10.ばいにん(始)
途中経過(南三局終了時点)
【南家】南浦 数絵 :49900
【西家】須賀 京太郎 :15100
【北家】石戸 月子 :20300
【東家】花田 煌(親) :14700
▽ 長野県 信州麻雀スクール・H卓(空卓)/ 17:35
雨が煙る。雨滴を吸い込んだアスファルトはその色を濃くしていく。藍色の路上で、水が徐々にその版図を増していく。増える水溜りには無数の波紋が連なっている。大粒の雨は、まだまだ止む気配がない。
けれどこの勝負は終わる、と池田華菜は思う。
南浦数絵の四倍満和了により、趨勢は決したかのように見えた。実際、二着に三万点近く突き放してのトップ目は、ほぼ磐石といっても良い体勢である。仮に
最後まで何が起こるかわからないのが麻雀とはいえ、それを南浦が心得ていないわけではない。優勢は優勢である。池田の目にも、南浦の優勝は動かしがたいように見える。
となれば、もうひとつの関心は、サシウマを握る石戸月子と須賀京太郎――この2者に向かざるを得ない。
両者の点差は、月子の役満親被りによって5200点まで縮まった。月子があくまで首位を期すならば三倍満以上の自摸か、南浦からの倍満直撃が必須となる。単純に京太郎を凌ぎ、二位抜けで満足するのであれば、和了さえすればよい。ここまでの月子の性向からして、恐らく後者の路線を選ぶであろうことは想像に難くない。
(こんなの、よくある半荘でしかない)と、池田は思う。
運命を決する山が井桁に積まれる。
卓上にせり上がった136枚に、ちょっとした運命のようなものを左右する力が与えられる。
(ミスも多い。厳しい目で見れば、たいしてレベルが高い卓じゃない)と、池田は思う。
花田の細い指が、卓上のスイッチを押す。
(でも、いつもふしぎに思うんだ。どんな卓にもそれはあるんだ。おかしなもんだ――)
廻る――
(この勝負――熱いぜ)
彼女の指が、疼きに促されて、牌を手繰る素振りをなぞる。
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:35
花田煌は一意専心して賽を振る。彼女に雑念はない。窮地である。正念場である。ここを逃せば先の加点も帳消しになりかねない。力及ばず勝てなかった結果を受け入れる用意はあるが、最後の最後まで、諦めが花田の脳裏を掠めることは無い。
(とにかく連荘、なんてケチなことはいわない。そうなると石戸さんや南浦さんに凌がれますからね――)
覚悟も深く、花田は瞑目する。鼓動が高鳴っている。今日という日に、この卓を囲めた幸運に、彼女は感謝した。
(きてよかった。今日はすばらな日になりそうです。そして、よりすばらな明日を――)
廻る賽が止まる。
出目は、四。
(――ぜったい勝って迎えるぞっ)
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:35
出目は果たして、開門に月子の山を選んだ。
(二の二、――天和の目、か)
南浦数絵はその賽の目にいわくを感じる。
かつて祖父が昔語りをした折に聞かされた覚えがある。
それは卓上において、神秘よりも技術が猛威を振るった時代の話だ。
今では全自動雀卓の普及により日の目を見なくなったその技術を、手慰みに祖父が見せてくれたことがあった。霞むような牌捌きに、不自然なところは全くなかった(少なくとも南浦には検知できなかった)。だが賽が振られ、配牌を終えたとき、祖父の手は紛れもなく
「いまとなっては、ただの郷愁でしかないのかもしれない」と、祖父は苦いものを含んだ顔で語った。「もちろん使いどころなんてありはしない。こいつは裏芸さ。人を騙して食い散らかしてきた証拠でしかない。いやしくもプロと呼ばれる人間が、たとえ
実のところ、南浦数絵はある程度祖父のいう『裏芸』に通じている。渋るかれに頼み込んで、お年玉さえ要らないからとごねにごねて、一度だけという条件で、いくつかの技を披露させたことがある。積み込みもスリ替えも、求められるのは器用さと、何よりここ一番の肝の太さである。子供特有の熱心さで技術はある程度飲み込んだ南浦だったが、大一番でいかさまを仕掛ける度胸は持てる気がしなかった。
実戦で使ったことはない。これからも使うことはないだろうと彼女は思っている。祖父にも厳しく命じられている(それは公正さを重んじての命令ではなく、南浦の今後の成長を阻害させないための言葉だった)。
―― 一瞬の回顧であった。花田が最初の幢を自摸った動きに合わせて、南浦もまた慌てて壁へ手を伸ばす。
(なんでいま、お祖父様のことを思い出したんだろう)
牌を撫でるうちに、理由はすぐに思い浮かんだ。右手にはまだ、前局の海底役満和了の余熱がある。
