死に物狂いで仲間を庇ったらメンヘラ激重パーティー化したんだが   作:蓼沼

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第一話 やばい死んだかもしれん

既に三十分程森の中を歩き回っているのにも関わらず、遭遇するどころか足跡の一つすら見つかっていない。血が酸化したような赤みかかった黒色の毛を身に纏った大型の獣、討伐推定ランクはAに分類される魔獣アルフィスの討伐依頼を引き受けた俺達は、森の奥深くまで足を進めていた。

 

最初の頃は莫大な報酬金額で何をしようかと和気藹々とした雰囲気だったのにも関わらず、もう誰一人として口を開こうとしない。蒸し暑い森の中を意味もなく三十分も彷徨いているのだから無理もないが。

 

「ねぇ〜!まだ着かないの〜?ボクもうヘトヘトだよ〜」

 

沈黙が続いていたこの空間を破ったのは、水色のベレー帽を被り如何にも魔法使いっぽい服装を身に纏っている茶髪ボブの幼女──パメラ。スノードームのようなものを先端に付けた大きな杖を振り回しながら文句を言っている。危ないからやめて?

 

確かに彼女の装備も中々に重そうではあるから疲れるのは仕方がないのだが、腐ってもタンクである俺は自分の装備で手一杯。仮にここで杖含め荷物を持ってあげたとしても、いきなり魔物が現れたら困ってしまう。

 

「疑問。さっきメルが仕掛けたナカンドリの肉が消えてる。なのにそれらしい痕跡はない。」

 

淡白な口調で自身をメルと形容する彼女は、白銀の煌びやかな長髪が特徴的な小ぶりな可愛らしい女の子。性格服装共に中々に癖が有り、黒基調のゴスロリ系の服を標準スタイルとする彼女の一風変わったファッションには未だに慣れない。そしてその外見からは想像できない、取手に禍々しい鉄球がチェーンで結ばれたもの、俗に言うモーニングスターを愛用している。

 

彼女が言っているナカンドリの肉とは、今回の討伐対象であるアルフィスを誘き寄せるために朝一に市場で購入したものだ。その名の通り一切鳴かない上に気配もないから探すのに一苦労するナカンドリだが、味自体は最高に美味い。

 

「じゃあ何で足跡がないんだよ〜。」

 

「不明。今考えてる。……生息地の変化?森の生態系が変わった?それとも特異個体の可能性?まさか危険種……。」

 

確かに、魔物でナカンドリを食べるのは精々魔獣くらいで、この森に生息する魔獣はアルフィスだけの筈。奴が通ればほぼ間違いなく大きな足跡が残る筈なのだが、それらしい痕跡は一切ないのだ。疑問に思っても仕方ない。

 

「えー使えないなぁ…。もう〜つーかーれーたーよぉ!帰ろうよ〜!ね?カイトもそう思うでしょ?大体今日は僕の魔法の研究を手伝ってくれる予定だったじゃーん!」

 

「え?あぁ…うん。」

 

咄嗟に名前を呼ばれたからか、何も考えずに答えてしまった。パメラは毎度の如く口を開く度に文句の嵐なのだ。話半分に聞く方が精神的に楽なのだが、今回は仇となってしまったかもしれない。

 

「不服。折角メルが考えてるのに。何その言い方。パメラも少しは頭を使ったらどう?」

 

「はぁ〜?僕魔法使いなんだが!滅茶苦茶頭いいんだが!何処かの知識だけある人とは違ってすっごい賢いんだが!」

 

「否定。あるだけじゃない。ちゃんと使ってる。ナカンドリの肉を使う案もメルの考え。」

 

「でも結局失敗したじゃん!」

 

「メル、パメラ。落ち着いてくれ。少し熱くなりすぎだ。」

 

言い争いはいつもの事だが、こうして止めにはいらないと何時まで続けてしまう。加えてここは森の中。魔獣の数は少ないとはいえ危険は伴っている危ない場所だ。そんな危険地帯の中で大声で言い争いをするなんて自殺未遂もいいところ。どうぞ食べてくださいと言ってるようなものだ。

 

「先輩も大変ですね〜子供二人の面倒を見ないといけないなんて。あたしなら耐えられないですよ。」

 

まるで一人だけ蚊帳の外にいるかのような発言した彼女は最後のパーティメンバーであるシーフのリズ。オレンジ味のハーフカットであり、腰に付けている小物入れのポーチがトレンドマーク。持ち前のダガーを使った素早い攻撃が得意であり、先程の二人に比べてシーフらしく動きやすくてラフな格好だ。

 

「確かに、子供三人の面倒を見るのは中々に骨が折れるわ。」

 

「はい?もしかしてあたしもその中に入ってます?いやいや、え?嘘でしょ?」

 

彼女は自分のことをお姉さんキャラだと思ってるのかもしれないが、図体だけ大きいただの子供である。もはや気分は保育士のようなもの。悲しきかな。

 

