけていた。

だが、そんな最中にとあるウマ娘が現れた。

再び栄光を取り戻すかのように。

 

 

『メジロマックイーン』

 

 

彼女は菊花賞でその名を世に知らしめると、続く阪神大賞典、そして天皇賞春において見事な走りで連覇を果たした。

誰もが認めるステイヤーとしての資質。その脚は、ただ速いだけではない。

優雅で、誇り高く、まさに“メジロ”の名にふさわしかった。

 

人々は囁き始めた。

「メジロ家の復活か」と。

そして次なる栄光、天皇賞連覇。

それは、一族の悲願でもあった。

 

だが、そんな彼女の目覚ましい活躍を快く思わない者たちも少なからず存在していた。

やがてその嫉妬や反感は形を持ち始め、メジロ家に対する根も葉もない噂が流され、さらには彼女を誹謗する匿名の手紙が、屋敷やトレセン学園にまで送りつけられるようになった。

 

悪意は静かに、しかし確実に彼女の周囲へと広がっていった。

それでもメジロマックイーンは、そうした幼稚な行為に心を動かされることはなかった。

 

かつての彼女ならば傷つき、立ち止まっていたかもしれない。

だが今は違う。数々の試練を乗り越え、彼女の心はしなやかに、そして強く育っていたのだ。

誰に何を言われようとも彼女は前を向いて走り続ける。

その瞳に映るのは、ただ遠く、まばゆい未来だけだった。

 

だが、その流れを断ち切るように、一通の手紙が事態を急変させることとなった。

 

 

『次の天皇賞春を辞退しろ。さもなくば、メジロ家だけでなくお前を応援するファンが傷つくことになる』

 

 

それは、明確な悪意と敵意に満ちた脅迫状だった。

これまでは、あくまで噂や中傷、嫌がらせの範疇だった。家の門前に置かれた不気味な置き土産、無記名の批判文、無言電話。

 

それらも十分に悪質だったが、今回の手紙は、明確に“他者”を巻き込むと宣言していた。

マックイーンを支え、信じてくれたファンたちを、傷つけると。

 

どれほど理不尽でも、自分一人が矢面に立つなら、耐えられる。

けれど、ファンを犠牲にしてまで走ることに意味などあるのだろうか。

マックイーンは、深く静かに考え、そして答えを出した。

 

 

「......トレーナーさん、私は辞退します」

 

 

決意は苦渋に満ちていた。

けれど、彼女の瞳には迷いがなかった。

 

トレーナーとの長い話し合いの末、二人はついにその決断を下した。

一族の悲願でもある“天皇賞連覇”。その夢を、自らの手で手放すという決断を。

 

そして、すべてを報告するために、マックイーンとトレーナーはメジロ家の本邸へと向かう。

メジロ家の当主『メジロアサマ』の元へと。

 

 

 

 


 

 

 

 

アサマの部屋の前で、マックイーンは立ち止まっていた。

わずかに震える手を、トレーナーがそっと包み込む。

 

 

「......大丈夫だ、マックイーン。僕たちの選択は間違っていない。それに、これで僕たちの道が閉ざされるわけじゃない。......だからそんなこの世の終わりみたいな顔をするのはやめよう」

 

 

優しい声に、マックイーンは目を伏せた。

 

 

「トレーナーさん......」

 

 

言葉にならない感情が胸に滲む。だが、その手の温もりがマックイーンの背中を押す。

深く呼吸を整え、彼女はゆっくりと扉に手をかけた。

 

——ギィ......

 

重厚な扉が静かに開かれ、二人は部屋の中へと足を踏み入れる。

奥の窓際でアサマは背を向けたまま静かに外の景色を見つめていた。

その背中は威厳に満ち、メジロ家を束ねる当主としての風格を放っている。

 

一方、部屋の手前のソファでは、なぜかメジロラモーヌが優雅に紅茶を啜っていた。

柔らかくカップを傾けるその仕草は、まるで舞台の一幕のように洗練されていて、マックイーンもトレーナーも思わず足を止めてしまう。

 

だが、今は戸惑っている場合ではない。

ここに来たのは、重大な決断を伝えるためだ。

マックイーンは意を決し、そっと一歩前へ出た。

 

 

「......おばあさま、私は......」

 

 

言葉が喉の奥で震える。

だが、その一言を遮るように「カチャリ」と室内に静かな音が響いた。

ラモーヌがティーカップをソーサーに戻したのだ。

その動作ひとつで、空気が変わった。

 

 

「——悲願を達成しなさい、マックイーン」

 

 

ラモーヌの声音は、優雅さを纏いながらも剣のように鋭かった。

その視線が、マックイーンとトレーナーを真っ直ぐに貫く。

 

彼女は理解していた。

メジロ家を守るため。ファンを守るため。

自分のことを顧みず、全てを抱えて下したマックイーンの苦渋の決断を。

 

だが、それでもなおラモーヌは言ったのだ。

「出ろ」とではない。「()()」と。

天皇賞春の勝利をあえて“命じた”のだ。

 

空気が張り詰める。

マックイーンは、瞬時に言葉を返した。

 

 

「私は......私は、ファンの人々が傷ついてまで、メジロ家の悲願を果たしたくはありませんっ!」

 

 

その声は強く、まっすぐだった。

けれど、その言葉を遮るようにラモーヌはすぐさま言葉を返す。

 

 

「貴女のファンは、貴女が天皇賞春を連覇する姿を夢見ているのよ。それにも関わらず、自らその夢を投げ出すというの?それこそファンに対する最大の侮辱ではなくて?」

 

 

「それは......っ!」

 

 