南浦にあの手を運んだのは月子。そして成就させたのは京太郎だった。
(凄いことを、したわけじゃないんだろうけど)と、南浦は京太郎を見るともなしに思う。(初心者だからかな? なんだか、心が浮くみたいな麻雀を打つ人みたい――)
捲られた牌は{三萬}。ドラは{四萬}。
(役満を和了ったからって、流しはしない。合計収支を競っているんだから、ここで勝ち切る。勝つ)
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:36
(天国、地獄、大地獄――という感じね)
トップから一転、大差の二位に転落して、月子は自嘲を禁じえない。しかし、省みる暇は彼女に与えられていない。時は着々と刻みを続けるし、他家は虎視眈々と月子の点棒を狙う。
(やってらんないわね、まったく……とは思えないのが、不思議なところ)と、月子は胸中独白する。
実際、常の彼女であれば、腐ったところで不思議は無い状況だった。押さえ込んだと思った矢先に子の役満和了を親被りなど、事故以外の何者でもない。
過去の対局の傾向からして、トップの座を明け渡した直後の彼女は、集中力を切らしやすい。そこから調子を崩すのが恒例でさえあった。
しかし、すくなくともこの半荘の月子は、べつの感興に支配されていたのである。
(もしかして、わたし、楽しいとか――思っちゃってたり、したりして)
一概に否定はしきれない。何事かを賭した勝負は、人に興奮をもたらす。勝利の喜びを倍増させ、敗北の悔いをも増倍させる。
そういうこともあるのだろうと、彼女は心に整理をつけた。
(――前局、わたしに仕損じは無かった。須賀くんのあの鳴きも、所詮は苦し紛れでしかなかった。純粋に
月子の感覚は、引き続き南浦への警戒を訴えている。こうなれば、二位以下の点差など無いに等しかった。もっとも現実的な策は配牌オリを決め込んで南浦の和了を待つことだが、それは他家を自由にさせることに他ならない。
(なにより、
現実的に、月子の逆転は困難と判じざるを得ない。高目を育てる悠長な場況になるとも考えにくい。石戸月子は、速度を信仰している。麻雀とは他者と和了を競う遊戯である。であれば、誰より早く和了し続けることを目指すべきだ――そう頑なに信じている。
(ゴミ手でもいい。自分の麻雀を打ち切ろう)
月子は深呼吸する。幾度も繰り返した摸打を、この場面でも繰り返す。彼女がこの対局に臨むにあたり心がけることは、それだけである。
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:36
そして、須賀京太郎は天を仰いだ。
「やろうぜ」
と、かれはいった。誰に向けた言葉でもなかった。強いて言うなら、かれの意思はおのれを志向していた。何かが変わるという期待と、何も変わらないという諦念がせめぎ合うかれの心理は、いま、勝負の熱に焦がされていた。
このときだけでいい、とかれは心底、思った。いまが永遠であればいい、と本気で願った。
(けど、終わりはやってくる。泣いても笑っても、泣かなくても笑わなくても)
旦夕のように、それを留めおく術は人の手が届かない場所にある。それを京太郎も知っている。余計な思考は頭の隅に追いやって、かれは真っ直ぐに勝利を目指す。
「さア、勝負だ――」
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:37
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
【南家】南浦 数絵 :49900
【西家】須賀 京太郎 :15100
【北家】石戸 月子 :20300
【東家】花田 煌(親) :14700
配牌
花田 :{[五]六八九九①③④122277}
配牌
南浦 :{二四四五⑦334西西白白白}
配牌
京太郎:{三三四②②[⑤]⑥89北中中發}
配牌
月子 :{一二②④⑤⑥[5]689發發中}
たどり着いたオーラスで、ずば抜けた配牌を与えられたのは南浦である。前局の劇的な和了を引きずるような
次点で、親の花田がいる。萬子の高目がやや重たい急所となっているが、和了への道筋は簡明で塔子も恵まれている。わずかに吟味した彼女の第一打は、{①}であった。
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
1巡目
花田:{[五]六八九九①③④122277}
打:{①}
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
1巡目
南浦 :{二四四五⑦334西西白白白} ツモ:{①}
打:{①}
