ばいにんっ 咲-Saki-   作:磯 

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30.あたらよムーン( ):承前-2

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 18:31

 

 

 卓上に声が途絶えた。

 何かの切欠があったわけではなかった。長く卓を囲んでいれば、そんな場面も訪れる。12時間近くも牌を握っていれば、未だ体が仕上がっていない子供たちの口は重くなる。

 京太郎と照――子供らしからぬ大金を握って点棒を交わす二人の存在も、咲と花田に緊張を強いる一因にはなっていたかもしれない。あるいは金銭の授受も手酷い敗北者の存在もまるで念頭になく、単に全員が牙を剥く瞬間を決して逃すまいと専心しているだけかもしれない。

 

 連荘で自ら割れ目を引いた咲は、手牌を開くや瞳をかすかに細めた。

 

(死んでる――)

 

 東二局1本場 ドラ:{⑥}(ドラ表示牌:{赤⑤})

 配牌

 咲:{一一二四七九九①③⑧26北北}

 

(塔子は揃ってるけど、揃ってかたちが悪い。値段も安い)

 

 和了目を見出せないわけではない。しかし遅すぎると咲は考えた。

 親と割れ目を兼ねた局は、大量得点の好機である一方、子の自摸和了全てが痛烈な一撃と化す危機でもある。

 

(チャンタに寄せれば下家(お姉ちゃん)が入れ食いになる……マジョリティは打{⑧}か{26}――もしくは{七}?)

 

 打:{⑧}

 

 さして時間も掛けず、咲は{⑧}を見切る。{⑥}(ドラ)とのくっつきが見込める牌ではあるけれども、この手牌では活かしようがないと見たのである。

 東二局1本場は、沈黙の内に始まる。重たいまぶたをようよう開いて、咲は各々の顔を見るのである。

 まず対面の花田に目が行く。彼女の姿勢はとても良い。この場の誰より背筋が伸びている。疲労が無いはずはないけれども、少なくともそれを億尾にも見せない。その意気を、咲は純粋に尊敬する。

 

 須賀京太郎は、傍目にも勢いがなかった。飄々とした物腰もなりを潜めて、眉間にはかすかにしわが寄っている。が、唇もまた歪んでいるのである。笑みにも見える。苦しんでいるようにも見える。咲にはかれがわからない。ただ、なんとなく、その胸の内には共感を抱くことができるような気がした。かれとは、今日この卓において、目指す場所が一致しているからである。

 

 そして、宮永照について咲は考える。下家に座る少女の横顔をうかがう。鼻梁を隔てた右目の輝きを咲は注視する。星か炎のような光が、その瞳に宿っている。咲には、照がまとう気炎がまざまざと見える。この卓に着く前と後で、照はもはや別人のようにさえ感じられた。熱量はまだ上がる。照自身にも、己を問うているような気配がある。この場に座る人々をすっかり見透かした彼女は、いま余人には仰ぐこともできない何かに触れようとしている。

 

 照に何があったのかはわからない。

 照が何を目指しているのかもわからない。

 

 それを理解して照の気持ちを理解しようという発想は、咲には生まれない。それは二人の関係性というよりも宮永咲という少女の人間性に根差す傾向である。咲は、やはり、人の心の機微については無頓着だった。それが身内かどうかは関係がない。際立って鋭い感性が、人間の情実へ耳を欹てることは、少なくとも今はない(そして、その善悪を判定することは誰にもできない)。

 咲はだから、牌の声に耳を澄ます。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 18:36

 

 

「ポン」

 

 場の静寂を裂いたのは、四巡目――京太郎の打牌に対しての照の発声だった。どちらかといえば訥々とした発音は、不思議と誰にも聞き逃されることは無い。

 

 東二局1本場 ドラ:{⑥}(ドラ表示牌:{赤⑤})

 四巡目

 照:{■■■■■■■■■■■} ポン:{南横南南}

 

 打:{3}

 

 案の定、軽く早い手だった。この期に置いて、単純に一鳴きして役を確定させただけとは、咲も考えていない。照はすでに聴牌か、悪くて一向聴と見るべきだった。

 

