ウマ娘プリティーダービー -伝説と呼ばれた新宿の種ウマ男-   作:龍角散ガム

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メジロの至宝を守れ②

 

 

ついに天皇賞春の幕が上がる。

 

メジロマックイーンが連覇を飾るのか?

それとも、彼女の前に立ちはだかるウマ娘が現れるのか?

レース前だというのに、観客のテンションは最高潮に達していた。

 

パドック周辺は多くのファンで賑わっている。

ウマ娘たちの姿を一目見ようと、誰もが目を輝かせていた。

 

だが不思議なことに、これほどの熱気に包まれながらも、争いごとの気配は一切なかった。

誰もがそれぞれの“推しウマ娘”について語り合い、互いを尊重している。そこにあるのは競争ではなく、リスペクトだった。

 

それは、ウマ娘たちがこれまで命を懸けて築いてきた“軌跡”の賜物だ。

己の信念と誇りを賭けてぶつかり合う彼女たちの姿が、人々の心を変えていったのだ。

 

 

「相変わらずウマ娘の人気ってすごいわねぇ〜。うちもこうやって人気出たら、お金がじゃんじゃん入るのにな〜」

 

 

パドックの様子を、香は少し離れた場所から眺め、感心したように呟く。

 

 

「しかし、こうも人が多いとマックイーンちゃんを狙ってる犯人を見つけるのは一苦労ね。......ちょっと獠? 聞いてる?」

 

 

隣で双眼鏡を構えている獠に声をかけるが、彼は真剣な面持ちでパドックを見つめたまま微動だにしない。

 

 

その様子に気圧される香。

だがふと、獠の口元を見るとダラリと涎が垂れていた。

視線の先を辿ると、そこには推しウマ娘について語り合うナイスバディな大人ウマ娘たちの姿が......!

 

 

「ぐふふふっ......ボン、キュッ、ボン!! あぁ、どうしてウマ娘さんたちはこんなにもキュートで美人で、もっこりパワー全開なんだ......! 見たい......夜のウイニングライブで舞う姿を見たい......っ!!って、あれ? なんで視界が真っ暗に——?」

 

 

「ふんっ!!!!」 バキィィィ!!!!

 

 

「ぐわあああああっ!? 目がっ!? リョーちゃんのプリチーでカッコいいお目目があああああああっ!!?」

 

 

「油断も隙もありゃしないったら、まったく」

 

 

香のハンマーが炸裂し、双眼鏡は無残に砕け散る。獠は地面でのたうち回りながらも、なお未練がましくパドックをチラ見していた。

 

そんな彼を尻目に、香は本来の目的であるマックイーンを脅した犯人探しへと意識を戻す。

 

 

「......やはり、犯人はあいつ一人だな」

 

 

不意に、地面でうずくまっていた獠がボソリと呟き、鋭い眼差しで一点を見据えた。

 

 

「えっ......!? 犯人を見つけたの?」

 

 

「あぁ、間違いない。あいつだ」

 

 

獠の視線の先には茶色のコートを着込み、サングラスとマスクで顔を覆ったいかにも怪しい人物が立っていた。

周囲と会話を交わすこともなく、ただ一人、パドックを見つめながらブツブツと独り言を呟いている。

 

 

「......いや、明らかに不審すぎるでしょ」ポカーン

 

 

香は思わず肩を落とし衣服がズレる。

 

 

「さっきからずっと奴を観察してたが、誰かと連絡を取るそぶりもなし。完全に“見るだけ”。典型的なストーカーだな」

 

 

「よしっ......!! さっさととっ捕まえて、マックイーンちゃんのレースを見に行こうじゃないの!」

 

 

香が意気込んで動こうとした瞬間、獠が彼女の肩を掴んで彼女を止めた。

 

 

「落ち着け、香。ここで騒げばレースそのものが台無しになっちまう」

 

 

「で、でも......!」

 

 

「ここはオレに任せろ。お前はマックイーンのところへ行ってやれ。いいな?」

 

 

「......分かった。絶対にレースを邪魔させないでよね」

 

