アトラスお姉ちゃんの日々   作:メリルメリルメリル

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血化粧の魔女

 

 いや〜運転しない車って楽で良いねぇ〜。

 お姉ちゃんいつも運転する側だったから久しぶりに後部座席で揺られて、しかも隣が遊星だったものだから安心しきってぐっすり眠っちゃったよ。

 

 遊星も軽トラ運転してくれる時があるんだけどさ。

 ある程度走ると無意識にスピードを求め始めるから嬉しい気持ちとハラハラした気持ちが反発しあって落ち着かないんだよなぁ……

 

 ジャックは私に運転するよう態々口に出して言ってくる。

 いや最初から期待してないけどさ……

 

 その点クロウは安心安全で頼りになる最高だね!

 自立しちゃって何処居るかわかんない事が多過ぎるのに目をつぶればね!

 

 雑賀さんの運転に揺られて1時間とちょっと、起こされた時に毛布掛けられていて位置的に遊星しか居なくてお姉ちゃん幸せだよ~。

 

「ん〜……良く寝た〜………」

「んにゃ〜……」

「お嬢ちゃん良くこの空気で呑気にできるのぅ……」

「サテライトでは良くある事だしね。向こうの方は定期的にセキュリティが襲撃してくるから移動式だけど」

 

 ジャックを抱きながら片手で伸びをするとお爺ちゃんに呆れられちゃった。

 ちょっと離れたところでストリートデュエルをしていて、その熱量は乱闘騒ぎになっても何ら不思議じゃない雰囲気なのだけどサテライト慣れした私から言わせてもらえばまだちょっと地味だよ。

 火炎瓶とかキャンプファイヤーモドキとかが見当たらないあたり治安は良い方だね☆

 

「この場所はシティには戻れずサテライトに落ちる寸前の奴らにとって最後の楽園と言っても過言じゃないからな。ああやって派手にデュエルして盛り上がる光景は日常茶飯事だ」

 

 預かり屋に車を預けた雑賀さんが説明しながら合流してくる。

 

「それにしても預かり屋があるなんてシティ内でもサテライトとそんなに変わらない場所があるもんなんだね〜。

 店として継続できるってことはそれだけ需要と信頼があるって事だよね?」

「値は張るけどな」

「信用と腕っぷしが安いわけ無いからね〜」

 

 ザ・デュエルマッスルって感じの人もいたし、喧嘩の強さを測れる技量を持ってなければまず筋肉にビビって誰も喧嘩売らないってあんなの。

 ……私?足元にはコンクリの欠片、そこには放置されたペンチやらの工具。

 そこら中に武器があって遮蔽物も豊富、デュエルディスクも装備している状況でフィジカルだけの素人相手にどうやって負けろって?

 

「……えっ?」

 

 移動しながら雑賀さんがこの場所の説明をしていてくれた中、話を聞きつついざという時の為の効率的な逃走経路や戦術を周囲を確認しながら組み立てていた。

 そんな中で偶然見つけた、進んでいる方向から見て右の通り、2つ先の十字路を横切る小さすぎる人影、子供らしき姿を見てしまった。

 

「ごめん氷室さん!ジャック預かってて!」

「お、おい!」

 

 一番近くにいた氷室さんにジャックを押し付け走り出す。

 

 ただの子供だったらこんな事はしていない。

 その子供の身なりが良いのが問題だから追い掛ける事にした。

 

 一瞬の事だったから見間違えだったかもという不安もあった。

 けれど追い付いて身なりの良さは見間違えではなかった。

 手遅れになる前に見つけてあげられて良かったと心の底から安堵した。

 

「コラ!そこの君達!何でこんな場所にいるの!?」

「ひっ!?え?俺達!?」

「他に居ないでしょ?まったく……あのね、ここは子供が来るような場所じゃないってわかっているの?」

 