 咲:{一一二四七九①③677北北}

 

(むりかあ――)

 

 形勢ははっきりと悪いが、割れ目の親番で手に蓋は弱気に過ぎる。多少強引にでも押す覚悟を、咲は決めた。

 が――

 

(とはいえ……)

 

 八巡目に、二度目の動きがあった。

 

「――カン」

 

 呟いたのは、咲ではなく京太郎である。

 

 東二局1本場 ドラ:{⑥}(ドラ表示牌:{赤⑤}) 槓ドラ:1(ドラ表示牌:{9})

 八巡目

 京太郎:{■■■■■■■■■■} カン:{⑥■■⑥}

 

 げ、と花田が空気を喉から漏らす。嶺上から有効牌を奪われた咲もまた、ひそかに歯噛みした。

 

 京太郎

 河:{一9西(南)八東}

   {⑤}

 

 徐に京太郎の手が伸びる。咲の前で割れた王牌の嶺にある牌を摘む。模したその牌の裏地を、咲だけが知っている。

 

({六}――)

 

 それを、京太郎は手の中に入れる。

 零れたのは、

 

 打:{七}

 

 であった。次いで訪れた自摸番に沿いながら、咲は脳裏で目まぐるしく京太郎の手牌を想像する。

 

(最後の手出しは{東}――{七七八八東}のかたちから{八→東}と落として{六}引いての打{七}? じゃなければ、タンヤオ仕掛けを睨んで{四五七八東}から二度受けと{九}引きのフリテンを嫌って{東}(安牌)残しの塔子落とし? それならすがくんは普通に{七}を先に切る、と思うけど――でもまだ、中と發が枯れてない。そもそも{東}は生牌で、安全牌として機能してない。たとえば{東}の槓刻落として隠れ暗刻――の{四五七七八八東東東東}からの{八東}落として{六}引きからの打{七}だったら……形は{四五六七八東東東}――でも、それなら、立直だよね?)

 

 東二局1本場 ドラ:{⑥}(ドラ表示牌:{赤⑤})

 九巡目

 咲:{一一二三四七八九677北北}

 

 ツモ:{九}

 

(――掴まされた? {677}(索子の上)はもちろん危ない。{北北}もすがくんの風で生牌――持ち持ちなら……{一}打って回るにしてもあとが続かない。でも、打てば、16000が決まってる……)

 

 咲の感覚は、それでも{九}が絶対の危険牌ではないと訴えている。しかしその精度は完全なものではない。今や咲の感性と願望は綯い交ぜになっており、「当たってほしくない」と「当たらない」は未分化の状態になっている。疲労の弊害である。また、単純に京太郎には嵌め手が多い。ここぞというときに彼が行ってきた異色の受けが、咲の心象には強く根付いている。

 牌を置く。

 ただそれだけの行為に勇気が要る。

 確信を裏切ることも、ときには必要になる。

 そこに麻雀の面白さがある。

 咲も、それが徐々にわかってきた。

 

(ここは、いくよ――)

 

 打:{九}

 

 静かに自摸切った牌には、誰の声も掛からない。

 咲は露骨に安堵の息を落とす。

 それから半秒も間を置かず、

 

 打:{赤五}

 

 と、照がいった。生牌の自摸切りである。強いと、花田がわずかに目を瞠る。咲も同感だった。照の所作には完全な確信がある。自分が当たり牌を掴むはずがない――そうした妄信による打牌ではなかった。思考を放棄しているわけでもない。京太郎の待ちに関する推察への、余程の自信が彼女の摸打を支えている。

 

 花田が合わせ打つ。

 そして、

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 18:42

 

 

 東二局1本場 ドラ:{⑥}(ドラ表示牌:{赤⑤}) 槓ドラ:1(ドラ表示牌:{9})

 九巡目

 京太郎:{三四五六東東東⑦⑧⑨} カン:{⑥■■⑥}

 

「――」

 

 ツモ:{⑨}

 

 その自摸に、京太郎は言い知れぬ悪寒を覚える。打つ手は三つある。{三}か{六}か{⑨}自摸切りか――待ちの広さではわずかにノベタンが有利だし、意外性という意味では{⑨}待ちに構えても良い。

