フォーチュンカップ開催当日。
この日まで午前中、もしくは深夜にバイトをし午後は龍亜君のトレーニング、空いた時間で筋トレ、あと遊星とジャック(猫)のご飯を用意したり寝かし付ける……楽しいのはわかるけど自分で寝なさいよ本当。
言われて素直に寝る時もあるけど、大体は数回言わないと耳に入らない。
何度も言っても聞かない時は頭叩いたり関節技極めるなどで手を出すしか無いし、ここまでなっている時は寝たフリしてすぐ作業に戻るから添い寝してでも見張っておかないといけなくて大変なんだよね。
そんなのが月に2・3回くらいは起こるし……最近はラリーとかに任せてたけど今は居ないから仕方ない。
仕方ないけど遊星を寝かし付けてたらバイトに遅刻しそうになったしやっぱり自分で寝てよ。お願いだからさ。
1徹ならさ、そりゃ許すけどフォーチュンカップ控えてるのに平気な顔して2徹3徹しようとするなバカ!
そんな感じに忙しい日々を過ごしていたがそんな忙しい日々も今日で終わる。
楽しいのはわかるけど自分で寝なさいよ本当に。
「お、いたいた。みんな〜」
「セイラさん!」
「間にあって良かったよ〜」
いや〜本当に間に合って良かったよ。
選手の控室へ繋がる通路で遊星と龍亜可ちゃん、じゃなくて龍可ちゃんの変装をした龍亜君を皆で鼓舞しているところのようだ。
「何処行ってたんだっつうか、何だよその格好?」
「何って……見ての通りアルバイトだよ」
フォーチュンカップがたぶんシティでの最後のバイト。
今回のバイトはビールの売り子をしていて胸の部分にドーン!と海馬コーポレーションのロゴが書かれた動きやすい格好に、これまたロゴ付きオシャレ帽子にどっかの知らない会社のロゴ付きビールサーバーを背負っているよ。
「セイラさん可愛い!」
「ありがと〜。私もこの服可愛いと思ってたんだよね〜。ロゴはともかく」
「けど、遊星の応援はしないの?」
「え?必要ある?龍亜く……じゃなかった、龍可ちゃんには悪いけど、勝つのは遊星だよ」
「………フッ」
んん?当然の事を言っているだけなのに何でそんな驚いてるのさ?
ほら見てよ遊星を。「フッ」だってよフッ。
本人も負けるなんて微塵も思ってないよ。
「ただ、負ける要素があるとしたら1つしか無いよね。遊星」
遊星に近付き内緒話がしたいから屈むように手招きをし、
「なっ」
まんまと引っ掛かり耳を近付けてきた遊星をギュッと抱き締める。
「遊星、この場所に来ているほぼ全員が貴方の敵。
例え遊星の事を何も知らなくてもマーカーがある、それは十分過ぎるほどに遊星を悪い奴と決め付け言葉で攻撃してくるはずだよ。
だから負けるとするなら、それは遊星の心が負けた時だけ。
けど遊星の心が負けるなんてありえない。だって貴方は私の弟だもの。そうでしょ?」
「あぁ、そうだな」
「ならさ、負けるわけが無いじゃん?」
そう言って遊星を抱き締めるのをやめて笑顔で負けるわけ無いと断言する。
最初抵抗していた遊星だけど、全員が敵という言葉を耳にしたところで抵抗を辞めて話しを聞くことに集中し、最後には力強く返事をくれた。
そんなやり取りを見ていて龍可ちゃん(本物)が「遊星のお姉さんって本当なんだなぁ」なんて口に出すけど、やっぱり血が繋がっていない姉弟関係っていうのは理解しにくいものなのかな?