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
1巡目
京太郎:{三三四②②[⑤]⑥89北中中發} ツモ:{九}
打:九
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
1巡目
月子 :{一二②④⑤⑥[5]689發發中} ツモ:{東}
{打:東}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:38
(1巡目から、子方は全員自摸切りですか――打たれた牌からじゃいまいちわかりませんが、ちょっと
感覚を研ぎ澄ませた花田は、三方の子に気を払う。緩んだ打ち回しも、漫ろな捌きの誤りも、致命傷となる局面である。麻雀に対する揶揄の一種として、絵合わせという表現があるが、それもまた本質の一つには違いない。
(問題は、このパズル……完成をだれも約束してくれないことなんですけどね)
これはと思った本手が、他家の手や王牌に殺されていることもある。しょっちゅうある。そのたびに泣きを見る花田であるが、不思議と、もう懲り懲りだと思ったことはない。
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
2巡目
花田:{[五]六八九九③④122277} ツモ:{4}
(内に内にと手なりで寄せて、はたしてすばらな未来があるものか――)
打:{1}
(――っていったって、定石を疑うほど、わたしはまだ巧くないですからね。まっすぐですっ)
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:38
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
2巡目
南浦 :{二四四五⑦334西西白白白} ツモ:{⑨}
({⑨}……)
引き当てた筒子に、南浦は眉を顰めた。
({二四四五}や{334}の連続形を見限る巡目じゃない。落とすとしたらオタ風だけど、{西}はたぶん山に丸生きしてる。
思案のすえに、彼女が選んだのは2巡連続の自摸切りであった。
打:{⑨}
(この選択、どう出るか)
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:39
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
2巡目
京太郎:{三三四②②[⑤]⑥89北中中發} ツモ:{5}
奇しくも上家の南浦の行動に倣うように、京太郎も自らの自摸を見、その動作をわずかに停滞させた。ほとんど閃きに近い方針がかれの脳裏を過ぎったのはそのときである。
(こいつは……――)
手拍子で打北といく手順に、指運に、かれはあえて逆らった。
打:{9}
(伸るか反るか)と、かれははらを据えた。
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:39
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
2巡目
月子 :{一二②④⑤⑥[5]689發發中} ツモ:{東}
連続の{東}引きに、さしもの月子も口角を吊った。
(よくあることだけど! もう見慣れた光景だけれども! この局面でこう来られると、ほんと、むかつくわ!)
{打:東}
(ああ、面前で自摸るのって、どんな感じなんだろう――)
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:39
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
3巡目
花田:{[五]六八九九③④222477} ツモ:{8}
(すばらっ。両面塔子でフォローしつつ、タンヤオへ移行――ですね!)
打:{九萬}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:39
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
3巡目
南浦 :{二四四五⑦334西西白白白} ツモ:{⑧}
(ド裏目……っ!)
おのれの指感を信じなかったことを、南浦は悔いた。
(よくあることだけど――役満和了ったから適当に打ってるなんて、絶対におもわれたくない。⑨⑧⑦の並べ打ちなんて、できないっ……)
苦みばしった表情で、南浦は対子を落とした。
(両面なら、フリテンだってふつうに字牌対子よりうえだもの――!)