 しかし――

 

 ――京太郎は笑った。

 

 打:{⑨}

 

「ロン」

 

 照:{三三四四五五六六⑨⑨} ポン:{南横南南}

 

 活路は、もう無い気がしていた――。

 

「1000は1300」

 

 点棒を取り出しながら、

 

「……ひとつ、教えてくれないか」

 

 と、京太郎はいった。

 

「なんで{赤五}を切った? 空切りで入れ替えてよかったじゃねえか」

「そうしたら出ないから」

 

 照の回答には一切の逡巡がない。

 答案が彼女の瞳に張り付いているようだった。

 

「なんで出ないって思うんだ?」

「自分のことも、誰かに説明されないとわからないの?」

 

 心底不思議そうに照はいった。

 

 東二局1本場

 【北家】須賀 京太郎:23300→22000(- 1300)

     チップ:-1

 【東家】宮永 咲  :28200<割れ目>

     チップ:+3

 【南家】宮永 照  :25900→27200(+ 1300)

     チップ:-1

 【西家】花田 煌  :22600

     チップ:-1

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 18:45

 

 

 局が進む。自ら引いた親番で、照が振った賽が選んだ割れ目は花田の山だった。薄っすらと掻いた手汗をスカートの裾で拭って、花田は今後の展開について思いを馳せる。

 

 東三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 配牌

 花田:{七八九②③③⑤⑧28東白白}

 

 たんに親を蹴る手として、配牌はまずまずといえた。それでも花田の表情は浮かない。類似した局面を、今日だけで何度見たか知れないのである。そしてそのたびに照は彼女の目論見を上回って見せた。ときおり歯が立つこともあった。ただそれは、完全に退路を断った前傾を取った上で、精々四回に一回程度である。残り三回は、綺麗に逆撃をもらっている。まず、照の速度に追いつけない。併走するためには無茶が要る。必然防御を後回しにする。短い手牌で四苦八苦して結局討ち取られる――今日の面子の中で、須賀京太郎に次いで放銃が多いのは(京太郎の数字が圧倒的過ぎるため妥当な比較ではないにせよ)花田だった。

 

「……」

 

 視界と思考に疲労が滲む。摸打を繰り返す右腕には気だるさがまとわりついている。腰は重いし、暖房にさらされた髪と肌はやや乾きつつある。体調は万全から遠のき続けて、いまの花田は実力を十二分に発揮できる態勢では、もはやない。

 及ばないことはもう十分に悟っている。

 

(……だから?)

 

 それは、花田にとって何ら倦む理由にはなりえない。

 なんとなれば、彼女は既に収穫を得ていたからである。

 この日、花田(きらめ)は宮永照という少女を知った。実のところ、卓に着いて面と向かうまでは何処か甘く見ていた部分があったことは否めない。石戸月子や片岡優希を、難なく下した同世代の女の子がいる。そんな彼女と年の瀬に卓を囲む。月子を通じて受けた京太郎の誘いに、花田は二つ返事で飛びついた。

 強い相手がいるならば、それが同じ年頃の少女ならば、ぜひとも打ちたいと彼女は願った。だから花田は今日、多少法外なルールであることも気にせずこの場にいる。麻雀という連帯だけで池田華菜や石戸月子と友人づきあいを続けられる彼女もまた、どこか凡庸から逸した感性を持っている。

 侮っていたわけではない。

 強いて言えば、自惚れていた。

 いわゆる強者を向うに回したとしても、無様な打ち回しは晒さない自負があった。

 

(は・ず・か・しィ――)

 

 フと、渋面を崩して花田は唇を緩めた。

 宮永咲を見る。

 宮永照を見る。

 

(――つよい! すばら! ですっ)

 

 と、彼女は思う。身のうちで火が熾きる。互いに面影を宿す二人を見つめる花田の胸には、少しばかりの憧憬がある。

 彼女らがいわゆる彼岸の人であることを、花田は感覚的に悟っている。彼女らは花田と同じ子供で、少女で、牌に縁持ち同じ卓に着いた。ただ共通項はそこで品切れになる。たんに別人だという言葉以上の意味で、照や咲と花田の()()()は違う。

