買い物を済ませ、そこら辺を歩いていたデュエルディスクを付けたおじさんに交渉を持ちかけビール缶とおつまみを引き換えに魔女の話を聞くことができた。
どうやらこの辺りへと定期的に現れてはデュエルを仕掛けてくる時もあればデュエルなんて関係無くカードの力を実体化させ暴れ回り去っていくらしい。
その話を聞いた正直な感想は、ただ力を持ちすぎただけの愉快犯か快楽目当ての精神破綻者かな?……という感じだけど子供の前でそんな事を言うと夢を壊してしまいそうだから絶対に言わない。
「う〜ん……魔女を相手に勝てる自信のあるデッキを作ったのに、そもそもデュエルを受けずに攻撃してくるかもしれないのか」
「心配ご無用!デュエルに応じてくれなかった時は忍者たる拙者が忍法城壁破りの術や金縛りの術とかで応戦してみせよう!」
ちなみに金縛りの術は今日ジャックに向けて放ったタックルの事。
まるで心臓を抉り取らん勢いだとどっかの誰かが言い出しそこから勝手に名付けられ、そのまま技名として採用した技『ハートブレイク』である!
「え!?ステラねーちゃん忍術できるの!?」
「できるけど現代風に言うと身体能力を活かしたトリックとか手品って感じだから水の上に立つとかは………う〜ん、下準備有りならいけなくも……ないかな?」
「ねえねえ!なんか今出来るの無い!?」
「え?今?今か〜……」
こうやって適当な階段に腰掛けて話してみた感じ、この子達は魔女を一目見なければどれだけ言っても戻ってきちゃうって印象が強まっちゃったんだよな〜。
……仕方ない、いざという時にこの子達が私を見捨てて逃げられるように武力は示したほうが良いか。
「よし!2人ともいっくよ〜?最〜初〜はグ〜」
「え?」「よ、よし!」
「じゃ〜んけ〜ん」
「「「ポン!」」」
「よし!俺の勝ち!」
「天兵殿お見事!それじゃあ勝者の天兵殿が代表して拙者の……このデュエルディスクを直立で立たせてもらおっかな」
「え?直立って?」
「直立は直立だよ?もちろん立て掛けちゃ駄目だよ?」
「いやいや無理だって!」
「拙者の忍術なら出来るでござるから試しにしてみてほしいで御座る。ニンニン!」
「……それなら、ちょっと試してみる」
数分立たせてみようと試行錯誤する微笑ましい姿を眺め「やっぱり無理!」「龍亞殿ゴー!」「俺も!?ちょっとやってみる………………ダメだー!」という感じに2人からギブアップをもらった。
「ではコレからのステラ流忍術をお魅せするで御座る」
ワクワクした雰囲気出して「お〜!」と2人共拍手をしてくれる。
その姿が、今は少しだけ怖い。
せっかく仲良くできているのに怯えさせてしまうかもしれない。
「先に言っておくよ。もしかしたら怖い思いをするかもしれない。
けど安心して。この力は君達を守る力だから。
魔女や悪い人達が君達を傷付けようとした時にだけ使う力だよ!
いざ、参る!忍法城壁破りの術!!!」
体全身を撃鉄を引くように捻り、一瞬の溜めと共に解き放つ私が放てる最強の一撃。
狂乱の宴にてダイナマイト等で既に多大な消耗をしていた事を考慮してもこの一撃を持って壁を突き破り現れた姿は悪魔のようで、
ウォールクラッシャーによってアスファルトは砕かれ地中へデュエルディスクが突き刺さり立ちつくす。
完全に直立した状態だね。
普通に生活していればまず耳にしない音を聞いたからか2人してポカンとしている。
「お……おぉ………?」
「すっげ〜………え?刺さってる?コンクリートに?刺さってるの???」
「刺さってるよ〜?触って確かめてみる?」
触って確かめ「ほんとに刺さってる!?」と盛り上がっている様子から怖がられる事は無さそうだとホッとした。
「闇へと溶け込み背後に忍び寄り最強の一撃で鎧を身に付けた武士すらも殺す暗殺忍法!
この忍術の利点はデュエルディスクさえあればいつでもどこでも誰でも使用可能な暗殺術なところでござる!」
「誰でも!?」
「無理無理無理無理できないって!?」
この子達と行動してエセ忍者語に合わせて適当に可愛い?仕草や格好いい仕草を意識して常にそれっぽくしていたのだけれど、この子達のこのオーバーリアクションは私の目で見る限り素の感情。
何の飾り気も無いこの子達の純粋さなんだろうね。
今だけの、この子達を安全な場所まで送り届けるまでの関係だからといってこんな素直な子達を怯えさせて終わるなんて嫌だから。怖がらないでくれて、受け入れてくれている事に守らなければという想いが強くなる。
「……という訳でいざとなったら拙者の指示に従い、拙者を置いて隠れるか逃げるかしてほしいでござる。
暗殺は1人の方がやりやすいですから拙者が魔女の首を持ち帰るのを楽しみにしてほしいでござるね」
「暗殺しちゃ駄目だよ!?」
「でも確かにこんな事ができるなら戦いになった時足手まといかも……」
「ところで今更なのじゃが天兵殿の言う魔女攻略デッキとはどんな感じなのじゃ……でござる?」
「語尾が崩壊してる……」
「エセ忍者に完璧クオリティを求めてはいかんぞい」
「ござるとか拙者も忍者っていうか侍って感じするよね。えっと、これがデッキだよ」
「ほうほうこれが……え?