まあ確かに独特な関係性だとは思うけどさ。
「ところで遊星はお夕飯何が良い?予定調和とはいえ祝い事はしっかりしなきゃね~。
手が込んだものでもお姉ちゃんが作ってあげちゃうよ?それとも焼肉にでも行く?」
「………すぐには思い付かないな」
「じゃ、今日の大会が終わるまでに考えといてよ。ちなみにお姉ちゃんはお寿司が食べたいです」
「魚を生で食うのは……それなら焼肉の方が良い。だが、そうだな。何が食べたいか考えておく」
「了〜解。さて、伝えたい事全部言ったしバイトに戻るよ。
現在進行系でサボってるし天引きされたくないもんね~」
「あぁ。そっちも頑張ってくれ」
「うん。お姉ちゃん頑張っちゃうね〜。っと、ジャックも大人しくしてるんだぞ〜。じゃあねみんな〜」
氷室さんが抱えてくれてるジャックの首元を撫でてからバイトに戻った。
開催式の時に遊星の事を庇ってくれたボマーさんとの試合で思った以上に龍亜君が善戦していたけど負けちゃったらしい。
らしいというのは見れてないから。
だって開催式に魔女ちゃんっぽい子がいたんだもん。
同じ身長に同じ髪色で同じくらいの長髪。歩く時の癖も同じだったし何故フォーチュンカップに参加させてるんだろう?
と思ったけど、魔女ちゃんのはイェーガーさんと初めて遭遇した時の帽子被っただけの格好より遥かに良くできた変装だったし気付いていないのかも。
という訳でさっそくノック3回。
「イェーガーチーフいらっしゃいますか〜?………っと、お取り込み中でしたか?」
スタッフに聞いて回ってようやくたどり着いた部屋には目的のイェーガーチーフがいた。
けどそこに開催式で見た金ピカ鎧のコスプレおじさんと、写真で見たチーフの上司、ゴドウィン長官もいた。
「セイラさん?貴方返事も無しに入ってくるとはどういうつもりです?」
「緊急事態ですし仕方ないじゃないですか、イェーガーチーフ。
要件ですが、開催式の時に並んでいた赤毛の女の子。
たぶん魔女ちゃんですよ?あ、魔女ちゃんっていうのは黒薔薇の魔女の事なのですけどご存知でしょうか?
知っているのであれば怪我人が出ないうちに責任者に対応を任せた方が良いのではないかと思いまして」
ちょっと何よ?金ピカおじさんがめっちゃコッチ睨んでくるんだけど、何?喧嘩?喧嘩するの?
暗黒行商人よりちょい歳下、30代後半じゃないのこのおじさん?鍛えているみたいだけどオヤジ狩りする趣味無いよ?
「……何故、彼女が黒薔薇の魔女だと?」
「身長、髪の色、体付き、歩く時の癖等がほぼ一致してるので」
「貴様魔女とどの様な関係だ!」
……剣抜いたよ、このおじさん。牽制のつもりかもしれないけどサテライトじゃそれただのゴングだよ?カーンッ!って。
でもここサテライトじゃないしどうするのが正解なのかな?とりあえず見に回っとこ。
「どの様な……私が一方的に話しかけて逃げてもらっただけの関係、なのかな?
魔女ちゃんが大暴れしていたのを捕まえて「ままま、魔女を捕まえたですってぇ!?」……はい、そうです。捕まえましたけど、真似はしない方が良いですよ?」
龍亜君の試合は見られそうにないなと思いながらビールサーバを降ろしてから具体的な説明を始めた。
「……という感じの事がありまして、正直な感想を言わせてもらえば魔女ちゃんはキチンと大人として守り導くべき存在ですね」
「その話を聞く限り周囲へ破壊を振り撒く悪ではないか!何故守る存在になる!?」
「悪?魔女ちゃんが?