 

(こんな子たちがいるんだ。それを知れただけでも、今日はよかった。きてよかった。ほんとよかった。でも、けど、だけど――)

 

 打:{西}

 

(なにがちがうんだろ)

 

 目を伏せる。呼吸を意識して深くする。花田は目の前の卓に没頭する。劈頭に{西}(ドラ)を並べた照の後を受けて牌をツモる。ドラ表示牌の{北}を引く。自摸切る。西家の京太郎が牌を自摸る。かれの目線を花田は追う。京太郎は両目を充血させて四方に視線を撒いている。瞬きさえ忘れているように見える。牌を入れたかれの切り出しは{7}である。手が早い。かもしれない。自摸番が親が流れたばかりの咲へ移る。彼女は迷う様子もなく、控えめに{⑨}を切り出す。

 

()()なりたいわけじゃあ、ないんですけど)

 

 {④}を引く。{東}を抜く。河に置く。声は掛からないことはおおよそ察しがついている。麻雀を打っていれば、そんな勘働きはしばしばある。蓄積された経験値が、あるいは疲労がもたらす錯覚が、結果的に的を射て超能力めいた感覚を得た気になることがある。

 たとえば石戸月子はその感性についてこう言う。『ちょうのうりょくでも何でもいいけどとにかく自分が打つ牌には全部理由がつけられなくては駄目よ。経験知ならまずそれを言葉にできなきゃ意味がない。何切ると同じよ。場況次第とかそういういいわけはいーのよ。同じ局面に百回ぶつかったら百回同じ答えを出せなくちゃ意味が無いわ! それが麻雀強くなるってことよ!』(花田はおおいに頷いた)。

 一方で池田華菜は違う見解を持っている。『掴もうとすると逃げるだろ。だから掴もうとしない。牌は来るし。必ずくるし。あたしツモれるし。なぜなら超スゴいあたしは超スゴい! そうやって自分を信じる。そうするといつの間にかツモってる。かんたんでしょ』(花田は月子と共同してまったく参考にならないと非難した)。

 

「ふ」

 

 友人たちの顔を思い出して、花田は自然に笑んだ。

 麻雀は性質的に孤独を強いられるゲームである。他家の()は開かれるそのときまで判らない。自分の行方さえ伏せられて定かではない。ただ、それでいて同時にこのうえない交流のための手段であるとも彼女は考えている。様々な表情を見せる盤面に翻弄されながら、人は牌を模し、打つ。

 見るたびに色を変えるこの136枚に、花田は魅入られた。

 恐らくは、ここにいる誰もが、そうだと思った。

 

 そして、六巡目――。

 花田の手牌は、こうなった。

 

 東三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 六巡目

 花田:{七八九②③③④⑤246白白}

 

(一向聴……ここからが長い)

 

 花田は人知れず、唾液を嚥下する。似た動作、似た推理、似た光景を突きつけられ続けて、心身はすっかり疲弊している。脳が軽い錯誤を起こす。いつか、どこかで、全く同じ手牌に出会ったような気がする。同じ河、同じ人、同じ自摸……。そのときの結果を記憶から掘り返そうとしている自分に気づいて、花田は思考を打ち切る。

 そんな事実は無い。

 答案は過去には無い。

 

(いまだ、いま、いま……今)

 

 唇だけが言葉を連ねる。早い一向聴である。しかし役牌が出れば鳴かざるを得ない牌姿でもある。そうなれば頭が不足する。

 

 東三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 七巡目

 花田:{七八九②③③④⑤246白白}

 

 ツモ:{白}

 

 彼女は、自ら一役を確定させる。予測していた自摸である。ただ、この手牌における正着を、花田は決めかねる。

 

(打{②}なら{③⑥2356}、{③}なら{②⑤}以外の受け入れはいっしょ――打{6}は{①②③④⑤⑥234}、打{2}なら索子の{234}(ニサシ){456}(シゴロ)に変わる。さて――)

 

 ――結局、彼女が選んだのは{6}である。

 けれどもその選択の結果が占われることはなかった。

 次巡、

 

「ツモ」

 

