フォーチュンカップ。
それはビールの売り子しながら楽しくデュエル観戦してれば良いだけの簡単なお仕事の筈だった。
金ピカ騎士のおじさんが魔女ちゃんを煽りに煽ってキレさせてそれなりの負傷を負わされ気絶、再起不能となる。
何故か龍亜君が医務室に運ばれたとか聞かされて行ってみれば眠っている龍亜君の姿が……
そしてケロッと起きて何とも無い事がわかった。
部外者が参加者のなりすましをして正体が判明したにも関わらずデュエル続行が曲がり通る。
夜、龍亜君達に招待されて夕飯を一緒に食べる事になったのだが龍亜君が行方不明になったと思ったらボマーさんが連れ帰ってくれた。
なんか遊星と一緒に話していたらしいけど私は龍可ちゃんが眠そうだったので本人の希望で一緒の布団に入って子守歌(これは私の独断)歌ってあげていたら眠っても服を掴んだまま出れなくなった。
お礼は一言伝えたし長居する気も無さそうだったしそのまま眠る事にした。
なんだかお姉ちゃんさ、たった1日でかなり疲れちゃったよ。
簡単なお仕事の筈だったのに……
次の日。
恩人のボマーさんと遊星が試合することになり当然遊星が勝利した。
しかしその後に見せられた映像。
モーメントの暴走と似たような現象で消えるボマーさんの故郷の光景を見せられトラウマを深く刺激されすぎて体調不良を起こして休むことにした。
魔女ちゃんの試合でまた負傷者が発生したらしいが休んでいたので見ていない。
戻ってきた頃には遊星と魔女ちゃんの試合が開始されていて、もうバイトは無理だと龍亜君達と観戦していたんだけど……
「セイラねーちゃん、顔色悪いよ?」
「あぁ、うん、大丈夫。風邪とかじゃないから」
なんて返したものの遊星が怪我を負うところを見た事、先程のトラウマを刺激された事による2回攻撃によって私の何かが耐えきれずトイレに駆け込み、吐きたいのに吐けないって地味に苦しいよね。
バイトやってられないって思って止めたのほんとナイス判断だったよ。
なんとか回復し戻ってきた頃には魔女ちゃんの敗北でデュエルは終わるところで、遊星が戻ってきたけどゴドウィン長官のところに行くから皆は帰ってくれ的な事を言ってきたので大人しく従うことにして……
「お願いします。どうかこの私を助けると思って……」
「か、顔を上げてくださいイェーガーチーフ」
イェーガーチーフが深々と頭を下げてきた。
イェーガーチーフは本気で怯えていた。私の暴力に。
いや、そりゃ私もイェーガーさんが私の事怖がっているんだろうなと気付いていたけど指摘しない方が円満に事が運ぶじゃん?
チーフは潜入命令を出していたので私の実力を十分理解している。
僅かな期間に5回も頼った相手が反旗を翻してくるかもしれないってそれは怖いよね。
部下にならないかと何度も聞いてきたのもそういう事だろうし。
だからって護衛2人だけ連れて姿を現したかと思えばただ頭を下げて懇願してくるとは思いもしないじゃん。
戦いになれば投入した全てが負傷者になると判断したんだろうし、護衛の2人を見るからにその判断は間違っていないと思うけれど、それでも私は女性でチビだ。
頭が良かろうが敵対者が女だというだけで侮るヤツが一定数居る中で1週間も無い関係でここまで正確に力の差を把握し、私が仁義やケジメ、秩序を大切にしているのだと信じ、頼み込む事で恩を返させようとしてくるとは思わなかったよ。
この人は私が思っていた何十倍も優秀で、それこそゴドウィン長官が直属の部下にしている意味を理解するべきだと評価を改めた。
私はこの人の事を好ましく思っているし、実際に恩を感じているので頭を下げてお願いされたら弱い。
「……わかりました。ただし連れてきた護衛を借りて良いですか?いざとなったら私と一緒にこの子達を守る肉壁になってもらうので」
「ええ!もちろん!ああセイラさん!アナタなら受けてくれると信じておりましたよ!」
「おい!良いのかよ!?」
「良いも何も、せっかくのキングと遊星の試合だよ?生で観戦したくない?
大丈夫。危なくなったら私が責任は取る。なんせ私は魔女ちゃんより強いんだから」
「見たいけど……」
「セイラさん、さっきまで顔色悪かったよ?本当に大丈夫?」
「ありがとう。……でも、私は弟達の喧嘩を見届けたい。
龍可ちゃん龍亜君がいるから守る事を優先していたけれど、大義名分があるなら、私は…………」
自分の本心をここまで口にしておいて、それでも続きが出せない。
私が目を離して鬼柳が捕まり、同じく目を離した隙にジャックが遊星からスターダストとD-ホイールを盗み、私を含めた全ての関わりを捨ててしまっていた。
私が居れば、私が判断を間違わなければ回避できた事。
私の判断で、私の我が儘で、この子達の今後が…………
「その、セイラさん。私も、見たいな。遊星とキングのデュエル」
「龍可ちゃん?」
「俺も!俺も生で見て良いなら絶対に見たい!」
「龍亜君………2人とも、ありがとう」
こうして弟達の喧嘩を見届ける事が決まった。
『NEWキングは不動遊星!サテライト出身のキングの誕生だー!!!』
花火の音と共にMCが高らかにそう宣言する。
しかし観客からの歓声が少ない。
サテライト出身だからとかそんな単純な理由じゃ無い。
訳が分からなかった。
なんせ私も何が何だか分かっていない。
遊星がシティに乗り込んだ夜に見た赤い龍が出現したと思ったら遊星もジャックも消えて、気が付いたら遊星が勝っていた。
「ジャック!」
ただ分かることはジャックがD-ホイールが横転し身を投げ出され大怪我を負ったと言う事。
倒れ伏すジャックに触れ、頭部等の動かすと不味い部分は極力動かさず容体を確認する。
「ジャック!意識はある!?指何本立ててるかわかる!?」
「3本……」
姿を消した2人が現われた事に安堵した束の間、ジャックのD-ホイールが転倒するのを見て「医療班!担架用意させて早く!」と連れてきた護衛の人へ叫び、会場内を走り回る時間が惜しいのでフェンスを飛び越えジャックの元へと誰よりも早く駆けつけ容態を確認していく。
その様子をなんとも言えない様子で眺めている遊星。
「セイラ……」
「遊星。……勝者がなんて顔してるのよ。ほら、逃げるよNEWキング!」
「逃げる?何を言っているんだ?」
医療のプロっぽい人達が担架やら持ってきているのを確認したので遊星に向き直り逃げると宣言しても全く分かってない様子。
今はまだ状況を飲み込めていないから動き出してないのかもしれないけど、マスコミはすぐに動く。絶対に。
「良いから来る!早く!歩くな走れ!いや乗せなさい!」
「わ、わかった。わからないが何かあるんだな」
「すぐわかるから!……ジャック、頑張れ。」
ジャックの側に居たい気持ちは強い。
けれどジャックを支える人は多くいて、たぶん遊星が同じ怪我をしても現状医療班がしているような必死の形相で診たりしなかっただろうね。
はぁ〜……今回のフォーチュンカップ、凄く楽しみにしてたのにトラブル多すぎて何か色々とボロボロな気分だよ。
私の予想通りになった部分って遊星が勝った時に起こる事だけ。
キングの称号の重さを理解できてない遊星の手を引いてマスコミから逃げるって事だけだよ。本当に疲れた。