確かに今の魔女ちゃんは自分の力で破壊を楽しんでいる節があります。
けれど、たぶんですが悪い大人にそそのかされた。或いは年相応の、家庭環境、親から愛してもらえなかった愛情不足の子。もしくは学校での派閥等に馴染めない悩みやストレスの解消として………
何にしろ不運なことに特別な力を持ってしまった故に逸脱した行動に走ってしまった年頃の女の子という感想しか出ませんね」
「何故そう言い切れる!」
「私が謝罪をして素直に受け入れたからだけど?」
「……なるほど」
ゴドウィン長官は納得したのか深く頷いてくれたけれど、金ピカおじさんは言っている意味が分からないといった表情をする。
「なんだそれは?」
そのおじさんへ向け手を伸ばし、親指で釣り銭用の500円玉を1枚弾いた。
ピンッという音を立て天井に届きそうな程高く飛んだのをおじさんの目が追った。
「こういう事ですよ」
その瞬間、抜き身の剣を握った手を強くひねり、落ちる前、空中で剣を奪い低い姿勢からの突きでおじさんの首筋へ寸止めする。
方法は色々あるけれどセキュリティから電撃棒を奪う時相手が初見ならばコレが1番効率的な手段でこのおじさんも例外無く引っかかってくれた。
「おぉ」
「ヒ、ヒヒ……正に早業ですねぇ………」
ゴドウィン長官は思わずと言った様子で軽く拍手をし、イェーガーチーフはいつものヒヒヒが震えてキレが無い。
「き、貴様……」
「謝罪をする私はあまりにも無防備でムチによって吹き飛ばされ重傷を負う事も覚悟して頭を下げていました。
どうかな?今なら分かるでしょう?
あの時私は自分の命を魔女ちゃんに差し出していたと言っても過言じゃなかった」
ここでようやく理解したのかハッと目を見開き、その様子を見て剣を下ろし自然な体勢へ戻る。
「けれど魔女ちゃんは謝罪を受け入れ龍を引っ込めてくれた。
敵対したくなかったからと考える事もできるけれど、その龍こそが自分の身を守る砦だと1番理解してるのは魔女ちゃんですよ?
それなのに、自分を殺せていた人間が目の前にいるのに普通引っ込めます?」
「…………」
理解はできるが納得できないって感じに考え込んでしまう。
そんなおじさんの方へ剣の持ち手を向け受け取りやすいように突き出す。
気に入らないと顔に出つつも何の疑いも無く私が差し出した剣の持ち手を握った。
「私は剣を返すなんて一言も言っていませんよ?」
「……くっ放せ!ぬおっ!?先程から何のつもりだ!」
「放せって言われたから放したのに」
いきなりパッと放され後ろに倒れそうになるも普段から鍛えていたんだろうね。
しっかりと体勢を直し転倒することはなかった。
「魔女ちゃんは一言も謝罪を受け入れるなんて言わなかったけれど、私が何も言わず剣を差し出したのと同じように龍を引っ込め争う姿勢を無くした。
それが答え。きっと根は優しい子よ。
だからこそ最後の一線を踏み越える前に導いてあげたいところなのだけど……」
問題は私にそんな権限は何処にも無く、いずれサテライトに帰るってところなんだよね。
いや、他にもあるけど特に大きな問題はここって話しなんだけど……
「だが、それでもヤツによって多くの人が……」
「マーカー付きの犯罪者の屑共が何?」
「く、屑共だと……?」
「マーカーを付けられている奴は全て悪。
彼女に破壊衝動があるのは確かかもしれないけど、同時に自己の正義感からの行動って事も有り得るでしょ?ましてや思春期の子供。
正義感からの行動がいつの間にか快楽になってしまったとかあるんじゃない?