 花田の逡巡をはるか後方に置き去って、照が和了した。

 

 東三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 八巡目

 照:{二三九九九⑦⑦111456}

 

 ツモ:{一}

 

「……700オール」

 

(役なしっ――またあっ? なんで立直、しないんですか、ホント……)

 

 目を瞠る花田を気に留めることもなく、照はシバ棒を卓に積んだ。

 

 東三局0本場

 【西家】須賀 京太郎:22000→21300(-  700)

     チップ:-1

 【北家】宮永 咲  :28200→27500(-  700)

     チップ:+3

 【東家】宮永 照  :27200→30000(+ 2800)

     チップ:-1

 【南家】花田 煌  :22600→21200(- 1400)<割れ目>

     チップ:-1

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 18:57

 

 

 東三局1本場 ドラ:{4}(ドラ表示牌:{3})

 【西家】須賀 京太郎:21300

     チップ:-1

 【北家】宮永 咲  :27500

     チップ:+3

 【東家】宮永 照  :30000<割れ目>

     チップ:-1

 【南家】花田 煌  :21200

     チップ:-1

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 18:58

 

 

 時間が過ぎる。

 本場が進む。

 宮永照の連荘が始まる。

 

 花田を含めた全員が、今日何度目とも知れない山の到来に、弛みつつある意識を引き締める。不思議な感覚だった。居住まいを正さずにはいられないような、そんな効能が照の和了にはある。魔除の鉦めいた清浄な気配である。照が和了り続けるかぎり、だから他三人は倦怠の中に身を浸しきれない。

 全身全霊を以って抗うことを余儀なくされる。

 

(とはいえ……)

 

 東三局1本場 ドラ:{4}(ドラ表示牌:{3})

 配牌

 花田:{■■■■}

 

 山を崩す花田の胸に、勝算はない。一度席に座れば、後は祈るより他にすることがない――麻雀には間違いなくそうした側面がある。短時間での実力向上などありえない。劇的な運の追い風は、もしかしたらあるかもしれない。そして結局は好調も不調も確率が示す波紋に過ぎない。巨視的な見地に立てば、一手の後先を効率化する努力は、波すら立てないものである。波紋を描けば余程良い。

 

(なのに、ある。ないと知っているのに、ある。それを信じずにはいられないってときが)

 

 東三局1本場 ドラ:{4}(ドラ表示牌:{3})

 配牌

 花田:{■■■■■■■■}

 

 流れについて、花田煌は考える。宮永照の勢いは、実力や読みという次元を簡単に飛び越えている。麻雀を打つものならばよく見知っている、『何をしても手がつけられない』態勢を常としている節がある。

 

(それが、人間にできるなら、麻雀なんて……ヌルゲーですよね)

 

 東三局1本場 ドラ:{4}(ドラ表示牌:{3})

 配牌

 花田:{■■■■■■■■■■■■}

 

 照の跳牌を待ち、花田、京太郎、咲が最後の一枚を山から削る。13枚を手中に置いた花田は、呼吸も深く、伏せた牌を揃えて立てる。

 

 東三局1本場 ドラ:{4}(ドラ表示牌:{3})

 配牌

 花田:{二六六七赤⑤⑥⑦⑧4456南}

 

 鬼手である。(ダマ)で満貫――高めで曲げたなら倍満まで見える。天恵のように降って湧いたこの好配牌に、花田は何かしらの暗示を感じずにはいられない。

 

(ここが)

 

 喉がからからに渇いている。

 

(剣が峰――)

 

 祈るように、花田は牌へ触れた。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 19:00

 

 

 東三局1本場 ドラ:{4}(ドラ表示牌:{3})

 配牌

 照:{二二三赤五七①②②⑧⑨白東西北}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 19:00

 

 

 東三局1本場 ドラ:{4}(ドラ表示牌:{3})

 配牌

 京太郎:{一五八九九③⑥⑦235發發}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 19:00

 

 

 東三局1本場 ドラ:{4}(ドラ表示牌:{3})

 配牌

 咲:{四四④⑤赤⑤⑨⑨1127中東}

 

 




2014/03/25:誤字修正

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