 話しかける時は叱りつけるように。後はなるべく優しい口調で話しながら近付く。

 生まれつきの目付きの鋭さを自覚しているから威圧感を与えないよう2人の前でしゃがんで見上げるようして話しかける。

 

「お父さんとお母さんは?……って言っても2人とも男の子だもんね。

 もしかしなくてもナイショで抜け出してきたんでしょ?悪いんだ〜」

「えっと……え、えへへへへ」

「笑って誤魔化さないの」

 

 男性、それも子供の衣類だからどれだけ良い物かは完全に把握できてないけれど生地からして絶対に安物じゃない。

 ……もしかしてトップスかギリギリに届かないくらいの富豪層だったり?

 

「まったく。……それで、何を目的にここへ来たの?

 買い物か何かは知らないけれど、お姉ちゃんが守ってあげるから一緒に済ませましょ」

「えぇっ!?いや!お姉さん危ないって!?」

「そうだよ!俺達は魔女を見つけてデュエルで勝つんだから!」

「え?魔女?………それって、もしかして血化粧の魔女だったり?」

 

 血化粧の魔女とは私の数ある異名の1つである。

 遊星に向かって投げられた石を庇い弾き飛ばしたのだけど、運悪く壁に跳ね返って頭部、それも額近くに当たってしまい流血。

 手段を選ばなきゃ残った4人を沈めるのに10秒もいらないと判断して『見えない死神』からの『デモンズアーツ』という技で沈めた。

 これらはサテライトの悪い大人が悪ふざけで勝手に命名してそのまま採用している。

 

 んで、傷は浅いんだけど直ぐに止血しなかったのが原因でパッと見だとけっこうな負傷だったんだよね。

 実際は傷が残らないくらい大したことなかったんだけど。

 問題なのはそうなった過程を知らず結果だけ見た奴が『とうとう返り血で化粧しやがった……』とか呟いて、目が合うと全力逃走してくれてさ、流石に止血優先で放置したら血化粧の魔女って名前が増えましたとさ。

 

「血化粧!?」

「ちげしょうの魔女?ちげしょうって何だ?」

「そっちの子はあんまりドラマや映画は見ないのかな?まあホラー物に部類されそうだし苦手ならそうかも?

 血化粧っていうのはね、血でお化粧をするから血化粧って言うの」

「血で化粧!?」

 

 かくいう私も娯楽に飢えていても制限多過ぎるからバイト先の店長に教わるまで血化粧って物を知らなかったしチゲ鍋の亜種かと思ったと素直に言ったら滅茶苦茶爆笑されながら『なにそれ美味しいの?』という有り難いお言葉を貰った事がある。

 

「うわ……うわぁ………ネットじゃ黒薔薇の魔女なんて書かれてたけど現地じゃ血化粧の魔女なんて呼ばれ方してたんだ。デュエルに負けたら消されるって、化粧ってまさか!」

「でもよ!それって噂は本当だったって事じゃん!」

「ん〜?黒薔薇の魔女ってなにかな~?」

「「え?」」

 

 全然違った。黒薔薇なんて洒落た名前で羨ましい。

 血化粧なんて物騒な名前だけどさ、とどのつまり私のうっかりミスな情けない異名だし。

 

「えっと、わからないならわかる人に聞けば良いしお姉ちゃんも協力するよ。

 困っている人がいたならば!それを助けるのは……当然だよッ!!!」

 

 身内や守るべき子供限定だけどね。

 

 と、心の中で思いながらすっごくうろ覚えで昔見たヒーローのポーズを真似てそう宣言すれば「おぉ!」って緑髪の子が良いリアクションしてくれた。嬉しいね。

 

「このお姉さんメチャクチャ良い人なんじゃない!?」

「良い人だとは思うけど、魔女とデュエルするのは反対されそう……」

「別に反対はしないよ。危なそうになったら必ず守るし逃げる時間も作れば良いだけだし」

「それじゃお姉さんが危ないじゃん!」

「危ないはコッチの台詞よ。大人しく帰りなさい!……って言っても、君達は男の子だもんね。

 私の目が無くなったら絶対に戻ってくるでしょ?」

「あ、あはははは!まっさかー!」

「う、うん!駄目って言われたら絶対無いって!」

「だよなー!!!」

 

 すっごい分かりやすい。

 遊星達が小さかった頃はここまで分かりやすくな……いや、クロウとはいい勝負?