あの力はまるで神様にでもなったみたいだと勘違いしたっておかしくない。
神の裁きで悪人を粛正し社会を綺麗にする……なんて考えても不思議じゃないと私は思う」
そして、そんな神に逆らうモノも悪だと考えるのもある意味普通の感性だと思う。
昔私が暴力に酔っ払ったのと同じ様に。
「………そうか。貴殿からしたら魔女は子供、そう言うのだな」
「さっきからそう言ってるでしょ?」
「ならば!魔女が悪しきモノかはデュエルで見極めるとしよう!」
最早問答は不要と言いたげにおじさんが出て行った。
「………あの、私魔女ちゃんがデュエルしたら大変な事になるから止めてもらう為にここに来たんですけど何であの金ピカおじさんデュエルする気になっているんですかね?」
「現状我々はこのフォーチュンカップを中止する気などありませんので本人がやる気な事に超したことはありませんよ」
一見含みのある怪しい笑い方をするゴドウィン長官。
しかし私には諦めに似た笑みに見えた。
「あ、はい。これだけ大きな大会ですし、めったな事じゃ中止になんてできませんよね。心中お察しします」
だって偉い人だからこそ株主様とかには逆らえませんよね。
アレだけ大々的に広告ばら撒いて、こんな大きな大会開いているんだもの。止めたくても止めたら社会的に首が飛びかねないから問題が起きてからの方が軽傷で済む可能性もありますよね。
きっと彼にも守るべき人が居て……うん、せめられないよ。
「ところで、貴方は随分と魔女を庇っていますが魔女の力を目の当たりにして恐ろしくはなかったのですか?」
「いえ、一目で素人だとわかったので倒すのは楽勝だなとしか……
強いて言えばその後の暴徒の方が怖かったですね」
「ヒッヒッヒ、80人以上が襲ってきたのですから当然でしょう。……まさかあの報告が事実だとは」
「それならセイラさん。貴方にとって過去の出来事で怖かった事は何かありましたか?」
少しだけど実力を見せたからか探るような聞き方をしてくる。
まあここまで暴力を振るうことに慣れていて、かつ魔女ちゃんの超常現象を目にして怖くないって言い張る人間がどんな事に恐怖を感じるか興味を持つっていうのもわかるし真剣に考える。
「そうですね。ゼロ・リバース事件と言いたいところですけど長官が望んでいそうな答えとなりますと……」
これは狂乱の宴での一幕。
窓の無い1本の通路。
そこで足止め役を買って出て通路には気絶し倒れた男性が複数おり、増援を呼びに敵の1人が戻ってしまったのでおかわりが確定している状況。
「大丈夫か!?」
「バカ!私は良いから早く屋上の貯水タンク落として道塞ぎなさい!」
逃げ遅れたセキュリティの負傷者が撤退できるように穴を開けるための奇策の一つとして貯水タンクを落とし大きな混乱を生じさせ通りを1つ潰す事でその場で抗争を繰り広げてた他派閥が接触しやすい状況を作り上げることが目的の一手。
「セキュリティ……セキュリティイイイイイイイイィィィィィッ!!!」
そこに現れた一人の男。
「え?うそ、冗談でしょ?」
「絶対に許さねえええええええええええええええええええええ!!!」
「ウギャアアアアアアアアアアッ!?!?!?」
導火線に火がついたダイナマイトを両手に持ち、逃げ場の無い一本道で投げるでなく決死の雄叫びを上げながら突撃してきた無敵の男がおりました。
「一応確認しますがそれは現代の話なのですよね?」
「はい。アレに比べたら魔女ちゃんなんて全然可愛いですよ。
約3年前の出来事で私も目を疑いました。
ほんとう、あまりの恐ろしさで悲鳴を上げてしまいましたよ。
もう少し導火線が短かったら。両手だけでなく体中にダイナマイトを付けていたら私は死んでいたかもしれません」
この後金ピカ騎士のコスプレおじさんが魔女ちゃんに本性を表せと挑発するだけ挑発して呆気なく負ける姿を見ることになった。
あんな尋問みたいなやり方で、しかも社会的な公開処刑同然な事すれば反発するに決まってるじゃん。バカだね〜。
セイラのトラウマ
無敵の男(弱い)
セキュリティに掴まり自分の命よりも大切なデッキを奪われ生き甲斐を無くし薬に逃げいつもはセキュリティも来ないサテライトの奥の奥へと引きこもっていたヤバイ人。
狂乱の宴が原因で普段セキュリティが来ない奥地まで来てしまった事によって今が命を使って復讐する時とセキュリティに特攻を仕掛ける。
しかしセキュリティしか見ていなかった為に間いたセイラに顎を蹴り抜かれ意識を手放してしまい、素早くダイナマイトを人のいない方へ投げられて誰も殺せなかった。
死者は出なかったが負傷者は多数出たしセイラもライオットシールドを拾っていなかったら無傷とはいかなかった。