因習村VS異世界帰りの勇者   作:オシガマ侍

5 / 5
第5話 アカリの行方

 朝食兼昼食を平らげ、一旦ドームハウスの中に入る。一晩で仕上げたにしてはなかなかの出来だ。異世界で十年、快適な野営を追求し続けた甲斐があった。

 

 ドームハウスの中は広いフリースペースとテントからなっている。フリースペースには折り畳み式の椅子が二つ。勿論、マジックポーチから出したものだ。

 

 採光窓からの光りがドームハウスの中を照らす。外は霧の湿気が凄いが、中は快適だ。【土魔法】で分厚く固めた壁が、湿気の侵入を阻んでいる。

 

「座ったらどうだ?」

「あっ、はい……」

 

 先に椅子に座り、一ノ瀬にも勧める。一ノ瀬は警戒した様子で、恐る恐る椅子に座った。そして改めてドームハウスの中を見渡す。これが、現実であるのを確かめるように。

 

「千葉さん……」

「なんだ?」

 

 一ノ瀬はごくりと息を呑む。そして、意を決したように話始めた。

 

「私の頭の中には、大きく二つの疑問があります」

「それは?」

「一つはアカリのことです。アカリは私のスマホに着信を残したまま、音信不通になりました。そして行方不明。しかも両親は他殺されたと」

「あぁ」

 

 俺の様子を伺いながら、一ノ瀬は続ける。

 

「私、アカリのことが気になって最近の松平県のニュースには隈なく目を通していたんです。でも、殺人事件が起きたなんて報道はありませんでした。この村の人達は、アカリの両親のことを警察に知らせていない可能性が高いです」

 

 なるほど。

 

「それは土砂崩れが起きたからでは?」

「土砂崩れだけじゃないと思います。スマホが圏外なのも一因です。ただ、思うんです。こんな偶然が重なるものなのかと……」

 

 一ノ瀬は目を伏して考え込む。

 

「つまり、全てが仕組まれていたと? 月森アカリが実家に帰ったタイミングで土砂崩れを起こし、スマホの電波も何らかの手段で遮った。陸の孤島を作り上げたと」

「はい……。私はそう思います」

 

 確かに、全てのタイミングが重なり過ぎている気がする。

 

「この村にとって月森アカリは特別な存在だった可能性があるな」

「……大学では普通の子だったのに……。アカリ……」

 

 一ノ瀬の瞳に涙が浮かぶ。

 

「まだ、月森アカリの生死は判明していない。殺されるなら、両親と一緒にやられている筈だ。生存の可能性は充分にある」

「はい……」

「一ノ瀬はどうするつもりだ?」

「陸の孤島状態が復旧するまで、ここに留まってアカリを探そうと思います」

 

 まぁ、そうなるか。そもそも一ノ瀬はアカリを探しに女腹村に来たのだから。

 

「俺も記憶が戻るまで、一ノ瀬に付き合うよ。どこに行けばよいか、分からないし」

 

 これは本当のことだ。この世界で俺の居場所がどこなのかは、よく分かっていない。もう少し、一ノ瀬から「この世界の常識」を引き出した方がいい。

 

「本当ですか……!? ありがとうございます!!」

 

 一ノ瀬は飛び上がるように背を伸ばし、そのまま深く頭を下げた。一人が心細かったのだろう。

 

「そう言えばさっき、疑問が二つあると言ったな? 残りの一つはなんだ?」

 

 さっと一ノ瀬の表情が変わった。俺の目をじっと見つめる。

 

「もう一つの疑問なんですが……」

「あぁ」

 

 唾を呑み込む音がドームハウスに響いた。

 

「千葉さんって、何者なんですか? テントを拾ってきた時までは『まぁ、そんなこともあるかぁ~』って思ってましたけど、流石にこの家を見て気が付きました。全部、千葉さんの仕業ですよね? なんでこんなことが出来るんですか? まるで魔法じゃないですか!」

 

 一気に吐き出し、一ノ瀬は俺の反応を窺う。

 

「よく分かったな」

「えっ!?」

「だから、よく分かったな。魔法だよ」

「えっ!? 何を言っているんですか?」

 

 事実を伝えたのに、何故、更に混乱しているんだ?

 

「一ノ瀬が言ったじゃないか。魔法だと。その通り。俺は魔法を使える。皆は使えないのか?」

「使えるわけないじゃないですか! そんなの、漫画やアニメの中の話です」

 

 やはりそうか。一般的には魔法は架空の存在なんだな。ここは俺の住んでいた地球と同じ。

 

「オッケー。ならば俺が魔法を使えることは内緒にしてくれ」

「内緒にはしますけど、もう遅くないですか? この家を作った時点で……」

「この家は安全に眠るために必要だったんだ。仕方ない。村人には白を切ればいい。奴等だって、月森アカリの件は俺達に話さないだろうから」

「わかりました」

 

 一ノ瀬は少しスッキリしたような顔になる。

 

「今は聞かないですけど、後で千葉さんのこと教えてくださいね」

「あぁ分かった。その内話す。今は、月森アカリの行方を追おう」

「はい」

 

 俺が立ち上がると、一ノ瀬も続く。一ノ瀬はテントの中からリュックをピックアップし「準備万端」という顔をした。

 

「ところで、何か手掛かりはあるんですか?」

「あぁ。月森アカリの家で【魔力の残滓】を感じた。それを辿っていけば何か分かるかもしれない」

「なんか千葉さん、警察犬みたいですね!」

 

 まぁ、近いかもしれない。

 

「よし、月森アカリの家に行こう。そこから【魔力の残滓】を追う」

「はい!」

 

 俺達はドームハウスを出ると、昨晩案内された月森アカリの家を目指して歩き始めた。

 

 女腹村には人影がなく、不気味なほどの静寂が広がっていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。