「ちょ、ちょっと!無視しないでくだ…んぐっ!むー!」

 

「静かに。」

 

面倒だから無理に黙らせた訳では無い。肉体が疼く、鼓動が早くなっている。強力な気配が辺りに蔓延っているのが分かる。幾らアルフィスがAランクの個体とはいえ、この重圧感はありえない。

 

刹那、音を置き去りに放たれた強烈な一撃。蒼色の幻影が見えた頃には自前の盾ごと全身吹き飛ばされていた。

 

「うっ、ぐっ!!」

 

「カイト!」

 

「先輩!」

 

重すぎる一撃。視界はぼやけ、脳の振動が止まらない。警戒していたのに、早すぎて反応できなかった。覚束無い体を何とか起こし、震えが止まらない足でなんとか立ち上がる。

 

「カイト!……立てる?……よし!リズ、メルは何とか時間を稼いで!現出せよ!治癒の扉──ハイヒーリング!」

 

癒しの魔法。緑の暖かな光と共に、破損した細胞が蘇り、自動的に止血されていく。パメラの治癒魔法のお陰でかなり身体状況は回復できたが、あと何発受けられるだろうか。

 

「助かった!パメラは攻撃魔法の詠唱を!それまで俺が守る!他2人は攻撃に徹してくれ!」

 

「了解。かち割る。砕けて!」

 

「いきます!特製のスリープダガー十本セット、受け取ってください!」

 

轟音と共にメルのモーニングスターがアルフィスの肉体に突き刺さると同時に、無数のダガーが襲いかかる。

 

「嘘……一本も刺さらないなんて……!」

 

「硬質。手がじんじんする。……間違いない。鋼鉄のような蒼色の毛。あれはアルフィスの危険種…アルフィロス。」

 

「おいおい、まじかよ…」

 

──危険種。端的に言えば一般個体を遥かに上回る特異個体の成れの果て。大国が総出で出向いても討伐に到れたことがないほど強力な存在。…状況は最悪。

 

「現出せよ!獄炎の扉──インフェルノ!」

 

紅の魔法陣から突き出る煉獄の柱がアルフィロスの体を焼き尽くす。並の魔物なら先っぽが触れるだけで灰すら残らない火力。それでも。

 

「…ぼ、僕の最大火力の魔法が効いてない!?」

 

「パメラ。本気でやって。」

 

「本気だよ!こんな状況でふざけるわけないだろ!?」

 

直撃だった。それでも怯みすらしていない。…噂には聞いたことがあったが、危険種とはこれほどまでに脅威なのか。恐らく俺たち4人がかりで決死の特攻をしても傷一つ付けるのが関の山だろう。

 

「ブォォォォオオオオオオオン!」

 

「ひっ!?な、なに!?」

 

「…轟音。なにか来るよ。」

 

「何この爆音…!頭が割れそう…!」

 

奴の咆哮。森がひしめくほどの唸り声。鼓膜が破れなかったのが奇跡といえる。…突進の構え。初撃とは比べ物にならないほどの重圧を感じる。直撃すれば…かと言ってあの速度を上回る攻撃を避けるという選択肢はない。

 

「みんな!俺の後ろに!パメラ!テレポートの構えを!」

 

来る方向は分かっている。自前の大盾を構え、みんなを庇う姿勢はできてる。何秒か耐えれれば詠唱が終わる。それまでなんとか──全身に冷や汗が吹き出したと認識した瞬間にはもう終わっていた。ミスリルでできた大盾がいとも簡単に打ち砕かれ、空間が歪むような衝撃と共に無慈悲な魔獣の角が身体に突き刺さる。

 

「あがっ!?」

 

「カイト!!パメラ、急いで!」

 

「カイト!!!!!うっ、はやく!早く出ろ!早く終わってよ!!」

 

「先輩!?いやっ、いやぁ!!!先輩がぁぁ!!」

 

ここで吹き飛ばされたら仲間が危ない。突き抜かれた盾や鎧と共に角を抑え込み、死に物狂いで抑え込む。出血が止まらない、視界がぼやけて今にも意識が飛びそうだ。それでも、それでも耐えなければならないのだ。

 

「カイトが…死んじゃう!どれだけ振り回してもまったく弱らない…!」

 

今にも死にかけの状況でも奴が止まることはない。少しずつ、少しずつ肉に鋭利な角が突き刺さっていく。あと、あと少し…あと少し耐えれば。意識が肉体かどちらかが先に尽きてしまいそうだ。

 

「いやぁぁあ!!先輩が!!離れてよ!!なんで一本も刺さらないの!!」

 

脳に酸素が回らなくなってきた。世界が回っているように感じる。仲間たちが必死に叫んでいるようだが、もはや聞きとることも出来ない。…あぁまずい、もう…意識が…

 

「現出せよ!飛翔の扉──テレポーテーション!」

 

 




次回:お楽しみパート

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