{打:西}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:40
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
3巡目
京太郎:{三三四②②[⑤]⑥58北中中發} ツモ:{⑨}
打:{8}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:40
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
3巡目
月子 :{一二②④⑤⑥[5]689發發中} ツモ:{北}
(自風――とはいえ、使いでがない。3巡連続でなんだけど……)
{打:北}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:41
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
4巡目
花田:{[五]六八九③④2224778} ツモ:{5}
打:{九萬}
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
4巡目
南浦 :{二四四五⑦⑧334西白白白} ツモ:{南}
{打:西}
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
4巡目
京太郎:{三三四②②[⑤]⑥⑨5北中中發} ツモ:{⑧}
打:{5}
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
4巡目
月子 :{一二②④⑤⑥[5]689發發中} ツモ:{西}
{打:西}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:42
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
5巡目
花田:{[五]六八③④22245778} ツモ:{南}
{打:南}
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
5巡目
南浦 :{二四四五⑦⑧334南白白白} ツモ:{六}
{打:南}
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
5巡目
京太郎:{三三四②②[⑤]⑥⑧⑨北中中發} ツモ:{南}
{打:北}
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
5巡目
月子 :{一二②④⑤⑥[5]689發發中} ツモ:{6}
打:{9}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:42
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
6巡目
花田:{[五]六八③④22245778} ツモ:{七}
(裏目?――いいえ、わたしはそうは読まない。これは……すばらなツモ!……のはずっ)
打:{八萬}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:43
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
6巡目
南浦 :{二四四五六⑦⑧334白白白} ツモ:{東}
({三萬}・⑥{⑨}引き打{4}の1向聴――{⑨}をとっておけば、嵌{三萬}でもう聴牌)
少なくとも同局の間、前巡の摸打を顧みることは禁物である。そうとわかっても嘆息を禁じえないほど、南浦はここからの旅路が長くなることを予感していた。
(ここからが……)
{打:東}
(――長い)
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:43
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
6巡目
京太郎:{三三四②②[⑤]⑥⑧⑨南中中發} ツモ:{三}
{打:南}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:43
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
6巡目
月子 :{一二②④⑤⑥[5]668發發中} ツモ:{5}
打:{8}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・H卓(空卓)/ 17:44
卓のぐるりを廻って場況を観察し終えると、池田は壁に背を預けて腕を組んだ。位置取りは、京太郎・月子の背後である。
(須賀と石戸が、それぞれ南浦のまじめなこだわりに迂回に救われた形だ。須賀が四枚目の{三萬}を引き当てて、石戸と南浦のキー牌を同時に殺した。ふたりが辺・嵌{三萬}と心中するなら、抜けるのはたぶん、花田――なんて、北海道がぴたりとアタるなら、苦労はないか)
順当に行けば、京太郎の手牌では{發}が、月子の手牌では{中}がそれぞれ余る。計らずも京太郎が実践した月子の早和了封じが機能する手格好なのである。これを京太郎のツキと見るべきか、月子の不ヅキと見るべきか、池田は黙考した。
(石戸は苦しいな。実質、配牌からほとんど手が動いてない。鳴けないかぎり、マジで引けないのかな? どうやってそんなことしてるんだ? 積み込みやってるってことか? 自動卓に?――ああ、考えてもわっかんないなァ)
京太郎
河:{九985北南}
月子
河:{東東北西98}
(須賀、アンタは自摸に沿ってるだけか? それとも小細工に溺れてるのか?)
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:44
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
7巡目
花田:{[五]六七③④22245778} ツモ:{北}
{打:北}
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
7巡目
南浦 :{二四四五六⑦⑧334白白白} ツモ:{2}
打:{二萬}
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
7巡目
京太郎:{三三三四②②[⑤]⑥⑧⑨中中發} ツモ:{白}
{打:白}
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
7巡目
月子 :{一二②④⑤⑥[5]566發發中} ツモ:{八}
打:{八萬}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:44
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
8巡目
花田:{[五]六七③④22245778} ツモ:{9}
(タンヤオが崩れる{9}引きではありますが、――絶好ではなくても、上々の自摸っ)
打:{7}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:44
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
8巡目