 

香は力強く頷き、マックイーンとトレーナーの元へ駆け出していった。

残された獠は、不審人物をじっと視界に捉えたまま、ゆっくりと歩みを進めるのであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

パドックに次々と姿を現す天皇賞春に挑むウマ娘たち。

一人登場するごとに観客の歓声が巻き起こり、パドックは熱狂の渦へと包まれていく。

 

そして、ついに本日の主役が現れた。

 

解説の声と共に蹄鉄の音がコツン、コツンと静かに響く。

その姿を前に会場にいた誰もが思わず息を呑み、場の空気は一瞬、凍りついたかのように静まり返る。

 

だが、ただ一人。

その静寂の中で、心の奥底から湧き上がる憎しみを抑えきれない男がいた。

 

 

「メジロマックイーン......忌まわしきメジロ家のウマ娘......!」

 

 

男はギリッと歯を噛みしめ、ポケットの中に忍ばせた物を強く握りしめた。

 

そして、ついに彼女が現れる。

優雅で華麗。

だがその瞳には、揺るぎない意志と誇りが宿っている。

宝石のようにきらめく瞳が観客たちを魅了し、誰もが彼女に釘付けになっていた。

 

 

『続いて現れるのは本日の主役。悲願の天皇賞連覇を狙うはメジロ家の秘宝、メジロマックイーンの登場だぁああああ!!』

 

 

 

『『『『『ワアアアアアアアアアア!!!!!』』』』』

 

 

 

解説の煽りに合わせてパドックの熱気は最高潮に達した。

会場全体が揺れるほどの歓声に包まれる。

だがその中で、男は狂気の笑みを浮かべた。

 

 

「フッ......フフフフッ......出たな、マックイーン......!俺の忠告を無視して天皇賞春に出てきやがったな......ッ!」

 

 

 

男は震える手でポケットからひとつの装置を取り出す。

それは爆弾だった。

 

赤いランプがチカチカと点滅し、複雑に張り巡らされたワイヤーが不気味な存在感を放っている。

 

 

「後悔するがいい......メジロマックイーンッ!!」

 

 

男は爆弾を観客席へと投げつけた。

観客は全員マックイーンに視線を奪われており、誰一人としてそれに気づかない。

爆弾はゆっくりと弧を描き、宙を舞う。

そして、その軌道が頂点に達した瞬間。

 

 

ズドンッ!!

 

 

重い発砲音が響き、爆弾は空中で爆発した。

 

 

ドカアアアン!!

 

 

パドックの真上に、鮮やかな爆発が広がった。

 

 

「なんだ? 花火か?」

 

 

「URAったら、粋な演出をするじゃないか!」

 

 

だが、観客たちは爆発を演出と勘違いし、さらにテンションを上げた。

 

 

「な......なぜだ!? なぜ勝手に爆発した......!?」

 

 

男は混乱し、空を睨みつけた。

その瞬間——

 

 

「......ッッッ!?!?」

 

 

背筋を走る戦慄。

まるで銃口を背中に突きつけられているような。

心臓を誰かに握られているような——そんな圧倒的な“殺気”が男を襲う。

 

全身が震え、足が勝手に後ずさる。

もう立っていることさえままならない。

 

 

「う、うわあああああっ!!?」

 

 

男はその場から逃げ出した。

理性も目的もなく、ただ“それ”から逃げるように。

観客の中には男の異常な様子に気づいた者もいたが、すぐに視線はウマ娘たちへと戻る。

 

狂気も憎しみも、歓声の中に飲まれ消えていく。

そしてついに、天皇賞春の幕が上がる。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「はぁっ......はぁっ......!! なんなんだよ、畜生ッ!!」

 

 

レース会場から逃げ出した男は、街中を駆け抜け人気のない路地裏へとたどり着いていた。

全身を覆う冷や汗に気づく暇もなく、感情のままに近くのゴミ袋を蹴りつける。

だが、その背後から鋭い声が飛んできた。

 

 