言い返そうとして、マックイーンの喉が詰まった。

言葉が出てこない。心が揺れている。

ラモーヌは一歩、彼女へと近づいた。

 

 

「それに——貴女たちの“愛”は、その程度なのかしら?」

 

 

「「——っ!!」」

 

 

その一言に、マックイーンとトレーナーの肩がピクリと震えた。

強く、冷たく、それでいて痛いほど真っ直ぐな言葉だった。

 

沈黙。

反論しようとしても口が開かない。

言いたいことはあるはずなのに、心の奥がざわつき何かを見透かされたような感覚に、言葉が追いつかなかった。

 

ファンを守るために下した決断だった。

自分の心を押し殺し、感情を捨てたはずだった。

だが、二人は完全に捨て去ることができなかったのだ。

 

沈黙の中で、ラモーヌはただ静かに立ち尽くしていた。

その姿はまるで、“答え”を委ねる審判者のようだった。

 

 

「ラモーヌの言うとおりです、マックイーン。

メジロ家の悲願を——そして、貴女自身と貴女を信じて応援してくれるファンの夢を叶えなさい」

 

 

静かに振り返ったアサマが、凛とした声でそう告げた。

その言葉は鋼のように強く、けれどどこか優しさを孕んでいた。

 

 

「おばあさま......」

 

 

自分の使命。

トレーナーと共に歩んできた日々。

そして、スタンドで声を枯らして応援してくれるファンの夢。

それらを何ひとつとして「捨てられない」自分がここにいる。

 

トレーナーは何も言わなかった。

ただ、黙ってマックイーンを見つめていた。

けれどその沈黙は、彼女を突き放すものではない。

それは彼の「覚悟」だった。

 

どんな選択でも受け入れる。

君のすべてを支える。

 

あの日、契約を交わした瞬間から誓った約束であった。

 

 

「......貴女たちに立ちはだかっている、本来あるはずもない壁は、私に任せなさい」

 

 

アサマは静かに続けた。

 

 

「だから、貴女たちはただ真っ直ぐに前に進みなさい」

 

 

「し、しかしおばあさま......!」

 

 

反射的に言葉を返しかけたその時だった。

 

部屋の後方。

マックイーンとトレーナーの背後から、重く、渋く、そしてどこか茶目っ気のある声が響いた。

 

 

 

 

「“私に任せて”じゃなくて、“俺に任せて”の間違いだろ、婆さん」

 

 

 

 

「「えっ——?」」

 

 

振り返った瞬間、二人の瞳が見開かれる。

そこに立っていたのは、青と赤のジャケットを粋に着こなす長身の大男。

 

まるでずっとそこにいたかのように静かに立ち尽くしていた。

気配などまるで感じなかった。

突然現れたその存在に、マックイーンもトレーナーも思わず半歩後退る。

 

しかし——

 

 

「......ふふっ」

 

 

ラモーヌがその男を見た瞬間、妖艶な笑みを浮かべながら微笑んだ。

 

 

「お邪魔しますね、アサマさん......っと!おぉ〜!ラモーヌちゃんじゃない!久しぶり!元気してた!?」

 

 

大男の背後から、女性がひょっこり顔を出した。

活気の溢れるその女性は、手を振いながらラモーヌの元へと駆け出した。

 

 

「......ふふっ。えぇ、香さん。お久しぶりね」

 

 

まるで旧友同士のように、互いに笑顔を交わす二人。

場の空気が一瞬だけ、柔らかく解ける。

 

そのやりとりを眺めていたマックイーンとトレーナーは、完全に戸惑っていた。

 

 

「あの......この方たちは......?」

 

 

「紹介します」

 

 

アサマが静かに言った。

 

 

「彼は、今後あなたたちを護るために私が雇った、私が知る中で最も信頼できる実力を持った“最強の男”——」

 

 

その言葉を遮るように大男が一歩前に出て、マックイーンとトレーナーに向き直った。

彼は口角を少し上げ、二人に簡潔に名乗った。

 

 

 

 

 

 

「冴羽獠だ」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「トレーナーさん!!天皇賞春がすぐそこまで迫っているというのに、貴方はなんてはしたないことを......!!」

 

 

「だ、だから違うんだってマックイーン!!」

 

 

「あぁ......あの時約束した、私と“一心同体”となるという言葉......あれは全部、嘘だったのですね......っ。およよ......」グスン

 

 

「ち、違っ......!!僕は......!!」

 

 

「はーいはーい!!トレーナーがマックちゃんを泣かした!!メジロの婆さんに言いつけちゃおーー!!」

 

 

「うっさいこの変態もっこり星人!!元はと言えばアンタのせいでしょうが!!」ズドンッ!!

 

 

「ぎゃああああああああっ!?!?」

 

 

「......ごめん、マックイーン。僕の軽率な行動が君を傷つけた......だけど......だけど、あの日交わした約束は嘘なんかじゃない。今ここで改めて誓うよ。これから何があっても、僕は君をずっと支え続ける。僕と君は“一心同体”だ......!!」

 

 

「トレーナーさん......!!」

 

 

「うひゃあ〜〜〜。こんな真っ昼間から愛の告白だなんて、トレセン学園ってば進んでるぅ〜〜〜。......ってあれ?獠がいない......?」

 

 

「たっっっっっづなすわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!ボクちんと“一心同体”になって情熱的な“愛”を育み、濃厚なうまぴょい伝説の幕を開けましょぉぉぉぉぉぉぉう!!!!」

 

 

「あの馬鹿......っっ!!こらぁぁぁぁぁっ!!!待ちなさあああああああい!!」

 

 

 

天皇賞春は、すぐそこまで迫っている。

 

 

 





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