南浦 :{四四五六⑦⑧2334白白白} ツモ:{⑦}
(これで、ようやく、フリテン解消――)
打:{⑧}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:44
そして、この半荘何度目になるのか――またしても、翻牌の切り出しを契機に、場が動き出すときがきた。
契機の役目は、京太郎が担った。
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
8巡目
京太郎:{三三三四②②[⑤]⑥⑧⑨中中發} ツモ:{①}
8巡目、{①}を自摸った京太郎は、おもむろに打{發}といった。
月子の副露に対する警戒など、前巡の打{白}から失せてしまったかのようだった。
{打:發}
「――ポン!」
馴染んだ発声が下家であがった。
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:44
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
8巡目
月子 :{一二②④⑤⑥[5]566中} ポン:{横發發發}
鳴いた月子が河に打つ牌を選ぶとき、もちろん、京太郎の『対策』を懸念していないわけではなかった。手順は{中}を切り出せといっている。だが{中}は
だが、逡巡は一時だった。
(どのみち、しょうがない――あるかどうかもわからない副露を警戒して、シャンテン戻しなんか死んでもしたくないわ)
{打:中}
「ポン」
やはり、京太郎は鳴いた。
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:44
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
9巡目
京太郎:{三三三四①②②[⑤]⑥⑧⑨} ポン:{中中横中}
月子から{中}が出た瞬間、京太郎はほとんど自動的に発声していた。しかしいざ牌を晒す段になって、手が止まる。聴牌を目指すだけであれば、{⑨⑧}を払っていくべきだ。その場合、ロスは4枚見えている{⑧⑨}の二度引きのみである。ただ和了るだけならば、その手順に疑いはない。
しかし、かれが参加しているのは条件戦である。二位の月子との点差は5200ある。3900を自摸和了しても届かない。仮に以下のような最終形になったとして、
京太郎:{三三三四①②③[⑤]⑥⑦} ポン:{中中横中}
かれが月子を捲くるには、ドラを跨ぐ{二五萬}を月子から直撃するか、{赤五萬}を自摸る必要がある。{三萬}を手の内で使い切ったこの場況、{二萬}が飛び出る可能性はある。実際すでに上家から一枚零れている。
だが、{赤五萬}が山に残っているか――そもそも月子が京太郎の中り牌を打つか、といった点で、まだ布石が足りないとかれは思った。
京太郎は自らの河に染め手の演出を施した。露骨な河に仕上げて見せた。だがまだ足りない。現時点では
(止まるな)と京太郎は自分に言い聞かせる。(淀むな。迷うな。ためらうな――)
熟考の素振りを見せれば、かれの浅知恵は露見するだろう。見透かされるとまではいかなくとも、
滑らかな動作で、かれは牌を抜き打った。
打:{四萬}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:44
(――
月子は歯噛みした。温存したドラを打った以上、京太郎は聴牌と見るべきだった。彼女はよほどその一役を鳴いて喰い取りたかった。だが鳴けないものはしかたない。
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
8巡目
月子 :{一二②④⑤⑥[5]566} ポン:{横發發發} ツモ:{3}
(索子か……)
月子は場を見渡す。これから先、聴牌に漕ぎ着けるまでは、一打も誤ることは許されない。
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
花田 :{■■■■■■■■■■■■■}
河 :{①1九九南八}
{北7}
南浦 :{■■■■■■■■■■■■■}
河 :{①⑨西西南東}
{二⑧}
京太郎:{■■■■■■■■■■} ポン:{中中横中}
河:{九975北南}
{白( 發 )四}
月子 :{一二②④⑤⑥[5]566} ポン:{横發發發} ツモ:{3}
河:{東東北西98}
{八( 中 )}
(須賀くんの{75}と{北}は手出し)月子は思考を巡らした。(すくなくともあの時点で{556}ではなかった。{975}の切り出し順でチャンタの目は消せる。{12}を残して{579}の両嵌を払う意味がない。問題は{455}の場合から{5}を先打ちした場合だけど、少なくともわたしの手に{5}は二枚見えてる。一応{3}はあてにならないワンチャンスってわけだけど――)
打:{3}
(それにしたって、{455北}の形から、{5}の先打ちはない。ドラ切りから見ても、字牌の温存から見ても、打点を考えても、
月子の背を、冷たいものが伝う。
この日初めて、彼女はかれを強く意識して打っていることに、まだ気づかない。
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:45
気合を込めて牌を自摸る。すると手に入る。
花田煌はそんな夢も見る少女である。
(でも、入らないものは、入らないのでした!)
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
9巡目
花田:{[五]六七③④22245789} ツモ:{中}
({②③④⑤}、{3456}の受け入れも、自摸れなければすばらくないですねー)
{打:中}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:45
そして、聴牌一番乗りを果たしたのは、南浦だった。
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
9巡目
南浦 :{四四五六⑦⑦2334白白白} ツモ:{⑦}
(受けはふたつ。どちらも直前に処理された{3}タンキ……そして
打:{3}
(自摸る。南場のわたしなら、自摸できるはず)
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:45
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
10巡目
京太郎:{三三三①②②[⑤]⑥⑧⑨} ポン:{中中横中} ツモ:{④}
(――そっちか)
望外の{④}自摸であった。が、求める打点には一手届かない。一気通貫を目指すのは悠長に過ぎるだろう。{四萬}強打のあとに{三萬}の切り出しはいかにも悪手である。
(下手の考え、休むに似たりってやつかね、こりゃァ)
絡め手が、京太郎の手を自縛し始めていた。
打:{①}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:45
(筒子がこぼれたわね)
むろん、月子は目ざとくその牌に目をつけていた。逡巡してからの{①}切りである。前巡聴牌をしていなかったか、あるいはよりよい待ちに切り替えたのだろう。
(ぜったい筒子切れないわよもー)
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
10巡目
月子 :{一二②④⑤⑥[5]566} ポン:{横發發發} ツモ:{西}
(空気読みなさい!)