じゃあ私の忍者要素って忍法って言うところとニンニン言ってるところだけってこと?」
そんな感じにワイワイ楽しんでいると、
「魔女だー!」「魔女が出たぞー!!!」
ついにその時が来た。
「魔女が出たって!」
「行こう!」
走り出した2人の後ろに付いていき目にした光景は噂通りの光景であった。
巨大な蔓、もしくは根っこと言えるようなモノが実体化しアスファルトを砕き、周囲へと暴力を振り撒くその中心に仮面を付けた全身を覆えるマントのようなローブを着た赤い髪の女性がいた。
「あれが黒薔薇の魔女?本当に攻撃が実体化してる……」
「よ、予想以上にヤバイかも?」
「………………」
手袋越しでもわかる綺麗な手にあの指の細さ、重心の置き方、足運び、周囲への警戒具合、計画性無くむやみやたらに伸ばした植物が遮蔽物となり視界が狭まっている………まるで泥酔者ね。
素人が強い力を得てしまって自分は特別であるのだと酔ってしまって自分が危険な目に合うなんて欠片も想像できないでいる。
あまりにも楽観的で勇気と無謀の違いをまるで理解できていないタイプだね。
人は誰もが特別で同じ人間なんていやしない。
才能も人それぞれで……荒事向けな力を得ていても使う本人に荒事の才能が凡人以下なんて笑い話だと思わない?黒薔薇の魔女さんはどう思う?
「お姉ちゃんちょっと会話しに行ってくるからそこに隠れて待っててね」
「え!?」
「危なすぎるよ!?」
「大丈夫だいじょ〜ぶ。強がりなんかじゃなくって、控えめに言って楽勝ね」
2人の頭を優しく撫で前へ出る。
逃げる人が多い方ばかり見ていてまるでこちらを見ようとしないのを眺めながらデュエルディスクにカードを置き《
「散!」
茨のムチを影に《青い忍者》を走らせ、私も似たような挙動で逆方向へと走り出し挟み撃ちの形へ。
ソリッドビジョンの影響範囲ギリギリの所で青い忍者は影から大きく、そして目立つように飛び出し黒薔薇の魔女へと襲いかかる。
「ッ!?」
いきなりの事で驚き《青い忍者》の方を向くが足の動き、重心の移動が追い付いていない。
アレじゃ何かきっかけを与えれば簡単に躓いて転んでしまうよ。
『ぐわぁ!!!』
……あれ?これはちょっと驚いたな。足を止めるほどじゃないけどあまりにも想定外。
《青い忍者》が根っこのムチによって効果……戦闘破壊かな?とにかく破壊されてしまった。実体化してるのにソリッドビジョンに影響を与えているってこと?
まさか破壊されるとは……そして勢いのまま《青い忍者》がいた付近のアスファルトを抉ていた。
まあどちらにしろ手遅れだね。
「とった……」
ゾクリと悪寒がし、背中に汗がいきなり吹き出す感覚がする。
目線を感じ……否、殺気を感じ目線だけそちらへ走らせると目が合う。
それは薔薇のような赤い龍の眼。
「(実態のあるソリッドビジョン……まさかコイツ、ただのカードに意思があるとでもいうの?)」
頭でそんなことを考え困惑に呑まれる。
だというのに体は機械のような正確性で動き、この窮地を脱出する手をサテライトでの100を越える戦闘経験あってこそ実行することができた。
デュエルディスクのボタンに触れ光が私の体を包み込み姿を消す。
罠カード《閃光弾》の光であり、その光の中から《アサシン》が現われ薔薇の龍へ突撃しあっけなく砕け散るが十分。
正直訳わかんないけど……私の事、何の力も無い普通の人間と思って甘く見た?
大の大男だって小石で躓く時は躓くものだよ。
「つ~かま~えた~♪」
こちらに気づき振り返っていた魔女だったが、ソリッドビジョンで威力がショボイと言えど至近距離で《閃光弾》の光を受け眩しさを防ごうと固まっていたところを背後へ回り込み覆い被さるようにして捕まえた。
その際右手でカードを持つ魔女の手を、左腕で魔女の仮面を押さえ完全に視界を塞いだ。