 まあどちらにしろ育った環境の差はやっぱり大きいのかな?

 

「どうせ戻ってきちゃうのなら目の届く範囲においた方が良いと思ったの。

 だってさ、子供を守るのは大人の義務だもん。

 大丈夫。そうならないようにすれば良いだけの話しだし」

「……それなら」

「うん。デュエルするのを反対しないなら」

「決まりだね。お姉ちゃんの名前はステラだよ。よろしくね」

「俺の名前は天兵。よろしく」

「シャキーン!俺は龍亞!よろしく!」

「む!?」

 

 格好いいポーズで名乗りをされたからには格好いいポーズで名乗り返さなければ無作法!

 

「ちょっと失礼。ふ、よっ!」

 

 バックステップで十分な距離を取りバク転から小ジャンプ・大ジャンプによる2連続後方宙返りで直立着地!

 か~ら~の~!5種の印を最速の手捌きで結び、最後は中指と人差し指を立て片手は口元へ、もう片方は前に出しての決めポーズ!

 

「拙者の名はステラでござる!天兵殿、龍亜殿ともによろしくね!ニンニン!」

「に、忍者!?」

「スッゲーッ!!!」

 

 自己紹介が済み魔女の捜しが始まった。

 そして1人目の時点で魔女を知っている人が現われた。というよりここの住人は全員知っているっぽい。

 

 しかし魔女の話をしようとしても「冗談じゃ無い」「やってられっか」みたいな反応をして誰も取り合ってくれない。

 

「なんか皆知ってるっぽいのに何も教えてくれないな」

「やっぱりあの話しも本当なのかも」

「あの話しって?」

「そういやステラねーちゃんは知らないんだったな。

 魔女のモンスターが攻撃すれば本当に大地が揺れるんだってさ!」

「それだけじゃなくて魔法カードや罠カードも!」

「う〜ん……何時だったかライフが減ると受けたダメージ分本当に痛みが体中に走るっていう違法な装置なら見たことあるけれど、それとは違う感じだね〜」

「そんなのあるの!?」

「魔女は知らなかったのに何でそんな危ない物知ってるの?」

「そこは企業秘密でござるよ。ニンニン!

 ……っと、丁度いいや。喉乾いてない?買いたい物もあるしそこで少し休憩しない?お姉ちゃんが奢っちゃうよ〜」

「良いの!?」

「ありがとうお姉さん!」

 

 そう言ってコンビニとも小さな食品スーパーとも呼べる感じのお店に入り、2人が選んだお菓子とジュースとは別にそれぞれに飲んでもらう為のスポーツ飲料、私が飲む用の麦茶、そしてロングのビール缶とおつまみをカゴに入れる。

 

「うわぁ……大人だぁ………」

「俺達と身長そんなに変わんないのにビールなんて本当に飲めるの?」

「未成年に見えるって事?ありがとう。でもこう見えて今年で25になるから普通に飲めるんだよ〜」

「25になるって事は24歳って事!?」

「俺達の倍じゃん!」

「そんなに驚く?……驚きながらもお姉ちゃんが成人済みだって事は疑わないんだね」

「それは……なあ?」

「うん。なんか言葉にし辛いけど、全然違うよな」

「ふ~ん……まあ今回買うのは私が飲むためじゃないけどね〜」

「「え?」」

 

 というやり取りをしていればレジまで付いたので会計とは別に段ボールをもらった。

 コレを座布団にすれば適当な階段で休憩するのに2人のお洋服を汚さずに済む。

 この子達の服、絶対高いって。

 

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