{打:西}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:46
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
10巡目
花田:{[五]六七③④22245789} ツモ:{四}
「――ぅぁちゃ」
引いた牌を目にした花田は、露骨に眉を寄せた。前々巡に京太郎が打った牌ではあるが、2巡もすれば場は変わる。もはや、超がつくほどの危険牌である。
({③④}を払うか、{45}を払うか――筒子は須賀くんにこわく、索子はほかにこわい)
花田の目から見て、切り出しに四苦八苦しているのは月子と南浦である。京太郎は初心者特有の思い切りの良さで、わき目も振らず和了を目指している(ように見える)。
どうしてもこれが切れない――脈絡もなくそんな霊感がおとずれるときが、麻雀にはある。いまの花田にとって、その対象が{四萬}であった。ほかは正直、どれも同じように見えた。であれば、あとは好みの問題である。
(じゃあ、こっち)
打:{4}
花田は打{4}といった。
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:46
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
10巡目
南浦 :{四四五六⑦⑦⑦234白白白} ツモ:{4}
打:{4}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・H卓(空卓)/ 17:47
場況はいよいよもって緊張感の頂点に達しつつあった。現状聴牌を果たしたのは南浦・京太郎の二名である。池田の感覚では、次の瞬間にもどちらが和了ってもおかしくない。
――そして、実際に、京太郎は和了牌を引き当てた。
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
11巡目
京太郎:{三三三②②④[⑤]⑥⑧⑨} ポン:{中中横中} ツモ:{⑦}
(あ、)と、池田は思った。
打:{⑨}
ノータイムの打{⑨}であった。四枚目の{⑦}を引いてから⑨を抜き打つまでの京太郎の動作に、逡巡は皆無だった。
むろん、ここで和了を宣言したところで打点は700・1300である。かれがサシウマを握っている石戸月子には1900点及ばず終了となる。
(当然の打{⑨}。とはいえ、顔色も変えずによくやるねえ――)
息を詰めていた自分に気づいて、池田は窓越しに表通りを眇め見た。夏の宵が徐々に近づいている。厚い雨雲により日が遮られて、教室内の白色灯が鮮烈に映えていた。
誰が勝つか予想することを、彼女は止めた。
なんだか、その通りになってしまいそうな気がしたからだ。
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:47
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
10巡目
月子 :{一二②④⑤⑥[5]566} ポン:{横發發發} ツモ:{6}
(――うそ、聴牌)と、月子は思った。意外さのあまり、目を瞬いている。
しかし、聴牌を取るためには{②}を切らざるを得ない。
(天の蜘蛛糸か、甘く見えるただの罠か――{二一萬}と廻す手もある。万が一の{③}引きなら、筒子の受けで聴牌を取れる)
喉が渇く。緊張と興奮が月子の腹腔からこみ上げてくる。それは熱を持っている。妖しい熱である。人を絡めとり、堕落させる。
――博打の熱だ。
(熱い――)
月子は、
打:{②}
と、いった。
(――勝負をしなくちゃ、勝てないんだから)
「ポン」
京太郎の発声だった。
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:48
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
11巡目
京太郎:{三三三④[⑤]⑥⑦⑧} ポン:{②②横②} ポン:{中中横中}
打:{⑧}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:48
場の全員が思考を同じくした。これまで、頑として防いだ自摸筋の「ずらし」を、京太郎が自ら行ったのである。
京太郎の打牌に対する発声はなかった。
(これはタナボタ!)
慮外の副露に、月子は興奮を隠し切れずに山へ手を伸ばす。
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
11巡目
月子 :{一二④⑤⑥[5]5666} ポン:{横發發發} ツモ:{發}
そして、月子は条件を満たした。
(荒らしてやるわ――この磐石の場を、めいっぱい!)