「年貢の納め時だな、マックイーンを脅かした犯人さんよぉ」

 

 

カツカツ...と靴の音が路地裏に響く。

姿を現したのは冴羽獠だった。

 

片手をポケットに突っ込み、もう片方は腰のあたり。

鋭い眼光が男を射抜く。

 

 

「神聖なレースを汚そうとした罪——神様に代わって俺が裁いてやる」

 

 

「うるせぇ!!メジロマックイーンが......いや、メジロ家が悪いんだ!!」

 

 

男はわめきながら足を踏み鳴らす。まるで駄々をこねる子供のように。

 

 

「あいつらが......あいつらが俺の、育てたウマ娘を叩き潰した......!!

そのせいで担当を外されて......トレセン学園もクビになったんだッ!!」

 

 

男は拳を震わせ、地団駄を踏みながら叫び続ける。

 

 

「俺を......僕を誰だと思ってる!? 僕は名家の出だぞ!? こんな屈辱......僕をッ!! 僕をおおお!!」

 

 

「ふん......やっぱ金持ちのガキってのは、ろくな奴がいねぇな」

 

 

「な......なんだとォッ!?」

 

 

「お前みてぇなケツの青いガキに——ウマ娘たちのトレーナーが務まるかってんだよ」

 

 

「馬鹿にしやがって!!死ねぇッッ!!」

 

 

男が懐からもう一つの爆弾を取り出し、獠に向かって放り投げる。

 

その瞬間——

獠は無言で懐からコルトパイソン.357マグナムを抜き、引き金を絞った。

 

銃声が路地裏に鳴り響く。

弾丸は爆弾の端をかすめ、弧を描いて空へと跳ね上がらせる。

 

獠はわずかに目を細め、再度トリガーを引いた。

2発目の弾丸が爆弾に命中した。

 

 

ドォンッ!!

 

 

爆弾は空中で爆発し、轟音と共に路地裏のゴミ箱や段ボールが吹き飛ぶ。

 

爆風の余波が消えたとき、男は弾丸が掠った頬から血を流し、その場にペタンと座り込んでいた。

そして、その足元にはじわりと黄色の水溜りが広がっていく。

そのとき、路地裏の入り口から複数の足音が近づいてきた。

 

 

「いたぞ! 捕まえろ!!」

 

 

現れたのは、メジロ家の使用人たちだった。

無言で倒れた男に手錠をかけ、両脇を抱えて連行していく。

 

獠はそれを見届けながら、静かに路地裏を後にするのであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

街中を歩いていた獠のスマホが不意に着信音を鳴らした。

画面に表示された名前を確認すると、無言のまま通話ボタンをタップする。

 

 

『ありがとうございます、冴羽さん......無事に犯人を捕まえることができました。流石はプロのスイーパー「シティーハンター」ですね』

 

 

「美人の依頼は絶対にこなす。それが俺の流儀ってやつさ。それより婆さん、こんなとこで油売ってていいのか?大事な孫娘の晴れ舞台、見逃しちまうぜ?」

 

 

『............問題......ありません。無事......彼女の勇姿を見届けることが......できました......!!』

 

 

鼻をすする音と涙を堪えきれない声。

それを耳にして獠はそっと笑みを浮かべた。

 

 

『......それで、今回の報酬の件ですが......』

 

 

「いらねぇよ」

 

 

メジロアサマの言葉を遮るように、獠は優しく言い放つ。

 

 

『で、ですが、私はまたも貴方に助けられました......せめてものお礼を......』

 

 

「報酬なら、とっくに貰ってるさ」

 

 

『い、一体何を......?』

 

 

視線を上げると、街頭の大型ビジョンが目に入る。

そこには、勝利に涙を流しながらトレーナーと抱き合うウマ娘の姿——

満面の笑みは見る者の心を打つほど眩しかった。

 

獠は再び微笑み、メジロアサマに一言だけ告げて通話を切った。

 

 

 

「金じゃ買えねぇ、とびっきりの報酬をな——」

 

 

 

 

【メジロ家の至宝を守れ fin】

 

 





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