「――カン!」
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)}
11巡目
月子 :{一二④⑤⑥[5]5666} 加カン:
リンシャンツモ:{南}
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)} 槓ドラ1:{5}(ドラ表示牌:{4})
11巡目
月子 :{一二④⑤⑥[5]5666南} 加カン:
{打:南}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:49
(加カンですか、この局面で。……しかも捨てようとした牌に乗っちゃったし)
苦笑を禁じえない花田だった。
彼女は基本的に正道を行く打ち手である。応用力はあり、奇抜な発想も時たまするが、本当の意味で
(でもまあ、よそはよそ、うちはうち――ってやつですかね)
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)} 槓ドラ1:{5}(ドラ表示牌:{4})
11巡目
花田:{四[五]六七③④2225789} ツモ:{6}
(わお。すばらツモです!)
打:{9}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:49
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)} 槓ドラ1:{5}(ドラ表示牌:{4})
11巡目
南浦 :{四四五六⑦⑦⑦234白白白} ツモ:{1}
(和了逃し――正着は、{四萬}落としの{14}ノベタン受け、か)
痛恨のミスに、南浦は微笑した。
(そんな受け、いまのわたしには、正直むりです!)
打:{1}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:50
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)} 槓ドラ1:{5}(ドラ表示牌:{4})
12巡目
京太郎:{■■■■■■■} ポン:{②②横②} ポン:{中中横中}
打:{⑦}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:50
(なに、その{⑦}……)
上家の打{⑦}に、月子は激しく戸惑った。
京太郎:{■■■■■■■} ポン:{②②横②} ポン:{中中横中}
河:{九975北南}
{白( 發 )四①⑨⑧}
{⑦}
(全部手出しなのに、面子落としてるじゃない……)
前提が瓦解する音を、彼女は聴いた。単なる染め手ではない。京太郎は、おそらく一度以上和了放棄をしたのだ――少なくとも月子を捲れる手を育てるために。
(いや、混一色の線が消えたわけじゃない。でも、
そうと気取ってしまうと、先ほどの打{②}は酷い暴牌なのだと自覚できた。牌を倒されなかったのは僥倖に過ぎない。あの副露が、結果的に京太郎に逆転の目を与えてしまったのだ。
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)} 槓ドラ1:{5}(ドラ表示牌:{4})
12巡目
月子 :{一二④⑤⑥[5]5666} 加カン:
(安牌――)
打:{9}
救われた心地で牌を打つと、今さらながら月子の心理を不安が叩いた。
(なんで……よりによってわたしは、ドラ表示牌のこんな
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:51
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)} 槓ドラ1:{5}(ドラ表示牌:{4})
12巡目
花田:{四[五]六七③④2225678} ツモ:{二}
(……危ないですが、ここは行くべきところ)
打:{二萬}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:51
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)} 槓ドラ1:{5}(ドラ表示牌:{4})
12巡目
南浦 :{四四五六⑦⑦⑦234白白白} ツモ:{二}
(引き戻して――合わせうちか。わたしの{四七萬}は、山にあとどれくらいいるのかな――)
打:{二萬}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:51
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)} 槓ドラ1:{5}(ドラ表示牌:{4})
13巡目
京太郎:{■■■■■■■} ポン:{②②横②} ポン:{中中横中}
{打:東}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:51
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)} 槓ドラ1:{5}(ドラ表示牌:{4})
13巡目
月子 :{一二④⑤⑥[5]5666}
(よりによって、超危険牌を……)
迷いが月子の心に忍び寄った。指先が{③⑥}を行きつ戻りつした。やがてその向き先は、安全牌の{二萬}に伸びかけ、止まる。{二萬}を合わせ打つということは、聴牌を捨てるということだ。向聴を戻すということだ。巡目はすでに終盤――{③}を残して聴牌に復帰する目がないわけではない。受け入れはかなり広い。当然だが、辺{三萬}と心中するよりはまだ可能性の目があるかもしれない。
(どう、どうすれば――)
{②}を打って辺{三萬}の聴牌を取ったのだ。
今度も同じく{③}を打つべきだ。
――それが、どうしても出来なかった。
(苦しい――息が、苦しい――)
打:{二萬}
(――あ、)
それを置いた瞬間、月子は、京太郎の
おのれの手牌の端に孤立した{一萬}が、何もかもを物語っているような気がした。
(そうだ。今日……ずっと、手離れが遅かった、この牌)
脳裏を去来するのは、最初の半荘戦――池田に倍満を振り込んだあの一局である。
特定の牌が重たくなる日、というのが麻雀にはある。思い込みやジンクスのようなものである。
物質の運勢を感得できる月子にとって、その意味は常人よりやや重い。
注意深く観察すれば、{一萬}は――やはり、他の牌よりも月子にとって悪果を運びやすい引力を持っていた。
(須賀くんは、わたしに命令されてずっと打ってたじゃない。それに気づいた事だって、十分……ありえる)
知らず、月子は唾液を喉へと送った。
(須賀くんの待ちは――混一色ではなく、{一萬}タンキ……!)
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:52
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)} 槓ドラ1:{5}(ドラ表示牌:{4})
13巡目
花田:{四[五]六七③④2225678} ツモ:{七}
(ポンカスを含む{②⑤}待ち。オリる気ないし槓ドラあるしで立直してもいいんですが――また{七萬}引いたときにそのまま放しちゃうのが厭だなー)
打:{8}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:52
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)} 槓ドラ1:{5}(ドラ表示牌:{4})
13巡目
南浦 :{四四五六⑦⑦⑦234白白白} ツモ:{九}
(上家が面子落としで聴牌気配――わたしの当たり牌を抱え込まれたかな)
打:{九萬}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:52
(苦しいな)
と、京太郎は思った。笑みがこみ上げてきそうなほど苦しかった。頭の奥が疼いて止まらなかった。不思議な酩酊感が付きまとい続けていた。
かれは心底、負けたくなかった。点棒を明け渡すことをとても負担に感じた。その精神性を、かれは指差しして笑いたい気分だった。
命を惜しんだことがないかれだ。
そんな人間が、たかだか遊戯のうえの点数に、一喜一憂している。
(苦しい。苦しいけど――楽しいな。ああ、そうだ、すげえぞこれ。すげえ楽しい――)
色々なものに、感謝をしたいとかれは思う。たとえば、図書館で会った姉妹がそうだ。あんな別れ方をしたままにはできない。これから京太郎も図書館に通い詰めて、あの少女にきちんと謝らなければならない。そして礼を伝えるのだ。
手は尽くした。
ミスもあったし、もっとスマートに決着できた可能性もあっただろう。
だからといって、負けてよいなどとは思わない。
勝負は勝ってこそだ。
勝ってはじめて、京太郎は胸を張って伝えることができるだろう。
(打てよ。打て――打っちまえ)
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:52
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)} 槓ドラ1:{5}(ドラ表示牌:{4})
14巡目
京太郎:{■■■■■■■} ポン:{②②横②} ポン:{中中横中}
{打:北}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:52
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)} 槓ドラ1:{5}(ドラ表示牌:{4})
13巡目
月子 :{一③④⑤⑥[5]5666} 加カン:
(申し合わせたようにくる{一萬})
月子は笑んだ。
(――これは、通る!)
打:{③}
一瞬だけ、場が森閑とした。
危険牌を通すとき特有の、張り詰めた糸が鳴らす無音の音だった。
だが、
「ロン」
と、京太郎は告げた。
「――――」
牌が倒れる様を、声もなく、月子は見送った――。
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:53
ちょうどそのとき、雨が止んだ――などといえば、格好はついたのかもしれない。しかし実際には雨は止まなかった。それからしばらくは振り続けて、人を地を湿らせ続けた。
けれども、ちょうどそのとき雷が光った。
稲妻が空を切り裂き、どこかへ落ちた。音はなかった。
その日、その場で麻雀に興じていた少年少女たちが、その光に気づくことはついぞなかった。
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:53
南四局(オーラス) ドラ:{四(ドラ表示牌:三)} 槓ドラ1:{5}(ドラ表示牌:{4})
京太郎:{三三三③④[⑤]⑥} ポン:{②②横②} ポン:{中中横中}
ロン:{③}
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:53
南四局(オーラス)
【南家】南浦 数絵 :49900
【西家】須賀 京太郎 :15100→17700
【北家】石戸 月子 :20300→17700
【東家】花田 煌(親) :14700
▽ 長野県 信州麻雀スクール・G卓/ 17:53
五回戦
南四局(終了)
南浦 数絵 :49900
須賀 京太郎 :17700
石戸 月子 :17700
花田 煌 :14700
順位
優勝:南浦 数絵
二位:須賀 京太郎(席順で上位)
三位:石戸 月子(席順で下位)
四位:花田 煌
結果(五回戦終了)
花田 煌 :- 15.3(小計:- 6.1)
石戸 月子 :- 12.3(小計:- 58.8)
南浦 数絵 :+ 39.9(小計:- 7.0)
池田 華菜(京太郎):- 12.3(小計:+ 87.2)
2013/2/18:牌画像変換